俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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2章10 ドロドロのミスゲート! ⑭

 

 弥堂は過去の情景に突破口を探す。

 

 

 付き合っているフリを通すために、本当に付き合っていることにする。

 

 これを実現する為の方法を探して過去の類似の出来事を思い出そうとしたら、一つの事例が浮かび上がった。

 

 

 それは、

 

 

『――なによ? セクハラするけどセクハラじゃないって。そんなのに騙されるかボケっ! セクハラしたらその時点でもうセクハラだっつーの! いい加減にしなさいよ!』

 

 

 希咲のこんな言葉だった。

 

 

 付き合っているフリをして本当に付き合う。

 

 セクハラをするフリでも、それはセクハラ。

 

 

 一見似ているようで、その実まるで違う事柄だ。

 

 何故これが現状打破の鍵になると思いついたのだろうか。

 

 

 

 希咲のその台詞の前後にもっと情報があるかもしれない。

 

 弥堂はさらに詳しく記憶を探る。

 

 

『えっと、あんたはあたしにセクハラがしたいんだけど、それはセクハラしてるフリのセクハラだからホントのセクハラにはなんなくて。なんでセクハラするかっていうと、セクハラをするとみんなの記憶が戻るからで。そこにセクハラしたいって気持ちがないから、これはえっちなセクハラじゃないから大丈夫だと。そういうことね?』

 

 

 すると思い出す。

 

 これは希咲にセクハラをすることで周囲の記憶に変化が見られないかを試そうとした乳輪測定会の時の会話だ。

 

 

 希咲を騙す為に『セクハラはするけれどそこに性的な欲求や気持ちはないので、これは実際にはセクハラではないので大丈夫だ』と、ゴリ押しをしようとした時のことだ。

 

 そうしたら希咲に『たとえフリでもセクハラした時点でそれはセクハラだ』と怒られてしまったのだ。

 

 

 セクハラしているフリでも、それはセクハラ。

 

 だが、付き合っているフリは、付き合っていない。

 

 

 これは矛盾だ。

 

 少なくとも弥堂にはそう思えてしまう。

 

 

 だが、希咲には何かしらの基準があるのかもしれない。

 

 中学一年の一学期で義務教育をドロップアウトして異世界なんぞに道を踏み外してしまった弥堂にはわからない基準が。

 

 

 それはなんだろうかと、さらに当日の会話を探る。

 

 

 

『あのさ? こないだもさ? あんたにサイテーなことばっかされたし、いっぱいえっちなこと言われたりしたけどさ。おバカなだけでわざとじゃないんだろうなーって、そう思って許してあげてたのよ』

 

『でも、違ったのね。よくよく考えればそんなわけないんだけど、なんとなくえっちなこと考えてる感じしなかったから。でもあたしが甘かったわ』

 

 

 

 先程の言葉と近い場面でこんなことも言っていた。

 

 弥堂にはあまりよく意味がわからなかったので無視していたのだが、これはどういう意味なのかを今考えてみる。

 

 

(要は、下心の有無か……?)

 

 

 下心はなくわざとでないからセクハラと認定するには不充分だとしてやっていた。

 

 だが、やっぱり下心がないはずがないので、セクハラと認定することにする。

 

 そういう意味だったに違いない。

 

 

 だが、そうするとまた彼女の真意がわからなくなる言葉がある。

 

 それは上記より少し前に言っていたこんな言葉だ。

 

 

『――興味も目的もないくせにセクハラはするとかバカにし過ぎでしょ!』

 

 

 下心があればセクハラと認定すると言っていたのに、下心なくセクハラをするのは彼女を馬鹿にしていることになる。

 

 この言葉と矛盾することになる。

 

 

 この言葉がどういう文脈だったかを前後を並べて思い出してみる。

 

 

『当然だ。フリとはいえセクハラはする。セクハラをしないとセクハラをしたフリにならないからな。だが、そこには性的な欲求もないし嫌がらせをする悪意もない。だから大丈夫だ。それはわかるな?』

 

『わかるヤツがいるわけねーだろ。つか、それ余計シツレーだって言ったじゃん! 興味も目的もないくせにセクハラはするとかバカにし過ぎでしょ!』

 

 

 上の弥堂の言葉に対して、下の希咲の言葉。

 

 こういう会話だった。

 

 

(やはりおかしい……)

 

 

『興味も目的もないくせにセクハラをするのはバカにしている』

 

『逆にシツレー』

 

 

 これはどういう意味なのだ。

 

 

 下心なくセクハラするのは失礼なこと――

 

 

 そういう意味にしか思えない。

 

 

(だが……いや、待てよ――)

 

 

『逆にシツレー』

 

 

 この言葉を別の場面でも希咲の口から聞いた憶えがある。

 

 それは一体いつのどんな会話だっただろうか――

 

 

「――ちょっと」

「…………」

 

「ちょっと! ってば!」

「……なんだよ」

 

 

 思い出そうとすると、希咲に呼びかけられて中断させられる。

 

 すぐ間近なところからジト目で見られていた。

 

 

「あんたさ、話してる途中にいきなりそうやって黙ってボーっとどっか見てる時あるけどさ。それなんなの?」

「気にするな」

 

「気になるっつーの。シツレーだし」

「シツレーだと?」

 

「えっ?」

 

 

 弥堂にジロリと睨まれ、抗議をしていたはずの希咲は若干尻ごむ。

 

 

「な、なによ?」

「そのシツレーは逆にか?」

 

「は?」

「逆にか、逆にじゃないのかどっちだ?」

 

「逆っていうかフツーにシツレーでしょ。人と話している時に急に無視してボーっとするのは」

「そうか。逆にじゃないのなら興味はない。黙っていろ」

 

「はぁ⁉ なんなの⁉」

「うるさい黙れ。今ちょっとセクハラについて少々思うところがあって考えているんだ。悪いが少し待ってくれ」

 

「あ、あんたマジでなんなの……?」

 

 

 女の子とお喋りしてる最中に唐突にセクハラについて思いを馳せる男を希咲は酷く軽蔑した。

 

 しかし同じくらい恐怖も抱いた。

 

 何故ならそんな頭のおかしな男に現在ギュッとされているからだ。

 

 

 セクハラについての思料の邪魔をしては、腹いせにどんなセクハラをされるかわからない。

 

 それにもしかしたらワンチャン今までのセクハラを悔い改めて、現在進行形のセクハラもやめてくれるかもしれない。

 

 なので仕方なく、好きなだけセクハラについて考えさせてやることにした。

 

 

 希咲のそんな切実な思いも知らず、弥堂は過去のセクハラについての記憶を探る。

 

 4月23日より以前に希咲が『逆にシツレー』と発言した記録を。

 

 

 すると――

 

 

『さっきも言ったが自意識過剰だ馬鹿め。お前のようなガキに興味をもつか』

 

『ホンットむかつくっ! あたし今日までこんなにセクハラされたことなかったんだけど! ここまですんならせめて少しはキョーミもってろよ、逆にシツレーじゃ――って、あぁっ! 今のナシ! ダメっ! 絶対NGだからっ!』

 

 

――該当の記録が見つかる。

 

 これは4月16日の彼女と帰り道を共にした時の会話だ。

 

 

 奇しくもこの桜並木での会話であり、そしてまた奇しくも現在のように彼女を抱きしめて色々としたことを怒られての会話だ。

 

 

 同じ場所、同じ状況、そして――

 

『逆にシツレー』という同じ言葉。

 

 非常に類似点が多かった。

 

 確実に答えに近づいた手応えを感じる。

 

 

(この言葉はどういう意味だ?)

 

 

 それを考える。

 

 

『ここまですんならせめて少しはキョーミもってろ』『逆にシツレー』

 

 

 やはり、興味や下心なくセクハラをするのは礼を失している。

 

 彼女は繰り返しそう言っていたようだった。

 

 

 つまり、セクハラをしているフリでもセクハラだと怒っていたのは、言葉どおりの意味ではない。

 

 フリが気に喰わなかったのだ。

 

 やるなら本気で来いと――そういう意味だったのに違いない。

 

 セクハラをするのなら、下心や興味という本心を開示しろと。

 

 

 そう考えれば先程矛盾だと感じた部分は解消される。

 

 

 では、現状はどうだ。

 

 

 付き合っているフリでは付き合わない。

 

 要は本気で来いということだろう。

 

 

(だが俺は本気だ)

 

 

 なにせクスリを使用して暗示までかけている。

 

 望まずとも本気になってしまう。

 

 なのに、通らない。

 

 それは何故だ。

 

 

(あと、何が足りない……?)

 

 

 もう少し彼女の過去の言葉を考えてみる。

 

 

『――逆にシツレーじゃ――って、あぁっ! 今のナシ! ダメっ! 絶対NGだからっ!』

 

 

 この部分が気になる。

 

 言いかけて途中で撤回した。

 

 

『絶対NG』

 

 強い言葉だ。

 

 

(NG? なにが?)

 

 

 この場合それは『彼女に興味を持つこと』だろう。

 

 興味を持てと本心で思いながら、持つなと言う。

 

 

(そういえば……)

 

 

 この日の朝の教室では、『少しはあたしに興味を持て!』と彼女は言っていた。

 

 

 興味を持てと言ったり、持つなと言ったり、これは――

 

 

(――明らかに矛盾だ)

 

 

 矛盾をするということは、そこに嘘や隠し事が在る。

 

 隠すということは、それを知られたら困るということだ。

 

 つまりは弱点。

 

 絶対にNG。その弱点に触れられたら困るということだ。

 

 

(間違いない……)

 

 

 異世界にて、セラスフィリアというヒト種最高峰の知能とメンタル強度を持つバケモノを実験動物とし、人間は何をされたら嫌がるのかを研究し続けていた。

 

 そんな経験を持つ弥堂は強く確信した。

 

 

 では、具体的にどうするのがここでの希咲の弱点となり得るのか。

 

 それを考え――

 

 

「――っ⁉」

 

「わっ⁉」

 

 

――見つけた。

 

 

 現状を打破するための手段を。

 

 

「ちょっと! いきなりお目めクワっとすんのやめてってゆったでしょ!」

 

 

 何やら威勢よく喚いている希咲を鼻で嘲笑ってやる。

 

 ムッとする彼女の顔を余裕たっぷりに視下ろした。

 

 

「そんな風に強気でいられるのも今の内だ」

 

「はぁ?」

 

「年貢の納め時だと言っている。お前はもう終わりだ」

 

「ねー? わかってる? それゼッタイ自分の彼女に言う台詞じゃないし。あんたゼッタイあたしのこと好きじゃないじゃん」

 

「うるせえな。好きだって言ってんだろ」

 

 

 何度好きだと言っても通じない心無い女に弥堂は苛立つが、彼女はシラーっとした目を向けてくるだけだ。

 

 

「なんだよ。その顏は」

 

「や。だってさ。なんかテキトーに『すきすき』言われ過ぎてさ。さっきのののかじゃないけど、流石にちょっと慣れてきたってゆーか? なんか『ほ~ん?』って感じ?」

 

「ふん、そうやってせいぜい油断していればいい。だが、お前はまだ知らない。俺の『好き』はこんなものではないことを……」

 

「えー? ホントにぃー? あんたそんなにあたしのこと好きなの?」

 

「当然だ。お前の想像もつかない程の『好き』をこれから見せてやる。覚悟しろ」

 

「覚悟しなきゃいけない『好き』とかイヤすぎんだけど」

 

 

 希咲は胡乱な瞳だが、周囲の者たちは俄かにざわつく。

 

 弥堂のあまりに自信に溢れた態度に風向きが変わったように感じたのだ。

 

 そして少なくない困惑も浮かべる。

 

 

「な、なぁ……?」

「……あぁ。さっきの浮気の話はどうなったんだ?」

「なんかフツーにイチャイチャトーク始まってるけど……」

「もう解決したってことでいいのか……⁉」

 

 

 男子たちがオロオロと動揺をしていると、

 

 

「シっ! 静かに」

「今は余計なこと言わないで」

 

 

 そこに女子からの注意が入った。

 

 

「解決はしてない。でも――」

「――うん。でも今は気持ちが盛り上がっちゃってるから……」

 

「えっ⁉」

「そ、それでいいのか……⁉」

 

「よくはない。でも今はそういう空気じゃなくなったの」

「そうそう。浮気は後で改めて詰めるから、今はジャマしないで」

 

「えぇ……」

 

 

 ドン引きしつつも大人しく見守ることにした。

 

 

 多くの視線が集まる先で、ついに弥堂が仕掛ける――

 

 

「勝負だ、希咲。いくぞ――」

 

「――ねぇ、あんたやっぱ目ぇヘンくない?」

 

「あ?」

 

 

――仕掛けようとしたが、希咲に意気を削がれる。

 

 同時に『マズイ』と感じる。

 

 

 弥堂は魔眼を使っている時の自分の眼が他人からどう見えるかをきちんと把握していなかった。

 

 文明レベルの低い異世界には鏡など碌に無かったし、日本に戻ってきてからも弥堂のような人間に毎日決まって鏡を見る習慣などあるわけがない。

 

 また鏡の前でわざわざ魔眼を使ってみようなどという発想もなかった。

 

 

 多種多様な色の髪や目を持つ人々の居る異世界では気にもしなかったが、黒髪黒目が基本の日本人の集団の中では異様に映るものであることをこの時に知った。

 

 

「……変じゃない」

 

 

 魔眼を隠すために咄嗟に嘘を吐くが、彼女は近い距離でジッと目を見つめてくる。

 

 

「ヘンってゆーか、なんか色変わってない?」

「変わってない」

 

「変わってるってば。いつも真っ黒だったじゃん」

「日本人だからな」

 

「なんか青いじゃん」

「お前も青いだろ」

 

「あたしはカラコンだし」

「俺もカラコンだし」

 

「マネすんな。あんたのは全体的に青って感じじゃなくって。なんか角度とか光の具合? で奥の方が蒼くなるってゆーか」

「お前だって光の当たり具合で色々変わるだろうが」

 

「だからカラコンだし」

「だから――」

 

「――マネすんなしっ」

 

 

 適当におちょくって有耶無耶にしようとしたことを読まれ、希咲に先を制されてしまう。

 

 

「目の色などどうでもいいだろ――」

 

 

 ムーっと唸る彼女の上目遣いから逃れるように首を横に回そうとするが――

 

 

「――ダメっ。ちゃんとこっち見て」

 

 

 顔を両手でパシっと掴まれ、グイっと視線を合わせられてしまう。

 

 

「おい、やめろ」

 

「うっさい。大人しくしてて」

 

 

 抗議を入れるが聞き入れては貰えず、「んー?」と声を漏らす希咲にほっぺをグニグニとされる。

 

 

「触るな」

「どの口が言ってんのよ。じゃあ、あんたも離しなさいよ」

 

「断る」

「だったらあたしも触ったっていいでしょ」

 

 

 ジィーっと瞳の奥を覗かれ反射的に魔眼に流す魔力を止めそうになるが、自制した。

 

 今それをしたら余計に不審に思われてしまいそうだ。

 

 仕方ないので彼女の手に頬を挟まれたまま好きにさせる。

 

 

「なんか不思議な感じねー? 全体的には黒なんだけど真ん中の奥? 中心だけ蒼いの?」

 

「知るか。なにが気に食わないんだ」

 

「そういうんじゃないってば。ずっと死んだ虫みたいに光がない黒って思ってたからさ」

 

「大体そんなもんだろ」

 

「そうじゃないから見てんじゃん。なんていうか、瞳孔の中から蒼いのが漏れてきてるみたいな? よく見ると銀色っぽいのもキラキラしてるし……、あっ、なんか蒼いのがちっちゃくなった! なんで?」

 

「光の当たり方だろ。お前だって似たような感じだろ」

 

「そう?」

 

 

 弥堂は希咲の顎に手を遣り、少しずつ動かして光の当たり具合を調節して色の変化を観察する。

 

 

「こうするとお前の目の色も変わるぞ」

「そ? 自分じゃわかんないけど」

 

「俺も同じだ。誰でもそんなもんじゃないのか」

「んー? そっかなー? めずらしーって思ったんだけど……、あれ? でも……」

 

「なんだ?」

「なんか……、似た感じの目……、見たことあるような……」

 

「なんだと――」

 

 

 それは一体どういう意味だと問おうとするが――

 

 

「――あ、あのお二人さん……?」

 

「あ?」

「ん?」

 

 

 横合いからかけられた控えめな声に遮られる。

 

 希咲と揃ってそちらに顔を向けると、そこには気まずげな顔をした早乙女だ。

 

 

「なんだ。お前はもう用済みだと言ったはずだ」

「ちょっと! そういう言い方しないの!」

 

「い、いえ……」

 

 

 早乙女は非常に言いにくそうに切り出す。

 

 

「あの、二人は勝負というか……、その……、もういいのですか……?」

 

 

 仲良くしたり緊迫したりを繰り返した挙句、お部屋デートばりのイチャつき方をしだした二人に、ギャラリーの皆さんは情緒が着いていけなくなってしまったのだ。

 

 申し訳なさそうな早乙女の指摘に、弥堂も希咲も揃ってハッとした。

 

 

「ちょっと! 顔触んないでよ!」

「こちらの台詞だ」

 

 

 さらに揃って顔からパッと手を離す。

 

 

 どうやら進行するようだと判断して、早乙女は一礼をして所定の位置へ戻って行った。

 

 

「卑怯な手を使いやがって。その手にはのらんぞ」

 

「ふん、あんたの思い通りになんかさせないんだから……!」

 

 

 お互い何を言っているのかわからなかったが、負けないぞという意思だけは明確に強調した。

 

 

「てゆーか、これ以上何があるってのよ。あたしもう帰りたいんだけど」

 

 

 わざわざ待ち伏せまでして追う側だった希咲さんはそのことを忘れて帰宅意思を示す。

 

 

「馬鹿め。この俺がやすやすと逃がすと思うか?」

 

 

 その彼女から何としてでも逃げる側だった弥堂も初心をどこへやったのか、絶対に離さない意思を強調した。

 

 

 そしてそれを見守るギャラリーもそろそろ帰りたいので、どうにか決着をつけてくれるように願った。

 

 はっきりと仲直りするところを目撃しないと今更帰るに帰れないのだ。

 

 

「なに……? なにをする気……?」

 

「決まっている。当然……、告白だ……!」

 

 

 警戒心を滲ませて睨みつけてくる希咲に、弥堂は告白をするつもりであることを告白した。

 

 その告白の告白を希咲は鼻で笑う。

 

 

「はっ――まだ諦めてないわけ? 馬鹿の一つ覚えみたいに『すきすき』連呼したってダメよ……! あたしそんなにカンタンじゃないんだから!」

 

「ふん、それはどうかな?」

 

「なんですって……⁉」

 

 

 意味深な弥堂の言葉に希咲は眉を怪訝そうに寄せる。

 

 野次馬たちも騒めいた。

 

 

「お、おい……、これ告白なんだよな? 果たし合いじゃねェよな……?」

「ののかもうわっかんねーんだよ……! とりあえず色んな意味でドキドキしてる……」

 

「心を乱すな。二人の邪魔になる。次だ……! 次の攻防で決着がつく……!」

 

「は、はい……っ!」

「す、すんません先輩……!」

 

「流れに目を向けろ。我らはただその行方を見守るのみ……」

 

 

 動揺する心を高杉くんに窘められて鮫島くんと早乙女は恐縮する。

 

 彼らは三人とも同級生だ。

 

 

 弥堂は眼を細めて、希咲の奥底を視通す。

 

 

「俺には視えている。お前のその魂の在り方が……」

 

「魂……?」

 

「お前のその“魂の強度”を剥がして、必ずその根幹にまで届かせてやる……! 俺のこの告白を……!」

 

「また、魂の強度……っ。なんだかわかんないけどムダよ! あたしは絶対に負けないっ! なにがあっても付き合わないし、浮気も許さないんだから……!」

 

「思い上がるな。お前は既に俺とつきあっているし、一度そうなれば決して逃れることは出来ない……っ!」

 

 

 激重な弥堂の言葉に希咲は僅かに気圧される。

 

 弥堂は勝機を視た。

 

 

「見抜いたぞ、俺は。お前の弱点を……!」

 

「弱点ですって……⁉」

 

 

 弥堂は両目を閉じて深く精神を集中させる。

 

 

 他人に隙を見せることを極端に嫌うはずの男が敵前で見せたその無防備な姿に、希咲は逆に動くことが出来なくなった。

 

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