俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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1章69 不滅の願い ⑤

 

「――Lacryma(ラクリマ) BASTA(バスター)ッ!」

 

 

 強烈な魔力砲が多数のグールを一度に消滅させる。

 

 

 千を超えるグールの軍勢に愛苗は一方的に優位に立っていた。

 

 地上を徘徊することしか出来ない敵に対して制空権をとり、破壊的な魔法を撃つだけで簡単に斃すことが出来る。

 

 

 戦い始めた時に比べればもう8割近くは斃したはずだ。

 

 だが――

 

 

「――減らない……っ!」

 

 

 絶対的に有利な立場にいるはずなのに、愛苗は表情に焦燥を滲ませる。

 

 

 グールをいくら倒しても次から次に水路から新たに這い出してくる。

 

 一応増援がくるペースよりも、彼女が敵を斃すペースの方が速いため、見た目上は確実に減らせている。

 

 だが、終わりが見えないグールの増殖に焦りを感じてしまっていた。

 

 

 愛苗はチラリと視線を離れた場所へ向ける。

 

 

 そこには不敵な笑みを浮かべながら立つアスと、そのすぐ近くの地面に刺さったままの悍ましい杖。

 

 

 “世界樹の杖(セフィロツハイプ)”。

 

 

 あの杖が美景の龍脈を暴走させ、そこから吸い上げた魔力でゴミクズーを次々に生み出している。

 

 あれをどうにかしない限り“屍人(グール)”の増殖は止められない。

 

 

「やっぱりあっちからどうにかした方が……」

 

 

 そうは思えども、踏み切れない事情もある。

 

 

「【光の種(セミナーレ)】……、いっぱい――っ!」

 

 

 大量の魔法弾を地上に振らせて、今度はまた別の方向へ視線を動かす。

 

 

 グールの群れの真ん中にぽっかりと穴のように空いた空間。

 

 そこでは弥堂がクルードと戦っている。

 

 

 弥堂はクルードの攻撃をどうにか捌きながらグールの群れに飛び込んで凌いでいる。

 

 それを追ってクルードが飛び込んでいくと、再びその空間に穴が空いた。

 

 

「弥堂くん……」

 

 

 彼がこの場で一番強大な敵を引き受けてくれている。

 

 そうして時間を稼いでいる間にグールを全部やっつけろと、そのように彼に言われていた。

 

 

「でも……っ」

 

 

 あまり時間をかけるわけにはいかない。

 

 

 愛苗は唇を噛む。

 

 

 完璧にグールをどうにかするには先述のとおり、“世界樹の杖(セフィロツハイプ)”を止める必要がある。

 

 だがそれをしようとすれば確実にアスと戦闘になるだろう。

 

 

 多数のグールを引き連れながらアスを斃す。

 

 それも短時間で。

 

 

 しかし、それはとても難しいことのように愛苗には思えた。

 

 下手をしたらアスに勝てない可能性だってある。

 

 

 そうすると、弥堂の方が保たないのではないか――

 

 

 ある程度グールを減らしたところで彼を助けにいった方がいいのではないか――

 

 

 だが、それで結局クルードに勝てなければ――

 

 

――その思考が彼女に迷いを生じさせていた。

 

 

「――あ……っ⁉」

 

 

 そうして逡巡している間に、先に弥堂とクルードの戦いに変化が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――味がしねェな」

 

「……?」

 

 

 ふと追撃を止めたクルードがそう呟く。

 

 弥堂は荒い息を整えながら訝しげに敵の顔を窺った。

 

 

「テメェの闘争心は味がしねェ」

 

 

 ベッと唾を吐き、クルードは弥堂を見下す。

 

 

「おかしなヤロウだな? 闘争心の元になる感情がねェ。怒りも悲しみも恐怖も歓びも……、なんの味もしやしねェ……」

 

「…………」

 

「なのに、闘争心はある。オレサマには勝てねェとわかってる。なのに減りはしねェ。隙あらば殺ってやろうと思ってる。だけど増えもしねェ。ずっと一定のまま闘争心を維持してやがる。こんなヤツ見たことねェな。なんなんだテメェ? その闘争心の源泉(モチベーション)はどこに在る?」

 

「別に。モチベーションで仕事をするのは三流のやることだ」

 

「ヘェ? 仕事で来てんのかテメェは」

 

「どうだったかな」

 

「何故ここに来た? なんで戦ってんだテメェは? テメェみたいなただのニンゲン、どう考えたって場違いだろ?」

 

「そんな大層なことか?」

 

「ア?」

 

 

 呼吸が整った弥堂は半身を作って変わらぬ冷徹な眼でクルード視る。

 

 

「戦うということはそんなに大層なことか? ただ相手を殺す。それだけのことだろう?」

 

「アァ?」

 

「ただの手段の一つだ。どこか行きたい場所があれば、そこへ行くまでに歩くか、車に乗るか、それとも電車を使うか。手段はいくつかあって、その中から選ぶ。殺しなど目的のための手段の一つに過ぎない。そこに特別な感情など持つわけがない」

 

「目的だァ? なんだそりゃ?」

 

「さぁな。それがわからなかったんだが、もうどうでもよくなった。そんなこと殺してから考えればいい。目障りなんだよ悪魔ども(おまえら)

 

「理解できねェな。それで死んでも構わねェってか?」

 

「死ぬということは大層なことか? 誰であろうと必ず死ぬ。いつか死ぬし、いつでも死ぬ。明日でも10年後でも、それにどんな違いがある? だったら今ここで死んでも同じだろう?」

 

「……なるほどな」

 

 

 クルードの目から熱が消える。

 

 やる気をなくしたようにダラッと脱力した。

 

 

「テメェはもう死んでるぜ。コイツらと一緒だ」

 

「…………」

 

 

 周囲に蔓延るグールたちを示してクルードは言う。

 

 

「決められた行動を繰り返すだけ。その先に渇望はなく、行為に激情もねェ。まだ死んでねェだけで生きてねェ」

 

「それがどうした」

 

「だから味がしねェんだ。まぁ、ゲテモノとして一瞬興味が湧きかけたが、結局マズイからな。もういい」

 

「……?」

 

 

 様子の変わったクルードへ弥堂が怪訝な眼を向けると、その姿が突如消える。

 

 

「――もう飽きた」

 

「――っ⁉」

 

 

 そして次の瞬間にはすぐ横合いから声が聴こえる。

 

 

 すぐにそちらへ顔を向けると、組み合わせた両手を振り上げるクルードがもう至近距離に。

 

 

「だからもう殺す――」

 

 

 弥堂は身体を動かそうとするがもう遅い。

 

 

「――ペシャンコにしてやるぜェ……ッ!」

 

 

 クルードの両腕が脳天目掛けて振り下ろされた。

 

 

(間に合わない――)

 

 

 対応が追い付かない。

 

 そう判断された瞬間、弥堂の首筋に黒い刻印が浮かび青白く発光する。

 

 

「――【falso(ファルソ) héroe(エロエ)】」

 

 

 “反射魔術(アンダースペル)”により、自動で『世界』から自分の“魂の設計図(アニマグラム)”を引き剥がす――その行動を自身の肉体にとらせる。

 

 

 視えていて、脅威を認識しながら、反応出来ないと判断する。

 

 それを条件に発動して、強制的に自分の身体にその行動を起こさせるよう設定している刻印魔術だ。

 

 

『世界』から居なくなった弥堂の居た空間をクルードの剛腕が通り抜ける。

 

 その両腕は派手に大地を打ち砕いた。

 

 

 “反射魔術(アンダースペル)”で【falso(ファルソ) héroe(エロエ)】を発動させた場合は、自分の意思と行動で実行した時に比べて、『世界』から自分を剥がしていられる時間は短い。

 

 限界を超えると戻れなくなる。

 

 

 弥堂は反撃を選択せずに距離を取ることを選んだ。

 

 

 再び自分を『世界』に戻して、すぐにグールの群れの中に逃げようとする。

 

 

 弥堂が“戻った”瞬間、クルードの鼻がピクリと動く。

 

 

 そして、さらに次の瞬間では、弥堂が向かう先のグールの群れが弾け飛んだ。

 

 

「ちょっと消えるくれェじゃ遅ェんだよ――」

 

「っ――」

 

 

 あっさりと先に回りこまれてしまう。

 

 明らかに先程までとはクルードのスピードのギアが違う。

 

 

 右の拳が打ち落とされた。

 

 

 弥堂は形振り構わわずに身体を横に投げ出した。

 

 

 空ぶったクルードの拳がまたコンクリートを砕く。

 

 

 直接打撃を受けることはなかったが、砕けたそのコンクリートが撒き散り、その破片の一部は弥堂へ向かう。

 

 

 回避行動中の弥堂の眼に、自分の顔面へ向かってくる頭蓋骨大のコンクリートが映る。

 

 

 首筋にまた黒い刻印が浮かび、しかし今回はその刻印に光は宿らなかった。

 

 

 弥堂は首を動かして、飛んでくる破片に額で当たりにいった。

 

 

「グッ――」

 

 

 短く呻いて、首が仰け反る。

 

 額の皮膚が裂け血が飛び散った。

 

 

「喰らっとけッ!」

 

 

 クルードはその場で地面を踵で踏み砕いた。

 

 再び放たれるコンクリの破片はショットガンの弾のように空中で無防備になった弥堂を滅多打ちにする。

 

 

 死に体のまま連続した衝撃を受けて、弥堂の身体は踊りながら吹き飛んだ。

 

 車に撥ねられたように、地面に落ちてからもゴロゴロと転がり、その先にいたグールの群れに突っ込む。

 

 

 地面を転がる弥堂の身体に何体かのグールは足を払われて転倒するが、やがて弥堂の横転が止まると他のグールが雪崩のように群がり覆い被さってきた。

 

 何体ものグールが弥堂の身体に喰らいつく。

 

 

 腕に足に歯を立てられるが、丈夫な革製のバトルスーツがそれを防ぐ。

 

 しかし肌が露出している箇所はその限りではない。

 

 

 手や頬、それから裂けた額の傷に齧りつかれると肉に歯が喰いこむ。

 

 そして首に噛みつかれた瞬間に、また首筋に刻印が浮かび今度は蒼銀に輝いた。

 

 

「――っ!」

 

 

 弥堂は意思の力で身体の反射行動を抑え込み、“反射魔術(アンダースペル)”の発動をキャンセルさせる。

 

 右手を動かし首に喰らいつくグールの首を握り潰して、覆い被さってくる他の死体どもの隙間からクルードの姿を視た。

 

 

 腐った死体どもの壁ごしにクルードと目が合う。

 

 クルードはニヤリと嗤い、そしてその姿が消える。

 

 

「――【falso(ファルソ) héroe(エロエ)】」

 

 

 その瞬間を待っていたとばかりに、弥堂は『世界』から自分を剥がした。

 

 

 その0コンマ何秒か後に、弥堂を喰らうために群がっていたグールで出来た小山が潰れて弾ける。

 

 宙に飛び上がったクルードがそこへ着弾するように落下してきたのだ。

 

 

 飛び散る腐乱死体の破片からクルードは弥堂の姿を探す。

 

 すると、背中に重みを感じた。

 

 

「アァ?」

 

「死ね」

 

 

 クルードの背中の上で姿を現した弥堂は彼の首に腕を回し、開かれた口の中へ聖剣(エアリスフィール)の切っ先を突っこんだ。

 

 

 ガギッ――と硬質な音が鳴る。

 

 

 蒼銀の光で出来た刃は、口を閉じたクルードの歯で受け止められていた。

 

 

「マジィな」

 

「……ぐっ⁉」

 

 

 首を掴まれて宙吊りにされる。

 

 一瞬で息が詰まり手から力が抜ける。

 

 

 聖剣を取り落とす前にロザリオに戻す。

 

 同時に膝蹴りを繰り出した。

 

 

 その膝はクルードの顔面に直撃するが、やはり全くダメージにもならず、驚かせることすら出来なかった。

 

 

「ハッ、即座に反撃に出るとこはホメてやるよ」

 

「……ガッ!」

 

 

 ギリギリと喉を締め上げられ視界が霞む。

 

 

「褒美をやる。ニンゲンじゃ中々出来ない経験をさせてやらァ……」

 

 

 クルードは宙吊りにしていた弥堂を振りかぶる。

 

 

「トべやオラァ……ッ!」

 

 

 そして上空へ向けて弥堂を投げた。

 

 

「――うっ、ぐぅぅ……っ!」

 

 

 物凄い速度で高度を上げていく中で急激な負荷が弥堂の身体にかかる。

 

 どうにか姿勢を整えようとして背中を上空へ向けたところで下界が眼に映る。

 

 

 あれだけ周囲に拡がっていたグールの群れの面積が小さく狭く見えるほどの高さにまで上げられてしまっていた。

 

 姿勢がどうの、着地がどうのと考える必要すらない。

 

 落ちれば即死だ。

 

 

 地上ではクルードが拳を振り絞った。

 

 ギュオっと躰を捩じると周囲に暴風が巻き起こり、その勢いだけで辺りのグールがバラバラになって吹き飛ぶ。

 

 

「ギャハハハハハッ! 木っ端微塵にしてやんよォ……ッ!」

 

 

 拳を固めながら、この後落ちてくる弥堂を狙って待ち受ける。

 

 

 クルードのその様子は遥か上空の弥堂にも伝わった。

 

 

 だが、どうすることも出来ない。

 

 飛行手段を持たない弥堂には落下の軌道を大きく変えることは不可能だ。

 

 それにクルードがいなかったとしても間違いなく死ぬ。

 

 学園の時計塔から飛び降りた時とは訳が違う。

 

 完全に開けた場所であるここには衝撃を減衰させる為に利用できる物が何もない。

 

 どう転んでも辿り着くのは死だけだった。

 

 

 最高到達点まで上がった弥堂の身体は落下を始める。

 

 眼下のクルードの目がギラリと光った。

 

 

 その時――

 

 

「アァ?」

 

 

 クルードの周囲に次々と魔法の光球が着弾する。

 

 

「――ダメェェェ……ッ!」

 

 

 弥堂の危機を察知して急行してきた愛苗だ。

 

 

 無数の光球を放ちながら飛行魔法を全開にする。

 

 

「スプリントフォーム!」

 

 

 コスチュームを速度重視の形態に変化させてさらに加速した。

 

 

 魔法弾は何発かはクルードに当たってはいるがダメージにはまるで至らない。

 

 

「ハッ、やっと来たか」

 

 

 クルードはニヤリと嗤う。

 

 

 そして膝を撓めてその場で跳び上がった。

 

 

「なんだと――⁉」

 

 

 あっという間に上空から落下中の弥堂の所まで到達すると、雑にその身体を掴む。

 

 

「本命が来たからよ。テメェはもう用済みだ」

 

 

 弥堂の身体を振りかぶり、こちらへ向かってくる愛苗目掛けて投げつけた。

 

 

「――弥堂くんっ!」

 

 

 猛スピードで飛んでくる弥堂を愛苗は受け止める。

 

 受け止めた衝撃で諸共に背後へと飛ばされた。

 

 

「うっ……、くぅぅ……っ!」

 

 

 愛苗は飛行魔法を操って出来るだけ弥堂の身体に負担がかからないように衝撃を逃がす。

 

 だがそれは全ては上手くいかず、弥堂の身体を抱きしめたまま一緒に地面へと落下した。

 

 

 その瞬間に弥堂は動き出し、愛苗を抱きしめ返す。

 

 そして力の制御権を奪い取り、彼女の頭を腕で抱え、彼女の身体を自分の身体の中に隠すようにしながら地面を転がって慣性を処理した。

 

 やがて横転は止まる。

 

 

「あっ……、ぅく……、び、びとうく――」

 

「――俺を見るな! 来るぞ!」

 

「え――」

 

「――その通りだぜ」

 

 

 弥堂が警告の声を上げた直後、地に倒れる二人の上に大きな影がかかる。

 

 既に追いついてきていたクルードだ。

 

 

「盾を出せ!」

 

「そうだぜェ、遅ェぞ?」

 

「あっ――」

 

 

 クルードが振り上げた右手を鉤爪のように開くと爪が伸びる。

 

 その目は弥堂を見下ろしていた。

 

 

「だ、だめぇぇ――っ!」

 

 

 防御魔法が間に合わず、愛苗は咄嗟に弥堂に覆いかぶさった。

 

 自分の身体を盾にするつもりだ。

 

 

 だが――

 

 

「――えっ?」

 

 

 魔法少女のコスチュームを掴まれると横に投げ飛ばされた。

 

 

 再び地面を転がる愛苗の視界に弥堂の姿が映る。

 

 庇うつもりが庇われ凶爪は彼へと向かう。

 

 

 その時、彼の首筋が青白く光り――

 

 

 

――しかし何かが起こる前にクルードの爪が正面から弥堂を引き裂いた。

 

 

「弥堂くん――っ⁉」

 

 

 鮮血が舞い散る。

 

 

 グールの歯ではビクともしなかった革製のバトルスーツは容易く引き裂かれ、その下の胸の肉まで抉った。

 

 

 宙を舞った血の一滴が愛苗の頬に落ちる。

 

 衝動的に彼女は飛び出す。

 

 

 だがその瞬間、クルードが地面を踏み抜いた。

 

 

「あくっ……⁉」

 

 

 破壊されたコンクリの破片が飛んできて、愛苗は出足を殺される。

 

 またその衝撃で弥堂の身体が宙に打ち上がり、クルードは目の前まで上がってきた彼の頭を鷲摑みにした。

 

 

「クッ、カカカカカ……ッ! やっぱニンゲンは弱ェなァ……!」

 

「ぐぅ……っ」

 

 

 哄笑をあげて、弥堂の胸の傷口に爪を突き立てる。

 

 

「アン……? なんだこれ?」

 

 

 だがすぐに訝しげな顔になると刺した爪を引き抜き、弥堂の胸をカリっと引っ掻く。

 

 傷により裂かれた皮膚には古傷のような紋様があった。

 

 

「ンだ、こりゃあ? 葉……? 入れ墨かァ?」

 

 

 葉脈のような模様に眉を顰めつつ、その皮膚を爪でなぞって裂く。

 

 

「や、やめてぇ……っ!」

 

「ハッ、まぁいい――」

 

 

 愛苗が制止の声を叫ぶと、クルードは彼女をジロリと見て、再び嗤った。

 

 

「テメェは闘争心が足りねェ……! もっと本気にさせてやるよ!」

 

 

 彼女へ見せつけるように、宙吊りにした弥堂の傷口目掛けて強烈な拳を叩きつけた。

 

 

 インパクトの瞬間、何かが潰れて砕けるような鈍い音が鳴る。

 

 

 そして弥堂の身体は冗談のような直線軌道で吹き飛んでいった。

 

 

「びとうく――」

 

 

 愛苗が伸ばした手から猛スピードで離れて行く弥堂は、少し離れた位置にいたアスの所へ飛んでいく。

 

 アスは表情を動かすことなく薄い笑みを浮かべたまま、スッと身体を横にズラした。

 

 

 すると弥堂はそこを通り抜け、背後にあった積みっ放しの建材へと突っ込んだ。

 

 破滅的な音を立てながら木材の山に飲み込まれ、さらにその上に大量の建材が倒れ込んできた。

 

 

「弥堂くん……!」

 

 

 愛苗は慌てて弥堂の元へ飛んでいこうとする。

 

 

「――待てよ」

 

 

 だが、飛び出したと同時に足をクルードに掴まれてしまった。

 

 

「どこ行くんだよ?」

 

「は、はなしてください……っ!」

 

「おう、いいぜ? オラ、よ……ッ!」

 

「きゃああぁぁぁ……っ⁉」

 

 

 クルードはニヤリと嘲笑って愛苗の足を振り回して彼女を投げ飛ばした。

 

 悲鳴を上げながら愛苗はグールの群れに突っ込む。

 

 ぶつかった衝撃で何体ものグールが弾け飛ぶが、そんなことに構っていられない。

 

 

 すぐに飛行魔法で飛び上がった。

 

 

 急いで弥堂の方へ向かおうとするが、その前にクルードが立ち塞がる。

 

 愛苗は表情に焦燥を浮かべた。

 

 

 魔法少女の自分でさえやられてしまったクルードの強烈な打撃。

 

 かなりの距離をすごい勢いで飛ばされ建材に衝突した。

 

 そして今はそれらに生き埋めになっている。

 

 

 普通の人間がそんな目に遭えば――

 

 

――その先を想像すると息が詰まり、締め付けられた胸に痛みが奔る。

 

 

 そんな彼女を嘲笑うかのようにクルードは大きく腕を広げて行く手を阻んだ。

 

 そして咆哮をあげる。

 

 

「さあ始めようぜェ! 闘争をよォ……ッ!」

 

「……どいてください!」

 

 

 だが、立ち止まっているわけにも怯えているわけにもいかない。

 

 

 愛苗は形振り構わずに魔力を使い、弥堂を救うために正面から突っ込んだ。

 

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