俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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2章23 G.H.O.S.T ①

 ポートパークホテル美景の正面入り口から中に入る。

 

 

 弥堂 優輝(びとう ゆうき)は“清祓課(せいばつか)”の係長であり、本作戦の日本側の指揮官である佐藤 一郎と共に、ホテル内のラウンジへと向かった。

 

 

 ラウンジの一つのテーブルでノートPCで作業をする女性が居る。

 

 その女性は近づいて来る弥堂たちに気が付くと作業を中断して立ち上がり、こちらを出迎えた。

 

 

 ある程度まで近づいてから、佐藤は弥堂を含めた連れてきた者たちに手の仕草で止まるように指示を出す。

 

 そして自分は一歩進み出た。

 

 

“ようこそ。会えて光栄よ、サトウ”

 

“いえいえ、こちらこそ。日本へようこそ、ミラーさん”

 

 

 スーツを着た金髪の白人女性。

 

 佐藤に比べれば大分若い。

 

 

 彼女も一歩前に出て佐藤と相対した。

 

 その背後には“G.H.O.S.T(ゴースト)”の隊員たちだろう――数名の武装した男たちが控えている。

 

 当たり前のようにライフル銃を提げていた。

 

 

 代表者二人は英語で言葉を交わしている。

 

 弥堂には何を言っているのかがわからないので、とりあえず大人しく突っ立っていることにした。

 

 

 さりげなく周囲に視線を回す。

 

 そこら中を忙しない様子で武装した外国人たちが動き回っている。

 

 当然だが、日本人は見当たらない。

 

 

 ミラーと呼ばれた女性はニコやかな笑顔で佐藤に右手を差し出す。

 

 だが、その笑顔に卑屈さは全くない。

 

 どちらかというと自信に溢れているからこそ表れたような笑顔だ。

 

 本来、来訪者であるはずなのに『ようこそ』と口にしたあたりにも、内面が表れている。

 

 

 反面、典型的な日本人おじである佐藤は、自分よりも年下の金髪白人女性にヘコヘコと頭を下げながら、卑屈な笑顔で彼女の手を握った。

 

 

“まずは手厚い歓迎と協力に感謝をするわ”

“いえいえ、そんな。大したおもてなしも出来ずに”

 

“十分よ。わかっていると思うけれど……”

“……えぇ、出過ぎた真似はしません。我々はあくまで被害が拡大した場合に一般人を守るために出動しています”

 

“アナタにも立場があるでしょうけれど、悪いわね”

“まぁまぁ、お互いに成功を祈りましょう。それぞれで上手くいけば、それでいいんです”

 

“ありがとう”

 

 

 眉を下げて少し表情を緩めて見せるミラーに、佐藤もあくまで下手の態度を崩さない。

 

 

“早速だけど、作戦について。昨日話したとおりで変更はないわね?”

“えぇ。今のところはプラン通りに進行しています。一般人の避難も終えて、じきにホテル内のチェックは終わるでしょうが……”

 

“わかっているわ。急な話だから100%は求めない。場所を用意してもらえただけでも十分よ”

“そう言って頂けると助かります”

 

 

 恙無く言葉を交換する。

 

 当然、弥堂には二人が何を言っているのかがわからない。

 

 

 異世界に飛ばされた時に、耳に電極のようなものをぶっ刺されて何やら怪しい魔力を脳に流されたが、それでわかるようになった異言語はあっちの世界の言葉だけだ。

 

 なんでもかんでもを翻訳してくれる便利なスキルなどをインストール出来たわけではない。

 

 

“――それで、彼が?”

 

“えぇ”

 

 

 クソガキに『こくご』を教える為の家庭教師にされてイライラしているルナリナの顔を思い出していると、自分に水を向けられた雰囲気を感じとる。

 

 こちらへ目を向けたミラーに、弥堂はしっかりと眼を合わせた。

 

 

“彼はマッドドッグ。作戦中はそうお呼びください。そちらの指揮下に入ります”

 

“そう。随分な名前ね”

 

 

 佐藤に紹介され、ミラーは弥堂の前に立つ。

 

 そして右手を差し出してきた。

 

 

“会えて光栄よ、マッドドッグ。ワタシはミラーよ”

 

「……? あいあむとむ」

 

“え? トム……?”

 

「タムではないトムだ」

 

 

 しかし、中学校の授業すら受けていない弥堂にはやはり英語はわからない。

 

 とりあえずミラーの手はしっかりと握り、適当に答えておいた。

 

 プっと佐藤が吹き出す。

 

 

「……あぁ、えっとゴメンなさい。初めましてマッドドッグ」

 

 

 すると、アメリカ人のミラーさんは気を遣って日本語で喋ってくれた。

 

 

「でぃすいずぺん」

 

「は? いや、日本語よ……? わかるわよね?」

 

「もちろんだ。よろしく頼む、鏡さん」

 

「いや、そのミラーは鏡じゃなくってワタシのファミリーネームよ。まぁ、はい。よろしく……」

 

 

 早くも『こいつ大丈夫なのか?』という疑惑の目を“G.H.O.S.T(ゴースト)”のお偉いさんから向けられてしまう。

 

 だが、弥堂は『日本語がわかるなら最初から喋れ、殺すぞ』という強い気持ちで堂々と見返した。

 

 

「確認だけど……」

 

 

 ミラーは弥堂へ向かってそう言いかけて、途中で佐藤の方へ顔を向けた。

 

 第一印象がよくなかったらしい。

 

 

“彼はオンミョウジなの? サトウ”

 

“いいえ。魔術が使えます”

 

“そう。わかったわ”

 

 

 英語で佐藤とやりとりをしてから、改めて弥堂へ話しかける。

 

 もちろん日本語で。

 

 

「改めて初めまして。マッドドッグ」

 

「初めまして。アナタが司令官か?」

 

「ちょっと語弊があるけれど、そうね。この現場の指揮官はワタシよ」

 

「わかった。只今を以て貴官の指揮下に入る。よろしく指揮官」

 

「ジャスティン・ミラーよ。ワタシたちは厳密には軍ではないから階級はないの。ジャスティンかミラーと呼びなさい」

 

「了解。ミラーさん」

 

「敬称は不要よ」

 

「了解。ミラー」

 

「ふふ、よろしい」

 

 

 ミラーは満足げに微笑んだ。

 

 ファーストコンタクトでコミュニケーションに不安を感じたが、日本語で話してみたら思ったよりも円滑にやりとりが成立する。

 

 無駄なことを口にしない、軍人然とした弥堂の振舞いにミラーは好感を覚えたのだ。

 

 

 この時、同様に弥堂も相手を値踏みしている。

 

 

 豪奢な金髪に白い肌。

 

 女性にしては高い身長。

 

 スーツを着ていても目立つグラマラスなボディ。

 

 

 ひと昔前の、日本人が抱くアメリカ人女性のイメージに近い。

 

 廻夜から履修させられていたアニメや漫画に出てくるアメリカの特務機関に所属する女性エージェントのキャラクター。

 

 それが現実に出てきたような印象を持った。

 

 

(スカートとヒールを履いてたらまんまそれだったな)

 

 

 ミラーが着ているのはパンツスーツに動きやすい革靴だ。

 

 戦闘を想定していると思われている。

 

 

「そうよ。ワタシは事務職ではないわ。有事には陣頭指揮も執るし、戦闘にも参加します」

 

「……失礼。不躾だったか」

 

「フフ、気にしていないわ」

 

 

 動揺しかけた内心を抑える。

 

 仕草に出したつもりはないし、目線を下半身に向けたりもしなかった。

 

 だが、気取られてしまったようだ。

 

 

 弥堂の実年齢より5つほど上くらいの若い女だが、その地位に相応しい能力を有している侮れない相手であると評価する。

 

 

「では、早速仕事の話よ」

 

「あぁ」

 

 

 ミラーはすぐに必要事項の確認に移る。

 

 彼女に対する警戒度を上げたばかりではあるが、弥堂は同時に評価も上げた。

 

 話が早く、仕事のしやすい相手だと見たのだ。

 

 

「ある程度の説明を受けていると思うけれど、アナタにはバックアップの戦力として本作戦に参加してもらいます」

 

「バックアップ? あぁ、そういうことか」

 

「あら? もうわかったの?」

 

 

 疑問を感じるのとほぼ同時に察した様子を見せる弥堂に、ミラーは目を丸くする。

 

 

「あぁ。安心してくれ。非常時には生命を懸けて戦う。だが、それ以外の時は余計なことをしない。それでいいんだろ?」

 

「あら?」

 

 

 ミラーは面白げに片眉を上げた。

 

 アメリカ人らしいわかりやすい表情でのジェスチャーだ。

 

 弥堂も肩を竦めてみせる。

 

 

「弁えてるよ」

「意外ね。オンミョウジって堅物が多いから少し警戒してたのよ」

 

「俺は陰陽師ではないからな。彼らよりも品のないハグレ者の魔術師だ」

「そうなのね」

 

「だから佐藤さんやアンタのような人に嫌われると食いっぱぐれちまう。そしたらもうマフィアの用心棒くらいしか仕事がない。この歳でそれは御免だ。だから身の程を弁えてるし、真面目に働くつもりだ」

「フフフ、正直ね」

 

 

 ミラーは上機嫌に笑う。

 

 

「話の早い子、理解の早い子、それと素直な子は好きよ。安心して。ワタシはフェアよ。仕事には正当な評価をするわ」

 

「それは理想の上司だな。頑張って覚えがよくなるようにするさ」

 

 

 上辺で社交辞令を交わして二人は握手を離した。

 

 

「あちらが護衛対象よ」

 

 

 そしてすぐにミラーは別のテーブルを示す。

 

 

 そこには一人の日本人女性が座っていた。

 

 一人とは謂っても、当然その周囲には何名かの護衛の外国人兵が付いている。

 

 

 日本の中に居る日本人女性。

 

 居て当たり前の存在はずなのに、この場のこの集団の中では彼女には異物感がある。

 

 

 それは人種だけの話ではない。

 

 

 スーツを着た黒髪の女。

 

 スカートを履いていてストッキングに覆われた足に筋肉はない。

 

 居心地悪そうに身体を縮めて座る姿勢と、落ち着きのない仕草。

 

 

 彼女はどう見ても戦える人間ではなかった。

 

 

「彼女が福市 穏佳(ふくいち しずか)博士よ」

 

「…………」

 

 

 弥堂は眼を細めて博士を視る。

 

 

 パッと見の服装とシルエットからは、探偵事務所の所長の御影 都紀子(みかげ ときこ)に近い印象だ。

 

 だが所長と比べても大人しく気の弱い人物に見える。

 

 

 アメリカで成功したというから、勝手にどこか派手なイメージを抱いていた。

 

 だが、実際は陰気で垢の抜けない女――

 

 

 弥堂は護衛対象に対してそのような印象を持った。

 

 

「顏と名前だけは覚えておいてね」

 

「わかった」

 

 

 どうやら直接のコンタクトはとらせてもらえないようだ。

 

 

 現在の状況のせいか、博士は非常に暗い表情をしている。

 

 そんな彼女から弥堂は目線を切った。

 

 

 清祓課から“G.H.O.S.T(ゴースト)”に貸し出された野良の魔術師。

 

 それがこの場に於ける弥堂の立場。

 

 

 そんな自分の価値がどれほどのものか。

 

 

 その値段付けと修正を完了させた。

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