俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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2章25 ジャスティン・ミラー ②

 

 離れたミラーの手は、机の上に置いたままの弥堂の手のすぐ傍の位置に戻る。

 

 

 その手と手の距離を視て、弥堂は訊ねた。

 

 

「もういいのか?」

 

「えぇ」

 

 

 ミラーは余裕のある微笑みを浮かべながら肯定する。

 

 

「今のでスパイかどうかわかったのか?」

 

 

 だが、続いたその問いへの答えには少しだけ苦笑いが混ざった。

 

 

「そうね……。初見での正答率は60%ちょっと――というのが正直なところかしら」

 

「へぇ。俺の潔白は何%なんだ?」

 

「50%&50%かしらね」

 

 

 ジッと窺うような目が弥堂の顏を覗く。

 

 

「ただ、それはサイコメトリーの結果だけの話よ。アナタの場合は残りの50%は他が埋めてくれる」

 

「他?」

 

「清祓課と郭宮(クルワミヤ)よ」

 

 

 ミラーの口から出た郭宮の名前を聞いて、弥堂は手と手の隙間を意識した。

 

 

「身元が保証されているということか」

 

「そうね。オモテではアメリカの権威が勝るけれど、ウラではクルワミヤの名前は偉大よ。他国のワタシたちも敬意を払います」

 

「そうか。それは参ったな」

 

「あら? なにかあるの?」

 

 

 意図的に目を大きく開きながら、ミラーは机に置いたままだった手を弥堂の手に触れさせる。

 

 弥堂はそれを意識しないように答えた。

 

 

「実は郭宮にG.W中に働けと言われて断ったんだ。用事があるからと」

 

「あら大変ね。こっちでアルバイトしているのがバレてしまったわ」

 

「次に会うのが気まずいよ」

 

「フフフ」

 

 

 ミラーの手が離れる。

 

 

「しかし、それを言ってもよかったのか?」

「アナタの仕事ぶりのこと?」

 

「違う。サイコメトリーは完全ではないということをだ」

「あぁ、そのことね。問題ないわ。だって同じことだもの」

 

「同じ……? そうか、どっちみち尋問を継続して何度も行うのは変わらないからか」

「えぇ、正解よ。素早い思考だわ」

 

「スパイが見つかるまで。仕事が終わるまで。尋問は重ねられる」

「そう。その度にこっちの正答率は上がっていく」

 

 

 満足げな笑みを浮かべるミラーの顔を見ながら弥堂は考える。

 

 

 ミラーの異能力であるサイコメトリーについてわかったこと。

 

 

 先程一度やられてみてわかったが、彼女の能力は相手の思考を直接読めるものではない。

 

 それは、思考によって頭の中で言語化された言葉が聴こえるわけではないという意味だ。

 

 

 弥堂にはこの現象に覚えがある。

 

 

 これは悪魔と同じ能力だ。

 

 

 悪魔は生物の感情の動きを観測出来る。

 

 その感情の動きを“不要な栄養(リュクス・アーモンド)”として摂取するのだから、それは出来て当然だ。

 

 

 メロも、ボラフも、アスも――その他の“劣等悪魔(レッサーデーモン)”たちですらそうだった。

 

 

 ミラーのサイコメトリーは、その悪魔たちの感情を観測する感知能力の恐らく劣化品だ。

 

 そして、弥堂が異世界で受けた尋問の魔術とも酷似している。

 

 だから今回は、その尋問魔術への対策が偶然にも見事にハマった形だ。

 

 

(運がいいぜ)

 

 

 どうやら自分の立っている場所は生き残れる道へとまだ繋がっているようだと考える。

 

 

 ともあれ、サイコメトリーの正体は他人の感情への察知能力を強化したようなものであった。

 

 この判断で恐らく間違いはない。

 

 

「ワタシのサイコメトリーは嘘発見器の延長上にあるようなモノよ」

 

「なるほどな……」

 

 

 それは実際にその通りなのだろう。

 

 

 要はサイコメトリーによる尋問とは。

 

 特定の質問を行い、それに対する反応で相手が頭に浮かべたものを映像として観測し、その結果一発で真実を見破る――といったものではなく。

 

 

 様々な質問を行い、それに対する反応として発生した感情の挙動から、どの質問がクリティカルだったのかと見当を付けるのだろう。

 

 そして、そのクリティカルな内容について繰り返し質問を行い、またそれに対して発生する反応から証言に穴を見つける。

 

 その都度の感情の変化を観察しながら。

 

 

 それは通常の尋問と基本的には変わらないものだ。

 

 だが、身体の生理的反応を観測する嘘発見器と合わせて、このサイコメトリーで心理的な反応まで監視されながら尋問をされたら、普通の人間では逃れるのは難しいかもしれない。

 

 

 一発で致命を与えるものではない。

 

 しかし、何度も尋問を行える環境下でなら有用な能力だ。

 

 

 この能力は、それ単体で絶大な効果を発揮するものではない。

 

 質問の仕方、返ってきた答えに対する判断にも経験と技術と情報処理能力が必要とされる。

 

 それを使って初見で6割を沈めるのならば、このジャスティン・ミラーという人物は人間的な能力でも優秀であり、相まって有能な“異能力者(ギフテッド)”だと評価するべきだろう。

 

 

(だが、“神意執行者(ディードパニッシャー)”と呼べるレベルには到底ない)

 

 

 それもまた運がよかったと弥堂は考えた。

 

 それは、今回は運がよかっただけであり、彼女はまだ十分に脅威であるという意味だ。

 

 

 対策があるとはいえ、サイコメトリーは弥堂にとっても厄介なものだと感じる。

 

 とはいえ、弥堂自身も尋問を行うことがよくあるが、ミラーの能力をそう評価はしてもその能力が欲しいとは全く思わなかった。

 

 

 何故なら、弥堂式の尋問術では、尋問が開始された時には既に相手を有罪にすることが決まっているからだった。

 

 

 まず、誰かを有罪にする必要が生まれ――

 

――だから、誰かを有罪にすると決める。

 

 時には有罪にする相手は誰でもいいということもある。

 

 

 事実や真実がどうであれ、相手が「やった」と言うまで精神的にも肉体的にもありとあらゆる苦痛を与え続けるのだ。

 

 うっかりミスって途中で殺してしまうこともあるが、そうでもなければ相手が『自白』をするまでは絶対に解放をしない。

 

 

 なので、弥堂式にはサイコメトリーなど必要ないのだ。

 

 なんなら無い方がいいまである。

 

 本当はやっていない人が「やった」と言った時に、それが嘘だとバレてしまうからだ。

 

 それは非常に都合が悪くなる。

 

 

 よって、弥堂は彼女の異能力を便利だとは思うが、羨ましいとは全く思わない。

 

 それには以上の理由だけでなく――

 

 

「――なるほど。これは嫌われる能力だな」

 

 

 ポツリと溢した弥堂の声に反応してミラーの手が僅かに動く。

 

 

(素人め)

 

 

 人は――

 

 自分がいつも一方的に他者に対して行っていることを、いざ自分に向けられた時に、それに対して酷く脆弱な反応を見せることが多い。

 

 特にそれが特別な能力によって、自分にだけ許されていると思い込んでいることだと、特に。

 

 

 この能力はそれの餌食となるスパイからだけでなく、味方からも忌み嫌われる。

 

 一度で自身の潔白が証明されないからだ。

 

 

「……そうね。でも、仕方がないわ。これがワタシのチカラで、そして役目だもの」

 

 

 ミラーは否定しない。

 

 少し弱弱しく見える苦い笑みを浮かべて――

 

 

――そして弥堂の手の近くにあった自分の手を引き戻した。

 

 

 彼女のその手を弥堂の手が追う。

 

 

「――え……?」

 

 

 離そうとした手を逆に弥堂に握られてしまい、ミラーは驚く。

 

 

 ここまで指揮官然として毅然な態度をとっていた彼女らしくなく、パチパチとまばたきをして少し幼げな表情をする。

 

 彼女は握られた手をジッと見つめた。

 

 それも2秒ほど。

 

 弥堂へ視線を向けて小首を傾げた。

 

 

「えっと……? 浮気を疑われたばかりなのに、よくないわよ?」

 

「そんなんじゃない。言ったろ? 仕事相手としてだけ見れるからアンタは信頼できると」

 

「本気で言ってるの?」

 

「それはアンタが能力で読んでくれ」

 

「え?」

 

「俺の言葉の真実は、アンタが証明してくれ」

 

 

 ジッと真っ直ぐに目を見つめられながら能力の使用を求められ、ミラーは戸惑う。

 

 

「……ウソじゃ、ないわね」

 

「そうか」

 

 

 弥堂はどうということもない態度で肩を竦める。

 

 そしてミラーの後ろの女性へ顔を向けた。

 

 

「聞いたか? セクハラじゃないとしっかり記録しておいてくれよ、エマ」

 

「フフフ。任せて。アナタの無実はちゃんと私が証言してあげるわ」

 

「ちょっと、エマ?」

 

 

 面白がってジョークに乗っかる秘書官に、ミラーは抗議の目を向けるために振り返る。

 

 エマは悪びれることなくおどけてみせる。

 

 

「いいじゃないジャスティン。銃で武装してる男たちに囲まれながらこんなことが出来る男の子なんて中々いないわよ? アナタも年上の女性として余裕を見せるべきだわ」

 

「……こんなことする人を見たことがないという点には同意するわ」

 

 

 武装してる男たちに~云々というだけでなく――

 

 自分から『サイコメトリーを使ってみろ』と迫ってくる人間に出会ったことも、ミラーには初めてのことだった。

 

 

 これには冷静な彼女も少々頭を混乱させてしまう。

 

 それを悟らせぬように、余裕のある笑みを表情に造った。

 

 

「もしかして慰めてくれているのかしら?」

 

 

 弥堂はいつも通り――

 

 心中に動じるものはなく、外から受けるものに新たな刺激はない。

 

 

「さぁ? どう思う? それも読んでみてくれよ」

 

「どうやら今度がワタシが尋問を受ける番のようね」

 

「フェアだろ?」

 

「そうね。その方がフェアね。いいわ。付き合ってあげる」

 

 

 それは言葉どおりの意味だ。

 

 だが、どこか対抗心のようなものがあるのもミラーは自覚していた。

 

 泰然とした態度で、しかしながら挑戦的な眼差しで弥堂を見る。

 

 

「サイコメトリーって実際はどういう風に見えるんだ?」

 

「それは次回の対策のため?」

 

「いや、興味本位だ。漫画などでしか知識がなかったからな。そういった創作物の中では――例えば死体に能力を使うと、死の間際に目に映っていた映像が見えるとか――そんな風に表現されていた」

 

「そうね……」

 

 

 ミラーは視線を上げて少し言葉を探した。

 

 

「確かにサイコメトリー能力者の中では、そういう風に見える人もいるそうよ」

 

「サイコメトリーって、そんなに何人も居るのか?」

 

「ワタシが知っている実物は1人だけ――だけどね」

 

「へぇ」

 

 

 コモン。

 

 希少でも強力でもない“加護(ライセンス)”。

 

 本来の意味での【根源を覗く魔眼(ルートヴィジョン)】と同程度のもの。

 

 

「同じサイコメトリーなのに、人によって見え方が違うのか?」

 

「その人は、写真のように見えるそうよ。浮かんだそのイメージを絵に描き起こして共有していたわ」

 

「その言い方だとアンタは違うようだな」

 

「そうね……」

 

 

 ミラーはまた言葉を探すような仕草を見せた。

 

 

「ワタシの場合は、今例に挙げたように、ハッキリとした映像が見えるわけじゃないわ。相手が頭の中で考えていることが、言葉や文章として知覚出来るわけでもない。もっと漠然としているの」

 

「どんな風に?」

 

「ワタシが感じ取れるのは相手の“感情”と“思考”よ」

 

「…………」

 

 

 思った通りだと、思わないようにする。

 

 

「“感情”は“色”で感じるわ。ワタシが感じる“色”のイメージが相手が今浮かべている感情を表している。喜怒哀楽それぞれで受ける色のイメージが変わるの。その色にさらに温度のようなものも感じるわ」

 

「さっき試しに俺を怒らせてみた時はどんな色だった?」

 

「ふふ……」

 

 

 皮肉のようにも受け取れる弥堂のその言葉には、ミラーは悪びれるでも気まずげにするでもなく、満足げな笑みを返した。

 

 その意図に気付いていたことを評価したのだ。

 

 

「アナタは冷たい“蒼”よ。その色がほとんど変わらない。今もそう。小さな蝋燭の火のようで、でも揺れない蒼」

 

「…………」

 

「でも、保護者の女性のことに触れられた時は、その蒼が焔のように膨らんで熱を持った。ワタシはそれに“怒り”を感じたわ」

 

「なるほどな」

 

「でも、その“怒り”はワタシに向けられたモノじゃない。アナタの“怒り”はアナタ自身と。それと多分、彼女を殺した者たちへ少しだけ向いていたわ」

 

「まるで占いでも聞いてる気分になってきたよ。何故それがわかる?」

 

「それが“思考”を読むって部分よ」

 

 

 弥堂は黙ってミラーの顔をジッと視て、次の説明を待った。

 

 

「“思考”は“指向”よ――」

 

「指向……?」

 

 

 意味がわからずに眉を寄せる彼にミラーは頷く。

 

 

「えぇ。“目的”があって、それを叶える――解消しようとする動作が“思考”よ。能動的なものだけじゃなく、反射的にも行われる」

 

「よくわからないな」

 

「そうね……。じゃあ、アナタは今とても喉が渇いているとします――そうすると、『渇き』に対する『苦しみ』と、『渇き』を『満たしたい』という『欲求』の“感情”が湧くわ。その次は、その“感情”を解消することを“思考”するわよね?」

 

「そうだな」

 

 

 弥堂の眼の中の理解の色を読んで、ミラーは続ける。

 

 

「その解決方法は何通りかあるわよね? 今すぐその席を立って、部屋の外に出て洗面所へ行き、水を飲む。または、自動販売機のある場所へ行って、飲料を購入し、それを飲む。或いは、今ワタシの前に置かれているこのカップの中身を、ワタシから譲ってもらう――とか。考えれば他にもいくらでも喉を潤す為の手段は出てくるわよね?」

 

「そうだな」

 

「それらの解決方法――手段の在る場所はそれぞれ違う。色んな場所に在る。どれを選ぶかによって、アナタの向かう先は変わる」

 

「それが“指向”?」

 

「そう。どの解決手段――どんな行動を考えているかによって、“思考”の向く先が変わる。“指向”が異なる。その“指向性”をワタシは感じとることが出来る」

 

「へぇ、それはすごいな。例えば?」

 

 

 興味を強めて弥堂はさらに訊ねる。

 

 

「例えば、アナタがワタシのコーヒーで『渇き』を癒すことを選んだとするわ。その時に、アナタに『苦しみ』『嘆き』『悲しみ』などの“感情の色”が見えたとします。さらに、その“感情”はワタシに“指向”している。さぁ――その場合、アナタは一体どんな行動をとるでしょうか?」

 

「コーヒーを恵んでくれと懇願する」

 

「そうね。でも、今度は『怒り』や『悪意』に『害意』などの“感情”がワタシに向けられている場合は?」

 

「強奪をする」

 

「正解よ。“感情の色”と“思考の指向性”から、そうやって相手の行動を読み取る。これがワタシのサイコメトリー能力よ」

 

「なるほど。よくわかったよ。“異能(ギフト)”だけじゃなくて、アンタ自身の優秀さと合わさって完成しているのか」

 

「あら、お世辞?」

 

「どうかな。自分でもわからないから、読んでキミが教えてくれ」

 

「フフフ……」

 

 

 目元を緩めて笑うミラーを視ながら、弥堂は少し考えを修正する。

 

 

 ミラーの能力は大体見立て通りではあった。

 

 だが、思っていたよりも厄介だったと評価を上げる。

 

 

 メロのようなバカネコには、いくら感情を読まれたとしても、彼女の自身の情報処理能力が低いから大して問題はない。

 

 だが、ミラーは違う。

 

 

 異能とは別の、ミラー自身の知性などの他の能力が優秀なこともあり、彼女にあまり情報を与えすぎるのはよくないと、弥堂は判断した。

 

 

「人はまず“感情”が起因となって、それを解消する為の『目的』を定める。その間を繋ぐのは“思考”よ」

 

「…………」

 

「急な出来事に驚いて、『どうしようどうしよう』と慌てている時でさえ思考よ。解決方法が見いだせていないからまだ何処にも向かわずにグルグルと回っているだけで、感情はもう解消を求めている」

 

「混沌か」

 

「カオス? ちょっと意味が違うような気もするけど、似たようなものかもしれないわね。混沌と闇は恐ろしいもの。人は解消を求めて光へと向かうわ」

 

 

 だからこっちはやりやすい――そんな感情と思考を紐づけないように。

 

 余計な思考は何処にも向かないように、ただ己の中に沈める。

 

 解消されない感情は泥のように溜まってやがて渇き、バラバラに崩れていく。

 

 思いを叶えることを諦めれば、次々に生まれるそれらをいちいち解消する必要などない。

 

 目的はいつも常に一つだけ。

 

 

「感情が色づき、目的がカタチになる。それが終われば次。また次。次……。時には同時にいくつか。永遠にそれが繰り返される。“思考”が出来なくなる日まで……」

 

 

 弥堂は【領域解放(ゾーンブレイク)】の刻印を使おうと考えて、止める。

 

 今、ミラーの意識が自分に向いていないことがわかったからだ。

 

 

「……それが人の生で、ワタシはそれらが描かれるキャンパスに土足で踏み込むの。靴底に付いていた泥で他人の心を汚す。汚れていく様がワタシには見えるの。そして、それを解消する為の思考がワタシに向くところも見える……」

 

(あぁ。俺にも汚れがよく見えているよ)

 

 

 心中でそう唱えて、別のことを口にする。

 

 

「自分の能力が好きじゃないのか?」

 

「――好きよ」

 

 

 ミラーは即答する。

 

 弥堂が言い終わるよりも早く。

 

 少し語気が強く。

 

 言い切った。

 

 

(嘘だな――)

 

 

 弥堂はそう読みとった。

 

 そして思っていないだけの言葉を発音する。

 

 

「そうか」

 

「でも、他人には嫌がられるわよね。当然だわ。さっきアナタが言ったとおりよ。別にこんな尋問のカタチをとらなくても。やろうと思えば日常の中でもいつでも覗けてしまう。ワタシが否定しても、誓っても、その可能性は常に付き纏う」

 

「それを嫌がるヤツは疚しいことがあるんだろう。スパイのレッテルを貼って拷問部屋にぶちこんでやれよ」

 

「ふふ、我々“G.H.O.S.T(ゴースト)”はそんな非人道的な施設は所有していないわ。でも、やろうと思えば出来ちゃうかもね。今ならそれが可能だけれど、学生の時は他人から避けられちゃってたわ」

 

 

 ミラーの口から出た新しい情報に、弥堂は反応する。

 

 

「異能を明かして学生をしていたのか?」

 

「えぇ。とはいっても、オカルト専門の学校だけどね」

 

「そんな学校があるのか?」

 

「あら。知らなかったの?」

 

 

 ミラーの方も目を丸くする。

 

 

「魔術師だっていうから知っているものだと思い込んでたわ」

 

「戦場暮らしのハグレ者だったからな」

 

「イギリスにある魔術学校に留学していたのよ。日本で陰陽術を学んだこともあったわ」

 

「へぇ、俺には遠い話のように聴こえるよ」

 

 

 あまり関心のなさそうな相槌をしながら弥堂は内心で訝しむ。

 

 この世界の魔術の廃れ具合から想像がつかなかったからだ。

 

 

「だが興味深い話だな。ということは、俺は名実ともにモグリの魔術師ということになるのか」

 

「本当に知らないみたいね。いいわ。少し教えてあげる」

 

 

 ミラーはそう言葉を置いて間を作る。

 

 彼女自身はそれを半ば言い訳のようにも自覚していた。

 

 

 弥堂の手の中から自身の片手を抜き、マグカップを掴む。

 

 唇に当ててカップを傾けて、ジャスティーヌ・ミラーは『渇き』を解消した。

 

 その“指向性”を悟られぬよう願いながら、戻した手は弥堂の手の上に重ねた。

 

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