俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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1章25 生命の伽藍堂 ③

 

「――魔法少女だ」

 

 

 人外の瞳に鋭い色が灯る。

 

 

 ヒトの姿をしたヒトでないモノの怜悧な視線を、地を這いながら弥堂は受け止める。

 

 

 その魂の在り方に、その精神性に大きな乖離がありながら、ヒトのカタチを模るモノこそがこの世で最も悍ましい。

 

 

(俺も他を謂えたものではないがな)

 

 

 心中で――牢獄の中で、自我という自分がそう皮肉げに独り言ちた。

 

 

「魔法少女がなんです?」

 

 

 微笑を貼り付けたアスと、無表情を貼り付けた弥堂の視線が交差する。

 

 

「そいつがどうして『そう』なっているのか、知りたいんだろ?」

 

「アナタがその答えを持っていると?」

 

「そういうことだ」

 

 

 アスの目が品定めをするようなものに変わる。

 

 

「……そういうことですか。確かにその件については立場上、私自身の探究よりも早急に追及することを優先せねばなりませんね。なるほど。ただ壊れているわけでも狂っているわけでもない。小賢しいですね」

 

「そいつは恐縮だ」

 

「……随分と手馴れていますね。これまでに我々のような者を相手取った経験が?」

 

「ないな。今日が初めてだ。あまりの驚きに竦み上がって立つことすら出来ないよ」

 

「痛みで立ち上がれないと言っていませんでしたか?」

 

「そうだったな。言い間違いだ。許せ」

 

「…………」

 

 

 無言で探るアスの背後から舌を打つ音が鳴った。

 

 

「言いたいことはわかりましたが、ですが変な話ですね。アナタが何故魔法少女のことを知っているのです?」

 

「何故もなにもそこに居るだろうが」

 

「そういう話ではありません。わかっているでしょう? 今日初めて魔法少女に出会ったアナタが我々が知らないような情報を知り得るはずがない。違いますか?」

 

「初めてならそうかもな。だが、俺が初めて魔法少女に会ったのは今日ではない」

 

「へぇ……、おかしいですね。ボラフさんの報告ではアナタは今日初めて、偶々巻き込まれたと聞いていたのですが……」

 

「い、いや……、それは……っ」

 

 

 悪戯げな視線で嬲るとボラフは口ごもる。

 

 

「さて、これは一体どういうことでしょうか」

 

「クッ……!」

 

 

 悔し気に呻きながらアスから死角になったタイミングを見計らい、ボラフは弥堂とのアイコンタクトを試みた。

 

 三日月型の瞼を動かしバチバチっとウィンクをする。

 

 

 弥堂はそれをチラっと見てから口を開く。

 

 

「そいつがお前に嘘を吐いている」

 

「エェーーーーーッ⁉」

 

 

 敵なのに散々庇ってやったにも関わらずあっさりと売られたボラフはびっくり仰天した。

 

 

「ほぉ。ボラフさんが嘘を?」

 

「ちょっ、バッ、オマッ……オマッ……っ!」

 

 

 元々ボラフの言い分を信じていなかったアスはただ胡乱な瞳を向けるだけに留めた。

 

 

「昨日もネズミのゴミクズーを殺した後に、そいつのケツに鉄筋をぶっ刺してやった」

 

「ゴミクズーのことまで……、というかボラフさん? アナタ、こんなただのニンゲンごときに負けて逃げ帰って来たのですか?」

 

「やっ、いや……っ! だってよぉ、ソイツ頭おかしいんだもんよぉ!」

 

 

 言い訳を並べ立てる部下には取り合わず、「嘆かわしい……」と溜息を吐いた。

 

 

「……まぁ、いいです。それで? アナタは何を知っていると?」

 

「あいつをあの状態にしたのは俺だ」

 

「アナタが?」

 

 

 またも探るような眼つきになる上司を他所に、今度は部下が「もうどうにでもなれ」と溜息を漏らした。

 

 

「あの状態にした、とはどういう意味です?」

 

「言葉通りの意味だ」

 

「……現在彼女の自我は深く奥底に沈んでいる状態です。あれをアナタが? たかがニンゲンが魔法少女に? どうやって?」

 

 

 アスの瞳孔の中心から紅い光が滲み出る。

 

 

(喰いついた)

 

 

 弥堂は表情には出さず、胸中で手応えを認めた。

 

 

「別に奇抜なタネなどない。ただの催眠術だ」

 

「は……? 催眠……?」

 

 

 不可解な答えにアスは一瞬目を丸くし、しかしそれはすぐに細められた。

 

 

「催眠だと……? どういうことです? 魔法……? オマエやはり……、しかしそれにしては……」

 

「魔法? なんのことだ?」

 

「惚けないでもらいたいですね。言うに事欠いて催眠魔法だと? アナタのどこにそんな魔力がある?」

 

「だから魔法でも魔術でもない。ただの技術だ」

 

「甘い顏をしているからと調子にのって……、いい加減に――」

 

「――あーー……っと、悪い。アス、様。ちょっといいか?」

 

「……なんですか?」

 

 

 平行線になりつつある弥堂との会話にアスが焦れ始めると、気が進まなそうな調子でボラフが口を挟んだ。

 

 

「信じらんねえかもしんねえけどよ、魔法じゃねえって。そいつの言ってることは本当だ。オレの目の前でやってたが魔法は使ってねえ」

 

「なら、どういうことです? そもそもの話、存在として格上である魔法少女に唯のニンゲンが精神操作を仕掛けて成功させるだなんてことがあるわけがないでしょう」

 

「あー、まぁ、そうな? そうなんだけどよ、催眠魔法だとか精神操作だとかそういう大層なモンじゃなくてだな? もっとチャチな話なんだよ」

 

「チャチ……? 一体どういう……」

 

「その、なんだ……? 昔よ、ニンゲンどものTVとかでよ、あっただろ? こう、穴の空いたコインに紐通してよ、それを目の前でこう……ブラーン、ブラーンって……」

 

「はい?」

 

 

 指で紐を摘まみ上げるような姿勢でコインを揺らすジェスチャーをしてみせるボラフに、アスは不可解そうに眉を寄せる。

 

 

「怒んねえでくれよ。ガチなんだよ。マジでこれで催眠にかかっちまったんだ」

 

「そんなバカな……、あんなまやかしで催眠にかかる者などいるはずが……」

 

 

 言いながらアスはボーっと棒立ちになっている水無瀬の顏を見る。

 

 ハイライトの消えた瞳は焦点が曖昧で、決して目が合わない。

 

 アスは頭を振ると苦々しく呟く。

 

 

「理解に苦しみます……」

 

「個体ごとの適正もあるが、継続的に施すことでより掛かりやすくもなるからな。言っていなかったが俺とあいつは同じ学校に通うクラスメイトだ。俺は常日頃からあいつに催眠を掛けてはいいように扱っている」

 

「……我々のような者が言うのもなんですが、アナタ。日常的にクラスメイトの女子に催眠を用いるなど常軌を逸していますよ。唾棄すべき行いです」

 

「最悪だよ……、こいつマジモンのクソヤローじゃねえか。どうかしてるぜ……」

 

 

 弥堂は人外のモノどもから人としてのモラルを説かれたが聞く耳はもたなかった。

 

 

「しかし、催眠ですか……。自意識を沈めて自我の境界を薄めればより馴染みやすくなる……? (たが)が外れれば魔力運動に対する無意識下での抵抗がなくなりよりスムーズにより活発に行われる。それによって周囲の魔素濃度が高まり副次効果として吸収量も高まる……。その結果として種が開いた……? クソッ……、理屈としては通っている……! 業腹ですね……」

 

 

 情報整理をしながら無意識にぶつぶつと漏れ出てくるアスの呟きを耳で拾う。

 

 

「納得のできる話になってしまうのが納得いきませんが、まぁ仕方ないでしょう」

 

「目の前にある事実以上に説得力のある理屈やデータなど存在しないからな」

 

「それは至言ですね。ですが、催眠によって齎される効果についてはそうですが、アナタが魔法少女を催眠状態に陥らせたという話は別です。催眠術だと? ふざけるな」

 

 

 アスの発する雰囲気が急に変わる。

 

 

「気が変わりました。アナタは始末します」

 

「オ、オイッ」

 

「黙りなさい。取引には応じましたが別に契約は交わしていません。咎められる筋合いはないですよ」

 

「そりゃぁ……、そうかもしんねえけどよ……」

 

 

 殺気立つアスを宥めようとしたボラフは一瞥で黙らされた。

 

 アスは弥堂を最期の審問にかける。

 

 

「それに。偶々巻き込まれたニンゲン。偶々二日も続けて。偶々魔法少女とは元々の知り合いで。そして偶々催眠が使えて魔法少女を意のままに操れて。そんな偶然があるはずがない。そうは思いませんか?」

 

「改めて他人の口から聞かされると返す言葉がないな」

 

「ペテンで存在の格の壁を越えられるわけがない。魔法少女を操れるニンゲンなど生かしてはおけません」

 

 

 右腕を振るうと手の延長線上に透明な光の刃が顕れる。

 

 

「俺が何者か確認しなくてもいいのか?」

 

「もうその段階にはありません。アナタが何者であろうとここで始末します」

 

「そうか。それは残念だ」

 

「いつまで余裕ぶっているつもりで? アナタは失敗したんですよ」

 

「そうかな。まだやれることはある」

 

「なにが出来ると言うんです」

 

「言ったろ? 目の前の事実こそが全てだと」

 

「へぇ? 私に催眠でも掛けてみるつもりですか?」

 

「それもいいな」

 

「減らず口を。命乞いでもしてみればどうです? 私に価値を示せれば生き残れるかもしれませんよ?」

 

「そうか。では、命乞いをしてみようか」

 

「なに?」

 

 

 訝し気に細められたアスの目が足元の弥堂を刺す。

 

 銀光煌めく実在があやふやな切っ先が揺れない弥堂の瞳に写る。

 

 弥堂は肺を膨らませる。

 

 

「助けてープリメロー」

 

 

 場に響く声量とは裏腹に壊滅的に棒読みなそのSOSが発信されると――

 

 

「せみなーれ……」

 

「――なっ⁉」

 

 

――無数の光球が展開され射出される。

 

 

 弥堂は反射的にそちらに顔を向けたアスの足首を掴み、回避・逃走の選択を狭める。

 

 

「チィッ!」

 

 

 アスの判断は速い。確率の高い方を選ぶ。

 

 右腕の刃を消して防御障壁を展開させた。

 

 まもなく水無瀬の魔法が障壁に着弾する。

 

 

「――アナタ……っ! どうやって……⁉」

 

「言っただろう。実践してやると」

 

「催眠……? いつの間に指示を……⁉」

 

「さぁ、どうだろうな」

 

 

 睨み合いながら言葉を応酬させていると――

 

 

「ふろーらるばすたー……」

 

 

――水無瀬の魔法ステッキに魔力光が集束する。

 

 

「「――なんだとっ⁉」」

 

 

 その破壊的な光の存在感に弥堂とアスは驚愕する。

 

 

 そんな指示を出した覚えはないので弥堂もびっくりしたのだ。

 

 アスの足から手を離す。

 

 

 集束した魔力が放たれる。

 

 光球の弾幕が尽きる前に障壁に魔法光線が直撃する。

 

 

「グ、ゥ……ッ⁉」

 

 

 アスはそれを両手で抑え込みにかかった。

 

 

「先程よりも全てが効率化されている……⁉ なんだこの成長速度は……っ⁉」

 

 

 魔法少女が起こした現象に対する驚きを口にするが、それでもアス自身を脅かすレベルには達していはいないようで、やがて水無瀬の魔法は防ぎ切られ消失する。

 

 

 弥堂は既に動き出している。

 

 

 ボラフに半ばより斬り落とされていたシャフトの鋭利な切っ先を喉元に突き付けた。

 

 

 

「全員動くな」

 

 

 

 斜めに切断された金属の断面が鈍く光る。

 

 

 その先端を近付ける。

 

 

 水無瀬の喉元に――

 

 

 

「動けばこいつを殺す」

 

 

 

 弥堂 優輝はクラスメイトの女の子の首筋に凶器を付きつけ、この場に居る全てのモノを脅迫した。

 

 水無瀬の背後に立ち油断なく鋭い眼つきでこの場にいる者たちを睥睨する。

 

 

「ナナナナナニやってんだテメェーーーーッ⁉」

 

 

 突然自分の味方であるはずの魔法少女を人質にとった狂った男に、悪の怪人は混乱した。

 

 

「……一体なんの真似ですか」

 

 

 一方でアスは呆れたように白けた目を弥堂へ向けた。

 

 

「というか、アナタいつの間に抜け出したんです」

 

 

 つい今まで爆心地にいたはずなのに、水無瀬の魔法光線が着弾するドサクサで離脱をする抜け目のなさまでは評価出来るが、その後の行動に関してはアスには不可解すぎて眼つきが胡乱なものになる。

 

 

「言ったとおりだ。こいつを殺されたくなければ下手な真似はしないことだな」

 

「私達はその子の敵ですよ? 人質として成立しないでしょう? せめてボラフさんを人質にとりなさいよ。もちろん見捨てますが」

 

「オイ……」

 

「本当にそうか?」

 

「なんですって?」

 

「困るだろう? こいつが死ねば」

 

「アナタ……」

 

 

 アスの顏から微笑が消える。

 

 

「水無瀬にとってお前らは敵かもしれんが、お前らにとってのこいつはどうかな?」

 

「……なるほど。なかなか賢い子ですね。ですが、どうやって殺すつもりです? 魔法少女の防御をそんな工業製品で抜けるとでも?」

 

「忘れたか? 俺はこいつを操れる。変身を解かせればいい。なんなら先に結界を解いて大勢の人間の前で変身を解除させてからこいつを殺してやろうか?」

 

「チィッ……、狂人め……」

 

「調子にのって喋り過ぎたな」

 

「そうでしょうか? 例えば、アナタたちニンゲンは家畜を育てますよね? 明日どの個体を出荷するかと同僚と会話をして、それを牛や豚に聞かれたからといって失敗をしたと考えますか?」

 

「…………」

 

 

 問いには答えずただ視る。

 

 

(家畜か。なるほどな)

 

 

 奴らにとっては人間がそれなのだろう。

 

 違う生き物であり、違う存在であるからこその発想であり感性だ。

 

 

「……お前らの目的はなんだ?」

 

「おっと、ここでようやくそれを訊くのですね。なるほど、ちゃんと考えられている。狂っているようでしっかりとロジックがある」

 

「お前の寸評など訊いていない」

 

「ですが、それは最終的に捻じ伏せられるだけの力があるか、最低でも拮抗していなければあまり効果的とは言えませんよ?」

 

「だがお前はそれを好まないだろう?」

 

「ククク……」

 

「…………」

 

 

 言葉を応酬する二人の間の空気が張り詰めたものになる。

 

 

 同じ場に立たされるメロとボラフは目には見えない重圧を感じた。

 

 

 アスだけならばともかく、存在として格下であるはずの人間の弥堂にも圧倒される。

 

 力ではなく遣り口で格上の存在と渡り合ってみせる弥堂に、言い知れぬ畏れを抱いた。

 

 

「答えろ」

 

「そうですね。どうせ理解できないでしょうから具体的に説明するつもりはありませんが、戯れに少しだけ答えてあげましょうか」

 

「…………」

 

「私達の目的は大枠では『世界』の環境を保全することです。その為にニンゲンに迷惑をかけています」

 

「環境とは自然のことか? そんなことを気にかけるようには見えんが」

 

「そんなことはありませんよ。我々には死活問題です」

 

「人間に迷惑をかけると何故環境が守られる?」

 

「それは説明するつもりはありませんが、正確に言うと結果的にニンゲンの迷惑になることが多いだけで、アナタたちを苦しめることそのものが環境の改善に繋がるわけではありません」

 

 

 水無瀬たちやボラフから聞いていたことと近い答えだ。

 

 ただの悪ふざけでそう言っている可能性もあると考えていたが、このアスの口から聞くとどうやら本気で言っているらしいし、より具体的な話であると、そう思える。

 

 

「なら何故魔法少女を生かしておく? こいつは邪魔な存在ではないのか?」

 

「そうですね……、説明はしないと言いましたが、そうしないことで逆に話すのが難しくなりますね……。まぁ、これに関しては別プロジェクトなので。最終的には同じ終着点に繋がるのですが、我々も一つのことだけをやっていればそれで済むほど暇ではないのですよ」

 

「言っている意味がわからんな」

 

「そうでしょうね。ですが、しっかり説明したとしても普通のニンゲンの範疇を超えた話になるのでどうせ理解できませんし諦めた方がいいですよ? 簡単に言うなら少子化対策、と言ったところでしょうか」

 

「少子化……だと……?」

 

 

 弥堂の眼つきが鋭いものになる。

 

 

 少子化。

 

 

 昨今この国で嫌でも耳にする言葉だ。

 

 あまり世情に関心が高いわけでもない弥堂であっても日常生活の中で多少の知識や事情はインプットされている。

 

 

 しかし、それらの知識と実際彼らがやっていることに近似性を見いだせない。

 

 

 それに、彼らの言う少子化問題とは彼らの種族の話なのだろうか。

 

 

(おそらく、違う……)

 

 

 チラっとボラフを視る。

 

 

 彼らが人間ではないのは間違いないが、だが、かといってこのボラフやアスが生物的な意味での同じ種だとは思えない。そうは視えない。

 

 弥堂の考えではこいつらはそうやって増えるものではないと考えている。

 

 

 であるならば、ここで言う少子化問題とは人間の話をしていると弥堂は踏んだ。

 

 家畜と言った。

 

 もしも奴らにとって人間が家畜なのだとしたら。

 

 人間が家畜として一部の動物を繁殖させているように、奴らも人間を繁殖させようとしているとも考えられる。

 

 

 問題は奴らの行動がどう人間の繁殖に繋がるかということだ。

 

 

(闇の組織……、魔法少女……、ゴミクズー……、触手……っ! そうか――)

 

 

 弥堂は閃きを得た。

 

 

(魔法少女を苗床に、卵を産ませるつもりか……っ!)

 

 

 闇の組織の真の目的に気が付く。

 

 

 しかしその一方で、果たしてそれだけだろうかと自身の気付きを疑う。

 

 効率が悪いように感じたからだ。

 

 

 チラリと目線だけを自身が拘束している水無瀬へ向けて、この少女は一体何人ほど産めるのだろうかとそのポテンシャルを探る。

 

 

 魔法少女という存在の全容は未だ知れないが、常識的に考えてたった一人で一国家で問題となるレベルの少子化現象を覆せるほどの出産をやり果せるとは考えづらい。

 

 

 魔法少女を母体とした繁殖、それだけではないはずだ。

 

 

 自分が生きている間だけ機能していれば、死んだ後に社会が破綻しようとどうなろうと構わないと、弥堂はそう考えるタイプのクズなので今まで真剣に少子化問題に向きあってはこなかった。

 

 しかし、彼の所属する部活動の上司である廻夜朝次(めぐりや あさつぐ)はそうではなかった。

 

 

 彼は少子化問題に対して熱心に考察をしているようで、部員である弥堂にも知識や危機感を共有すべく自らの手で集めた文献資料やPCで起動できるシミュレーションソフトを渡してきて、その内容を網羅するよう命じてきた。

 

 そして忠実な部員である弥堂は部長から課されたそのタスクを全て熟した。

 

 

 強い興味や関心はなくとも、その知識は確実の己の裡に記憶として蓄積されている。

 

 

 弥堂は素早く記憶の中からこの状況を見通すことを可能とするような記録を引き出すため該当するキーワードを掘り起こす。

 

 

(孕ませ許可証、性交の自由化、種付ける権利、ドスケベ法令、出産クーポン、Go To デリバリー……!)

 

 

 多くの大人たちが少子化問題に真摯に向き合った結果生み出された様々なパワーワードが記録から浮かび上がる。

 

 これらの多くは国によって行われる施策で少子化を解決しようというものであったはずだ。

 

 ということは、ヤツらは人外の武力を以て人間のナワバリを侵略することが目的ではなく、国家の中枢に這入りこみ法令によって人間の社会の在り様を変えてしまうことが狙いなのではないだろうか。

 

 それはもはや国家転覆だ。

 

 

 人間では倫理や道徳が邪魔をしてこのような政策は執れない。しかし人外のモノどもならばそのような抵抗感はないだろう。

 

 

 自立心の強い人間である弥堂は法を守るか守らないかは必要性に応じてその都度臨機応変に自分で決めるので、例えどんな法律や制度が定められようとも別に関係ないと考えている。

 

 しかし、責任感が強く基本的には博愛主義者である廻夜であればそうもいかないだろう。

 

 

 こういった少子化対策について彼は何か言っていなかっただろうか。

 

 神算鬼謀の権化である廻夜部長ならばこの状況を見通すヒントのようなものを自分に授けてくれていたかもしれない。

 

 

 糸口を求めて記憶の中から記録を喚びだす。

 

 

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