俺は普通の高校生なので、   作:雨ノ千雨

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2章31 The True Traitor ⑧

 

 左手の掌に感じた冷たく硬い感触に、弥堂は意識を呼び戻される。

 

 

「――目が醒めた?」

 

 

 女の声が聴こえてそちらへ眼を向けると、そこに居たのは先程幻覚に視た少女――ではなく、“G.H.O.S.T(ゴースト)”の指揮官であるジャスティン・ミラーだった。

 

 床に倒れている弥堂の顏の前にしゃがみこんでいる。

 

 

「拾ってきてあげたわよ」

 

「……?」

 

 

 視界も頭の中も霞がかったようにぼやけており、彼女の言葉の意味がすぐには理解出来ない。

 

 だが、遅れて手の中のモノのことかと察し、自身の左手が映るように目玉を動かした。

 

 

 手の中にあったのは黒鉄のナイフ。

 

 エルフィーネに貰った武器だ。

 

 それを認識した瞬間、掌にわずかな熱さを感じた。

 

 

 いつもは冷たい感触がするのだが、焔で熱した人狼に突き刺していたためにナイフも熱くなっている。

 

 記憶が冷たいと錯覚させたようで、実際にはナイフにはまだ熱が残っていた。

 

 

「大事なモノなのかしら? それ」

 

 

 もしかしたらサイコメトリーの能力で何かを感じ取ったのか、こちらを見下ろすミラーは少し眉を下げて、気遣うような表情をしている。

 

 どうやらミラーが拾って、弥堂の手にナイフを握らせてくれたのだとわかる。

 

 

「……別に」

 

「嘘吐きなのね」

 

 

 喋るのが億劫なので適当に答えると、彼女はそう言って、だがそれ以上は深入りしてこなかった。

 

 

 少しずつ弥堂の思考も鮮明になっていくが、回復が少々遅い。

 

 肉体的なダメージもあるが、一番の原因は魔力欠乏による虚脱症状だ。

 

 だが、投与した“WIZ”の効果も残っているようで、魔力が急速に生成されていっているのもわかる。

 

 ただ、戦闘が出来るほどに回復するまでにはもう少し時間がかかりそうだ。

 

 

「……魔術師は?」

 

 

 弥堂は暢気に座り込んでいる指揮官を咎めるようにジロリと睨んだ。

 

 自分がどれくらい気を失っていたのかはわからないが、そんなに長い時間ではないだろう。

 

 人狼(ワーウルフ)を殺しはしたものの、アレを生み出した敵の魔術師を殺すまでは戦闘は終わったとは言えない。

 

 それをすぐに確認する。

 

 

「残念ながら逃げられたわ」

 

「なんだと」

 

 

 ミラーは少しばつが悪そうに、そう報告してきた。

 

 

「恥ずかしい話だけれど、見惚れてしまっていたのよ」

 

「……?」

 

「アナタの戦いに。クレイジーだけど、とてもタフだったわ」

 

「ふざけているのか?」

 

「マジメに言っているの。敵も味方も、全員アナタの戦いに目を奪われてしまっていて、気付いた時にはヨギたちの姿がなかったわ」

 

「真面目に言っているなら余計問題だろうが」

 

 

 弥堂が苛立ちに眉間を歪めると、ミラーは可笑しそうに笑う。

 

 その態度に舌打ちをしようとした弥堂だったが、口の中が渇ききっていて上手く音を鳴らせなかった。

 

 その失敗に不愉快そうな顔をすると、ミラーはもう一度笑う。

 

 

 言葉や態度どおり、本当にカルトの魔術師を取り逃がしたことを彼女はあまり気にしていないようだ。

 

 或いは、それ以上の関心事でもあって、そちらに夢中なのか。

 

 

「まずは称賛を――」

 

 

 彼女はそう言って、表情を真剣なものに改める。

 

 

「よくやったわ。マッドドッグ。その名に相応しい戦いだったわ。アナタにリスペクトを」

 

 

 これもまた言葉と態度どおりのようだ。

 

 真剣な敬意を向けられて弥堂は不愉快に思う。

 

 また舌を打とうとして、それを失敗したばかりだったことを思い出した。

 

 代わりに「ふん」と鼻で嘲笑う。

 

 そうすると、ミラーも表情や口調を砕けさせた。

 

 

「スゴイわね、アナタ。あのモンスターを単独で斃せるなんて」

 

「しつこいな。世辞を何度繰り返しても――」

 

 

『気分を良くしたりなんかしないから無駄だ』と続けようとしたが、弥堂はミラーの顔を見てあることに気が付き言葉を止める。

 

 ここまでの時間で見てきたよりも、彼女の顏が少し幼げに見えたのだ。

 

 どうやらお世辞を繰り返しているわけではなく、彼女は言葉どおり本当に称賛しているようだった。それも若干興奮気味に。

 

 

「……何度褒められても俺には得がない」

 

 

 弥堂は少しの間、違った返答を考えたが結局上手いことは思いつかず、仕方ないのでほぼそのままを口にする。

 

 ミラーは少し意地の悪そうな顔で笑った。

 

 

「あら? 褒められるのは苦手なようね。慣れてないだけかしら?」

 

「そのような事実はない。それより、敵を追ったらどうだ?」

 

「とっくに捜索班を出しているわ」

 

 

 やることはやっていたようで、ミラーは得意げな顔をする。

 

 しゃがんだまま膝の上に肘を付き掌に顎を乗せると、瞼を細めて顔を少し傾けさせた。

 

 

「それなら――もっとわかりやすいご褒美をあげようかしら?」

 

「…………」

 

 

 その仕草に少し色気を感じて、弥堂は余計に苦手に思った。

 

 そして反発心が強まる。

 

 

「別に。約束通りの報酬を守ってもらえばそれで構わない」

 

「それは守った上でよ。想定を大きく超える成果だもの。きちんと評価するべきだわ」

 

 

 それが彼女の信念なのか。

 

 だが、弥堂はその公平さや公正さに生理的な嫌悪感を抱く。

 

 

「フフ。難しい子ね。ご褒美をもらえると聞いてイヤそうな顔をするなんて」

 

「別に」

 

 

 弥堂は目線を上げ続けるのに疲れ、目の前にある彼女のくるぶしの隙間に視点を動かした。

 

 

「何でもいいわよ。言ってごらんなさい?」

 

「……だったら、そのズボンを脱げ」

 

「はい?」

 

 

 苦し紛れのセクハラに、ミラーはキョトンとする。

 

 

「次からはスカートを履いてきてちゃんとおパンツを見せろよ」

 

 

 ギロリと視線に棘をのせる弥堂にミラーは怒るでもなく、むしろ楽しげに笑う。

 

 

「フフフ……、なるほどね。わざとそういうことを言って、相手から遠ざかるようにしているのね」

 

「そのような事実はない」

 

「まぁ、いいわ。アナタのラブコールは受け取りました。キスでもしてあげましょうか?」

 

「いらない。それに、そんなモノを渡した覚えはない」

 

「そうかしら? でも、よろしくね? 『次から』も」

 

 

 弥堂がチッと舌を鳴らすと、ミラーは嬉しげに微笑んだ。

 

 せめて何か報復が出来ないかと弥堂は言葉を探す。

 

 そして――

 

 

「――何故俺を許す?」

 

 

――本来言うべきではないことを口にすると、ミラーの微笑が冷えた。

 

 

「あら。気付いたの?」

 

「…………」

 

 

 試すような質問返しに、弥堂も探るような視線で返す。

 

 

「そうよ。アナタの思ったとおり――」

 

 

 ミラーはそれ以上勿体ぶるようなことをせず――

 

 

「――ワタシのサイコメトリーは相手に触れなくても実行可能よ」

 

 

――あっさりと真実を口にした。

 

 

「どうして気付いたの?」

 

 

 そして今度は根拠を訊ねる。

 

 

 それはわからないから訊いているわけではない。

 

 数学の教師が途中式をチェックするようなものだ。

 

 

「ここでの傭兵や俺とのやりとりでな。触れてないのに尋問中に俺の感情を読んだ時と同じような素振りが見られた」

 

「フフ……、それで?」

 

「それで。そういえばホテルで本部に踏み込む時、お前はドアに手を触れる前にあの獣人の襲撃を看破したことを思い出した」

 

「それがなにか?」

 

「俺が気配を察知し、俺が反応するよりも速く。能力だとしか思えない」

 

「うふふ。いいでしょう。正解よ」

 

 

 ミラーは弥堂に合格点を渡す。

 

 だが、それはまだ最低ラインだ。

 

 

「それだけ? そこからわかることは?」

 

「…………」

 

 

 弥堂は沈黙をしようとして、だが諦めたように嘆息をした。

 

 

「……お前が全員にやっていた尋問。あれは見せかけだ」

 

「そうかしら? あの時もちゃんと“異能(ギフト)”を使っていたわよ?」

 

「そうじゃない。あの尋問だけでスパイを見つけることが目的じゃない。お前が本当に読んでいたのは――」

 

「いたのは?」

 

「――尋問中とそれ以外の時の、心や感情の動きの差異だ」

 

「素晴らしいわ」

 

 

 弥堂の答えにミラーは今度は本当に称賛を送る。

 

 パチパチと手を叩く彼女を弥堂は睨んだ。

 

 

「そんな目をしないの。尋問中はね、どうしても心を構えるものよ。それは当たり前よね?」

 

「そうだな」

 

「上手な嘘吐きや、妄想で思い込んでいるタイプの人間からは、能力を使っても真実が読みづらいのよ」

 

「だが、尋問をされていない無防備な時なら……」

 

「えぇ。100%とは言わないけれど読みやすくなる。それに、尋問中と全く違うものが見えれば、嘘を吐いていたことだけは確定させられる」

 

 

 言いながら、ミラーは弥堂を見る目を細める。

 

 

「ちなみに――それでもアナタは読みづらかったわ。だけど、シズカ博士はそうじゃない。だからアナタはワタシに博士を触れさせないように間に位置取っていた」

 

「だが、『触らないと読めない』という大前提が間違っていれば、それも意味がなかったということか」

 

「フフ。嘘を咎めようとする者が嘘を吐いている。チープなトリックだけれど、結構引っ掛かっちゃうでしょ?」

 

「そうだな」

 

 

 イタズラが成功した子供のように得意げに笑ってみせるミラーに、弥堂は素直に負けを認めた。

 

 しかし、彼女に『ナニ』を看破されたかを考えれば笑っていられる状況ではない。

 

 

 おそらく“G.H.O.S.T(ゴースト)”の隊員を殺したことはミラーにバレている。

 

 もしかしたらホテルを爆破したことも。

 

 

 だが――

 

 

 だとしたら余計にわからなくなる。

 

 

「俺が質問したのは『何故俺を許す』だ。その答えにはなっていないぞ」

 

 

 問われると、ミラーは何でもないことのようにまた笑った。

 

 

「あぁ、それはね。この場に連れてきた隊員と、ホテルに配備された隊員は予め分けられていた別働隊。それを選別したのはワタシ。ケインは惜しかったけどね」

 

「……まさか――」

 

「おっと、ここまでね」

 

 

 弥堂が思い付きを口にしようとした瞬間、ミラーに人差指で唇に触れられ続きの言葉を遮られる。

 

 

「――時間切れみたい。あとで教えてあげるわ」

 

 

 パチリと慣れたウィンクをすると、ミラーは目線を振り返らせながら立ち上がる。

 

 その彼女と入れ替わるように、メディカルキットを持った2名の隊員が弥堂の前で膝を着いた。

 

 

 どうやら救護班のようで、これもミラーが手配済みだったようだ。

 

 他所に目を向けると、人狼の死骸を監視している者が2名おり、残りはまだ戦闘状態を維持したまま警戒態勢にある。

 

 

 救護の隊員たちは弥堂の右腕と肩や背中の傷を確認した。

 

 

“どう?”

 

“……止血されてますね。驚くべきことですが、しかしこれなら大丈夫そうです”

 

“そう。よろしくね”

 

 

 ミラーは隊員と素早く英語でやりとりをし、弥堂を見下ろす。

 

 

「大丈夫ですって。すごい生命力と回復力ね? それも魔術かしら?」

 

「どうかな。体質かもしれない」

 

「あらそう。とにかく、死んだら許しません。ゆっくりと治療を受けなさい。後はワタシに任せて、ね」

 

「『後は』?」

 

 

 弥堂が眉を顰めると、ミラーは「フフ」と笑うだけで答えず、ゆっくりと身体の向きを変えた。

 

 彼女が向いたのは倉庫の入り口の方だった。

 

 

「――何処へ行くのかしら?」

 

 

 打って変わって冷ややかになったミラーの言葉にビクっと肩を揺らしたのは、アレックスたち傭兵団だ。

 

 どさくさ紛れに逃げようとしていたようで、彼らと“G.H.O.S.T(ゴースト)”部隊の立ち位置が最初とは逆になっていた。

 

 

 現在倉庫の内側にいるのは“G.H.O.S.T(ゴースト)”で、入り口に近いのはテロリスト部隊だ。

 

 人狼暴走のトラブルで有耶無耶になりかけていたが、元々はこの2勢力の争いの真っ最中だった。

 

 当然、それを失念して見逃すミラーではない。

 

 

 ビアンキに肩を貸すアレックスは馴れた風に愛想笑いを浮かべた。

 

 

「いやぁー、お互い命拾いしたようで何よりだぜ! それを祝福しあうってことで、ここはいっちょ手打ちといかねェか?」

 

「あら、ツレないのね。パーティはまだ途中よ? 最後までしっかり楽しんでいってちょうだい」

 

「そうしてェのも山々だが、ほら見ろよ。コイツなんか飲み過ぎちまったみてェだ。ちょっと病院に連れてくわ。埋め合わせは今度するから、次の誘いはメールで頼む」

 

「悪いけど、こっちは公務なの。テロリストに招待状の私信を送ったことがバレたら始末書じゃ済まないわ。だから、有耶無耶にはしてあげられないの」

 

 

 肩に担いだビアンキに酔っ払いを介抱するような芝居をしてみせるが、ミラーからはバッサリと斬り捨てられる。

 

 アレックスはベッと唾を吐いて、表情を敵意で改めた。

 

 

「さて、一応訊いてあげるけれど。まだ抵抗するのかしら?」

 

「言っとくけど、さっきのバケモンはオレらの仕込みじゃねェぞ」

 

「でしょうね。かなりの数を減らしたようだし」

 

「そりゃお互いさまだろうがよ」

 

「そう。勝てると思えるほどに縮まったようにアナタには見えるの?」

 

「どうだろうな。だが、チャンスは見えてきたぜ?」

 

 

 実際にはそうではない。

 

 先程の人狼との戦いでの死傷者は“G.H.O.S.T(ゴースト)”の方が多い。

 

 とはいえ、元々が少ないアレックスたちが有利になるほど減ったわけではなかった。

 

 

 しかし、逃げるにせよ戦うにせよ、決断は急がなければならない。

 

 倉庫の出口に近いのはアレックスたちだが、万が一“G.H.O.S.T(ゴースト)”の予備戦力が外に待機していた場合――どちらを選ぶにしろ挟み撃ちになる。

 

 やるなら急がねばならない。

 

 

(さすがにキツイか……)

 

 

 そう思いながらも歯を剥いて虚勢を張っていると、アレックスの元に傭兵が一人走ってきた。

 

 その者は倉庫の外から来た。

 

 彼から何かを耳打ちされると、アレックスはニヤリと笑った。

 

 

「あら? いい報せのようね」

 

 

 その様子を見てもミラーは余裕の態度を崩さない。

 

 むしろ興味深げに質問をした。

 

 

「そうでもねェぜ?」

 

「そう? なら、武器を捨てなさい。もうチェックメイトよ」

 

「そうだな。そのようだ」

 

 

 素直な返事とは裏腹にアレックスの目には挑戦的な色が強い。

 

 ミラーがそれに怪訝そうな顔をしてみせると――

 

 

 倉庫の入口――アレックスたちの背後から武装した男たちが倉庫内へ駆け込んできた。

 

 今回現れたのはテロリスト側の増援のようだ。

 

 

 ミラーは部下に指示を出すでもなく、静かにその様子を見た。

 

 彼らの展開が終わるまで待って、それからアレックスに問いかける。

 

 

「これは?」

 

「逆転だよ。これで数でもこっちが上だ」

 

 

 アレックスの言うとおり、今しがた入ってきた軍勢と合わせると彼らの方が人数が多くなってしまった。

 

 だが、ミラーの態度は変わらない。

 

 

「それで?」

 

「言っただろ? チェックメイトだと――」

 

 

 アレックスの勝利宣言とともに、増援部隊の背後から一人の男が前に進み出てくる。

 

 長身の白人の男――

 

 

「――ふむ。どうやら待たせてしまったようだな」

 

「いや? そうでもねェぜ? ダリオ――」

 

 

 現れたのはアレックスがずっと待ち望んでいた、傭兵団ラ・ベスティアのNO.2であり、アレックスの長年の相棒でもあるダリオだった。

 

 この土壇場で盤面の有利不利を逆転させる戦力を率いて戦場に現れたのだ。

 

 

「博士を渡して投降しな、ゴースト」

 

「お断りよ」

 

 

 アレックスの勧告に対するミラーの返答は早い。

 

 間違いなく自分たちが不利になったのは見ればわかることだが、少しも考えることなく即答をした。

 

 

 しかし、アレックスの行動も早い。

 

 先程のミラーのように説得や交渉などはしない。

 

 

「――じゃあ、決裂だなッ! ダリオ……ッ!」

 

 

 バッと片手を天井へ向けて相棒に攻撃命令を出した。

 

 整然と並んだ増援部隊の銃口が一斉に火を噴いた。

 

 

 激しい銃声とともに、人がどんどんと倒れていく。

 

 

 ある者は床に倒れ己から流れ出た血の中で驚きに目を見開き――

 

 またある者は驚く間もなく即死した。

 

 

「は……?」

 

 

 呆然とした声が――

 

 

 アレックスの口から漏れた。

 

 

 銃撃が始まるとともに、アレックスの周囲にいた生き残りの傭兵たちが次々と射殺された。

 

 対峙していた“G.H.O.S.T(ゴースト)”たちは発砲していない。

 

 銃弾は全て背後から飛んできた。

 

 

 信じられないといった顔でアレックスは振り返る。

 

 その視線の先にいる男――ダリオはそのタイミングでハンドサインを出し、射撃の中止を部隊に命じた。

 

 そして、部隊をその場に残したまま、彼一人でアレックスたちの方へ歩きだす。

 

 

 元々アレックスとともにいた傭兵たちの生き残りはもう彼とビアンキを入れても数人だけだ。

 

 残りはダリオの連れてきた増援部隊に射殺されてしまった。

 

 

 その事実を頭の中に並べてみてもなお、アレックスは現状が受け入れられなかった。

 

 

「ダ、ダリオ……?」

 

 

 賢い頼れる長年の相棒に問うが、答えは返ってこない。

 

 返ってきたのは弾丸だ。

 

 

 ダリオは拳銃でアレックスの右脚の腿を撃つ。

 

 

「グ――ッ⁉」

 

 

 そして、ビアンキごと床に倒れるアレックスの脇を、彼の顔を一瞥することもなく通り過ぎた。

 

 

 アレックスやビアンキが言葉を失いながらその背中を呆然と見送る。

 

 やがてダリオは立ち止まった。

 

 

 ミラーの前で。

 

 

「少し遅かったか? ミラー指揮官」

 

「いいえ。いいタイミングだったわ。期待通りのいい仕事よ」

 

「それはどうも」

 

 

 そして――

 

 

 突発的な出来事ではなく、予め決まっていたかのようなやりとりをするダリオとミラーの会話を聞いて――

 

 アレックスたちは誤魔化しようのない事実と現実を受け入れさせられた。

 

 

「ハハ……、悪いジョークだぜ……、ダリオ……」

 

「オレは冗談が嫌いなんだ。知っているだろ? アレックス」

 

 

 乾いた笑いを漏らすアレックスにダリオは醒めた目と銃口を向ける。

 

 

「オマエが言ったとおり、決裂だ――」

 

 

 一方的な宣告とともに――

 

 

 今回の事件の全ての勢力の中で、最も致命的な裏切者が表舞台に姿を現した。

 

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