俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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2章04 Private EYE on a thousand ①

 

 午前10時頃。

 

 自宅のベッドの上で、希咲はスマホに映った望莱(みらい)に不機嫌な目を向ける。

 

 

「早くちゃんとした理由を聞かせなさいよ」

 

 

 その声にも隠す気のない険がある。

 

 だが――

 

 

「…………」

 

 

 望莱からの答えはまだない。

 

 当然彼女が希咲に怯えているわけではない。

 

 

 希咲がジッと彼女の顔を見つめる中、画面に映ったみらいさんがコックリコックリと舟を漕ぎ始めた。

 

 

「ちょっと! ちゃんとしてよ!」

 

「おめめショボショボです……」

 

 

 ガァーっと七海ちゃんに怒鳴られた寝起きのみらいさんは、コシコシと瞼を擦ってから欠伸をした。

 

 

「もう10時でしょ! なんで起きてないのよ!」

「わたし、夜行性タイプのお嬢様なんです」

 

「だらしないだけでしょ」

「んもぅ。七海ちゃんったら朝からご機嫌ナナメです」

 

「あんたのせいでしょ!」

「えー?」

 

 

 大好きな幼馴染のお姉さんに、キンキンとしたヒステリックな声で耳の中の膜をトントンされ、みらいさんはテンションが上がってくる。

 

 

「どうしてです?」

 

 

 わざとらしく惚けてみせると画面内の希咲の眉が吊り上がった。

 

 

「愛苗のこと聞くのに弥堂に会いに行こうとしたら、あんたが『それはダメですー』って言うから!」

「ですです。ダメです」

 

「全然ナットクできないのに理由も教えてくんなかったじゃん! 今忙しいとかって」

「ですです。はーどわーくでした」

 

「だから今日その理由を教えてくれるって約束だったでしょ⁉」

「ですです。二人だけの秘密の約束です」

 

「9時って言ったのに、あんた寝てるし! 何回かけても起きないし!」

「はい。あとで七海ちゃんのオニ電の着歴を見て、減ったスマホの充電の分だけ承認欲求を充電します」

 

「……キモイ」

 

 

 希咲の目が見事なジト目に変わると、ここでようやくみらいさんは覚醒した。

 

 

「――で? 聞かせてくれるんでしょ? どうしてあいつに近づいちゃダメなのか」

 

 

 望莱の目がパッチリしたことを確認し、希咲は本題へ促す。

 

 ベッドに背をつけて寝ころび、天井を背景にしたスマホ内の彼女の顔を見た。

 

 

 望莱は顎に人差し指をあて、一度「んー?」と考えるフリをして画面から消える。

 

 

「ちょっと!」

 

「まぁまぁ、ちょっと待ってください。わたし、起きたばかりなんです」

 

 

 希咲の咎める声に飄々と返しながら、望莱はゴッゴッと漢らしく喉を鳴らしてモーニングエナ汁をキメ、それから画面内に戻ってきた。

 

 

「……あんたそれ飲みすぎんのやめなさいよ」

「わたし寝起きでエナ汁キメないと尻肉の震えが止まらないんです」

 

「それ汁関係ないし。ダイエットしろ」

「がーん」

 

「そういうのいいから。早く言いなさいよ」

 

 

 昨日、旅行の予定を前倒しして美景に一人で帰還した希咲は学園に登校した。

 

 何処を探しても見つからない親友の行方の手掛かりを掴むために、クラスメイトたちに情報を求めようとしたのだが、案の定誰も彼もが『水無瀬 愛苗』のことを憶えていなかった。

 

 ただ、それは希咲にとっても想定内のことだった。

 

 

 美景に帰ってくる前に、元々クラスメイトたちは“そう”なってしまっていると聞いてはいた。

 

 それなのにわざわざ学園に聞き込みに来たのには理由がある。

 

 

 そのクラスメイトたちの中に一人だけ“例外”が居たからだ。

 

 

 弥堂 優輝(びとう ゆうき)――

 

 

 現在愛苗の身の周りが“そう”なってしまっていると希咲に報告をしてくれていた本人である。

 

 その彼とも連絡がとれなくなってしまっていたので、直接会いに行ったというわけだ。

 

 

 ちなみにメッセージを既読無視された件は今日になってもまだ根に持っている。

 

 まさか彼の身にも何かあったのではと多少心配して登校したら、いつも通り“ぬぼー”っと虫のように何処を見ているかわからないような眼で普通に席に座っていやがったので、絶対に許さないと心のメモに記してある。

 

 

 そこまではよかったのだが、しかしここで希咲にとって想定外のことが起こる。

 

 

 現状で愛苗に繋がる唯一の手掛かりであったはずの弥堂も、愛苗のことを忘れてしまっていたことだ。

 

 

 何となく、彼はそうはならないと思い込んでいたこともあって、希咲はそのことにショックを受けてしまい、つい捨て台詞を吐いて泣きながら教室から走り去るという乙女ムーブをかましてしまった。

 

 

 後にそのことを後悔した希咲は、放課後にでも弥堂の元を訪れ、非礼を詫びてから話を聞かせてもらおうと考える。

 

 弥堂が愛苗のことを憶えていなかったとしても、ここ数日の彼の行動を辿れば何処かに愛苗に繋がる手掛かりがあるかもしれないと踏んだのだ。

 

 

 そして、そのつもりでいた昨日昼頃――

 

 今こうしているように望莱との定期連絡の中で、自分はこの後こういう予定でいると伝えたところ、彼女にそれを強く止められたのだ。

 

 

 愛苗の消息がわからないことでとにかく焦っていた希咲は当然そのことに納得しない。

 

 理由の説明を求めても、望莱は会社の方の仕事を消化中で忙しいので、明日説明するからと電話を切られた。

 

 

 仕方ないので、自分の足でまた方々を探し回って、夜中に捜索を一旦打ち切り帰宅した。

 

 その夜が明けて、そして――

 

 

「――イマココ、です」

 

「は?」

 

「ふふふ、なんでもないです」

 

 

 突然意味不明なことを言い出した望莱に希咲が眉を寄せると、望莱はニッコリと清楚に微笑んだ。

 

 

「ま、いいわ。んで?」

 

「はい――」

 

 

 望莱の言動の意味不明さは今に始まったことではないので、馴れたものとばかりに希咲は流す。

 

 望莱の方も、今回は何もふざけたりイジワルで希咲の行動を妨害したわけではないので、表情を改めて話しだした。

 

 

「――昨日、警察の方から求められていた監視カメラの映像をわたし自身の手で洗っていたんです」

 

「え? 警察? あたしが聞きたいのは――」

 

「――まぁまぁ、聞いてください。わかってます。七海ちゃんが知りたいのは弥堂せんぱいのことですよね? ちゃんとそれに繋がる話ですから」

 

「ん。ゴメン。よろ」

 

「はいよろー」

 

 

 希咲が素直に謝ると望莱は笑みを深める。

 

 

「元々、カメラの映像を要求されたのは事件の日の深夜なんです」

「街も大変なことになってたみたいだしね」

 

「はい。それで、その日はわたしもこの島でエライことになっていたので、その時間は普通に寝てました」

「あ、うん、ゴメンね。あたしだけ……」

 

「いいんですよ。てゆーか、ぶっちゃけ七海ちゃんの方がエライことになってましたしね」

「うん、なんていうか、まぁ……?」

 

「天使――でしたっけ?」

「うん。って言ってもあたし天使とか見たことないから、見た目でそうとしか見えなかったってだけだけど」

 

「ふふ、感慨深いですね。手塩にかけて育てたウチの七海ちゃんがついにタイマンで天使をぶちのめすまでに成長して……。ギャル>天使が証明されてしまいました」

「や。ビミョーに勝ったとも言えないっていうか……、ってゆーか育てられてないし。あたしが育ててるし。てゆーか話それてるしっ」

 

「ふふ、それでは天使のことは一旦置いておきましょう。ただ、このことも後で絡んできますので忘れないでくださいね」

「はいはい」

 

 

 コホンと一拍置いて望莱は説明を開始する。

 

 

「我が社――“M.M.S”。株式会社 みんなのみらいセキュリティ、ですが」

「あぁ、うん……」

 

 

 何度聞いても微妙な名前だなと思ったが、今はそういう話をしている時じゃないので七海ちゃんはお口をもにょもにょさせてスルーする。

 

 この胡散臭い企業団体は望莱が経営する会社で紅月グループの傘下ということになっている。

 

 主に美景市内でセキュリティ会社として活動しているが、実質は彼女の持ち株100%の私兵軍団だ。

 

 ちなみに『みんなの未来を守る』のではなく、『みんなの望莱を守る』ことが経営指針となっていることは一般には知られていない。

 

 

「現在美景市内に設置されている街の監視カメラは我が社で開発し管理・運営をしている物です」

「ん。そうね」

 

「これは警察からの発注で開発し、市からの発注で設置された物です。そのおかげで我が社は市内でトップシェアを誇っています。わたし天才美少女経営者です」

「はいはい、そーね」

 

 

 当時中学生のみらいさんは自分も会社が欲しいと駄々を捏ね、困り顔の紅月パパがうっかり与えてしまったのだ。

 

 そして父親のコネをフル動員して表に出せない話の流れで、『美景市内の防犯強化』に関するプロジェクトの内の一つを強引に受注し、みらいさんは見事に一山を当てた。

 

 それ以来、彼女は“BJC”としてイキり散らしていた。

 

 BJCとは敏腕 JC CEOの略である。

 

 

「――そんなみらいちゃんも今はJCではなくJKなわけですが、頭文字が同じ“J”なのでそのまま使えるという汎用性の高さが……」

「あーもうっ! そういうのいいから!」

 

「はい。ズブズブに警察や行政と癒着している我が社ですが、お金だけもらって『ヘイ毎度』とはいきません。警察がこのシステムを運用する為のサポート、データ等の保守管理を行い、市内で何か事件などが起こった際、市や警察から求められたら協力をする義務があると契約により定められています」

「今回が“それ”ってことね」

 

「ですです」

 

 

 七海ちゃんの相槌スキルに気持ち良くなったみらいさんの舌の回転が上がっていく。

 

 

「なにせ、龍脈大暴走、港に魔王、街はゾンビパニック! わりとガチで未曾有の大危機です。まぁ、内容が内容なので表の歴史には残せませんけどね」

「イカガワシイわね。でもさ、監視カメラの管理? に就いてたオマワリさんたちとかヤバくない? 完全にこっちのことバレちゃったでしょ」

 

「そこは安心。普段から通常の防犯係として配属されている彼らは実は公安の特殊部署所属。元々“こっち”の人たちです」

「マジでイカガワシイわね」

 

「仕方ないです。従来から美景の地はそういうイカガワシイ場所。ということで、事件の検証のために当日前後の映像の提出を求められました」

「まぁ、そういう約束だもんね……って、あれ?」

 

「ふふ、どうしました?」

「んー……っと、それってなんかヘンじゃない?」

 

「えー?」

 

 

 希咲の指摘に望莱はわざとらしく小首を傾げてみせる。その目は実に愉しげだ。

 

 その顔に希咲はムッとする。

 

 

 こういう時の彼女はわからないフリをして、わざとこちらに答えを言わせようとしているのだ。

 

 それが試されているようで癇に障るが、いちいち腹を立てていては話が進まない。

 

 もうこの時点で自分の気付きが正解だとわかってはいるが、仕方なく付き合ってあげることにした。

 

 

「だってさ、カメラの映像ってオマワリさんがリアルタイムで見れるように基本なってるんでしょ? そこに出向してるあんたんとこのスタッフさんだっているだろうし……」

「はい。そのとおりです」

 

 

 望莱は満足げに頷く。

 

 

「見たいと思ったら勝手に見れるんじゃないの?」

「そうなんです。というか、見たんですよ」

 

「ならなんでいちいち映像出せとか……」

「それがですね。『無い』んですよ。無かったんです」

 

「は?」

「事件の捜査に必要な映像が残っていなかったんです」

 

 

 愛苗についての話を聞きたい希咲はここまで若干めんどくさそうに話に付き合っていたが、望莱の言葉で顔色を変えた。

 

 

「……どういうこと?」

「はい」

 

 

 真剣味を増した希咲の表情に合わせて望莱も表情から笑みを消す。

 

 

「もちろん何もかも映像が無いわけではないんです。街で元気いっぱいに暴れるゾンビさんやレッサーデーモンの姿、それと戦う警官や公安の清祓(せいばつ)課、あとは学園の“うきこ”ちゃんとか。そういうのは残っています」

 

 

 この監視映像の管理には二つの目的がある。

 

 一つは当然のことながら防犯や犯人逮捕。

 

 もう一つは、今回のような表に出せない超常現象が絡んだ時に、その対応に当たった関係者たちに関する情報の隠蔽だ。

 

 

 だから、そういった事情に精通した関係者や身内のみでガッツリと固めている。

 

 

「じゃあ、残ってないっていうのは……」

「はい。もっと事件の根幹となる部分……」

 

「要するに、『何が原因で』とか、『誰がやったのか』ってとこね」

「いえすです」

 

 

 画面上の望莱が人差し指を立てる。

 

 

「当日の状況をお浚いしましょう」

 

「ん」

 

「まず龍脈が暴走。美景の地から吸い上げられた膨大な魔力が龍脈を流れて港に集まる。その港には強力な結界。突入が不可能なので結界の前で指を咥えているとその中からゾンビさんが大侵攻。そっちの対処に追われていると結界が消失。街はお花畑に。どうも魔王級の悪魔が数体港に現れた模様。ゾンビがレッサーデーモンにミラクル進化。でもなんか知んないけど勝手に全部消えた。これが当日の流れです」

 

「あ、うん……、わけわかんないわね」

 

「はい。わけがわかりません」

 

 

 お互いに難しい顔を合わせた。

 

 

「とりあえずこの顛末へのツッコミは置いときます。そうすると、どう考えても港が怪しいですよね」

「そうね」

 

「だから当日の港の監視カメラの映像をチェックしました」

「でも、何も見つからなかった?」

 

「はい」

 

 

 即答した望莱の答えにしかし、希咲はより表情を怪訝なものにする。

 

 

「……ねぇ、みらい」

 

「なんでしょう?」

 

 

 考えながら彼女の名を呼ぶと、望莱はまた愉しげな笑みを浮かべた。

 

 

「『何も無い』ってさ、実際“どう”何も無かったの?」

 

「ふふ、“さすなな”ですっ」

 

 

 満足げな彼女を見て、希咲は複雑な心持ちになる。

 

 この場での正解を自分は引いたが、それは全体的な事態がより複雑なものであることとイコールになるからだ。

 

 

「まず捜査の責任者のエライ人が、映像を管理してる現場の人に録画映像から犯人を捜せと命じます。すると2時間くらいして『何もありませんでした』と報告がきます」

 

「それだけなら別に……、いや、ヘンよね」

 

「はい。犯人そのものの映像がなかったとしても、関連がありそうなものは何かしらあるはずなんです。それが割と早い時間で『何もなかった』と報告された」

 

「……ホントに何も見つからない時って、2時間くらいで何もないって結論出さないわよね。それで?」

 

「はい。わたしたちと同じく『おかしい』と考えたエライ人は、直属の信頼ができて戦闘も強い部下――ここでは仮に『中ボスちゃん』としましょうか。その人にチェックしてくるよう命じます」

 

「は? 中ボス……? なにそれ」

 

「まぁまぁ。というわけで中ボスちゃんはカメラルームに行って『見せろオラ』と雑魚スタッフたちを追い払うわけです」

 

「雑魚って……、あんたもしかしてふざけてる?」

 

「いいえ。言葉は悪いですがわかりやすさを重視してこう表現しています。まぁ、もう少しでわかりますよ」

 

「ふぅん……、ま、いいわ。ってことはその中ボスちゃんが見つけたわけね? 何かしらの手がかりを」

 

「いいえ」

 

「えっ?」

 

 

 てっきりそういう流れだと思っていた希咲は目を丸くする。

 

 望莱は実に嬉しげに続ける。

 

 

「中ボスちゃんも何も見つけられませんでした」

 

「何それ」

 

「ですが、その『何も見つけられない』は雑魚スタッフさんたちの『何も見つけられない』とはちょっと種類が違います」

 

「どういうこと……?」

 

「正確には中ボスちゃんは見つけました。『何も無いこと』を――」

 

「は? え……? ちょっと、イミわかんないんだけど……」

 

 

 望莱の何かを含んだような言い回しに希咲は混乱してしまう。

 

 

「雑魚スタッフさんたちの『何も無い』は『何も問題となるようなものは無い』という認識なんです。一方で、中ボスちゃんの『何も無い』は『手掛かりになるものが何も無い』なんです」

 

「ん……? それってどう違うの?」

 

「これはですね。現物の映像を見たら一発でわかることなんですけど、『無い』んですよ。当日の現場の映像が」

 

「えっ?」

 

「全部じゃないんです。一部。少しずつ。歯抜けになったみたいに、あちこちまちまちの時間で、映像が消えている部分があるんです」

 

「それって……、あっ、だから?」

 

「はい。多分手掛かりになるであろう部分が『無い』。そして、録画データがこんな有様なのに、何も問題が『無い』わけがない。そういうことです」

 

「でも、なんでそんな……」

 

 

 疑問を深める希咲に、望莱もまた真剣な顔で説明する。

 

 

「そんなわけで中ボスちゃんは怒るわけです。雑魚スタッフさんたちに。こんな不自然なものが問題ないわけないだろうって」

 

「そしたら?」

 

「キョトンってしてたそうです。何を言われているかわからない。そんな顔で」

 

「なによそれ。気持ち悪い……」

 

「それで何がどうおかしいかを中ボスちゃんが説明したら、『言われてみれば! 確かに!』みたいになって。すると次はなんで映像が消えているんだって話になるじゃないですか?」

 

「まぁ、そうよね」

 

「で、ログを漁って原因を探るわけなんですけど。そうすると出てくるんですよ。ポロポロと」

 

「え? 消えた映像? あったの?」

 

「いいえ。出てきたのはある種白々しい言い訳や隠し事のようなスタッフの供述です」

 

「…………」

 

「そういえば誤ってこの時間のこの場所の映像を消してしまったかもしれないです! だとか、この時間のこの時、リアタイで手が滑って変なボタン押しちゃったかもしれないです! なんて。他にもいっぱい」

 

「……ねぇ? みらい。これってさ」

 

「はい。憶えがありますよね。わたしたちには」

 

「…………」

 

 お互いの視線を電波上で合わせる。

 

 

「ここで七海ちゃんに問題です。『中ボス』『雑魚』これらは一体何を比べた結果の格付けだと思いますか?」

 

「……“魂の強度”」

 

「ぴんぽん正解です」

 

 

 ニッコリと微笑んで称賛をし、望莱はすぐに表情を戻す。

 

 

「これってそっくりですよね。水無瀬先輩のNTRビデオレターと」

 

「……そうね」

 

 

 七海ちゃんのスルースキルによって不適切な単語を無視されてしまい、みらいさんはふにゃっと眉を下げて残念そうにした。

 

 

「……中ボスちゃんはエライ人にこれを報告しました。不審に思ったエラい人は我が社に要請をします。当日の録画データを」

 

「そっか。そういう流れね……」

 

「ウチの会社の専用サーバーにも同じデータがバックアップされるようになっていますからね。もしもそっちが無事なら――」

 

「警察の方のデータを誰かが弄ったことになる」

 

「はい。だから“M.M.S”にそういった要求がきたわけなんですけど。とは言ってもエライ人が直接全部目を通すわけにもいかない。だからまずウチの社員が確認するわけですよ。“雑魚”社員が。そうしたら?」

 

「……そっか。『何も問題がなかった』」

 

「はい。そのとおりです」

 

 

 ベッドに仰向けになってスマホを見ていた希咲は不穏なものを感じ、コロンっと寝返りを打ってうつ伏せに姿勢を変えた。

 

 

「そう報告を受けたエライ人はわたしに直接連絡してきました。なにか隠してるんじゃないかって」

 

「あんたやりそうだもんね」

 

「んま。ひどいです」

 

「そういうのいいから。で?」

 

「はい。まぁ、実際わたしにも寝耳に水だったんですよ。なにせ前日は伝説の荒神とガチバトルして疲れて寝ていたわけですから。今回は本当に何が起こっているのか把握してなかったんです」

 

「あぁ、そっか。それであんたも忙しくなったわけね」

 

「はい。わたしが自分で見ました。録画映像を」

 

「あー、ね。そういうこと……」

 

 

 確かに警察やら何やらから直接要請された仕事なら最優先でやらなければならなかったことにも納得がいった。

 

 

「で?」

 

「はい。結論から言うと、わたしに見えたものは中ボスちゃんと同じようなものでした」

 

「“見えた”、ね。なるほど……」

 

「はい。なにせ、見る人によって認知が異なってしまいますからね」

 

「その差を生み出すのが――」

 

「――“魂の強度”」

 

 

 半ば眉唾のようにも思えた弥堂から聞いた話の真実味が増したように二人は感じた。

 

 

「んで? どうしたの?」

 

「ちゃんと報告しましたよ。ここまでは」

 

「ん? ここまで?」

 

「はい」

 

 

 望莱はまた悪だくみをしているような顔をする。

 

 

「この話をしていたら七海ちゃんピンっときましたよね?」

 

「うん。愛苗の時と似てるって」

 

「当然わたしもピンっときました。これってもしかしてって……」

 

「それで?」

 

「だから他の場所と時間の映像も調べてみたんです。そうしたら驚きの結果です」

 

「え?」

 

 

 七海ちゃんの驚き顔に萌えつつ、みらいさんはここぞとばかりに渾身のドヤ顔をキメる。

 

 

「み、みらい……っ! もしかして愛苗が……⁉」

 

「いいえ。残念ながらそれはありません。水無瀬先輩が映った映像は“一つも”ありませんでした」

 

「そっか……、でも……」

 

「ふふ、ちゃんと説明しますよ。わたしは独自に調査をして、それによって得られた成果は警察にも行政にも隠しました」

 

「なんでそんなことすんのよ。結局あんた怪しいことしてんじゃん」

 

「んま、七海ちゃんったらヒドイです。これは七海ちゃんの為なのに」

 

「え? ねぇ、みらい。あんたは一体何を見つけたの?」

 

「あはぁ」

 

 

 希咲の真剣な眼差しに望莱は蕩けたような笑みを漏らす。

 

 希咲は目を細めた。

 

 

 望莱のこの態度は、希咲が欲しがっているものを握っている時によく見られる仕草だ。

 

 

 現状を一歩進めるためのピース。

 

 それを彼女が持っている。

 

 

「ではまずは先に、最初の七海ちゃんとの約束を果たしましょうか」

 

「え? それって愛苗のこと?」

 

「いいえ。よく思い出してください。今日のこの電話は、みらいちゃんから何を聞き出すためのものだったか」

 

「何って……、あっ、そうか……!」

 

「はい。何故弥堂せんぱいに会ってはいけないか――その答えを申し上げます」

 

 

 スッと望莱の目が細められた。

 

 

「港の映像を調べたらあったんですよ」

 

「まさか――」

 

「そうです。あの日、あの時、あの場所――彼は居ました。そんなに長い時間ではないですが、バッチリ映像に残っていました」

 

「そうか……、だから――」

 

「はい。彼は事件の中心となる場所に居たんです――」

 

 

 希咲は息を呑む。

 

 

 軽く考えていたわけではない。

 

 なにせ大事な親友の行方が知れないのだ。

 

 

 だが、今回の件は愛苗の捜索だけをやっていれば済む話ではないということを理解した。

 

 

 そして――

 

 

 

――この災害はまだ終わっていない事件なのだと。

 

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