HRが終わり――
登校してきた生徒達の出欠確認と、必要な連絡事項の伝達を済ませた担任教師が退室していった。
午前8時40分から開始されるHRには10分間の時間が与えられている。
1限目の授業は9時ちょうどから開始だ。
授業内容により特別教室やグラウンド、体育館へと移動することもある為、HR後にも1限目開始までに10分間の準備時間がある。
2年B組の本日の一限は『数学』だ。
教室の移動はなく2年B組の教室で授業が行われるため、多数の生徒達は再び雑談に興じ始めている。
大半の生徒が自席の近場の者達と歓談しているが、机上に教科書とノートを広げこれから行われる授業の内容を確認している勤勉な者もいれば。
スマホを手にゲーム、またはSNSで必要な情報の収集に時間を充てる者もいる。
それ以外には少数派ではあるが、この僅かな時間でも自席を立って仲の良い級友の元まで訪れる者もいた。
後方より近づく者があった。
スッ、スッ――と。
左右の長い足を綺麗な歩調で交互に均等に動かして。
やがてその者は、弥堂と水無瀬の席の間で立ち止まった。
「おはよ、愛苗」
視界の外から声をかけられ、
だがそれは覚えのある声で。
訪問者の正体に見当がついたのだろう、水無瀬は振り返る動作の最中で声に喜色を浮かべる。
「ななみちゃんっ!」
振り向いて目に映した顔と、頭に浮かべていた顔が一致した。
「おはよぉーっ」と元気に返礼しながら――
水無瀬は自分を訪問してくれた友人の細い腰に、座席に座ったまましがみ着く。
抱き着かれた側はというと――
水無瀬がそう動くことは予測済みだったようで。
慣れたものとばかりに「はいはい」と姿勢を崩すことなくハグを受け止めた。
そのままスムーズな動作で水無瀬の頭を撫でてやる。
「あんた今日ギリギリだったわねぇ。なに? 寝坊でもしたわけ?」
声に若干の呆れを滲ませながら咎めたものの、その表情は酷く優し気だった。
問われた水無瀬は顔を上げると「えへへ……」と照れ隠しのような曖昧な笑みを浮かべる。
そして、視線の先の自身の最も仲の良い友人――
その視線を受け取った希咲は、水無瀬の表情から経緯を察する。
それで誤魔化されてあげることにしたようだ。
吐息を漏らすだけの軽い溜息をついて。
「あーはいはい、もういいわよ」
彼女の頭を撫でていた手を一度上げて下ろす。
ポンっと軽く水無瀬の頭を叩き、それで追及を手打ちにしてあげた。
希咲はそのまま水無瀬の両肩に手を置き、彼女を優しく引き剥がしてあげる。
それから、急いで登校してきたらしい水無瀬の姿をなるべく広く視界に収めるべく、少しだけ身体の距離を空けた。
上から下へと目線を走らせ、彼女の身嗜みにチェックを入れる。
「あー……、あんたまさか走ってきたの? 髪がちょっと解れてるし。制服はぁ……、だいじょぶね。汗は? かかなかった? とりあえず三つ編み直したげるからブラシ出しなさい」
言いながら希咲はもう水無瀬のおさげを解き始めている。
手際よく自分のお世話をし始めている希咲に、水無瀬は「はぁーい」と嬉し気に返事をした。
それから水無瀬は鞄に手を突っ込み、ヘアブラシを探した。
3回ほど鞄の中身を捏ねくり回し、首尾よく目的の物を見つけ希咲へと手渡そうとする。
だが――
「汗は大丈夫だったよー…………って――へ? 匂わないよね⁉ 嘘⁉ ななみちゃん、私くさい……って――ほわぁっ⁉」
――と。
予定調和のように水無瀬はわたわたと慌てだし、手の中の物を取り落とした。
「あん、もうっ――」
――と、希咲は悪態をつきながら。
落ちてくるブラシを膝で打ち上げ、胸元まで上がってきたそれを事も無げに右手で掴む。
続いて人差し指を支点にクルっとブラシを回し、持ち手側を器用に掌に収めた。
そのまま何事もなかったかのように水無瀬の髪を解かし始める。
丈を短くした希咲のスカートで膝を上げようものならば、その内に隠された下着など簡単に衆目に晒してしまいそうだ。
しかし幸いにも水無瀬の座席は最窓際の列。
その席に座る水無瀬の背後は窓だし、左右には女生徒しかいない。
水無瀬側を向いて足を上げても男子生徒達に下着を見られる心配はないのだ。
左手の指で挟んでいた水無瀬の髪が引っ張られることがないように。
一切体勢を崩すことなく一連の動作をやってのけた希咲は、内心で「完璧な仕事だったわ」と一人ごちる。
ふふんと、得意げに鼻も鳴らした。
一方で不始末を起こした側は――
ぽかーんと口を開けながら、目の前の友人をぼーっと見つめている。
数秒ほどそうしてから再起動し。
水無瀬はその大きな丸目をさらにまん丸にして、「おぉー」っと称賛の声とともにぱちぱちと手を叩いた。
「はいはい、あんがと」
その拍手を受けた希咲は気のない返事をしながら、丁寧に水無瀬の髪を編み直していく。
普通の女子高生とは思えない離れ業をやってのけておきながら、まるでそれは大したことではないといった風にクールに振舞う彼女であった。
――が、しかし。
よく見ると、希咲の口元はによによと波打ったようにニヤていた。
左側だけをサイドアップにした髪から露わになった耳輪は朱に染まっている。
大好きな親友に褒めてもらったことが余程嬉しかったのか。
手元では正確に作業を行いつつも上機嫌を隠し切れないようで、お尻が小さく左右に振られていた。
他方――
水無瀬の隣の座席で一限目の開始を待つ弥堂はというと。
眼前で左右に揺れる希咲の尻をジッと睨んでいる。
ヘアブラシを取り落とした際に上げた水無瀬の奇声から、事件発生かと思い弥堂もそちらへと目線を向けたのだが。
その先にあったのは、控えめにフリフリと振られる小ぶりな尻であった。
際どいラインで揺れ踊る学園指定の制服のスカートの裾――
それは尻の振られる動きに合わせ、右側が持ち上れば左側が尻に張り付き。
逆に振られれば今度は右側が尻に張り付き。
連続する動作の中で、その中身の形状を想像させた。
異常を確認する為に、弥堂は数秒ほど尻の様子を注意深く観察した。
だが、左右の中殿筋と大殿筋を包んだきれいな曲線に交互にピタリと張り付くスカートの動きから、その中に武器の類を隠し持っている様子はないと判断を下す。
弥堂は一瞬で興味を失い、自身の机の上のノートへと視線を戻した。
弥堂のその様子には当事者たる希咲と水無瀬は気付いていない。
だが、周囲の生徒達をまた騒めかせた。
「あ、あの野郎……ッ。今度は希咲のケツをガン見してやがったぞ……。怖いモンなんてないのか、ヤツには……⁉」
「待て。今重要なのは、ヤツがチチ派なのかシリ派なのかということだ。その答え如何では、我々は或いは友にもなれる……」
「ア? 女は足だろ? 何で足を省いた? ……どうやら先に決着をつけなきゃならねェ奴がいるようだなァ⁉」
「ビトオォォォォ……っ! 神聖なる『愛苗×七海』の尊い光景を穢す薄汚い野良犬がアァァァァァ……ッ!」
「ちょっ、ちょっと!? 目がやばいって! 女の子がしていい顔じゃないからそれ!」
「あわわわ……、やっぱり性獣さんなんだよぅ……! 人の心を失った性欲のバケモノなんだよぅ! きっと今の一瞬で七海ちゃんのパンツまでばっちり確認したはずだよぅ……、さすがぬか――」
胸倉を掴み合って揉み合いになりながら廊下に出ていく男子生徒が若干2名。
それを冷ややかに見遣る女子生徒数名が居たものの。
ヒソヒソと囁きあう周囲の様子など他所に――
当事者たる水無瀬と希咲は完全に二人の世界を創り出していた。
必死に表情には出さないようにしながらも、その内心の嬉しさを隠しきれていない希咲の仕草――
それに気が付くと、水無瀬は慈しむようにその目を細めた。
そして、改めて自分の髪を編んでくれている親友の顔を見つめる。
一年生の時に所属する委員会で出会った同い年の女の子。
その顔だちで一番印象的なのが大きく形のよい猫目だ。
つり気味の目尻。大きな瞳。
綺麗な曲線を描く瞼に均等に生えそろった長いまつ毛が、強気な彼女の性格を表すかのようにその目に力を与えている。
小さめの鼻や口。薄めの唇のおかげで面差しは派手にはなりすぎない。
小ぶりな耳たぶの下から顎先にかけてシャープなラインを描く。
全体的にすっきりとした印象を感じさせる綺麗な顔だちをしていた。
162㎝――平均より少しだけ高めの身長。
小さな頭。
スラっと伸びた細い手足。
それから、水無瀬の短い腕でも余裕をもって周り切ってしまう細い腰。
痩せすぎにはならない絶妙なバランスで全身も形成されていて。
あと数年もすればとんでもない美人になることが大きく期待できた。
現在の彼女にはまだ少女らしいあどけなさも混在していて、“キレイ”と“カワイイ”が絶妙なバランスで共存している。
希咲は同年代の少女達の中でも特にファッションについて関心が高い方だ。
そんな彼女は制服もしっかり自分流にアレンジしていて。
簡単に分類するのならば所謂『ギャル系』というカテゴリに属する。
茶髪よりは色が薄く金髪とまではいかない。
光の当たり方次第ではピンクゴールドにも輝く亜麻色に近い髪。
後ろ髪は腰の辺りまで長く綺麗に伸ばされており。
左側だけ水色のシュシュで髪を括ったワンサイドアップ。
日によっては髪を編んだりなどのヘアアレンジをしたりヘアピンを付けたりなどもしている。
ストレートの細い髪質。
それにボリュームを持たせるために毎朝早起きして時間をかけてセットしているようだ。
毛先までコテを使い、ワックスで細かい毛束を複数丁寧に作っている。
幸い恵まれた顔の造形をしているため、メイクは軽いアイメイクとリップを塗る程度でも十分となっている。
一見派手に見えるものの、全体的に小綺麗な印象を誰しもに持たせていた。
学園指定のプリーツスカートは下品に見えない程度に丈を短くしている。
上は同じく学園指定のブラウスを着用し、今日はそのボタンを上から三番目まで外していた。
軽く襟を開いて大きめのリボンを着けている。
そのブラウスの上からは自前の薄い生地のピンクのカーディガンを羽織っていた。
この学園の女子制服は、ブラウスとスカートは学園指定の制服の着用が義務付けている。
だがその上に着るものは、制服のブレザー、ベスト、カーディガンの他に、『常識』を逸脱さえしなければ制服外のものの着用も許可されていた。
ブラウスは白以外に薄いピンクとブルーの3種類がある。
スカートも白と黒のラインの入ったチェック柄が基調ではあるが、赤、青、グレーの3種類が用意されていた。
胸元もリボンとネクタイの2種類にそれぞれ3色の選択があり、どれを好きに組み合わせて着てもよいことになっている。
一方で男子の方は白のワイシャツにネクタイ1種類。
スラックスはグレーかカーキ色の2択はあるものの、女子の制服と比べて露骨に力の入り具合が違う。
一度理事会に『不公平』であると、署名を持った生徒からの抗議もあった。
だが、「じゃあ、希望のデザインを出してみろ」と当時の男子生徒達に意見を募ったところ。
ロクな意見が上がってこず。抗議をした男子生徒達の大半も「とりあえず騒いでみたものの別に俺らにはいらなくね? いっぱいあってもどうせ着こなせないし?」と熱が冷め――
現在の形に落ち着いている。
とはいえ、全ての女子生徒がそうするわけではないが。
希咲に関してはその日の気分で制服を組み替えたり。
ブレザーやパーカーを着たり。
様々にコーディネートをして、学園の制服を彼女は最大限に楽しんでいた。
そんな希咲の細く綺麗な指が器用に動き、水無瀬の柔らかい髪を編み上げていく。
髪の束から時折覗く爪には薄いピンクのマニキュアが塗られ、ナチュラルな光沢が艶めいていた。
よく見ればわかる程度に、控えめなラメが煌めいている。
ネイルチップなど付けてしまえばもちろん校則違反となるのだが、大人に見咎められない範囲で彼女はうまく飾っていた。
このように全体的に見れば派手めなギャル系JKとして見えるのだが――
他校よりは比較的緩いと謂われてはいる当学園の校則。
それに大きく違反する箇所は各部分的に見れば彼女には一つもなく。
つまり希咲 七海とは――そういった“バランス感覚”に非常に優れた少女であった。
水無瀬と希咲の出会いとなった――去年一緒になった委員会での立ち振る舞いにしても、そのバランス感覚は当時から遺憾なく発揮されていた。
同性の生徒はもちろん、男子生徒や教職員相手でも何も遠慮することなく意見をし。
強い口調で喋ったとしても相手に強い反感までは抱かせない。
自身の仕事はテキパキとこなし。
他の進行が遅れている場所を的確に見つけ出してそれを手伝いつつも。
過剰に頼りにされ余分な仕事を押し付けられたりすることはないようにうまく立ち回る。
対人コミュニケーションの部分でも、集団内でのポジショニングにおいても、希咲は優秀なバランス感覚を発揮していた。
一方で、当時同僚であった水無瀬はというと――
専らそんな希咲の世話になることが多く。
しかしそれが彼女との接点となり。
それが友人となる切っ掛けとなったのは、今にしてみれば至上の幸いである。
器用な希咲とは対照的に鈍くさくて手際の悪い自分は、与えられた仕事を素早くこなすことも、手が空いた時に自分で仕事を見つけ出すことも出来ず。
集団の中で思考停止をしてしまうことが多かった。
そんな水無瀬 愛苗に声をかけてくれて、助けてくれたのが希咲 七海である。
希咲は普段、不機嫌そうに見える顔をしてることが多い。
最初に話しかけられた時は、その眼力に怯えて水無瀬は涙ぐんでしまったりもした。
だが、口調はぶっきらぼうなものの丁寧に根気よく面倒を見てくれて、時間を重ねるごとに水無瀬は彼女の人柄を理解していった。
水無瀬も人と話すのが大好きで物怖じなどはしないのだが、ある理由から数の多い集団の中ではうまく立ち回ることを苦手としていた。
高校生になって――頑張って人の輪に溶け込んでいこうと意気込んではいたものの、やる気とは裏腹に空回りしてしまうことも多かった。
そんな折に出会った希咲 七海は、自身の理想像そのもので――
頭の回転が速く、何でも出来て、誰が相手でもはっきりと物を言う。
水無瀬からは彼女がそのように見えていた。
水無瀬は特に見た目や精神的な幼さをコンプレックスにしている。
そのためか、他の同年代の少女達と比べても希咲は大人びて見えた。
オシャレで、カッコよくて。二年生になって同じクラスになれた時は本当に心の底から嬉しくて。とても優しくて、キレイで、そして――「――よしっ」
そんなことを思いながら水無瀬がボーっと希咲を見つめていると。
いつの間にか作業を終えていた彼女の声で現実へと立ち返らされた。
「ほらっ、出来たわよ」
カーディガンのポケットから取り出した手鏡を開いて、希咲が自らの仕事のデキを見せてくれる。
鏡面に映った――彼女がキレイに編んでくれた方のおさげを水無瀬は見た。
逆側の自分で編んだものより少しだけキレイに出来ていて。
本当はもっと上手に出来るのに、出来栄えを揃えてくれたそれを見ていると。
水無瀬が憧れの『ななみちゃん』の力を半分貰ったように感じて、嬉しさが胸から溢れた。
ニコニコしながら軽く頭を動かして、鏡に映った『ななみちゃん』製のおさげの動きを楽しむ
そうしていると、「どう? だいじょぶ?」と作者から声がかかった。
それに対して水無瀬は思いつく限りの称賛の言葉を並べ挙げていく。
すると、希咲は少しそわそわとしながら手鏡を閉じて、ポケットにしまってしまった。
あまり豊富ではない水無瀬の語彙の残弾はすぐに底を尽く。
それでも一生懸命に賛辞を送ろうとしていると――
「――やっぱり自分でするよりななみちゃんにしてもらった方が上手ですごくいいっ!」
ビシッ――と。
周囲の空間に聞こえるはずのない擬音が奔る。
水無瀬はそんな爆弾を放ってしまった。
「えっ⁉ ……うぇ? えぇっ……⁉」
希咲は顔を真っ赤にしてしまう。
目線と手の動きを彷徨わせ言葉を失った。
そんな彼女らのやり取りを遠巻きに眺めていた周囲の者どもは、水無瀬の無自覚な際どい発言に一層騒めきを強くする。
爆心地の隣の席の弥堂だけは何も気付いていない。
彼は動揺もなくマイペースで。
この後の授業で行われるであろう小テストにて出題が予想される箇所のカンニングペーパーを黙々と作成する――そんな“予習”をしていた。
廊下からは『ちち』『しり』『ふともも』といった単語と、聞くに堪えない罵詈雑言が響いてくる。
水無瀬は、所在なさげに宙を泳ぐ希咲の手を摑まえると、両手でやんわりと握った。
「ありがとう」と口に出してから――
希咲の細い手を自身の小さな手で大事に大事に握って。
そこに言葉以上の感謝を込める。
そしてしっかりと彼女の目を見つめ――
「ななみちゃん……だいすきっ!」
今日一番となるであろう笑顔を咲かせた。
希咲は――
ただでさえ紅潮していた顔色をさらに下から上へと真っ赤に染め上げ。
沸騰したヤカンから湯気が立ち上るかのように髪を逆立てた。
「あう……あう……」
まるで正体を失くしたかのように言葉にならぬ声を漏らし。
視線の置き場を求めてその大きな瞳を彷徨わせた。
しかし決して親友の手は振りほどいたりはせずに、やがてキュっと遠慮がちに水無瀬の手を握り返す。
顔を逸らしたまま恥ずかし気に目線だけをチラっと向けて――
「――あ……あたしも…………、すき……っ」
彼女らしからぬ消え入りそうな声でそう言った。
そんな希咲の様子に、水無瀬は安心させるようにニッコリと笑みを深める。
もちろん周囲の生徒の皆さんもこれにはニッコリだ。
心の汚れた者にはスラリとした茎に大ぶりの白い花が一面に咲く情景が幻視されたであろう。
そこでようやく希咲は、生温い視線で周囲から注視されていることに気が付いた。
「じゅっ、授業始まるからっ――!」
誤魔化すように言いながら、丁寧に水無瀬の手を解いて踵を返そうとして――だがすぐに止まる。
肩越しにチラっと視線だけを寄越して――
「あ……あとで反対側も、やったげる…………」
自身の表情を見せないようにそう言って。
希咲は水無瀬の反応は見ずに自席へと歩き出した。
そんな親友の背をにこやかに見送りながら、水無瀬 愛苗は想う。
希咲 七海は自分にとって――
一番の親友で、優しくて、大人っぽくて、カッコよくて、とてもキレイで、そして――
(――とってもかわいい人っ!)
胸中で彼女への友愛をまた募らせた。
今日も大好きな親友の大好きなところが増えて、しあわせいっぱいな気持ちとなる。
こうして――
自分ではクールなお姉さんキャラだと自負している少女は、今朝も教室にほのぼのとした空気を振舞い――
2年B組の一日は平和に幕を開けた――
――かのように見えた。
――が。
――そう思ってた時期が幾人かの生徒さんにもございました。