俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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1章34 Sprout! ⑤

 

「そろそろ決着といきましょうか。最後は単純な力比べです。色々と煩いことを申してきましたが、力こそが最も重要です。押し返して見せなさい」

 

 

 宣言とともにアスはゴミクズーの背後に大量の魔法球を創り出す。

 

 

「マ、マナぁ……」

 

「だいじょうぶだよ、メロちゃんっ」

 

 

 不安そうな目を向けてくるパートナーに、水無瀬は安心させるようにニッコリとした笑顔を返す。

 

 そして目を閉じて、スゥーっと大きく息を吸って、同様に大きく吐き出す。

 

 それからパチッと丸い目を大きく開けた。

 

 

 願いを口にする。

 

 

「――水の無い世界に愛の花を……っ!」

 

 

 脈動し生み出された魔素は血液の流れにのって全身を廻り、右心房へ還ってきたそれは肺へ取り入れた外の『世界』からの魔素と混ざり合い、自らの魔力となる。

 

 

 強烈に造りだされ、強烈に溢れ出した、魔力という自分を表現し押し通す為の力は、オーラのように全身に纏わりついて外の『世界』へも顕現する。

 

 

「――おねがい……、『Blue Wish』ッ……!」

 

 

 胸元で青く輝く宝石に呼び掛けると、思い描いた現象が『世界』に実現する。

 

 

 空を埋め尽くすような夥しいほどの数のピンク色の軍勢。

 

 

 アスが創り出した魔法の数を遥かに上回る魔法の光球が水無瀬の背後に並ぶ。

 

 

「アハッ――アハハハハハ……ッ! 素晴らしい。見つけた……、見つけたぞ……っ! 逸材……、適した器……っ! これなら叶う……っ! 新たに証明され……、新たな知識となり……っ! 新たなる王が誕生する……っ!」

 

(王……だと……?)

 

 

 哄笑をあげながら意味のわからないことをアスが叫ぶ。

 

 これまで知的で冷静な振舞いをしてきた彼が我を忘れたかのように興奮しているその姿を弥堂は睨みつけるが、どこまでも彼を置き去りにして戦況は進む。

 

 

「さぁ、後は我を押し通すのみです! 舞台に上がったら最後にモノを言うのは結局は力っ! 上回ってみせなさい、アナタの願いを叶えるために……っ!」

 

「ワガママなんかじゃないもん……っ! 難しいことわかんないけど、でも……っ! 魔法は、この力は、みんなを笑顔にするために使いますっ! 今は――その子を助けるために……、いっぱいがんばるっ!」

 

「よろしい! ならば、それを表現してみせなさい!」

 

「光の種――みんな……、おねがい……っ!」

 

 

 言葉を交わし終わり同時に力を放つ。

 

 

 青いまま切り取られた空で、ピンク色と銀色の光がぶつかりあい弾けて輝く粒子を降らせる。

 

 

 破壊的な状況とは裏腹にそれは酷く幻想的な光景だった。

 

 

「ギュイィィィィッ!」

 

 

 カラスであったゴミクズーは雄叫びをあげ、破壊の光が瞬く戦場の只中へと突貫を開始する。

 

 

「悲しいこと……ぜんぶっ! 救ってあげる――【光の種(セミナーレ)】ッ!」

 

 

 水無瀬は展開していた魔法の光弾の一部でアスと撃ち合い、他の一部をゴミクズーへと向かわせた。

 

 

 迎撃に出る魔法弾を無視してゴミクズーは突っこんでくる。

 

 耐える自信があるのか、それとも狂ってしまったが故かはわからない。

 

 

 着弾する寸前、ゴミクズーの前に銀色の壁が出現する。

 

 アスの防御障壁だ。

 

 その壁で水無瀬の魔法を防ぎながら、物凄い勢いで巨体が迫る。

 

 

「マ、マナッ……、このままじゃあ……っ!」

 

「だいじょうぶっ! もっと、つよく……っ! もっと、がんばる……っ!」

 

 

 大きく魔力を解き放ち、新たに弾幕を自身の前に形成する。

 

 

「いって!」

 

 

 それらに願いをこめて、自身の裡でイメージした絵を、『世界』に描き出す。

 

 

 ゴミクズーを守る障壁に次々と魔法弾が撃ち込まれる。

 

 

 今しがたと同じ光景だが、しかし、今度は着弾する端からアスの防御魔法に罅を入れた。

 

 

「なんと――」

 

 

 アスはそれに驚くが、しかし焦ることはなく、感嘆の息を漏らした。

 

 

 そして、ついに障壁は砕け散る。

 

 

「【光の種(セミナーレ)】っ……、シューート……っ!」

 

 

 訪れた好機に水無瀬は新たに4発の光弾を創り出し、右手に持ったステッキを大きく振り下ろした。

 

 

 ノーガードとなったゴミクズーへ4つの光が撃ち出される。

 

 

 彼我の距離はもう幾許もない。

 

 

 弥堂は眼を凝らしその瞬間を見逃さぬよう視線を固定する。

 

 

 これで撃墜出来なければあの巨体は水無瀬に衝突するだろう。

 

 水無瀬の防御がどこまでのものなのかは弥堂にはわからないが、少なくともあの質量をあの速度で受け止めて無事に済むとは考えづらい。

 

 

 この攻防を制した者が勝者となる。

 

 

 

 4発の内、先行する初弾がゴミクズーの頭部へ真っ直ぐ飛ぶ。

 

 それが近づくとゴミクズーは回避行動のため身を捩ろうとする。

 

 

 しかし、その動きを見せた瞬間、光弾は右へシュートする。

 

 

「ギィィッ――⁉」

 

 

 予想外のことにゴミクズーは驚き思わず回避行動を止めてしまい僅かに思考が停まる。

 

 その隙に軌道変化した初弾が左の翼を撃ち抜いた。

 

 

 片翼に穴を空け大きくバランスを崩すゴミクズーの顔面へ次弾が迫る。

 

 首を無理矢理曲げてそれを回避するが、その間に大きく背後を迂回してきた3発目が右の翼を撃ち抜いた。

 

 

 撃ち抜かれた両翼はその穴から砂が崩れるように黒い粒子を撒き散らし少しずつ消えていく。

 

 

 ゴミクズーの目に迫りくる4発目の光弾が映った。

 

 

「ギュイィィィィッ!」

 

 

 断末魔の悲鳴をあげて、ゴミクズーは光弾を避けるのでなくまだいくらか残った羽から弾丸を撃ち出した。

 

 自分はもう助からないと悟り、せめて道連れにと最後の攻撃に討って出た。

 

 

「【光の盾(スクード)】ッ!」

 

 

 水無瀬は魔法の盾を2つ創り出す。

 

 

 ゴミクズーの弾丸が水無瀬が正面に展開した障壁に突き刺さると同時に、4発目の光の種がゴミクズーの頭部を下からカチ上げた。

 

 

 空中で大きく仰け反り完全に突進の勢いを失くす。

 

 そのタイミングで水無瀬が展開していたもう一つの光の盾に、背後から飛んできていた銀色の光球が着弾し防がれる。

 

 

「――お見事(ブラボー)

 

 

 アスから短い賛辞が送られるが、それはもう耳には届かなかった。

 

 

 両翼を完全に失い腹を見せて落下していくゴミクズーは崩れかけの顔面を上へ向ける。

 

 片方だけ残った目に魔法のステッキをこちらへ向けて構える少女の姿が映った。

 

 

 

 杖の先端に大きく力を集める。

 

 

 それは光の球となって拡大する。

 

 

 その力の――願いの向く先を魔法少女は真っ直ぐ見つめる。

 

 

「――フローラル・バスターーーッ!」

 

 

 ひとりぼっちの真っ白な部屋で幼き頃に観たアニメのヒロイン。

 

 強く憧れ続けていた物語の中での英雄である魔法少女の必殺技。

 

 

 記憶の中に強く残っていていつでも思い出せるその姿をイメージし、魔法の言葉として願う。

 

 

 ステッキの先に集約していた光は直射状のビームとなって、堕ちいくゴミクズーのガラ空きの腹を直撃し貫通した。

 

 

 その存在を構成し保つ為の決定的な『ナニカ』を撃ち抜いた手応えを水無瀬は感じる。

 

 

 その感触どおり、ゴミクズーの巨躯は砂が崩れるように壊れていく。

 

 黒い光の粒が散らばるその様相は、落下する身体から空へ立ち昇っていくように見えた。

 

 

 散らばり舞い上がり離れると、それらは黒い色を失い透明になっていってキラキラと空を輝かせる。

 

 

 上空を見上げる弥堂の眼にもその様子がしっかりと映った。

 

 

 キラキラと輝くダレのモノでもなくなったその物質以前の物質は或いは空に漂いながら溶けていき、また或いは水無瀬の方へ引き寄せられ吸い込まれるように彼女の胸の宝石へと消えていくのが、弥堂の眼には視えた。

 

 

 アスはいつの間にか居なくなっていた。

 

 

 

 

「弥堂くんっ! ケガはなかった?」

 

 

 水無瀬が地に降り立つと彼女に纏わりついていた光の粒子が鱗粉のように舞う。

 

 

「……まるで蛾だな」

 

「えっ?」

 

「怪我などないと言ったんだ。碌に戦っていないからな」

 

「そぉ……?」

 

 

 首を傾げて問い返しながら彼女は変身と結界を解く。

 

 

 薄い硝子が割れるように、空間が罅割れ砕け散る。

 

 一瞬のうちに世界は普段弥堂たちが暮らすいつも通りのものに戻る。

 

 

 砕けた硝子の欠片のような異なる世界の残滓はキラキラと光りながら『世界』へと溶けて還っていく。

 

 その様子を視ながら横目で一部の光の粒子が水無瀬の胸へと吸い込まれるのを確認した。

 

 

 本人はそれに気が付いているのかいないのか。

 

 宙空でキラキラと舞う通常は不可視のはずの輝きを見るのに夢中になっている。

 

 

 ふと、こちらへ顔を向けた彼女と目が合う。

 

 

「弥堂くんも見えるの? キラキラ」

 

「キミの言っていることは俺にはわからないな」

 

「でも今見てたよ? キラキラ」

 

「なんのことだ」

 

 

「えー?」と首を傾げながら彼女は宙空を指差す。

 

 

「キラキラ」

 

「何もないぞ」

 

 

「うーん」と少し考えこんだ彼女は両手を合わせて舞い落ちる粒子を掌で受け止め、それを弥堂の前に差し出す。

 

 

「キラキラっ!」

 

「俺には何も見えないぞ」

 

 

「そっかぁ」と残念そうに愛苗ちゃんは眉をふにゃっとさせた。

 

 

「それよりも、いいのか? 結界を解いて」

 

「どうして?」

 

「もう一匹いただろ。逃げていったのが」

 

「あっ⁉ そういえば……っ!」

 

 

 どうやらもう一体のネコのゴミクズーのことをすっかり忘れていたようで、愛苗ちゃんのおさげがみょーんっと跳ね上がった。

 

 

「まぁ、でも大丈夫じゃないッスか?」

 

「メロちゃん?」

 

「少年の残虐ファイトでこっぴどくやられたッスからね。我々ネコさんは繊細で臆病な生き物ッス。あんな情け容赦のない虐待をされたらブルっちまってしばらく表を歩けねえッスよ」

 

「そっかぁ……、ネコさんかわいそう。早く見つけ出して浄化してあげなきゃ……」

 

 

 だが、彼女たちは割かし楽観視しているようだった。

 

 

「……手負いの獣だぞ?」

 

「えっ?」

 

 

 それに弥堂が不満の意を述べるが彼女たちには伝わらない。

 

 能天気に目を丸くする水無瀬へ考えを伝えようと口を開きかけて、やめる。

 

 

 意味がないと思ったからだ。

 

 

 きっと『世界』は彼女の思うように動く。

 

 そうでなかったとしても、今日彼女がそうしてみせたように、突然進化をし成長をしてみせ、乗り切ってしまうのだろう。

 

 弥堂ごときが思いつくような想像や決めつけなど簡単に超えてしまうのだろう。

 

 

 初めて彼女が魔法少女活動をしている現場に遭遇した時に、あまりのポンコツぶりにどうやって今まで生き延びてきたのかと疑問視したが、きっと今日のようにその都度どうにかしてしまったのかもしれない。

 

『世界』が彼女をそうデザインしているのだ。

 

 

 そしてきっと、この先も――

 

 

「――弥堂くん……?」

 

「なんでもない。じゃあな――」

 

「あ、待って! 弥堂くんっ!」

 

 

 短く別れを告げて踵を返そうとする弥堂を水無瀬は呼び止める。

 

 

「……なんだ?」

 

 

 これ以上彼女と話をしたくないと、そう感じていた弥堂は不機嫌そうに身体の向きを戻す。

 

 

 

「――痛いの……?」

 

「……? 怪我などないと言っただろう」

 

「そうじゃなくって……、ここ――」

 

 

 水無瀬が近づいてきて、弥堂は何故かあっさりと彼女を懐に入れてしまった。

 

 彼女は手を伸ばし右手でそっと弥堂の胸の中心に触れた。

 

 

 服の下に隠した逆さ十字のペンダントのすぐ近く――心臓の位置。

 

 

「――ここ。痛いの……?」

 

「――っ⁉」

 

 

 邪気なく無垢な瞳で見上げてくる彼女の手を反射的に振り払い、小さく後ろに飛び退いた。

 

 

「…………っ」

 

 

 言葉を失い、咄嗟の拒絶に驚く彼女の顔をただ視る。

 

 

「あっ……、あの、ごめんね……? さわっちゃって。痛かった……?」

 

「……ち、がう……。別に、痛みなど、ない……」

 

 

 どうにか絞り出すように否定の言葉を吐き出す。

 

 

「あのね? 痛いって……、聴こえたような気がして……」

 

「気がしただけなら……、気のせい、だ……」

 

「そう? でもつらそうだよ……?」

 

「何度も言わせるな。俺は怪我などしていないし、胸の病気もない」

 

「ううん、そうじゃなくって――」

 

 

 とっとと立ち去れ、喋らせるな、聞く耳を持つなと。

 

 自分の中のナニカが警鐘を鳴らしているが身体は言うことを聞かない。

 

 彼女から――自分よりも強い存在から目が離せない。

 

 

「――ココロが」

 

「…………っ!」

 

 

 気味が悪いと、不愉快だと。

 

 総てを覗かれる前に殺せと。

 

 

 衝動的に湧き上がった命令が全身に伝播し――

 

 

「――ふわっ⁉」

 

 

――しそうになったところで、突如胸の内から鳴り響いた電子音とそれに驚いた水無瀬の声で我にかえる。

 

 

 鳴り響く軽快な音色は、今のこの状況には似つかわしくなく、またある意味では最も相応しいのかもしれない、愛と勇気が詰まっていて希望を見せてくれそうな感じの軽快なメロディだった。

 

 

 それは弥堂がスマホの着信音に設定している聴き慣れた楽曲である――そう、魔法少女プリティメロディ☆フローラルスパークのテーマだ。

 

 

 助かったと、そんな情けない心情を隠しながらチラリと画面に眼を遣り表示された番号を確かめる。

 

 

「……悪いな。仕事の予定がある、というか本来今はもう仕事中なんだ」

 

「え? そうだったんだ。引き止めちゃってごめんね?」

 

「構わない。HRで聞いただろ。風紀委員の活動だ。もう行く。じゃあな」

 

「あ、うんっ。お仕事がんばってね!」

 

 

 弥堂らしからぬ言い訳がましい言葉を残して背を向ける。

 

 公園の出口へ向かって歩きながら、シャツの上から胸に触れると硬い金属の感触がする。

 

 首から提げた背信の逆さ十字。

 

 惨めにそれを拠り所にしながら少しでも早く彼女の視界から消えたいと願った。

 

 

 この気分はよく知っている。

 

 自分に視詰められた相手がよくこうなる。

 

 だから、これ以上彼女の前に居たくない。

 

 

 公園の敷地から出て駅方向へ進路を取りながら、スマホの画面に指を走らせ通話を繋ぐ。

 

 

 鳴り続けていたテーマソングは消え、魔法少女の時間は終わる。

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