俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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2章21 GET READY FOR … ③

 

 病室――

 

 

 誰も居ないベッドの上に、黒いスーツの上着とYシャツが雑に脱ぎ捨てられている。

 

 ベッド脇の丸椅子に座るのは上半身裸となった弥堂で、その手で掲げているのは愛苗ちゃんの“しましまブラジャー”だ。

 

 

「――どうだ?」

 

 

 弥堂はブラジャーに具合を確かめる。

 

 

<……うん。いいわ。大丈夫そう>

 

 

 答えたのは異世界の初代聖女であり、聖剣エアリスフィールの管理人格となり、そして先日魔法のブラジャーにキャリアアップを果たしたエアリスさんだ。

 

 ブラのフロント部分に着いた青い宝石から伸びる幾本もの不可視の糸のようなものが弥堂の身体に触れていた。

 

 

 先日コインランドリーで話した『一度弥堂の身体を調べさせて欲しい』というエアリスの要望を現在実行している。

 

 

 元々、勇者と聖剣との間には疑似的な魔術契約があり、魔力パスによって繋がっている。

 

 そして、魔法少女とその変身アイテムである“Blue Wish”や、心臓に寄生した“生まれ孵る卵(リバースエンブリオ)”にも似たような繋がりがある。

 

 

 そんな中、愛苗の魔王化を阻止する為に聖剣を融合させて魔法少女の変身システムを乗っ取ったのだ。

 

 その為、『弥堂と聖剣』、『愛苗と聖剣』、そして『弥堂と愛苗』の間に何かしらの魔術的な影響や、なにか思いもよらぬ魔術契約が発生している可能性がある。

 

 エアリスは早急にそれを調べるべきだと考えていた。

 

 

 というのも、勇者と聖剣は同時に生まれたモノではない。

 

 勇者が先で、聖剣は後から創られたモノなのだ。

 

 

 異世界から召喚した者に“聖痕”を打ち込み、後天的に“加護(ライセンス)”を付与する。

 

 それがあの召喚システムだ。

 

 

 人間を超えた吸収量で『世界』から取り込んだ魔素を、天使や悪魔並の高効率で魔力へと変換し、体内に循環させる。

 

 その為の疑似心臓であり疑似血管となっているのが、“聖痕・勇気の証明(デモ・ブレイブ)”だ。

 

 

 勇者召喚の魔法の効果として最初から存在していた機能はここまでだ。

 

 聖剣はそれに後付けにされたモノだ。

 

 

 魔王を斃す為の武器。

 

 それが聖剣であり、その剣は初代勇者に与えるべく開発された。

 

 そしてそれを創ったのはその剣を向けられる対象であるはずの魔王本人であり、後の二代目勇者となる男である。

 

 

 加護持ちの人間を鉄と一緒に溶かして、その人間の持っていた加護を武器に付与する。

 

 そんなトチ狂った非人道的な兵器の製造を可能にし、さらに勇者のシステムに紐づけることを成功させたのは、他ならぬ二代目の知識や発想、技量によるものだ。

 

 完全なるマンパワーの賜物である。

 

 

 彼はそれを技術として後世に伝えてはいないので、実際にどうやってこれらのことが成立しているのかは誰にもわからない。

 

 謂わばブラックボックスとなっている。

 

 

 仮に今回愛苗の救出を行ったことで、その勇者と聖剣のシステムに致命的な不具合が起こっていたら、それはもう誰にも直せないのだ。

 

 だからこそ、エアリスはそのことを強く危惧していた。

 

 

 

<結論から言うと、ユウくんと小娘の間には魔術的な契約は何も発生していないわ>

 

「そうか」

 

<下手をしたら使い魔契約に近いものが結ばれる可能性があったから……>

 

「格上なのは水無瀬の方だからあっちに全部持っていかれちまうな」

 

<生意気よね。女なんてみんなユウくんの奴隷であるべきなのに>

 

 

 そういった致命的な不具合は起こっていなかったことが確認出来てエアリスは安堵していた。

 

 

<勇者と聖剣、魔法少女と杖。ちゃんと個別に成立している。奇跡的とでも言えばいいのかしら……>

「都合がいいって?」

 

<……そうね。良すぎて逆に不安になるわ。なにか見落としがあるんじゃないかって>

「これも二代目の仕業だと?」

 

<そこまでは……。いくらあの男でも、今のワタシたちの状況を予測するなんて不可能よ>

「そりゃそうだな」

 

 

 苦笑いを漏らすエアリスに弥堂も肩を竦めた。

 

 

<でも……、ねぇ、ユウくん?>

 

 

 しかし、エアリスはまた神妙な声になる。

 

 

<似ていると思わない?>

 

「似ている?」

 

<『“勇者”と“聖剣(エアリスフィール)”と“勇気の証明(デモ・ブレイブ)”』、それと『“魔法少女”と“変身ペンダント(ブルーウィッシュ)”と“生まれ孵る卵(リバースエンブリオ)”』、この二つ……>

 

「勇者召喚を創ったのは二代目じゃないんだよな?」

 

<そのはずよ。先に召喚の術式が存在していて、その一番最初の召喚で彼の妹が日本から異世界に喚ばれ……。だから彼はこの日本からあの世界へ渡ることになった……。そういう順番のはずよ>

 

「……魔法少女の方は魔王級の悪魔が創ったと言っていたな?」

 

<そうね。魔王ファウスト。そう呼ばれていたわ>

 

「…………」

 

 

 弥堂はブラを右手だけで持ち、左手で顎に触れて思案する。

 

 真剣な眼をカップとカップの間の宝石へ向けた。

 

 

「結びつけるべきではないか?」

 

<どうかしらね。さすがに世界と世界を越えてのことというか、『世界』全体のスケールの話になるとワタシにも……>

 

「二代目のノートにもそこらへんの記述はあまり多くはなかったな」

 

<でも、そうね……。葉と枝についての記述を思い出して。そこに悪魔のことが少し……>

 

 

 弥堂は記憶の中に記録された、エアリスが指摘した知識を閲覧する。

 

 

<天使や悪魔などの“非実在存在”――その中でも特別に高位で超強力な個体は……>

「総ての“(せかい)”や“(じかん)”に、同一の自我で同時に存在する――だったか?」

 

<えぇ。ワタシたちのような矮小な存在は他の“(せかい)”に存在するには“(せかい)”を渡るしかない。だけど、高位の存在はそうではない>

「存在としての格を高めることが、仮に出来るのだとしたら。その天井は『世界』そのものということになるのか?」

 

<そうかもしれないわね。在り方が『世界』と同じように思えるわ。ただ、それでも超絶劣化版なのでしょうけど>

「話のスケールがデカすぎてちょっと想像がつかないな。そんなことより――」

 

<――えぇ、そうね>

「もっと身近で具体的な話をしよう」

 

 

 ある意味この『世界』の真理にあたる様な、考えてもわからない話はそこで打ち切った。

 

 

 弥堂がブラジャーに自身の魔力を注ぐと、宝石に蒼銀の光が灯りブラジャーからナイフの柄に形状が変わる。

 

 さらに注ぐ魔力を強めると光の刃が生まれた。

 

 

 弥堂に維持できる限界まで魔力を注ぐと小剣ほどのサイズにまで刃が伸びた。

 

 

「やはり、素の魔力が増えているな……」

 

<魔王化した小娘の前で【殺害再開(キリング・リスタート)】を使って、悪魔の軍勢に単騎駆けをした時。あの時くらいかしら?>

 

「……そうかもな。“死に戻り”がバレた時の、あの時に近い感覚がする」

 

<そうね。【殺害再開(キリング・リスタート)】を隠すのをやめたあの時くらいね>

 

「…………」

 

 

 弥堂は【殺害再開(キリング・リスタート)】という名称をゴリ押ししてくる聖剣を睨むが努めてスルーをし、刃の長さをナイフ程度に弱めた。

 

 

<ルビアの加護は使えるかしら?>

 

「……【燃え尽きぬ怨嗟(レイジ・ザ・スカーレット)】」

 

 

 口の中で彼女の怒りの名を()ぶが――

 

 

<あら、これはダメなのかしら……>

 

 

――蒼い火が掌の上で一瞬だけ瞬いて消えてしまった。

 

 

「いや、ちょっと待て――」

 

 

 本当に使えないのなら、火そのものが熾ることすらないはずだ。

 

 弥堂は記憶の中に記録された、最近ムカついた出来事を思い出す。

 

 

 すると、浮かんだのは三つ編みおさげスタイルの彼女(偽)の姿だ。

 

 

 グッと奥歯を噛むと、掌全体で蒼い焔が燃え上がる。

 

 だが、それも一瞬だけですぐに消えてしまった。

 

 

「使い物になるレベルじゃないな」

 

<役に立たないわね、あのアル中。所詮は下賤な山賊女よ。初代聖女には及ばないわ>

 

 

 何故か死者にマウントをとろうとする呪いの管理人格を無視して、弥堂は聖剣に意識を戻した。

 

 

「こんなところか」

 

<そうね。ここまでは一応新しく出来るようになったこと。そしてここからは以前まで出来ていたことの確認をしましょう>

 

「わかった」

 

 

 スッと息を吸うとドクンっと心臓が撥ねる。

 

 その鼓動によって生みだされた魔素は血管を通って体内を巡って還ってくると、肺からとりこんだ酸素内の外気魔素と混ざって魔力と為った。

 

 

 その魔力を聖剣へと注入していく。

 

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