俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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2章18 WEAR CAT ③

 

 口約束の契約が済むと、今度は佐藤の代わりに隣でジッとしていた黄沙(フワンシャ)という少女が口を開く。

 

 

「――オマエたち、ナニ、デキル、言エ」

 

 

 弥堂は自身の隣に座るウェアキャットよりもさらに年が若く華奢な少女の、頭の上の犬耳カチューシャをジッと視た。

 

 

「実際に現場でどう戦力として運用するかを考えたいから、得意なこととか苦手なこととかを教えて欲しいんだ」

 

 

 平淡な声で端的に過ぎた黄沙(フワンシャ)の言葉を上司である佐藤が補足する。

 

 

「そっちは僕は専門ではないからねえ」

 

 

 どうやら黄沙(フワンシャ)が戦闘関連の担当のようだ。

 

 どう見ても彼女は女児だが、こんな子供を護衛として連れ歩いているからこそ、ウェアキャットのような少年が依頼に参加することにも抵抗がなかったのだろう。

 

 

 何か特殊な能力を持った子供を戦力として運用する。

 

 どうやらこの国のウラではそれが常態化しているようだと弥堂は推測した。

 

 

「俺が出来るのは主に近接戦闘だ。それに適した魔術をいくつか。遠距離攻撃や補助の類の魔術は不得意だ――」

 

 

 そして、ここまで誰もが具体的には触れていなかった部分をあえて自ら開示してみる。

 

 リスクは多少あるが、反応を観察することにした。

 

 

 隣に座るウェアキャットの膝の上に置かれていた手の、指先が一つピクリと動く。

 

 だが、それだけだ。

 

 

 “魔術”という単語そのものに疑問を浮かべる者はウェアキャットを始め、誰一人いなかった。

 

 

「ソウカ、オマエ、ゲンバだ、キョウケン」

 

「その方が俺も助かる」

 

「オマエは?」

 

「あぁーっと……、ボクは逆にバックアップが得意かなぁ……」

 

 

 黄沙(フワンシャ)に目を向けられ、今度はウェアキャットが答える。

 

 

「ナニ、デキる?」

 

「色々あるけど、一つはテレパシーみたいな?」

 

「具体的ニ?」

 

「うぅんと……、何て言うか頭の中で電話みたいに通信が出来るんだけど、試した方が早いかな……。オジさん、ちょっと手ぇ出して?」

 

「うん? 僕かい?」

 

 

 ウェアキャットが佐藤の方へ手を伸ばそうとすると、その間に黄沙(フワンシャ)が割り込んだ。

 

 

「ワタシが、ヤる。オヤジ、ひっこめ」

 

黄沙(フワンシャ)ちゃん、何回も言ってるけど僕のことはパパって呼んでおくれよ」

 

「キモイ、ウセロ」

 

「…………」

 

 

 佐藤はションボリしながら下がる。

 

 ウェアキャットはおかしくなった空気を誤魔化すように、面白くもないのに笑ってみせた。

 

 

「あはは……、じゃあ、ちょっと一瞬だけビリっとするかもだけど……」

 

「ヘイキ、ヤレ」

 

 

 ウェアキャットは黄沙(フワンシャ)の小さな手を握り、何かを念じるようにする。

 

 すると――

 

 

「――ッ」

 

 

 黄沙(フワンシャ)が一瞬眉を顰め、同時に犬耳カチューシャの毛がブワッと膨らんだ。

 

 

「…………」

 

 

 どうなってんだこれと、弥堂は犬耳をジッと視る。

 

 その間に、

 

 

「……ん、繋がったね」

「…………」

 

「…………」

「…………」

 

「…………」

「……ワカッタ、コレ、ベンリ」

 

 

 二人は暫く無言で見つめ合っていたと思ったら、黄沙(フワンシャ)が満足げにコクリと頷いた。

 

 

「じゃあ、解除するね? またビリっとするけど」

 

「カマワナイ、ヤレ」

 

「…………」

 

 

 弥堂が見張っていると、また犬耳カチューシャがブワッとなる。

 

 

「キミも先に試しておく? 当日はキミとコレを繋ぐことになるだろうから」

 

「いや、俺はいい」

 

 

 手を向けてくるウェアキャットの申し出を弥堂は断る。

 

 どんな不具合が生じるかわからないから、遠慮しておいた。

 

 

 要はメロの念話の魔法と同種のモノなのだろうとアタリを付ける。

 

 あの雑魚悪魔にも出来るような低劣な魔法なら、人間が魔術や超能力のようなもので再現することも出来るのだろうと、頭の中で理屈付けた。

 

 

 仮にぶっつけ本番で機能しなかったとしても問題は無い。

 

 弥堂はこのウェアキャットという少年を味方として当てになどしていないからだ。

 

 

「イロイロ、イッタな? ホカには?」

 

「うんとね、索敵能力って言えばいいのかな? テレパシーの応用なんだけど、周辺の地形や人の気配とかを頭の中で把握できる。後は隠れるのとかも得意だね」

 

「ナルホド、サポート、サイテキ」

 

 

 そう考えている間にあちらの確認も終わったようだ。

 

 女児の隣で佐藤も満足そうに頷いている。

 

 

「うんうん。突発的で偶然的な急造コンビかと思ったけど、キミたち相性よさそうじゃない? そうだ――」

 

 

 そして佐藤は何かを思いついたように弥堂へ顔を向け、少し意地の悪そうな笑みを浮かべた。

 

 

「彼が“ウェアキャット”。なら、キミは“マッドドッグ”と名乗りなよ。弥堂君」

 

「そうすることに何か意味があるのか?」

 

「ほら、コードネームみたいなものだよ。本名であの集団に紛れ込んでテロリストとやり合うわけにもいかないだろ? 作戦中はそう名乗るといいよ。先方にもそう伝えておくね」

 

「業務上の命令なら受け入れる。好きにしろ」

 

 

 弥堂は特に拘りなく、佐藤の言うことを承諾する。

 

 

「それじゃあ、キミたちの能力も大体把握出来たし。それも踏まえて当日の配置を先方と話しあって考えておくね。敵にも魔術や呪術を使う者が紛れている可能性は高い。最大限気をつけてね」

 

「…………」

 

 

 佐藤が話をまとめに入った。

 

 弥堂は感じた違和感を表情に出さぬようにする。

 

 

 ウェアキャットの能力について、彼らは割と細かく確認をした。

 

 だが、弥堂については近接戦闘が出来るという情報だけで済ませた。

 

 

 確かにこの部屋で目の前で戦闘能力を見せはしたが、三下を一人伸しただけのことに過ぎない。

 

 だが、敵にも居るという魔術や呪術を使う者――それを相手に具体的にどの程度やれるのかということに関しては何も聞かれていなかった。

 

 

 何かこちらの力を測るような特殊な能力でもあるのか、それとも既に“ナニカ”を基に測り終えているのか――

 

 

 それを考えてみるが生憎弥堂にはそれを測れるような力はない。

 

 さらにそのあたりに踏み込むのは今はリスクの方が高いと思えた。

 

 

「それじゃあ。日時は5月5日、明後日から最低二日間。場合によっては延長だ」

 

 

 考えている間に日時が指定される。

 

 弥堂は重要なことを尋ねる。

 

 

「場所は?」

 

「それは言えない」

 

 

 だが、その情報の開示は拒否された。

 

 

 弥堂としては、博士の滞在する予定の場所がわかれば、準備期間が一日あるので、その間に何か出来ることがあるかもしれないという考えだ。

 

 しかし、佐藤の立場からすると、博士をこれから匿う場所は最重要機密になる。

 

 

 この事務所を出た後に、敵勢力が弥堂たちに接触して買収を図る可能性がある。

 

 当日まで場所が答えられないのも当然のことだった。

 

 なので、弥堂も深追いはしない。

 

 

「当日はここの事務所で集合だよ。それから一緒に現場に移動する予定だ」

 

「わかった」

 

「ここに集まる時間は決まり次第御影所長に伝えるから、彼女からの連絡を待ってくれ」

 

「わかった」

 

「当日は……、そうだね。弥堂君、キミはスーツでも着てきてくれるかい? 恐らくそういう場になる」

 

「わかった」

 

 

 どうでもいい確認事項に頷いていくと、全ての話が終了した。

 

 

「では御影所長、ウェアキャット君の分の手付金は後で持って来させますので」

 

「い、いえ、そんな大金……、はわわ……」

 

 

 いい歳をこいて「はわわ」とか言っている成人女性を弥堂が内心で軽蔑していると、佐藤たちは席を立つ。

 

 この場を辞すのだろう。

 

 応接室の出口へと向かう。

 

 

「待て――」

 

 

 弥堂はその背に声をかける。

 

 

 佐藤は立ち止まり、黄沙(フワンシャ)と大山は先に扉を開け廊下で待機する。

 

 

 

「何故こんなヤバイ仕事(ヤマ)をお前が仕切っている?」

 

 

 ここまで敢えて触れないようにしていた疑問だ。

 

 それをここで敢えて口にする。

 

 理由は特に無い。

 

 

「それがオジさんの仕事だからだよ」

 

 

 佐藤は振り返り、変わらぬ笑みを浮かべたまま答える。

 

 

「軍で処理するようなことが市役所の仕事だと? それを誰が信じる」

 

「弱ったなあ……」

 

 

 佐藤は芋虫のような指で薄くなった自身の頭髪をかき混ぜながら眉を下げた。

 

 弥堂は鋭い視線を向け続ける。

 

 

「お前は何者だ――」

 

 

 そして、とうとう直接的な問いを投げた。

 

 

「…………」

 

 

 佐藤は頭皮を撫でながらチラリと床に目線を動かす。

 

 その先に在るのは、テーブルの足の下敷きになった名刺だ。

 

 

 佐藤が最初に弥堂に渡したモノで、弥堂が大山に仕掛ける際に投げてそのまま放置されていたモノだ。

 

 

 佐藤は皮肉げに口角を持ち上げた。

 

 

「まったく……、ダメだなあ。せっかくあげた名刺を失くしちゃうなんて。しょうがないからもう一枚あげよう……」

 

 

 言いながら弥堂に近付き、新たに取りだした名刺を弥堂の手に押し付けるように手渡す。

 

 

「こんなもの必要ない。俺は一度見ればそれで覚えられ――」

 

 

 弥堂はその行動をはぐらかされたと判断する。

 

 なので、いつも反論に使っている言葉を口にしようとして、その途中でつい目線が手の中の名刺に動き――

 

 

 そして気が付く――

 

 

 この名刺に書かれている内容が、今日の最初と、そして先日の駅前で視たモノと違うことに――

 

 

 

「――東京都公安委員会 第十三課 清祓係 美景分室 係長 佐藤一郎……」

 

 

 思わずそれに眼をとられていると、その内容を読み上げる佐藤の声が聴こえてくる。

 

 

 ハッとして弥堂が目線を上げると、佐藤は既にドアの外の廊下に――

 

 

「……もちろん、偽名ですっ――」

 

 

 そして彼は人差指を唇に当てながらパチリとイタズラげにウィンクをする。

 

 オジさんに似つかわしくないそのお茶目な仕草とほぼ同時――

 

 

――応接室のドアはパタリと閉められた。

 

 

 

 廊下を歩き階段を降りていく足音2つが遠ざかっていくのを聴きながら――

 

 

 それらが聴こえなくなるまで、弥堂たちは言葉無く応接室の扉を見ていた。

 

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