俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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1章33 曖昧な戦場 ➂

 

 鳥と獣。

 

 

 二体のゴミクズーはギャーギャー、ニャーニャーと威嚇し合う。

 

 

 弥堂は魔法少女姿の水無瀬と並んで立ち、ゴミクズー同士の戦いを観察していた。

 

 

 といっても、それほど本格的な殺し合いにはなっておらず、地上に立つネコのシルエットを持つゴミクズーの上を、カラスのシルエットを持つゴミクズーが旋回して飛びながら、お互いに威嚇の鳴き声をあげているだけだ。

 

 たまにカラスの方が高度を下げた時にだけ小競り合いが起きる。

 

 そんな程度の戦いである。

 

 

 つまり、すぐにどちらかが致命的な傷を負うような展開は期待出来ない。

 

 

「あわわわ……っ、たいへんだぁ……っ!」

 

「そうだな」

 

「止めてあげないと……」

 

「だから止めてどうすんだよ」

 

「でもぉ……」

 

「…………」

 

 

 ふにゃっと眉を下げて見上げてくる少女に、弥堂は苛立つ。

 

 

「でも、じゃねえんだよ。おら、玉だせ」

 

「たま……?」

 

「あいつらの上に大量に出して玉を一気に降らせろ。点で捉えられないなら面で制圧しろ」

 

「たま……、てん……、めん……?」

 

「……的が一瞬の内で移動出来る範囲全てに魔法の球を同時にばら撒けば絶対に当たるだろう……?」

 

「あっ! そっか。そういうことか。弥堂くん頭いいねっ」

 

「…………上空に魔法を出して降らせろ」

 

「うん。でも、そんなにいっぱい出るかな?」

 

「大丈夫だ。出る」

 

「でるの?」

 

「あぁ、でる」

 

 

 弥堂は辛抱強く彼女へ伝えた。

 

 

「あっ、でも……」

 

「……なんだ?」

 

 

 しかし水無瀬さんには何か気に掛かることがあるようだ。

 

 

「あのね? ゴミクズーさん同士でケンカしてるところに、いきなりそんなことしたらズルくないかな?」

 

「……大丈夫だ。マリーシアだ。必要なことだ」

 

「まり……?」

 

「なんでもない。それはいい方のズルいだから大丈夫だ」

 

「いい方なの?」

 

「あぁ」

 

「そっかぁ」

 

 

 基本的にテキパキと物事が進むことを好む弥堂は、水無瀬の振りまくぽやぽやした空気感に、希咲を相手にするのとはまた別種のイライラを蓄積させていく。

 

 そしてそれはもうオーバーフロウ直前だ。

 

 

「いいからとっととやれ。そもそも殺し方を選べる余裕がお前にあるのか?」

 

「え、えっと……、あのね? 殺すんじゃなくってじょう――」

 

「――それはもういい。どうしてもっと上手くやろうと工夫をしない? さっきも見ていたが、高度の調節を捨てて飛行魔法の制御をしやすく改善したんだろう? なのに何故また余計な魔法の操作を……、チッ」

 

 

 一気に捲し立てようとしかけ、ふにゃっと眉を下げた彼女の顔を見てハッとなる。

 

 そういえば今日は彼女を甘やかすのだったと。

 

 

 うっかり詰め倒してしまっては約束が反故になってしまうところだった。

 

 

「弥堂くん……むぐっ――」

 

 

 言葉の途中で黙ったことで不思議そうに顔を覗き込んできた彼女の口に、誤魔化すように飴玉を突っこむ。彼女には糖分が必要だと思ったからだ。

 

 

 また脈絡のない行動に出た男を怪しんで、メロはほっぺをもごもご動かす水無瀬に心配そうに声をかける。

 

 

「マナ大丈夫っスか? なに突っ込まれたんスか?」

 

「アメもらったぁ」

 

「なんだアメちゃんッスか。いいモン持ってんじゃねえッスか少年。ジブンにもくれッス」

 

「お前は煮干しでも食ってろ」

 

「なんッスかそれ! ジブンがネコさんだからってバカにしてるんスか!」

 

「違う。例えお前がネコさんじゃなかったとしても、俺はお前を見下すし、馬鹿にもする」

 

「なぁーんだ。それなら……、いいわけあるかぁーッス! もっと悪いじゃねえッスか、このヤロウッ!」

 

「いいからあっちへ行け。俺は今日はこいつを甘やかす日だと決めているんだ」

 

「……なんでそんな日が存在するんスか……。オマエの一週間ルーティンは一体どうなってんスか」

 

「うるさい黙れ」

 

「ギュにゃぁ―――ッス⁉」

 

 

 弥堂は煩いネコの口に酢こんぶを突っこんで追い払った。昼に使って少し残っていたので邪魔だったのだ。

 

 口内に異物を混入されたメロは粟を食って何処かへ走っていった。

 

 

「よし、水無瀬。トレーニングだ」

 

「とれーにんぐ?」

 

「そうだ。お前に動く的の狙い方を教えてやる」

 

「わぁ。ありがとう」

 

 

 魔法を使えない男から偉そうに魔法の当て方を教えてやるなどと言われても、よいこの愛苗ちゃんはきちんとお礼が言えるようにご両親に育てられていた。

 

 

「とりあえず。狙った場所に大体真っ直ぐ飛ばせるようにはなっているな?」

 

「うんっ」

 

「俺に当てた時は何故操作を誤った?」

 

「ご、ごめんねっ。あのね――」

 

「――責めているわけではない。ただ、自分でミスをした原因がわかるか? と訊いているんだ」

 

「う、うん……、ちゃんとはわかんないんだけど。魔法を撃つときに動けない子に魔法を当てるのはカワイソウかなとか、ズルイのかなとか色々考えちゃって……、それで失敗しちゃったのかも……」

 

「……そうか」

 

(『願えば当たる』のなら、その願いの純度が濁ると魔法の効果がブレる、と考えればいいのか……?)

 

 

 つまりは極力彼女が魔法を行使する際には迷いを抱かせないことが重要となるのだろう。

 

 その為には――それを考えながら弥堂は水無瀬に敵の殺し方を教えていく。

 

 

「……そうだな。とりあえずミスがない前提で話す」

 

「うん。ありがとうっ」

 

「まだ何も言っていない。先程だが、外れた魔法は大体1秒か2秒前に的がいた場所を通り抜けたな。俺にはそう視えたんだが、その認識で間違いがないか」

 

「うんっ」

 

「そうか。では、そのラグがお前が魔法を撃ってから着弾するまでの時間だ。意味はわかるか?」

 

「えっと……、あ、そっか。魔法を撃つ瞬間にゴミクズーさんが居た場所を狙ったから、動いてる子には当たらないってことだよね?」

 

「そうだ。お前は賢いな。ふ菓子をやろう」

 

「んむぅっ⁉」

 

 

 弥堂はお利口な生徒さんへのご褒美として、黒光りした立派なふ菓子をお口に捻じ込んでやった。

 

 めいっぱい口を開かされたことで目を見開いて驚く彼女を無視して、相手のことを慮らない身勝手な男は解説をする為に舌を動かす。

 

 

「つまりだ。逆に考えれば1秒後に相手がいるであろう場所を狙えば当たるということだ。わかるか?」

 

「ぅぐぅぐっ」

 

 

 いっしょうけんめいにふ菓子をむぐむぐしながら水無瀬は頷く。その理解に満足そうにコクリと頷き弥堂は続ける。

 

 

「例えば、あの鳥を見ろ」

 

 

 上空を旋回するカラスのゴミクズーを指差す。

 

 水無瀬さんのお口のふ菓子が仰角を上げた。

 

 

「一見すると派手に動き回っているように見えるが、その実ただ8の字に周っているだけだ。その軌道が読めれば1秒後、2秒後にヤツがどこに居るか。何となくは読めるだろう?」

 

「ぅむ……、んくっ。うん、わかるよっ」

 

「お前が魔法で狙うべき場所はそのポイントだ。1秒先、2秒先の敵の姿を見れるようにしろ」

 

「ふわぁ、そっかぁ。そんなこと考えたこともなかったよ」

 

「これは射撃に限らず、戦いにおいてとても重要なスキルだ。より先の世界を見通せるものが戦いを制す」

 

「弥堂くんはすごいね! いっぱい考えてるんだねっ」

 

「……そうでもない」

 

 

 自分の師であるメイドさんにかつて教わったことをほぼそのままJK相手に語っていた男はフイと目を逸らした。

 

 

「……次に重要なことはなんだかわかるか?」

 

「え? えっと、なんだろう……?」

 

「弾速だ」

 

「だんそく……」

 

 

 ゆるゆるな復唱をする彼女の目の前に人差し指を立てた右手と左手を出してやる。

 

 

「いいか、こっちの左手が敵だ。1秒後にはここまで動く。こいつにこの右手の魔法を当てるためには、こっちも1秒後にはここのポイントに到達してなければならない。わかるな?」

 

「あ、うんっ。速かったり遅かったりしたら外れちゃうもんね」

 

「その通りだ。だから自分の魔法が撃ってから狙った場所までに辿り着く時間を自分で把握してなければならない」

 

「うんうん」

 

「理想は弾速を自由自在に変えられることだ。相手も先を読んでくる場合は一定の速度だとかえって避けられやすい。しかし、これは応用だ。お前の場合はまずは、速度は一定でもいいから自分の狙った場所に狙った時間で到達させることを心掛けろ」

 

「……うんっ。わかったよ」

 

 

 耳から入ってきた情報をじっくりと咀嚼するように頷く彼女をジッと視る。本当に理解しているのかと疑っている。

 

 

「でも一生懸命狙い過ぎて『むむむっ』ってし過ぎると威力とスピードが落ちちゃうかも。当たっても効かなかったらどうしよう?」

 

「あぁ。それはとりあえず当てられるようになってから考えればいい。今日のゴミクズーなら当たればどうにかなるだろ。先程交戦した感じ、弱い個体だと俺は判断したがそれは間違いないか?」

 

 

 片腕で一体ずつ簡単に拘束をすることが出来た。路地裏のネズミを一体抑えるのにはもう少し苦労したが、今日の相手は同じ大きさの動物と大して変わらないように弥堂には思えた。

 

 その評価は間違っていないようで、水無瀬も首肯する。

 

 

「うん。あってると思う。今日の子たちは大人しい子たちだと思う」

 

「……大人しくはないだろ」

 

 

 相手を傷つけないようにと配慮の行き届いた彼女の評価に呆れつつ、続ける。

 

 

「あのギロチン=リリィはともかく路地裏のネズミと比べても大分弱い気がするんだが、ゴミクズーとは個体ごとの強さにかなりのブレ幅があるものなのか?」

 

「んとね、私が出会った中だと……、大体ネズミさんくらいかなぁ……? ギロチン=リリィさんみたいなのは私も昨日が初めてだったよ」

 

「そうか。昨日の花は『ネームド』……? だったか? 強いことに理由があるようだから別にいいんだが、今日のヤツは何故こんなに弱いんだと思う?」

 

「えっ? どうしてだろう……、あっ、そういえばメロちゃんが『為りたて』って言ってたかも!」

 

「為りたて……? それは生まれたてだとか、ゴミクズーになったばかりという意味か?」

 

「たぶんそうだと思うっ」

 

「…………」

 

 

 おそらく後者だろうなと心中で予想する。

 

 

 生物的な意味で生まれたということなら親が近くにいないのはおかしい。

 

 何かが変じてゴミクズーになったというのなら想像のしやすい話にはなるかもしれない。

 

 

(そういえば……)

 

 

 今朝学園に登校するために家を出たところで大家さんに捕まり、ゴミ捨て場のカラス避けのネットが破壊されていたがまたお前がなにかやったのかと濡れ衣を着せられ、強い剣幕で詰問をされるという出来事があった。

 

 

 カラスにやられたという発想にならなかったのは、大家さんはカラスに対して特別に憎しみを抱いている個体なので、自身の管理する物件のゴミ捨て場には特注の強固なネットを配備しているのだ。

 

 弥堂の住むアパートの近くはカラスが多いので、その判断自体は別に間違いではない。

 

 

 普通のカラスが何体でかかってきても壊せない理由があり、そしてそれでも壊れたからこそ弥堂が疑われたという理屈だ。

 

 

 しかし弥堂にはゴミ捨て場のネットを破壊する理由がないので自分の犯行ではないと懇切丁寧に説明をした。

 

 だが、それでもわかってもらえなかったので大家さんの顎を拳で打ち抜き、気を失った彼をゴミ捨て場に捨て、そっと特注のネットを被せてから登校をするという一幕があった。

 

 何故自分が疑われるのかという点については、弥堂には皆目見当がつかなかったが、それを説明してもわからないのであればもう暴力を奮う以外に彼に出来ることは何もなかった。

 

 

 ネットを破壊してでもゴミに用があるなどそれこそカラスか野良猫くらいであろう。

 

 

 今ふとその出来事を思い出した。

 

 

 普通でないカラス。

 

 普通でないネコ。

 

 

(まさかな)

 

 

 根拠が薄く繋がりの細い想像を脳裏から追い出し、目の前の水無瀬に眼を向ける。

 

 目の前の出来事の方が優先度は高いし、もしも仮に『そう』だったとしても、ここで殺してしまえば結局は全て解決する。

 

 

 

「……では、実際のイメージだが……、そうだな……」

 

 

 言いかけて考える。

 

 

 次は彼女が魔法を使う際の迷いを払拭させる方法だ。その為には、攻撃をするという行為をなるべくポップなイメージで伝える必要がある。

 

 

 しかし、それを考えようとしてすぐに、それは自分という人間には徹底的に不向きであると気が付いた。

 

 迂遠な言い回しを嫌い、直接的であればある程に効率的であると考える弥堂には中々に難しい。

 

 

 しかし、黙っていても仕方がないので、とりあえず適当にやってみることにした。

 

 

「……そうだな。お前の魔法はただのボールだとでも思え」

 

「ボール……?」

 

「そうだ。そのボールを相手に渡すだけ。要はパスだ。何かしら球技をやったことあるだろ?」

 

「きゅうぎ……、あっ、こないだ体育でバスケやったよ! 男子はなにやったの?」

 

「隣のコートで俺たちもバスケしてただろうが。だが、ちょうどいい。走っている相手にパスをする練習くらいしただろ。あんなイメージだ」

 

「うん。でも……」

 

「なんだ?」

 

「あのね? 私バスケへたっぴで……」

 

「あぁ……」

 

 

 弥堂は察した。

 

 そういえば彼女は運動神経が壊滅的だったと思い出す。球技で例えたのはもしかしたら逆効果だったかと懸念をするが――

 

 

「――でもね? ななみちゃんは上手なの……って、そうだ! ねぇねぇ聞いて、弥堂くんっ! ななみちゃんスゴイんだよ!」

 

「お、おい――」

 

 

 素直に「うんうん」とお話を聞いていた愛苗ちゃんであったが、急に大好きな親友である七海ちゃんのスゴイとこを思い出して、それを弥堂くんに教えてあげたい気持ちが爆発し、一気にテンションが上がる。

 

 その勢いは、街のヤクザや警官に『狂犬』と畏怖される弥堂を以てしても気圧されるほどだ。

 

 弥堂はすかさず白目になり、女の話に自動で肯定の意を示すスキルを発動させた。

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