グラグラと揺れる視界を意思の力で捻じ伏せ、弥堂はギラリと眼光を鋭くさせる。
「――貴様。これは敵対行動と受け取っていいんだな?」
一気に身体に戦意を漲らせるが――
「どこ見てんのよ。こっちよ、こっち」
地面に膝を着いたまま明後日の方向に向かって威嚇をする痴漢男に希咲はジト目を向けた。
弥堂は希咲の声がした方へ向きなおる。
どうも頭部に入ったダメージが相当なものらしく三半規管がまだイカレているようで、まったく捻じ伏せられてはいなかった。
「ここでやり合う気か?」
「は?」
改められた弥堂の言葉に、今度は希咲も目に怒りをこめる。
「なに逆ギレしてんのよ。性犯罪者の分際で」
「なんだと?」
いきなりデート相手に死角から飛び蹴りをぶちこむなどという非人道的な行いをした女の言い分に、弥堂は怪訝そうにする。
その態度に希咲はますます声を荒らげた。
「なんですぐに痴漢するわけ⁉ もうやめてって言ったじゃん!」
「痴漢などしていない」
「してたでしょ! ちょっと目を離しただけなのに……!」
「言いがかりはよせ」
「言い訳すんな! 見たから! この女の人の……、その……、触ってたでしょ⁉」
言い逃れをする卑劣な痴漢に怒鳴りながら、希咲はキョトンとしているマキさんを示唆する。
弥堂はマキさんへ一度眼を向けて、「あぁ」と頷いた。
先程の自分とマキさんの姿を他人が見た時にどう見えるのか、それが弥堂にもようやく理解でき、希咲が何故怒っているのかと得心する。
それは誤解であることを希咲に伝えようと考えた。
「この女なら問題ない」
「ないわけあるか!」
だが当然、言葉足らずな彼の説明では何も伝わりはしない。
「そいつは俺に触られて喜んでいたから犯罪じゃない」
「うっっわ……きっしょ……。性犯罪者ってマジでそういう風に考えてるんだ……」
SNSで見かけたことのある『性犯罪者のマインドはこうだ!』的な情報の信憑性が、よりにもよって知り合いによって目の前で実証されてしまって、七海ちゃんはガチめにドン引きした。
どうやら誤解は余計に酷くなったようだ。
希咲は青褪めた顔で深刻げに思案し、そして意を決したように顔を上げた。
「ケーサツいこ?」
「あ?」
彼女の申し出に弥堂は眉を跳ねさせる。
「あたしも一緒に着いてったげるから。お巡りさんのトコ行ってあやまろ?」
「警察だと……?」
弥堂の眼がギラリと剣呑な光を放った。
「なるほど……、読めたぞ。貴様らグルか」
「は?」
またなにかおかしなことを言い出した彼に、今度は希咲が眉を跳ねさせる。
「最初からそうやって俺を陥れる計画だったな? サツに引き渡すために共謀をしたんだろう?」
「イミわかんないこと言わないの。むしろこっちが陥れられた気分だし。デートしてたら、その相手が街に居る女の人に痴漢するとか。そんなことフツー思わないでしょ? あたしマジでビックリなんだけど」
「うるさい黙れ。なんと言われようが、俺は絶対に出頭などしないぞ」
指名手配犯のような頑なさを見せる弥堂に希咲は眉をナナメにする。
「バカなこと言ってないでまずは謝んなさいよっ!」
「謝る必要などない」
「あるから! 頭おかしいんじゃないの⁉」
「“そういうこと”にお前がしたいのだろう? 俺を死刑台に上げるために」
「自分でしたんでしょ! つーか、痴漢で死刑にはなんないからっ!」
「ふん、信用できるか」
「あんたそんなこと言えた立場じゃないでしょ⁉ 知らない人にいきなり痴漢するとか頭おかしいし、フツーにケーサツじゃん……っ!」
「それを言うなら、そいつは知ってる女だから平気だ」
「は? 知ってる……?」
思いもよらぬ新情報に、希咲は改めて被害者女性を見遣る。
「あの、こいつと知り合いなんですか?」
「んー?」
しゃがんだままのマキさんは唇に人差し指を当てて、「さて、どう答えたものか」と首を傾げた。
その仕草を見ながら、
(てゆーか、カワイイ人だ……、って、あっ!)
暢気なことを一瞬考えてから希咲はハッとする。
「――そ、そうだ……! ゴメンなさいっ。あたし、助け起こしもしないで……」
慌ててマキさんに手を差しのべた。
だが――
「むふふぅ――」
ニマっと意地悪げな笑みを浮かべた彼女はその手をとらずにピョンっと立ち上がる。
その勢いのまま希咲の脇を通り抜けた。
「――えっ……?」
そして戸惑う希咲を尻目に、トトトっと弥堂の方へ駆け寄り彼を助け起こす。そして彼の腕に抱きついた。
「ねーえっ! この子なにー? もしかしてユウキくん浮気したの?」
「あ?」
「へ……?」
マキさんはわざとらしく拗ねた顔を作り、ムッと弥堂を睨んでみせる。
そして、戸惑う二人の様子に内心ではほくそ笑んだ。
「待ち合わせしてたのに全然来ないしさ」
「なに言ってんだ?」
「どうせワタシのことなんて無視して、この子と遊んでたんでしょ⁉ それって浮気じゃん!」
「あ、あの……」
何やら只ならぬ展開になっていそうなことに気付き、希咲は慌てて弁明をしようとする。
だが――
「――しかもさ? パパ活広場で待たせるなんてヒドイよっ! ここがどういうトコか知ってるでしょ?」
「おい――」
「ねぇ……? 待ってる間に、ワタシ知らないオジさんにいっぱい声かけられちゃった……。一人、スゴイ強引な人いて……、胸……、触られちゃったの……。どうするの? いいの……?」
「おい、マキさん――」
弥堂の声など聴かずにマキさんは好き放題に喋る。
希咲も彼女に対して何かを言わなきゃと思っていたのだが、マキさんの喋る内容に既視感があり、咄嗟に口籠ってしまった。
すごく覚えのあるやりとりを客観視させられてしまい、七海ちゃんはお口をもにょもにょさせる。
そんな希咲の様子をどう受け取ったのか――
押し黙る彼女の顔を見て、マキさんはどこか嗜虐的な薄い笑みを浮かべた。
「ねぇ、ユウキくん? この子とワタシ、どっちにするの?」
「なんの話だ」
「ふふふ……」
段々と不機嫌になっていく弥堂の顔に、マキさんは逆に嬉しそうにする。
そして希咲の方を見ながら、弥堂の腕に一層強く胸を押し付けた。
「この子よりぃ……、ワタシの方が気持ちーよ? イロイロなトコロが……」
意味深な言葉。
その勝ち誇ったような顔と、嘲るような声音、なによりムギュっと盛大にカタチを変えたその大きな胸に、希咲はカッチィーンときた。
「べっ、べべべ、べつにぃ⁉ あたしそんなクズ全然いらないし? 勝手にそっちで付き合えば?」
「えー? いいのー?」
「いいも何もあたしたち本当は――」
<――七海ちゃん! その話ノッてください!>
「え――」
突然挿し込まれた望莱の思念通話に心臓が跳ねる。
<――みらい?>
<身を退かないで。相手を怒らせて、“せんぱい”との関係を喋らせてください……!>
<なんで?>
いつものように余計な口を聞かず、手短に指示を出してくる望莱の様子と、その指示の内容を希咲は訝しがる。
<待ち合わせしてる時に逃げて行ったムチケツお姉さんを覚えていますか?>
<え? あぁ……、まあ、うん……>
その表現だけで誰のことかはすぐにわかったが、心情的にはわかりたくなかったので希咲は微妙な返事になる。
だが、望莱もふざけているわけではないようで、早口で必要な情報だけを喋っていく。
<実はスタッフにムチケツさんの後を尾けさせていたんです>
<え、なんで?>
<あのムチケツ。せんぱいを以前にここで見たことがあると言っていたからです。前にもここで“せんぱい”が別の女の子と――みたいな>
<……そういえば――>
あの時は弥堂の暴挙の方に意識がいっていて気が付かなかったが、思い出してみるとその証言は見過ごせないものだった。
<だから聴取をしたんです。『いつ』『誰と』弥堂せんぱいが一緒に居たのか。その時どういう状況でどんな様子だったのかを>
<よく協力してくれたわね>
<そこは、ほら。相手はパパ活女子なので。お金あげたらソッコーで股を開きましたよ、あのビッチ。口止め込みで破格の100kホ別ゴ有>
<その言い方やめろ>
<対応させたスタッフは男性だったので、実際これフツーにパパ活ですね>
<うぅ……っ、スタッフさんゴメンなさい……>
“M.M.S社”の劣悪な労働環境に七海ちゃんは涙する。
しかし、泣いている場合ではない。
長いこと黙り込んでいると弥堂たちにも怪しまれる。
<それで? なんでこのお姉さんと、弥堂を取り合わなきゃなの?>
<今、スタッフとムチケツさんがそこの様子をモニターしてます。どうやらムチケツさんは、その地雷風お姉さんに見覚えがあるそうです>
<それって……>
<はい。せんぱいと一緒に居た女の子って、その地雷風お姉さんだってムチケツさんが言っています>
<でも知り合いっていうか、彼女?みたいだし。それが――>
<――いいえ。実はですね……>
望莱は一層舌を回転させる。
<ムチケツさんの証言した日時のパパ活広場の防犯カメラ映像を観ました。広場に“せんぱい”が現れる夕方頃の少し前から、その場の映像が欠落しているんです>
<え――っ⁉>
<そう。港の映像と同じ現象です。せんぱいが広場に近づいてきた所は映っています。でも、広場に入った以降は映像に残っていません>
<そ、それって……>
<はい。せんぱいと水無瀬先輩がここに居た可能性が非常に高いです>
<……みらい。それって“いつ”の話なの?>
慎重に問いかけて、言葉を口にした瞬間に覚悟を決める。
<日時は4月24日の夕方頃……、そう。例の美景市のパニックの前日です――>
<――っ⁉>
想像通りの答えに希咲は息を飲む。
反射的に弥堂を睨みつけそうになり、その衝動をギリギリで堪えた。
全く予想していなかったこのタイミングで、一気に核心に近づいた。
<ムチケツさんが、その地雷風お姉さんが“せんぱい”と一緒だったと記憶しているのは、本来の記憶が欠落した為に起こった記憶の埋め合わせ。その結果だと予想します>
<本当に一緒に居たのは愛苗……?>
<はい。でも、何も無いところからその地雷風お姉さんが出てくる訳はないので、このお姉さんもその時この場に居たのだと思います。その可能性は頗る高いです>
<……そっか。だから、弥堂との関係を探る必要があるのね?>
<そうです――>
希咲の理解も一気に進む。
やるべきことは何であるかも。
<理想としては、七海ちゃんが“せんぱい”を奪い取ってそのお姉さんを追い払う。そしてその後を別のスタッフに尾行させて、他の拠点に行かないかを探ります>
<ん。おけ。いきなり本筋が急展開ね。でも、こっちの方がやる気出るわ……!>
<頑張ってください、七海ちゃん。この『ユウキくんの本当の彼女は私なんだからね! バトル』に大勝利するんです……!>
<……どうしよ。一気にやる気なくなってきた……>
テンションの設定に苦労しながら、希咲は怪しい二人に向き合う。
希咲が急に黙り込んだので、マキさんは不思議そうに首を傾げた。
「んー? どーしたのー? あれ? もしかして泣いちゃった……? やば」
「マキさん、あのな……」
もしかして悪ノリが過ぎたかとマキさんが顔色を変え、弥堂が彼女を注意しようとした時――
「――は、離しなさいよ……っ!」
「へ?」
「あ?」
希咲がビシッと指を差して声を張り上げた。
「あ、あたしがそのバカの本当の彼女なんだから……、その……、えっと……、あ、あんたなんかに負けないんだからね……?」
「ワタシに聞かれましても……」
しかし七海ちゃんはいまいちノリ切れていなかった。
希咲の態度の急変にマキさんは事情を察しようとする。
「んと、ということは、キミはユウキくんと付き合ってるってことなのかな?」
「え? えと、その、はい。不本意ながら仕方なく……」
「え? イヤイヤなの?」
「あっ! いや、ちがいますっ!」
「えー? なんかあやしくないー?」
「あ、あたし、ツンデレってよく人に言われます……っ!」
それは一応事実ではあったが、かなり苦しい弁明だった。
それに気付いてか気付かずか、マキさんはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべ始めた。
「じゃあじゃあ、つまり。ユウキくんとは絶対に別れないし、ワタシには渡さないってことでいいのかな?」
「……はい」
「そんなにユウキくんが好きなの? この人先週も違う女の子連れてたよ?」
「…………まぁ、その……、すき……です……」
ハキハキと答えなければならないことはわかってはいたが、胸の中にものすごく苦々しい思いがあって、希咲はスラスラと嘘が吐けなかった。
そんな苦しげな希咲の顔をマキさんは上機嫌に見つめる。
「ふふっ、おもろー」
「おい。マキさんいい加減にしろ」
場を引っ掻き回そうとする彼女を弥堂が咎める。
「一体どういうつもりだ?」
「どういうつもりってワケでもないんだけど……」
「あ?」
「いや、なんかこうしたら面白いかなーって思って? なんとなく?」
「…………」
その言い分に弥堂は胡乱な瞳になる。
他の大体の者が同じことを言えばまず信じないが、マキさんという人物はこういう性格だということを知っていたからだ。
悪気なく悪事を働く人間こそ最も厄介だと、眉を顰めた。
「でもぉ、ま、あんまりイジメても可哀想だし? これで二人が別れちゃったりしたら流石に気まずいしね。そろそろ種明かししとこっか」
「そもそもこんな意味のないことをするな」
「てゆーかさー? やっぱ彼女いたんじゃーん。このウソつきめ」
「どうでもいいだろ」
密着体勢のマキさんはそこからさらに顔だけを近づけて声を潜める。
「安心してね? ぜぇーんぶナイショにしてあげるから」
「思い上がるな。キミの持っている情報程度で俺が困ることなどない」
「いや困るっしょ? 絶対期間かぶってる時あったよね?」
「なんのことだ」
「え? この子といつから付き合ってんの? つか、ホントに彼女?」
「彼女だ」
弥堂は詳しく説明するのは面倒なので、そこだけを強調して言い張った。
「ま、いいや。とりあえず『浮気はウソ』だってのは説明しとくね?」
「あぁ」
今は大事なミッションの途中だ。
彼女自身が引っ掻き回して起こった混乱を鎮めさせて、とっとと退場してもらいたいと弥堂は納得する。
しかし――
(――いや、待て)
直前で閃くものがあった。
「マキさん、待て――」
「へ?」
彼女を制止する。
「説明する必要はない」
「え? なんで? さすがにマズくない?」
不思議そうにする彼女を、弥堂は自身に都合よく動くよう説得する。
「逆にだ。ここは一つ、キミは俺の浮気相手だということにしてくれ」
「んん……? なんで?」
「実は、俺は浮気をしたんだが浮気相手が居なくていまいち信憑性を担保出来ていなかったんだ」
「えぇっと……、浮気してないことを証明じゃなくって、浮気していたことを証明したいってこと?」
「そうだ。だから俺と浮気をしてくれ」
謎の論理と依頼にマキさんはパチパチとまばたきをする。
「なに言ってるのか全然わかんないけど。ま、いっか。あながちウソでもないし」
この男の頭がおかしいことはよく知っていたのでマキさんは深く考えることをやめ、ノリで協力することにした。
とはいえ、何をすればいいのかがわからないので、もう少し事情を聞いてみることにする。
「てゆーか、それはいいんだけど。ユウキくんは最終的な着地点はどこを目指してるの?」
「この女に『別れる』と言わせたい」
「なんで? 自分から別れるって言わないの? どうせいつも女なんて一回ヤったらゴミみたいに捨ててるんでしょ?」
「そのような事実はない。というか、事情があってそれは出来ないんだ。こちらから別れを切り出して責任や賠償を負いたくない」
「うん。相変わらずカスだねっ。そういうトコが好きだけど。さっぱりわかんないけど、面白そうだからお姉さんが助けてあげましょう!」
結局アタオカの考えは理解出来なかったが、マキさんは意欲的だった。
「な、なにコソコソしてんのよ……っ!」
なにやら怪しい密談をする二人に希咲が怒鳴る。
マキさんはシレっとした態度を継続させた。
「べっつにー? なぁーんかキミあやしーなって」
「あ、あやしくないしっ……!」
「ホントかなー?」
「ホ、ホントだしっ!」
「ふぅん?」
嬲るような目で希咲を見遣ってから、マキさんは少し真剣な顔をする。
「もう一回確認だけど、キミはユウキくんの彼女で、ワタシには渡さないし、別れる気もない――ってことで、オケ?」
「えっと、はい」
「でもさ? だからといって、ワタシに身を退けってのもまぁまぁムチャじゃない?」
「そ、それは……」
相手が弥堂のような人間のクズではなく、有罪判定していいかわからない人だったので、希咲はいまいち強気に出られなかった。
そんな彼女をもっと慌てさせるために、マキさんはさらに爆弾を投下する。
「ワタシだってもうヤラれちゃったしー。あーあ、彼女いないって言ってたから許したのになー」
「は?」
彼女の思い通りに希咲はその言葉に敏感に反応する。
「あんた……」
ガンギマリの目でクズ野郎を睨んだ。
思っていた方向と違うのではないかと、弥堂はマキさんに疑惑の目を向ける。
「おい」
「愛想尽かされたいんでしょ? いいからバニーさんにお任せだよっ」
パチンと弥堂にウィンクをして、マキさんはこの場を仕切りだす。
「よし、わかった! それならこのマキさんが、二人の愛を見定めてあげましょう!」
「は? 愛……?」
「…………」
希咲も弥堂もイヤな予感を膨らませた。
マキさんはパッと弥堂から身を離すと、彼の身体を希咲の方へ向かってドンっと突き飛ばす。
しかし彼女の力では弥堂の身体はビクともしなかった。
マキさんは弥堂をジッと見る。
「なんだよ」
「ユウキくん、ちょっとあの子の隣に行って?」
弥堂は反論する気が起きず、言うとおりに希咲の隣に移動した。
そんな情けない男に希咲はジト目を向ける。
「ねぇ? もしかしてあんたたちふざけてんの?」
「そのような事実はない」
「あんたホントにこの人と付き合ってんの?」
「付き合ってはない。だが浮気はした」
「は? みらいは?」
「それも浮気した」
「それで? あんたどうしたいわけ?」
「お前とデートだ」
「……あのさ――」
支離滅裂なことばかりを言う男に希咲が呆れた声で何かを言おうとした時――
「――さぁ! 二人にはこれからワタシの出す『カップルならこれくらい当たり前だよね?』的なお題に挑んでもらうよっ!」
「は?」
「あ?」
「見事にお題をクリアしたら、二人はラブラブカップルだって認めて、ワタシは涙を呑んでこの場から逃げ出して、産婦人科に駆け込んじゃうよ!」
「…………」
「…………」
どうやらまたなにかロクでもないイベントが始まったようで、この展開に既視感のある二人は思考がフリーズして白目になった。
<うおおおッス! なんかちょっと目を離した隙に面白そうなことになってるッス……!>
<これは俄然盛り上がってきましたね! 七海ちゃん負けられませんよ!>
当人たち以外は興奮する中、希咲はとりあえず文句を言おうとして隣の弥堂の顔を見る。
しかし、やっぱり他人事のようにやる気のなさそうな顔をしていたので、思いついた罵詈雑言の中からどれを口にするかを絞れずに、七海ちゃんはお口をもにょもにょさせた。
「ど、どうして、こんなことばっか……」
結局己の悲運を呪う言葉しか出てこない。
<七海ちゃん! ここは『おぱんつファイト』に持ち込みましょう! どっちが“せんぱい”を興奮させる下着を着けているか勝負です!>
<そんなのもうやんないから!>
<というわけで! 次回! デートバトル決着! ですっ!>
<……ねぇ? ホントはさ、あんたたちグルなんでしょ? みんなであたしをおちょくって遊んでんじゃないの?>
<そのような事実はありません>
<…………>
普通はありえないようなバカな出来事の連続に、七海ちゃんは弥堂の病的な疑心暗鬼が少し理解出来てしまった。