俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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2章23 G.H.O.S.T ⑤

 

 弥堂はダニーに意識を戻して話題を切り替える。

 

 

「そういえば、なんで“ゴースト”なんだ?」

 

「アン?」

 

「ゴーストを始末するのが仕事なのに、なんでゴーストと名乗るんだ?」

 

「なんだァ? オマエそんなところから知らねえのか? よくここに派遣されたな」

 

 

 ここまで適当なことばかりをふざけた調子で話していたダニーも、弥堂の無知具合に流石に驚きを見せた。

 

 

「ゴーストってのは略語だ」

 

「略?」

 

「“Global Haunted Optimization Scientific Treat”――頭文字をとって“G.H.O.S.T(ゴースト)”だ」

 

「ややこしいな」

 

 

 聞き慣れない英単語に拒否感を覚え、弥堂は顔を顰める。

 

 

「まぁ、覚える必要はねェよ」

 

「いや、覚えるのは簡単だ。だが、意味がわからん」

 

「アン? どういうことだ?」

 

 

 今度は逆にダニーの方が弥堂の物言いに同じような表情をすることになった。

 

 だが、魔眼のことを明かす気はないので弥堂は適当に流す。

 

 

「気にするな」

 

「ま、いいいけどよ。でも、ジャスティンの前で知らねえとか言うなよ? あの女キレてくるぜ」

 

「気をつけるよ」

 

「とりあえず、このホテルは一部の従業員を除いてオレたち“G.H.O.S.T(ゴースト)”が確保してる。本部は15F、護衛対象はこの20F。まずそれだけ覚えとけ」

 

「待て――」

 

 

 極めてシンプルな内容だったが、いくつか聞き捨てならないことがあり、弥堂はダニーに訊ねる。

 

 

「従業員が残っているのか?」

 

「あぁ。実質オレたちが占拠してるようなモンだが、形上はそうじゃない。一応宿泊してるって体裁はな。それに、準備期間がなかったから、この建物のことをオレたちは完全に把握しているわけじゃない」

 

「ある程度は仕方ないということか」

 

「そういうことだ」

 

「では、本部と博士を離すのは何故だ?」

 

 

 続いてもう一点質問する。

 

 

「基本的に襲撃があるとしたら敵は地上から上に上がってくる。いざとなったら最大戦力を本部に集めて食い止めるつもりだ。そんで、屋上にはヘリポートがある」

 

「なるほど。最悪そこから博士だけ逃がすのか」

 

「そうだ。まぁ、あくまで襲撃があったらの話だがな」

 

「無いと思っているのか?」

 

 

 弥堂が眼を細めると、ダニーは少し考える仕草を見せてから嘆息した。

 

 

「最初のホテルだったらわからねェ。だが、こっちに移したから敵も準備が出来てない。来るとしたら外から強行突破するしかねェ。そんなのはもう市街戦だ。正気じゃない」

 

「相手はカルトだろ? 正気じゃないのが敵だぞ」

 

「それはそうだな。だが、いくらなんでも成功率が低すぎる。それをやったら日本の警察や軍が参加してくる大義名分を与えるようなモンだ。そんな作戦に傭兵たちは乗らねえだろう」

 

「それはまぁ、そうだろうな」

 

 

 理屈の上では一応正しくは思えたので、弥堂はそこで詰問をやめた。

 

 

「――っと、着いたぜ」

 

 

 するとダニーが一つの部屋の前で立ち止まる。

 

 

「ここがオレたちの待機部屋だ。二つ隣がシズカ博士の部屋になる。今はまだ下に居るがな」

 

「わかった」

 

「オレだ! 入るぜッ!」

 

 

 弥堂が頷くと、ダニーはドノックをして部屋の中に声をかける。

 

 それから部屋のドアを開いた。

 

 

 

 

 少し広めの客室の中には数名の武装した男たちが居る。

 

 どこかガラの悪い面構えの者が多く、ダニーと雰囲気が似ていると感じた。

 

 

 男たちは英語でダニーに声をかけつつ、弥堂をジロジロと遠慮なく見てくる。

 

 似ているのは正確には雰囲気というか、品性がだ。

 

 

 彼らと挨拶のようなものを交わしたダニーが弥堂へ日本語で話す。

 

 

「コイツらもオマエとチームだ。“チームインディア”、9番目の部隊だ」

 

「そうか。よろしく」

 

 

 弥堂は彼らに向けて端的な挨拶をする。

 

 だが反応は芳しくなく、彼らは首を傾げてしまった。

 

 

「あぁ、コイツらは日本語わかんねェんだよ」

 

 

 ダニーが苦笑いをして、それから通訳をしてくれる。

 

 

“おい、このジャップのボウヤが『よろしく』って言ってるぜ”

 

 

 仲間に向けて英語でそう伝えた。

 

 

 しかし、それでも彼らの反応は芳しくなかった。

 

 

“なぁ、ダニー。大丈夫なのかよそいつ”

“眼つきがマトモじゃないぜ? スパイじゃねェのかそいつ”

“一人や二人じゃきかねェぞ。何人殺ってんだよ……”

 

 

 彼らは怪訝そうな顔で口々に不安を吐露した。

 

 

<あ、こういう人たちから見ても、そう見えるんだ……>

 

 

 英語がまったくわからないので、今度は弥堂が首を傾げてしまう。

 

 すると、ダニーが大袈裟なジェスチャーで安心するように強調した。

 

 

“日本のゴーストバスターのお墨付きだ。大丈夫だろ”

 

“何言ってんだよ。オレらんとこ回されてる時点で信用されてねェだろ”

 

“まぁ、なにかあっても責任とんのはジャスティーヌちゃんだ。適当にやろうぜ”

 

“それもそっか”

“よォ! クソッタレのハキダメへようこそ! ジャップのニイちゃん!”

“今日で死ぬかもしんねェけどな!”

 

 

 彼らも深くは考えない性質なのか、結局ふざけた態度で弥堂を歓迎した。

 

 ダニーはそれを日本語に訳してやる。

 

 

「『ようこそ。初めまして。よろしくな』って言ってるぜ」

 

「そうか。『御機嫌ようクソッタレども。日本のクソッタレがやってきたぞ』と伝えてくれ」

<あ、汚い言葉だけは直感で理解するんだ……>

 

 

 ダニーが弥堂の言葉を仲間たちにそのまま翻訳すると、メンバーたちはドッと笑いだす。

 

 そして彼らは立ち上がり、口々に英語で歓迎を言葉にしながら弥堂に近寄って来る。

 

 そして、握手をしたり拳を合わせたり、ハイタッチを求めてきた。

 

 

<え……? なんで好印象なの……?>

 

 

 弥堂はされるがままに適当に対応しながら考える。

 

 

「……なぁ、ダニー」

 

「なんだ?」

 

「さっき言ってた『半分は役人じゃない』ってのはどういう意味だ?」

 

「大したことじゃあないぜ? 気になるのか?」

 

「そうだな。お前らは“ハグレ”なのか?」

 

 

 弥堂は訊ねながらメンバーたちの顔を視回す。

 

 ここに居る彼らは他の“G.H.O.S.T(ゴースト)”の隊員たちとは少々毛色が違うように思えた。

 

 

「他の連中はなんというか、真面目そうだ。役人っぽいってのはそのまんまだな。だが、お前らはチンピラだ」

 

 

 弥堂のその言葉にダニーは心底可笑しそうに笑う。

 

 日本語がわからないはずの他のメンバーも何となくノリで一緒に笑った。

 

 

「ハッキリ言うねェ。だからオマエと一緒だって?」

 

「そうだな。俺と“清祓課”の職員にも似たような差異がある」

 

 

 弥堂の答えにダニーは頷く。

 

 

「オレらは所謂“ハグレ”ってヤツとは違う」

 

「どう違う?」

 

「異能があるかないかってことさ。オレらにそんなモンはない。単純に社会から摘まみだされたクズ――ってだけのハグレ者さ」

 

「なるほどな」

 

 

 その説明で弥堂にはよく伝わった。

 

 

「例えばコイツはジャックだ――」

 

 

 ダニーが一人の仲間を示すとその男はなんとなく弥堂へニカっと笑う。

 

 白人の男だ。

 

 彼には目に見えたガラの悪さはあまりない。どちらかというと爽やかそうな見た目をしている。

 

 

「コイツは仕事熱心な警官だったんだが、最低のペド野郎だ。熱心過ぎてエレメンタリーの生徒の部屋までパトロールしちまったんだよ。それでここに送られて来た」

 

「なんだと?」

<う、うわぁ……、サイテーすぎ……、きも……>

 

 

 ダニーの紹介に合わせてジャックは機嫌よさそうに手を上げる。

 

 

「そんでこっちはジェイミー。麻薬の横領をした」

 

「……あぁ、なるほどな」

 

 

 ダニーが次に黒人男性の紹介をすると、そこで弥堂は得心がいく。

 

 

「わかってきたか?」

 

「要は、オモテで処理に困ったヤツらを、いざという時に真っ先に死ぬための消耗品にする為に集めたんだろ? 死んでも困らないような連中を」

 

「そのとおりッ!」

 

 

 弥堂の答えにダニーは指を鳴らして笑いだす。

 

 他のメンバーもやはり雰囲気で手を叩いて一緒に爆笑していた。

 

 

“おい、ダニー! オマエの武勇伝もそのジャップに聞かせてやれよ!”

“罪状の間違いだろ?”

 

“アァン?”

 

 

 すると、仲間たちがダニーを囃し立てる。

 

 

「なんて言ったんだ?」

 

「なんでオレがハキダメ送りになったかも言えってさ」

 

「そういえばアンタは軍にいたとか言っていたな」

 

 

 ダニーは渋々といった体で自分のことを語る。

 

 だが、その仕草はポーズだ。

 

 

「沖縄でよ、普通に仕事してて、ある日基地に帰ろうとしてる時だ――」

 

 

 ダニーは半笑いで喋り出す。

 

 

「――ところが乗ってた古いジープのルーフがイカレちまってよ。オープンカー状態で走ってたんだよ。そしたらオメエ、あそこって頭のおかしなジジババがたくさん居るだろ? あのクソッタレどもがよ、腐った生卵だの豚の足だのを車に投げ込んできやがったんだよ」

 

「へぇ」

 

「そんでオレぁキレちまってよ。連中の中の一人のジジイを尾け回してやったんだよ。そんで家見つけたからよ、そこの娘をレイプしてやったんだよ」

 

「…………」

<サイテーすぎ……。え? なにコイツ笑いながら言ってんの……? 作り話だよね……?>

 

 

 ロクでもない話なので、聞かなければよかったと弥堂は後悔する。

 

 

「それで沖縄に居られなくなったのか。というかアンタよくパクられなかったな」

 

「おぉ、それがよ、聞いてくれよ」

 

「聞きたくねえよ」

 

 

 弥堂は嫌悪感を露わにするが、ダニーは何故か自慢げに話し続ける。

 

 

「どうもそのジジイの一家よ、日本人じゃなかったみてェなんだわ」

 

「だからなんだ」

 

「だからよ、日本人じゃねェってことは日本の裁判所に怒られる筋合いねェだろ? だから無罪じゃん、ラッキーって思ったのよ」

 

「んなわけねえだろ。バカかよ」

 

 

 アメリカの警官や軍人ってエリートなんじゃなかったか? と弥堂は内心で首を傾げる。

 

 

「そうみてェなんだわ。つーか、日本人じゃなかったのが逆にマズかったみてェでよ。オレをもう沖縄には置いておけねェってんで、この通り強制送還よ」

 

「日本に戻ってきてんじゃねえか」

 

「マジそれな! 笑えるよな?」

 

「笑えねえよ。地獄に落ちるぜ。アンタこの戦場で死ぬかもな」

 

「ハハッ! そうかもしんねェ!」

 

 

 タチの悪い冗談はさて置き、弥堂は彼らの内情に理解を示した。

 

 

「沖縄どころか、軍どころか、シャバにもムショにも置いておけない。だからこうして存在しないことになってる組織に送って有耶無耶にしたのか。殺されなかっただけ運がよかったな」

 

「まったくだぜ!」

 

 

 罪の意識などカケラもないのか、ダニーと仲間たちは愉快そうに笑っている。

 

 

<やっぱり……、性犯罪者とはすぐ仲良くなった……>

 

 

 何かどこかで酷い誤解を受けているような気がして弥堂は不快感を覚えた。

 

 

 すると、今度は彼らから弥堂の方へ水を向けられる。

 

 

「んで、マッドドッグ。オマエはなにやってここに送られてきたんだ?」

 

「あ?」

 

「オマエもなんかやらかしたからこんな戦場送りになったんだろ?」

 

「別になにも」

 

「なんだよ、言えよォ。ここのヤツらはどうせクズばっかだ。誰も怒りゃあしねェって」

 

 

 まるで修学旅行の就寝時間に好きな子を聞いてくるノリで犯罪歴を聞いてくる。

 

 弥堂は下らないとは思ったが、少し考える。

 

 

 この後の“仕事”をやりやすくする為には、ここで少し彼らと仲良くなっておいた方が都合がいいだろうと。

 

 必要性を認め、仕方なく口を開いた。

 

 

「別にパクられたわけじゃないんだが――」

 

「おぉ、なんだよ? 言ってみろよ」

 

「今日ここに来る前に痴漢で捕まりそうになったな」

<え゙っ――>

 

「ハハハ……ッ! 作戦前になにやってんだよ! バカじゃねェの!」

 

 

 ダニーが訳すとみんなが笑いだす。

 

 

「痴漢ってなにをやったんだよ?」

 

「何ってほどのこともない。ちょっと胸を触っただけなのに警官を呼びやがったんだ、あのクソアマ」

 

「マジかよ。大袈裟な女だな」

 

「俺は金も払ったんだ。なのにこれだぜ? 運がなかったよ」

 

「そりゃ確かにツイてなかったな」

 

 

 ダニーは弥堂の体験談を仲間たちに説明してやる。

 

 

“乳くらいでウルセエこと言うなよな?”

“金もらったくせに強欲な女だぜ”

 

 

 すると彼らは口々に弥堂を慰めてくれた。

 

 

<て、底辺だ……、ここが人類の最底辺だ……っ!>

「うるせえなこいつ」

 

「アン? みんなお前に同情してるんだぜ?」

 

「わかってるよ。俺もお前らに対する不当な扱いには遺憾の意を表明すると伝えてくれ」

 

「ん? その言葉いまいち意味がよくわかんねェんだよな」

 

 

 一度首を傾げてからダニーは仲間たちに翻訳をする。

 

 そうしたら彼らは歓びを表して、気さくに弥堂の肩や背中に触れてきた。

 

 

 なんにせよ。

 

 この死んでも誰も困らない社会に不要な者たちのチームが弥堂の配属先のようだ。

 

 

 なるほど、相応しいなと――

 

 

 心中でそう自嘲した。

 

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