俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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2章24 木馬の胎の蟲 ⑦

 

 ポートパークホテル15F。

 

 

 この階には貸会議室があり、そこがこの建物内における“G.H.O.S.T(ゴースト)”の本部となっている。

 

 広めの会議室にオペレーターや機材が詰めており、その隣の小さな部屋が指揮官であるジャスティン・ミラーの執務室となっているようだ。

 

 その執務室で面談という名の尋問が行われている。

 

 

 尋問の目的は当然スパイの洗い出しだ。

 

 

 彼らがアメリカからこの日本の美景市に来るまでもそうだが、それよりも以前から“賢者の石(アムリタ)”周りではスパイに悩まされてきた。

 

 道中では実際に襲撃も受けている。

 

 

 彼らは今日と明日をこのホテルで過ごすことになる。

 

 その為にホテルを半ば占拠するような強引な工作まで行い、関係者以外の全ての人間をホテルから追い出した。

 

 

 だが、この美景に来てから補充した人員もいるし、最低限の人数ではあるがホテルの従業員もいる。

 

 既に何名かはスパイを検挙したようだが、元の人員の中にも裏切者はまだいるかも知れない。

 

 ここで捜査の手を緩める理由などないのだ。

 

 

 だが、その居るかどうかわからないスパイの存在は確実に彼らのリソースを削っている。

 

 彼らは身内に潜むスパイを暴くためにここに来ているのではなく、福市博士と“賢者の石(アムリタ)”を護衛するために編成された部隊なのだから。

 

 

 緩める理由がない。

 

 それは、止めることが許されないという意味とイコールだ。

 

 

 執務室前の廊下に並べられたパイプ椅子に座って、弥堂は自分が呼ばれる順番を待っている。

 

 弥堂よりも部屋に近い位置にまだ2人の隊員が座っていた。

 

 20Fからここまで一緒に来た博士の護衛チームのメンバーだ。

 

 

 弥堂たちがここに着いた時には他のチームの者たちが尋問をされていた。

 

 十数分待ってそれが終わり、弥堂たちの組の番となっている。

 

 弥堂よりも先に隊員たちが尋問を受けるようだ。

 

 

 それは弥堂の優先順位が高くないということになる。

 

 博士のすぐ傍に付くメンバーなので、シロかクロかを洗い直す優先度が高いのもあるだろう。

 

 

 だが、外様である弥堂が後回しにされるのは弥堂自身の潔白性ではなく、日本の清祓課と佐藤の信用からくるものだと考えるのが無難だ。

 

 本当の信用と潔白は、この後の直接尋問で、自ら勝ち取るしかない。

 

 

 待ち時間が十数分から数十分に表現が変わろうかという時、執務室のドアが開く。

 

 今しがた尋問を受けていた隊員が出てきた。

 

 

 その隊員は憮然とした顏で弥堂たちの前を通り過ぎ、持ち場へと帰っていく。

 

 

「…………」

 

 

 その顔を弥堂はジッと視た。

 

 

 尋問を受けて不快になるのはシロである可能性が高い。

 

 自分の献身と潔白を疑われたことへの不快感がそこにはある。

 

 

 逆にクロであれば、尋問が終わった直後に浮かべる感情はまず安堵だ。

 

 怒りは少し落ち着き余裕を取り戻した後からくる。

 

 

 これだけで完璧な判断が下せるほどの基準ではないが、弥堂は通り過ぎた隊員の“魂の設計図(アニマグラム)”を視ながら、『こいつはシロだろうな』と分別した。

 

 

 スパイでない者からしたら、自身がスパイだと疑われることには当然強いストレスを感じる。

 

 こういった大規模なスパイ捜しが行われることで、ナーバスになるのはスパイだけではない。

 

 この時間が続けば続くほどに確実に全員が泥沼に引き込まれていく。

 

 

 誰が敵かわからない疑心暗鬼。

 

 敵も味方も等しく疲弊していく。

 

 

 だが――

 

 

(ぬるいな)

 

 

 弥堂は脳裏でそう独り言ちた。

 

 

 先程は戦場に――戦争に帰ってきたと感じたが、これではまだぬるい。

 

 そんな不足を感じた。

 

 

 スパイでない者がスパイであることを疑われて不快感を露わにする――

 

 それは当然の心理だと謂ったが、それではぬるいのだ。

 

 

 もしも尋問をするのが自分なら――

 

 終わった後でそんなナメたツラが出来ないほどに、シロもクロももっと追い詰めてやるのに――と。

 

 

 もっと全員が全員にギスギスとピリつき、もっとどうしようもないような混沌になればいいのにと――そんな風に苛立つ。

 

 

 だが、仕方の無い部分もあるかとも思う。

 

 

 同じ戦争ではあっても、こちらの世界は異世界(あちら)とは違って文字通りの“何でもあり”ではない。

 

 それはこちらの方がより人類社会、国際社会的に成熟しているからだろう。

 

 

 過去の凄惨な戦争から大量破壊兵器の使用には制限があるし、拷問などの非人道的な行いも基本的には許されていない。

 

 それをやったことが他国にバレると正当性を確保されて強請られるからだ。

 

 その仕組みの上で互いに監視し合うことにより、一線を越える者が出ないように自制している。

 

 

 当然、他人の目に見えない場所では話は別だろうが。

 

 少なくとも日本、アメリカ、そして他国に雇われた鉄砲玉の混在するこの戦場は、完全に人目につかない場所ではないということなのだろう。

 

 

(面倒な世界だな。効率が悪い)

 

 

 そんな愚痴を溢してから、弥堂は思考を投げ捨てることにした。

 

 考えても仕方がないし、自分のやることも変わらない。

 

 それに今できるのは、自分の順番が回ってくるのを待つことだけで、考えたところで意味がないからだ。

 

 

 そんな風に弥堂は切り替えて表情を固定させた。

 

 暇なのでハリネズミについて思いを巡らせようとする。

 

 しかし、その時――

 

 

<――ねぇ?>

 

 

――ウェアキャットにテレパシーで声をかけられた。

 

 

<なんだ?>

 

<今なに考えてる?>

 

<あ?>

 

 

 質問内容の意図が分からずに弥堂は眉を顰める。

 

 

<や。大人しいから。なんか悪いこと考えてんのかなーって>

<そんなわけないだろう>

 

<じゃあ、なに考えてたの?>

<ハリネズミについて考えていた>

 

<そんなわけないでしょ?>

<ある>

 

<こんな状況でハリネズミがなんだっつーの?>

<別に。ただ、あいつらどうやって交尾すんだろうなと不思議に思ってな>

 

<…………>

 

 

 隣のビルの屋上でウェアキャットは胡乱な瞳になる。

 

 はぐらかす為に適当なことを言っている可能性もあるし、この男ならワンチャンマジでそんなことを真剣に考えている可能性もある。

 

 

<……なんで?>

<なにが?>

 

<なんで今そんなこと考えてんの?>

<別に? 暇だから適当に思いついたことを考えてた>

 

<あっそ……>

 

 

 その言葉も嘘か本当かわからない。

 

 真剣に考えると自分が病んでしまいそうだったので、ウェアキャットはとりあえず不問にしてあげることにした。

 

 

<キミさ、緊張とかしないの?>

 

<緊張? 何故?>

 

<いや、だって。他の隊員さんたちも緊張してんじゃん>

 

 

 次の順番の者がちょうどドアをノックして部屋に入って行く。

 

 その顏にはウェアキャットの言う通り緊張が浮かんでいた。

 

 

<別に。尋問されるくらい大したことじゃないだろ>

<結構大したことだと思うけどなぁ……>

 

<そもそも、さっきも言ったが俺はスパイじゃない。尋問を恐れる理由がない>

<それでもさ、あるじゃん? 本当は潔白だけどスパイだって認定されちゃうとか。キミめっちゃ疑わしいもん>

 

<そうなったらそうなったで考えればいい。大したことじゃない>

<うーん……、頼もしいような余計不安なような……>

 

 

 なにやら煮え切らないウェアキャットに弥堂はイライラしてくる。

 

 

<なんだ? さっきからお前は何が言いたいんだ>

 

<何ってこともないんだけど、言った通りだよ。キミは緊張しないのかなって。さっきもフツーに寝てたしさ>

 

<面倒だな。ハッキリ言え。緊張してるのはお前の方だろ?>

 

 

 弥堂は端的に切りこんだ。

 

 すると、

 

 

<……うん。実はちょっと緊張してる>

 

<…………>

 

 

 少し意外だったが、ウェアキャットはそれを素直に認めた。

 

 弥堂は表情を固定して訊ねる。

 

 

<何に緊張する必要がある?>

 

<だって、人の生命がかかってるじゃん。いっぱい。どんな凶悪犯がいつ攻めてくるかもわかんないわけじゃん? 銃で武装してたり能力者も居たり。それをコワイって思わないの?>

 

 

 弥堂はその答えを、何かの揺さぶりやカマかけではなく、言葉どおりの懸念なのだと受け取ることにした。

 

 

<それらの何を恐れる?>

<なにって……。全然怖くないの? さっきもそうだったけど、銃を向けられても反応すらしないし>

 

<銃なんてただの道具だろ>

<そうかもしんないけど……>

 

<道具を凶器に変えるのは人の悪意や殺意だ>

<…………>

 

<もしも恐れ、警戒すべきものがあるのなら。それはいつだって人間だ>

<……そっか>

 

 

 ウェアキャットは少し考えるように間を空けて、それからまた問いを重ねてくる。

 

 

<じゃあさ。自分が失敗したら人が死んじゃうかもとかは、恐くない?>

 

 

 弥堂は話の内容自体には興味がなかったが、相手の情報を引き出せそうなので今しばし付き合うことにした。

 

 

<確かに失敗したら報酬が減るだろうが、それにビビる必要なんてあるか?>

<いや、お金のことじゃなくって、もっとさ……>

 

<それも恐れる必要などない>

<……どうして?>

 

<意味がないからだ>

 

 

 戦場を前に迷いを浮かべる子供に、弥堂は強く言い切る。

 

 

<人は必ず死ぬ――>

<え……>

 

<今日死のうが、今日を越えた何時かで死のうが――それは全部同じことだろ。既に決まっていて覆せないことをいちいち考える意味はない>

<そ、そんなの……>

 

 

 ウェアキャットは続きの言葉が出てこなかった。

 

 言ってることだけなら、ただの捻くれ者の屁理屈だとも思える。

 

 だけど、彼が今口にしたその言葉には今までに無いような重みがあった。

 

 

 そんな気がして――

 

 

 そして、自分の裡には、その重みを引っ繰り返せるほどのモノが何もないような気がした。

 

 

<生きているのなら死ぬ。必ずだ。そして、死ぬのなら殺せる。だから、生きているのなら殺せる。どんなモノだって――>

 

 

 黙っていると尚も重ねられる。

 

 重みはさらに増す。

 

 

<それなら、敵も味方も――何一つ死を畏れることなどない>

 

<…………>

 

 

 息を呑んだ。

 

 

 いつも通りの抑揚の少ない低い声。

 

 その音が思念により頭の中で反響する。

 

 

 何かカチッと――パズルが嵌るような音とともに――

 

 答えに届くような――

 

 どこか腑に落ちるような――

 

 

――そんな感覚があった。

 

 

 彼の言った言葉の意味も、その正確な重量も、わからないけれど。

 

 

 それでも――

 

 

『生きてるのなら殺せる』

 

 

――これが彼という人間の奥底から天辺まで聳え立つ、一本の芯のようなものなのだと。

 

 

 そうに違いないと、ウェアキャットは感じとった。

 

 

 それに感銘を受けたわけではなく。

 

 それではいけないと――

 

 何かを言わなければならないと――

 

 強く、そんな気がする。

 

 

 そうしてどうにか言葉を探そうと考えた時――

 

 

<――お前童貞だろ?>

 

<はぁ……っ⁉>

 

 

 それを見事に吹き飛ばすようなことを言われて、ウェアキャットはビックリ仰天した。

 

 

<い、今、そんな話してなかっただろ⁉ なんで急にそんなこと……>

<あ? 人間同士で生命の殺り獲りをするような戦場は初めてだろって言ってるんだ>

 

<な、なに?>

<一つコツを教えてやる。生き残るための>

 

<コツ……?>

 

 

 どうも自分が考えたような意味のことではなかったようだが、それでもまた違う方向に考えを吹き飛ばされることになる。

 

 

<それは――諦めろ>

 

<え……?>

 

<自分も他人も。全ての生命を諦めろ>

 

<ど、どういう……>

 

<最初に全部諦めておけば、何も恐れるものなどなくなる>

 

 

 そんなわけにはいかない。

 

 それが当たり前のはずなのに、ウェアキャットは何故だか言葉が出てこない。

 

 当たり前の道徳や法律、慣習などではなく。

 

 やはり自身の裡にそれが無い。

 

 

<そ、それじゃ、なんのために……>

 

<知るか。戦うことは手段だ。お前の目的など俺は知らない>

 

<そ、それは……。でも、ボクは、心配で……。博士も、キミも……>

 

<初心者が思い上がるな。まずは自分の面倒を見ろ。他人のことを考えるのはそれからだ>

 

 

 どこか本質から離れた地点で二人は言葉を交わす。

 

 

<ちなみに。今言った『諦めろ』は初心者用だそうだ。俺も最近知った>

<…………>

 

<中級者になったらその先を教えてやる。それには今日の戦場で最低限自分を生き残らせることだな>

<……敵は来ると思う? ここを攻めるのは結構無茶だと思うんだけど>

 

<今言っただろ。戦うこと。死ぬことは手段だ。そうしなければ目的を達成できないのなら、死んでも攻めるしかないだろ>

<死ぬのが手段だなんて……>

 

<何を言ってる。俺もお前もそうだぞ?>

<え――>

 

 

 驚きを浮かべるウェアキャットに、弥堂はあくまで当たり前のことのように告げる。

 

 

<今日ここに居る人間たちは何の為に集められた?>

<なんのためって、それは、博士を守るため……?>

 

<そうだ。俺やお前だけじゃない。“G.H.O.S.T(ゴースト)”も“清祓課”の兵隊たちも、ミラーや佐藤でさえ。なんなら敵もそうだ――>

<…………>

 

<ここに居る全ての生命は福市博士の為に消費される。ここに居る全ての人間は博士のための消耗品だ>

<そ、そんなの……>

 

 

 あまりの言い様にウェアキャットは言葉を失う。

 

 弥堂はそれを鼻で嘲笑った。

 

 

<大袈裟だと思うのは思い違いだ。仕事ってのはそうだろ? 達成したい目的の為に必要だから人を雇う。雇われた人間は必ずそれを達成する。死んでも、だ。仕事を受けたのなら、目的の為に死ぬ必要がある>

<生命を懸ける……ってこと?>

 

<まぁ、そうだが、そうじゃない>

<どういうこと?>

 

<生命は常に懸かっている。仕事をしていても、いなくても。いつ何時も。何処に居ても、何をしていても失われるものだ。わざわざ懸けようとするものじゃない。生まれた時からずっと勝手に懸かっていて、そして常に減っている>

<…………>

 

<だから、あらゆる手段を行う。それで運がよければ生き残るし、悪ければ死ぬ。『世界』が俺たちをそうしている限り、そうでしかない>

 

 

 ウェアキャットはやはり共感も納得も出来なかった。

 

 ただ、彼はそうなのだということ――それだけが強く理解出来た。

 

 

<別に無理に頷かなくてもいいぞ。お前を案じてアドバイスをしているわけじゃない>

<オマエがどうなろうが知ったことじゃない、って?>

 

<あぁ>

<ハッキリ言うね……。頷けはしないけど……、でも、ちゃんと考えるよ>

 

<恐いのなら今からでも下りればいい。それが無理だとしても、事が起きてから逃げればいい。それが出来るのがお前の立ち位置だ>

<…………>

 

 

 突き放すような弥堂の物言いにウェアキャットは少し黙り、しかし今度は強い意思を持って言葉を返した。

 

 

<……逃げないよ>

<そうか>

 

<キミはそうかもしんないけど、ボクはみんなを案じてる。みんな無事で済めばいいって>

<そうか>

 

<それに、勘違いしないで。敵にビビってるわけじゃない。ボクはそんなのはコワくない>

<…………>

 

 

 今度は弥堂が沈黙する。

 

 相手の言葉に胸を打たれたわけでは決してなく、掴めないその意図からただ真意を探った。

 

 

<でも、キミが言ってくれたことはちゃんと考えるよ。ありがとう>

 

<別に>

 

 

 少しだけ苦笑いをしながらウェアキャットはそう言う。

 

 しかし、弥堂は――

 

 

(こいつ、まさかこんな調子でずっと話しかけてくるんじゃねえだろうな……)

 

 

――暇つぶしに話に付き合ってみたが、少々鬱陶しさを感じていた。

 

 

 そろそろ煩わしくなってきたので、追い払うことにする。

 

 

<それより――>

<ん?>

 

<お前そろそろ引っ込んどいた方がいいんじゃないか?>

<え?>

 

<これからおかしな能力で俺の頭を覗かれるかもしれないんだ。お前と繋がってることがバレるかもしれないぞ>

<あ――>

 

 

 それは嘘でも本当でもない。

 

 実際にどうなるかはやってみなければわからないが、メロと魔法で念話を繋げたままウェアキャットのテレパシーを繋ぐと、こちらの存在がバレるかもしれないとエアリスが言っていた。

 

 だからミラー指揮官のサイコメトリーとウェアキャットのテレパシーでも同様の可能性はある。

 

 

<見つかったらまぁ、怒られはしないかもしれないが、その能力を気に入られてスカウトされるかもしれないな>

 

<うわ。じゃあ一旦ひっこんどくね。終わったらまた。じゃね――>

 

 

 仄めかすとウェアキャットは見事な引き際で退散していった。

 

 

(さて……)

 

 

 弥堂は今の会話でわかったことを少し整理することする。

 

 

 メロとの念話の時と同様に、何か線のようなものが切れた感覚がする。

 

 これをいつでも好きに繋ぎ直せるということだろう。

 

 それもメロとの念話でも同じことだが、あれには使い魔の契約の魔術がベースにある。

 

 

 ウェアキャットからテレパシーを繋げられる際に、ごく僅かに魔眼を使って魔力と魔素の流れだけは視ていた。

 

 だが、それらしい動きはなかった。

 

 つまり、ウェアキャットのテレパシーは魔術ではないということになる。

 

 

 それでも、起きている現象はメロの魔法と酷似している。

 

 使っているのは、異能――おそらく“加護(ライセンス)”なのだろう。

 

 だが、魔術的に似た状態にはあるのだと思う。

 

 

 魔法の念話と、異能のテレパシー。

 

 異能のテレパシーと異能のサイコメトリー。

 

 これらはそれぞれ競合する可能性がある。

 

 

 しかし、魔法の視界共有と異能のテレパシーでは問題ない。

 

 それなら、きっと今もウェアキャットにも見られているのだろう。

 

 当然、エアリスとメロも今の弥堂を見ていることになる。

 

 

 通信系と監視系でどんな違いがあるのか。

 

 そこに明確な理があるとは弥堂には思えなかった。

 

 何か不具合というか、理屈の破綻が起きているような気がする。

 

 

 それでも現象として成立しているということは、『世界』がそれを許しているということだ。

 

 それは何故か――

 

 

 そこに疑問を持つ。

 

 だが、考えても今この場で解き明かすのは不可能だろう。

 

 ただ現在発覚している事実だけは覚えておく。

 

 

 それともう一点――

 

 

 ウェアキャットは、“G.H.O.S.T(ゴースト)”からのスカウトを望まない。

 

 

 ウラの仕事をしている異能力者だが、清祓課と関わるのも恐らく今回が初めて。

 

 

 最初は金の為だと受け取れるようなことを言っていた。

 

 

 しかし、より大きな報酬の望めそうなアメリカとの伝手を必要としない。

 

 

 それどころか、深く関わり合いにはなりたくなさそうな態度。

 

 

(ふん……)

 

 

 結論は出さないでおいた。

 

 

 実際どうであれ、弥堂には関係ないからだ。

 

 

 弥堂のやることは何も変わらない。

 

 

 言葉を交わして連絡をとれずとも、現状がエアリスには見えている。

 

 それは異世界に居た時と同じ状況だ。

 

 それなら、彼女なら合わせるだろう。

 

 

 やはりやることは変わらない。

 

 心の置き処はずっと一緒だ。

 

 

 それなら考えるべきは、ミラーのサイコメトリーへの対応だ。

 

 未知の能力なので実際にやられてみなければわからないが、対抗手段はすでに思いついている。

 

 

 それをやって駄目だった時は結局他の手段がないので、やはり考える必要はない。

 

 

 そこまでを決めて、そして弥堂は執務室に呼ばれた。

 

 

 こんなところでスパイと間違われては、この先にある目的を達することは出来ない。

 

 

 だからいつも通り、手段は選ばない。

 

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