俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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1章23 断頭台の下に咲く花 ➁

 

 悲鳴をあげて悶絶する彼女らを見てふと気付いたことがあり、水無瀬に問いかける。

 

 

「痛みがあるのか?」

 

「――ぃきゃあぁーー…………へ? あ、そういえば痛くないんだった! えへへ……」

 

「……馬鹿にしているのか?」

 

 

 表情を変えずに問いながらさりげなく彼女の顔面を握る力を最大にしてみる。

 

 

「ち、ちがうのっ! 変身してると痛くないんだけどね、びっくりするとなんか痛いような気持ちになっちゃうの!」

 

「気分で生きてんじゃねーよ」

 

 

 しかし彼女の言葉通り、リンゴ程度なら簡単に握り潰せるくらいの力をこめているのだが全く痛みを感じていないようだった。

 

 熱いものに一瞬だけ触れてしまった際に、実際には熱さを感じていないが反射的に熱いと思い込んでしまうようなものなのだろうか。

 

 

(そうなら、痛みを遮断している意味はあるのか?)

 

 

 ジッと彼女の顔を視る。

 

 

 ダメージを負わないというのは非常に有用な魔法だとは思うが、それは一体どういう理屈なのだろうと考える。

 

 単純に皮膚や内臓や骨など、全体的に身体が頑丈になっているだけのことなのだろうか。

 

 

(例えば――)

 

 

 人差し指で水無瀬の右目の下瞼を撫でる。

 

 

 この指をこのまま瞼の奥に挿し入れてから指先を曲げ、眼球を引っ掛けながら引き抜いてみたら彼女の目玉は抉り出せるのだろうか。

 

 もしもそういった攻撃からすら身を守れるようになっているのならば、そもそも指を挿れること自体が出来ないのか、それとも眼球を引っ張り出すことが不可能になるのか、どういった形で無効化されるのだろうか。

 

 

 試しに突っこんでみようと指を動かそうとすると――

 

 

「――おいコラァッ! いつまでオレら放置してんだ!」

 

 

 焦れた様子のボラフから声がかかり、弥堂は水無瀬の顏から手を離した。

 

 

「悪の幹部にだって予定はあるんだよ! とっととヤリあおうぜっ! そんでニンゲン! オマエは邪魔だからもう帰れ」

 

「ふざけるな。俺はクリーニング屋に行くんだ。その通り道を塞いで邪魔をしているのはお前らの方だろう。目障りだから失せろ」

 

「クソッ! 魔法少女とモンスターが対決してるんだぞ⁉ クリーニングとかどうでもいいだろ⁉ 少しは空気読めよ!」

 

「知ったことか。俺のクリーニングの邪魔をするのならば、魔法少女だろうがバケモノだろうが皆殺しにしてやる」

 

「私も⁉」

 

 

 隣でぽへーっと弥堂とボラフの会話を聞いていた愛苗ちゃんは突然殺害を宣告されてびっくり仰天し、白いリボンで括られたピンクのツインテールがぴょーんっとなる。

 

 

「ちくしょう、イカレてやがる! おい、フィオーレっ!」

 

「は、はいっ!」

 

「ちょっと結界に穴開けてコイツに出てってもらえよ! ちゃんと待っててやるから!」

 

「なんだ、そんなことが出来るのか?」

 

 

 非常に効率のいいアイデアを聞いたと弥堂は水無瀬の顔を見るが、彼女はコテンと首を傾けた。

 

 

「……おい」

 

「えっと……メロちゃん? できるのかな?」

 

「えっ? いやわかんねーッスけど……、ボラフ? そんなこと出来るんスか?」

 

「えっ? いや、知んねーけど……出来ねえの? だってそいつ結界張った後に入って来てんじゃん」

 

「あっ、そうか! じゃあ、弥堂くん? 悪いんだけど結界に穴を空けてもらってもいい?」

 

「……お前らナメてんのか」

 

 

 事前にネタ合わせでもしていたかのように視線でリレーをして、最後には一斉に弥堂の方へ顔を向けてくるポンコツ劇団員どもに弥堂は激しく苛立つ。

 

 

「もういい。一部開放することが難しいのなら一回結界を解け。それで俺は手を引いてやる」

 

「えっ⁉ そんなのダメだよっ!」

「そうッスよ! モールがパニックになっちまうッス!」

「オマエな、ここにはお年寄りだっているんだぜ? 少しは他人の迷惑を考えろよな」

 

「……そうか。なら力づくで排除させてもらう」

 

「ヒッ、ヒィッ⁉ くるなぁっ!」

 

 

 ズイと弥堂が前に出ようとするとボラフは大袈裟に怯えた。

 

 それを見たメロはキョトンとして疑問を口にする。

 

 

「なんスか? オマエ、マジでニンゲンなんかにビビってんスか?」

 

「バッ、バカやろう! 昨日の今日だぞ⁉ オマエもそいつに狙われてみろよ。この眼つきで瞬きもせずに無言で淡々と殺しにくるんだぞ⁉ ツエーとかヨエーとかじゃねぇんだよ! こんなんフツーにコエーわ! ロボット掃除機の方がまだ話が通じるだろ!」

 

「たしかに……。ロボット掃除機は我々ネコさんの天敵ッスが、少年よりは融通がきくというか交渉に応じてくれそうッスね……」

 

 

 弱音を吐く悪の幹部の言葉にネコ妖精は一定の共感を示した。

 

 弥堂はそれを宣戦布告と捉えた。

 

 

「殺すと決めたら殺す。交渉の余地などない」

 

「クッ、クソがっ! やってやる!」

 

 

 ボラフの戦意に応えるように巨大な花のゴミクズーが花の奥から「キキキキキッ」と不快な声を鳴らし、数本の蔦をうねらせる。

 

 

 その威容を睨みつけながら、弥堂は隣に立っていた水無瀬の襟首を掴んで彼女を持ち上げると自身の前へ立たせる。

 

 

「へ?」

 

「よし、やれ」

 

 

 手短に水無瀬へ命令をしたが、彼女に上手く意図は伝わっていないようで、こちらの顔を見上げておめめをぱちぱちしてきた。

 

 

「殺せ」

 

「あ、私か。えっと……殺さないよ? 浄化だよ」

 

「建前はなんでもいい。速やかに滅ぼせ」

 

「建前じゃないんだけどなぁ……」

 

「いいからさっさと殺せ。罪もない一般市民のこの俺が化け物に狙われているぞ? さっさと俺を守れ。やる気あるのか?」

 

「あっ……! うんっ! とにかく私がんばるねっ!」

 

 

 随分と不遜な態度の一般市民だったが、よいこの愛苗ちゃんはそんなことは気にしない。

 

 自身の顏の下で両のお手てを構えると握力15㎏のフルパワーでギュッと握りしめ、フンフンっと鼻息荒く戦意を顕わにした。

 

 

「コ、コイツ……あれだけイキリ散らかしておいて女の子を盾にするのか……っ⁉」

 

 

 悪の幹部がなにやら戦慄している隙に、弥堂とゴミクズーの間に魔法少女ステラ・フィオーレは颯爽と立つ。

 

 

「いきますっ!」

 

 

 開戦の声をあげると同時、えいっと魔力をこめると彼女の履くショートブーツに小さな翼が生える。

 

 

「【飛翔(リアリー)】!」

 

 

 ふわりと足が地面から離れ身体が宙に浮かび上がる。

 

 

「むむむ……」とバランスを保つことに集中しゆっくりと高度を上げていると、シュルリと触手のような蔦が目の前まで伸びてくる。

 

 

「はぇ……?」

 

 

 ぱちぱちと瞬きをしてその蔦の先端を見つめていると、そこからニュッと葉が生えてきて、まるで掌で蝿にそうするように水無瀬をペチッと叩き落した。

 

 

「ぅきゃ――っ⁉」

 

 

 べチャッと地面に張り付くと飛行の魔法が解除され、ブーツに生えた翼が霧散した。

 

 

「ィキキキキキッ!」

 

 

 植物型のゴミクズーは耳障りな哂い声を上げ、そのまま水無瀬へ追撃を仕掛ける。

 

 

「――あいたっ⁉ いた――くないけど、やめてぇーっ!」

 

 

 ペチペチと葉っぱに叩かれる水無瀬の間抜けな姿に弥堂は眉間を揉み解してから一つ溜め息を吐き、無造作に近寄っていくと彼女の足首を掴みペチペチの爆心地から引っこ抜いた。

 

 

「――あわわわ……っ! あ、あれっ?」

 

「お前は何をやっているんだ」

 

「あ――弥堂くんっ! えへへ……ありがとう」

 

「…………」

 

 

 照れたように笑顔を浮かべる彼女をジッと視る。

 

 

 結構な質量に殴られ続けていたはずだが、やはりダメージと謂えるほどのものは何もないようだ。

 

 見定めるような眼で逆さ吊りにした水無瀬を見下ろしていると、彼女の股にネコ妖精がヘバりついた。

 

 

「テメーこのスケベやろうっ! 隙あらばパンツを見ようとするんじゃねえッスよ!」

 

「…………」

 

 

 戦場において真剣味の欠片もないようなことばかりを言う役立たずのお助けキャラを無視して油断なく大型のゴミクズーへ眼を向ける。

 

 

「ハッ――逃がすかよ! やれっ! ギロチン=リリィッ!」

 

「キィィィーーーーーっ!」

 

 

 ボラフの命令に従い咆哮をあげた花のゴミクズーは蔦を振り上げる。

 

 

(ギロチン=リリィ……?)

 

 

 昨日、ネズミの化け物のことは『ゴミクズー』と呼んでいたボラフが発した呼び名のようなものに眉を顰めるが、考えを巡らせる間もなく上空から蔦が鞭のように振り下ろされる。

 

 

「――っ!」

 

 

 その軌道をよく視て水無瀬の足を雑に掴んだまま最小限の動きで躱す。

 

 

 しかし、敵の攻撃はその一撃で終わることはなく複数の蔦が次々とこちらへ伸びてくる。

 

 

「わっ、わっ、わ……っ⁉ す、すごい……! 弥堂くんすごいっ!」

 

 

 能天気な水無瀬の声を聞き流しつつ、最低限のステップを踏み足の捻りで身体の向きを連続で変えながら、突き出されてくる全ての攻撃を躱していく。

 

 

「……昨日も思ったが、テメェなんなんだ? 見る限り魔法を使ってるわけでもなければ、別に魔力があるわけでもねえ。どうして対応できる?」

 

「どうしてなどと言われるほどのものでもない。相手の攻撃が来ない場所に攻撃が来る前に移動しておくだけのことだろ」

 

 

 不審な目を向けてくるボラフに何でもないことのように答える。

 

 

「そうかよっ! なら、これならどうだ⁉ ギロチン=リリィ!」

 

 

 ボラフが叫ぶと同時、花茎から伸びる蔦の数が増える。

 

 

(花の形から見るに元は百合の花だったようだが、これではもはや原型などあったものではないな)

 

 

 うねりながらこちらへ狙いをつけるそれらを無感情に視ながら備える。

 

 そうは間を置かずに数多の蔦が一斉に向かってきた。

 

 

 視界に入るだけの全ての蔦の軌道を俯瞰しながら先程と同じように捌いていく。

 

 

「――っ!」

 

 

 しかし、今回は数が多すぎる。

 

 

 幾本かの蔦は回避できたがすぐに逃げ道を塞がれてしまった。

 

 

 巨大な葉の掌が逃げ場のない弥堂に影を落とす。そしてそれは間髪入れずに振り下ろされた。

 

 

 

 迫りくるその葉をよく視ながら弥堂は適切な対処をする為に右腕を動かす。

 

 そして――

 

 

「――あいたぁーーっ⁉」

 

 

 敵の攻撃を手に持ったものでしっかりとガードした。

 

 

 シンと、一瞬場が静まる。

 

 

 誰もが唖然とする中で、やや躊躇いがちに動いた数本の蔦が追撃をしかけてくる。

 

 

「いたいっ、いたいっ、いたぁーいっ! やめてぇーっ!」

 

 

 ペチ、ペチ、ペチと襲い来る連撃を弥堂は適格に全て受け止めていく。

 

 右手に持った水無瀬で。

 

 

「テっ、テテテテテメェーッ! 何してやがんスかこのヤローッ⁉」

 

 

 ガバっと右腕に取りついてきたメロが猛烈な抗議をしてくる。

 

 

「ガードしてるだけだが?」

 

「だけだが? じゃねーんッスよ! このバカやろー!」

 

「あぅぅぅ……痛くないけど痛いよぅ……」

 

「ダメージを負わないんだろ? 何の問題がある」

 

 

 涙目でプルプルと怯える愛苗ちゃんの姿を見ても何一つとして憚ることなく堂々とした態度を崩さない男に人外たちは戦慄した。

 

 

 オロオロとした表情を浮かべたように花を向けてくるギロチン=リリィに攻撃停止命令を出すと、ボラフも弥堂を責め立てる。

 

 

「オイコラァッ! このクソニンゲンっ! イカレてんのかこの野郎っ! 威勢よく啖呵切ったくせに女の子の陰に隠れたと思ったら終いには物理的に盾にするだとぉ! テメェにはプライドとかねえのかよ⁉」

 

「意味がわからんな。勝つ為に最善の手を選ぶ。その手段は問わない。出来る限り効率のいいものが望ましい。それはつまり全力を尽くすということだ。強いて言うのなら、それが俺のプライドだ」

 

「クソッ……! 頭おかしいぜ、この野郎っ! オイ、ギロチン=リリィ! コイツだけを狙え! カワイソウだからフィオーレには当てるなよ!」

 

「キッ、キィィーーッ!」

 

 

 無茶ぶりをされたギロチン=リリィが戸惑いつつも一本の蔦を突き出すと弥堂はその射線上に水無瀬を置く。すると、ビクっと蔦を震わせ攻撃を中断した。

 

 改めてソローっと遠慮がちに伸ばしてくる蔦を弥堂は難なく躱しながら距離を空けていく。

 

 

「わぁー。弥堂くんすごいっ! なんでそんなに上手なの? 体育が得意だから?」

 

「そんなわけ…………いや、そうだ。体育が得意だからだ」

 

「そうなんだ。私も体育の授業頑張ったら避けれるようになるかな?」

 

「…………そうだな」

 

 

 戦闘中に脱力をするような質問をされ反射的に彼女の言うことを否定しようとした弥堂だったが、まともに相手をしていると気が散るため適当に肯定してやった。

 

 やがて一定の距離まで下がると弥堂は動きを止め、手に持った水無瀬を地に立たせてやる。

 

 

「助けてくれてありがとう」

 

「礼はいいからさっさと攻撃をしろ」

 

「うん!」

 

 

 元気いっぱいにお返事をした愛苗ちゃんは再び「むむむ……」と念じるとふよふよと浮かび上がり、不安定な動作で前に進もうとする。

 

 弥堂はその彼女の襟首を掴んで引っ張った。

 

 

「待て」

 

「きゅぴ――っ⁉」

 

 

 突然首が締まり驚いた水無瀬は目を白黒させ飛行の魔法を解いてしまう。

 

 

「お前、何するつもりだ」

 

「え? 攻撃……? しよっかなぁって……」

 

「何故いちいち苦手な飛行をして近づこうとする?」

 

「えっとね、私の魔法なかなか当たらないじゃない? だから近くに行った方が当たりやすいかなって……」

 

「…………」

 

「チッチッチッ、わかってねえッスね。少年は」

 

「……なにがだ?」

 

 

 呆れから言葉を失くしていると腕にへばりついているネコ妖精にマウントをとられる。

 

 

「これがマナの基本戦術なんスよ」

 

「戦術……だと……?」

 

「うむッス! 攻撃は当たらない。攻撃を避けられない。飛ぶのも苦手。特に戦いながらは無理ッス。だから最初に敵が届かないところまで飛んでから当たるまで魔法を撃つんス! 必勝法っス!」

 

「昨日も今日も、飛ぼうとしている間に捕まって攻撃されてなかったか?」

 

「うむッス! そこは自慢の装甲で耐えるんス! クソデカ魔力で防御魔法カッチカチッス! 魔力にモノいわせてオニ防御ゴリ押しッス!」

 

「……装甲を貫いてくる敵に出会ったらどうするんだ?」

 

「そん時はアレッスよ、気合で魔力増やすんスよ……なぁ、マナ?」

 

「うん! その時は一生懸命がんばってもっといっぱい出せるようにするね!」

 

「いや、攻撃を当てたり避けたりする工夫をしろよ。なんでお前らそんなに馬鹿なんだ」

 

 

 具体的な展望など何一つ見えてこない、彼女達の唱える『戦術:がんばる』に弥堂は激しく苛立った。

 

 

 勝つ為にはそれに値するだけの理由が必要だ。

 

 単純な力関係や行動の論理(ロジック)だけでなく、相性というものもある。

 

 例え実力で上回っていたとしても敵との相性によってはそれをひっくり返されるという事例は間々ある。

 

 

 それらを踏まえた上で勝率を安定させる為には知識や情報が重要となる。

 

 そういったものを全く取り入れている様子のないポンコツコンビを弥堂は侮蔑の視線で見下した。

 

 

「相手の武器をよく見ろ。これ見よがしに出しているだろう」

 

「武器……?」

 

 

 復唱しながら水無瀬はギロチン=リリィの方へまんまるお目めを向ける。

 

 

 アスファルトを突き破って地下から伸びた花茎が身体で、その頂点からぶら下がる花が頭部のように見える。主軸となる花茎から枝分かれした茎には葉がついており、最初に遭遇した時よりも数を増やしたそれらが蔦のように蠢いている。

 

 

 その姿をよく観察した水無瀬は「うんうん」と頷いてから弥堂の方へ顔を戻す。

 

 

「うねうねしてる!」

 

「……そうだな。いいか? あれは触手だ」

 

「しょくしゅ……」

 

「そんなことも知らんのか? あれはお前のような魔法少女の天敵だ。あの触手がある限りお前は絶対にヤツには勝てん」

 

「えぇっ⁉ そ、そうなの⁉」

 

「そうだ。特に接近戦は以ての外だ。全身の穴という穴を貫かれて拷問にかけられるぞ。数々の文献にそう記されている」

 

「そ、そうだったんだ……知らなかった……」

 

 

 弥堂は上司である廻夜から渡され読破を命じられた1冊20P前後の薄い冊子となっている数多の文献を思い出しながら水無瀬に説明してやった。

 

 

「オイ、オマエそれエロど――」

「――で、でもっ! ギロチン=リリィさんはお花だし、触手じゃなくって蔦なんじゃないかな?」

 

「お前にはあれがまともな植物に見えるのか?」

 

「え? えーと、そう言われてみると……最初はユリのお花なのかなって思ったけど……ユリに蔦はなかったと思うし、葉っぱもああいう付き方はしないし……なんか変だね」

 

「そうだろう。こういった場合、ああしてウネウネしていればそれは大体触手だ。そして触手には魔法少女は勝てない。もう少しでお前は全身の水分を撒き散らしつつ無様に舌を突き出しながら白目を剥いて失神するところだったんだ。少しは危機感を持て」

 

「う、うん……、ゴメンね……」

 

「お前もその歳で卵を産みたくはないだろう?」

 

「卵……?」

 

「触手に刺されると卵を植え付けられるんだ」

 

「えっ⁉ お花なのに⁉」

 

「あぁ。触手とはそういうものなんだ」

 

「そ、そうだったんだ……」

 

 

 もう少しで自分が母親になる可能性があったという事実に触れ水無瀬は茫然とする。

 

 

「いや、だからそれエロほ――」

「――でもでもっ! だからって放ってはおけないし……私どうしたら……っ!」

 

「そうだな。だから勝つ為には工夫が必要になる」

 

「くふう……?」

 

「あぁ。こっちに来い」

 

 

 水無瀬を引き寄せて両肩に手を置き、立ち位置を固定させる。

 

 ネコ妖精が何かを言おうとしていたようだが、どうせクソの役にも立たない戯言だろうと決めつけ黙殺した。

 

 

「ここから撃て」

 

「うんっ。じゃあ飛ぶね」

 

「飛ぶな」

 

 

 グッと彼女の肩を抑えつける。

 

 

「ただでさえ飛ぶのが下手くそなんだから余計なリソースを使うな」

 

「え……、でも高いとこまで飛ばないと――」

 

「――キィィィィーーーッ!」

 

 

 言い終わる前にギロチン=リリィが咆哮を上げ触手を放つ。

 

 

「わっ……⁉ わっ……⁉ わわわ……っ⁉」

 

 

 迫りくる触手に慌てふためく水無瀬の肩に置いた手で彼女を引き寄せ半歩ほど下がらせる。

 

 

「たっ、たまご――っ⁉」

 

 

 ギュッと瞑った彼女の目の前10cmほど手前でピタっと触手は止まる。

 

 あと僅かの距離を縮めようと触手はグニングニンと藻掻くように蠢き、やがて諦めたのか元の場所へシュルシュルと戻っていく。

 

 

「たまご……?」

 

「産まなくていい」

 

 

 コテンと首を傾げながらこちらを見上げてくる水無瀬に一応そう言ってやった。

 

 

「どうせ敵の攻撃が届かないのなら別に飛ぶ必要はないだろ」

 

「えっと……それって……?」

 

「ここが奴の射程限界だ」

 

 

 言いながら弥堂は地面から生えているギロチン=リリィの根元に眼を向ける。

 

 先程攻撃を躱していた時に目算で感覚と経験から敵の射程範囲に見当を付けていた。移動手段がないのならば、現在地は安全地帯ということになる。

 

 

「おぉっ! 少年スゲーな! なんか達人っぽいッス!」

 

「達人ではない。プロフェッショナルではあるがな」

 

「それ何が違うんスか?」

 

「どうでもいい。そんなことより水無瀬。ここから魔法は届くか?」

 

「うん……、多分だいじょうぶっ!」

 

 

 彼女達からはあまり得られない望んだ答えが返って来て弥堂は満足げに頷いた。

 

 

「よし。では撃て。殺せ」

 

「え……? でもでもっ……!」

 

 

 しかしすぐに眉を顰めることになる。

 

 どうも水無瀬には弥堂が提案した戦闘プランになにやら異論がある様子だ。

 

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