戦えない私がキヴォトス中の生徒に執着されるまで   作:Zuzuiikb

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6話 ちゃんと隣で

 放課後。窓の外が少し橙色になり始めた頃、私はヒフミ先輩と並んで歩いていた。

 

 ぎこちない。でも、嫌じゃない。

 

 むしろ、そのぎこちなさが少しだけ安心した。

 

 ヒフミ先輩は無理に話しかけてこない。ただ、私の歩幅に合わせて隣を歩いている。人が多い場所へ入る時だけ、少しだけ前へ出る。それだけ。でも、その“それだけ”が、今の私にはすごくありがたかった。

 

「……レナちゃん」

 

「はい?」

 

「今日は、ちゃんとご飯食べましたか?」

 

 不意の質問だった。私は少しだけ目を逸らす。

 

「……一応」

 

「“一応”って、絶対ちゃんと食べてない時の言い方じゃないですか」

 

「うっ……」

 

 図星だった。

 

 最近あまり食欲がない。食べようとしても、途中で気持ち悪くなる。そんなことまで見抜かれているのが、ちょっと悔しい。

 

 ヒフミ先輩は困ったみたいに笑った。

 

「レナちゃん、頑張りすぎです」

 

「……頑張ってないです」

 

「頑張ってます」

 

 即答だった。私は言葉に詰まる。

 

「私はちゃんと見てますよ」

 

 その言葉に、胸が少し痛む。思い出す。押さえつけられた腕。逃げられなかった感覚。力が入らなくなっていく感覚。笑い声。乱れた制服。

 

 呼吸が少し浅くなる。

 

 その瞬間、ヒフミ先輩が小さく「あっ」って顔をした。

 

「ご、ごめんなさい……!」

 

「い、いえ、大丈夫です」

 

 慌てて否定する。本当は全然大丈夫じゃなかった。でも、ヒフミ先輩にそんな顔をさせたくなかった。

 

 少し沈黙が落ちる。その空気が嫌で、私は無理やり話題を探した。

 

「……先輩って、なんでそんな優しいんですか」

 

「えぇっ!?」

 

 すごい勢いで振り向かれる。

 

「な、なんですか急に!」

 

「いや、なんか……普通あんなことあった後、もっと気まずくなるかなって」

 

「気まずいです!」

 

「えっ」

 

「めちゃくちゃ気まずいです!」

 

 ヒフミ先輩は顔を赤くしたまま、わたわたし始める。

 

「だ、だってレナちゃん避けるし……私なんか変なことしちゃったかなってずっと……」

 

「う……」

 

 罪悪感が刺さる。

 

 ヒフミ先輩は少しだけ俯いた。

 

「でも、怖がられても仕方ないかなって思ってました」

 

「……違います」

 

 気づけば、すぐ言葉が出ていた。

 

「怖かったわけじゃないです」

 

 ヒフミ先輩が顔を上げる。 私は少し迷ってから、小さく続けた。

 

「……合わせる顔、なかっただけで」

 

 その瞬間。ヒフミ先輩の顔が、泣きそうなくらい柔らかくなった。

 

「レナちゃん……」

 

 その声が優しすぎて、私は慌てて前を向いた。

 

 無理。

 

 そんな顔されたら泣く。

 

 その時、人混みが横を通った。肩がぶつかりそうになる。

 

 反射的に体が強張った。

 

「っ……」

 

 息が止まる。怖いというより、体が勝手に反応する。

 

 でも次の瞬間、ヒフミ先輩がすっと私の前へ半歩出た。何も言わない。ただ、人の流れを遮るみたいに立つ。

 

 その背中を見た瞬間、少しだけ呼吸が戻った。

 

「……大丈夫ですか」

 

 小さい声。私は俯いたまま頷く。ヒフミ先輩は、それ以上何も聞かなかった。優しい。優しすぎる。私はその横顔を見る。

 

 見ていたら、急に胸が苦しくなった。

 

「……先輩」

 

「はい?」

 

 言うか迷う。

 

 でも。

 

 今なら言える気がした。

 

「……手」

 

「え?」

 

「手、繋いでいいですか」

 

 ヒフミ先輩が止まる。

 

 目を見開く。

 

「…………え」

 

 本当に固まった。

 

 私は急に恥ずかしくなって目を逸らす。

 

「や、やっぱ今のなしで――」

 

「い、いいです!!」

 

 すごい勢いだった、周囲の人がちょっと見る。ヒフミ先輩は真っ赤になっていた。

 

「す、すみません大きい声出ました……」

 

「いや、びっくりしますって……」

 

 二人で変にしどろもどろになる。

 

 でも。

 

 嫌じゃない。

 

 ヒフミ先輩が、おそるおそる手を伸ばしてくる。前みたいに。壊れ物を扱うみたいに。

 

 私はその手へ、自分から指を重ねた。

 

 少しだけ震える。

 

 でも。

 

 今度は逃げたくならなかった。

 

 ヒフミ先輩の手は温かかった。強く握らない。押さえつけない。ただ、ちゃんと隣にいてくれる。

 

 それだけなのに。

 

 それだけだから。

 

 安心した。

 

「……レナちゃん」

 

「はい」

 

「私、これからも隣にいますからね」

 

 柔らかい声だった。私は少しだけ俯く。涙が出そうになる。

でも今度は、ちゃんと笑えた。

 

「……はい」

 

 まだ少し怖い。人混みも。思い出すのも、全部。

 

 でも。

 

 隣にヒフミ先輩がいるなら。

 

 それでも歩いていける気がした。

みんな重いのが好きだと思ってやりすぎちゃいました。ヒフミ編を終えてストーリー展開について意見おねがいします。

  • やりすぎ。二度としないで。
  • 毎回じゃなくて、ときどきだったらいいよ
  • 足りない。もっともっとやっていい
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