恐るべき【パンスト魔術】が猛威を奮い、パンスト卿は優勢に立つ。
対して、ゲロモンは地団太を踏んで怒りを表現した。
ゲロモンは再び腕を振り、左右の手にジャキンっと刃を出す。
そしてダッと地を蹴って伯爵へ突撃した。
また近接戦を挑むつもりだ。
「品がないねェ」
レディを荒事に巻き込んではいけないと、伯爵も前に出て応戦する。
あっという間に両者の距離が縮まると、ゲロモンは激しく二刀を振るった。
ゲロモンサーベルだ!
これは市の福祉課とのコラボ企画で、高齢化著しい農家のみなさんの収穫をお手伝いした時に編み出された必殺技である。
作物どころかニンゲンの骨まで簡単に断ちそうな肉厚の刃が老紳士に襲いかかった。
伯爵は鼻で嘲笑いつつ、右手の袖口からパンストを伸ばす。
「むん――っ!」
そしてそのパンストに自らの魔力を注ぎ込んだ。
魔力こめて作られた糸で編まれた伯爵印のパンティストッキングは魔力伝達効率が極めて高い。
パンスト素材はみるみる内に硬質化し、刃渡り80㎝ほどの剣と為る。
伯爵はその剣を使い、ゲロモンサーベルの刃を受け止め捌いていった。
ゲロモンは当てが外れた格好になる。
相手は魔術師なので近接戦なら与し易い――
「――とでも思ったかね?」
――ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて、伯爵は見事な剣使いを披露する。
洗練された体捌きと太刀筋がゲロモンの二刀サーベルを押し返していった。
「確かにワタシは魔術師ではあるが、貴族でもある。嫡子たる者、剣術も一流であるのは当然のこと」
ゲロモンはその目に混乱を浮かべながら必死に二刀を振る。
しかし――
「――ハァッ!」
伯爵の気合いの剣閃が一太刀でゲロモンの二刀を半ばから切り裂いた。
ゲロモンは驚愕から反射的にバックステップを踏んで、大きく後ろへ下がる。
伯爵は丸腰となった敵を追うこともせず、優雅な仕草で剣先だけをゲロモンへと向けた。
「フッ、この老体にとってはまぁまぁな運動にはなったかね」
「ス、スゲェーッ! パンスト魔術スゲェーーッ!」
その雄姿に、メロはキラキラと瞳を輝かせる。
女児からの称賛に伯爵は気分を良くした。
「ホッホッ、いいかい? 小さなお嬢さん。パンスト魔術の素晴らしさはね、なにも戦闘に使われるだけではないのだよ」
「え?」
「足元をご覧あれ。レディ?」
「あしもと……、ハッ⁉ こ、これは――ッ⁉」
メロは自分の足元を見てみると驚きにピョンコとジャンプしてしまう。
いつの間にか、メロのミニスカートから伸びる女児アンヨは、黒いパンティストッキングに包まれていた。
「春ももう終わりが近いとはいえ、夜はまだ気温が下がる。女性は脚を冷やしてはいけないよ?」
メロが「まさか」と顔を向けると、パンスト卿はキザな仕草でイキる。
どうやらこのパンストは彼の仕業のようだ。
「伯爵さま……」
トゥンク――と、メロのお胸が高鳴りその顔がうっとりとしたものになる。
メロはもうすっかりと、伯爵とパンスト魔術の虜だった。
一方で、ゲロモンは頭の上に「⁉」「⁉」を大量に浮かべて混乱していた。
何故に女性用衣料品によって、自分がここまで窮地に追い遣られているのか理解出来なかったのだ。
ついに破れかぶれとなり、ゲロモンはまたガパっと大きく口を開く。
出てきたノズルの先端に黒い魔力光がチャージされだした。
ゲロモンビームだ!
着ぐるみの内部に収容された約30ℓの美景汁を一度に放出する大技である。
美景汁を使い切ってしまってはその後はもうお客さまにご提供することは不可能。
つまり、もう後がなくなった時に使われる捨て身の最終奥義なのだ。
「よかろう――こちらも、【パンスト魔術】の秘技にて応えよう……ッ!」
伯爵も奥義にて迎え撃つようだ。
パンストの剣を仕舞うと代わりに彼の右袖から新たなパンストがシュルシュルっと出てくる。
そのストッキングのパンティ部がダランっと垂れさがった。
伯爵は右手をゲロモンへと向ける。
袖から垂れたパンストが古時計の振り子のようにカチカチと左右に動き、伯爵の魔力を高めていった。
先にチャージを終えたのはゲロモンだ。
ノズルの先端からゲロモンビームが発射される。
その直後、伯爵の方も魔術を放った。
「――見よッ! »
垂れさがっていたパンストがまるで意思を持ったように動き出す。
直射状に迫るビームへ真正面から向かっていった。
パンティストッキングのパンティ部がまるで大蛇がそうするようにグパっと咢を開く。
パンスト大蛇はゲロモンビームを飲み込んだ。
「――ッ⁉」
ゲロモンはビックリ仰天する。
パンスト大蛇はビームを飲み込みながら真っ直ぐゲロモンへと向かい、そして開いたままの口の中へ突き刺さった。
「むん――ッ! »
魔術詠唱とともに、伯爵はパンスト大蛇に掌打を打ち込む。
すると、パンスト内の大量の美景汁がゲロモンの口内に逆流していった。
これは陰陽術の呪い返しに着想を得て開発されたパンスト魔術で、敵の魔術をパンストで包み込み、そしてそれをそのまま相手へと返す――パンスト魔術の奥義である。
マッズイ汁を一度に大量に飲み込んだゲロモンの目玉がグリンっと裏返る。
相手は完全に死に体だ。
「――好機ッ!」
伯爵の左袖からさらなるパンスト大蛇が飛び出す。
イナヅマの軌跡を描いた大蛇は天高く昇ってから、ゲロモンの頭上へと落ちていった。
パンティ部がグパっと大きく咢を開き、ゲロモンの頭部を咥内へ収めるとその口を閉ざす。
瞬時に収縮したパンスト素材がミラクルフィットし、ゲロモンのお顔は銀行強盗の人みたいになってしまった。
完全にパンストによって拘束をされた形だが、ゲロモンは抵抗をしない。
伸びて薄まったパンスト素材ごしに見えるその顔はむしろ、恍惚の表情を浮かべていた。
女性のデリケートなお尻を守るために作られた肌触りの良い高質な素材に包まれたことによって生じる多幸感が、相手から抵抗の意思すら奪うのだ。
その隙に、伯爵は最後の大技の準備にとりかかる。
「ハァ――ッ!」
気合いの声とともに高くジャンプし空中でギュルルルっと身を捻ると、電柱の傍に着地をする。
そしてパンストの片足をギュッと電柱に縛り付けた。
「とぅ――ッ!」
そしてすぐに離れた位置のガードレールまでダッシュすると、そこへもう片足を縛り付ける。
この工程はどうやら手動のようだ。
「これでトドメだ――ッ!」
伯爵はゲロモンの頭部に齧りついたパンスト大蛇をグイっと引き寄せる。
そして、電柱とガードレールとの間に張ったパンストのパンティ部にゲロモンを装填した。
「悪しきモノよッ、立ち去れィ……ッ!」
スリングショットの弾のように、十字に交差したパンストでゲロモンを引き絞る。
路上に張られたパンストがむぃーんっと大きく伸びた。
伸びて薄まり、しかし尚も強度を失わないパンティストッキングのデニール力は実に88だ。
――通常では25デニール以下のものが「ストッキング」と呼ばれ、25デニール以上のものは「タイツ」と呼称される。だが、「ストッキング」のままで「タイツ」の領域に至るという通常ありえない現象を引き起こすことに成功した時に、パンスト魔術は術者にその深淵への扉を開く。
その時に実現したデニール数は「デニール力」と呼ばれ、術者の力量に応じてその数字は高くなる。当然、数字が高ければ高い程、その魔術の効果は絶大なものとなるだろう。
タイツはあくまでカジュアルとされ、フォーマルな装いを要求される貴族の社交の場では着用を許されない。上流階級の女性たちの下半身の冷え対策にどうにか「ストッキング」のままで「タイツ」と同等の効果を齎すことが出来ないかと、一人の紳士が心を痛めた瞬間がパンスト魔術の起源であるという話は有名だ。
それは当時としてはまだ早い女性の人権への配慮――しかし、それだけでなく、一度は貴族の名を奪われた男の、貴族社会そのものへの反逆心の表れが魔術へと昇華したのではとも一説では語られている。
「――»
概念をブレイクしたことで実現した88デニール力の大魔術級パンティストッキングがその力を解放する。
極限まで引き絞られたパンストによって撃ちだされると、ゲロモンはまるで砲弾のような猛烈な勢いで空へと飛んでいった。
ずんぐりボディはとんでもない速度で地面と遠ざかっていき、あっという間に見えなくなる。
キラーンっと瞬いてゲロモンは夜空のお星さまになった。
「ゲ、ゲロモーーンッ!」
なんとなくノリで涙を溢したメロが手を伸ばしてその名を叫ぶ。
すると、夜空のスクリーンにサムズアップをした精悍な顔つきのゲロモンが映し出された。
しかし、所詮はノリなので、メロはすぐにゲロモンから興味を失くす。
それよりも今はパンスト魔術に夢中だ。
「うわぁーっ! パンストのオジさんスゲェッス! 最大級のリスペクトをこめて、伯爵さまと呼ばせてもらってもいいッスか?」
ヒーローショーで興奮した子供のように伯爵に駆け寄った。
「ふむ。それは構わないのだが。しかし、いいのかね?」
「え?」
伯爵はあくまで冷静に、タキシードにぶら下がってこようとする女児の手をやんわりと解く。
そして年長者として窘める。
「知らないオジさんに近寄ってはいけないよ? 今回はワタシだったからいいものを」
メロはパチパチとまばたきをすると、ちょっとだけ恥ずかしそうに笑った。
「ヘヘッ、大丈夫ッスよ! なんせ伯爵さまッスから! それより、もっとパンスト魔術を見せて欲しいッス!」
「ホッホッホッ」
まるで大道芸人に対するような催促だが、おジイちゃんは満更でもないように微笑む。
だが――
「それは光栄だね。しかし、キミは悪魔だろう? 人間の魔術師を称賛などしてもよいのかね?」
「ハッ⁉ そ、そういえば――」
メロはついテンションが上がってしまって忘れていたが、このパンスト魔術師は厳密には敵なのか味方なのかが不明なのだった。
「ジ、ジブンは……っ」
「ふむ……、ちょっと失敬――」
「え――?」
伯爵は紳士的に断りを入れてから、言い淀むメロの女児アンヨへと手を近付けた。
膝の少し上あたりのストッキングを指で摘まんでみょーんっと伸ばし、そして離す。
ストッキングはペチンっと音を立て、再びメロの脚に密着した。
伯爵はメロの膝を指で撫でてから、今度は指でグニっとさせてストッキングの布地を寄せる。
そしてスッと目を細めて、出来上がったストッキングの皺を読んだ。
「――なるほど。やはりそうか……」
「伯爵さま……?」
「お嬢さん。キミは狂犬の使い魔だね?」
「えぇっ⁉」
狂犬という呼び名から連想するのはあの男しかいない。
だが、それよりも――
「――な、なんで今のでわかったんッスか⁉」
メロにとってはそちらの方が意味不明だった。
驚く女児に伯爵は鷹揚に笑う。
「ホホホ。パンティストッキングは我らに全てを教えてくれるのだよ」
「ス、スゲェーッ! パンティストッキングスゲェーーーッ!」
「それに。キミとは昨日も病院の庭で会ったね?」
「は、はいッス――!」
メロはバフンっと煙のエフェクトを出してネコさんフォームになる。
そして、お腹を見せながら地面をゴロゴロと転がって、自分は無害で愛らしい純真な動物さんであることをアピールした。
伯爵は満足げに頷く。
「安心したまえ。悪魔とはいえ、友の家族に危害を加えるつもりはないよ。魔術師である前にワタシは紳士だからね」
「え? 伯爵さまはあのクズの友達なんッスか?」
「少なくともワタシの方は――」
「――メロちゃぁーんっ!」
伯爵の言葉の途中で、病院の方から愛苗ちゃんがぴゅおーんっと飛んでくる。
どうやらゴミクズー退治を終えたようだ。
ちなみにここには結界など張られてはいない。
パートナーである魔法少女の無事な姿を見て、メロも顔を輝かせた。
「あ、マナぁーっ!」
「メロちゃん! だいじょうぶだった?」
「あ、うん。こちらのお貴族さまが助けてくれたんッス」
「おきぞくさま……?」
コテンと首を傾げた愛苗は見覚えのある老紳士の姿に気付く。
パンスト卿も愛苗のことを見た。
「おや? キミは……」
「あれ? あなたは昨日お庭で会った……、あっ⁉」
途中まで言いかけてから、愛苗は魔法少女の正体がバレてはいけないことを思い出してあわあわとする。
伯爵は泰然とした態度で余裕の笑みを浮かべ、レディを安心させるように優雅に一礼をした。
「フフ、お初にお目にかかります。可愛らしいレディ。ワタシの名はミハイル・パンティストッキング――人からは伯爵と呼ばれております」
「わ、エライ人だったんですね! こんばんは伯爵さま!」
「うむ。いい挨拶だ」
伯爵は礼儀正しい若者に満足そうに微笑む。
しかし、愛苗ちゃんはどこか気まずげだ。
「あ、あの、私……」
彼女の言葉の続きを伯爵はスッと手で制した。
「大丈夫だよ、レディ。ワタシはわかっている」
「え?」
「だから、今のキミが何者であるのかを名乗り給え」
「は、はいっ! ステラ・フィオーレです! 魔法少女です! あと、街の平和を守ってます……っ!」
「ホホ。それはいいことだね」
愛苗ちゃんが“ごあいさつ”をしてペコリとおじぎをすると、パンスト卿はどこか嬉しげにカイゼル髭を撫でる。
なんだかホメられたので、愛苗ちゃんもごきげんだ。
「はい! 今はちょっと入院しちゃってるからお休みしてたんですけど、これからまたいっぱいがんばろうと思ってます!」
「そうかね。是非とも励みたまえ。それに、街の平和を守るというのならば、ワタシとも目的が一緒だね」
「え? 伯爵さまも街を守ってるんですか?」
「そうとも。貴族の務めだからね」
「わぁっ、カッコいいです!」
「ホッホッホッ」
孫くらいの年頃の娘にチヤホヤされて気分をよくしたパンスト卿は、カイゼル髭を連続でクリンクリンさせた。
「しかし、なるほど。死に場所を見失っていた亡者のような男が、急に何かを守ろうだなんてことを始めたと思ったら――」
「え?」
「――そういう目的なら安心したよ。これからも友のままで、共に歩んでいけるだろう……」
「あの……?」
「フッ、今はまだ、わからなくてもいいさ」
頭に「?」を浮かべる少女に、卿は意味深に笑うだけで多くは語らない。
老人は若者を教え導きこそすれど、手を引いて目的地まで連れてきたりなどはしない。
それは品性に欠ける行いだと考えているからだ。
「今夜はいい夜になった」
「はぁ……」
夜空を見上げそう溢す伯爵に愛苗はキョトンとする。
「友のことだけでなく、我らに近しいモノがどういった存在なのかも知ることが出来た。実に僥倖」
「えっと? よかったですね!」
「あぁ、レディ。キミが正しき心根の、美しき魂の持ち主でよかったよ。キミはいずれ我らの領域にまで至るだろう」
「へ?」
お友達の話なのか自分の話なのかわからなくなり、愛苗は混乱してしまった。
だが、彼女に今は理解させる気がないのか、伯爵は言葉だけを置いていく。
「我が友を信じて着いていけ――と言いたいところだが、あの男は如何せん難儀なヤツでね。むしろ、どうかあの男を見捨てないでやってくれたまえ。あれで中々どうして、可愛げのある若者なんだ」
「あ、あの、もしかして伯爵さまは弥堂くんの――」
「――それは野暮というものだよ? とぅッ!」
「わ⁉」
愛苗の質問には答えず、伯爵は話を打ち切った。
掛け声に驚いて目を瞑った愛苗が瞼を開けると――
「――い、いない……?」
――目の前にはもう伯爵の姿はなかった。
「あ――ッ⁉ マ、マナ! 上ッス!」
「え――?」
メロの指す方へ顔を向けると、この一瞬で移動したのか電柱の天辺に伯爵が立っていた。
「あ、あの――」
「あぁッ⁉ マナッ! 足が……ッ!」
「え?」
慌てて声をかけようとしたが、その前にメロが驚きの声を発する。
愛苗は自身の下半身に目を向けた。
すると――
「――あぁ⁉ これは……っ⁉」
――魔法少女のフリフリスカートから伸びる足がいつの間にか黒いパンティストッキングに包まれていた。
「――サービスだよ」
急いで伯爵の方へ向き直ると、老紳士はお茶目にウィンクをする。
その手にはいつの間にか、愛苗が元々履いていた白のニーソがあり、ゆらりと夜風に揺れていた。
「キミはもう元気なようだが、しかしあったかくして今夜はもう眠るといい」
「あ、ありがとうございます。でも……、そうだ!」
「む?」
年長者からの教示に素直に頷きかけたところで、愛苗は今夜の元々の目的を思い出す。
「あの、わたし……、弥堂くんが困っちゃってるみたいで……、それで、私が行かなきゃって……っ」
「ふむ……」
拙い説明を聞いて、伯爵は港の方向をジロリと睨んだ。
そしてすぐに表情を緩める。
「なに。心配はいらないよ」
「え?」
「あの男は我らとは別。こちらへは至れない。だが、ね。アレは今どき珍しくガッツのある男だ。あのタフさには見所があるよ」
「はぁ……」
「感じてごらん? 今もヤツは困っているかね?」
「え?」
愛苗は戸惑いつつも伯爵の指示に従った。
お鼻をクンクンと動かすと――
「――あれ……? もう困ってない……?」
「そうさ。アレはやる時はやる男だよ」
不思議そうに首を傾げる愛苗に伯爵は大きく頷いた。
「えっと? もう大丈夫ってことですか?」
「その通り。だからキミはヤツの気概を汲んで、ゆっくりと健やかに眠るといい」
「は、はい……」
少しだけ釈然としない様子で頷く愛苗に、伯爵は月明りをバックに微笑みかける。
「あの冷徹なマシンにようやく血が通ったようだ。あの男が誰かを守って生きることになろうだなんて、そんな日が来るとはこのワタシにすら思いつかなんだ。どうかキミはヤツに守られてやっておくれ。それもまたチカラあるモノの努めであり、一流のレディとして必要な器量というもの」
「あ、あの、わたし……」
「おっと。お喋りはここまでだよレディ。またいずれ、ワタシか我が同胞に会うこともあるだろう。その日まで別れだ。さらば――ッ!」
一方的な別れの言葉とともにグワンっと口を開いたパンストが伯爵を飲み込む。
彼の全身を完全に包むと中身が無くなったように萎んだ。
ヒラリヒラリと、持ち主の居なくなったパンストが宙を舞う。
電柱の上にはもう誰もいなかった。
「いなくなっちゃった……」
「パ、パンスト魔術、ハンパねェッス……」
呆然と見上げていると、愛苗の掌の上にパンストが舞い降りてくる。
「餞別である」と、そんな意思を受け取った気がして、愛苗はパンティストッキングをギュッと大切に握った。
二人はどちらからともいうことなく目を合わせ微笑み合う。
そして病院へと歩き出した。
「マナ! マナっ!」
「わ。メロちゃん元気いっぱい」
「マナも使えねッスか? パンスト魔法!」
「え? 私ね、ストッキングあんまり上手に穿けないじゃない? だから無理かも?」
「そッスか。じゃあ、そのパンティストッキングはジブンにくれッス」
「メロちゃん穿くの?」
「いんや。寝床に敷いて寝たいッス」
「えへへ。いいよー」
戦いの時間は終わり、気の抜けた会話に戻る。
夜に平和が戻ったのだ。
こうして夜の病院の平和は魔法少女ステラ・フィオーレの活躍と、謎の紳士の手助けによって守られた。
悪しき欲望に心を染め街の人々に迷惑をかける者などは、復活のステラ・フィオーレの敵ではなかった。
しかし悪はまだ滅びたわけではない。
この街に眠る秘密や愛苗を狙って、ひっそりと動き出している者たちがいることを彼女たちはこの時まだ知らなかった。
そして謎の変態紳士が、ギャルナースさんのストッキングと魔法少女のニーソをちゃっかりパクっていったことにも気付いていなかった。
がんばれステラ・フィオーレ! 負けるなステラ・フィオーレ!
悪い大人に騙されてはいけない。
愛苗ちゃんのたたかいは続く。