俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

153 / 177
1章24 微睡む破壊の種 ➀

 シャラリと指に絡めたチェーンが啼く。

 

 

 手からぶら下がる鎖の先端に吊るされたのは逆十字に磔られた罪過の結晶。

 

 

 赤黒く(こご)り固まったティアドロップをゆっくりと左右に揺らす。

 

 

 身体の前へ手を伸ばしよく見えるように掲げる。

 

 

 

 水無瀬 愛苗(みなせ まな)の目の前で――

 

 

 

 コテンと首を傾げ、眼前で揺らされるペンダントトップを地面にペタンとお尻をつけたまま不思議そうに見てから、水無瀬は自身の前に立つ弥堂 優輝(びとう ゆうき)の顏を見上げた。

 

 

「なぁに? 弥堂くん」

 

「俺のことは見なくていい。黙ってこれを見てろ」

 

「これ? 見るの?」

 

 

 突然の奇行に一切の説明がなされなくとも、よいこの愛苗ちゃんは言われたとおりに目の前で左右に揺らされる異端の象徴である背信の逆十字をジッと見た。

 

 

 お行儀よく揃えた膝の上に手を置いて見ているうちに段々とペンダントの動きに釣られて目線がそれを追いかけるようになる。

 

 

「みぎー……ひだりー……みぎー……ひだりー……」

 

「よしいいぞ。呼吸も合わせろ」

 

「すぅー、ぱぁー、すぅー、ぱぁー……」

 

「オイッ! オイッ……! オマエぇっ!」

 

 

 水無瀬の顏の前でペンダントをプランプランさせながら指示を与えていると魔法少女のお助けマスコットであるネコ妖精のメロが声を荒げてくる。

 

 

「……なんだ?」

 

「なんだじゃねえッスよ! オマエまた脈絡もなくワケわかんねえこと始めやがって! これはなんのつもりッスか⁉」

 

「勝つ為の作戦だ。他に何がある?」

 

「さ、さくせん……?」

 

 

 ぶっきらぼうに答える弥堂の言葉にメロは困惑の色を強める。

 

 

「よし。いいか水無瀬。俺がこの指をパチンと鳴らしたらお前は俺の指示に従うことになる。疑問は一切感じない」

 

「したがう…………かんじない…………」

 

「そうだ。お前はただ指示に従い魔法を放つだけの装置となる」

 

「まほう……そうち……、すーぱー……?」

 

「そうだ。キミはスーパーだ」

 

「すぅー、ぱぁー、すぅー、ぱぁー……」

 

「なんスか、これ? まさか催眠術のつもりッスか? こんなチャチなもんに掛かるヤツいるわけ――」

 

「――3……2……1……」

 

 

 鼻で哂うように嘲るメロの言葉を無視して弥堂はカウントを開始する。カウントをした方がそれっぽいと思ったからだ。

 

 カウント0で指をパチンと鳴らすと、水無瀬の身体から力が抜けカクンと首が僅かに落ちる。スッと瞳からは光が消え視線の置き所が定まらなくなった。

 

 

「…………マナ……?」

 

 

 あまりに不審な水無瀬の様子にメロは急激に不安感が膨れ上がる。

 

 

「よし、復唱しろ。私は殺戮兵器です。希咲 七海ではありません」

 

「……わたしはさつりくななみちゃんではありません」

 

「ナニコレェーーーッス⁉」

 

 

 どこからどう見ても挙動がおかしい自身のパートナーの姿に、お助けマスコットはびっくり仰天した。

 

 

 そんなメロを他所に、弥堂は水無瀬へ不審気な眼を向ける。

 

 今回も完全に想定していた通りの反応をしているわけではないので、水無瀬から思ったような手応えが感じられなかったことに僅かながら不満を感じたからだ。

 

 

「……まぁ、いい。武器を構えろ。殺せ」

 

「オマエ……っ! マナに一体なにを――」

 

「かまえる……、ころします……」

 

「――キャアァァーーッ⁉」

 

 

 強い焦りを感じたメロは弥堂を止めようと喰ってかかろうとしたが、水無瀬の魔法ステッキから出現した光球のあまりに破壊的な魔力量に驚き、人間の女のように金切り声をあげる。

 

 

「ちょっ、待て……っ⁉ それはシャレに――」

 

 

 開いた掌を向けて制止を呼び掛けてきたボラフの声は無視され、水無瀬は無言で魔法を放った。

 

 

 先程よりもさらに大きさを増した光球は真っ直ぐに飛ぶ。

 

 

 しかし本体からは僅かに狙いを外し、ギロチン=リリィが慌てて触手を引っ込めると未だに燃え盛っていた背後の駐車場へと逸れていった。

 

 

 アスファルトを派手に抉りながら直進した魔法は炎も車もまとめて消し去り、魔法が消え去った後には破壊跡だけが残された。

 

 

「こ、これはちょっと笑えねえぜ……」

 

 

 完全に巫山戯る余裕を失ったボラフの真っ黒球体の横顔に冷たい汗が流れる。

 

 その様子を視て目を細めた弥堂はすぐに水無瀬に意識を戻した。

 

 

「余計な思考を取り除けばとりあえず真っ直ぐは飛ぶんだな」

 

「まっすぐ……」

 

「もう一回だ、水無瀬。魔法を出せ」

 

「まほう……、だします……」

 

 

 再びゴミクズーへ向けるステッキに先に大きなピンク色の光球が生まれる。

 

 

「もっと深く集中しろ。コツは教えてやる」

 

「もっと……、ふかく……」

 

「余計なものを全て意識から消せ。この『世界』に存在するのはお前と敵だけだ」

 

「せかい……、わたしと……てき……」

 

 

 視線の定まらなかった水無瀬の光のない瞳がギロチン=リリィを写す。

 

 

「敵は的だ。相手だと意識するな」

 

「てきは、てき……、あいてじゃない……」

 

「そうだな。あの花びらを見ろ。一枚だけでいい」

 

「はなびら……、いちまい……」

 

「あれが的だ。それを飛ばして狙って当てるんじゃない。その球をただ的がある場所に移動させるだけだ」

 

「ねらわない……、うごくだけ……」

 

「魔法はお前と的とを繋ぐ為だけのただの道具だ」

 

「わたしと……つなぐ……」

 

「息をするように簡単ことだ」

 

「いきを……する……」

 

「『世界』がお前にそれを許可している」

 

「せかい……ゆるす……」

 

「ただ、息を吸って吐く。お前にとっての魔法とはただそれだけのものだ」

 

「すぅー、ぱぁー」

 

「そうだ。お前はスーパーだ。何故なら『世界』がお前にその『加護(ライセンス)』を能えている」

 

「わたしは……、すーぱー……」

 

 

 魔法の光球がさらに大きさを増す。そしてそれ以上に内包される魔力が増し凝縮されその存在の強度が跳ね上がる。

 

 ボラフとギロチン=リリィの緊張が空間を通して伝わってきた。

 

 

「殺れ」

 

「やる」

 

 

 溜めもなくあっさりと射出された破壊の種は一直線にギロチン=リリィの頭部である花へと向かった。

 

 

 見て感じ取れるほどの滅びの気配。だが、速度はそれほどでもない。

 

 

 数本の触手を振り上げギロチン=リリィは迎撃した。

 

 

「キィィィィィーッ!」

 

 

 しかし触手は光球に触れた箇所からまるで蒸発するように焼き切れる。

 

 僅かな障害ともせずに進んだ光球はギロチン=リリィの花弁の一枚を消し飛ばし、そのまま真っ直ぐ突き抜け背後のショッピングモールの建物を抉り取りながら彼方へと消えていった。

 

 

「…………っ」

 

 

 消し飛ばされた花弁の隣に乗っていたボラフは一連の破壊の跡を茫然と見つめていた。

 

 揶揄し挑発をしようなどという発想は起きない。

 

 これは充分に自身を滅ぼすに足る魔法だと認識をさせられた。

 

 

 

「ふむ……、まぁいいだろう」

 

 

 攻撃の効果を認め、弥堂は一定の満足感を得た。

 

 

「次だ」

 

「つぎ……」

 

 

 命じられるままに次弾を生成する。

 

 

「マナ……? なんで……?」

 

 

 信じられないといった目で、メロは自身のパートナーを茫然と見上げる。

 

 訊きたいことや確認したいことは幾つもあるはずなのに続く言葉を紡げない。

 

 

 奇しくもその続きは敵であるボラフが継いだ。

 

 

「テメェッ! ニンゲン……ッ! コゾウッ! 一体何をしやがったぁっ⁉」

 

 

 余裕の一切を消し飛ばされた様子の悪の幹部を弥堂は無感情に視る。

 

 

「別に。ただのチャチな催眠だ。掛かる方がどうかしている、な」

 

 

 返ってきたその平坦な声にボラフの焦燥は加速する。

 

 

「催眠……? まさか――っ⁉ トランス状態に入ってんのか⁉」

 

 

 弥堂はもう的には構わず再び水無瀬に命じる。

 

 

「水無瀬。威力は過剰だ。少し削ってもいいから数を増やせ」

 

「かじょう……、かず、ふやす……」

 

 

 ステッキの先に浮かんでいた光球のサイズが半分ほどになり、代わりにその周りに数個の同じ光球が一つずつ生成されていく。

 

 

「――バカヤロウッ! そんな使い方すんな! 吸わせ過ぎちまうぞ! やめさせろっ!」

 

「マナッ……! ダメだっ! それ以上はダメッス……!」

 

 

 水無瀬の前で尚も増殖し陣を構えていく魔法弾の軍勢を見て顔色を変えたボラフが制止を呼びかけ、何故かメロも同じように焦燥していた。

 

 

 弥堂はそれを目を細め横目で見遣るがそれも一瞬――

 

 

「――やれ」

 

 

 躊躇なく引き金を引いた。

 

 

 

 破壊の弾幕が結界内の世界を蹂躙する。

 

 

 的へ向けて飛ぶものもあれば、関係のない場所へただ真っ直ぐ飛んでいく光球もある。

 

 水無瀬の背後で彼女の肩に手を置いて立つ弥堂はその様子をジッと観察してから、彼女の旋毛を見下ろした。

 

 

(魔法を創り出した段階でどういった挙動をするかという命令が完了しているわけではなく、一つ一つ全てを操作しているのか……、なるほどな)

 

 

 的であるギロチン=リリィへ向かうもの、狙い先を決められずにただ飛んでいくだけのもの、その比率は半々といったところだろうか。

 

 こうしている間にも水無瀬の構える魔法のステッキの先に複数個の光球が生み出されては放たれていく。

 

 初弾を撃たせた時は予め十数個の魔法を用意させてから撃たせたが、連続で放つ場合は一度に生成できる魔法の数が5~6個ほどのようで、そしてその中で制御が行き届いているのは半数程度のようだ。

 

 

「キィィィッ!」

 

 

 ギロチン=リリィが懸命に身を護りながら苦悶の叫びをあげる。

 

 

 自身に向かってくるものを触手で叩き落そうとはしているが、それは魔法の光球に接触する端から焼き切られていく。失った触手はまた新たに生やすことで補っているが次々と生成され放たれる水無瀬の魔法の前ではジリ貧のように視える。

 

 今も新たに増やしたばかりの触手が千切られ白濁混じりの緑色の体液を撒き散らした。

 

 

「クソッタレがぁ……っ!」

 

 

 ギロチン=リリィが対応しきれないものに関しては悪の幹部であるボラフが対処する。

 

 触手を擦り抜けたもの、触手を破壊し貫通してきたもの、或いはたまたま当たるように飛んできた流れ弾を鎌のような形に変形させた腕で切り裂いている。

 

 

 酷く焦ってはいるようだが、ギロチン=リリィとは違って、水無瀬の魔法に触れたからと言ってボラフにはダメージを負った様子はない。

 

 それはつまり、ユニークでレアな名前持ちのゴミクズーであるギロチン=リリィよりも、悪の幹部を名乗るボラフの方が存在の格が上ということになる。

 

 

(魔法とはそこまで都合のいいものでもないんだな)

 

 

 戦場の様子を観察しながらそのように評価をする。

 

 

 確実に敵を滅ぼせるだけの威力を持ち、必ず敵に命中する。

 

 そのような効果を願って魔法を創り出せるわけではないらしい。

 

 

 威力に関しては申し分なさそうだが、命中させることに関しては術者の力量に依存するようだ。

 

 

(それなら――)

 

「――水無瀬。的を一つずつ認識して一つずつ軌道を描こうとするな。全体を見ろ。一つの絵として認識してその中の何処と何処と何処に魔法を動かすのかを決めろ」

 

「ぜんぶ……、みる……、ひとつの、え……、まほうでえがく……」

 

 

 彼女の中で魔法の行使にどのような改善を行ったのかは弥堂にはわからないが、彼女の制御下に置かれ的へ飛ぶ魔法の割合が増えた。しかし、やはり全てがそうなるわけではない。

 

 

 術者の力量が高ければリアルタイムで細かく操作できる彼女の魔法は頗る強力なのだろう。

 

 しかし、今は催眠に掛けて余計なことに思考のリソースを使わせずに魔法の行使だけをさせているからここまで出来ていると考えるべきだろう。

 

 普段の水無瀬 愛苗を考えればどう見てもマルチタスクが得意なタイプではない。

 

 

(これなら力技でゴリ押した方が効率がいいか)

 

 

 弥堂はそう考え、他にも色々と試してみることにする。

 

 

「回転を上げろ。もっと速く創り出して速く撃て。全ての工程を効率化しろ。攻撃することに躊躇いなど感じないほどに習慣化しろ」

 

「はやく……、こうりつ……、しゅうかん……」

 

 

 魔法が生成されてから射出されるまでの速度がほんの僅かに上がる。

 

 

 弥堂は水無瀬の肩に左手を置いたまま、右手で彼女の背中に触れる。

 

 心臓の位置の真裏に掌を当て彼女の耳元へ唇を寄せた。

 

 

「オイッ! これ以上はもうやめろっ! メロゥッ! なにしてる……っ! そいつを止めろっ!」

 

 

 自身の身を護りながら弥堂と水無瀬の様子を見て、ボラフが声を荒げる。

 

 

 だが、呼びかけられたメロは地面に伏せ身を縮めるだけで何も動こうとはしなかった。

 

 

 そうしている間に弥堂が水無瀬に何かを囁く。

 

 

 すると、魔法の弾幕の回転速度が目に見えて加速する。

 

 

「キィィィーッ⁉」

 

 

 絶え間なく戦場へ供給される破滅の因子が次々にギロチン=リリィの身体を――存在を削り取っていき、遂には触手の再生する速度を凌駕した。

 

 

「ギ、ギロチン=リリィ……ッ! くそっ! あのガキふざけやが――うっ、うおぉぉぉぉーっ⁉」

 

 

 魔法の迎撃に回す触手が不足したために花や花茎に光球が殺到し、乗っていた花弁がボロボロにされボラフはゴミクズーの上から落下した。

 

 

 もはや碌に抵抗の出来ない彼らへも次弾は無慈悲に迫りくる。

 

 

「キィィィーッ!」

 

 

 ギロチン=リリィが叫びをあげると二本の蔦の触手から生える葉が巨大化する。

 

 その肥大した葉を盾を構えるように自身とボラフの前に突き立てた。

 

 

「ギ、ギロチン=リリィ……、オマエ……っ⁉」

 

「キィィィィっ!」

 

 

 続いて触手を一本伸ばすと焼け残った車を掴んで持ち上げる。

 

 さらにもう一本の触手で地面を強く打ち付けコンクリを砕く。

 

 

 砕けたコンクリの破片のいくつかが宙に浮かぶ。

 

 

「くるぞ。破片の一つ一つに注目するなよ。全体を視界に収めたまま自分に向かってくる物だけを撃ち落とせ」

 

 

 気負った様子もなく無感情に告げられた弥堂の言葉通り、ギロチン=リリィは触手を大きく振り回し、弥堂と水無瀬目掛けてコンクリの弾丸を弾き飛ばした。

 

 

「ぜんたい……、くるもの……、うつ……」

 

 

 魔法少女とゴミクズーとの間で撃ちあいが勃発する。

 

 

 しかし優勢なのは水無瀬だ。

 

 コンクリートの破片は次々と撃ち砕かれていく。

 

 ギロチン=リリィは苦し気な声をあげもう一度地面を撃ちさらにコンクリを飛ばしてくる。

 

 

「次は自動車がくるぞ。あれが本命だ。視界に入れておいていつでも意識していろ。余裕があるならそっちの迎撃用の魔法を用意しておけ」

 

「げいげき……、いしき……、ようい……」

 

 

 ゴミクズーの本体とコンクリの破片に撃ち込むものとは別に水無瀬の前に魔法の光球が生み出されてストックされていく。

 

 

「キィィィィィーっ!」

 

 

 やがてギロチン=リリィは一際大きく咆哮すると、弥堂の言った通りに触手で掴んでいた自動車を投げつけてきた。

 

 

「確実に墜とせ。だがまだ隠し玉がある可能性があるから本体からも意識を外すなよ」

 

「おとす……」

 

 

 用意していた魔法を全て自動車の迎撃に回す。

 

 

 一直線に飛んでくる自動車はこちらへ半分も到達することなく蜂の巣になり、空中で大爆発した。

 

 

「手を緩めるな。ガードの上から本体を撃って抑えつけろ」

 

「ゆるめない……」

 

 

 爆風に前髪を揺らされても瞬きもせず弥堂は敵をよく視て指示を出す。

 

 水無瀬もまた表情を動かさぬまま、その指示を魔法で叶える。

 

 

「キィィィ……っ!」

 

「ク、クソ……、このままじゃあ……っ!」

 

 

 巨大な葉で魔法を防ぐがその盾は易々と削られていく。穴を空け貫通した光球が本体の花茎を傷つける。

 

 完全に一方的な滅多打ちになり、状勢はこのまま決しようとしていた。

 

 

 

「まだるっこしいな」

 

 

 

 しかし、弥堂 優輝は手を緩めない。

 

 

「おい。もっとたくさん魔法を出せないのか? あのデカイのをチマチマ削っていっても終わらんぞ」

 

「もっと……、たくさん……、まりょく……」

 

 

 水無瀬の放つ魔法の数が増え弾幕の圧力が強まる。

 

 

「も、もうやめてくれッス……っ! こんな魔法の使い方したらマナが……っ!」

 

 

 ここにきてようやくメロが二人を止めようと悲痛な叫びをあげた。

 

 

「めんどくせえな。この魔法はいちいち杖の先に出さないと使えないのか? ヤツらの体内に直接出して殺すとか出来ないのか? やれよ」

 

「やつら……、ちょくせつ…………、むり……」

 

「少年ッ! やめろって言って――」

 

「――無理じゃねえんだよ。無理は背信者の言葉だ。神をナメるな。オラ、出せっ」

 

 

 適当に詰る言葉を吐くと弥堂はペシッと水無瀬の後ろ頭を引っ叩いた。

 

 

 すると――

 

 

「オマエッ! マナに乱暴な……、こ……、と…………」

 

 

 自身のパートナーを雑に扱う男へ抗議の言葉をあげようとしたが、不意に周囲の明るさが増していることに気付き、その言葉は尻すぼみに消えていった。

 

 

 メロは茫然と空を見上げる。

 

 

「マ、マジかよ……」

 

 

 同様にボラフも頭上を見上げて放心していた。

 

 

 

 空には無数の小さな太陽。

 

 

 

 今まで目の前に一度生成してから撃ち出されていた魔法の光球が、ボラフとゴミクズーの頭上を埋め尽くす程の数で、上空に直接展開されていた。

 

 

「なんだ。出来るのか。やはり無理は嘘つきの言葉じゃねえか」

 

 

 上空の魔法の群れを無感情に視ながらもう一度ペシッと水無瀬の頭を叩くと、その数がさらに大幅に増した。

 

 

「…………」

 

 

 弥堂はそれをジッと見る。

 

 若干引いたのだ。

 

 

「……まぁ、いいか。多い分には問題ないだろう。後は簡単だ。わかるな?」

 

「かんたん……、わかる……」

 

「殺せ」

 

「ころす……」

 

 

 対応の準備も心の準備もさせる間もなく命を下し、そして実行された。

 

 

 死の雨が大地に降り注ぐ。

 

 

「冗談キツイぜぇ……っ⁉」

 

 

 粟を食ったボラフは身を投げ出す。

 

 

「キィィィーっ⁉」

 

 

 逃げることの出来ないギロチン=リリィは大絶叫をあげて葉の盾を頭上へと向けた。

 

 しかし滅びを齎す豪雨を防ぐ傘には為り得ず、葉に花に茎に風穴が空いていきその存在が削り取られていく。

 

 

 弥堂はその様子を目を細めて視る。

 

 

(念のため完全に消滅させたいが……、如何せんデカすぎるな)

 

 

 自身の前に立ち杖を掲げる水無瀬に眼を遣る。

 

 

 かなりの魔法を放ったので魔力を消耗しているはずだが、彼女の存在の強度と大きさは先程よりも増しているように視える気がする。

 

 

「……お前、魔法はあの球しか出せないのか? あれやれよ」

 

「あれ……」

 

「あるだろ。あれだ、プリメロの。ビームみたいな必殺技だ。あれで一気に消し飛ばせ」

 

「ひっさつわざ……」

 

 

 弥堂も出来ると思って言ったわけではなくダメ元で言ってみただけだったのだが、やはり水無瀬の反応は思わしくない。

 

 先程のように頭を引っ叩いてみたらもしかしたら弾みで出るかもと手を振り上げようとすると――

 

 

「ぷりめろ……」

 

 

 ドクンと――

 

 

 その呟きとともに水無瀬の心臓が大きく一つはねたその音が弥堂にも聴こえたように錯覚した。

 

 

 反射的に弥堂は大きく背後に飛び退く。

 

 

 すると紙一重の差で、水無瀬の背後にピンク色の魔力光がハイロゥとなって顕現した。

 

 

「ぐっ……っ!」

 

 

 その威容に遠くへ押し退けられるような圧力を感じる。

 

 

「マナァ……ッ!」

 

 

 地面にしがみつくように身を伏せるメロの声は水無瀬には届かない。

 

 

 周囲からなにかを吸い取るように魔法ステッキの先に魔力が収束していく。

 

 今までに放った【光の種(セミナーレ)】のどれよりも強く大きな光の球体が形成される。

 

 バチバチと放電するように弾ける光が地面に罅を入れる。

 

 

「ハ……、ハハッ…………、ふざけんなよ……」

 

 

 引き笑いの表情でボラフの口から力なく言葉が漏れる。

 

 

 水無瀬はその力を的へと向けた。

 

 

「ふろーらる・ばすたー……」

 

 

 魔法が開放される。

 

 

 直射状の巨大な光線がギロチン=リリィへと放たれた。

 

 

「キィィィーーーッ!」

 

 

 叫びをあげ力を振り絞って出せるだけの触手を生やし、葉の盾を何枚も重ねてギロチン=リリィは水無瀬の魔法を受け止めた。

 

 

 しかしその盾は何の抵抗にもなっていないかのように無理矢理押し込まれる。

 

 

「すぱーく・えんど……」

 

 

 その言葉とともに魔法の光が輝きを増し一気に弾けた。

 

 

 光の奔流がギロチン=リリィの巨体を飲み込んでいく。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。