俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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2章23 G.H.O.S.T ③

 

 ダニーは面白げな目を弥堂へ向ける。

 

 今のやりとりで興味を持ったようだ。

 

 

「意外だな。ジャップの男なんてどいつもこいつも陰気でナヨっちいと思ってたぜ」

 

「国外に居たからかもな。それより俺も意外なんだが、お前らどいつもこいつも日本人を見下してるわりに、みんな日本語が喋れるのか?」

 

 

 弥堂も砕けた口調で気になっていたことを訊ねる。

 

 相手を普段接しているヤクザたちや、異世界の荒くれ者たちと似た人種だと見做した。

 

 

「いんや? ンなわけねェよ。そんなの一部のインテリと他に何人かだけだ。日本語なんて日本でしか通じねェからな」

 

「アンタはインテリには見えないぜ」

 

「オレは沖縄勤務の時に覚えたんだよ。だからオマエはオレのところに回されたんじゃねェのか?」

 

「そんな理由かよ」

 

「もちろんそれだけじゃあない」

 

 

 ダニーは目つきを意地の悪いものに変える。

 

 その視線には人を試すような色はなく、ただのお遊びのクイズのような趣向を感じた。

 

 

「わかるか?」

 

 

 弥堂も相手と同じような軽い調子で肩を竦める。

 

 

「端っこでドブ攫いでもしてろってことだろ?」

 

「正解だ! つーわけで、気楽にやろうぜ兄弟」

 

 

 ダニーは機嫌よく笑って拳を差し出してくる。

 

 弥堂も手を握って、彼の拳と合わせた。

 

 

「オレのことはダニーと呼べ」

 

「俺はブロウじゃないぞ」

 

「ヘッ、差別されてるモン同士ツルもうぜ。そうしたらオレらの方が数が多くなってツエェだろ?」

 

「覚えとけダニー。多数派になっちまったらもう『差別されてる』とは言えなくなっちまうんだ」

 

「ア? マジかよ。メンドくせェな。ま、仲間が多い方がハッピーだ。それでいいだろ?」

 

「適当だな」

 

 

 見た目通りにノリの軽い黒人さんに弥堂は嘆息し、拳を離す。

 

 

 この手の人間の方が付き合いやすいとは言ったが、弥堂自身は決して遊び心のある性質ではない。

 

 なので、必要なことを聞いていく。

 

 

「ダニー。アンタも魔術師か“ギフテッド”なのか?」

 

「いや? オレはオカルト(そっち)はサッパリだぜ」

 

「“G.H.O.S.T(ゴースト)”ってのは異能(そういう)集団じゃないのか?」

 

「まぁ、先に持ち場に移動しよう。続きは歩きながら聞かせてやるよ」

 

 

 疑問を呈する弥堂を宥め、ダニーは顎を振って『着いて来い』と示唆する。

 

 歩き出した彼に弥堂は追従した。

 

 

 二人はラウンジを離れて階段へ向かう。

 

 ホテル内の2F部分が吹き抜けになっており、そこにはラウンジやカフェ、レストランがある。

 

 階段を降りると1Fには受付ロビーだ。

 

 

「外に出るのか?」

 

「いや。エレベーターで上に行くぜ」

 

「なぜわざわざ階段で1Fに?」

 

「あぁ、聞いてねェのか。滞在中一部のフロア以外は閉鎖される。オレたちで使う拠点の階以外にはエレベーターは止まらないように設定されてるんだ」

 

「拠点以外の階は?」

 

「スリーマンセルのチームが2フロアに1チームずつ配置されてる」

 

「なるほど……」

 

 

 このホテルは3F~23Fが客室となっており、24Fにはフィットネスクラブや展望台、バーなどがある。その上の25Fは屋上だ。

 

 そこから部隊の規模に大体のアタリをつける。

 

 

 三人一組が11チームに、博士や指揮官の周辺にも別チームが居ることを考えれば、少なく見積もっても50人程度か。

 

 人手が足りないようなことを言っていたが、それでも中々の人数だ。

 

 

 これが要人警護として充分な規模なのかどうかは弥堂にはわからないが、それくらいの戦力が建物内に動員されているとは考えておくべきだろう。

 

 

「襲撃者たちの移動経路を絞ってるのか」

 

「そういうこと。地上から入ればエレベーターに辿り着くまでにさっきの吹き抜けの2Fから蜂の巣にされる。それを抜けてエレベーターに乗っても停まれる階はほんの一部」

 

「待ち伏せがしやすいな」

 

「開いた瞬間射撃の的だぜ。それに途中の階の窓をぶち破って侵入してきても、それから階段を使おうにも上と下から絶対に挟まれるって寸法よ」

 

「なるほど。シンプルだが急拵えの割にはよく出来ているな」

 

 

 弥堂には珍しく称賛の類いの言葉を口にする。

 

 今回は嘘でもお世辞でもない。

 

 内心でもちゃんと『これなら上手くいきそうだ』と思っている。

 

 

 引き続き情報を集めるためにダニーに訊ねた。

 

 

「この作戦はミラーが?」

 

「おぉ。多分な。考えるのはいいけどちゃんとオマエにも説明しとけって話だよな」

 

「それを教えるのもアンタの役目だったんじゃないのか?」

 

「うお、マジかよ。あっぶね。聞かれなかったら絶対言わなかったぜオレ。サンキューなマッドドッグ」

 

「気にするな」

 

 

 無責任に笑うダニーに適当に答えながら、内心では『なるほど。これでは気が合わないのも当然だ』と納得する。

 

 仕事にストイックで神経質そうな指揮官のミラーと、このいい加減でノリの軽い下士官。

 

 関係が上手くいくわけがない。

 

 

 吹き抜けの階段を降りきって1Fフロアを踏む。

 

 入り口の方と受付カウンターの方へ視線を振ってから、エレベーターのある方へ歩き出した。

 

 

「それで?」

 

「ん? あぁ、さっきの続きか」

 

 

 上の階で話していたことの続きをダニーに催促する。

 

 

「オレたちが全員異能集団じゃないのかって話だな。それを言うなら日本の清祓課(オマエら)能力者(ギフテッド)だけで構成されてるわけじゃねェだろ? もしもそうだったらオマエがこの場に居るはずがない」

 

「まぁ、それはそうだな」

 

 

 ダニーの反論に、素直に頷いた。

 

 

アメリカ(オレたち)もそれは一緒だぜ。どうしても異能(そっち)系のスキルを持ったヤツは少ない。まぁ、一般兵に比べて能力者が少ないのは何処の国でもそうだがよ」

 

「アメリカは特にそうだというわけか」

 

「なんせ後発だからな。それは事実だから認めなくちゃなんねェ」

 

「だから軍人が混ざってるのか。実戦力として」

 

「へェ?」

 

 

 ダニーは面白がるような笑みを浮かべたまま口角を上げる。

 

 だが少しだけ獰猛に歯列を覗かせた。

 

 

「わかるのか? って、そうか。オレが沖縄って言ったからか……」

 

「ん? あぁ、沖縄って米軍基地のことか。そうじゃない。ニオイでわかる」

 

「なるほどな。オレもわかるぜ? 戦場に出たことあるヤツ同士でしか感じ合えないモンがあるよな?」

 

「それがわかったのは実は最近になってからなんだ」

 

 

 弥堂が自嘲するように肩を動かすと、ダニーは僅かに首を傾げる。

 

 

「つい最近までどっかの戦場に居たのか? どこだ?」

 

「『世界』のどっかの、誰も知らないようなケチな戦場だよ」

 

「……そうかよ。お疲れさん」

 

 

 まさか“異世界”だのと言う訳にはいかないので、弥堂は適当に言葉を濁した。

 

 すると、ダニーは勝手にどうとでも受け取ってくれたようで、少し眉を下げて労ってくれる。

 

 弥堂は適当に「フッ」とか言っておいた。

 

 

 そうして会話が一時途切れた時、前方から歩いてくる人影が眼に入る。

 

 エレベーターから出てきた者たちだろうか。

 

 二人組のスーツ姿の外国人だ。

 

 

 弥堂はスッと眼を細める。

 

 

 そのまま彼らと擦れ違った。

 

 

「さっき――」

 

「――アン?」

 

 

 二人組が離れた気配を背中で確かめてから弥堂はダニーに話しかける。

 

 

「――組織内で黒人がイジメられてるみたいな口ぶりだったが」

 

「ん? まぁ、ここだけの話じゃあねェがな。それが?」

 

「あぁ、だから“G.H.O.S.T(ゴースト)”は白人だらけの組織なのかと思ったんだが。随分と色んな人種――というか、出身の者がいるみたいだな」

 

「あぁ……」

 

 

 弥堂の言いたいことが飲み込めたようで、ダニーは背後を横目で振り返った。

 

 弥堂も一緒に背後を向き、改めて二人組を視る。

 

 

「アイツらのことか?」

 

「あぁ。擦れ違った時にふと気になってな」

 

 

 チッと舌を打ってダニーは弥堂の方へ目線を戻した。

 

 

「背のデカイ方がブラジル人のフィリップだったっけか。ガキの方はアラブ系だったか? 確かシェキルとか言ってたな」

 

「あちこちから来てるんだな」

 

「あっち見てみろよ」

 

 

 ダニーは別の方を指差す。

 

 

「アイツらはインド系のアメリカ人だ。ゴツイのがハサン、枯れ木みてェな陰気なヤツはヨギだ」

 

「軍人には見えないな」

 

「アイツらは異能(そっち)系だよ。スカウトされてアメリカ国籍をとったクチだな」

 

「ふぅん……」

 

 

 探るように視線を遣ると、ヨギと呼ばれた目の下に大きな隈を拵えた痩せた男がギョロリとした目で見てくる。

 

 挑発しないように弥堂は適当に視線を逸らしておいた。

 

 

「考えてみれば当然か。能力者が足りないなら搔き集めてくるしかないからな」

 

「まぁ、そうな。人種で選んでる場合じゃねェしな。そうじゃなくってもオレらの国は移民が増えてるし、この“G.H.O.S.T(ゴースト)”もむしろ白人の方が少ないかもな」

 

「差別されてる側も自然と『白人とそれ以外』って思ってるんだな」

 

「アァ? あ、マジだ。シット、今のはナシにしろ。ムカつくぜ」

 

「気にするな。ここでは俺が一番孤立した異物だ」

 

 

 日本人というだけでなく、異能者の中にも異世界帰りの元勇者などは居ないだろう。

 

 不適切なジョークで自嘲を誤魔化して話を元に戻すことにした。

 

 

「さっき擦れ違ったヤツらもスカウト組か?」

 

「いや、あれはまた別口で入ってきた一般戦闘員だよ。役人どもと妙に仲がいいからオレは気に喰わねェけどな」

 

「“G.H.O.S.T(ゴースト)”に所属しているのなら、お前も役人じゃないのか?」

 

「……まぁ、半分はな」

 

 

 ここまでずっとヘラヘラとした態度だったダニーの表情が陰る。

 

 どこか遠くを見るような目を一瞬だけ見せた。

 

 

 そのタイミングでエレベーターの前に着く。

 

 ダニーが上階行のボタンを押すと、扉はすぐに開いた。

 

 二人そろって乗り込む。

 

 

「ややこしいな。お前らアメリカ人って言うほど自由じゃないんだな」

 

 

 目的の階の数字が書かれたボタンを探すダニーの背中に弥堂は皮肉を投げかける。

 

 ダニーは首だけ回して振り返りつつ、20Fのボタンを押した。

 

 

「自由だぜ? いつだって。プロパガンダはな――」

 

 

 ニヤリとタチの悪い笑みで、ダニーは弥堂へ歯列を見せてくる。

 

 

 それと同時に扉が閉まり、エレベーターは二人を上階へと運んでいった。

 

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