4月19日 日曜日 午前。
本日は午前中に弥堂の所属する風紀委員会の仕事として、学園近所のゴミ拾いのボランティア活動に従事する予定があった為、平日の通学時と変わらぬ時間には起床をしていた。
ボランティア活動の目的としては、美景台学園高校に通う生徒は模範的な学生であり、また学園の運営組織も地域に密着し貢献をすることの出来る組織なのであると近隣の住民どもを騙して、何かあった時のクレームの数を減らすことが目論見となる。
弥堂はポケットから二つ折りになった一枚のカードを取り出し、それを開いて中を見る。
――『よいこのスタンプカード』だ。
スタンプカードとは謂っているがカードの紙面に実際に並んでいるのは、丸形の『にっこりシール』となる。
美景台学園の風紀委員会に所属をすると配られるスタンプカードで、委員会の活動を行いそれに一定の成果があると評価をされ『よいこ』であると認められると、風紀委員長手ずからこの『にっこりシール』を貼ってくれて、さらに『いいこいいこ』をしてくれるのだ。
要はスーパーやドラッグストアなどによくあるスタンプカードと同じようなものである。
弥堂はチラリと自身のスタンプカードの空白となっているマスを視る。
残り2マスだ。
このカードを『にっこりシール』で全てのマスを埋める度に、カード1枚につき一度、風紀委員長に対して献策をする権利が与えられることになっている。
恐らく本日のボランティアを恙無く達成することが出来れば、その成果として3枚は『にっこりシール』を頂けるはずだ。
弥堂はその暁には、学園内に地下牢を設置することを進言するつもりである。
ちなみに前回の『よいこのスタンプカード』をいっぱいにした際には学園内に裁判所を設置することを進言し、風紀委員会からの意見として生徒会を経由し、正式な意見書として職員室に届けられた。
しかし、先日の権藤教師の口ぶりではその意見書は棄却されたようだ。弥堂はそのことに不満を感じ眉を歪める。
次回の風紀委員会の会議にてこの件を厳しく追及するつもりだ。
今はその時ではないと段ボール内のノートPCに意識を戻す。
つい先程弥堂の住むアパートのインターホンが鳴らされ、何者かと応対をしてみると、宅配の配達員がこの箱を抱えてドアの前に立っていたのだ。
弥堂には何か荷物を頼んだ覚えはなかったので、恐らく刺客か工作員であろうと目星を付け、その配達員を室内に引きずり込み軽く尋問を行った結果、どうやら誰かが自分宛てに送った物で間違いがないようだった。
そしてその後、配達員を十分に口止めをした上で蹴りだし、段ボール箱を部屋に運び入れ開封したみたら、中から出てきたのがこのノートPCなのである。
段ボールの蓋を閉じて貼り付けられた伝票を見る。
その宛先に書かれているのは間違いなく弥堂の名前と住所ではあるが、送り主の情報は一切書かれていない。
普通であれば、このような不審な郵便物は受け取り拒否をして郵便局で一定期間保管した後に廃棄処分になるのだろうが、弥堂はあえてこれを受け取った。
このような状態で荷物を送りつけてくるのは、もしかしたら殺害予告の可能性もあるし、少なくともこちらをナメていて喧嘩を売っていることは間違いないからだ。
どうにかこの届いた荷物から相手の情報を見つけ出して、特定に至った暁には豚の生首でも送り返してやろうと、そう考えたためである。
しかし、中から出てきたのがノートPCだったので眉を顰めることになった。
先日の4月16日の夜にクラスメイトの女子である
確かに自分のノートPCを失ったばかりではあるが、代わりとなる物を注文した覚えはない。
(ただの偶然か……?)
警戒感を強め、開いたノートPCの暗い画面に映る自分の顔を睨む。
だが、こうしていても仕方がないので、とりあえず電源を点けてみることにした。
先日、希咲 七海のせいで真っ二つになり壊れたので無理矢理ガムテープで直したテーブルに腕をのせ、その腕を振りテーブルに載っている物を乱暴に床に落とす。
そしてすぐさまテーブルを蹴り倒した。
横倒しにしたテーブルの天板が遮蔽壁となるように床にノートPCを設置し、その電源ボタンを押すと同時に弥堂は素早く身を翻し寝室に飛び込む。
数秒経過し、そっとダイニングを覗きこむ。
どうやら電源を入れると同時に爆発をするような罠は仕込まれてはいなかったようだ。
ノートPCを使ってそのようなギミックを仕込むことが可能なのかという事については弥堂は寡聞にして知らなかったが、あらゆる危険性は想定しておくべきである。
階下で大きな物音と共に誰かが駆け出したような気がしたが、それは気がしただけなので気のせいだろう。
テーブルを直しその上にノートPCを置く。
ディスプレイを見てみるが特に不審な点は見当たらない。
というか、見当たらな過ぎる。
それは何故なのかと考えてみると、デスクトップに表示されたものの一部に非常に見覚えがあるからだ。
念のため記憶の中の記録と照らし合わせてみると、数日前まで使用していた自分のノートPCのデスクトップ画面と全く同じ配列で同じアプリアイコンが並んでいた。
一部異なる点があるとすれば壁紙は何故かクラスメイトの女子の写真になっているという点だ。
その写真に写っているのは希咲 七海と水無瀬 愛苗の二人で、何やら談笑をしている様子だ。
(見覚えがあると謂えばあるが……)
怪訝な眼で画面を見ながら試しによく利用していたメールアプリのアイコンをクリックしてみると、それと同時に脇に転がり落ちていたスマホが振動しフローリングの床をガタガタと鳴らす。
慌てた様子の階下の気配を無視しながら弥堂はスマホを手に取りメールアプリを起動した。
『ノートPC一丁! お届けしましたぁ!』
差出人不明。
だが、これは十中八九Y’sからであろう。
『お前は誰だ』
『もちろん私です! あなたのお姉ちゃんですよ!』
この話の通じなさはY’sで間違いないようだ。
(だが、お姉ちゃんとは何だ……? 情報統制官の隠語か……?)
目を細めながら返信をする。
『これはお前が送ったのか』
『必要かと思いまして!』
いまいち意思の疎通に手ごたえが感じられないが、推察するに弥堂のノートPCが壊れたので代わりを用意した、恐らくそういうことであろう。
どういう風の吹き回しだと考えているとさらにメールが届く。
『マザボが割れて完全に逝ってたので、データだけなんとかサルベージして新品に突っこんでおきました! もちろんセットアップ済みでちゃんと元のヤツと同じ環境で使えるようにしてあるので安心して下さい!』
『殺すぞ』
弥堂は少し思考し、そう返信した。
何を言っているのかよくわからなかったので、とりあえず脅してみることにしたのだ。
『ちなみに今度のはグラボも積んでメモリも増設してあるので、エッチな3Dゲームだってイケちゃいますよ! とりあえず催眠アプリでギャルを好き放題しちゃうゲームをインストールしておきました!』
しかしまともな返事は返ってこない。
脅迫に屈するつもりはないという意思表示だろう。強気な奴だ。
これ以上聞いてみたところでどうせまとな返事は期待出来ないであろうと見切りをつけ、返信はせずに考えてみる。
(そういえば――)
すると思い当たることがひとつあった。
昨夜眠る前に、弥堂は自身が所属をするサバイバル部の部長である
内容とはしてはシンプルで、『今後新入部員が入った時に規律が緩くなってはいけないので、見せしめのために殺しても構わないか』とお伺いを立てたのだ。
それに対する廻夜の答えは『警察に相談をした方がいい』とのことであった。
一見すると会話が成立していないようにも見えるが、これは暗に『大きな騒ぎを起こすな』と釘を刺されたのだと弥堂は判断していた。
それが命令なのであれば弥堂としては従うことに否やはないのだが、とはいえY’sの破天荒さにはどうしたものかとも憂いていた。
その夜が明けての今朝のこの出来事である。
(なるほど。さすがは部長だ)
了承の意を送ったっきり彼とのチャットは終了していたのだが、どうやらその後すぐに手を打ってくれたようである。
要するに、部長から厳重注意を受けたY’sが弥堂の機嫌をとるために、どうにか役に立とうと媚を売ってきたというのが今回の出来事のあらましであろう。
相手に気に入られるにはまずは贈り物をする。
それは何時の時代のどこの国でも普通に誰もがとる選択であり、またその贈り物が相手が必要としている物なのであれば特に効果的であろう。
サバイバル部全体のことを考え弥堂の提案を却下はしたが、しかしその意はしっかりと汲んで対応をしてくれる。
なんと理想的な上司なのだろうか。
『ご苦労。』
弥堂は己の上司の有能さに感服しつつ、ならば自分もこれ以上野暮なことは言うべきではないと短く労いの言葉だけを返した。
だが、一つだけ不可解な点もある。
弥堂のノートPCが壊れたことをY’sはもちろん廻夜にも伝えてはいなかったことだ。
しかし野暮なことは言うべきではないのでそのことは流すことにする。
全知全能に限りなく近い廻夜であれば弥堂のノートPCが破損したことを見抜いていてもおかしくはないし、優秀な情報収集能力を持つY’sであればそのことを察知していても特段驚くようなことではない。
結果が伴っているのであれば過程は重要ではない。
弥堂 優輝という男はそのように考える。
ノートPCを操作し先程開いたメールアプリを見てみると、すでにスマホと同期済みのようで、今しがたのY’sとのやりとりがそのままこちらにも履歴として残っていた。
先程ヤツが言っていた『同じ環境で使える』とはこのことかと理解をする。
そういえば先日まで使っていたノートPCもヤツから送られてきた物であったと思いだす。
自分の有用さをアピールしているのだろう。
それについては弥堂は一定の評価をした。
(だが――)
とはいえ、それで気持ちよくこれから仲間として仲良くやっていこうと、そういうわけにもいかない。
こいつが自分をナメていることには違いないからだ。
その証拠に、ここ数日の奴からのメール内容は以前よりも気安いものに変わってきている上に、仕事と直接関係のないことまで送ってくるようになった。
そのことについては釘を刺しておく必要がある。
『あまり気安く仕事に関係のない連絡をするな。一件につき指を一本切り落とすぞ。』
改めて脅迫をする。
廻夜から言われたのは『警察沙汰にするな』ということだ。
それは警察にバレさえしなければ何をしてもいいということになる。
弥堂はそのように受け取っていた。
『それってプロポーズですか⁉』
Y’sからの返信は相変わらずだ。どうやらまだ甘く考えているらしい。
『冗談だとでも思っているのか。俺は本気だぞ。例え世界中のどこに居ようとも必ずお前を見つけ出す。』
『私も! いつもあなたを見ています!』
『自分の方が上だとでも思っているのか』
『そんなことありません! わたしがあなたの物です!』
挑発的な言葉ばかりが返ってくる。
(こいつ……)
部長に警告をされたばかりだというのに、この様子では自分のことだけでなく廻夜のことまでナメているようだ。
弥堂は目を細める。
『いいだろう。必ずお前を見つけ出しその指をいただく。』
『はい! いつまでも待ってます! その時はあなたの指もください! 左手の薬指を!』
『やってみろ』
『これって結婚! 結婚ですよね⁉ お互いの薬指を交換して移植しあうなんて絶対結婚ですよね!』
これ以上の問答は無駄のようだ。
『お互いに左手の薬指を管理しあえば、もう二度と他の異性から貰った指輪なんか付けられませんし、それって究極の束縛ですよね! つまり究極の愛ってことです!』
必要なことはもう伝えた。
あとは機会があれば必要なことをするだけだ。
(二度と巫山戯た文字を打てないように腕ごと斬り落としてやる)
弥堂は今しがたやりとりをしていたアドレスを迷惑メールに指定しPCを落として立ち上がる。
出掛ける為の着替えをしながら今日の予定を確認する。
この後学園近辺で昼過ぎまでゴミ拾いのボランティア活動をし、MIKAGEモールのクリーニング屋から預けていた物を回収。
そして一旦帰宅してから夜は取引相手との会談のために、新美景駅前歓楽街のキャバクラだ。
特に夜の用事は大きなビジネスチャンスをモノにするための重要な用件となる。どんな手段を使ってでも先方に首を縦に振らせる必要がある。
(――その為の手段は問わない)
弥堂 優輝は鋭い眼差しで学園指定ジャージの袖に風紀委員会の腕章を通しながら自宅の扉を出た。
美景台学園の正門前の国道に沿って西に向かう。
学園がある場所とは反対車線側は土手に接している。その土手を越えた先には美景川と名付けられた人工の河川が流れている。
いつも学園に登下校する時と同じ、学園側の歩道でゴミを拾いながら弥堂は西へ――MIKAGEモールや新美景駅などがある方向へ――進んでいる。
実際のところゴミはこの北側の歩道よりも、反対側の歩道の方が多く落ちていることが多い。しかし本日は休日ということもありあちら側の歩道は人通りが少ないため、弥堂は北側を選んで作業をしていた。
現在行っているのは風紀委員会の活動の一環である、町内のゴミ拾いのボランティアだ。
しかし、ゴミを拾うことはあくまで手段であり目的ではない。
風紀委員会がこういったボランティア活動に勤しむのは、雑に謂ってしまえば近隣住民の好感度を上げるためのパフォーマンスでしかない。
故にゴミは拾う。
拾うが、拾い過ぎてはいけない。
完全にゴミが無くなってしまえば好感度を継続して上げることが出来ないからだ。
さらにゴミを拾う際には可能な限り人目につくように行わなければならない。
せっかく地域へ貢献をしてやっても、それが誰にも気が付かれないのであれば、何の成果にも成らない。実質的な価値に繋がらないからだ。
そういった理由から、弥堂は旧住宅街と呼ばれる家々が立ち並ぶ国道北側の歩道にて任務を遂行している。
頑張った、協力した、貢献した、だのといったフワフワとした共感や自己満足など1円にもならない。つまりは無駄な行いだ。
神は無駄をお許しにはならない。
以前に弥堂の師のような存在であった修道女がよくそんなことを言っていた。
修道女であり、教会暗部に洗脳された人間兵器でもあり、また当時の弥堂の飼い主の所へスパイとして潜入してきたものの頭のおかしい飼い主に二重に洗脳をかけられメイドとしていい様に使われつつ、教会にもこちら側にも情報を流す二重スパイにされてしまった複雑な女だ。
弥堂はそんな面倒くさい女と何故かパートナーを組まされたのだが、全く使い物にならない弥堂に彼女はよく血の滲むような修練を課してきた。
その訓練にて弥堂がヘバってしまった合間の時間などにこういった教会の教えをしつこく説いてきたのだ。
記憶の中から記録を引き出す――
『――いいですかユウキ。聞いているのですか? 私たちに限らず遍く生き物は、この身体や魂に限らず血の一滴まで全てが神によって与えられたからこそ、こうして生きてこの世界に存在をすることが出来ているのです。つまり私たちは神の所有物なのです。そんな私たちが無駄な行いをし、時間を無駄にすることは神を冒涜する行為に等しいと知りなさい。だからあなたは1秒でも早く業を習得し、その業を以て神に貢献をする必要があるのです。あなたはよく、何を言っているかわからないだとか、無理だとか言いますが、無理かどうかを決めるのは神です。あなたにそれは許されていません。いいですかユウキ…………ユウキ? ちゃんと聞いているのですか? 人の話を聞く時はちゃんと私の目を見なさい。目線を隠すのは敵に対してのみです。私はあなたの敵ではありません。では続きですが、重ねて言いますが人間を創りだしたのは神です。私や他の者はこの業を習得出来ていますよね? 何故なら人間には出来ることだからです。あなたも人間です。つまり、あなたにも出来ることなのです。神がそのように人間を創っています。その神に創られたあなたが無理だなどと口に出すのは、神の全能を疑い否定するも同義です。いいですか? 無理は背教者の言葉です。異端です。この場には私だけだったからよかったものの、他で口にするんじゃありませんよ? 異端審問にかけられても文句は言えません。では、実際どうすれば身に付けられるのかという話ですが。簡単です。出来るまでやればいいのです。信仰心が足りていれば必ず出来ます。出来ないのはまだ信仰が足りていない証拠です。言いつけどおりに毎晩祈りを捧げていますか? もっともっと出来るまでやりなさい。いいですか? 『出来る』か『死ぬ』かです。出来るまで生命を賭けなさい……なんですか、その目は? 言いたいことがあるのなら言いなさい――』
血反吐を吐きながら『零衝』を習得した数日後の訓練の時の記憶だ。
相手の身体に触れ内部に直接衝撃を徹して内側から破壊するというのが零衝という技の概要なのだが、その発展形として応用技を教えられていた時のことだ。
その応用技というのが、相手の身体に触れずとも衝撃を打ち込むというものだと彼女は――エルフィーネは云った。
自分と相手の身体の間には空気がある。その空気に自在に威を徹すことが出来れば相手に触れずとも自分が一歩も動かずとも、距離に関係なく敵を殺すことが出来ると師は仰った。所謂『遠当て』のようなものだ。
当然のことながら、弥堂は師である彼女に『ちょっとなにを言っているのかわからない』と率直に正々堂々と心の内を明かした。
そうしたら彼女は「わからなければわかるまで身体で覚えるのです」と宣い、杭のように地面に打ち付けた丸太に弥堂を縛り付け一定の距離からその応用版の零衝をしこたまぶちこんできた。
それでも一向にコツを掴むことが出来ない不出来な弟子に対して、とっても面倒見のいいお師匠様は別の方法を考えて下さった。
その方法とは、肌――つまり身体の外部で感じることが出来ないのであれば、まずは身体の内側で感じることから始めましょうとのことだった。
そして彼女は磔になった弥堂の心臓に近い位置にナイフの刃をあて、ジャガイモの皮を剥くようにして皮膚の一部を剥ぎ取った。
そして、その患部に向けて執拗に零衝を撃ち込み続けられるという拷問を受けた結果、3回目の心停止をした後にようやく休憩を許され、その際に言われたのが先程のありがたいお言葉だった。
それに対する弥堂のアンサーはこうだった。
「――無駄なことをしているのはお前の方だろうが。いいか? 『お前には才能がない』『お前は出来損ないだ』、俺にそう言ったのはお前らだろう。だったら、その俺にこうして訓練を施すこと自体が無駄なことなんじゃないのか? つまり俺が無駄なことをしているのではなく、お前が無駄なことをしているんだ。お前が俺とお前の時間を無駄にしているんだ。お前の神は無駄を許さないと言ったな? だったらお前は背教者だ。この裏切者のクズめ。あ? ごめんなさい? 謝ったということは非を認めたな? だったら今すぐこのナイフを取れ。『これはなにか』だと? 決まっているだろう。今すぐ無駄を全て無くして最短で結果を出せ。俺を殺すかお前が死ぬか、だ。『出来る』か『死ぬ』かなど時間の無駄だ。そんなことに時間をかける必要はない。どうせ出来ねえんだから今すぐ俺を殺せばそれで話は終わりだろうが。それが出来ないのなら、無駄をしたことを神に詫びてお前が死ね。ただし、お前が死んだら孤児院のガキどもはどうなるだろうな? 当然野垂れ死ぬだろうな。生命が無駄になるな。それにお前があいつらを拾ってきてこれまでに掛けてきたコストも全て無駄だ。無駄、無駄、無駄だらけだ。やっぱりお前は異端なんじゃないのか? どうなんだ、おい。泣いてねえで答えろよ」
なかなか仕事に必要なスキルを覚えられない部下へパワハラをしてくる上司に対して、不出来な部下は逆ギレをしてパワハラ倍返しで激詰めをした結果、上司であるメイド女は地に蹲って泣き崩れてしまった。
弥堂は不憫な師にそっと歩み寄って彼女の背中に手を伸ばすと、首の後ろで留めていたロザリオの革紐を解いてからメイドスカートを捲りあげ、彼女の頭の上で裾を無理矢理結び、メイド女を巾着女に強制的にクラスチェンジさせた。
そして彼女の首から毟りとった彼女の信仰の証である十字架を懲罰を与える鞭のように振るい、ベージュの地味パンツに包まれた彼女の尻を何度も打った。
さらに耳元に口を寄せ、彼女の信じる教義と神の存在を否定する言葉を囁く。
「――大体お前らの教義とやらは矛盾が多いんだ。もっとちゃんと考えろ。全知全能の神だと? 出来るように神が人間を創っている? それが本当なら何故才能のある人間と無い人間がいるんだ? 俺が出来損ないなのではなく、神が俺を創り損なったんじゃないのか? 本当は神なんていないんじゃないのか? あ? 『いるもん』じゃねーんだよ。じゃあお前見たのかよ? 連れて来いよ。そんなんだから教会のクソオヤジどもにいい様に使われんだよ、このバカ女が。まぁ、いい。んじゃ、神がいるとして、そいつが万能なんだとしたら、誰が悪いんだろうな? お前に出来たことが出来ない俺が悪いのか? しかし、こうも考えられないか? お前もそのイカレた技を誰かに教わったよな? お前のその師だか教官だかはお前に技を覚えさせることが出来たのに、お前は俺にそれを覚えさせることが出来ない。つまりお前が悪いんじゃないのか? どうなんだ? 悪いのは俺か、お前か? あ? 『ごめんなさい』じゃねえんだよ。俺は誰が悪いのかって訊いてるんだ。俺の許可なく勝手に謝ってんじゃねえよ。おら、答えろよ。悪いのは俺か、お前か、それとも神か…………、ほう、お前が悪いのか。じゃあ謝れよ。お前は本当にどうしようもねえな。お前のような信仰の足りない教徒を果たして神は許すかな? だが、俺はお前を許してやる。特別にな。例え神が許さなくても、俺だけはお前を許してやる。だから今日の訓練はもう終わりだ。帰るぞ。おい、早く立て。いつまで泣いてるんだ、めんどくせえな。チッ、もういい。先に帰るから後は勝手にしろ――」
自らの信じる神を否定するようなことは絶対に彼女には出来ない。
それをいいことに責任の所在を問いつめていくと、エルフィーネは『ごめんないさい』としか発言しなくなった。
そんな彼女をお尻丸出しのまま放置して帰った人でなしは、こういうことをして彼女の情緒を滅茶苦茶にする度に彼女の自分への依存度が高まり、愛情表現も段々と偏執的になっていっていたことにまるで気がついていなかった。
ちなみにこの日は、窃盗団のアジトを襲撃する任務の前日だったのだが、この後数日ほどエルフィーネが塞ぎこんでしまい使い物にならなくなったので、弥堂は単独で殴り込みに行くハメになった。
その任務の最中、危うく生命を落としかけるような危機もあったのだが、その危機を奇跡的にこの応用型の零衝を放つことが出来たおかげで乗り切れた――ようなことはなく、彼女にしこたま痛めつけられたおかげで、ちょっとやそっとのダメージでは気絶しないという耐性が身についており生き延びることが出来た。
しかし、だからといってそれで彼女に感謝を告げることはない。
弥堂が人でなしのクズであるのは間違いがないが、元々一般的な日本の中学生に過ぎなかった彼がそうなったのはエルフィーネも含む周囲の人間関係の影響が大きい。
アレな人がアレな人を生み出し、アレとアレが混ざり合ってよりアレになっていく。クズとクズが織りなす負のシナジーによって互いに業を深め合っていた。
そんなかつての出来事を思い出しながら半自動的にゴミ拾いをして移動をしていると目的地に着く。
中美景公園だ。
ここは旧住宅街と新興住宅地との境にあり、ショッピングモールも近い。
そのため、休日には多くの市民がこの場所を利用している。
この場所でこれ見よがしに美景台学園のジャージを着てゴミ拾いをすれば多くの人目に晒され、そして自身の貢献をより多くアピールをすることが出来る。
弥堂は腕に着けた風紀委員会の腕章の位置を調節し、公園の中へ入っていった。