「おい、お前ら。もう――ぅがっ」
離れろと命じようとしたらメロがより身体を密着させてきて、口と鼻の中に毛が入り酷く不快さを感じる。
「お、落ち着いてっ! 落ち着いて弥堂くんっ!」
「もがえが……っ!」
『お前が落ち着け』と言いたかったが、メロのネコさんボディに口を塞がれていたために上手く発音できない。それどころか舌に大量の抜け毛が張り付きこの上なく不愉快になった。
とりあえずこのクソネコをどかそうと、塞がれた視界の中で当てずっぽうに手を遣ると、掴み損ねてネコがズリ下がってきた。
「ワニャニャニャニャ……っ⁉」
弥堂の顏に頭を下にしてへばり付いていたネコ妖精は身体の半ばまで落ちそうになったところで慌てて弥堂の首にしがみつく。首筋の薄皮に浅く爪が食い込んだ。
前足で弥堂の首を掴み後ろ足で頬を挟んで落とされまいと抵抗をする。
すると、自然とプリップリのメスネコア〇ルが弥堂の目前に突き付けられた。
ビキッと大量の青筋を浮かべて、尻尾を掴んで無理矢理引き剥がそうとする。
「ウニャニャニャッス⁉ マ、マナッ! 飛行魔法ッス! 飛んでしまえばコイツはもう何も出来ないッス!」
「あっ、えっ……⁉ は、はいっ!」
言われるがままに水無瀬は弥堂のお腹に顔を押し付けて「むむむ……っ」と念じる。
「【
弥堂の腰に抱き着いたまま魔法の言葉を放つと、彼女のショートブーツに生えた光の羽がふよふよと蠢き、酷く不安定な挙動で、弥堂と彼の顔面に張り付くメロ諸共に宙に浮かび上がっていく。
「フハハハハーッス! 少年っ! オマエの野望もここまでだっ!」
「ふざけるな、降ろせ」
「このまま暫くジブンらと一緒に空中散歩とシャレこもうぜぇーッス!」
「お断りだ」
弥堂はネコから目線を外し自身の下腹部を視る。
現在のこの状態を作り出す浮力を生み出しているのはネコ妖精ではなく、自身の腰にしがみつきながら下腹部に顔を押し付けてる魔法少女の方だ。
彼女は苦手な飛行魔法の制御に集中するためか、ぎゅっとお目めを瞑り「むむむ……っ」と念じている。
彼女のその声の振動か、魔法の力の波動のようなものなのかは不明だが、身体の外部を徹り抜けて膀胱に振動が伝わってくる。
「ガハハハハーッス! 己の翼を持つことも出来ぬ憐れなニンゲンめぇ! どうだ今の気分はっ⁉ 空中で自分を制御できぬ不自由さにキンタマをヒュッとさせるがいいっ! フハハハハー…………あ、あれ……? マナ? ちょっと高度上げ過ぎじゃないッスかね……?」
魔王のような高笑いをあげていたメロは途中で言葉に不安さを滲ませ、恐る恐る弥堂の股間部分を覗き込み水無瀬を窺う。
「こ――これは……っ⁉」
「おい、どうした?」
自身の股間部分を見ながら驚愕に目を見開く淫蕩なネコに弥堂は問いかける。
「これは『いっしょけんめいモード』に入ってるッスね」
「……なんだそれは?」
「他のことは何も考えられないくらいがんばってるッス」
「……つまりどういうことだ?」
「この後どうなるかもうわかんねえってことッスね」
数秒ほど、下腹に顔を押し付けながら何かに没頭する少女のことをネコ妖精と一緒に眺める。その間も高度は少しずつ上がり続けている。
「ところで少年?」
「なんだ」
「このアングル。エロくないッスか?」
「あ?」
右の前足で水無瀬を示しながら、左の前足を自身の口元に添えながら「ニャシシ」と笑うネコに怪訝な眼を返す。
「だぁーからぁーっッス! これもう構図が完全にペェズリィペッラじゃねぇッスか!」
「ペェズ……なんだと? どこの言葉だ、イタリア語か?」
「かぁーっ! もうっ! このニブチンコがよぉっ! アレに決まってんだろぉッス! おっぺぇで挟んでジュッポジュッポするアレによぉっ!」
ガハハと下品な笑いをあげるネコに軽蔑の眼差しを向けるが、奴はこちらの気分を察するどころか余計に興奮をする。
尻尾を掴まれたままジタジタと宙を泳ぎ、耳元に荒い息遣いを寄せてきた。
「ハァ……、ハァ……ッ! ど、どうなんスか少年? ジッサイのところ……っ」
「なにがだ」
「ヘッ、ヘヘッ……、クラスでいつも隣に座ってる女の子のこんな姿を見ちまって……、興奮しないッスか? 意識しちゃわないッスか……?」
「お前の言うことはまるで理解できん」
「こんの野郎っ! 男子高校生めっ! 誤魔化しちゃって可愛いヤツめッス! どこまでジブンを興奮させる気っスか!」
「おい、息が生臭ぇぞ。離れろ」
「お、教えてくれッス。男子高校生はこういう時は勃起しちゃうんスか? もちろんするッスよね? だって男子高校生だもの。ジブンにだけこっそり教えてくれッス」
「お前は男子高校生を何だと思ってるんだ」
中年男性に匹敵するようなセクハラを耳元でネットリと囁いてくる自称ネコ妖精に弥堂は顔を顰めた。普通に気持ち悪かったからだ。
「い、いいだろぉッス……。勃起は恥ずかしいことじゃないッスよ? むしろエライことッス。勃起してるって教えてくれたら、ちゃんとジブンも『勃起できてエライね?』ってホメてあげるッスから堂々と勃起していいんスよ?」
「何回言うんだよ。お前勃起が好き過ぎだろ」
「ハァハァ……、こ、今夜はやっぱアレッスか……? これでヌくんスか? も、もしヌいたら今度会った時に教えてくれな?」
「お前の期待するようなことは起こらない」
「またまたぁ……。おねがいしますよぉ……、ウチのタレント、脱いだらイイモン持ってんスよ……? 今夜の男子的営みのお供にぜひ……。そしてその暁にはぜひゴールデンの出演を……」
「意味のわからんことを言うな」
「ツレねえこと言うなよぉ……。悦びは分け合おうッス。悦びを連鎖させて循環させて世界中が幸せになるんス。これぞ快環の理っス!」
「…………」
弥堂は卑猥な妖精との意思の疎通を諦め、事態の解決を図るため魔法少女の方へアプローチをする。
彼女の身体に足を巻きつけギュッと締め付ける。
「――ぴっ⁉」
突然の圧迫感に愛苗ちゃんはびっくり仰天した。
「お、おい! コラっ! マナになにするんスか⁉」
「もう面倒だ。このまま締め落してやる」
「頭おかしいんスか、この野郎っ! そんなことしたら地面に真っ逆さまして汚ぇシミになるッスよ!」
「お前らをクッションにすれば足の1.2本で済むだろ」
「や、やめろっ! このイカレやろ…………オォゥ、ふぁびゅらぁ~す」
慌てて弥堂の足の絞め技からパートナーの救出に向かおうとしたメロだったが、要救助者の状態を視認して思わず唸る。
何事だと弥堂も視線を向けてみると、自身の足に挟まる水無瀬の絵面は先程よりもマズイことになっていた。
下腹部に顔を押し付ける形から、足で絞め上げられたショックで身体が弓反りになった関係でぽよんっと躍動した愛苗ちゃんの暴れん坊が弥堂の股間の上に乗っかった。
股の間で苦悶する彼女の動きに合わせてグニングニンと形を変える。
「絞めづらいな。乳が邪魔なのか?」
「オイっ! オマエやめろッス! マナが苦しそうだろ!」
「前から思っていたがこれ偽物なんじゃねえか? 希咲みたいになんか詰めてんだろ。お前ちょっとその乳取れ」
言いながら弥堂は愛苗ちゃんのボリューミーな左のペェをガッと鷲掴みにした。
「オイっ! オイッ……! オマエ調子のりすぎッスよ! IVは許すけどAVはダメだって言ってんじゃろがいっ! ここのラインを越えるなッス!」
「いてぇな。引っ掻くんじゃねえよ。つーか、これ本物か。ガキみてぇな顏してるくせに生意気だな」
「蛮族かオマエはぁーッス! 愛苗は初めてなんッス! 初体験で空中ペェズリィの強要とか可哀想ッス! 初めては夜景の見えるホテルの一室でベッドに隣あって座りながらワインとか飲んでる時に徐に肩を抱き優しくキスをするところから始めて欲しいッス!」
ネコが何やら具体的な展望を語っていたが無視をして、水無瀬の乳に意識を向ける。
先日の希咲のような胸パッドの感触が返ってくるとばかり考えていたら、意外にも天然100%のソフトタイプのようで、弥堂はモミモミと手を動かして真贋を確かめた。
「――ふみゃぁーーーーっ⁉」
その猥褻行為によって『いっしょけんめいモード』が解除されてしまった愛苗ちゃんは、魔法のコントロールを失う。
「わ……っ! わ……っ⁉ 落ちちゃうぅぅっ⁉」
「ギャーーーッス⁉ は、はなせーッス!」
いち早く飛んで逃げようとしていたネコ妖精の尻尾を強く掴み直すと断末魔のような悲鳴をあげた。
3人一緒に急速落下していく。
「あわわわわ……っ! ぎゅぅーっ!」
大慌てで水無瀬が魔法に強く魔力をこめる。
すると一気に落ちて一気に上がるジェットコースターのような軌道で、地面ギリギリを掠めながら今度は急上昇をする。
「あっ、あっ……! も、もうダメぇぇぇぇっ⁉」
何とか持ち直したと思いきや、弥堂の腹に抱きついた彼女がお目めをバッテンにしてそう叫ぶと、一定高度まで上がったところで急に浮力を失う。
飛行魔法が解除されたように思えたがそうではなく、力のベクトルがあちこちに暴れ出す。
そして最終的にギュルンギュルン横回転をしながら天地反転し、頭を下に向けた状態で地上へと加速をする。
今度は軌道修正をされることはなく、胴体をガッチリとホールドされたままドリルのように横回転状態で弥堂の脳天は地面に衝突をし、グリンっと目玉を裏返して気絶した。
失神KOされた弥堂の腕が投げ出されたため、彼の手に尻尾を掴まれていたメロはビターンっと地面に叩きつけられ、グリンっと目玉を裏返し気絶した。
弥堂のお腹にギュッとしていた愛苗ちゃんは身長差の影響で頭を打つことはなく事無きを得た。
弥堂が意識を手放す直前、地面に衝突する瞬間に、翼を生やした立派な白馬が「ひひーん」と力強く嘶くイメージが幻視されたような気がした。
「び、びとうくーーんっ! メロちゃぁーーんっ!」
味方二人を纏めて葬った少女の悲痛な叫びが木霊する。
こうして魔法少女ステラ・フィオーレの活躍により、悪の風紀委員の野望は打ち砕かれ、か弱き怪人の生命は守られた。
だが戦いはまだ終わったわけではない。
がんばれフィオーレ。負けるなフィオーレ。
美景市の平和はキミの魔法にかかっている。
「ごめんなさぁーーいっ!」
コーヒーカップを傾ける。
銀色のステンレスに映った見苦しい顏に向けてドス黒い液体をかけていく。
あの後――魔法少女によるローリングクラッシュ的な必殺技のようなものでKOされた後――救急車を呼び出される直前で意識を取り戻し、どうにか通話が始まる前に阻止することが出来た。
保険証を持っていないので病院に緊急搬送されるのは非常に都合が悪いのだ。
実際に気を失っていたのはほんの十数秒程度のことのようだったが、大袈裟に泣きながら謝罪をしてくる水無瀬を適当にあしらってから彼女らと別れて、現在こうして弥堂は自宅でコーヒーを嗜んでいる。
そこまでを整理したところで台所シンクがボコンと音をたて、映り込んだ自分の顏がさらに歪んだ。
コーヒーを流しかけるのをやめて、カップに残った一口分を飲み干す。
水道のレバーを下ろして何もかもを水に流した。
出来事の考察をする。
今日で得られた新しい情報として真っ先に思い浮かぶのは、やはり実際に戦闘を行ったゴミクズーと悪の幹部だろうか。
街でそのようなものに行き当たるのは交通事故程度の確率だ、などと昨日は安易に考えていたが、その翌日に早速遭遇し戦う羽目になるとは。
魔法でしか倒すことの出来ないゴミクズー。
そういった触れ込みであったが、実際は殺せる。
今日の経験で弥堂はそのように手応えを感じていた。
だが、彼我の戦力差で自分がゴミクズーを圧倒的に上回るかと聞かれればそんなことはない。
今日はたまたま周囲の条件がよかった。
もしも次に遭遇をした時に、そこが今日よりももっと開けた場所で、さらに周囲に戦闘に利用できるような物が何もなかった場合、恐らく自分はあっさりと敗北をし殺されることになるだろう。
今日は運がよかった。
弥堂はそのように考えていた。
次に悪の幹部ボラフ。
自分は怪人だとか名乗っていたが、そもそも怪人とはなんなのだろうか。
人間でないのは間違いがないが、かといってゴミクズーとも違うモノのようであった。
ボラフとも最後は戦闘になり自分が優勢に仕掛けていたようにも見えなくはないが、実際はまるで違う。
慌てて逃げ惑っているようにヤツは振舞っていたが、結局弥堂の攻撃はロクに当たることはなかったし、当たったところで有効打とはならなかっただろうと評価をしている。
なにか人間には手を出すことは出来ないといった風なことを漏らしていたが、だが最初に遭遇をした時の態度は違ったようにも思える。
他にも魔法少女や戦闘に対する姿勢など、どこかヤツの行動には一貫性と真剣味がないように感じられた。
以上のことを踏まえて、『ゴミクズー』、『悪の幹部』、『闇の組織』、これらに対する弥堂 優輝のスタンスとしては、やはり不干渉ということになる。
運悪く二日続けて交通事故に遭ったことになるが、いくらなんでも三回目はもうないだろう。
今日のことで何となくヤツらの放つ空気感のようなものは掴んだ。
それが感じられる場所に近づかぬよう注意をしていれば問題はない。
もしも、路地裏に入ると頻繁に連中に出くわすのならば、とっくに街のクズどもの間で騒ぎになっているはずだ。
確かに目障りではあるが、こちらの目的とすることには現状障害とはなっていない。
圧倒的に実力差があるのならば、念のため殺しておくかという話にもなるが、戦いを仕掛けても敗けて死ぬのは自分の方だ。
ならば無暗に近づくべきではない。
それよりももっと考えなければならない重大な敵がいる。
その敵とは――JKだ。
一昨日の4月16日には学園で希咲 七海にKOされ、本日の4月18日には街の路地裏で水無瀬 愛苗にKOされた。
これで現在のところ、対JK戦は2連敗ということになる。
ギリ……ッと歯軋りをする。
(認めなければならない。俺は完全に甘く見ていた……JKという種族を――!)
二人のクラスメイトの女子の顏を浮かべ苦々しい気分になる。
流し台に置いていたカップを手元に戻し、新しい豆を用意するのは面倒だったので使用済みのドリッパーを上に載せ、ヤカンから湯を落とす。
ポタ、ポタ、とカップに黒い水が落ちる音を聴きながら、魔法少女について考える。
魔法少女ステラ・フィオーレ。
機会があればその戦闘を一度見てみたいと考えていたが、思いの外早くにその機会が巡ってきた。
しかし、それによって得られたデータで彼女の戦闘能力を評価をしようにも、どうにも採点が難しいものになってしまった。
まず、攻撃。
弥堂がしこたま痛めつけても絶命には至らなかったゴミクズーを、とりあえず当たりさえすれば一撃で仕留める光球。
それはゴミクズー相手だけでなくビルの壁面を半壊させる程の物理的な影響力を持っていた。
次に防御。
考えながら袖を捲る。そこには無数の引っ掻き傷があった。
完璧にゴミクズーを抑え込んで無傷で勝利したように見えた弥堂だったが、実際はそうではなく、暴れるゴミクズーの前足や後ろ足により多くの傷を負っていた。
そのゴミクズーに圧し掛かられ頭を齧られても水無瀬は傷すら負わない。
彼女自身だけでなく、魔法少女の衣装もかなり頑丈に出来ているようだった。
それ以外の魔法。
戦いが終わった後に、返り血やらなんやらで汚れていた弥堂に彼女はよくわからない魔法を使った。
すると、服の汚れやら破れだけでなく、弥堂が破壊したブロック塀なども元通りに修復してしまったのだ。
だが、弥堂が負った傷はそのままだった。
自身に付着した血は全てネズミの返り血で自分は負傷はしていないと言い張ったので、もしかしたら彼女自身に傷を治すという意識がなかった為に治らなかったとも考えられるが、それ以前に『傷は治せない』という発言もしていた。
生き物は治せないが無機物は直せる。
どういった理屈なのかは全く見当もつかないが、とても不自然に思えた。
少々脱線をしたが、以上の能力から彼女の実力を考えようとしてもやはり評価を下しづらい。それが弥堂の本音だった。
なぜなら、彼女は度し難いほどのポンコツだ。
火力は十分、守りも頑強、下手くそだが飛行も出来る。
だが、ポンコツだ。
もしも自分に同じ力が備わっていれば、今から外人街に乗り込んでいって傷一つ負わずに散歩感覚で住人を皆殺しにして朝までに帰って来られる。
それほどの力だ。
なのに、水無瀬 愛苗、そして彼女のお供のエロネコがそれを台無しにしてお釣りが出るほどの無能だったものだから、強いのか弱いのか、脅威なのかそうでないのか、それら一切合切の判断をこの場で下すことが非常に躊躇われた。
だが、もしも弥堂 優輝に魔法少女を殺すことが可能かと、そう訊かれれば――
(――それは、可能だ)
意識を切り替える。
とりあえず奴らのことを考えるのはこんなところでいいだろう。
これだけわかったこともある。
今日の収穫としては十分だと、そうしておこう。
弥堂は懐から一枚の紙を取り出す。
それは写真だ。
今の自分にとって大事なのは、魔法少女でもゴミクズーでもない。
人妻だ。
『カイカン熟女クラブ』の朝比奈さん29歳Eカップの写真を視る。
チャンさんの情報ではこの熟女が次にこの人妻専門店に出勤をしてくるのは火曜日か水曜日と言っていた。予定を調整する必要がある。
しかし、と考える。
(29歳というのは果たして熟女なのか……?)
弥堂の感覚では大人ではあるがまだ若い女という風に思える。
熟女の定義を少しだけ考えてみて、すぐに自分には答えは出せないと諦めた。
自分はこういった問題には疎い。
今度識者である廻夜部長に会った時にでもその知恵に肖る為にお話を伺ってみようと、心中でメモをした。ついでに、そろそろ保険証を偽造して購入する必要もあるかと、メモに書き加えた。
ふとコーヒーカップに目を遣るとドリッパーから落ちる水時計は停止しているようだった。
フンと鼻を鳴らし、腕で払いのけるようにしてカップもドリッパーも流し台に落とす。
食器がステンレスに当たる音を背後にし、壁にかけているハンガーを取りに行く。
今日はもうシャワーを浴びてとっとと寝てしまおう。
そのように考えながら、隣り合って吊り下がっている二つのハンガーを見た。
明日にでもクリーニング屋に預けていた物を回収に行くかと予定に加える。
明日は午前中に風紀委員会の活動の一環であるゴミ拾いのボランティア活動を旧住宅街と新興住宅地との境目あたりで行い、それが終わったらMIKAGEモール内のクリーニング屋に向かおうと決めた。
夜には別の用事があり、そして明日の中で最も重要な用件はそれになる。
弥堂は床に適当に置かれていた紙袋から新品のバスタオルを取り出し、適当にテーブルの方へ手に持っていた熟女の写真を投げ飛ばす。
人妻ヘルスに行くことを考えるのはまだ先だ。
まずは明日の夜に行かなければならない。
――キャバクラへ。