俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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2章11 Bitterness supplements ⑤

 

 弥堂の特異な部分について二人は考察している。

 

 

「――目か……」

 

「ある意味七海ちゃんと似てますね。相手のチカラや戦力を可視化できる」

 

「あいつは魂とその強さが見えるってこと? でも、それこそそんなスキルはあいつに見えなかったわよ?」

 

「スキルじゃないのかもしれません」

 

「えっ?」

 

 

 難しい顏になっていた希咲の目が丸くなった。

 

 

「あ、いえ、スキルなのかもしれないんですけど、ちょっと種類が違うのかもというか……」

 

「どういうこと?」

 

 

 珍しく歯切れの悪い望莱の顔を窺う。

 

 

「これは今回のとは別の違和感なんですけど……」

 

「うん」

 

「ちょっと前に。そうですね、“せんぱい”から“魂の設計図(アニマグラム)”だの『世界』だのって情報が出てきた時から、うっすらと感じてたんです」

 

「違和感をってことよね?」

 

「はい。なんというか……、ゲームシステムというか、ゲーム性が違うというか……? ゲームではないんですけど」

 

「あー、うん。言いたいことはわかるかも」

 

 

 曖昧な違和感を二人は共有した。

 

 

「例えば、陰陽府のスタッフさんの戦力を七海ちゃんが測ろうとするじゃないですか?」

 

「あの人たちベツにスタッフさんじゃないでしょ」

 

「そうすると【陰陽術】ってスキルとその習熟度。それを運用する為の魔力が見えるじゃないですか?」

 

「まぁ、うん」

 

「でも、弥堂せんぱいのは見えないんですよね?」

 

「えっとね……」

 

 

 希咲は少し言葉を探してから説明をする。

 

 

「魔力は厳密に言えば“ある”のよ」

 

「ほぉ」

 

「でも、魔力を使って戦う人ほどはないの。一般人よりは多いかなくらいで。多分リィゼが使ってるようなちょっと強めの魔法とか使ったら、一発でガス欠になるか、そもそも足りない程度なのよ。陰陽府の人たちと比べても全然少ないし」

 

「なるほど。スキルは?」

 

「何も」

 

「そうですか……」

 

 

 望莱はその情報で自らの説を補強した。

 

 

「やっぱり仕様が違うのかもしれないです」

 

「仕様?」

 

「はい。もしも彼にスキルがあるのならの話ですけど。こっちの仕様と違うから測れない。もしくはこっちの規格に当て嵌めることが出来ない」

 

「んん……?」

 

「まぁ、これも思いつきですね。本人と話してみないとわからないです」

 

 

 これ以上はわからないとして、話を戻す。

 

 

「“せんぱい”の話になってしまいましたけど、法廷院先輩のフィクサーさんに戻しましょう」

 

「あ、うん。“魂の強度”が高い特殊な人間じゃないと、相応しくない――だっけ?」

 

「はい。その資格(ライセンス)が無いと、わたしは思います。では、仮に――そのフィクサーさんに本当に未来を知るようなチカラがあるとしましょう……、なんか、この言い方だとまるでわたしがストーカーされてるみたいでドキドキしちゃいます……」

 

「はいはい。そういうのいいから」

 

 

 マジメタイムが続いたので集中力が切れてきたみらいさんを希咲は窘めた。

 

 

「仕方ありません。では――テイク2――未来を知るとはどういうことでしょうか?」

 

「え? えっと、予知能力とかそういうことじゃないの?」

 

 

 キョトンと首を傾げる希咲に望莱は頷く。

 

 

「普通はそんなことありえないけど、普通に考えるとそういうことになりますよね。でも、実際にそういう“絵”かなにかが見えなくても、疑似的に未来を知ることは可能です」

 

「そうなの?」

 

「はい。情報、予測、操作――この3つで可能となります」

 

 

 画面内で指を三本立ててみせる望莱に希咲は眉を寄せた。

 

 

「どういうこと……?」

 

「はい。まずは情報。現在がどういう状況かを正確に知ること。その為にはあらゆる過去のデータが必要になります」

 

「でも、それってすっごく大変じゃない?」

 

「そうですね。もちろん世界中の全てということになれば一人の人間には不可能です。でもごく限られた範囲の限られた期間でなら、出来なくはない」

 

「う~ん……」

 

 

 俄かには同意出来ない様子の希咲に望莱はニッコリと微笑む。

 

 

「例えば、さっき七海ちゃんはこう言いました。『せんぱいにスカートの中に手を入れられてお尻を触られた』と」

 

「は?」

 

「七海ちゃん。七海ちゃんは今日スカートの下に短パンを穿いていましたね?」

 

「え? そう、だけど……、なんで――」

 

「もしもノーガードでスカートに手を突っこまれて、生ケツと生パンを触られてたら、七海ちゃんのギャン泣きはこんなものではありませんでした。立ち直りももっと遅くてガチヘコみをしていたはずです」

 

「そ、そんなことないけど!」

 

「いいえ。あります。そしてそこからさらに知れる情報もあります。七海ちゃんは下着のラインが出るのを嫌がって今日はTバックを穿いてますね?」

 

「い、いや、それは……」

 

 

 みらいさんの鋭い指摘に希咲は狼狽えた。

 

 だが、追及は止まらない。

 

 

「スカートの下の短パンなので別に誰に見せるわけでもない。しかし、それでもパンティラインが浮くのは許せない。だからこそのTバック。七海ちゃんはそういう女です」

 

「だ、だって、そんなのダサいじゃん……!」

 

「ふふふ、いいんですよ。咎めてるわけじゃないです。そして、パンティラインのないお尻を撫でられて、七海ちゃんは今日のおぱんつはTバックであるということが、“せんぱい”にバレてしまいました」

 

「バ、バレてないっ! あのバカがそんなことに気付くわけない!」

 

「おっと、それは新情報。ということは、あの人ならこう考えるでしょう。『おい、お前もしかしておぱんつを穿いていないのか?』と――」

 

「んな――っ⁉」

 

 

 みらいさんの鋭いプロファイリングに希咲は絶句した。

 

 

「あの人なら七海ちゃんを動揺させるための攻撃として直接そんなデリカシーのないことを言ってくるでしょう。もしもTバックだと気付いたら逆にそのことでイジってくるはずです」

 

「あぅあぅあぅ……」

 

「七海ちゃん。みんなの前で『おぱんつ穿いてないのか?』とぶちまけられて一部には誤解され、さらに察しのいい人たちには“Tバックバレ”しましたね?」

 

「ななななななっ……⁉」

 

「たった一つの情報でも結構多くのことを知れるんですよ。これが情報の収集と精査です」

 

「まじむかつくっ!」

 

 

 みらいさんの卓越した情報の扱いに七海ちゃんはぷんぷんだ。

 

 

「そして、予測。過去の情報から成り立つ現在。ではその現況がどう動くかを予測します」

 

「なんであたしセクハラされたの……?」

 

「こうなったらこうなるだろう。それを予測するには多くの人間の傾向、そしてターゲットとなる主要な人物のプロフィールを知る必要があります」

 

 

 希咲は正当な主張をしたが無視されたまま説明は続く。

 

 

「例えば――」

 

「ん?」

 

「――もしもわたしが、男子の前で服の上から七海ちゃんのブラを外したらどうなるでしょう?」

 

「は? そんなのひっぱたくに決まってるけど?」

 

「はい。実際にこの間もお尻をぶたれました」

 

「当たり前じゃん」

 

「ということは、次に同じことをしても同じ結果になるか、それ以上のお仕置きをされる可能性が高いことになります」

 

「そりゃそうだけど……」

 

「そういえば七海ちゃん――」

 

 

 今回の例えも自分へのセクハラであることに不満を覚える希咲に気付かないフリをしながら、みらいさんは彼女へ尋ねた。

 

 

「あによ」

 

「そういえば今回の騒ぎのオチをちゃんと聞いてなかったんですけど……」

 

「オチじゃないし」

 

「七海ちゃんは最終的に、“せんぱい”にミラクルコンボを叩きこんでぶっ飛ばしましたね?」

 

「えっ? えっと、それはぁ……」

 

 

 そういえば、大分キツめのお仕置きをぶち込んだ気がすると希咲は目線を逸らす。

 

 色々と限界だったので手加減をした憶えがなく、希咲の顏にツーと汗が流れた。

 

 

「前回の文化講堂の時もセクハラされて“せんぱい”をぶっ飛ばしました。今回も同様です」

 

「あ、えっと、だ、だって……! しょうがなかったんだもんっ!」

 

「落ち着いてください。これは暴力を行使したことを非難したいわけでも、七海ちゃんゴリラカワイイって言いたいわけでもないんです」

 

「だ、だれがゴリラだっ⁉」

 

「つまり、七海ちゃんはこういう状況になれば、こういう行動をとりがち。弥堂せんぱいもセクハラ出来る状況になれば、そういう行動をとりがち。そんな二人が顔を合わせたらどういうことが起きるか、予測しやすいですよね」

 

「そう言われるとそうかもしんないけど……、なんかむかつくっ!」

 

 

 まるで自分があのクズの為のセクハラ専用女みたいな言われ方をされて、七海ちゃんはまたもぷんぷんだ。

 

 

「では、最後に操作。もうわかりますよね?」

 

「わかったけど、わかんないっ!」

 

「そんな七海ちゃんと、そんな“せんぱい”が顔を合わせる場を作り、そういうことになりそうな流れを作れば……」

 

「そんなことって……」

 

「つまり、未来を知るということは、全ての情報を把握し、全ての人を知り、全ての状況を操ることで、自分の望む現象を人々に起こさせ、その先の持っていきたい結果へ導く。そうしようとして、実際にそうなれば、それはその未来を知っていたことと同じ――ですよね?」

 

 

 理屈だけならそうなのかもしれないと希咲は思う。

 

 だけど、望莱の口ぶりほどには簡単なことではないようにも思えた。

 

 

 本当に出来るのかと考えていると、一つ気が付く。

 

 

「あっ……、そういえば……っ!」

 

「なにか思い当たることが?」

 

「あたしがあいつに痴漢される前に、法廷院たちからイチャモンつけられたのよ! それまではずっと黙ってたのに! 急に、スカートの下の短パンは普通にパンツだからとかって、わけわかんないこと言ってきたの……!」

 

 

 その前に自分でスカートを捲ったことから始まった流れだったが、今にして思うとそれはとてもはしたないことだったなと思ったので、七海ちゃんはなかったことにした。

 

 

「なるほど。それに、そもそも今回の対決の場って。昨日橋の上で法廷院先輩たちと会ったから思いついたことですよね?」

 

「……確かにそうね。じゃなかったら、あいつらと前回揉めた時のこと思い出して、それを利用して弥堂のウソを見つけようって発想は出てこなかったかも……!」

 

「あの日のあの時間、本当なら七海ちゃんは駅前で買い物をしているはずだった」

 

「……その途中で弥堂を見つけちゃって、尾行して……。メロが出てきて、愛苗の家に連れて行って……。時間遅くなっちゃったから近くの商店街で買い物をすることにして……。それで中美景橋に……」

 

「途中の出来事が一個でもなかったら、どっかで時間が早まったり遅くなったりしたら――あの橋を通らない可能性の方が高かったですよね」

 

「これも、“出来過ぎ”……」

 

 

 見えない誰かの手で自分が操られているような――

 

 そんな不快感を覚えて希咲は僅かに身を震わせた。

 

 

「あと、わたしの名前を出してきたこともです」

 

「え?」

 

「さっきの話と混ざりますけど、水無瀬先輩の消失の辻褄合わせに、わたしも必要ないと思うんですよね」

 

「さっきも言ってたわよね」

 

 

 先にあった『不自然さ』と『納得のいかなさ』への言及だ。

 

 

「本当ならフィクサーさんからのメールに書かれるのは、水無瀬先輩の名前のはずだったんですよね?」

 

「うん」

 

「七海ちゃんの大事な人、過保護になっている相手……っ、わたしじゃない……、他の女……っ!」

 

「ちょっと! 今そういうのいいから!」

 

「んもぅ、七海ちゃんったら悪い女です」

 

 

 ふざけたくてウズウズしているみらいさんを希咲はギリギリのろころで管理・操作する。

 

 

「この名前がわたしになるのはギリ納得できるんです。水無瀬先輩がいなくて、入学してまだ一ヶ月も経っていないわたしと七海ちゃんの関係をよく知っているのならの話ですけど」

 

「……そうね。それでも不自然だけど、ギリギリまだわかるわよね」

 

「でも、ってことは弥堂せんぱいが示唆していた七海ちゃんの『大切なモノ』っていうのも、わたしになっちゃうんですよね?」

 

「あいつだってそんなの知らないはずだし、それにあんたとあいつが初めて話したのってその次の日だけど……」

 

「これもギリどうにか納得はしてあげられますよね」

 

 

 疑惑を深める希咲に望莱も同調した。

 

 

「それで、ですよ? 『わたしを大事にしろ』と、自分の彼女である七海ちゃんに言ってた“せんぱい”が、その『わたし』と浮気? 意味わかんないですよね」

 

「うん……。いちお、あいつがクズすぎるからでギリギリ説明はできなくもない……?」

 

「それに、です。結局これに尽きるんですけど。“せんぱい”がわたしと浮気することで、水無瀬先輩が居なくなったことのどんな不具合が解消されるんです?」

 

「……あたしさ、それ以前に、そもそも浮気の部分から納得できないのよ」

 

 

 希咲のその気付きに望莱は頷く。

 

 

「はい。なんなら、わたしは『七海ちゃんと“せんぱい”が付き合ってる』の部分から納得できません。何故なら、わたしが先に好きだったのに……!」

 

「ちょっと! 隙あらばふざけようとするな!」

 

 

 油断すると求愛をしてくるみらいさんを叱りつけて先を促した。

 

 

「これに作為を感じるんですよね……」

 

「作為……?」

 

「はい。世界の自然の現象などではなくもっと矮小な人間の意思。自分の思うように、都合のいいように状況を転がしてやろうという、そんな浅ましい欲望を感じます」

 

「さっき言ってた未来の操作ってこと?」

 

「はい」

 

「てかさ――」

 

 

 そこで突然七海ちゃんがジト目になり、みらいさんは萌える。

 

 

「色んな情報集めて、人のこと見透かして、そんで自分の面白いように状況を操るって――それまんま、あんたがいつもやってることじゃん……っ!」

 

「そうですよ?」

 

「サイテー!」

 

「でもでも、世の有数のお金持ちが普通にやってることですよ? 自分たちが永遠に発展し続けられるように、世界中に優秀な人を配置して、世の中を操作しますよね? お金撒いてテレビやインフルエンサーに自分たちにとって都合のいい事を言わせて、貧乏人を騙して生かさず殺さず金を巻き上げ続ける。“より善い未来”を造る為に」

 

「やめてよ! なんか見え方ヤな風に変わっちゃうじゃん!」

 

「あとぉ、やたらと投資を勧めている人たちって、操作してる人の手下か、そっち側に食い込みたくって夢見させられちゃってる人たちなので、真に受けて信じちゃダメですよ?」

 

「しらないっ! てゆーか、話逸れてるでしょ!」

 

「七海ちゃんが逸らしたのに……」

 

 

 みらいさんはふにゃっと眉を下げた。

 

 そして話を再開しようとしてコテンと首を傾げる。

 

 

「なんの話でしたっけ?」

 

「だから。『あたしと弥堂が付き合ってる』と、『あんたと浮気した』は、なんか誰かの作為を感じるって」

 

「そうでした。まず、水無瀬先輩の代わりに『七海ちゃんが“せんぱい”のことをみんなに頼んだ』『七海ちゃんは“せんぱい”が好きなんじゃないか』、この二つは“マナック”で間違いないと思うんです」

 

「はいはい」

 

 

 みらいさんの“マナック”はここでもスルーされてしまった。

 

 しかし、天才であるみらいさんは無敵なので、むしろ快感を覚える。

 

 そして実は興奮していることを隠しながら七海ちゃんと真面目に話しているフリをすることで、さらなる仄暗い熱を腹の奥に溜め込んだ。

 

 

「で――ですよ? 『二人が付き合ってる』っていう誤解も、『わたしと浮気した』って誤解も、この『七海ちゃんが“せんぱい”を好き』っていう誤解の、先にあるものなんです」

 

「先……?」

 

「そもそも、“せんぱい”が誰かと付き合ってないと浮気になりませんよね? さらにそもそも、七海ちゃんが“せんぱい”を好きじゃないと付き合いませんよね? そしてそしてそもそも、好きだと客観的に判断するには根拠が必要ですよね? 誰かにその人のことをお願いするとか」

 

「一応順番に繋がってるってことね」

 

「はい。多分ですが、七海ちゃんの“魂の強度”が高くなかったら、普通に“せんぱい”のこと好きになっちゃってたんだと思います」

 

「なにそれ……、サイアク……」

 

 

 希咲は表情を歪める。

 

 それは弥堂への嫌悪感だけではない。

 

 ナニカよくわからないモノに自身の感情や気持ちが勝手に左右される。

 

 その不愉快さに不快感を覚えたのだ。

 

 

「今七海ちゃんが感じてるとおり、誰かを好きになるって他人からそうしろと言われて出来るものじゃないですよね? 無理矢理そうさせるには、よくわからない謎のパワーが必要になります」

 

「その先はそうじゃない……?」

 

「かもしれないとわたしは思っています。七海ちゃんが“せんぱい”を好きって前提が出来上がっているのなら、それに便乗して噂を流せば『二人が付き合ってる』とか『男の方が浮気してる』とか、捏造は可能ですよね? 特に我々学生ってそういうことよくありますし」

 

「でも、誰かが誰かを好きって噂も、事実と違ってても勝手に流れない?」

 

「それは確かにそうです。でもその場合って、大抵本人が否定すればすぐ消えるじゃないですか。でも『付き合ってる』の場合だと、本人たちが事情があって隠す時や、単純に恥ずかしくって隠したりもします。そうして否定しても中々その噂って解消されなかったりしますよね」

 

「……確かにそういうことはあるけど」

 

「これって結構微妙なラインが存在してるんです」

 

「ライン?」

 

 

 望莱は指を一本立てて解説をする。

 

 

「誰かが――特に女の子が誰かを好きって場合だと微妙にイジりづらいんですよ。付き合ってるは基本的にハッピーなことだから揶揄っても多少許されます。ですが、まだ片方が好きなだけだと上手くいくとは限らないし、大袈裟に揶揄って騒ぎにして、相手の方にその気がなかったらそれが原因で告ってもないのにフラれちゃったりするじゃないですか?」

 

「それはそうね。つか、女子でそういうイジメたまにあるし……。そっか。だから“イジリづらい”か……」

 

「そういうことです。だから本人が否定するなら、それを信じても信じなくても一旦ストップするものなんです。センシティブだから。一部の良識のない人は騒ぎ続けても全員がそうは動かないです」

 

「なるほど……。てゆーか、今回は否定する間もなかったわね」

 

「まぁ、“せんぱい”が率先して肯定したせいもあって、七海ちゃんが恥ずかしがって否定してるって面白がられてしまっているんでしょうね。ツンデレですし」

 

「それはあんたのせいじゃんか。操作だっけ? あたしのツンデレも、蛮の最強ヤンキーも、聖人のハーレムも……! 全部あんたが仕込んで操作したことじゃん!」

 

「つまりそれと同じことが今回されたのではないかというのがわたしの主張です。もしもわたしが学園に居たなら、やろうと思えば同じことを出来る自信があります」

 

「なにそのドヤ顔。今度そのほっぺツネるからっ」

 

 

 フィクサーとして対抗意識を燃やすみらいさんに希咲はジト目で呆れた。

 

 

「てことは、『あたしが弥堂を好き』の怪異に便乗して、先に『付き合ってる』って噂を流して、否定する前に既成事実にしやがったバカタレがいるってこと?」

 

「あくまで可能性ですね。『付き合ってる』の部分も怪異でそうなる可能性はもちろんあります。でも、先に述べた通りそうなるのは不自然だと思います。そして、作為的にそれをやろうと思えば出来た。ソースはわたし自身が既に似たようなことを成功させていることです」

 

「それは覚えておくべきってことか……」

 

「当然、それをするには、一定上の思考力、行動力、実現力が必要ですけど」

 

「えっと……? 要するに、法廷院たちの裏側のフィクサーにはその力があるかもで。“こっち側”の“魂の強度”が高いヤツかもしれないって警戒しとけってことね?」

 

「はい。今回の“痴漢事件”は作為的に誘導されて起こったものであるニオイがします」

 

「人の意思や欲望だっけ?」

 

「はい。それを感じました」

 

 

 望莱は頷いて表情の真剣味に重さを持たせた。

 

 

「彼ら、七海ちゃんの味方をするって話だったみたいですが、怪しくないですか?」

 

「それはどうかなぁ……、でも思ってたよりは味方じゃなかった気がする」

 

「かと言って弥堂せんぱいの味方でもなかったように思えます。メールの答え、それから場の引っ掻き回し方。わたしにはあの場で二人に決着をつけさせないように有耶無耶にすることが目的だったように思えます」

 

「や。確かに引っ掻き回されはしたけど、あいつらそこまで考えてやってたのかな……?」

 

 

 その引っ掻き回し方が悪ふざけのような、大分お間抜けなものでもあったので、希咲には俄かには信じ難い。

 

 しかし、望莱にはどこか確信があるようだった。

 

 

「わたし、風紀委員会の乱入も怪しいと思ってます」

 

「え? 風紀委員も?」

 

「はい」

 

 

 望莱の目に今は冗談めかした色は一切ない。

 

 

「あの副委員長さんでしたっけ?」

 

「五清《いすみ》さん?」

 

「その後のガチロリ委員長や学ラン軍団も疑いだしたらキリがないんですけど、特に副委員長さんの部分が納得がいかないです」

 

「そう? すっごくマジメそうな人だったけど?」

 

 

 マジメすぎて苦労していそうだと、希咲は心中で五清さんに共感と同情をする。

 

 望莱は首を横に振ってから答えた。

 

 

「その副委員長さん自身ってよりは、彼女があの場に現れた目的がおかしいと思ったんです」

 

「目的って、正門前で騒いでて通報があったからでしょ?」

 

「いいえ。七海ちゃんはさっきこうも言いました。弥堂せんぱいを捕まえに来たみたいだったと」

 

「あ、そういえば――」

 

 

 先程ざっくりと説明した時に望莱にそう伝えたことを思い出す。

 

 

「何を追及しに来たんでしたっけ?」

 

「えっと……、弥堂の出した風紀委員の活動報告書におかしなことがあったとかって」

 

「具体的に何か言ってました?」

 

「あー……、んとね? 前にあたしと一緒に法廷院たちとモメた時のことなんだけど。あいつ、あたしの名前書かないでおいてくれたみたいなのよ。んで、事件の内容もちゃんと書いてなかったみたいで……」

 

「その説明を求められた?」

 

「うん。報告書突きつけて、どういうことか説明しなさい! って」

 

「やっぱり。それっておかしいです」

 

「えっ?」

 

 

 顎に触れて思案げな顔をする望莱に希咲は目を丸くした。

 

 

「だって通報があって騒ぎを鎮めに来たんですよね?」

 

「そう言ってた」

 

「なんでそんな報告書持ってくるんです?」

 

「え……? あっ――」

 

「“せんぱい”が騒ぎに関与していることを知っていないとそんな物持って来ないですし、そもそもそうだったとしても別件じゃないですか?」

 

「たしかに……、あの場ですることじゃないか」

 

「予め準備してないと報告書を持って飛び出して来れない。おまけにその件を追及できるような現場――関係者全員がそこに居るってことを知らないと持って来る必要がない」

 

「五清さんもグルってこと……?」

 

「そこまでは言えないですね。ただ、彼女と“せんぱい”の対立関係を知っていて、今日あの騒ぎが起こることを知っていれば。そしてその上で、事前に副委員長さんにタレコミを投げておけば?」

 

「五清さんを焚きつけて操ることは出来る……」

 

「それには報告書と4月16日の本当の出来事の齟齬を知っていることが必要。報告書の方は証拠がないのでここでは断定できませんが……」

 

「少なくともあの日の出来事は知ってるってことか……!」

 

 

 希咲にも望莱の言いたいことが大分伝わってきた。

 

 

「まぁ、あくまで、やろうと思えば出来たってだけで、実際に誰かがそうしたという証拠はありません」

 

「うぅ……っ。なんか、なんもかんも怪しく思えてきちゃった……」

 

 

 そして、伝わった分余計に頭を悩ませることになってしまう。

 

 ここで望莱は表情を緩めて話を打ち切ることにした。

 

 

「ということで、今日の七海ちゃんと“せんぱい”の対決は良くて引き分け。もしかしたら、二人とも負け――というのがわたしの総評です」

 

「なぁんか……、なにも確定してないけど、めっちゃ悔しくなってきたわ……」

 

「そして、わかったことのまとめとして――“せんぱい”は水無瀬先輩を忘れてる側だとは限らない。法廷院先輩たちも怪しい。そして今日の場は誰かに操られたモノである可能性がある――以上の三点です」

 

「うーん……、ちょっとだけ進んだ気がしなくもないけど……。全然足りてないなぁ……」

 

「落ち込んでる場合じゃないですよ七海ちゃん」

 

「え?」

 

 

 気落ちしかける希咲に望莱はニッコリと微笑む。

 

 

「さぁ、次の話をしましょう」

 

「次って……」

 

「もちろん弥堂せんぱいへの次のアタックです。言ったでしょう? ガンガン攻めますよって」

 

 

 口角を上げる望莱とは対照的に希咲はイヤそうな顔をした。

 

 

「うわぁ……ヤダなぁ……、今あいつと会うの……。今って言うか二度とヤダけど。でもそうも言ってらんないしなぁ……」

 

「おや。そうなんですか?」

 

「へ? だって愛苗のこともあるし、それに終わらせなきゃじゃん」

 

「終わらせる、とは?」

 

「だからー。あいつってばあたしと付き合ってるって思い込んでるじゃん? ホンキだったらフラないといけないし。そうじゃなくってキモキモストーカーのフリしてるんならもっかいぶっ飛ばしてやめさせなきゃじゃん」

 

「なるほど。ですが、七海ちゃん。“せんぱい”がどっちの場合でもその必要はありません。というか、しちゃいけません」

 

「は?」

 

 

 望莱はわざとわかっていないような受け答えをして希咲の答えを誘導する。

 

 意味がわからないといった顔をする希咲に、望莱の笑みは殊更深まった。

 

 

「さて、次の作戦というか、七海ちゃんにお願いがあります」

 

「お願い? なによ」

 

「まず、“せんぱい”がどっちなのかを確かめる為に、彼と会うことはマストなんですけど、それだけじゃなくって――」

 

 

 そして少し意地が悪げに口の端を上げてみせた。

 

 

「七海ちゃんにはこのまま“せんぱい”の彼女になってもらいます――」

 

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