俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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1章45 Killing ReStart ①

 キラキラと周囲を輝かせていた光の粒子は段々とその数を減らしていく。

 

 

 それらの行方に眼を向けていると突然、パっと辺りの光景が切り替わる。

 

 

 色彩豊かに彩られていた風景は日常通りの夕暮れ時の川原のものに戻る。

 

 水無瀬が生み出した謎のお花畑も綺麗さっぱりと姿を消した。

 

 

 結界の魔法を解除したのだろう。

 

 

 元々今回設置されていた結界は水無瀬が用意したものではなく、悪の幹部のボラフが創ったものだったようだ。

 

 しかし彼の言葉から推測すると、その結界の支配権とやらはアイヴィ=ミザリィに譲渡され、そして最終的に水無瀬がそれを奪い取った、そういった流れのようだ。

 

 

 結界を扱うこと自体が出来ない弥堂にはその仕組みを感覚的に理解することが非常に困難だが、そんなことよりもと、周囲に眼を走らせる。

 

 

 巨大ゴミクズーとなったアイヴィ=ミザリィを倒したとはいえ、まだ悪の幹部であるボラフは仕留めていない。

 

 なのにも関わらず結界を解除するとは何事かと水無瀬に注意を与えたかったが、どうもその必要はないようだ。

 

 

 弥堂の視る限りではそのボラフの姿は確認できない。

 

 

 大規模な水無瀬の魔法が齎した破壊のどさくさで逃走をしたようだ。

 

 

 パチャっと水音が鳴りそちらへ眼を向けると、そこには学生服姿で座る水無瀬の姿が。

 

 変身を解いてそのままへたり込んでしまったようだ。

 

 

「マナァっ……!」

 

「メロちゃんっ。えへへ、気が抜けちゃったよ……」

 

 

 ネコ妖精のメロが心配して駆け寄ってきて、水無瀬の頬にグイグイと額を擦り付ける。

 

 

「ケガはないッスか⁉ よく頑張ったッス……! マナはスゲェッス!」

 

「わぷっ⁉ あはは、メロちゃんもビショビショだねぇ」

 

 

 互いの無事を喜び合う二人から目線を外して、弥堂は橋を見上げる。

 

 

 弥堂がこの現場に到着した時と同じまま、中美景橋は学園のある旧住宅街側と向こう岸の新興住宅地とを繋いでいる。

 

 

 先程水無瀬の凶悪な破壊魔法でゴミクズーごと爆裂四散し、跡形もないほどに木っ端微塵になったはずだが、それはあくまでも結界の中での出来事。

 

 全くを以て仕組みが理解できないが、結界を解いて戻ってきた現実世界には何も影響がないようだ。

 

 

「弥堂くん、弥堂くん」

 

 

 ボーっと橋を睨んでいると、足元から呼びかけられながらクイクイと袖を引かれる。

 

 

「なんだ、水無瀬」

 

 

 足元を見下ろしながら返事を返すと、川の水にペタンとお尻を浸したまま水無瀬が「えへへ」と笑う。

 

 

「弥堂くんはだいじょうぶ? 痛いところない?」

 

「あぁ、問題ない」

 

 

 周囲に視線を動かし敵の残党や増援を気にしながら適当に答える。

 

 

「イヤイヤイヤッ! 問題ないわけねーだろッス!」

 

 

 するとネコ妖精から何やらツッコミが入る。

 

 例によって今日も戦闘でこれっぽっちも役に立たなかったクズに口答えをされ、気分を害した弥堂は畜生風情に非難と侮蔑の眼を向けた。

 

 

「こ、こんなに愛らしいネコさんになんつー目を……、って、そうじゃなくってッス! 少年おもくそ刺されてたじゃねえッスか! 肩にブスーって!」

 

「えっ⁉ あっ……! そういえば! た、たいへん……っ! 早く病院に……!」

 

 

 弥堂があまりにも平然としているものだから失念していたのだろう。

 

 水無瀬も慌てて表情を心配げなものに変え、弥堂の身を気遣う。

 

 

「大丈夫だと言ってるだろ」

 

「で、でもっ、こんなにおっきぃ穴空いちゃってるよ……⁉」

 

 

 アイヴィ=ミザリィの髪に両肩を貫かれて穴が空いたままの制服に触れようと水無瀬が手を伸ばしてくるのを、弥堂は身を逸らして避けようとする。

 

 だが、腰でも抜けたのか、水無瀬は女の子座りをしたまま両腕だけを伸ばしてジタジタするだけだったので、避けようとする動きをやめ呆れた眼で視るだけに留めた。

 

 

「ジッサイえぐいケガしてんじゃねえッスか? 腕ちぎれたりしてないッスよね?」

 

 

 メロも心配の声をかけながら弥堂の周りをウロウロふよふよと飛んで怪我の容態を見ようとする。

 

 いい加減に弥堂は鬱陶しくなってきて嘆息した。

 

 

「怪我などしていない。刺された瞬間に服の中で身体をズラしたからそもそも当たってない」

 

「な、なんッスかそれ? キメェッス……」

 

「よく考えろ。本当に刺されてたら出血があるはずだろ」

 

「言われてみればそうッスね……」

 

 

 メロが弥堂の姿を見ると、確かに出血をしている様子はない。

 

 それほど太いものではなかったが、ボールペンほどのサイズの髪の針に貫かれたら、かなりの量の血が流れるはずだ。

 

 

「じゃ、じゃあ、だいじょうぶなんだね? よかったぁ……」

 

「だから問題ないと言っただろ」

 

「でもでもっ。他にもいっぱいぶたれてたし、痛いとこない?」

 

「ぶたれたって、お前な……」

 

 

 まるで子供同士のケンカのような、そんな彼女のゆるゆるな表現の仕方に流石の弥堂も脱力してしまう。

 

 

「問題となるような怪我はない。俺のことよりも自分の心配でもしてろ」

 

「え? うん、私もケガしてないよ。えへへ、心配してくれてありがとう」

 

「…………」

 

 

 意趣返しの皮肉のつもりだったのだが、それすらも彼女にはまるで通用しない。

 

 無邪気な彼女の笑顔を見ていると、もうどうでもいいかという気分にさせられた。

 

 

「……もうここの用は済んだ。お前らとっとと家に帰れ」

 

「あ、そうだね。もうすぐ晩ごはんになっちゃう」

 

「へへッ、ジブンら今日は寿司なんッスよ。いいだろーッス」

 

「それは羨ましいな。早く帰れ」

 

「あ――待って、弥堂くんっ!」

 

 

 ドヤ顏のメロに至極どうでもよさそうに返事をしながら川縁へ歩き出そうとする弥堂を水無瀬が止めた。

 

 

 立ち止まって振り向くと、彼女は伸ばした手をこちらに向けたまま「むにゃむにゃ」となにやら唱えて、それから「えいっ」とかけ声をあげた。

 

 

 すると、弥堂の全身がペカーと光り、破損した制服が修復される。

 

 

「…………」

 

「はいっ、制服直ったよ!」

 

「…………」

 

 

 どうやら、あちこち汚れて破けたり穴が空いたりしていた弥堂の制服を魔法で直してくれたようだ。

 

 特にそれを誇るでもなくニコっと笑顔を向けてくる彼女を弥堂はただ無言で視る。

 

 

 水無瀬に向けられるその冷たい視線との間にメロが慌ててネコさんボディを差し込んだ。

 

 

「まままま、待つッスよ少年っ!」

 

「……?」

 

「マナに悪気はなかったんッス。どうか殺さねえで欲しいッス!」

 

「なにを言ってる?」

「どうしたのメロちゃん?」

 

 

 突然命乞いを始めた小動物に弥堂も水無瀬も怪訝な顔をした。

 

 

「マナ、だめッスよ!」

 

「え? なにが?」

 

「コイツにいきなり魔法向けちゃダメッス! 攻撃行動と見做して襲いかかってくるッスよ!」

 

「……? 攻撃じゃないよ?」

 

「そんなのはこの手のヤツには通じねえんッス! 野性動物並みの警戒心と凶暴性を持ってるッス! サバンナの肉食獣と同じだって考えた方がいいッスよ!」

 

「お前ナメてんのかこのクソネコが」

 

「ギャアァァァーーッ⁉ 頭蓋がぁーーッス!」

 

 

 弥堂は野性を忘れた家猫の頭部を鷲掴みにして締め上げた。

 

 

「別に気に障ったわけじゃない。ひとつ気になってな」

 

「……? なぁに?」

 

 

 弥堂に投げ捨てられたメロを抱っこしてよしよししながら水無瀬はコテンと首を傾げる。

 

 

「お前、変身しないと魔法は使えないと言っていなかったか?」

 

「へ?」

 

 

 首を傾けながら宙空を見上げ「んー?」とよく考えてから水無瀬は答える。

 

 

「うん、そうだよ。魔法少女にならないと魔法は使えないの!」

 

「……今、使ったよな?」

 

「え……? あっ――⁉ ホントだ! なんでぇ⁉」

 

「それを今、俺が訊いたんだが……?」

 

「あ、そっか、そうだよね。なんでだろうね? 不思議だねー?」

 

「お前……、それすらも自分でわかってねえのかよ……」

 

 

 これだから天才は嫌いなんだと弥堂は眉間を揉み解して、気分を切り替える。

 

 

「まぁいい。ちょっとあっちに向けて弾撃ってみろ」

 

「せみなーれ?」

 

「何でもいいが威力は最低限にしろよ」

 

「うん、わかったぁ」

 

 

 言われるがままに素直に従う水無瀬は、「むむむっ」と念じてから「えいっ」と気合を発した。

 

 

 しかし、今度は何も起こらない。

 

 

「ダメみたい?」

 

「……そうか」

 

 

 クルっと上半身を回して自分を見上げてくる少女に、『なんなんだ、この意味のわからない生物は』という本心を隠して胡乱な瞳を向ける。

 

 

「もういい。それより自分の服を直したらどうだ?」

 

「そういえばリボンとれちゃったんだった」

 

 

 弥堂に促され、水無瀬は再度「むにゃむにゃ」と何かを唱えて、そして「う~ん」と唸り始める。

 

 

「……どうした?」

 

「あのね? ダメみたいなの」

 

「駄目とは?」

 

「出来ないみたいなの」

 

 

 水無瀬の様子を不審に思って声をかけると、そのように申告される。

 

 

「……出来ない、とは魔法が使えないという意味か? それとも自分のは直せないということか?」

 

「う~ん……、どうなんだろう?」

 

「自分でわからないのか?」

 

「うん……、なんかダメだーってなっちゃうの」

 

「そうか」

 

 

 正直なところ彼女が言っていることは何も理解できなかったが、彼女のことに関しては理解しようとするだけ無駄な気がしてきて適当に流す。

 

 実際には、この魔法の“出来る”と“出来ない”は割と重要なことのように思えるが、今日のところは他に優先することがあるので、とりあえずはいいだろうと判断をした。

 

 

「よし、帰れ」

 

「え? あ、うん。バイバイっ、弥堂くん」

 

 

 帰宅を命じたが彼女は川の水に尻を浸けたままでヒラヒラと手を振ってくる。

 

 

「バイバイじゃねえんだよ。さっさと立って家に帰れ」

 

「えっと……、それがね? 安心したせいか足がヘナヘナになっちゃって……」

 

 

 そう言って「えへへ」と苦笑いをする彼女に嘆息する。

 

 

「マナ、大丈夫なんッスか?」

 

「うん。ケガしちゃったとかじゃないから。少し疲れちゃっただけかも」

 

「……立てないのか?」

 

「うん。でも、ちょっと休めば元気になると思うの。だから弥堂くん先に帰っちゃって平気だよ?」

 

「…………」

 

「弥堂くん……?」

 

「少し待て」

 

 

 黙って懐を探り出した弥堂を不思議に思い、顔を覗き込んでくる彼女に断りを入れて目的の物を探す。

 

 

 懐から取り出したのはスマホだ。

 

 

 画面を点灯させロックを解除するといつも通り待ち受け画面に移行する。

 

 

 ゴミクズーとの戦闘で派手に大立ち回りをしたので、ポケットから落として紛失していてもおかしくなかったし、そうでなくとも攻撃を受けて吹き飛ばされたり転倒したりもしたので、壊れていたとしてもおかしくはない。

 

 防水加工されているのとはいえ、あれだけ深く川に潜ったのでさすがに駄目かとも思ったが、特に問題なく動くようなので、運がいいと弥堂は一定の満足感を得た。

 

 

 画面を指で操作し立ち上げたアプリは、Y'sが制作した『Mikkoku Network Service』だ。

 

 アプリ内のマップ機能を表示させると新美景駅周辺の地図が表示される。

 

 

 画面上にはいくつかの光点が動いている。

 

 光点には赤色、緑色、白色の種類がある。

 

 弥堂はそのうちの一つ、白色の光点をタップした。

 

 

 すると見慣れない電話番号がポップアップし、さらにそれをタップすると非通知設定で通話が発信された。

 

 

『……なんだァ? 誰だよ』

 

「よう、モっちゃん。随分楽しそうにしてるじゃないか」

 

『んだテメェ、誰よ? オレに上等クレてんのか?』

 

「俺が誰かわからないのは、俺をナメてるってことでいいのか?」

 

『アァっ⁉ わけわかんねこと言いやがってケンカ売ってんの…………、あ、あの……、もしかしてビトーくん、ですか……?』

 

「そうだ」

 

 

 最初こそ威勢のよかった電話相手だが、啖呵をきっている途中で誰と話しているのかに気づいたようで、尻すぼみに語調が弱くなっていった。

 

 

『な、なんでオレの番号を……』

 

「そんなことはどうでもいい。それよりも、お前今駅前にいるな?」

 

『えっ⁉ あ、いや、これは……』

 

「随分と真面目なようで俺は感心しているぞ」

 

『ま、待ってくれ! 違うんだ! これは――』

 

 

 何やら言い訳のようなものを始めたが弥堂は聞く耳を持たない。

 

 

「なにを焦っている。俺は感心していると褒めたんだ」

 

『た、頼む……っ! 許してくれ』

 

「お前がなにを怯えているのかわからんな。別に皮肉で言っているわけじゃないぞ。何故ならお前は仕事をしているんだからな」

 

『――えっ?』

 

 

 困惑した様子の相手に弥堂は提案をしてやる。

 

 

「お前は俺の指示どおり、駅前をパトロールして道草をする不届き者を探しているんだろ?」

 

『ふとどき……? えっ……?』

 

「違うのか? まさか、放課後に道草をするなという命令を無視してお前自身が遊んでいるわけじゃないよな?」

 

『あっ――⁉ ち、ちがうっ! アンタの言うとおりだ……! オレらはアンタの役に立つためにワリィ奴を探してたんだ……っ!』

 

「そうか。それは立派だな」

 

 

 ようやくこちらの意図を察してくれたようで満足する。

 

 

「ところで、だが。お前らが優秀すぎて俺は急にお前らを殴りたくなってきた。5発ほどな」

 

『えっ⁉ や、やっぱりキレてんじゃ――』

 

「5人だ」

 

『ご、5人……?』

 

「1人密告するたびに1発チャラにしてやる。五体満足でいたければしっかりと働けよ」

 

『わ、わかった! わかったよ……!』

 

「MNSのアプリは入れてあるな?」

 

『え? あ、あぁ……。入れてるっつーか、送られてきたメールのリンク押したら勝手にダウンロード始まってよぉ、位置情報とか近距離無線とかがONになりっぱなしなんだよ。これ入れてからやたら充電減るの早くなったし、このアプリなんなんだよ、コエェよ』

 

「うるさい。そのアプリでしっかり密告しておけよ。死にたくなければな」

 

 

 まだ相手が何かを喋っていたが、一方的に用件を伝えて弥堂は通話を切った。

 

 

「よし、いくぞ」

 

 

 そしてペタンと座ったままぽけーっとこちらを見ている水無瀬に手を差し出す。

 

 

 水無瀬は弥堂の手をジッと見てからハシッと両手で掴まえ、そしてコテンと首を傾げた。

 

 

「……家まで送ってやると言ってるんだ。早く立て」

 

「えっ? でも、そんなの悪いよぉ。私なら少し休めば――」

 

「ここにお前を放置していって敵に襲撃されたとなったら、そっちの方が面倒だ」

 

「で、でも――」

 

「チッ、もういい」

 

 

 痺れをきらした弥堂は水無瀬の言葉を最後まで聞かずに、彼女の奥襟を掴みあげる。

 

 

「――へっ?」

 

 

 そして彼女を真上へ放り投げた。

 

 

「――ひやぁぁぁぁぁっ⁉」

 

 

 悲鳴をあげて落ちてくる彼女へ背中を向けて受け止める。

 

 

「――ひゃふっ」

 

 

 聞いたことのない種類の悲鳴を漏らす彼女を背負って問答無用で川縁へと向かう。

 

 

「えっ? えっ……? あれっ……?」

 

「オイっ! このヤロウっ! 嫌がるJKを強引に送ろうだなんてエロいこと考えてだろッス!」

 

「うるさい黙れ」

 

 

 にゃーにゃーと騒ぐポンコツコンビにパワハラをかまして、水無瀬を強制おんぶしながら、彼女の自宅のある新興住宅地へ繋がる橋を渡るために、弥堂は土手を登り始めた。

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