俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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1章55 密み集う戦火の種 ④

 

「――South(サウス)-(エイト)って店を知っているか?」

 

 

 弥堂にそう尋ねられると不良たちは表情を真剣なものにする。

 

 

「知ってるぜ。“はなまる”の“ウラ”のライブハウスだろ?」

 

「そうだ。お前らには今日の放課後、その店で張り込みをしてもらう」

 

 

 要請でもなければ命令ですらなく、ただの決定事項を告げるだけのような口ぶりに彼らは憤りもしない。その意思の強さとその意味に息を呑んだ。

 

 

「…………“スカルズ”とヤるのか?」

 

 

 気持ち声量を抑えたモっちゃんは慎重な目つきを弥堂へ送る。

 

 

 

R.E.D(レッド) SKULLS(スカルズ)』。

 

 

 15年ほど前に暴対法が改正され規制が強まった影響で地元のヤクザたちの力が弱まった。

 

 ちょうどその頃から台頭し始めたギャングチームで結成当時は街のケンカ屋たちが集って出来たチームだ。

 

 それが今日まで代替わりしながら存続しており、新美景駅南口の路地裏を主なナワバリとしている。

 

 

 今ではかなり大きな組織となっており、所謂半グレと呼ばれる犯罪集団の一つにもなっている。

 

 街に蔓延る不良集団は大体が『R.E.D SKULLS』の傘下に入り、それぞれのリーダーがその幹部となっているので実質美景市の不良の元締めとも謂える。

 

 逆に謂えば『R.E.D SKULLS』の幹部にならない限り、この街でチームを名乗ることは許されない。そういう状況にもある。傘下に入らないチームはすぐに潰されるのだ。

 

 

 そして『R.E.D SKULLS』のOBとなった者たちは大抵が北口の繁華街などで合法・違法問わずに商売をする。つまり、北口の支配者でもあるスラム――外人街との関わりが強くなる。

 

 すると自然に現役のチームの方もそうなっていく為、『R.E.D SKULLS』は正式には外人街の配下ではないものの、最早彼らのシノギは外人街――つまり海外マフィアと切っても切り離せないものとなっている。ほぼ同じ組織だと考えてもいいだろう。

 

 

 現役のチームのリーダーや幹部をしている間はチームの独立性を重んじて、外人街の下に入るようにと薦めるOBたちからの圧力に耐える。

 

 しかし自分がOBとなった後は違法なビジネスに手を染める中で金と犯罪に心も染まっていき、今度は自分が現役に圧力をかける側となる。

 

 それがここ数代で続いている慣習であり、現役のリーダーが首を縦に振るようになるのもそう遠くはないだろう。

 

 これが警察やヤクザなど、外から彼らを監視する者たちの見解だ。

 

 

 そして弥堂が口にした『South-8』は、新美景駅南口の繁華街のメインストリートである“はなまる通り”の駅側から入って8番目にある路地――そこを曲がって路地裏に入った場所にあるライブハウスで、そこから先は『R.E.D SKULLS』のナワバリとなる。

 

 これはこの街の不良たちには常識ともいえるような知識だ。

 

 

 あわよくば彼らがそれを知らなければと期待したが、彼らのような三下と言えどもそれくらいの知識は持ち合わせているようだった。

 

 弥堂は話し口を変えることにする。

 

 

 

「――なにもすぐに殴り込むわけじゃない。今回は主に監視が目的だ」

 

「……マジかよ。そのうちやるってのか……?」

「ビトーくん……、アンタ、スカルズも上等なんだな……?」

 

「ん? あぁ、大体そんな感じだ」

 

「ハ、ハンパねぇ……」

「でも、そうだよな……。全國制覇するって言ってたもんな……」

「それで? 監視ってのは……?」

 

 

 何故か一頻り恐縮した後にモっちゃんに問いかけられる。

 

 

「今日は街から警官が減る」

 

「え? そうなのか?」

 

「あぁ」

 

「なんでわかるんだ?」

 

「そういう情報が入ってるんだ」

 

「す、スゲェな……、そんなことまで知れるのかよ」

 

「俺は風紀委員だからな」

 

「マジかよ……、風紀委員ってハンパねェな……」

 

 

 弥堂が適当に答えると彼らは畏怖の視線を集めてくる。

 

 

「それはどうでもいい。肝心なのは警官が減れば何が起こるかだ」

 

「万引きか?」

 

「……そんなケチなマネをする程度のヤツにこんな情報は回ってこない」

 

「そっか。それもそうだな」

 

「俺が警戒しているのはヤクだ」

 

「ヤクだって……⁉」

 

 

 彼らの表情に危機感が表れる。

 

 

「ノルマに追われてる売人どもはこの機会を逃さない。そして風紀委員である俺は我が校の生徒どもが薬物に関わることを許さない。ここまで言えばわかるか?」

 

「……なるほど。スカルズのシマにウチの生徒が入って来ないように見張れってことか!」

 

「半分正解だ」

 

 

 話が掴めてきた様子の彼らへ弥堂は詳細を説明する。

 

 

「生徒がクスリを手に入れる前に止めるのが理想ではあるが、実際難しい。もちろん俺も放課後に街を巡回するが、完全には手が回らないというのが正直なところだ」

 

「だからオレらで『South-8』を張って、ヤクを買いに来やがったバカを捕まえろってことなんじゃないのか?」

 

「可能ならな」

 

 

 怪訝そうな顔をする彼らへ弥堂は口調を重くする。

 

 

「周囲に気付かせずに確保して排除できるのなら問題はない。だがあの店はヤツらのシマの入り口だ。万が一そんな場所で派手に揉めるようなことになれば……」

 

「……そっか。あっという間に囲まれてフクロにされちまうか」

 

「そういうことだ。お前らにそこまでの危険を冒させるわけにはいかない。だから可能ならば生徒を確保。だが、基本はそいつの情報を密告してくれるだけでいい」

 

「び、ビトーくん、アンタ……、オレらを心配して……?」

 

「お前らは大事なビジネスパートナーだからな」

 

 

 ジィーンっと胸を打たれた様子のヤンキーたちを弥堂は内心で『馬鹿め』と蔑む。

 

 

「あの店は入り口だ。店の中に入るか、店よりも奥へ路地を進めば逆にこちらが捕まえられる。だが、手前で張り込んでいる分には安全だ。ヤツらの構成員や客に手を出さなければな」

 

「わ、わかったぜ……!」

 

「俺も近い位置を巡回している。何かあればすぐに報せろ」

 

「おう。だが、よ……、聞いてもいいか?」

 

「なんだ?」

 

 

 探るような目を向けてくるモっちゃんに弥堂はジロリと視線を返す。

 

 

「これってつまりよ、ウチのモンにクスリを撒こうとしてるヤツらに上等ってことだよな?」

 

「うん? まぁ、そうだ」

 

「そうか……、ヘヘッ、流石だなビトーくん」

 

「うん? まぁ、そうだ」

 

 

 いまいち彼が何を言っているのか弥堂にはわからなかったが、とりあえず適当に肯定した。

 

 

「オレらっもよ、クスリとか売り捌くクソやろうどもは大ッ嫌いなんだ……! ウチの生徒でもアイツらのせいでクスリに手ェ出しちまったバカがけっこういる……! アイツらはオレたち“ダイコー”を完全にナメてやがってよ……! オレはそれがずっと気に食わなかったんだ……!」

 

「そうか」

 

「ビトーくんはそれをどうにかしようってことなんだな? これはその為のケンカで、だからスカルズ上等だと……!」

 

「そうだ」

 

「任せろよ! もしも全面戦争になった時はオレらも参加すっからよ! アイツらマジヤッてやろうな!」

 

「そうだな」

 

 

 どうやらお客さまにも乗り気になって頂けたようで、弥堂も一定の満足感を得た。

 

 

「そういうわけで、放課後になったらお前らは『South-8』に張り込んで、付近に来るウチの生徒たちを片っ端からアプリで密告しろ」

 

「おぉ!」

 

「基本はそれのみだ。緊急時もしくは可能な場合は生徒を確保しても構わん」

 

「任してくれよ!」

「ジョォトォーッ!」

「やってやんぜ……!」

「アイツらもう終わりだぜ!」

 

「あぁ、そうだ。忘れてた。今日の任務には制服で行け」

 

「え? なんでだ?」

 

「個人的に協力者を頼んでいる。そいつにはウチの制服のヤツには手を出すなとしか指示をしていない」

 

「あぁ、そっか。ソイツとモメたら困るもんな」

 

「そういうことだ」

 

 

 手駒どもに恙無く指令を与え終えた。

 

 ここに用はなくなったので移動を考えようとすると、みんなのお話が終わるまでよいこにしていた水無瀬さんが参加してくる。

 

 

「ねぇねぇ、みんなで遊びに行くの?」

 

「…………」

 

 

 彼女に興味を持たれたことに弥堂はマズイなと感じる。

 

 

「え? あ、いや、遊びってわけじゃあ……」

 

「ピクニックじゃないの?」

 

「ピクニックじゃなくってこれはケン――っ⁉」

 

 

 都合の悪いことを口走りそうになったバカを弥堂は視線で黙らせる。

 

 

 ここまでの話を水無瀬はずっと隣で聞いていたので普通は今更誤魔化しようもないのだが、ご両親や希咲が彼女に搭載した“よいこフィルター”のおかげで幸いにも内容は全く理解出来ていないようだ。

 

 彼女が相手ならここからでも誤魔化せると、弥堂は確信する。

 

 

「そっか。“さうすえいと”ってお薬屋さんにみんなで行くって言ってたもんね? もしかしてお腹痛いの? 私お薬持ってるよ?」

 

「だ、大丈夫だ。それには及ばねェ……」

 

「そーお? あ、私も一緒に遊んでもいい?」

 

「えっ⁉」

 

 

 グイグイとくる女子にヤンキーたちはしどろもどろになる。

 

 

「そ、それはダメだ……ッ!」

 

「あっ……、そう、そう、だよね……。ごめんね……」

 

「えっ⁉ い、いや、そうじゃなくって、その……キケンなんだ……!」

 

「え? 危ないの?」

 

「あ、あぁ。そうなんだ。だから――」

 

「――じゃあ私も行くね!」

 

「なんでェ⁉」

 

 

 そして思いもよらないリアクションにびっくり仰天した。

 

 

「だ、だから……、アブねェんだって……」

 

「うん! だから私も行くね!」

 

「ダ、ダメだって……! 水無瀬さんみたいな女子が行くようなとこじゃあ……」

 

「でも、危ないんだよね?」

 

「あぁ、危ないんだ。だから――」

 

「――じゃあやっぱり私が行かなきゃ……! だいじょうぶっ、みんな守ってあげるね!」

 

「なんでェ⁉」

 

 

 全く会話が成立せずに口々に水無瀬を止めようとした彼らは混乱する。

 

 今回は彼らの反応が普通だ。

 

 

 まさか目の前のぽやぽやした女子が自分たちよりも遥かにお強い“魔法少女さま”だとは夢にも思わないだろう。

 

 

 そして魔法少女に介入されることが都合悪いのは弥堂も同じだ。

 

 

「水無瀬」

 

「なぁに? 弥堂くん」

 

「お前は来るな」

 

「えぇ⁉」

 

 

 酷くドストレートに仲間外れにされた愛苗ちゃんはビックリした後にションボリとする。

 

 

 ヤンキーたちはその彼女の様子に「あっ……」と罪悪感を刺激された。

 

 

「お前には関係ない」

 

 

 しかし血も涙もないど畜生は揺らがない。

 

 

 そんな男の口ぶりにヤンキ-たちは、こんな彼女によくそんなことが言えるなと戦慄した。

 

 

「で、でも、私……」

 

「大体、お前にはやることがあるだろう?」

 

「あ、そういえば……」

 

「忘れんなよ。前に話しただろ? お互いの領分でそれぞれ棲みわけようと」

 

「あ、そっか。別々の場所だけど一緒に平和のために頑張ろうってことだよね?」

 

「…………そうだ」

 

「えへへー、じゃあ仲間だねっ」

 

「そうだな、仲間だな……」

 

「お友達?」

 

「そうだな、おともだちだ……」

 

 

 酷く屈辱的な気分になりながら弥堂は相手の言い分を全て肯定し共感したフリをする。

 

 天才魔法少女であり“神意執行者(ディードパニッシャー)”でもある彼女に強行的になられては困るからだ。

 

 

「じゃあ今日もがんばろうねっ」

 

「あぁ」

 

「なにかあったら呼んでね。私昨日みたいに助けに行くから!」

 

「……あぁ」

 

「あ、それでね? もしもそうなった時に――あっ!」

 

 

 何かを言いかけた言葉は彼女自身のお腹の音に遮られる。

 

 

 水無瀬はパっと両手でお腹を抑えて「えへへ」と苦笑いした。

 

 

 すると対面でも同様に腹の音が鳴る。

 

 

 水無瀬がそちらへ顔を向けるとヤンキーたちもお腹を抑えており、彼らはなんとも情けない表情をした。

 

 

「みんなもお腹すいたの? えへへ、いっしょだねっ」

 

「あ、あぁ……」

 

「では、そろそろ食事にしよう。各自解散だ」

 

「…………」

 

 

 水無瀬の笑顔に彼らは歯切れの悪い返事をする。

 

 ちょうど会話の切れたこの機を逃すまいと、すかさず弥堂が流れ解散を目論むが、彼らの表情はより曇る。

 

 そんな彼らの様子に水無瀬は不思議そうに首を傾げた。

 

 

 

「どうしたの? もしかしてお腹痛いの? あ、私お――」

 

「――薬はいい。彼らはきっとテストの点数に悩んでいるんだ。見ればわかるほどに頭が悪そうだろ?」

 

「い、いや、そういうわけじゃ……」

 

 

 侮辱的な弥堂の言葉を消極的に否定するヤンキーを水無瀬はジッと見る。

 

 その純真な視線に耐え切れなくなり、やがてぽつりぽつりと事情を話しだした。

 

 

「……じ、実はよぉ……、金がなくって昼飯食えねェんだ……」

 

「えっ⁉ そんな――」

 

 

 その告白に水無瀬は大袈裟にお口を両手で覆って驚いてみせるが、弥堂は思っていたよりもしょうもないなと呆れた。

 

 

 自分たちには関係ないので早々に立ち去るよう水無瀬を促そうとして、

 

 

(――いや、待てよ)

 

 

 弥堂は閃きを得て、渇いた瞳の奥をギラつかせた。

 

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