俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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1章08 Let's study ➁

 

「本当はお前らに現金400万円を渡してやってもいいんだが、それでは借金が倍になるだけだからな。お前らのような負債者が完済後もしっかり生きていけるよう取り計らってやる」

 

「おぉ! それはありがてえ」

「さすが風紀委員だぜ! ハンパねーな!」

 

「うむ。具体的にどうするかと言うとだな、お前らには現金ではなく、それと同じ価値のある物を渡してやる」

 

「同じ価値?」

 

「あぁ。これだ」

 

 

 弥堂はお客様にお渡しするためのある商品を取り出そうとするが、手を完全にポケットから引き抜く前に一度止める。

 

 

「ところで、お前らは山南派か?」

 

「あん? あぁ……いや、ちげえぜ。確かに佐城派とは仲が悪いが、だからって山南さんとことツルんでるってわけでもねえ」

「オレらはモっちゃん派だぜ!」

 

「そうか、無所属ということか」

 

 

 それだけ確認をすると、懐の中で掴み直し、今度こそ商品を取り出して野良ヤンキーたちに渡してやる。

 

 

 野良ヤンキーたちは渡された物を見る。

 

 

「なんだこれ?」

「単語帳と……安全ピン?」

 

「紙を捲ってよく見てみろ」

 

「うん……?『きょう力者』……?」

 

 

 その単語帳には一枚一枚に手書きでそう書かれていた。

 

 

「それを一枚一万円で売れ」

 

「はぁっ⁉」

「こんなもん売れるわけねーよ!」

 

 

 驚きの商品価格にお客様はびっくり仰天した。

 

 

「お前らが驚くのも無理はない。だが安易にそう考えるのは素人だ」

 

「ど、どういうことだ……?」

 

「今から俺がそれの使い方を教えてやろう」

 

 

 そう言って弥堂はサトル君が持つ単語帳の輪っかを開き一枚外す。次にその一枚の輪っかを通すための穴に安全ピンを通す。そしてその安全ピンをサトル君の制服の胸ポケットに刺して、彼に『きょう力者』の札を着けてやった。

 

 

「これでよし」

 

「へへっ。ありがとよ、ビトー君っ!」

 

「気にするな」

 

 

 札を着けてもらったサトル君は鼻の下を擦ってどこか誇らしげだ。

 

 

「結局これがなんだってんだ?」

 

 

 しかし他の者は要点が掴めず懐疑的な目を向ける。

 

 

「あぁ。これを着けると何が起きるかというとだな……こうなる――」

 

 

 言い切るが早いか、弥堂はパァンッ! パァンッ! パァンッ! と強烈なビンタを3人にお見舞いする。

 

 

 輪になってウンコ座りしていた仲間たちが、突然の暴力によって崩れ落ちるのを見て、一人殴られなかったサトル君が怯える。

 

 

「えっ……⁉ えっ……⁉」

「い、イデェよぉ……」

「なんで殴るんだよぉ……」

「オレらなんにもしてねえのに……」

 

 

 頬を抑えて震えるお客様たちに弥堂は商品説明を続ける。

 

 

「何故殴られたかわかるか?」

 

「そ、そんなのわかんねーよお……」

 

「では、何故サトル君だけが殴られなかったかはわかるか? お前らと彼との違いを考えてみろ」

 

「えっ……⁉ ちがい…………って、あっ――⁉」

 

 

 サトル君の胸元に注目が集まる。

 

 

「そうだ。その札のおかげだ。彼は協力者だから殴られなかったのだ」

 

「『きょう力者』って協力者か!」

「そうか! そうだったのか!」

 

「そろそろお前らにもわかってきたんじゃないか? この商品の価値が」

 

 

 彼らはゴクリと喉を鳴らす。

 

 

「いいか? こいつを着けているとな、街に居てもなんと俺に殴られないんだ」

 

「嘘だろ⁉」

「マジかよ!」

 

「マジだ。何故なら協力者だからな」

 

「そっかー!」

「協力者てスゲーんだな!」

 

「そうだ。協力者はスゲーんだ」

 

 

 弥堂は彼らと対話するために著しくインテリジェンスを低下させたことにより白目を剥きそうになるが、ギリギリのところで自制する。

 

 

「で、でもよ……いいのか? 寄り道なくさなきゃいけねーんだろ……?」

 

「その意見はもっともだ。だが現実的に人手が足りないのも事実である。そこでこの『会員システム』だ」

 

「会員……?」

 

 

 弥堂は彼らにこの画期的な新しい会員サービスの説明を開始する。

 

 

「そもそも考えてみろ? お前らその札を一枚一万円で売ったとして、400万円を返すまでに何枚売る必要がある?」

 

「えっ? ちょっとまってくれ。難しいな……」

「モっちゃん! 400人だ!」

「おぉ。サトル、オメー賢いじゃねーか」

「へへっ……オレ小3までは算数トクイだったんだ!」

 

「……400人も売る相手がいると思うか?」

 

「え? まぁ、そこは気合で……」

「モっちゃん! キチーよ! このガッコ千人も生徒いねーんだぜ?」

「あ、そっか。そりゃキチーな」

 

「そうだ。キチーんだ」

 

 

 弥堂は辛抱強くお客様にご理解を促す。

 

 

「そこでこの札を使った密告サービスを展開する」

 

「密告?」

 

「あぁ。お前らにはその札を売るだけではなく、放課後に出歩く不届き者を密告してもらう」

 

「ちょっと待ってくれよ。それって同じ不良生徒を売れってことか? それはできねえよ。オレらにだって仁義は――」

 

「なんと今なら会員様限定キャンペーンで、一人密告するごとに10万円分の借金が減額される」

 

「10万!?」

「マジかよ⁉」

「ハンパねーな!」

 

「そうだ。ハンパねーんだ。それに、だ。なにも仲間を売る必要はない。いるだろ? 敵対している不良グループが……」

 

「敵……?」

 

「あぁ。これは例えばの話だが……D組の猿渡……だったか? そいつが寄り道をしているところをお前らが密告する。するとどうだ? 奴は俺に殴られる。お前らは借金が減る。いいことづくめだろう?」

 

「おぉっ! そいつはいいな!」

 

「そうだろう? これを『win-win』と言う」

 

「スゲー! ウィンウィンスゲー!」

「ウィンウィンハンパねー!」

 

 

 不良たちは今まで触れたことのない新たな概念に触れ喜びに溢れた。

 

 

「この密告制度を利用すれば、40人だ。たった40人の気に入らない奴を報告するだけでお前らの借金は帳消しになる。どうだ? やれそうな気がしてこないか?」

 

「あぁ! アンタの言うとおりだ!」

「これならオレらでもやれるぜ!」

「で、でもよ……」

「ん? どうしたタケシ?」

 

 

 タケシ君に何やら心配事があるようだ。

 

 

「40人チクれば借金なくなるならよ……この札売るのは意味ねえんじゃ……」

「あっ!」

「そうか!」

 

 

 タケシ君の鋭い指摘により気付きを得た彼らは一斉に弥堂を見る。

 

 弥堂はお客様のごもっともな疑問に答えるべく口を開く。

 

 

「確かに借金を返すだけならお前の言うとおりだな。だがよく思い出せ? 密告をしても借金が減るだけだ。実際にお前らの金が増えるわけではない」

 

「あっ――そうか!」

 

「そうだ。一生懸命頑張っても借金が無くなるだけで手元には何も残らない。それでは辛くないか?」

 

「あぁ……ツレー! そいつはツレーぜ!」

 

「そうだろう。そこでこの札だ。密告で借金を返済出来ればあとはこいつを売れば売った分だけお前らの収入になる」

 

「そうか……そういうことだったのか……」

 

「これは借金を返すための事業ではない。お前らの生活を豊かにし、幸せになるための事業だ」

 

「スゲーぜ! ビトー君、アンタ頭いいな」

 

(お前よりはな)

 

 

 弥堂は心中で馬鹿なお客様を見下した。

 

 

「へへっ……そういうことなら張り切って――あっ!」

 

 

 ニヤけながら弥堂の手の中の単語帳を受け取ろうとしたモっちゃんだったが、寸前で弥堂がスッと腕を上げたことで金の生る木が遠ざかる。

 

 

「言い忘れていたが……この札を売ることが出来る権利は『会員様限定』なんだ」

 

「かっ、会員……っ⁉」

 

 

 ここでまた出てきた『会員』という言葉に彼らは混乱する。

 

 

「そうだ。これをこのまま売ってもすぐに真似をする奴が出るとは思わんか? なにせ素晴らしいビジネスだからな」

 

「た、たしかに……っ!」

「ビジネスだもんな!」

「おお。オレなら偽造するぜ!」

 

「そうだろう。そこで、だ。おい、ちょっとそいつの胸の札を手で覆って暗くして覗いてみろ」

 

「あん……? 一体なんだって……あっ! これは――⁉」

 

「何が見える?」

 

「『会』って!『会』って字が白く光ってる!」

「えっ⁉」

「マジかよ、モっちゃん、オレにも見せてくれ!」

 

 

 彼らはスゲースゲー言いながらサトル君に胸に顔を近づける。

 

 

「そうだ。すごいだろう。これが『当社独自製法』だ」

 

「どく、じ……」

 

 

 なにか凄そうな技術の結晶に触れ、不良たちはゴクリと喉を鳴らした。

 

 

「この札は特殊な製法により作られている。こうやって真贋を見極めるのだ」

 

「おお。スゲーな。ハンパねーよ」

 

「そうだ。だが、ハンパないが故にその分生産量には限界がある。それはわかるな?」

 

「あぁ! ハンパねーからな! それはしょうがねーよ!」

 

「だからこれを卸してやれるのは会員様にだけ、ということになる」

 

「そ、そっか……で? 会員になるにはどうすればいいんだ⁉」

 

 

 前のめりに詰め寄る彼らに弥堂は満足気に頷き、懐から新たな書類を出す。

 

 

「会員になるにはこちらの『登録書』にサインをすればいい」

 

「え? サイン?」

「待ってくれよ。また何か契約するのか?」

 

「契約ではない。これはあくまでただの登録だ。登録だから大丈夫だ」

 

「ん? そう、なのか……?」

「契約じゃないって言ってるし、大丈夫じゃねーか?」

「そうだよな。登録だもんな」

「DVD借りるのだって会員登録するもんな!」

 

 

 お客様方は利用規約に同意をし気持ちよくサインをする。

 

 彼らがサインを終えたら即座に書類を奪い取るため、弥堂はその様子を目を細めて監視する。

 

 

「では登録をしたな。これでお前らは会員様だ。それにより初回登録料と月額会費が発生する」

 

「え⁉」

「そんなの聞いてねーぞ⁉」

 

 

 弥堂は声を荒げる会員様を手で制する。

 

 

「まぁ、落ち着け。お前らはただの会員ではない。当サービス最初の会員様だからな。つまりVIP会員ということになる」

 

「VIP⁉」

「な、なんだかすごそうだぜ……」

 

「あぁ。VIP会員はすごいぞ。なにせ登録料が無料になる上に月額会費も初月分の千円だけ払えばあとは無料になる」

 

「マジかよ⁉」

「スゲー! VIPスゲー!」

 

「どうだ? とってもお得だろ? これなら払えるだろ?」

 

「あぁ!」

 

「ということで一人千円だ。とっとと出せオラっ」

 

「あいてっ!」

「だ、だすから……っ、蹴らねえでくれよ……」

「オ、オレ200円しかねえよ……」

「しょうがねーな。オレが貸しといてやるよサトル!」

 

 

 弥堂は4000円を手に入れた。

 

 

「そして晴れてVIP会員様になったお前らにはこの商品をやろう」

 

 

 弥堂は百均で購入した単語帳と安全ピンを彼らに渡してやった。

 

 

「受け取ったな。では、この商品の卸値が200万円だ。これでお前らの負債は合計600万円になった」

 

「なんだってーーーーっ⁉」

 

 

 恐るべきコストパフォーマンスにVIP会員様方は驚きを禁じえない。

 

 

「なんでだよ!」

「どんどん増えるじゃねーか!」

 

 

 口々にレビューコメントを述べる彼らに弥堂は当たり前のことを教えてやる。

 

 

「何を驚く。商品を用意するのにはコストがかかる。その費用が200万円だ。難しい話ではないだろう?」

 

「そ、そうかもしんねーけどよぉ……」

「でも高すぎるだろ!」

「これモールの百均で売ってるやつじゃねーのか……?」

「おぉ。オレ見たことあんぜ」

 

「お前ら大事なことを忘れてないか? これがどうやって作られているかを」

 

「あぁ……?」

「あっ! そうだ! モっちゃん! ドクジセーホーだ!」

「そういえばそうだった……」

「くそ、ドクジセーホーならしょうがねえか……」

 

 

 カスタマーサポートの明瞭な説明によりVIP会員様たちはご納得した。

 

 

「でもよぉ、これ以上の借金はキチーよ……」

 

「なにか勘違いをしているな」

 

「えっ?」

 

「俺はこれをお前らに貸し付けたのではない。これは『投資』だ」

 

「とーし⁉」

 

 

 不安そうにするVIP会員様に、弥堂は聞き覚えのある単語をお聞かせしてご安心頂けるよう試みる。

 

 

「あぁ。お前らは商売がしたい。だが、商品もなければ資金もアイデアもない。先立つ物が何一つないわけだ。そうだな?」

 

「あ、ああ。お前の言うとおりだぜ」

 

「うむ。そこでだな。お前らが開業するのを俺が『お手伝い』してやろうと、そういう話だ」

 

「お手伝い?」

 

 

 馬鹿のように言われたことにオウム返しするVIP会員様に弥堂は頷いてやる。

 

 

「そうだ。『お手伝い』だ。俺が開業に必要な物を代わりに用意してやることによって、お前らは事業を始め、そして成功することができる。それは素晴らしいことだとは思わんか?」

 

「おぉ……た、たしかに……!」

「ビトー君やさしいぜ!」

「あぁ! シビィな!」

「で、でもよ……」

「どうしたんだ? タケシ」

 

 粗方共感を示した不良たちだが、タケシ君にはなにやら懸念点があるようだ。

 

 

「わざわざオレらにそんなことしなくてもよぉ、なんでビトー君が最初から自分でやんねーんだ……?」

 

「あ……っ!」

「そういえば……っ!」

 

 

 他人の言うことでいちいち右へ左へと顏の向きを振り回す愚か者どもに弥堂はわざわざ説明してやる。

 

 

「その疑問はもっともだ。だが、なにも複雑な理由があるわけではない。俺は風紀委員だからな。開業をすることは認められていない。だが、確実に儲かるとわかっているアイデアを腐らせておくのは勿体ない。だからそれを実現可能な者へと提供する。そういうことだ」

 

「なるほど……?」

「よくわかんねーけど、そうなのか……?」

 

「それに、だ。貴様。モっちゃんといったか? 以前から貴様には見込みがあると俺は評価していた。いずれこの学園をシメる男になるであろうとな」

 

「お……おぉ……⁉」

「スゲーよ、モっちゃん! あの風紀の狂犬に認められたぜ!」

「そうなんだよビトー君! モっちゃんはスゲーんだ!」

「ビト―君、やっぱアンタわかってるな!」

 

 

 わかりやすく褒められた彼らはわかりやすく気をよくした。

 

 

「つまり、見込みのある者に見込みのある事業をさせる為の援助をする。これが『投資』だ」

 

「そ、そうだったのか……」

「モっちゃん! そういや社会のセンコーが言ってたぜ!『とーし』はやべーって! ガチだってよ!」

「マジかよ……ガチなのか……そりゃヤベーな……」

 

 

 理解を見せた多重債務者たちの様子に弥堂も満足をする。

 

 

「どうだ? やれそうな気がしたきただろう?」

 

「おぉっ! で、でもオレらでも大丈夫かな……?」

 

「大丈夫だ。なにせ確実に儲かる仕事だからな」

 

「確実……? 確実なら大丈夫か!」

 

「あぁ。大丈夫だ。確実だからな」

 

 

 他人様に迷惑をかけることでしか社会と関われないクズどもが働く意欲をみせ始め、弥堂は風紀委員としての自身の更生スキルに一定の自信を得た。

 

 

「なに、この投資分の200万円に関しては気長に返してくれればいい。『ロイヤリティ』という形でな」

 

「ろいやりてぃ……?」

「ま、また難しい言葉がでてきたぜ……!」

「どういうことなんだ、ビトー君!」

「あぁ。教えてくれよ……っ!」

 

 

 どうしようもない不良だった彼らが学びの楽しさを知ったのか、前のめりになって話を聞こうとする。

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