俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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1章54 drift to the DEAD BLUE ①

 カツカツと――

 

 

 不機嫌そうに爪をスマホの画面に打ち付ける幼馴染の前で、蛭子 蛮(ひるこ ばん)は居心地悪そうに身動ぎする。

 

 別に彼が彼女を怒らせたわけでもなく、彼が彼女に怒られているわけでもないのでそう縮こまる必要はないのだが、女の子が機嫌を悪くしていると何故か収まり悪くなるので、彼は190cmオーバーの身体の背を丸めやり過ごそうとしている。

 

 

 そうしてわかりやすく不機嫌になっている少女――希咲 七海(きさき ななみ)の様子を窺っている男子は蛭子くんだけではない。

 

 彼と似たように川のほとりで背を丸める男子もいた。

 

 

「――ペトロビッチくん、ペトロビッチくん」

 

 

 その男子はコディアックヒグマのペトロビッチくん3さいである。

 

 

「ペトロビッチくん、ちょっとコロンって。コロンってしておなか見せてくださいっ」

 

 

 ウザ絡みしてくる望莱にペタペタと毛皮を触られても意に介さず、ペトロビッチくんはその体重750㎏のショタボディを伏せ川原にお腹をつけてジッと希咲の様子を窺っている。

 

 グルルッと喉の奥で低く唸りかけ、努めて自制する。

 

 

――あのメスの機嫌を損ねてはならない。

 

 

 己をそう戒め、ペトロビッチくんは自分がこのニンゲンたちの群れに組み込まれた経緯を考える。

 

 

 アラスカ半島にて生まれたペトロビッチくんはこれまでに何度かニンゲンによって生息地を変えさせられていた。

 

 ここに来る前は寒い場所でしばらく暮らしていたが、頼んでもいないのに勝手にエサを持ってくる老いた二本足をうっかり食ってしまい、眠くなったのでそのまま寝ていたら起きた時には檻の中に居た。

 

 その後少ししてからこの島へ空輸されてくることになる。

 

 

 ニンゲンの都合で何度も棲み処を変えさせられている形だが、彼はそのことを特になんとも思っていなかった。

 

 コディアックヒグマの性格は温厚で臆病な面もあると謂われているが、ロシアにてピョートルおじいさんとしばらく暮らしていたペトロビッチくんは人間に慣れており、そしてナメきっていた。

 

 こんなひ弱な二本足などいつでも殺せる。だから腹が減りさえしなければいちいち目くじらを立てることもない。

 

 そのようなスタンスだ。

 

 

 新たな棲み処となったこの島に関しても自然豊かで餌は豊富、他には自分より弱い動物しかいないので脅かされることもない。自分がこの森の王だ。

 

 ずっと気温の低い場所で生まれ育ったので気候には慣れる必要はあるが概ね不満はなかった。

 

 

 ここには見たことも食べたこともない動物もたくさんいて、それも楽しみにしつつ、平穏に暮らしていけそうだと、彼はそう思っていた。

 

 

 昨日、このニンゲンの群れに出遭うまでは。

 

 

 ここにはペトロビッチくんだけでなく、ニンゲンによって様々な動物が運ばれてくる。

 

 だからニンゲンを見かけること自体は特段珍しいことではない。

 

 しかしこのニンゲンたちは巣を作ってここで生活を始めた。

 

 そしてペトロビッチくんは森に入ってきたヤツらに遭遇することとなった。

 

 

 ニンゲンは臆病な生き物だ。

 

 彼を見たニンゲンは例外なく怯えた様子を見せた。

 

 だが、このニンゲンの群れは少々毛色が違った。

 

 

 チラっとペトロビッチくんは目線を横に動かす。

 

 そこに居るのは紅月 聖人(あかつき まさと)天津 真刀錵(あまつ まどか)、マリア=リィーゼの3名だ。

 

 

 バーベキューコンロで楽し気に肉を焼いている彼らを、ペトロビッチくんは昏い火を灯した瞳で見る。

 

 

 最初に遭遇したのはこの3匹だ。

 

 

 こいつらはペトロビッチくんと森の中で出くわし、これまでのニンゲンたちと同じ様に驚きに目を見開いていた。

 

 しかし、その先は違った。

 

 

 大抵のニンゲンの遭遇後の行動は腰を抜かすか悲鳴をあげて逃げていくかだったが、この3匹はあろうことかこの王に戦いを挑んできた。

 

 ひ弱なニンゲンの分際で。

 

 

 手始めにキーキーとメス猿のように鳴く煩い白い肉袋を自慢の爪で裂いてやろうとペトロビッチくんは丸太のような腕をブンっと振った。

 

 しかしその腕は白い肉袋に当たることはなく、そのメスを庇うために立ちはだかったナヨっちぃオスによって阻まれた。

 

 

 しかし咄嗟のことで威力は殺しきれなかったのか、オスメス揉みくちゃになってぶっ飛び、木に激突してオスは気を失った。

 

 だが、それだけのことでオスは裂けていなかった。

 

 王はそれが気に食わなかった。

 

 

 しかし、王が余裕でいられたのもそこまでだった。

 

 

 まず黒毛のシッポ付きのメスが手に持った枝を振ると木が斬り倒された。

 

 王の胴体よりも太い巨木が。

 

 

 木が倒れていくのを真顔で見ていると、番をやられて怒り狂った白い肉袋がキーキーと威嚇の鳴き声を上げた。

 

 すると森が燃え始めた。

 

 

 王は火に本能的な恐れを感じ逃げ道を見る。

 

 するとそこから新たなニンゲンが現れた。

 

 

「ペトロビッチくーん。なんでもペトロビッチくんたちは30cmなんていう立派なモノを持っているそうじゃないですか。ちょっとコロンってして飼い主であるわたしにクマさんおちんちんを見せてください」

 

 

 この黒毛のメスはヘナチョコだ。

 

 背中に登ってきて毛皮を引っ張ってくるのが鬱陶しいが相手にする価値はない。

 

 

 飼い主という立場を盾にセクハラをしてくるみらいさんを無視して、ペトロビッチくんは最初に見ていたテーブルの方へ目線を戻す。

 

 その目に写したのは硬いオスだ。

 

 

 遅れてやってきたこのニンゲンにしてはデカいオスは自分と正面から殴り合った。

 

 ニンゲンはひ弱だが、不可思議な道具を使い動物を上手く殺す。

 

 しかしこの硬いオスは肉体のみでこの王と渡り合った。

 

 

 爪でも牙でもこのオスを殺すことは出来ず、そして何度もヤツの前足がクマさんボディを打った。

 

 あのままずっと続けていたらもしかしたら負けていたのは自分かもしれない。

 

 ペトロビッチくんはそれを認めた。

 

 

 しかし、それでも自分は負けていない。

 

 思わずガゥと小さく鳴き声が漏れる。

 

 

 ペトロビッチくんがこの群れに連れられることになったのは負けたからで、ここでこうして大人しくしているのはシンプルに恐ろしいからだ。

 

 

 そして彼を負かしたのはここまでに挙げたニンゲンたちではない。

 

 彼に恐怖を植え付けたのは、シッポ付きのメスでも白い肉袋でもなければ、硬いオスでもない。

 

 

 燃え盛る炎の真ん中で硬いオスと殴り合い、何故かそれに楽しさを覚え始め、何故か相手に仲間意識を感じ始めた頃――

 

 

 そんな時に真の恐怖が現れた。

 

 

 ペトロビッチくんは慎重に目玉を動かし、硬いオスの向かいに座るメスを見る。

 

 

 キラキラとお日様に反射して不思議な色で毛並みが輝いているメス。

 

 あのキラ毛のメスこそが自分に敗北を教えた者であり、紛れもなくこの群れの王だ。

 

 

「あれ……? あぁ。ペトロビッチくんがプルプルしてたんですか? オモチャが誤作動したかと思ってびっくりしちゃいました」

 

 

 そしてペトロビッチくんに恐怖を教えた者でもある。

 

 

 キラ毛のメスの前で自分と互角に戦った硬いオスがビクビクしている。

 

 当然だ。

 

 自分と互角程度ではあのキラ毛のメスにとっては鮭のようなものだ。

 

 勝負になどならず、ただ狩られるのみだ。

 

 

 あの時、新たに増えた敵を見て、枯れ木のように細いメスだ。大したことはないと。

 

 ペトロビッチくんはそのように判断した。

 

 

 それよりも目の前のこの硬いオスだと、火に炙られ乾いた目を一度まばたきをした。

 

 そして瞼を閉じて開いたらキラ毛のメスがいなくなっていた。

 

 

 どこへ行ったと考える前に小さくうめき声が聴こえる。

 

 そちらへ目を向けるとシッポ付きと肉袋がキラ毛のメスにシバかれていた。

 

 

 この距離をいつの間にと、驚きにパチリとまばたきをしてしまうとまたキラ毛のメスが消えた。

 

 今度はすぐ近くでうめき声が聴こえる。

 

 

 そんなバカなと目を動かせば、目の前に居た硬いオスがすでにシバかれていた。

 

 

 なんという速度だと王は瞠目する。

 

 

 しかし枯れ木のような細い身体は脆いはずだ。

 

 一撃当てればそれで終わると、王は逞しい腕をブンっと振る。

 

 

 その瞬間、バチンっと視界が弾けた。

 

 

 次に目に入ったのは煙に汚れた空だった。

 

 

 地面に倒され空を見上げていたことに遅れて気付くと誇りが汚された気になり、怒りのままに身を起こした。

 

 キラ毛のメスへ威嚇の咆哮を浴びせようとした瞬間、視界が靴底で埋められる。

 

 

 そのまま吹き飛ばされ背後にあった木をヘシ折りながら地面を転がる。

 

 

 その時に、あの細い後ろ脚で蹴られたのだということに気が付いた。

 

 

 圧倒的な力の差を感じ取り、ペトロビッチくんはそこで戦意を失った。

 

 

 自分へ向けて何やら高い声で鳴いているキラ毛のメスが近寄ってくる。

 

 

 突然自分の前に現れ巨木を薙ぎ倒し、森を焼き、そして自分の爪が一切通用しない恐ろしいニンゲンたち。

 

 そしてそんなニンゲンたちを一瞬で全滅させた恐ろしいメス。

 

 

 ペトロビッチくんは手足を丸め、地に背を擦りつけながらキラ毛のメスに腹を見せて命乞いをした。

 

 

 その結果何故か許されこのニンゲンどもの巣に連れてこられたのである。

 

 

 ここまでの経緯を思い出したクマさんはギャルへの恐怖に震えた。

 

 

 自分はこの森の王だった。

 

 そしてもう王ではない。

 

 

 あのキラ毛のメスこそが新しい森の王だ。

 

 

「あぁーーっ! もうっ……!」

 

 

 キラ毛のメスが手に持った光る板を睨みながら鳴き声をあげる。

 

 今日もキラ毛のメスは機嫌が悪い。昨日も悪かったようだが、今日は尚更悪いようだ。

 

 

 向かいに座っている硬いオスがビクっと肩を跳ねさせている。

 

 それも仕方ない。

 

 自分と互角程度のオスではあのメスの前では怯えることしか出来ないのも当然だ。

 

 

 彼の王の前では自分たち弱き者どもは、せいぜい気分を害さぬよう身を丸めるしかないのだ。

 

 

 そんなことを考えながらペトロビッチくんが目を合わせないように王の様子を窺っていると、ふとキラ毛のメスがこちらへ目線を向けた。

 

 

 パチリと目が合い、ペトロビッチくんは体長3mにも届きうるショタボディを硬直させる。

 

 

 するとキラ毛のメスはニコっと笑った。

 

 

 唐突な王のファンサにペトロビッチくんはだらしなく舌を垂らしハッハッと浅く呼吸をした。

 

 

 王が自分に笑顔を向けた。

 

 

 喜びがあった。

 

 

「みらいー? 話進まないからそろそろ戻ってきてよー!」

 

「はぁい」

 

 

 勿体なくも王に呼びつけられた黒毛のメスが背から降りる。

 

 

「じゃあペトロビッチくん。あとで見せてくださいね?」

 

 

 ペトロビッチくんはベロンと舌を脱力させると白目を剥き、最大限の侮蔑の意を表した。

 

 そして自分から離れて王の元へ向かう黒毛のメスの背を昏い目で見つめた。

 

 

 

 

「――えっと、またあたしたちの話の続きでもい?」

 

 

 望莱がテーブルにつくと希咲はそう蛭子へ伺う。

 

 

「あぁ、オレのはアイツらが合流してからでいいぜ。今言っても二度手間になるしな」

 

 

 希咲の話とは水無瀬とクラスメイトたちの異変の件で、蛭子の話は昨夜この島で起きた異常についての件だ。

 

 

 昨夜望莱とともに考えたことと、今朝水無瀬のスマホを使って弥堂からかかってきた電話で得た情報。

 

 それらを含めた軽い経緯は朝食の時に全員に共有していた。

 

 

 蛭子だけは島の異常回復の為に朝食の席にいなかったので、ここで改めて相談していたのである。

 

 

 彼は昨夜から徹夜で働きづめで、希咲たちが宿泊しているロッジには帰ってなかった。

 

 そのため、次の拠点へ移動するルートの途中地点であるこの川原で昼食にバーベキューを行うことにし、その際にここで合流をしようとそういう話になっていた。

 

 

 そして希咲の口からあらましを語り、その途中で飽きてしまったみらいさんが離席しペトロビッチくんにちょっかいをかけに行ってしまったので少し休憩としていた。

 

 その際にスマホとにらめっこをしている希咲が何故かやたらとイライラしていて、それに関わりたくねーなーと蛭子くんが気配を殺していたのがさっきのことで、そろそろ再開しようとみらいさんを呼び戻したのが今しがたのことである。

 

 

「クラスの連中はやっぱりおかしいのか?」

 

「そうね。もう気のせいじゃ済ませられないと思う」

 

「そうか……」

 

 

 はっきりと断言する希咲の言葉に蛭子は少し考えこむ仕草を見せる。

 

 

 朝の忙しい時にいきなりビデオ通話をしてきた弥堂には遺憾の意を表明したいし非常に業腹ではあるものの、皮肉にもそれによってこの目で確認出来てもしまった。

 

 ここに至っては何かの間違いや弥堂の虚言だとは、希咲にはもう言えない。

 

 

「あんたはどう思う?」

 

 

 希咲の問いに蛭子はすぐには答えずに一度希咲の顔をチラリと見て、それから望莱へ目線を向けた。

 

 

「そいつはなんて?」

 

「犯人がいる前提なら、やろうと思えばできるって。そうよね? みらい」

 

「ですです」

 

 

 真剣な表情の希咲と蛭子とは対照的に望莱は軽く答える。

 

 二人もそれを咎めはしない。

 

 

「……だな。可能か不可能かってことなら可能だ」

 

「実際は難しい?」

 

「いや、カンタンだ」

 

「え?」

 

 

 ここで蛭子と望莱の見解が別れる。

 

 望莱からは大分難しいと聞いていたので希咲は驚く。

 

 

「あくまで条件付きだがな」

 

「条件って?」

 

「場所を限定することだ。例えば学園の中だけ、とかな」

 

「場所……」

 

 

 それは望莱も言及していた。

 

 

「でも、御影の――理事長の居る場所でそれは無理だって……」

 

「あぁ、そういうイミか。実行が可能かってイミなら相当ムズイな。オレが言ったのは実現が可能かってイミだ」

 

「あー、ね。そっか……。でも、どうやって?」

 

「そうだな……。オマエに分かるもので言うと“認識阻害の結界”ってあンだろ?」

 

 

 言いながら蛭子は懐から一枚の札を取り出しテーブルに置く。

 

 

「うん。知ってる。つか、あたしも何回か使った」

 

「オレらが街中で“シゴト”すっ時に使うよな? この呪符を使った一定範囲の場所に他の連中の興味や関心が向かないようにしたり、その場所を無意識に避けたくなる。そういう働きかけが出来るシロモノだ」

 

「それと一緒ってこと?」

 

「……水無瀬のことを忘れるって言ったな?」

 

「うん。弥堂の言葉を借りると、記憶から消える系の忘れるじゃなくって、記憶にはあるけどそれを意識出来ないから思い出せなくなる。そういう系の忘れる……的な?」

 

「弥堂せんぱいは『系の』とか『的な』とか言ってませんよね? 言葉借りてないと思います!」

 

「うっさいわね。あげあしとんなっ! 黙ってなさいよ!」

 

「七海ちゃんが来いって言ったのに……、理不尽かわいいです」

 

「……なんでソイツ呼んだんだよ」

 

 

 緊急事態下でもいつも通りのやりとりをする二人に一度呆れた目を向け、蛭子はすぐに表情を改める。

 

 

「つーことで、『この符を使った場所を意識しなくなる』を『水無瀬を意識しなくなる』って(まじない)に変えて、その呪符を学園のあちこちに貼りまくれば理論上は不可能じゃあねェ。だいぶ雑だからすぐにバレっけどな」

 

「そっか……」

 

「けど、なんで水無瀬に? って話になるよな」

 

「それもわかんないのよね」

 

「オマエらは犯人はいないって考えてんだっけか?」

 

「うん。たまたま愛苗が巻き込まれちゃったって」

 

「怪異か……。それもなくはねェけど、こっちは現場見ねェとわかんねェな……。最悪見てもわからねえかもしれねえし」

 

「蛮は犯人いる説推し?」

 

「一応。仮、だがな。昨日の昼に聞いてたらオレも怪異って思ったかもしんねェ」

 

「どういうこと?」

 

 

 不可解な蛭子の言い回しに希咲は彼の顔を思わず覗き込む。

 

 

「それはな――」

 

「――できましたわぁ~っ!」

 

 

 神妙な表情で蛭子が続きを語ろうとすると、脱力するような能天気な声が挿し込まれる。

 

 蛭子はとても嫌そうに盛大に顔を顰めた。

 

 

「お待たせー。お肉焼けたよー」

 

「テーブルの上を空けてくれ」

 

 

 そうして言葉を止めている内にマリア=リィーゼに続いて聖人と天津も肉の乗った皿を持って集まってきた。

 

 蛭子は軽く嘆息し、テーブルを片付ける希咲へ目を向ける。

 

 

「七海。コイツらも揃ったし続きは飯食いながらだ」

 

「あ、うん。もちろんいいわよ」

 

「で、だ。ワリィんだが先にオレの方の話からさせてもらう」

 

「ベツにいーけど」

 

「その話のあとでオマエの話に多分繋がる」

 

「え? どういうこと?」

 

「オレの話――こっちのトラブルと学園の異常。もしかしたらこれらは同じ話かもしれねェ」

 

 

 眼つきを鋭くした蛭子の言葉に、希咲は言葉を失う。

 

 

「どうしたの? 二人とも深刻そうな顔して」

 

「……深刻なんだって昨夜も言ったろうが」

 

 

 能天気な顔で話に入ってくる聖人に蛭子の表情が崩れたため、希咲の緊張も一旦は解けた。

 

 

「まァいい。あんま時間ねェから食いながら全員聞け」

 

 

 蛭子が注目を集める。

 

 全員が目を向けたことを確認すると、彼は凶悪な笑みを浮かべた。

 

 

「ヨォ、オメェら。いつもどおりオレらァピンチだぜ?」

 

 

 そう言い放っても緊張するような仕草は誰も見せない。

 

 そのことに呆れと頼もしさを同時に感じると、浮かべた笑みが苦笑いに変わりそうになる。

 

 

「説明すんぜ。今後のオレらのこと。そんでその為にまずはこの島についてのおさらいだ」

 

 

 仲間たち同様に危機感はあれど、不安は一切感じていない。そんな自分にも呆れつつ蛭子は頼もしくもバカ野郎な仲間(ダチ)たちの顔を見渡した。

 

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