俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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2章21 GET READY FOR … ⑥

 “死に戻り”の話に戻る。

 

 

「それで、実際に次の“死に戻り”の準備が終わったかどうかはどう判断する? 単純に時間を測ればいいのか?」

 

<あぁ、それはね――>

 

 

 エアリスは弥堂の身体に繋がる霊子の糸を一つ操作する。

 

 すると、弥堂の首の後ろにビリっと静電気のようなものが奔った。

 

 

<これ覚えがあるかしら?>

 

「“死に戻り”の後に少ししたら同じ痛みが奔ったな。あとは魔法少女の結界に触れた時にも。これはお前が?」

 

<えぇ。意図までは伝えられなかったけれど、刻印を起動させて合図を送っていたの>

 

「そうか。これが起動したら終わったと思えばいいのか?」

 

<いいえ。“死に戻り”に関しては2番が終わった時に自動でこの合図が起動するように“反射魔術(アンダースペル)”を組んでいるから……>

 

「今までは?」

 

<ワタシが3番の補助をして2番と同タイミングで3番も終わるようにしていたのよ>

 

「なら、単純に考えると、この痛みが奔ったら肉体の復元の方は出来るようになったと考えればいいんだな?」

 

<えぇ。あ、そうだ……。ちょっと待って――>

 

 

 エアリスは霊子の糸で再び何かの操作を行う。

 

 

<さっきOFFにした“気付け”の刻印。3番の記憶のアップデートが終わったらこっちが自動で起動するように設定を変えたわ>

 

「さっきよりも強い痛みが奔ったら――ということだな?」

 

<そう。出来ればこっちが終わるまではなるべく【殺害再開(キリング・リスタート)】を使わないでね>

 

「善処するよ」

 

 

 それは敵次第なので、意味のない約束だ。

 

 

<そうだわ。刻印といえばもう一つ>

 

「なんだ?」

 

 

 エアリスが別の刻印に触れる。

 

 弥堂の右手の甲に刻印が浮かんだ。

 

 

<これ、港の結界に突入する前に打った刻印なんだけれど……>

 

「あぁ、そういえばそのままにしていたな」

 

 

 悪魔との決戦の地である美景新港――そこに展開された結界の中へ侵入する前に右手の甲に弥堂自身で打ち込んだものだ。

 

 これは愛苗との『お前のことを何があっても忘れない。違えたらこの首を落としてやる』という約束を守るための刻印である。

 

 

 実際のその刻印の効果は――

 

 

『お前は誰だ?』という言葉を発し、その言葉を向けた人物に対して殺意を抱いた瞬間に自動発動する“反射魔術(アンダースペル)”。

 

 その人物への攻撃行動を強制キャンセルして速やかに自分の首を掻き切って自害する。

 

 

――そう指定した通りの行動を強制的に身体にとらせる刻印だ。

 

 

「完全に忘れていたな……」

 

 

 急拵えで刻んでそのまま存在自体を失念していた。

 

 

 探偵事務所で佐藤に対して「お前は何者だ?」と弥堂は尋ねた。

 

 全く意識していなかったがその言葉選びを間違えていたら、うっかりあの場で自殺ショーを披露して何もかもが詰むところであった。

 

 そのことに今気が付いた。

 

 

<その【自動人形(オートメイタ)】もOFFにしておきましょう>

 

「そうだな。“死に戻り”の劣化と重なってこれで逝っちまうかもしれないしな」

 

<それは笑えないわね>

 

「本当ならもういらないんだが……、いや、水無瀬の経過によってはまた必要になるのか?」

 

<それも笑えないわね>

 

 

 苦笑いしながらエアリスは該当の刻印の調整に入る。

 

 

<ユウくん、よかったらこの刻印を改造しましょうか?>

 

「どう変えるんだ?」

 

<ユウくんが指定した動作をコピーするように、とか――どうかしら?>

 

「何度も再生する動作を変えられるようにするという意味か?」

 

<えぇ、そうよ>

 

 

 現在の刻印は打ち込む時に指定した以外の動作は出来ない。

 

 なので、弥堂の身体には他にもこの【自動人形(オートメイタ)】の刻印がいくつか打ち込まれている。

 

 

「今すぐに使いみちは浮かばないが、便利そうには聴こえるな」

 

<ただ、短い動作だけになるわ。ユウくんが魔眼で視た動作の霊子の運動情報をコピーする感じね。記憶の中に記録された動作の開始と終了の時間を指定して上書きコピーをする。自分のだけじゃなくって他人の動きもコピー出来ると思うわ>

 

「保存しておける動作は?」

 

<一つだけ。別の動作をコピーするなら前のは消えるわ>

 

「わかった。とりあえずやってくれ」

 

<了解よ>

 

 

 右手の刻印に熱が灯る。

 

 術式の書き換えが行われているようだ。

 

 

「お前は魔術師だったのか?」

 

<ん? いえ、ワタシは生前は魔術はさっぱりだったわ。加護が【切断】だったけれど、どちらかというとメイスのような鈍器で思いっきりぶっ叩いて殺す方が好きだったわ>

 

「メイスで加護が発動するのか?」

 

<しないのよ。だから教会のジジイどもがうるさくって。仕方ないからメイスに特注で棘みたいな刃を付けてもらって。ぶっ叩いて切断をするってスタイルだったわ>

 

「……そうか」

 

 

 シスターというのは基本的に物騒なのかと、エルフィーネを浮かべながら弥堂は流した。

 

 

「その割には魔術に長けていないか?」

 

<あぁ、それは“こう”なってからの話ね>

 

 

 エアリスが苦笑いをしたことが気配で伝わる。

 

 

<肉体がなければ物理で接近戦なんて出来ないし……>

 

「それもそうか」

 

<初めは只管教会と勇者を呪っていたんだけど、まぁ、時間があまりにも在り過ぎたから……。暇だったから魔術を研究していたの>

 

「才能自体はあったのか?」

 

<多少ね。好みではなかったけど。だから趣味程度の慰みだったんだけれど、それが一気に向上したのはユウくんのおかげよ>

 

「俺の?」

 

 

 弥堂が片眉を跳ねさせると彼女はクスリと笑う。

 

 

<えぇ。二代目のノート。魔術の深奥とも謂えるあの知識をワタシにも与えてくれたから>

 

「それは俺じゃなくて二代目のおかげだろう」

 

<イヤよ。あのクソ野郎に感謝なんてしたくないわ>

 

「そういえばお前は彼とも勇者と聖剣として付き合いがあるのか。どんな人物だったんだ?」

 

<クソ野郎よ。いっつもスカしていて、何考えているかわからないし。この世の全てを見下しているみたいで絶対に怪しいと思っていたわ>

 

「そうしたら、実は魔王本人だったというわけか」

 

<さすがにそこまでは疑ってなかったから、それにはもう笑うしかなかったわね>

 

 

 弥堂は彼とは数日語り合った程度の付き合いだが、確かに掴みどころのない男だった。

 

 だが、同郷ということもあったからか。

 

 弥堂に対しての彼は気さくな人物という印象が強かった。

 

 

 数千年という計り知れない時間を生きた男が極めた知識を託され、彼が守り続けた世界の決着も託され。

 

 そして弥堂は彼を殺した。

 

 

 結果として、ただ次の戦争が起こっただけで、彼の娘もこの手にかけ、弥堂は何一つ変えることは出来なかった。

 

 

 そこまでを考えて意味の無い感傷だと切り捨てた。

 

 過去はどんなに願ってももう二度と起こらず、そして明日は望まずとも必ず来る。

 

 その明日の話こそが重要だ。

 

 

「明日なんだが――」

 

<うん>

 

「テレパス?と言ったか。恐らく念話に近いようなものを繋がされる」

 

<それで?>

 

「仮にクソネコの念話を繋いでいる状態で、他からも同種のモノを繋がれたらどうなる?」

 

<それって魔術なの?>

 

「不明だが多分違う。“ギフト”だと言っていた。口ぶりからは超能力に近いように俺には聴こえた」

 

<超能力ねぇ……>

 

 

 それは弥堂にとってもエアリスにとっても未知のモノだ。

 

 

<ねぇ、ユウくん。それって――>

 

「――あぁ、恐らく“加護(ライセンス)”だ」

 

 

 弥堂はそのようにアタリを付けていた。

 

 

「多分この世界では“加護(ライセンス)”のことを“ギフト”と呼び、それを持つ者を“ギフテッド”と呼んでいる」

 

<まさか“神意執行者(ディードパニッシャー)”が出てくるの?>

 

「そのレベルの遣い手かはわからんな」

 

<一応味方だってことが救いかしら>

 

「いや。あんな場末の探偵事務所に居るくらいだ。敵の中にも似たような連中がいることを想定しておくべきだろう」

 

<そうね……>

 

 

 エアリスは少し思案する。

 

 

<もしもそれが“加護(ライセンス)”だとしたら、多分あのネコのショボい魔法よりは格上になると思う>

 

「それを重ねられるとどうなる?」

 

<こっちが切られるだけならマシ、じゃなくても回線が混ざって不具合を起こすってとこかしらね>

 

「最悪は?」

 

<こっちの念話をのっとられてワタシたちの存在がバレるわ>

 

「なるほど。じゃあ、当日は念話もナシだな」

 

<……ワタシから見ると、執拗な程にユウくんに制限がかけられているように思えちゃうわね>

 

「それは被害妄想だ。俺に有利だった戦場などこれまでに一度もない。それよりも現場への仕込みはどうだ?」

 

 

 弥堂は次の確認に移る。

 

 

<あ、それがあったわね。こっちはポジティブよ>

 

「というと?」

 

<ユウくんが持ってきてくれた情報でヒットしたわ。何か怪しい動きをしている連中がホテルに入っている。多分ここで当たりよ>

 

「それで?」

 

<フフ、そいつらにハッキングをしてみたら急いで何かをしているみたいね。その仕掛けをいつでも乗っ取れるようになってる。こっちも現地に仕掛けているから、連中の準備した物も利用してユウくんのプランを実現できそうよ>

 

「へぇ、それは運がいいな」

 

<えぇ、だから、そうね。当日はドローンも出せるし、通信は通常の電話でやりましょう。イヤホンを付けてね?>

 

「あれ邪魔なんだよな。というか、お前は電話だかスマホだか知らんが、どうやって用意した?」

 

<それは今回の件が終わったら説明するわ>

 

 

 弥堂は若干顔を顰めるが、念話が使えない以上背に腹は変えられない。

 

 エアリスの案を採用することにする。

 

 

「こっちで何かが起こったらすぐに報せろ。場合によっては仕事は放棄する。そのまま合流して夜逃げだ」

 

<わかったわ。試したいことがあるのだけど>

 

「なんだ?」

 

<念話は使わないけど、ネコの視界共有だけONにしたいの>

 

「バレないのか?」

 

<相手がテレパスを繋ぐ場面をワタシが監視するわ。問題が発生した瞬間にすぐに視界共有を切断する>

 

「構わないが。優先順位を間違うなよ? お前らと通信を繋ぐのも俺の状況を報せるためじゃない。あくまでこっちの水無瀬の安全のためだ」

 

<大丈夫。わかっているわ>

 

「そうだ。水無瀬と言えば……」

 

 

 仕事前の確認事項は終わり、話は愛苗の近況についてに変わっていく。

 

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