俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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1章69 不滅の願い ①

 悪魔に囚われ人質とされた水無瀬の両親を救出するため、弥堂と水無瀬を乗せたバックホーが激走する。

 

 前方に立ち塞がる千を超える“屍人(グール)”の大軍に正面から突っこみ、人のカタチをしたゴミクズーを撥ね飛ばしながら進む。

 

 

 この“屍人(グール)”たちはかつては人間だったモノで、昔の美景市の大災害で亡くなった者たちだ。

 

 悪魔アスの立つ位置の近くで“世界樹の杖(セフィロツハイプ)”と呼ばれた異形の杖が地面に突き立っている。

 

 この杖により美景の地の“龍脈”を暴走させ、そこから吸い上げた魔力を使って“屍人(グール)”が増産されていた。

 

 さらにこの場には水無瀬による結界が張られているが、その一部にアスが穴を空けたことによって、そこから“屍人(グール)”たちが街を襲うために外に出て行ってもいる。

 

 

 つまり、この場での弥堂と水無瀬のタスクは、“屍人(グール)”の退治、“龍脈”の暴走の阻止、それから二体の悪魔の退治かもしくは街へ向かった“屍人(グール)”の始末をすることになる。

 

 そして、それらに取り掛かるまでの手前のステップとして水無瀬の両親を救い出し、彼女が魔法少女に変身して思う存分戦えるようにする必要がある。

 

 

 水無瀬からの拙い説明を聞いて、弥堂はそのように判断をした。

 

 進路を水無瀬の両親が囚われた黒い檻に向けたままアクセルを開く。

 

 

 現在の位置関係はまず一番遠い場所に目標である水無瀬の両親がおり、そのすぐ近くにアスと銀髪の少女がいる。

 

 そこまでの道のりは大量の“屍人(グール)”で埋め尽くされており、アスが居る場所の少し手前にクルードが立っている。

 

 弥堂と水無瀬はそこへ真っ直ぐ向かっており、現在は“屍人(グール)”の大軍の真っ只中だ。

 

 

 重さ約3tの車体を時速40㎞ほどで走らせ、腐った人間の死体たちを撥ねて轢いて薙ぎ倒している。

 

 

 この“屍人(グール)”たちは一体一体は二人が今まで見てきたどのゴミクズーよりも弱い。

 

 暴走した龍脈から吸い上げた魔力を使って造られたとはいえ、数を優先させたせいか、または即席で無理矢理造られたせいか、元の普通の人間と大して変わらない戦闘能力だ。

 

 

 だが、とはいえ余りにも数が多すぎる。

 

 

 車体を当てさえすればあっさりと躰が潰れどこかしらの部位が千切れ飛び、簡単に戦闘不能に追い込める。

 

 だが己の食欲を満たすことしか頭にない死を恐れぬ軍勢はそれでも構わずに向かってきていた。

 

 

 弥堂は左手のレバーを適当に動かしてキャタピラ上の車体を旋回させ、仲間の死体ごと乗り越えて取り付いてきた“屍人(グール)”を振り落とす。

 

 その動作により車体前方のアームに付いている鋼鉄のバケットのアタッチメントが大きく左右に振られ、周囲の“屍人(グール)”を掻き回した。

 

 バックホーの周辺では千切れ飛んだ人の頭部や手足が派手に踊っている。

 

 

 

「あ、あわわわ……っ、たいへんだぁ……っ」

 

「…………」

 

 

 他人には緊迫感が伝わらない愛苗ちゃんの「たいへんだぁ」を聞き流して、弥堂はクルードへ眼を向けた。

 

 

「あれとは戦ったのか?」

「え? うん」

 

「やりあえたのか?」

「昨日よりは……、でも、手加減してくれてたかもしれないの」

 

「どうしてそう思う?」

「あのね、昨日はもっと『わっはっはー!』って感じで元気だったの! 今日はちょっと大人しい……? ような?」

 

「そうか」

 

 

 いまいちよくわからなかったが、弥堂は適当に返事をして眼に魔力を流す。

 

 

 魔眼でクルードの姿を映せばその“魂の設計図(アニマグラム)”まで視える。

 

 ちょっと視ただけですぐにわかる。

 

 悪魔のカタチ。

 

 そしてその強烈な“存在の強度”。

 

 

(こいつ、大悪魔か……?)

 

 

 弥堂にも知識にはあるが出遭ったことはない、普通の悪魔より数段格が上な存在ではないかと見当を付ける。

 

 いずれにせよ勝てる相手ではない。

 

 

 だが、水無瀬の証言が確かなら、やはり奴らは正面から本気で潰しにきているわけではなく、何か他の思惑があるように思える。

 

 それなら――

 

 

「――やりようはある」

 

 

 弥堂はレバーから手を離す。

 

 そして腰のベルトから小瓶を取り出した。

 

 

「び、弥堂くん……、お手て離したら危ないよ?」

 

「危ないことをしてるんだからいいだろ」

 

「あ、そっか……」

 

 

 何故か納得してしまった水無瀬を置いて、弥堂は小瓶の中身を飲み干す。

 

 

 “神薬(パルスポーション)”。

 

 魔力増強薬ということになっているが、別名“馬鹿に付ける薬(ドープ・ダーヴ)”と呼ばれていた使えば死ぬ麻薬だ。

 

 

「弥堂くん喉かわいちゃったの?」

 

「あぁ……、ぐっ――」

 

 

 薬の効果はすぐに表れる。

 

 無理矢理心臓の動くペースを速め、それによって魔力の生成量を増やす。

 

 

 血液が送られる速度が上がると血管を通る血液量が瞬間的に増え、皮膚から浮かび上がるほどに肥大化する。

 

 首筋から目元までにかけて葉脈のように血管が膨らんだ。

 

 

 血管が破裂する寸前まで溜まった血液が、後からさらに送られてくる血液に押し出され、身体中を流れる速度が上がり熱を持つ。

 

 加速した心臓の脈打つ音が頭蓋骨の中にまで響いてきた。

 

 

 魔力が増大したことで弥堂の魔眼の蒼銀の輝きが増す。

 

 いつもはのっぺりとした光沢のない黒い瞳に強い光が灯った。

 

 

 その輝きを水無瀬が不思議そうに覗いていた。

 

 

「弥堂くん? お目め光ってるよ……?」

「ん? あぁ、今日は元気なんだ」

 

「元気だとお目め光るの?」

「そうだ」

 

 

 弥堂の適当な答えに水無瀬は「ふんふん」と頷く。

 

 

「たまに光ってる時あったけど……」

「気付いてたのか?」

 

「うん。でも、今日はもっといっぱい光ってる。かわいい」

「なんでだよ」

 

「えっと、じゃあ、かっこいい?」

「なんでもいい。とにかくやる気に溢れてるんだ」

 

「がんばるってこと?」

「あぁ。今日はいっぱい頑張ろうと思ってな」

 

「わぁ、そうなんだぁ」

 

 

 弥堂の言うことを真に受けて水無瀬は嬉しそうな顔をする。

 

 

「じゃあ、『えろえろ』するの?」

「あ?」

 

 

 気のない素振りで答えていた弥堂だったが、その言葉には眉を顰めることになった。

 

 

「しないの? 『えろえろ』」

「なんだそれは」

 

「前にお目め光ってた時に『えろえろ』してたから……」

「あぁ……」

 

 

 ようやく彼女が何を言っているのか察する。

 

 

 おそらく以前に彼女の前で【falso(ファルソ) héroe(エロエ)】を使った時のことを言っているようだ。

 

『世界』から自身の“魂の設計図(アニマグラム)”を一時的に引き剥がし、自身から発せられるあらゆる情報を誰にも伝わらないようにする、弥堂独自の技法だ。

 

 

「お前あれもわかったのか?」

 

「え? えっとね? なんか弥堂くんが居なくなっちゃたぁって思ったら、急に弥堂くんが出てきたぁーってなって、ワープしたの?」

 

「……そうだ。ワープしたんだ」

 

 

 全く違うのだが、彼女に説明して理解させるのは至難の業だし、理解出来たとしても自分の手の内を明かす気にはこの期に及んでもならなかったので、適当な嘘で答えた。

 

 これ以上彼女の会話に付き合っていると気が抜けてしまいそうなので、弥堂は意識を戦闘に傾けて切り替えをする。

 

 

「いいか? 俺がお前の親を回収してくる」

「えっ? ど、どうやって?」

 

「それは気にするな。とにかく、俺が成功したらお前はすぐに変身をしろよ」

「う、うん、わかった……!」

 

 

 本当に細かいことは気にしないのか、それとも弥堂を信用しきっているのか――おそらく両方だ――水無瀬はコクコクと頷いた。

 

 

 弥堂は身体の前のレバーに両手を置き、右手のレバーを前に倒して、左手のレバーを少し手前に引く。

 

 すると二人の乗るバックホーは左手に進路を変えた。

 

 

 バケットで“屍人(グール)”の隊列に穴を開け、排土板で撥ね飛ばしながら掻き分け、キャタピラで踏みつぶしながらクルードを避けるような進路で目的地へ向かう。

 

 

「ケッ」

 

 

 クルードはその様子を見て退屈そうに鼻を鳴らした。

 

 彼はその場で立ったまま見ているだけで、特に現在の状況に介入する気はないようだ。

 

 

 好都合だと、弥堂はレバーを動かしてキャタピラの向きを調節し人質の元へ車輛を走らせる。

 

 

 あともう少しでクルードの左側を通り過ぎようかという地点で、弥堂は右手のレバーを強く引く。

 

 

 右側のキャタピラが後ろへ回り、車体は急速で右を向く。

 

 そして再び前進させ、クルード目掛けてバックホーを突っこませた。

 

 

「――くたばれ」

 

「ハハッ――」

 

 

 フロントガラス越しに弥堂の冷徹な眼とクルードの野卑な目が視線をぶつける。

 

 

 車体の前方に突き出されたアームがクルードに迫る。

 

 

「――オモしれえじゃねェか……っ!」

 

 

 クルードは雑に拳を振るい、鋼鉄のバケットをカチ上げた。

 

 

「くっ――」

 

 

 弥堂は身体の右脇にあるレバーを動かして、強烈な打撃で跳ね上げられたブームを操作する。

 

 角度を少し下げて車体が後ろへ引っ繰り返らないようにしながら、左脇のレバーを操作してバケットの角度も調整する。

 

 そして走る速度はそのままに、クルードへ車輛本体をぶつけにいった。

 

 

 

「オレサマの前に立つたァ、いい度胸じゃねェか!」

 

 

 クルードはその場で腰を捻り、今度は車体前面の排土板目掛けて拳を振ろうとする。

 

 

「――クルード様!」

 

「チッ!」

 

 

 その拳が放たれる寸前、背後からアスに制止される。

 

 

「メンドくせェなクソがよォ……ッ!」

 

 

 クルードは一応それに従い、パンチの代わりに開いた掌を前に突き出して、突っこんでくるバックホーを受け止めた。

 

 地に着く足は一切動くことなく、いともたやすく3tの車体の突進を押さえてしまった。

 

 

「――きゃあああっ⁉」

 

 

 車内では水無瀬の悲鳴があがる。

 

 

「サイドのレバーには絶対触るなよ!」

「えっ?」

 

「合図をしたら正面のレバーを両方とも前に倒せ!」

「び、弥堂く――」

 

「行くぞ――」

 

 

 こうなることはわかっていたと、弥堂は冷静に、しかし一方的に水無瀬へ指示を与えると、体内の魔力を一気に消費する。

 

 

「――【falso(ファルソ) héroe(エロエ)】」

 

 

『世界』から自分を引き剥がす。

 

 

「え……?」

 

 

 ほんの一瞬の後、車内から弥堂の姿は消え、水無瀬一人が運転席に残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――まったく何をしているんですか……」

 

 

 バックホーの突進を受け止めるクルードの姿を見て、アスは呆れたように嘆息をする。

 

 

「ちょっとしたことですぐに本気になってしまうんですから……」

 

 

 実際今も危なかった。

 

 もしも止めなかったらあの建機ごと二人を殺してしまうところだった。

 

 

「あの男が死ぬのは構いませんが、魔法少女に今死なれては予定が狂うどころの話ではありません」

 

 

 愚痴を溢すように独り言を漏らすと、ふとバックホーのあたりに何か不自然な魔力の動きを感じる。

 

 

「……? なんです?」

 

 

 アスは不審げに目を凝らす。

 

 

 その瞬間――

 

 

「――ッ⁉」

 

 

 直感的な違和感から背後へ振り返った。

 

 

 そこには――

 

 

「――聖剣(エアリスフィール)

 

 

 刀身が青白く発光するナイフを構えた弥堂が――

 

 

「――そんなモノでェ……ッ!」

 

 

 アスは右手に魔法の刃を創り出し弥堂の頭目掛けて振り下ろした。

 

 

 魔法の剣の銀色の光と、聖剣の蒼銀の光がぶつかる。

 

 

 あんなチャチなナイフに負けるわけがないとアスは思っていた。

 

 しかし――

 

 

「――【切断(ディバイドリッパー)】」

 

「な――っ⁉」

 

 

 聖剣に宿る“加護(ライセンス)”が発動し、アスの魔法剣を斬り裂いた。

 

 

 驚きに目を見開くアスへ弥堂は迫る。

 

 今度は聖剣の刃をアスの“魂の設計図(アニマグラム)”へ直接向ける。

 

 

「この……っ!」

 

 

 アスは魔法剣を創り直して再び応戦に出ようとする。

 

 だが、今一度弥堂の持つナイフの輝きを目にして、ゾクリと本能に怖気が奔った。

 

 

「――ッ⁉」

 

 

 とっさの判断で応戦を止め、転移魔法を使う。

 

 

 勢い余ってしまったのか、アスは大分距離を空けた地点に姿を現した。

 

 弥堂はアスの現在地だけを確認し追撃はしない。

 

 

「あ……っ、あの……」

 

 

 そして傍らで怯えたように立ち竦む銀髪の少女を一瞥することもなく、水無瀬の両親が囚われた黒い檻へと走った。

 

 

 走りながら左胸の肩の付け根近くに刻まれた刻印を意識して魔力を流す。

 

身体強化(ドライヴド・リィンフォース)

 

 その名のとおりの身体強化の魔術で、全身の筋力が強化され各関節が補強された。

 

 

 続けて首の裏、頚髄に沿って刻印が浮かぶ。

 

領域解放(ゾーンブレイク)

 

 心理的なブレーキを外す暗示がかかる。

 

 

 人間の脳は普段数十%ほどしか使われていない――というのは誤りで、実際は常に100%稼働している。

 

 ただ、今集中して行っていることがあったとしても、それに割かれている脳の領域はせいぜい数十%ほどで、それとは関係のない別のことの処理にも他の領域が使われてしまっているのだ。

 

 

 それは普段何も考えなくても当たり前のように行っている手足の動作の制御だったり、言語を操ることだったりといった必須な処理もあれば、全く関係ない思考にも使われている。

 

 

 暗示をかける魔術である【領域解放(ゾーンブレイク)】は人間として最低限活動するために必須な処理を除いて、他の全ての脳の領域を戦闘行為に回すことが出来る。

 

 それはアスリートなどでいう『ゾーンに入る』という現象を意図的に起こすものだ。

 

 さらに、100%の力で殴れば自分自身の身体も壊れてしまうために、無意識に加減してしまう生物として標準搭載されているブレーキを取り払う効果もある。

 

 ただ、弥堂の場合は日常生活からデフォルトでそのブレーキが壊れてしまっているので、これに関してはあまり恩恵はない。

 

 

 弥堂は人間二人が閉じ込められている大きな鳥籠のような黒い檻を、鉄格子を掴んで持ち上げる。

 

 軋む筋肉や関節の負担を無視してそれを上に放り投げた。

 

 

 足を滑らせて歩幅を開き半身を作る。

 

 腰だめに拳を構えて、落ちてくる檻を待つ。

 

 

 それが目の前に来る瞬間――爪先から順に身体を捩じる。

 

 

 檻の底に掌底を当て、大地より汲み上げて体内で増幅した威を打ちだす。

 

 

 水無瀬の両親を入れた檻はライナー性の軌道で吹き飛んだ。

 

 信じられない距離を飛んだそれは水無瀬の乗るバックホーのバケットの中にぶち込まれると、僅かに跳ねてバケットから毀れる。

 

 そのまま地面に落ちるかと思われたが、鉄格子がバケットの爪に引っかかって固定された。

 

 

「レバーを倒せ!」

 

「は、はいぃぃ……っ!」

 

 

 弥堂の命令に反射的に従った水無瀬は目の前の二本のレバーを前に倒す。

 

 するとバックホーのキャタピラが全速で動き出した。

 

 

「アァン?」

 

 

 急発進をしたバックホーを正面から押さえているクルードは不機嫌そうに唸る。

 

 気の無い様子で何かをしようとして、それを止める。

 

 チラリと横目で視線を振った。

 

 

「貴様ァ……ッ!」

 

 

 その先には弥堂の行動に苛立ち怒りの表情を露わにしたアスが居た。

 

 

「――ヘッ」

 

 

 それを見て馬鹿にしたような笑いを漏らすと、クルードは車輛から手を離して身体をスッと横にズラした。

 

 

「オラ、逃げろよ」

 

 

 遮るものがなくなり走り出したバックホーをニヤケ面で見送った。

 

 

「あわわわわ……っ⁉」

 

 

 特殊な建機どころか一般的な自動車の運転すらしたことのない水無瀬は運転席で目を白黒させる。

 

 パニック状態で手に持つ二本のレバーをガチャガチャと動かした。

 

 

 水無瀬の握る左右のレバーはそれぞれ左右のキャタピラの前進・後退に対応している。

 

 レバーを前に倒せば前進、手前に引けば後退だ。

 

 つまり右に曲がりたければ左だけを前進させて曲がるのだ。

 

 

 テンパった愛苗ちゃんはお目めをぐるぐるさせながら左右のレバーを交互に前後させる。

 

 すると酷い蛇行運転になり、時折その場で右左と急旋回をして3tのお尻をフリフリと振った。

 

 奇怪な挙動を見せるたびにグールたちの肉片が派手に飛び散る。

 

 

「レバーを両方前に倒せ! 余計なことをするな!」

 

「ご、ごめんなさぁーいっ!」

 

 

 弥堂くんに怒られてしまった愛苗ちゃんが素直に指示に従うと、バックホーは真っ直ぐ前進を再開する。

 

 

 弥堂は正面からその車輛へ走った。

 

 

 こちらに反応して襲ってくる“屍人《グール》”たちの間をすり抜ける。

 

 だがやはり数が多い。

 

 行く手が完全に塞がれている。

 

 

 走る速度を調整してタイミングを合わせる。

 

 

 “屍人《グール》”の壁の向こうにバックホーが見えたタイミングで――

 

 

「【falso(ファルソ) héroe(エロエ)】」

 

 

『世界』から自分を剥がし、“屍人《グール》”たちの知覚から自分を消した。

 

 

 その次の瞬間には弥堂は“屍人《グール》”の頭上に居る。

 

 頑強なブーツで三匹ほどの頭を踏み潰して走り、爆走してきたバックホーの運転席に飛びついた。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

 魔術で強化した腕力で身体にかかる負荷を無理矢理抑え込み、器用に扉を開けると運転席へと転がりこんだ。

 

 

「弥堂くん……!」

 

「逃げるぞ!」

 

「うん……っ!」

 

 

 水無瀬はパァっと笑顔を咲かせると、身体の両脇にあるレバーをガチャガチャさせることで喜びと感謝を表現した。

 

 

 すると、キャタピラの上の運転席部分が旋回をし、両親の入った檻をぶら下げているアームが上下に激しく動きだす。

 

 運よく檻が落下することはなかったが、周囲のグールを檻で派手にぶん殴ることになり、気を失っている両親を血肉が汚した。

 

 

「あわわわ、たいへんだぁっ⁉」

 

「大変だぁ、じゃねえんだよこの馬鹿野郎! 手を離せ! 運転を替わるからお前は何も触るな!」

 

「ご、ごめんなさぁーいっ!」

 

 

 何とも緊張感なく締まらないやりとりをしながら、グールの大軍の中を突っ切っていく。

 

 水無瀬の両親の救出には成功したが、彼らの安全を確保しなければ不安は拭えない。

 

 

 ひとまずは距離をとって彼らを結界の外へ逃がすことを決める。

 

 弥堂は結界の穴へ進路をとった。

 

 

 しかしなんにせよ、これで水無瀬を縛る枷はなくなり、ここから反撃が始めることが出来る。

 

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