俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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2章24 木馬の胎の蟲 ②

 

<――おい>

 

 

 弥堂はメロとの念話の要領で思念を発してみる。

 

 

 すると――

 

 

<――ん? 呼んだー?>

 

 

 随分と軽い調子で返事が返ってきた。

 

 

 相手は今回の依頼に置いて弥堂の相棒(バディ)ということになっているウェアキャットだ。

 

 

 どうやら自分の立場がわかっていないようで、その悪びれのない態度に弥堂は苛立つ。

 

 

<お前聴こえているのか?>

 

<え? 聴こえてるから返事してんじゃん>

 

<そうじゃない。こっちの様子が把握できているのかと聞いている>

 

 

 さっきから気になっていたことを、この空き時間を使って確認することにした。

 

 

 下のラウンジに居た時、それとダニーとの会話中――

 

 ちょくちょくウェアキャットからの念話が聴こえていた。

 

 それだけなら別に構わない。

 

 

 しかし聴こえてきたものは、弥堂に直接話しかけるようなものでもなく、逆に弥堂から何かを話しかけてそれに対して返ってきた返事でもない。

 

 念話上での言葉だけでなく、まるで弥堂とミラーやダニーとの会話が全て聴こえているかのようにコメントをしてきていた。

 

 弥堂はそのことを強く気にしている。

 

 

<あ、うん。なんとなく?>

 

 

 だが、ウェアキャットからは曖昧な答えが返ってきた。

 

 弥堂は眼を閉じたまま、不快げに眉間を歪める。

 

 

<なんとなくとはどういう意味だ?>

<なんかこう、ふわっと? 雰囲気だけ?>

 

<俺の発言だけでなく、ミラーやダニーの言葉まで聴こえているようだったが?>

<そうだね。キミさ、マジでサイテーっていうか、いい加減にしなよ?>

 

 

 相手を問い詰めたつもりが、弥堂は逆に注意をされてしまう。

 

 

<聞いてないぞ>

<ちゃんと人の言うこと聞かないから、そんなサイテーな人になっちゃうんだろ?>

 

<違う。お前のテレパシーとやらは、俺とお前の頭の中だけで思念で会話が出来る。それだけの能力だと思っていたが?>

<まぁ、うん。そんな感じそんな感じ>

 

<思念にしていない、肉体で発声したり聞いたりした内容がお前に伝わるとは聞いていない。さっきから俺はそのことを言っているんだ>

<あー……>

 

 

 そこまでをはっきりと口にすると、ウェアキャットは何やら気まずそうに口籠った。

 

 どうやら上手いことハメられたようだ。

 

 弥堂は精神を冷たく尖らせる。

 

 

<いや、佐藤さんがね?>

<あ?>

 

<怒んないでよ。佐藤さんがさ、キミがちゃんとお行儀よく出来るかって心配してて……>

<それがどうした?>

 

<だからなるべく様子を見ててあげてって言われてさ>

<答えになっていないな。俺はお前にこんなことが出来ると聞いていないと言っている>

 

 

 ウェアキャットが言い訳のようなものを述べるが、それもまた答えではない。

 

 なので、弥堂は聞く耳を持たない。

 

 

<それはね、こないだ依頼を受けた日、キミが帰った後なんだけど。『他には何が出来る?』って、所長経由で詳しく能力を聞かれて。それで一応こういうことも出来ますよーって話したんだよ>

<で?>

 

<それをキミに言ったら絶対嫌がるでしょ? だから内緒にしてこっそり繋いで、後から説明してって頼まれたんだよ>

<…………>

 

 

 話としては一応筋は通っている。

 

 事前に聞かされていたらゴネたのも事実だ。

 

 

 それに現状こうなっている以上はどうしようもない。

 

 思念の通信ごと切れと言っても、それこそ相手が飲まないだろう。

 

 

 それならハメられた方が間抜けなのだ。

 

 弥堂は一旦納得することにした。

 

 

 ここで相手を詰問して謝らせたとしても実益はない。

 

 それよりももっと重要なのは――

 

 

<それよりさぁ――>

 

<あ?>

 

 

――思考を巡らせようとしたところで向こうから話を振られてしまう。

 

 

<キミ大丈夫なの?>

<なにがだ>

 

<や、ほら、スパイチェックみたいなのされるんだろ?>

<あぁ、そのことか>

 

 

 それについて聞きたいこともあったので、弥堂は一旦相手の話に付き合うことにした。

 

 

<お前サイコメトリーってわかるか?>

<うん。聞いてたけど?>

 

<どういうものかわかるか?>

<んー、わかんないなぁ……>

 

<お前は出来ないのか? どっちも似たような超能力だろ?>

<超能力……、確かにそう言われると超能力っぽいなぁ……>

 

 

 ウェアキャットは少し間を空けてから答えた。

 

 

<ボクのはリアルタイムでキミの状況を把握したり、この建物全体を把握したりする能力だよ>

<そういえばお前今どこにいるんだ?>

 

<隣のビルの屋上だよ。この辺だとキミが居るホテルが一番高さがあるんだけど、それを狙撃出来る可能性があるのが今ボクがいるビルだけ>

<そのポイントの防衛も兼ねているってことか>

 

<そそ。んで、戻るけど。ボクがわかるのは外から見た情報だけ。ジャスティンさん? あのお姉さんのサイコメトリーってのは、人の内面を見るんでしょ?>

<そこが違いというわけか>

 

<使ってるとこ実際見てないからわかんないけど、そんな感じじゃない?>

<そうか。わかった>

 

 

 もしもウェアキャットが自身の能力についてまだ何かを隠していた場合、ミラーとの能力の違いを説明させて何かボロを出さないかと期待した。

 

 だが、大したことは聞けなかったので、弥堂は興味を失くした。

 

 

<いやいや、なに話を終わらせてんの?>

 

<あ? なんだよ?>

 

 

 しかし、それに対して今度は逆にウェアキャットが突っかかってきた。

 

 

<『内心を覗かれちゃうからキミ大丈夫?』ってボクが質問したのが会話の始まりでしょ?>

<だからなんだ?>

 

<なんで答えないの? 自分のしたい話ばっかりして>

<どうして答える必要がある。お前は俺が内心を覗かれると困ると考えているのか? 何故仲間を疑う? どういうつもりだ?>

 

<えぇ、なにこの人……>

 

 

 心配をしてやったら、何故か強い疑いを向けてる風に逆ギレをしてくる。

 

 そんな相棒の人格破綻具合にウェアキャットはドン引きした。

 

 

<せっかく人が気遣いしてるのに……>

<頼んでない>

 

<仕事でしょ。キミがコケたらボクだって困るんだ>

<それはそうだな>

 

<あ、これだと納得するんだ……>

<で? 思考や記憶を読まれても大丈夫かという話だったか?>

 

<そうそう>

 

 

 弥堂は特に間を空けずに続けた。

 

 

<そもそも何が困る?>

<え?>

 

<もしも俺がスパイだったらそれは困るだろう。だが、俺はスパイではない>

<まぁ、それはそうだけど……>

 

<確かに、自分の思考や記憶を他人に覗かれるのは気分がいいことではない。だが、それだけのことでもある。問題はない>

<や。それはボクもわかってて。だから、スパイとかじゃなくって、そもそもキミの思考が見られちゃうのがマズくない?って言ってんの>

 

<……どういう意味だ?>

 

 

 弥堂は慎重に問いかけた。

 

 だが、向こうからは軽い答えが返ってくる。

 

 

<いや、だってさ? キミ、あのキレイな金髪のお姉さんの前に立って、ヘンなこと考えそうじゃん?>

<変なこと、とは?>

 

<だからー、『おっぱいおっきいなー』とか『どんなパンツなんだろー』とか?>

<お前はバカなのか?>

 

 

 そしてその答えは弥堂の想定したようなものではなく、酷く下らない内容だった。

 

 

<いや、だって! キミそういうセクハラちっくなこと考えそうじゃん!>

 

 

 だが、ウェアキャットはそんな下らないことを割と切実な感じで訴えてくる。

 

 弥堂は呆れの溜め息を思念に乗せた。

 

 

<……いいか? お前の言っていることはセクハラだ。バカなことを言うな>

 

<はぁッ⁉>

 

 

 弥堂が人として当たり前のことを言語化すると、ウェアキャットはビックリ仰天する。

 

 どの口が、と。

 

 

<女性を前にしてそんな失礼なことを考えるべきじゃないし、そういった部分にフォーカスして相手を見るべきじゃない。ちゃんと一人の人格としてリスペクトしろ。これは国際常識だ。覚えておけ>

 

<覚えてるし! キミがその常識をわかってないから注意してんじゃん!>

 

<酷い言い掛かりだ。俺は仕事にそういった性的な思考や嗜好を持ち込まない。そんなヤツは三流以下だ>

 

<仕事じゃない時は持ち込むの?>

 

<揚げ足を取って他人を貶めるのはよせ。お前自身が普段からそんなことを考えているからそういう発想をするんだ。お前は女性のことを『おっぱい』や『おぱんつ』をぶら提げとく為だけのマネキンやハンガーだとでも思っているのか? 恥を知れ。この差別主義者め>

 

<ち、痴漢の分際でなにをエラそうに……ッ!>

 

 

 自らが異常性欲を抱えるからといって他人も当然そうであると決めつけ、一方的に難癖を付けてレッテルを貼り付けてくる――弥堂はそんな差別主義者に強く遺憾の意を表明した。

 

 そして悔しがるウェアキャットを嘲笑う。

 

 

<痴漢ではない冤罪だ>

<でも女の人の胸触って警察呼ばれたんでしょ?>

 

<あぁ。だが、結局警官は俺を連行しなかった>

<だからなんなのさ>

 

 

 こんなにも簡単で極めて常識的な法律知識すらない人間を弥堂は軽蔑する。

 

 

<いいか? 痴漢で逮捕されなかった――それはつまり、俺が痴漢でないということが証明され、また警察という国家組織がそれを保証したことになる。そんなこともわからないのか?>

 

<……それって、捕まらなきゃ何やってもいいって考えてるって聞こえるんだけど……。うわぁ、犯罪者ってやっぱこうなんだ……、きっしょ……>

 

 

 しかし、相手からはそれ以上の強い軽蔑の念が返ってきた。

 

 

<大体キミさ……>

 

 

 そしてつらつらとコンプライアンスについてのダメ出しと、人としての最低限のマナーについてのレクチャーが始まる。

 

 弥堂はおかしいなと首を動かしそうになって自制した。

 

 

 自分をハメたヤツを糾弾してやるつもりで始めた会話だったのに、何故自分が説教をされなければならないのだろうか――

 

 

 そんな疑問を抱えながら今しばらく頭の中を埋めようとしてくる幻聴を聴き流した。

 

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