戦えない私がキヴォトス中の生徒に執着されるまで 作:Zuzuiikb
私は、もう答えなかった。
奥の部屋に入れられてから、何を聞かれても口を開かないと決めていた。先生のこと。エデン条約の会議のこと。ナギサ様に呼ばれていたこと。救護騎士団との連携。補習授業部の扱い。会場から救護所へ向かう道。
知っていることも、知らないこともある。けれど、それを分けて話すこと自体が危なかった。分かりません、と言えば、その間を見られる。違います、と言えば、その否定を使われる。だったら、何も言わない。沈黙だけを握る。
それが、私に残った最後の抵抗だった。
部屋の照明は暗い。壁は古く、床は冷たい。窓はない。外の音もほとんど入ってこない。サオリさんは正面に立っていて、ミサキさんは少し横にいる。ヒヨリさんは入口の近く。アツコさんは壁際で、何も言わずにこちらを見ていた。
静かだった。
それが嫌だった。
怒鳴られる方が、まだ人間らしい。ここには、怒りよりもずっと冷たいものがあった。必要だから聞く。必要だから殴る。必要だから息を奪う。そういう判断が、もう決まった形で置かれている。
「先生は、エデン条約の会議に出席するのか」
サオリさんが聞いた。
私は答えない。
「会議の前に、ナギサと会う予定はあるのか」
答えない。
「先生は補習授業部の件をどこまで任されている」
答えない。
サオリさんの目が、少しだけ細くなった。
「黙るのか」
私は何も言わなかった。
次の瞬間、頬に衝撃が来た。
視界が横に流れた。痛みより先に音が遅れて聞こえる。口の中に血の味がした気がした。声を出したくなかったのに、喉の奥から短い音が漏れた。
「……っ」
返事じゃない。
何も言っていない。
そう思おうとしたけれど、サオリさんはそれに反応しなかった。ただ、同じ温度の声で続ける。
「先生は会議に出るのか」
答えない。
今度は腹に衝撃が入った。息が潰れる。体が前に折れて、膝が床に落ちた。縛られた手では受け身も取れない。冷たい床に倒れそうになったところで、腕を掴まれた。
「立て」
無理。
そう思っただけで、声には出さなかった。でも体は立てなかった。膝に力が入らない。息を戻したい。少しでいいから、丸まっていたい。
ミサキさんが私の腕を引き上げた。
支えられているのではない。倒れていられない形に戻されているだけだった。足元がふらつく。涙がにじむ。まだ始まったばかりだと分かっているのに、体はもう怖がっていた。
「顔を上げろ」
私は上げなかった。
上げたくなかった。
涙が出ていたから。
顎を掴まれ、無理に前を向かされる。サオリさんは私の顔を見ても、何も言わなかった。泣いていることも、息が乱れていることも、どうでもいいみたいだった。
「先生は会議の前に誰と会う」
答えない。
「ナギサは先生に何を確認する」
答えない。
「会場周辺で異常が起きた場合、先生は会議場へ向かうか、救護へ向かうか」
答えない。
サオリさんの手がまた動いた。
頬が熱くなる。体が揺れる。倒れそうになる。倒れる前に戻される。質問が来る。答えない。衝撃が来る。息が乱れる。涙が落ちる。戻される。
その繰り返しで、時間の感覚が少しずつ削れていった。
「先生が単独になる可能性がある場所はどこだ」
答えない。
「救護騎士団の待機場所は」
答えない。
「会議場から救護へ向かう最短の通路は」
答えない。
そこは、特に駄目だった。
会議に出るかどうか。誰に呼ばれているか。何を任されているか。それらも言ってはいけない。でも、通路は違う。そこを渡せば、待てる。狙える。先生が通るかもしれない場所を、あの人たちに教えることになる。
絶対に言わない。
そこだけは、何があっても。
「ミサキ」
サオリさんが名前を呼んだ。
部屋の空気が変わった。
ミサキさんが近づいてくる。足音は静かで、急いでいない。サオリさんの暴力みたいに、来ると分かるものではない。気づいた時には近くにいて、逃げ道がなくなっている。
「えらいね」
耳元で、柔らかい声がした。
私は肩を震わせた。
「サオリに叩かれても、蹴られても、まだ何も喋らないんだ」
甘い声だった。
だから怖かった。
「先生のこと、大事なんだね。会議のことも、ナギサのことも、救護のことも、全部守ってるつもりなんだ」
答えない。
「でも、顔はもう守れてない」
ミサキさんの指が、私の頬に触れた。涙の跡をなぞられる。優しい仕草に見えるのに、体が冷えた。
「泣いてる。震えてる。さっきまでちゃんと睨んでたのに、もうぐちゃぐちゃ」
「……」
「先生には見せられないね」
その一言で、喉の奥が詰まった。
見せたくない。
こんな顔、先生に見られたくない。ミネ団長にも、ヒフミさんにも、コハルにも、誰にも見せたくない。私は救護騎士団で、助ける側で、誰かが痛がっていたら手を伸ばす側のはずだった。
なのに今は、膝をついて、泣いて、何もできない。
「まだ黙るんだ」
ミサキさんが言った。
「じゃあ、もう少し頑張ろうか」
首元に圧がかかった。
何をされたのか、最初は分からなかった。ただ息を吸おうとして、入ってこないことだけが分かった。
もう一度吸おうとした。
入ってこない。
胸だけが持ち上がる。喉が勝手に動く。空気を探しているのに、空気がない。縛られた手が上がる。届かない。掴めない。剥がせない。足が床を擦って、体が勝手に逃げようとした。
だめ。
だめだめ。
やばい。
息。
息が。
なんで。
入らな、
「ん゛、っ……ぐ……」
変な音が出た。
私の音だった。
出したくない。聞かれたくない。こんなの声じゃない。返事じゃない。何も話していない。そう思いたいのに、喉の奥で潰れた音が部屋に落ちる。
「苦しいね」
ミサキさんの声が近い。
「でも、喋らない。えらい」
頭を撫でられた。
優しく。
ゆっくり。
その手つきが嫌だった。あまりにも普通で、あまりにも優しくて、一瞬だけ、何をされているのか分からなくなる。慰められているみたいだった。褒められているみたいだった。でも違う。違う。絶対に違う。
だめ。
おちる。
だめ。
先生。
会議。
通路。
だめ。
息。
息、息。
ほしい。
ほしい。
やだ。
助けて。
違う。
助けてなんて。
違う。
「手、上がってる」
ミサキさんが囁く。
「届かないね」
嫌だ。
そんなところを見ないで。
縛られた手が空を掻いている。指が震えている。足が勝手に床を蹴っている。逃げようとしている。逃げられないのに、体だけが逃げようとしている。
「体は助けてって言ってる」
違う。
言ってない。
言ってないはずなのに。
もう駄目だと思った瞬間、急に緩んだ。
「っ、は、ぁ゛っ……げほ、っ、は……はぁ……!」
空気が入ってきた。
私は咳き込みながら息を吸った。吸う。まだ足りない。もっと欲しい。胸が痛い。喉が熱い。涙で何も見えない。口元が濡れている。みっともない音が出ている。
でも、そんなことより息が欲しかった。
助かった。
そう思ってしまった。
「戻ってこられたね」
ミサキさんが言った。
頭を撫でる手は、そのままだった。
やめて。
触らないで。
そう言いたいのに、息を吸うので精一杯で言葉にならない。
サオリさんの声が落ちた。
「先生は、会議に出席するのか」
答えない。
答えない。
言うな。
喋るな。
「……」
「ミサキ」
「うん」
「いや……っ」
声が出た。
情けない声だった。
その瞬間、自分で分かった。怖がっている。次に来るものを、体がもう覚えている。
ミサキさんが小さく息を揺らした。
「大丈夫」
大丈夫じゃない。
「少しだけ」
少しじゃない。
「また頑張ろうね」
今度は、ゆっくりだった。
じわじわ息が細くなる。完全に止まるまでに少しだけ時間があって、その時間が一番怖かった。まだ吸える。まだ少し入る。いや、足りない。細い。足りない。足りない。
だめ。
これ、だめ。
止まる。
止まるって。
「っ、ん゛……!」
私は首を振ろうとした。うまく動かない。頭を撫でていた手が、そのまま髪を押さえる。逃げないで、と言われた気がした。
「えらいね」
ミサキさんが囁く。
「まだ先生のこと、言わない」
言わない。
言わない。
言わな、
息。
息がない。
頭が白い。
考えが切れる。
会議。ナギサ様。救護騎士団。補習授業部。通路。先生。
だめ。
だめだめだめだめ。
言っちゃだめ。
でも。
おちる。
今度こそ。
ほんとに。
おち、る。
緩んだ。
私は床に崩れた。咳が止まらない。息を吸おうとして、また咳になる。涙が落ちる。口元が濡れて、顎まで伝っているのが分かる。汚い。嫌だ。こんなの嫌だ。私はこんな顔で、こんな音で、床に膝をついて、ただ空気に縋っている。
顔を伏せようとした。
でも、顎を持ち上げられた。
「隠さないで」
ミサキさんの声。
「今の顔、ちゃんと見えるようにして」
嫌だ。
見ないで。
お願いだから。
私は首を振った。弱く、何度も。言葉にならない声が喉で擦れる。
「や……やだ……」
言ってしまった。
もう嫌だと。
その声が、いちばん情けなかった。泣きながら、息を乱しながら、口元も拭けないまま、子どもみたいに嫌だと言った。
「うん」
ミサキさんは、また頭を撫でた。
「嫌だよね」
優しい。
優しいのに、終わらない。
サオリさんの声が落ちる。
「先生は、会議に出席するのか」
答えない。
まだ、答えない。
でも、ミサキさんの指が髪を梳く。
「頑張る?」
私は首を振った。
反射だった。
「や、です……」
「じゃあ、言おうか」
「だめ……だめ、です……」
「先生のため?」
私は泣きながら頷いた。
「先生が撃たれるから?」
その言葉で、胸が潰れた。
ミサキさんの手が、少しずつ首元へ戻っていく。
来る。
また来る。
体が先に知っている。
肩が跳ねる。足が伸びる。縛られた手が震える。私はもう一度首を振った。お願い、やめて。言葉にしたら全部終わる気がして、声にはできなかった。
圧が戻った。
今度は短かった。
でも、短いから平気なわけじゃない。
一瞬で息が奪われて、一瞬で体が跳ねて、一瞬で頭が白くなる。足が床を蹴る。喉の奥で音が潰れる。涙が跳ねる。
緩む。
「っ、は……!」
吸った。
吸った瞬間、また塞がれた。
「ん゛っ……!」
さっきより短い。
でも、分からない。
いつ緩むのか分からない。
今度は戻れるのか分からない。
緩む。
吸う。
また。
また来る。
また。
やだ。
やだやだやだ。
息が戻ったと思ったら、すぐに奪われる。助かったと思う暇もない。吸えたと思った瞬間に、体が裏切られたみたいに跳ねる。頭がぐらぐらする。何を守っていたのか、一瞬分からなくなる。
サオリさんの声が遠くから聞こえた。
「出席するのか」
答えない。
答えたくない。
でも、ミサキさんの手がまだそこにある。
また来る。
次も来る。
来る。
来る。
「……出、ます」
言葉が落ちた。
私の口から。
私の声で。
言った瞬間、息より冷たいものが胸の奥に落ちた。
サオリさんはすぐに続ける。
「会議の前にナギサと会うのか」
言うな。
もう言うな。
でも、ミサキさんの指が髪を撫でる。優しい。怖い。次に来る。来る。来る。
「……呼ばれて、ました」
「何のために」
「エデン条約の準備で……確認があるって。先生に……補習授業部のことも、任せるって」
「救護騎士団との連携は」
「必要があれば……先生か救護騎士団と、連絡を」
喋っている。
私が喋っている。
止めなきゃ。
でも、息がまだうまく入らない。頭がぼうっとする。次にまた奪われるかもしれないと思うだけで、体が勝手に震える。
「会場で異常が起きた場合、先生はどこへ動く」
「……救護の、方に」
「通路は」
そこで、頭が少し戻った。
だめ。
そこは本当にだめ。
会議に出ることも、ナギサ様に呼ばれていることも、救護の方へ動くかもしれないことも、もう言ってしまった。でも、通路は違う。そこを言えば、待てる。狙える。先生がどこを通るか、あの人たちに渡してしまう。
私は首を振った。
「言えません……」
「答えろ」
「言えないです」
声は震えていた。泣いているのも分かる。口元もまだうまく閉じられない。けれど、そこだけは駄目だった。
「先生が、撃たれるから」
サオリさんの表情は変わらなかった。
「ミサキ」
また、その名前。
私は反射で体を引いた。
「いや……っ」
嫌だ。
もう嫌だ。
さっきまで何度もそう思った。でも、今の嫌は違う。次に来るものを、体が覚えている。喉の奥が縮んで、まだ何もされていないのに息が浅くなる。
ミサキさんが私の前にしゃがむ。
「えらいね」
優しい声。
「そこは大事なんだ」
私は首を振った。違う。褒めないで。そんな声で言わないで。
「会議のことは言っちゃった。ナギサのことも、救護のことも言っちゃった。でも通路だけは守るんだ」
頭を撫でられる。
ゆっくり。
まるで泣いている子を落ち着かせるみたいに。
「偉いよ。まだ先生を守ってるつもりなんだ」
「……やめて」
声が漏れた。
「やめてください……」
「うん」
ミサキさんは頷いた。
「じゃあ、言おうか」
「言えない……」
「そっか」
その声が近づいた。
首元に、また圧がかかった。
だめ。
来た。
息。
息が。
入らない。
さっきより早い。体が先に暴れる。膝が床を擦る。縛られた手が意味もなく上がる。届かない。剥がせない。助けてなんて言えない。声が出ない。喉の奥で音だけが潰れる。
「ん゛、っ……ぐ、ぁ……」
嫌だ。
こんな音、嫌だ。
先生に聞かれたくない。
誰にも聞かれたくない。
でも止まらない。
「苦しいね」
ミサキさんが言う。
「でもまだ言わない。すごい」
頭を撫でる手だけが優しい。
それが余計に分からなくなる。
助けてくれる手じゃない。逃がしてくれる手じゃない。なのに優しい。優しいから、余計に怖い。
だめ....おちる。やばいほんとに今度こそ。
頭、白い。
先生。先生、だめ。通路、だめ。
言っちゃだめ。
でも息がない。
息。
息だけ。
息、ほし、い。
「じ..ぬ゛……」
声にならない声が漏れた。
自分で言ったのか、頭の中で思っただけなのか分からない。
緩んだ。
空気が入る。
「っ、は、ぁ゛っ、げほっ、は……っ、は……!」
私は床に崩れた。咳が止まらない。息を吸いたいのに、咳で途切れる。涙で何も見えない。口元が濡れている。顎まで伝っている。拭けない。隠せない。もう、自分の顔がどうなっているのか考えたくなかった。
サオリさんの声がした。
「通路は」
私は首を振った。
「……言え、ません」
まだ言えた。
まだ守れた。
そう思った瞬間、腹に衝撃が入った。
息がまた潰れた。体が丸まる。痛い。痛い痛い。けれど、サオリさんは待たなかった。
「顔を上げろ」
上げられない。
「上げろ」
顎を掴まれ、無理に前を向かされる。視界の中でサオリさんの顔がぼやけている。ミサキさんの手が、まだ私の髪に触れている。
「答えろ」
「言えない……」
「なら続ける」
その一言が落ちた瞬間、体が震えた。
まだ続く。
終わっていない。
さっきので終わりじゃない。
私は首を振った。言葉にならない声が出る。
「いや……や、です……もう……」
「通路は」
「だめ……先生が……」
「通路は」
ミサキさんが、また頭を撫でた。
「頑張ったね」
やめて。
「でも、もう終わりにしよう」
やめて。
「次で言えるよ」
やめて。
首元に、また圧が戻った。
今度は、何も考えられなかった。
だめだめだめむりむりむりむりおちる。
ほんとに死ぬ、いや...先生、ごめんなさい。ごめ、ごめんなさ、
息、息、息。
ほしい。
通路、だめだめだけど....だめだめ
お゛、ち……
緩む。
私は息を吸うより先に泣いていた。咳と涙と声が混ざって、自分でも何を言っているのか分からない。
「……裏」
音が落ちた。
サオリさんが動きを止める。
「もう一度」
私は首を振った。
言った。
今、言った。
駄目。
戻して。
今のを、なかったことにして。
ミサキさんの手が髪を撫でる。
「大丈夫。言えたね」
「違う……」
「続き」
「違う、今のは……」
「続き」
サオリさんの声。
短い。
逃げ道がない。
私は震えながら息を吸った。喉が痛い。頭がぼうっとする。もう、考えがまとまらない。先生が撃たれる。私が言う。言ったら撃たれる。でも言わなかったら、また来る。また息がなくなる。また落ちる。今度こそ戻ってこられないかもしれない。
嫌だ。
助かりたい。
先生を守りたい。
助かりたい。
守りたい。
助かりたい。
どっちも、もう持てなかった。
「……会議場の、裏側の……古い連絡通路」
言葉が震えながら出た。
「普段はあまり使われないところです。でも、緊急時に救護へ回るなら、そこが早いって……前に聞きました。先生が知ってるかは分かりません。でも、ナギサ様か救護騎士団が案内するなら、そこを使うかもしれません……」
部屋が静かになった。
ミサキさんの手が、私の頭から離れた。
それが終わりの合図みたいだった。
サオリさんは立ち上がる。
「十分だ」
私は、床に崩れたまま動けなかった。
息は戻っている。喉は痛いけれど、吸える。吸えるのに、胸の奥がずっと潰れている。
言った。
古い連絡通路。
先生が通るかもしれない場所。
そこだけは守るつもりだった。
そこだけは絶対に言わないつもりだった。
なのに。
「違う……」
私は震える声で言った。
「今の、違います……使わないで……お願いです……先生を撃たないで……」
サオリさんは答えなかった。
ミサキさんが、静かに言う。
「頑張ったね」
私は首を振った。
頑張ってなんかいない。
私は吐いた。
先生の道を、吐いた。
そのあと、どれくらい床に倒れていたのか分からない。
誰かが私の腕を引いた。立たされる。足が震えて、うまく歩けない。涙はまだ止まっていない。口元を拭きたいのに、手首は縛られたままだった。
部屋の外で、ヒヨリさんが顔を伏せていた。
目が合いそうになって、逸らされる。
それだけで、また胸が痛くなった。
アツコさんは何も言わなかった。ただ、じっと私を見ていた。その目に責める色はない。慰める色もない。だから余計に、何も隠せなかった。
サオリさんは短く命じる。
「移動準備」
その言葉で、全部が現実に戻る。
私が言った情報が使われる。
先生が会議に出ること。ナギサ様に呼ばれていたこと。救護への動線。古い連絡通路。
先生が撃たれる。
そう思った瞬間、膝から力が抜けそうになった。
ミサキさんが私の腕を掴む。
「倒れないで」
優しい声だった。
私はもう、その優しさが怖かった。
「先生を……」
声が掠れる。
「先生を、撃たないでください……」
誰も答えなかった。
答えないまま、アリウスは動き始めた。
そして私は、自分の口から吐いた道が、先生へ続いていく音を聞いていた。
やりすぎた