俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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2章12 5月2日

 5月2日 土曜日。

 

 

 朝。

 

 午前中早い時間帯の新美景駅北口。

 

 

 普段の平日のこの時間帯であれば駅近辺のオフィスに出勤する者たちが見え始めるくらいの時刻だ。

 

 ただ、本日からは本格的な連休の開始ということもあってか、スーツ姿の人間の姿は少ない。

 

 代わりに、サービス業に従事する者たちが早めに出勤してくる姿がポツポツと見られた。

 

 

 そんな駅前のロータリーに面した場所に、ちょっとした噴水広場がある。

 

 ここは一部の者たちには“パパ活広場”などと呼ばれている場所で、売春の売りと買いがマッチングする場となっている。

 

 とはいっても、元々その為に作られた場所では当然ない。

 

 “そういう目的”の者たちが半ば勝手に占有しているようなもので、外から来た何も知らない一般人でもない限りは“その目的”でない人間はあまり立ち入らない。

 

 

 こんな場所を利用するような人間がこんな朝早くから活動をしているわけがないと思われがちだが、そういうわけでもない。

 

 この時間帯には、この先にある歓楽街で働く水商売や風俗店で仕事を上がった女たちの中で、さらに稼ぎが必要な一部の者たちが広場を埋めることが定番となっていた。

 

 それは世間が平日だろうとG.Wだろうと、あまり関係がない。

 

 

 ここを常用する者たちには暗黙のルールがいくつかある。

 

 

 その中の一つで――

 

 既に掲示板やSNSまたはマッチングアプリ等で待ち合わせの約束が取れている女は噴水の縁に座って相手を待ち、そうでない交渉の声掛けを待っている所謂“フリー”の女は広場の空いているスペースに立つ。

 

――というものがある。

 

 

 噴水の縁から数歩離れた位置に立ちながら、無気力にスマホを眺める女が居た。

 

 

 所謂量産型と称されるような一見身綺麗な装いに、黒髪のツインテール。

 

 幼げな髪型だが顏は大きめのマスクで隠されていて実年齢は窺えない。

 

 黒い生地のマスクには刺繍だかプリントで爆弾のような模様が施され、一見で衛生対策ではなくファッション目的で着用していることがわかる。

 

 

 朝陽の下で無気力な瞳は光を反さず、強調して造られた涙袋だけが艶めくように不自然に光った。

 

 

 そんな風に女を照らす陽の光が、突如陰る。

 

 

 彼女に声をかけようと、男が前に立ったようだ。

 

 しかしその段になっても女は顏すら上げようとしない。

 

 

「コンニチワ、お嬢サン。チョト話をしようゼ」

 

「…………」

 

 

 丁寧な口調だが言葉は若干荒い。

 

 女は目線を手元のスマホに向けたまま少し眉を寄せる。

 

 

 気になったのは声や言葉よりも、その独特なイントネーションだ。

 

 聴けばすぐにわかる、外国籍の者が喋るカタコトの日本語だったからだ。

 

 

「実はこのクニについたバカリで、このマチも初めてなンダ。よかったらオレに案内してくれないカ?」

 

「ゴ有ホ別苺」

 

「ハ……? Che cosa hai detto?」

 

 

 聞いたことのない日本語に外国人の男は目を白黒させる。そして男の方も日本人の女が聞いたことのない言語を口走った。

 

 

「ワルイ。そのニホンゴわからない。よかったらメシでも食いながらオシエテくれないカ?」

 

「ハァ……、あのさ、ガイジンさんさぁ……」

 

 

 面倒そうな態度を隠しもせず、女はようやく顔を上げる。

 

 だが、相手の男の顔を見て、今度は彼女の方が目をパチクリさせた。

 

 

 この街は――特にこの辺りは近くに“外人街”などと呼ばれる区画があることもあって、外国人の姿はそう珍しくない。

 

 だが、その多くはアジア系の人種か黒人だった。

 

 

 しかし目の前にいるのはこの街ではそれほど見ない白人種だ。

 

 

 身長175cmあるかどうかくらいの上背で、黒髪に近くも見える濃い色の金髪。いかにもヨーロッパという雰囲気だ。

 

 少し日に焼けた白い肌はよく見ると赤みがかった部分があり、それが日焼けによって目立たなくなっている。

 

 

 この場に居ると異物感のあるその姿に、女の方が一瞬言葉を失ってしまった。

 

 白人の男はそんな女の様子も、言葉が十分に通じていないことすらも気にせず、さらに陽気に女に話しかける。

 

 

「Che bravo! Una bambina carina.」

 

「は?」

 

「オモたよりワカイね。いくつなノ?」

 

「……19」

 

「mamma mia! 偶然、オレの誕生日も19日なんダ。これはきっと運命ダ。神のくれた奇跡のデアイに感謝してメシを食べようゼ。ヤマトナデシコのお嬢サン」

 

「え……? いや、ちょっと……」

 

 

 女――少女が普段相手にするオジさんたちとは少々毛色の違う強引さでグイグイと迫ってこられる。

 

 少女が男の顎に生えた無精ひげに目を置きながら困惑していると――

 

 

「――オイ! アレックス……ッ!」

 

 

 別の方向から怒気の含まれた声が響く。

 

 声の方へ目を向けると、目の前の男と同様の白人系の男が、広場の入り口からこちらへ近づいて来ていた。

 

 

《んあ? ダリオか?》

 

《アレックス! バカ野郎が! さっそく騒ぎを起こしやがって……!》

 

《そんなんじゃあねェよ》

 

《いいから手を離せ!》

 

 

 アレックスと呼ばれた男の腕を後から来た男――ダリオが掴む。

 

 こちらは完全な黒髪で、肌もより白い。

 

 身長はアレックスよりも高く180㎝ほどあるように見えた。

 

 

「お嬢さん。すまない。連れが失礼をした」

 

「あ、いえ……」

 

「こいつはもう連れて行くから、どうかこれで美味い物でも食べて忘れて欲しい」

 

「あ、どーも……」

 

 

 ダリオは完全に流暢な日本語で手早く少女との示談を済ませると、アレックスの腕を引いてこの場を離れて行く。

 

 少女は手に握らされた一万円札をヒラヒラとさせて彼らの背中を見送った。

 

 

《来いッ! この野郎ッ!》

 

《おいおい、そりゃあないぜダリオぉ……》

 

《情けない声を出すな。いいから歩け!》

 

 

 日本語ではない言語で彼らは会話を交わしながら歩く。

 

 すると、どこからともなく外国籍の男たちがバラバラに現れて、次々に彼ら二人に合流していく。

 

 

 あっという間に5、6人以上の集団になった男たちは、歓楽街の方へと消えていった。

 

 

「……まいどどーも」

 

 

 期せずして不労所得を得た少女はやる気のない声でお礼を呟くと、また無気力な瞳にスマホの画面を映した。

 

 

 

 

 

 

《――目立つなと言っただろうが……!》

 

 

 歓楽街のメインストリートを進みながらダリオがアレックスを再び叱責する。

 

 

《んだよぉ。そんなに怒るなよぉ。運命の出逢いだったんだよぉ》

 

《オマエみたいなイタリア人のせいで、オレたちは女と見ればすぐに口説く人種だと思われているんだ!》

 

《そんなに間違ってなくね?》

 

《オマエと一緒にするな》

 

 

 大体30歳前後くらいの歳の者が多い外国人の集団は歓楽街の奥の方へ向かっている。

 

 

《ちぇー、相変わらずカタイなダリオは。男なら誰だって女と仲良くしてーもんだろ? な? ビアンキ》

 

《オレ、フランス人だから》

 

 

 ダリオに反論できなくなったアレックスに水を向けられたのは、他の者たちよりは年若い、20歳を超えたばかりほどの男だ。

 

 アレックスよりも浅黒い肌のビアンキは素っ気なく答える。

 

 

《んだよ、そういうカッコの付け方すんのはこの国の男の専売特許だろ?》

 

《知らねェよ。それよりオレを“ビアンキ”と呼ぶな。オレは白人じゃない》

 

《あぁ? そういう意味じゃあねェよ》

 

《だとしてもやめろ。オレは男で。オレの名前はゼゴール・ビアンコネッリだ。ビアンキじゃねェ》

 

《わーってるよ。こないだ行った国のパブでもオメェのツラが凶悪すぎて女どもに引かれたろ? 少しでもモテるようにって親心だろうがよ》

 

《頼んでねェんだよ、クソアニキ》

 

 

 その凶悪な顔でビアンキに睨まれるが、アレックスはヘラヘラと笑うばかりで意に介していない。

 

 ここでケンカなどされても困るのでダリオが横から入った。

 

 

《それよりアレックス》

 

《あん?》

 

《オマエ、なんだ? あの下手くそな日本語は》

 

《アァ? そんなに下手だったかァ?》

 

 

 首を傾げるアレックスにダリオは溜息を吐いた。

 

 

《オマエが日本語を喋れると言うから大丈夫だと判断して今回の仕事を受けたんだぞ》

 

《いや、それがよぉ、聞いてくれよ。よく考えたら日本語使ったのなんてガキの時にアルゼンチンで使ったっきりだったからよォ。思ってたより喋れなかったわ!》

 

 

 ダッハッハッハと豪快に笑うアレックスに、ダリオとビアンキは呆れた目を向ける。

 

 

《……仕事が始まるまでにはもう少しだけマシにしとけよ》

 

《だからこそのナンパだったんだよ》

 

《なんだと?》

 

 

 怪訝そうに目つきを険しくするダリオに、アレックスは尚もヘラヘラと軽薄な口調で説明をする。

 

 

《他所の国行ってよ、その国の言葉覚えるのに一番いいのはベッドで女に教わることなんだよ》

 

《オマエな……》

 

《いやいやこれマジなんだって! 愛を伝えようとする努力に勝るモンはねェんだよ! 聞く方だってそうだ。下に敷いた女がどんな言葉で鳴いてんのか知りてェだろ?》

 

《本気で言ってそうだから始末に負えない……》

 

《安心しろって。2、3人と寝ればオレの日本語もフィットするからよ》

 

《くれぐれも面倒を起こすなよ》

 

 

 頭痛を堪えるように眉間を抑えて、ダリオはもう言及することをやめた。

 

 代わりに胡乱な瞳をしたビアンキが後を継ぐ。

 

 

《ま、確かにこんなヤツに自分トコの女喰われたら、人種ごとナンパ野郎だって思われても仕方ねェよな》

 

《ンだよ。オメェまでそんなこと言うのか?》

 

《アンタがそんなんだからダリオのアニキがいつも苦労してんだろ?》

 

《ケェーッ、つまんねえな。それよりビアンキちゃんよォ。オメェは日本語いけんのか?》

 

《ちょっとだけ覚えてきた》

 

《おぉ、オマエ意外と頭いいよな》

 

《アンタほどテキトーじゃないだけだ》

 

 

 ビアンキには辛辣に斬り捨てられるが、アレックスはむしろ嬉しそうにまた「ダッハッハ」と笑った。

 

 その仕草にビアンキはムッとする。

 

 

《もっとマジメにやれよ。ダリオに目立つなって言われただろ》

 

《まぁまぁ、聞けよ》

 

《ア?》

 

《オレぁ夢だったんだよ。大和撫子に出逢うのが》

 

《ハァ?》

 

 

 盛大に顔を歪めるビアンキにアレックスは真顔で訴えた。

 

 

《いいか? オレらの世代よりちょい上のオヤジとかアニキたちの世代だとよ。日本人の女ってのは奥ゆかしくてお淑やかで清楚って、決まってたんだよ……》

 

《もう聞きたくねェよ》

 

《それがよォ、今ではどうだよ》

 

《知らねェよ》

 

 

 嫌そうな顔で会話を打ち切ろうとするビアンキに馴れ馴れしく肩を組んでアレックスは続ける。

 

 

《他所で出逢う日本人の女なんてみんな売春婦の出稼ぎだ。大和撫子じゃあねェ》

 

《大して変わんねェだろ》

 

《いーや、変わるね! わっかんねェかなぁ。大和撫子はレジェンドなんだよ》

 

《会ったことがねェんならアンタにだってわかんねェだろ》

 

《だから出逢いを求めるのさ。オレは男だ。男はみんな冒険家なんだよ。オレはまだ未開の大和撫子と愛を囁き合って、そしてオレの手でクソビッチにしてやりてェのさ》

 

《そしたら捨てんだろ?》

 

《それは違ェよ。次の冒険に出かけるだけさ》

 

《クソウゼェなイタリア野郎》

 

《イタリアは関係ねェよ。オレはアルゼンチン生まれだからよ。南米の血がそうさせんのさ》

 

《都合よくルーツ変えんなよ。そこで生まれただけだろ》

 

 

 ビアンキは極めて侮蔑的に吐き捨てる。

 

 すると、そこへまた別の男が会話に加わってきた。

 

 こちらは黒人の男だ。

 

 

《ハハハ、不誠実さはともかく、そのノリはアルゼンチンってよりオレの国に近いな》

 

《だろぉ? オレはサンバ大好きだからよぉ、フェリペ》

 

《外ではフィリップって呼べ。フィリップ・デミーロだ》

 

《メンドくせェなオマエら》

 

 

 口汚い言葉や侮蔑的な表現を混ぜながら彼らは馴れた調子で言葉を交わす。

 

 ある程度まで道を進むと、先頭を歩くダリオが会話の途切れを見計らって振り返った。

 

 

《とにかくだ。オレたちは今回デカいヤマに関わる。ヘタを打たないように全員注意を払え》

 

 

 その言葉に他の者たちは口を噤んだが、アレックスだけは変わらない。

 

 

《わぁーってるよ。オレぁ平和主義者だからよ。揉め事なんて起こさないぜ?》

 

《ちょっとナメたマネをされたくらいでケンカするなよ。クライアントだけじゃなく、そのへんのゴロツキともだ》

 

《そうは言うけどよ。今回はカルトのクソテロどもも混ざってんだろ?》

 

《デカいヤマだ。割り切れ》

 

《ちっ、まぁ大丈夫だって。任せろよ》

 

《オマエとビアンキは不安なんだよ。行く先々でやらかしやがって……》

 

《ちょっと待ってくれよダリオ。オレもかよ⁉》

 

 

 堪らずにビアンキが口を挟んだ。

 

 ダリオは鋭い目で彼を見る。

 

 

《喧嘩っぱやさじゃオマエが一番だろうが》

 

《いや、オレはいつもアレックスを止めようとして……》

 

《そうは言うけどオマエいつもノリノリで殴ってんじゃねェかよ》

 

《ウルセェよアレックス! アンタがややこしいことしてモメるからだろ⁉》

 

 

 他人事のような言い様にビアンキが怒りを示すが、アレックスは「ダッハッハ」といい加減に笑うだけだ。

 

 

《まぁ、今回は任せとけよ。オレぁ言ったとおり大和撫子とのロマンスを求めてるんだ。なのにその国の人々を殴るわけねェだろ?》

 

《そう願うぜ。あとクライアントは日本人じゃない》

 

《あれ? そうだっけか? つか、オレらどこに向かってんだ? ダリオ》

 

《この街じゃ“外人街”と呼ばれる場所だ》

 

《チャイナタウンか?》

 

 

 アレックスが尋ねるとダリオは周囲を気にして歩を緩め、アレックスの隣へ移動する。

 

 

《そういうわけでもない》

 

《アン? ナワバリ争い終わってねェのか?》

 

《違う》

 

 

 ダリオは怪訝そうな顔をするアレックスに向けている目を細めた。

 

 周りの人々に彼らの言葉は通じないはずだが、若干声も潜める。

 

 

《この街のアレは、世界各地にあるチャイナタウンとは少し色が違う》

 

《へぇ》

 

《というか、この稼業をしていてなんでオマエが知らないんだ。何度言っても自覚がないようだが、オレたちのボスはオマエだぞ。アレックス》

 

《だぁー、わーかってるって。ちゃんとオレは自覚を……》

 

《アレックス……?》

 

 

 ダリオへ喋りながらアレックスの目線が他所へ動き、言葉と同時にその足も止まる。

 

 その様子を訝しみながら、ダリオも同様に目線を動かした。

 

 

 そこでは――

 

 

「――ざっけんなよこのブスッ!」

 

「イダアァァイ……ッ⁉」

 

 

 裏返った男の怒鳴り声と女の悲鳴が聴こえてくる。

 

 

「カケが払えねェんなら風呂行って来いっつってんだろうが……!」

 

「で、でも……、ワタシ性病だって診断されて……」

 

「だったら立ちんぼでウリやれよ! そんな頭もねェのかゴミ女!」

 

「や、やめて……! 蹴らないでぇ……!」

 

 

 スーツを着た黄色の髪の男が、見るからに水商売風の女を罵倒しながら足蹴にしていた。

 

 そんな光景を視認すると、ダリオはつまらなそうな顔で目線を戻す。

 

 

《世界一治安のいい国が聞いて呆れるぜ。だがまぁ、ドコもそんなモンか……》

 

 

 そして自分たちには関係ないとまた歩き出す。

 

 

《行くぞアレックス。警察が来て姿を見られたら……、アレックス?》

 

 

 振り返りながら進行を促すが、そこに目当ての者の姿はなかった。

 

 

《女殴ってんじゃあねェよクソ野郎がッ!》

 

「イデェェェ……⁉」

 

 

 すぐに聞き慣れた怒鳴り声が耳に飛び込んでくる。

 

 ダリオが急いで首を回すと、そこには黄色頭を殴り飛ばしたアレックスの姿だ。

 

 

「お嬢サン。ダイジョブですか? ところでアナタはヤマトナデシコ?」

 

「いやぁぁ! トキヤ! トキヤだいじょうぶ⁉」

 

「アァン?」

 

 

 アレックスが暴行を受けていた女に紳士的に手を差し伸べるが、女はその手を取らずに自分を蹴っていた男に縋りついた。

 

 アレックスはキレた。

 

 

《ざけんなよこのプッターナ! テメェなんか大和撫子じゃあねェよ!》

 

「イダァァイっ!」

 

《クソがクソがクソガァ……ッ!》

 

 

 倒れた黄色頭の男だけでなく女の顔面にも蹴りを入れる。

 

 すると、その様子が伝わったのか、人が集まってくる。

 

 

「アァ? ンだコラ。この外人ヤロウ!」

「テメェよくもトキヤくんやってくれたなアメ公がよォ!」

 

 

 黄色頭の男の仲間のようで、彼と似たような風体の男たちだ。

 

 彼らはこのあたりで働くホストたちである。

 

 

《アァ? 知るかよ。コスプレ野郎どもが。テメェらのソレ、オレたち白人様のサル真似だろ? 似合ってねんだよ、極東のサルどもが》

 

「なんだとコラァ! 核撃ってみろよこの野郎ッ!」

 

 

 お互い言葉は碌に通じていないはずだが、拳は容易に言語の壁を越えていく。

 

 

《クソ、ビアンキ! アレックスを止めろ! 無理矢理引き摺ってでも……、ビアンキ?》

 

 

 ダリオはステゴロが得意な仲間の方を向くが、今回も目当ての者はそこには居なかった。

 

 代わりに陽気なブラジル人が両手を天へ向けて肩を竦めてみせる。

 

 

《ナメんなよ、ジャポネーゼッ! テメェらみてェなヌルイ国のクソに負けるかよッ!》

 

 

 血気盛んなビアンキ君は既に原住民たちに暴行を加えていた。

 

 

《ダッハッハッ! ビアンキ! どっちがいっぱい日本人をぶっとばせるか勝負しようぜ!》

 

《ウルセェんだよバカアニキがッ! さっそくやらかしやがって!》

 

 

 怒鳴り合いながらも馴れた連携で次々に沸くホストたちをぶちのめしていく仲間の姿に、ダリオは目元を覆って天を仰いだ。

 

 しかし、彼にとってもこういったことは馴れたもの。

 

 

《オイ、ヤロウども。わかってるな?》

 

 

 短い指示で残りの仲間に意図を伝え、速やかに二人を回収に向かう。

 

 

 美景の街に突如現れた多国籍軍団は手早くホストたちを打ちのめして、そして歓楽街の奥にある“外人街”へと潜って行った。

 

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