俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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1章38 THE DARK IN THE WALL ②

 

 女子二人暫し揉み合って結局希咲が折れることになった。

 

 

「もーっ! 変なとこ触るんじゃないわよ!」

 

「それはどっちの意味ですか?」

 

「どっちもよ!」

 

「気を付けますが、スマホの画面も七海ちゃんも感度が良すぎて勝手に反応しちゃうかもしれませんね」

 

「あたしがえっちみたいにゆーなっ! あんたが悪いんでしょ!」

 

 

 自身の背中の上でプリプリと怒る希咲の様子に、望莱は満足感を得る。

 

 

「さぁ~て、学園でも人気のあるギャル系JKの闇を暴きますよー」

 

 

 宣言してスマホの画面を覗き込むと、ギシっとベッドのスプリングが軋み自身の身体にかかる重量が増したような気がする。

 

 続いて頬に自分のものとは違う髪の毛が触れる感触がして、望莱は首を横に回す。

 

 

「あによ」

 

 

 ベッドにうつ伏せに寝そべってスマホを操作する望莱の上に希咲が乗っかり、望莱の肩越しに画面を覗き込んできていた。

 

 自身の肩に顎を乗せる彼女の睫毛を横目で見て、望莱はグニグニと希咲の顏に自分の頬を押し付けた。

 

 

「あっ、こら! ジャマすんな!」

 

「えー?」

 

「あんたがヘンなことしないか見てるんだから!」

 

「もぉー、そこまで言うなら仕方ないですね。甘んじて受け入れましょう」

 

「甘んじてるのはあたしだしっ。絶対好きにはさせないんだからっ」

 

「ふふふ、いいんですよ。……むしろご褒美ですし」

 

「は? なんか言った?」

 

「いえいえ、好きなだけ監視してください」

 

 

 望莱はニッコリと笑顔を作りながら内心ほくそ笑み、希咲のお尻の感触を感じる腰の位置ををさりげなく調整しベストポジションを探る。

 

 

「ちょっと、グリグリしないでっ。座りづらいじゃん」

 

「えー?」

 

「てか、スマホ見ないんなら返してよ」

 

「いえいえ、見ますよー。スゲー見るぞー。うおー」

 

「……なにその棒読み」

 

「気にしないでください。よし、ちゃんと見るために姿勢を整えなきゃいけませんね。あくまで仕方なくですが、少し身体を起こします」

 

「あん、ちょっと……」

 

 

 白々しく断りを入れた望莱は、ベッドに両肘をつけて上体を起こし、より希咲の胸が背中に密着するように調整した。

 

 肩甲骨あたりでどうにか彼女の先端部位を探り当て、さらにその部位へ刺激を与えられないかとビキビキと軋むクソザコ背筋の痛みに耐えながら奮闘するが、感じとれたのは硬いとまではいかないがやたらと分厚いなという感触だけで自身の未熟を恥じる。

 

 

 みらいさんの心は折れた。

 

 

「ぅわっ⁉」

 

 

 急に望莱がベチャっと上体をベッドに倒したせいで、彼女に体重を預けていた希咲も背中の上に一緒に寝そべる恰好に変わる。

 

 

「おぉ、狙ってなかったけど流石みらいちゃんです。計画通り」

 

「なに言ってんのあんた」

 

「いえいえ、気にしないでください。そのまま寛いでいてください」

 

「だからゆっくりしてる時間ないんだっつーの。掃除しなきゃって言ってんでしょ。早く済ませてよね」

 

 

 先程よりも満足感の高い密着具合にみらいさんはやる気を取り戻し、希咲のスマホに挑戦的な目線をぶつける。

 

 

「対よろです」

 

「はいはい、よろよろー」

 

「あふん」

 

 

 おざなりな返事をする希咲の吐息が耳にかかり危うくアヘりそうになったみらいさんだったが、ギリギリのところで己を保ち強く自身を戒める。

 

 

「……なに? ヘンな声だして」

 

「なななななんでもないですっ。気持ちいいですっ」

 

「は?」

 

「おっと、今のは間違えました。ちょっと天国が見えかけただけなので大丈夫です」

 

「それダメなんじゃないの? つか、もうおわりっ」

 

「はふぅん」

 

 

 望莱の背中の上で身体を伸ばし彼女の手のスマホを奪おうとしたことで、顏と顔が近づき希咲の声が望莱の耳元で喋るような形になる。

 

 みらいさんは半分アヘったが、まだ半分なので大丈夫だと両のふとももを強く合わせて色々と自分を保った。

 

 

「またキモい声だして! もぉーっ! ちゃんと見ないんならもう返してっ!」

 

「やだーやだーっ」

 

 

 希咲の手から逃れるように腕をピンと伸ばすが、希咲の方が腕が長いのであっけなく手首を掴まれる。

 

 せめてもの抵抗として、望莱はピンと伸ばした両足を希咲の股の間で動かし、ベッドの上でバタ足をする。

 

 

「あ、こらっ! 埃たつからやめなさいっ」

 

「いやですぅー。七海ちゃんが離すまでやめませんっ」

 

「こんの……っ! こいつっ――」

 

「――ん゙お゙お゙ぉ゙っ……⁉」

 

「ひっ――⁉」

 

 

 聞き分けのない子にお仕置きをと、かぷっと望莱の肩を甘噛みしたら突然彼女が動物のような鳴き声をあげる。それに驚いた希咲は反射的に彼女に密着させていた上体を引かせた。

 

 そして間もなくして、希咲が尻をのせる望莱の腰骨あたりからブルブルと振動が彼女の背骨を駆けあがっていき首元で終着すると、上体を仰け反らせた望莱が強く肩を震わせる。

 

 

「な、なにっ⁉ なんなの⁉ いきなりヘンなことしないでよ! なんでブルブルさせるの! つか、あんたそれどうやってやってんの⁉」

 

「はへぇ……しゅきぃ……」

 

 

 初めて見る人体の動きに大きく動揺した希咲は抗議の声をあげながら、ピシャピシャっと望莱の尻を叩く。ヘヴン状態のみらいさんはその痛みにすら恍惚の笑みを浮かべた。

 

 

「なんでいきなり牛の真似とかすんの⁉ そうやってすぐふざけんのやめてっていつも言ってんじゃん!」

 

「い、いえ……、今のは真剣(マジ)真剣(マジ)にキテしまったのですが……」

 

「はぁっ⁉ いみわかんないっ!」

 

「んもぅ、七海ちゃんがえっちなことするからいけないんですよ……?」

 

「マジでいみわかんない! あたし何もしてなくない⁉」

 

「さぁ、先に進めますよ。早く切り替えてください」

 

「あたしが悪いの⁉」

 

 

 何か一つの到達点に辿り着いた感のあるみらいさんは、女性的というよりは男性的な心の働きがあり、精神状態が極めてニュートラルと謂えなくもない状態に戻ったことでスンっと真顔に戻りスマホを操作し出す。

 

 変貌といっていいような彼女の切り替わりの速さに着いていけない七海ちゃんは混乱してサイドテールをぴゃーっと跳ね上げる。

 

 その七海ちゃんのお尻に敷かれるみらいさんは乱れて額に貼り付いた前髪を整え、元のぱっつん前髪に戻す。

 

 

「さて、とはいえ、何を見るか特に考えてなかったんですよね」

 

「……じゃあ、もういいじゃん。てかさ、あんたさっきの……なに……?」

 

 

 何事もなかったかのようにスマホを弄り出す望莱に希咲は懐疑的な視線を向け警戒する。

 

 

「まぁ、いいではないですか。七海ちゃんがどうしても聞きたいと言うんなら話すのも吝かではありませんが。ですが、後悔しても知りませんよ?」

 

「……じゃあ、やめる」

 

「そうですか。ちなみに、この部屋を掃除する時はそこのシャワールームからやってくれませんか? わたし、なるはやでお風呂に入らなきゃいけない感じになってしまいましたので」

 

「どういうこと⁉」

 

「聞きたいですか? 七海ちゃんがどうしてもと言うんなら、わたしとしましてもお話するのは吝かではないというか、むしろ興奮すると言いますか……」

 

「いいっ! ききたくないっ!」

 

「では、無難にedgeのメッセからチェックしていきましょうかね」

 

 

 ブンブンと激しく首を振って拒否をする希咲を置いて、望莱は勝手知ったるといった風に希咲のスマホを操作してアプリを起動させる。

 

 画面にメッセージのやりとりをした相手の一覧が表示されると希咲はそわそわとした。

 

 

「んもぅ、七海ちゃんったら。何がそんなにイヤなんですか?」

 

「や。ふつーイヤでしょうよ。つか、あんたは何でそんなに見たがるのよ」

 

「それはもちろん七海ちゃんが非行に走ってないか目を光らせることです」

 

「なによそれ。あんた年下のくせになまいきっ」

 

「七海ちゃんってば、ちょっと目を離したらすぐどっかのおじさんとパパ活しちゃいそうですからね」

 

「するかボケっ! あんた適当にそういうこと言うのやめてよっ。あたしのことそーゆー風に思ってるヤツ最近多くてマジむかついてんだからっ!」

 

「えー? その人たちが思い込んでるみたいに、七海ちゃんはお小遣い欲しさには絶対やらないと断言できますが、家族とか大事な人を守るために必要なら割と躊躇わずやっちゃいそうで、わたしこれは普通に心配してるんですよね」

 

「……なによそれ。やんないわよ」

 

「むぎゅぅ」

 

 

 むぎゅっと望莱のお尻を抓ると彼女は自分でその擬音を発した。

 

 

「でもでも、七海ちゃんえっちでイカガワシイ感じのバイトしてるじゃないですかー?」

 

「ゔっ――⁉」

 

 

 痛いとこを突かれたとばかりに希咲は言葉に詰まる。

 

 

「べ、べつに、悪いこと、してないし……」

 

「えっちでイカガワシイのは否定しないんですね」

 

「さ、最初はただの事務手伝いだったのよ! で、でも人が足りないからって段々そっちの方も手伝うようになって……」

 

「ギャラがよくてやめられない、と?」

 

「……そうなのよね。でも、ほんとに段々えっちなのっていうか、そういう仕事も増えてきて……」

 

「抜けられない、と?」

 

「うぅ……、ダメだってわかってるんだけど事務だけの時に比べると明らかに生活水準変わるのよね……。大地の受験もあるし、翔海(かける)の中学もあるし、あゆみも小学校に上がるし……」

 

 

 悩まし気に溜息をつく希咲見る望莱の目がジト目に変わる。

 

 

「あの、あゆみちゃんは来年だからともかく、大地くんは中2になったばかりですし、翔海くんはまだ低学年ですよね?」

 

「ボーっとしてたらすぐよ。ちゃんと余裕もって準備しとかないと……」

 

「もう完全に主婦の悩みですねー」

 

「そうよ。半分以上主婦よ。足りないのはダンナだけ」

 

 

 望莱の後ろ髪を指でクルクルしながら重い溜め息を吐く。

 

 

「それまんま“さーなちゃん”じゃないですか」

 

「ひとのママをちゃん付けすな」

 

「でも、さーなちゃんがそう呼べって」

 

「あの人は……」

 

「さーなちゃんのお店厳しいんですか?」

 

「んー……。服はけっこう売れるようになってきたんだけど、テナント料がね……」

 

「MIKAGEモールですもんねー……、多分さーなちゃん騙されてますよ?」

 

「あたしもそう思う。騙されるまではいかなくても足元見られてるのは間違いないと思う……、ホントあの人懲りないんだから……」

 

「出資者が結構イケメンなんでしたっけ? さーなちゃんのそういうとこ面白くてわたし好きです」

 

「身内だと笑えないのよ。それに、あの男……」

 

「…………」

 

 

 自身の後ろ髪を引く手に俄かにこもる力を感じとり、望莱は目を細める。

 

 だが、すぐにニッコリと笑顔を貼り付けてスマホの画面を指差した。

 

 

「七海ちゃん色んな人とメッセしてるんですねー。んもぅ、悪い女です」

 

「人聞き悪いことゆーなっ。相手ほぼ女だろうが。誰のせいだと思ってんだ」

 

「ウチのバカ兄ですね」

 

「あんたもよっ」

 

「えー? わたしまだ何もしてないですよ?」

 

「高校入ってからはね。つか、まだっつーな」

 

「じゃあ、わたしじゃないじゃないですかー」

 

「中学ん時のよ!」

 

「え? あれまだ続いてるんですか?」

 

「当たり前でしょ! だって、あんな……、その……」

 

「3年4組壁尻会場ですよね?」

 

「人が濁してんのに言うな! なんなの、その頭悪い言葉っ⁉」

 

 

 あっけらかんと言う望莱に希咲がガーっと怒鳴りつける。

 

 そして額に手をやると一転して陰鬱な気分に落ち込む。

 

 

 忘れたい出来事、思い出したくもない出来事。

 

 

 しかし、それは今も現在の自分の生活にも確かな爪痕を残しており、否応なく常に頭の片隅に入れておかざるをえない。

 

 なにせ、まだ一か月ほど前に起こったことだ。風化するはずがない。

 

 

 (なんで海に旅行にきてまでこんなことに悩まなきゃなんないのよ……っ!)

 

 

 心中で憤るが、よく考えたら自分にとっての癒しやリフレッシュは普段の日常での親友の愛苗ちゃんとの時間であって、この幼馴染どもは心労のタネなのだから、むしろこれが当然かと納得してしまう。

 

 

 希咲は「あははー」と投げやりに笑った。

 

 当然、それが何の解決にもならないことはよくわかっていた。

 

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