俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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序章20 奇人の箱庭 ➁

 

「ひ……ひどすぎる……」

 

 その様子を後方で見ていた希咲は呆れるとともに、やはりあの男と味方的な関係でいることに強い恥じらいを覚え、たまらず顔を両手で覆う。

 

「ステキ……なんてドSなの……」

 

「あんた聖人が好きなんじゃないの?」

 

「ふふっ、それはそれ――これはこれよ」

 

「クソ女が」

 

 そして自身の隣でそれをうっとりとした目で見つめる白井に対して、自身の顏を覆う指の隙間からチラっと覗きながら貞淑さを問うと、あまりに都合がよく節操のない言葉が返ってきたので軽蔑の眼差しに変えた。

 

 

 

「くっ、なんて悪辣で横暴なんだ。だけど甘くみないでほしいね。確かにボクらは弱いけれどその分仲間同士の結束は固いんだ! 白井さん以外。自分が助かりたいからって仲間を売るような奴は一人もいないよ! 白井さん以外。だってそうだろぉ⁉ 西野君! 本田君!」

 

 圧倒的に不利な状況の中で突きつけられた悪辣で非人道的な要求に、法廷院は悔し気に顔を歪めながらもしかし、自分たちは決してそのようなやり方には屈しないと自らの意思を表明し仲間たちにも同意を求める。だが――

 

「――僕は命令されただけなんです! 本当はこんなことしたくなんてなかったんだ!」

「――お願いします! なんでも喋ります! 僕だけは許してください!」

 

「あんれぇ~?」

 

 しかし、自身の両サイドに居たはずの仲間たちはすでに弥堂の足元に縋りついていた。結束の固い信頼できるはずの味方は、仲間を売ることを秒で決断し助命を嘆願していた。

 法廷院はチラっと高杉を見遣った。彼はまだ気絶して床に倒れ込んでいた。

 

「ふぅ、やれやれだよ。まぁ、これも人の持つ弱さだよね。仕方ない、ボクは許そうじゃないかぁ」

 

 法廷院は諦めたように嘆息すると車椅子に座り直し、背もたれに自重を預けた。

 

 

「僕たちに背後団体なんていません。ここにいるメンバーで全員です!」

「ずるいよ西野君、それ僕が言おうと思ってたのに!――あ、ちなみにお金とかもちろん貰ってないです、自費で活動というかそもそも予算が必要になるような大層なことはやってません。放課後に適当に誰かに難癖つけるだけの活動です」

「おい、本田っ。今僕が喋ってるんだぞ!――あ、ちなみにこの本田は過食症とか言ってましたが只の自称です。医者には単なる食べすぎだと診断されてます」

「ひどいよ! 何で言うのさ! そういう西野君だって、さも高尚な意識高いビジネス書的なのを読んでるのをクラスで馬鹿にされたみたいな体でいつも語るけど、バレて晒されたのはエロ小説だろ⁉ 『メスガキ』とか『わからせ』とか品性を疑うね! なんで教室で読んじゃったのさ!」

「仕方ないだろう⁉ 難しい本買い集めすぎて何から何まで全部積んじゃってるんだよ! 時間がいくらあっても足りないんだ!」

 

 

 自分だけは助かりたい一心でお互いの恥部を暴露しあい醜く仲間割れを始めた目の前の二人に弥堂はまたも失望した。白井から得られた情報と大差がなかったからである。視線を法廷院の方へと向けてみると彼は無様に味方同士で蹴落とし合う同志二人を微笑ましそうに眺めていた。

 

 こいつを尋問して吐かせるべきか――と弥堂が思考を巡らせたところで法廷院の目がこちらを向き、

 

「あぁ、ボクから聞いても無駄だよ。彼らが言ったことで全部さ。キミの望むような新しい情報は残念ながら与えてあげられないね」

 

 先回りしてそう返答してくる。

 

「…………」

 

 法廷院の言っていることをそのまま信用するわけではないが、何か隠していることがあったとしても、今日彼らと対峙してみてわかった。彼らはただの高校生だ。例え裏があったとしてもどうせ大した脅威にはならないだろう。

 

 弥堂はそのように見切りをつけると同時に彼らへの興味を失い、急速にやる気もなくなった。こいつらを捕まえたところで、得られる評価から書類作成などにかかる手間を差し引いたら赤字になるのではないかと気が重くなる。

 

 まともに対処をするにもやっていることがしょぼすぎて、まず一発退学なんてことには出来ない。だとすれば解散するよう指導をしてその後定期的に監視をすることになるのだが、とてもではないがこんなチンケな連中にそんな時間と労力は割けない。

 よって、なかったことにして放置しておくのが最も効率がいいと考える。こうしてつまらない小悪党が蔓延り続けるのだろうと世の無常を想った。

 

 

「お前らもう帰れ、用済みだ」

 

「えっ? 僕達帰れるんですか⁉」

「誰も死ななくていいんですか⁉」

 

 突然今までの強硬な姿勢を翻した弥堂に西野と本田は驚く。半ばやけくそになりながら洗いざらい聞かれてもいないことまで必死に喋っていたので若干疑心暗鬼だ。

 

「ちょっと待ってくれよ、狂犬クン。そんな風に僕たちに価値がないみたいな言い方はないんじゃないかなぁ? 『差別』する気かい?」

 

「代表⁉」

「ちょっと何余計なこと言ってんですか⁉」

 

 まさかの身柄解放に不満そうな態度を見せる自分たちのリーダーに西野と本田はさらに驚いた。

 

「価値がないどころかお前らは相手にするだけ労力の無駄だ。失せろ役立たず」

 

「なんてこった。役立たずだって? なんてひど――「ちょっと待った」――んん? 何だい希咲さん?」

 

 またも口論を始めそうな弥堂と法廷院の会話に希咲が口を挟んだ。

 

「それならあたしの方から質問させてもらうわ。てか、一度訊いたけど答えてもらってないことがある」

 

「はーん? なんだっけかなぁ。聞かれたからって簡単に答えるだなんて思わないでほしいなぁ」

 

 挑発的な言葉とは裏腹にその顔は構ってもらえてうれしそうだ。

 

 

「うっざ……まぁいいわ。ねぇ――あんたがさっき言ってたあたしが『過保護』って、あれなに? 誰のこと言ってるの?」

 

 彼らと対峙した最初の方で話題にあがりそのままうやむやになっていた件だ。まるで自身の親友である水無瀬 愛苗のことを知っているかのような口ぶりで話していた法廷院の意図がずっと気に掛かっていたのだ。

 

「ふふぅ~ん。なんのことだっけかなぁ。ボクそんなこと言ってたかなぁ」

 

「あんた、また惚け――「はったりですよ」――は?」

 

 意地の悪い顏で惚けようとした法廷院に希咲が苛立たし気に言い募ろうとしたが、その言葉を言い切るよりも早く、法廷院の仲間である西野が白状した。

 

「代表のよくやる手口なんです。あぁやって知っているように仄めかして、相手がうっかり誰かの個人名を出したら『そうそう、その〇〇ちゃん』みたいな感じで」

 

「はぁっ⁉」

 

 まるで詐欺師のようなやり口に驚きつつも拍子抜けした。

 

「ちょっと西野君、困るよぉ。もうちょっと引っ張りたかったのにぃ」

 

「勘弁してくださいよ、代表! せっかく見逃してくれそうなのに何でまた煽るんですか⁉」

 

「だってさぁ、なんか悔しいじゃん? ボクらは弱いから勝てないのは仕方ないけれど、相手にする価値なしみたいに無視されるのは腹立つじゃん?」

 

「なにめんどくさいこと言い出してるんですか! 今日はもうやめときましょうよ」

 

「待ちなさいよ。まだ、ちゃんと答えてもらってないわ」

 

 西野と内輪揉めをしている法廷院に強くそう問いかける。希咲のその眼差しの真剣さに法廷院は居住まいを正した。

 

「そうだね、真面目に答えようか。――希咲さん。ボクはキミのいうその誰かを知らない。少なくとも今は、まだ、ね」

 

「……なんか含みのある言い方ね」

 

「他意はないよ。言葉通りそのままの意味さ。知らないしボクの方からそれを積極的に知ろうとするつもりもない。最初に言ったとおりに元々ボク個人としてはキミに害意はないんだ。今日は白井さんがさ、どうしてもキミに痛い目を見せたいっていうから仕方なくこういった形になったんだ。本当だよ、信じてほしい」

 

「…………わかったわ。とりあえず、それで納得してあげる」

 

「やれやれ疑り深いねぇ――と言いたいとこだけど、そうしてくれると今回は助かるよ」

 

 完全に疑問が晴れたわけではないが一旦希咲と法廷院との間で折り合いがつく。この連中は『強い者』を標的にしているようだし、そうであるならば間違っても、小動物のように可愛らしい自身の親友である水無瀬 愛苗(みなせ まな)が、彼らの標的になることはまずないだろう。

 そのように希咲は納得をすることにした。

 

 

 調停に至った希咲と法廷院のやり取りに白井がチッと舌を打った。

 

「おい、この騒ぎはお前が原因なのか?」

 

「え? なに? 弥堂クンもしかして私に興味あるの? やだ……そんないきなりガツガツこられても、その、困るわ……」

 

 まだ僅かに風紀委員の職務に対する責任感が残っていた弥堂は、希咲と法廷院の会話から『白井が原因である』という部分を聴き咎め、本人に詰問をする。すると唾でも吐き捨てそうな顔で悪態をついていた地味女が急に頬を赤らめもじもじとし始め、何やらめんどくさいリアクションをした。

 

「お前になど興味があるか。いいから訊かれたことにだけさっさと答えろ」

 

「なによ、自分のしたいことだけさっさと済ませようというの? そういうのも嫌いじゃないけれど、でもその前に私たちの関係性をはっきりとさせるべきだと思うわ。私のコトが知りたいのなら貴方はそれ相応の努力を私に見せるべきよ」

 

「ほう、随分と強気な態度だな。なんならお前の身体に丁寧に訊いてやることもできるんだぞ」

 

「んっ……いきなり身体を要求してくるだなんて……強引なのね……でもその前に貴方の口からはっきりと言うべきことがあると思うの。都合のいいだけのオンナになんて簡単にはなってあげないわ」

 

「お前がどうなるかは俺が決めることだ。お前の都合など知ったことか」

 

「んんっ……なんて勝手なヒトなの……嫌いじゃないわ」

 

「あんたたち会話が成立してる風な顔して喋ってるけど、お互い言ってること一個も噛み合ってないからね」

 

 自分の言いたいことだけを言い、聞きたいことしか聞こえない。そんな弥堂と白井のあまりに酷いコミュニケーションを見兼ねて、希咲は自分にも関係のある内容でもあるし、話を取り持ってやることにした。

 

 

「えっとね、弥堂。その、あたし的にはわりとよくあることなんだけど。なんていうか、白井さんが聖人のことが好きみたいでそれで――」

「聖人? ……あぁ、『紅月ハーレム』案件か」

「は? なんであんたまでその不快な呼び名知ってるわけ……?」

 

 他人のことに一切の興味がなさそうな弥堂にまでハーレムの噂が知られていることに希咲は大変な羞恥を覚えた。

 

「知っているもなにも、それ絡みの揉め事は多いからな。風紀委員会の定例会議でも定期的に議題にあがる」

「うそでしょ……イヤすぎるんだけど……」

「あまり派手にやりすぎんことだな。俺は興味ないが委員の中にはハーレムを解散させるように指導すべきだという意見を挙げる者も少なからずいる」

「解散もなにも実際はハーレムなんかじゃないのよ。あたしだって別に聖人と付き合ってないし、絡んでくるやつらにも何度も言ってるのに――」

「お前らの痴情の真相などどうでもいい。事実かどうかはこの場合さして重要ではない」

「はぁ⁉ なんなのよそれ!」

「それが事実だろうとそうでなかろうと、実際にそれが事実であるという通説が存在することが前提となっている上で、こうしていくつも問題が起きている。俺たちはその起こった問題に対処するのが仕事だ」

「それは、まぁ……そうだろうけどさ……」

 

 実質的に無関係である風紀委員にまで迷惑をかけていることには申し訳なさを感じつつも、やはり事実無根なことで自分が被害を被り続けている理不尽さには納得も出来ず、希咲は唇を尖らせる。

 

「もしも、先に言った――お前らを解散させるべきだという意見が通り、俺にその仕事が振られたのならば、俺はそれに対処をしなくてはならなくなる。例え俺自身が興味を持っていなくとも、お前らにとって事実ではなかったとしても、だ」

「あんたってなんか達観してんのね。仕事に疲れたおじさんサラリーマンみたい」

「それが役割だからな。まぁ、実際お前らのそのハーレムとかいう如何わしいものを解散させたところで解決するとは俺には考えられん。実に無駄な上に下らん仕事だと思うから、会議で意見を求められれば風紀委員としての関与に反対はするがな」

「へぇ。あんたって考えるのめんどいからとりあえず全員逮捕ーって感じかと思ってたわ」

「そんなわけがあるか」

 

 先程までの弥堂の仕事ぶりを見ていて、疑わしきは粛清という過激派脳筋かと思っていたので希咲は意外な印象を受けた。

 

「ちなみに、あんたはどうやって解決するのがいいと思う?」

「ふむ、そうだな……先のお前の話を聞く限り、襲ってくる連中に事実を訴えても無駄なのだろう? ならばハーレム解散を宣言したところでそれは変わらんだろう」

「そうね。実際あたし小学校の時からずっと否定してるのに誰も信じてくれないわ」

「今すぐに思いつく限りでは方法は二つだ」

「ふむふむ」

 

 わりと真面目に考えて答えてくれる弥堂に希咲も、そういやこいつと普通に会話するのこれが初めてかもとか考えながら、ちゃんと話を聞く態勢をとる。

 

「一つは、紅月 聖人(あかつき まさと)を退学にすることだ」

「は?」

「腐った実に虫が集って来るのならば、その実を捥いで捨ててしまえばいい。これが一番楽で手っ取り早いだろう」

「腐った実はあんただ、あほっ」

「しばらくは学園に残ったお前らに絡む者もいるかもしれんが、本人が目に入る場所にいなければいずれ風化するだろう。ガキの恋心などそんな程度だ」

「あんたのろくでもなさそうな恋愛観は若干気になるけど、とりあえず却下よ」

 

 早くも真面目に聞いて損したとばかりにジト目で案を棄却する。

 

「そうか、では二つ目だ」

「なんかもう聞くまでもなさそうだけど、とりあえず言ってみなさい」

「安心しろ、こちらの方が確実で即効性もある」

「むしろもっと不安になったんだけど」

「お前らの中の誰かが紅月の子を孕んで出産を理由に退学すればいい。家庭を壊しにいく覚悟まで持った奴はそこまで残らんだろう」

「思ってた以上にクソね! んなこと出来るわけないでしょうが!」

「だが、これが効率がいいぞ」

「効率で妊娠ができるか! あほ!」

 

 コンプライアンスの欠片もない方法論に、希咲はこの男にどうやって女性の尊厳という概念を教えるか悩む。

 

「では逆にこいつらを妊娠させるのはどうだ?」

「はぁ?」

 

 顎をしゃくって白井を指し示す弥堂の言葉に希咲は眉根を寄せる。

 

「お前らが妊娠したくないのであれば、紅月に懸想している女の誰でもいいから紅月の子を仕込ませればいい。うまくいけばやっかみの矛先もそいつに押し付けられるぞ。どうだ?」

「どうだ?――じゃねぇわよ、あほんだらっ。とりあえず気軽に女子高生を妊娠させようとするのやめなさい」

 

「黙りなさい希咲 七海! これは私と彼の問題よ。口を挟まないでもらいたいわね」

 

「あんたが口を挟むな。ややこしいから」

 

 黙って聞いていたと思ったら突如鼻息荒く白井が会話に割り込んできた。

 

「つまり弥堂クン、貴方はこう言いたいのね。私に他の男に抱かれて来いと」

 

「別にお前じゃなくても構わん。紅月に劣情を催している女などいくらでもいるだろう」

 

「他の女の話はしないで! 今貴方の目の前にいるのは私なのよ‼」

 

 白井さんは血走った眼で激昂した。弥堂はめんどくさそうな顔をした。

 

「じゃあお前で構わん。紅月が欲しいのだろう? どうなんだ」

 

「そんな迂遠な言い方しないで、はっきり命令すればいいじゃない」

 

「そうか、ではお前ちょっと行って紅月に抱かれてこい。しっかり孕めよ」

 

「くっ、ついさっき私を口説いたその口で他の男と寝て来いなんて言うの? ひどいわ……でも命令なら仕方ないわね、いいわ、貴方の言う通りにします。その代わり私のこと捨てたら許さないわよ」

 

「それは紅月に言え」

 

 何言ってんだこいつと思いながらも一応本人の了承はとれたようなので、弥堂は面倒だからと白井の言葉の細部は流し希咲へと向き直った。

 

「おい、話はついたぞ。これで解決するだろう。感謝することだな」

 

「嘘でしょう……」

 

 頭のおかしい男の頭のおかしい提案に頭のおかしい女が乗ったという事実に希咲は絶望した。嘘だと思いたいし、普通に考えればそんなことする女などいるわけないのだろうが、何せ白井だ。本人の申告では既に紅月に対して毎朝常軌を逸した痴女的行為を働いているらしい。彼女ならやりかねない。

 

 こんな頭のおかしいこと絶対に阻止しなければならないが、白井を説得しようとしても話が通じるとは思えない。ましてや彼女を近づけないように紅月に張り付いてガードするなど以ての外だ。

 そんなことをしたらどうせ、自分の男に一切女を近づけないようにするうざい彼女というレッテルを貼られて、より一層自分へとヘイトを集めることになるに違いない。戦況は希咲にとって絶望的だ。

 

 こうなったら紅月の朴念仁ぶりに賭けるしかない。今まではさんざっぱら彼の鈍感さに苛立たされてきたが、かくなる上は奴の鈍感主人公補正でどうにか躱してもらうしかない。それでうまくいく気はまったくしないが、自分が最前線に立って対処するのも絶対に嫌だ。

 

 とはいえ、厄介な友人ではあるが、小学校来の付き合いだ。いくらなんでも高校在学中に幼馴染が同じ学園の女子を妊娠させて――などという醜聞は見たくない。

 

 なにより彼の父親の実家はどこぞの由緒正しい旧家である。聖人の父上殿は色々とやんごとなき事情で長男でありながらその実家を半ば出奔している状態らしい。ただでさえ跡目のことですでにかなりの緊張状態にある中、その息子の聖人がどこぞの馬の骨とも知れぬ痴女との間に学生の身分で軽率に子など作れば――その先は考えたくもない。

 

 紅月家、天津家、蛭子家。

 幼馴染たちの家はどこも古くから関わりのあるややこしい血筋であるようで、希咲は唯一幼馴染グループの中では、それらと一切関係のない一般家庭の出身なのだが、これまでにすでに何度か彼らの『ご実家』関連の揉め事に巻き込まれたことがある。

 

 その『ご実家』関連の方々はとにかくもう洒落が一切通じない。現実離れした常識の中で長年栄えてきた彼らが時たま持ち込んでくる、常識離れしたトラブルだけでもう食傷気味であるというのに、こちら側から向こうに火種を放り込むなど言語道断だ。全力で関わりたくない。

 

 

(あれ? これってもしかして、この場にいたからってあたしも共犯になったりしないわよね……?)

 

 

「ではこうしよう。まず希咲が奴を呼び出す。ノコノコとやってきた所を俺が不意打ちで無力化をし連れ去る。そのまま密室に放り込むからお前が犯せ」

 

「待ってちょうだい。向こうから手を出したっていう既成事実が欲しいわ。私も一緒に攫われたって体にして、裸で二人まとめて密室に監禁するっていうのはどうかしら」

 

「そうだな、奴も男だ。数日もあればお前程度の女にでも欲情して襲い掛かるだろう」

 

「確実に一度で着床にまで持ち込みたいわね。排卵日の調整が必要よ。半月ほど待ってちょうだい」

 

「いいだろう。その間に俺が場所と食料の備蓄など準備をしておく。必要な物資があれば事前に申告しておけ」

 

「了解よ。それなら――」

 

 

 頭のおかしい男と女が早くも具体的かつ詳細に犯行計画を詰め始めており、そしてその計画に自分も勝手に組み込まれていて、希咲は血の気が引いていくのを自覚した。

 

「もうやだ……この学園、頭おかしいのしかいない……」

 

 

 そもそもそんな話してなかったじゃん、どうしてあたしが襲われたかって話だったじゃん、なんで聖人を襲う話になるわけ? と、眩暈がするような徒労感に苛まれる。

 七海ちゃんは無性に親友の愛苗ちゃんに会いたくなった。

 

 

 

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