戦えない私がキヴォトス中の生徒に執着されるまで   作:Zuzuiikb

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3話 救うための力

夜の救護騎士団の部屋は、昼間よりずっと静かだった。

 

 それでも完全な無音ではない。どこかで書類をめくる音がして、遠くの廊下から小さな足音がして、誰かが器具を片付ける控えめな金属音が時々混ざる。仮眠室の扉越しに聞こえるその全部が、レナには不思議と落ち着かなかった。

 

 眠れない。

 

 布団は清潔で、枕も柔らかい。患者用の衣類も、思ったより着心地が悪くない。団員の人たちは「何かあったらすぐ呼んでくださいね」と言ってくれたし、ミネ先輩は「夜更かしは許しません」ってお母さんみたいなことを言い残していった。

 

 なのに、眠れない。

 

 目を閉じると、いろんなものが浮かぶ。ヒフミ先輩の手の温かさ。あの日の通路の冷たさ。自分の腕に力が入らなくなっていく感覚。助けられた瞬間の安堵と、それ以上に強かった、どうしようもない惨めさ。

 

 レナは布団の中で小さく寝返りを打った。

 

 ああ、もう。

 

 寝なきゃいけない時ほど寝れない現象、ほんと人類の敵だと思う。しかも今日に限って、寝なかったらミネ先輩に「やはり睡眠不足ですね」と一発で見抜かれる未来が見えている。あの人、多分、足音だけで睡眠時間を推定してくる。怖い。いや、怖いというか、すごい。すごいけど怖い。

 

 そんなことを考えていたら、扉の向こうで足音が止まった。

 

「……レナ。起きていますか」

 

 静かな声だった。

 

 レナは布団を少し握る。返事をしなければ、寝ていると思って帰ってくれるかもしれない。そう考えた瞬間、自分でも分かるくらい不自然に呼吸が止まった。

 

 数秒後、扉の向こうから小さく息を吐く気配がした。

 

「眠っている人間の呼吸ではありませんね」

 

「なんで分かるんですか……」

 

 思わず返事をしてしまった。

 

 負けた。

 

 ミネ先輩、強すぎる。

 

「入っても?」

 

「あ、はい……大丈夫です」

 

 扉が開く。廊下の明かりが細く差し込んで、ミネ先輩の青みがかった長い髪が淡く光った。昼間より少しだけ柔らかく見えるのは、夜だからだろうか。背筋は相変わらず綺麗に伸びているのに、声を落としているせいか、いつもの救護圧が少しだけ控えめになっている。

 

 ……いや、救護圧って何。

 

 レナは自分の脳内単語に少しだけ困った。

 

「体調はどうですか。頭痛、吐き気、息苦しさ、めまい。どれかありますか」

 

「開口一番、問診なんですね……」

 

「当然です。眠れない原因が身体的不調であれば、対応を変える必要があります」

 

 ミネ先輩は真面目にそう言いながら、ベッドから少し離れた椅子へ腰掛けた。近づきすぎない距離だった。触れようともしない。ただ、こちらが逃げなくて済む場所に座っている。

 

 それに気づいた時、レナは少しだけ布団を握る力を緩めた。

 

「体調は……たぶん大丈夫です。ちょっと、眠れないだけで」

 

「“たぶん”は信用できませんが、少なくとも顔色は昼より悪くありません。呼吸も極端には乱れていない。ならば、精神的な緊張の方でしょう」

 

「ほんと、何でも見ますね」

 

「救護ですから」

 

「便利な言葉……」

 

 ぽつりと漏らすと、ミネ先輩はほんの少しだけ目を細めた。怒ったわけではなさそうだった。むしろ、少しだけ笑いそうになったようにも見える。

 

 この人、真面目すぎて分かりづらいけど、たぶん結構優しい。

 

 いや、優しいのは分かってる。分かってるけど、優しさの出し方が「帰宅禁止」とか「休息命令」とかだから、受け取る側の処理が追いつかない。

 

「眠れない理由を、聞いてもいいですか」

 

 ミネ先輩が静かに言った。

 

 レナはすぐには答えられなかった。聞かれる気はしていた。でも、いざ聞かれると、喉の奥に言葉が引っかかる。何から話せばいいのか分からない。ヒフミ先輩のこと。あの日のこと。力が足りなかったこと。自分が、どうしても許せないこと。

 

 全部がごちゃごちゃになって、上手く言葉にならない。

 

「……無理に言う必要はありません」

 

 ミネ先輩はそう言った。

 

「ですが、話すことで少しでも整理できるなら、私は聞きます。助言が必要ならしますし、ただ聞くだけでいいなら黙って聞きます。救護とは、手当てだけではありませんから」

 

 その声は昼間よりずっと静かだった。押し切る感じじゃない。逃げ道を塞ぐのではなく、隣に道を置いてくれるような言い方だった。

 

 レナはゆっくり息を吸う。

 

「……私、助けてもらったんです」

 

「はい」

 

「ヒフミ先輩に。あの時、私、ほんとに何もできなくて。抵抗はしてたんですけど、全然届かなくて、最後はもう力も入らなくなって、それで……助けてもらって」

 

 そこまで言って、布団の端を握る指が強くなる。

 

「助けてもらったこと自体は、嬉しかったんです。本当に。ヒフミ先輩が来てくれなかったら、どうなってたか分からないし、あの人が私のために怒ってくれたことも、すごく……嬉しかったんです」

 

「……はい」

 

「でも、嬉しいのに、ずっと残ってるんです。私、あの時、結局何もできなかったなって。頑張ってたつもりだったのに、訓練もしてたのに、ちゃんと考えて動いてたはずなのに、力で押さえつけられて、抵抗も削られて、最後はただ助けられるだけで」

 

 レナはそこで一度言葉を切った。

 

 情けない。

 

 そう言いたくなったけれど、口には出さなかった。ミネ先輩が、そういう言葉を聞いたらたぶん怒る気がしたから。

 

 でも、言わなくても顔に出たのかもしれない。

 

 ミネ先輩の目が、少しだけ細くなる。

 

「レナ。あなたは、自分が助けられたことを恥じているのですか」

 

「……恥ずかしい、というか」

 

 レナは視線を落とす。

 

「私は、誰かに助けられるのが嫌なんじゃないです。ヒフミ先輩のことも、ミネ先輩のことも、救護騎士団の人たちのことも、本当にありがたいって思ってます。でも、それとは別に、守られるだけで終わるのが怖いんです。自分が誰かの後ろにいるだけの人間になっていく気がして」

 

 長く喋っているうちに、少しだけ声が震えた。

 

 でも、止まらなかった。

 

「私、誰かを助けたいって思うことはあるんです。困ってる人がいたら、手を伸ばしたいって思うし、怖がってる人がいたら前に立てるようになりたい。だけど、実際は全然足りなくて。助けたいのに助けられなくて、守りたいのに守られてばかりで……それが、ずっと嫌なんです」

 

 言ってしまった。

 

 布団の上に置いた手が、少しだけ震える。

 

 ミネ先輩は黙っていた。

 

 責めない。慰めない。すぐに「そんなことありません」とも言わない。ただ、レナの言葉を全部受け止めるみたいに、まっすぐこちらを見ている。

 

 その沈黙がありがたかった。

 

 急いで答えを出されるより、ちゃんと重さを測ってくれている気がしたから。

 

「……レナ」

 

「はい」

 

「あなたの願いは、尊いものです」

 

 静かな声だった。

 

 レナは顔を上げる。

 

「誰かを助けたい。誰かの前に立ちたい。そう思えること自体は、簡単ではありません。恐怖を知った後なら、なおさらです。あなたはあの日、力で敗北した。抵抗を封じられ、自分の限界を見せつけられた。その上でなお、誰かを救いたいと言っている」

 

 ミネ先輩の声は、ひとつひとつの言葉を置くように続く。

 

「それは弱さではありません」

 

 胸の奥が、少しだけ熱くなった。

 

 でも、次の言葉は甘くなかった。

 

「ですが、尊い願いほど、扱いを誤れば人を傷つけます」

 

「……」

 

「誰かを救いたいという気持ちは、時に自分を軽視する理由になります。あなたの場合、特にその傾向が強い。自分が傷つくことを必要経費のように扱い、自分が倒れても誰かが助かればいいと考えてしまう危うさがある」

 

 図星だった。

 

 いや、図星かどうかも分からない。

 

 でも、言われた瞬間、何も返せなかった。

 

「救うためには、気持ちだけでは足りません。判断力、体力、技術、撤退の見極め、周囲を見る目。そして何より、自分自身を救護対象として扱う冷静さが必要です」

 

「自分自身を……?」

 

「そうです。あなたは他者を助けたいと言う前に、自分を助ける術を覚えなければならない。救う側が倒れれば、救えるはずだった人まで失うことになります」

 

 レナは唇を噛みかけて、やめた。

 

 ミネ先輩の言葉は厳しい。

 

 でも、切り捨てられている感じはしなかった。

 

 むしろ、ちゃんと現実の話をしてくれている。夢みたいな励ましじゃなくて、痛いところまで見た上で、それでも道があると言ってくれている気がした。

 

「……私、強くなりたいです」

 

 気づけば、声が出ていた。

 

「誰かを傷つけたいわけじゃないです。あの時の人たちを見返したいとか、そういう気持ちが全然ないって言ったら嘘になるかもしれません。でも、それだけじゃなくて……私は、誰かを助けられるようになりたいんです」

 

 ミネ先輩は動かない。

 

 レナは続けた。

 

「守られるだけじゃなくて、必要な時にちゃんと動けるようになりたいです。怖くても、足が震えても、それでも誰かの前に立てるようになりたい。だから、私に教えてください。救うための力を」

 

 言葉にしてから、心臓が少し遅れて跳ねた。

 

 言った。

 

 言ってしまった。

 

 こんなことを頼んでいいのか、今さら不安になる。ミネ先輩は救護騎士団の団長で、忙しい人で、レナだけに構っている暇なんてないはずだ。それに、個人的に師事するなんて、周囲から見たら特別扱いに見えるかもしれない。

 

 また誰かに言われるかもしれない。

 

 守られてばかりだと。

 

 取り入ったのだと。

 

 弱いから面倒を見てもらっているのだと。

 

 そう考えた瞬間、指先が少し冷たくなった。

 

 でも、ミネ先輩はレナから目を逸らさなかった。

 

「……本気ですね」

 

「はい」

 

「簡単ではありませんよ。あなたの願いは優しい。ですが、優しい人間ほど、戦闘では迷います。撃つべき場面で躊躇し、退くべき場面で残り、守るべきものを増やしすぎて自分の首を絞める」

 

「……はい」

 

「それでも、学びますか」

 

 レナは布団の上で姿勢を正した。

 

 仮眠室で、患者用の衣類を着て、毛布を掛けられたままの姿で、全然かっこよくない。たぶん、ミネ先輩から見たら保護対象のままだ。だけど、今だけは逃げたくなかった。

 

「お願いします」

 

 ミネ先輩はしばらく黙っていた。

 

 廊下の向こうで、誰かが小さく咳払いをした音が聞こえる。たぶん団員の人が起きている。もしかしたら、少しだけ聞こえているのかもしれない。レナは少し恥ずかしくなったけれど、それでも視線を下げなかった。

 

 やがてミネ先輩が立ち上がる。

 

 その動きは静かで、背筋が真っ直ぐで、やっぱり騎士みたいだった。

 

「....いいでしょう」

 

 ミネ先輩は言った。

 

「あなたが本気で救うための力を求めるなら、私が見ます」

 

「……ミネ先輩」

 

ミネ先輩の声は、強いのに乱暴じゃない。言われた瞬間は逃げ道を塞がれた気分になるのに、少し遅れて、自分が倒れないように支えられているだけだと気づく。

 

「ただし、甘くはしません。あなたにはまず、自分を粗末にしないことを覚えてもらいます。訓練は体を壊すためのものではありませんし、力は怒りや恐怖のまま振るうものでもありません」

 

 ミネ先輩の目が、まっすぐレナを捉える。

 

「最初に一つ、制限を置きます」

 

「制限……ですか」

 

「はい。あなたが目指すべきは、相手を壊すことではありません。傷つく人を減らすことです。戦う時も、勝つことだけを目的にしてはいけない。救うために戦いなさい」

 

 その言葉は、優しくて重かった。

 

 レナは小さく頷く。

 

「はい」

 

「そしてもう一つ。誰かを救うために、自分を犠牲にすることを美徳だと思わないこと。あなたが倒れれば、あなたを大切に思う人間も傷つきます」

 

 ヒフミ先輩の顔が浮かんだ。

 

 泣きながら撃っていた姿。

 

 「返してください」と叫んだ声。

 

 胸が少し痛む。

 

「……はい」

 

「返事は良いですね。ですが、あなたは実戦になると忘れそうです」

 

「信用がない……」

 

「ありません」

 

「そこは少し優しくしてくれても……」

 

「優しさで済ませてはいけない部分です」

 

 即答だった。

 

 でも、少しだけ空気が緩む。

 

 レナは思わず笑ってしまった。ミネ先輩は本当に真面目だ。真面目で、厳しくて、救護に関してはちょっとおかしくて、でも言葉の根っこはずっと優しい。

 

「では、明日から基礎を見ます。まずは体力、姿勢、呼吸、状況判断。それから、あなたは自分の限界を正しく申告する練習も必要です」

 

「戦闘訓練に混ざってくる内容じゃない気がします」

 

「最重要項目です」

 

「最重要なんだ……」

 

「当然です。あなたは『まだ大丈夫です』と言いながら倒れる可能性が非常に高い」

 

「そんなにですか?」

 

「はい」

 

 強い。

 

 まったく揺るがない。

 

 レナが困った顔をしていると、扉の向こうから小さな声がした。

 

『団長、弟子入り成立ですか?』

 

 レナの肩が跳ねる。

 

 聞かれてた。

 

 やっぱり聞かれてた。

 

 ミネ先輩は扉の方へ視線を向ける。

 

「休憩中のはずですが」

 

『すみません、見回りです。あと、聞こえました』

 

『団長に弟子ができる歴史的瞬間だったので、つい』

 

「あなたたち、仮眠室の前で何をしているのですか」

 

『救護です』

 

「その言葉を軽率に使わないでください」

 

 レナは布団の中で顔を覆いたくなった。

 

 恥ずかしい。

 

 でも、少しだけおかしい。

 

 扉の向こうで団員たちが小声で笑っている気配がして、ミネ先輩は小さくため息をつく。けれど、その横顔は本気で怒っているというより、呆れているだけに見えた。

 

『レナさん、頑張ってくださいね。団長の訓練、たぶん愛情重いですよ』

 

『最初に倒れない練習から始まりそう』

 

『いや、まずは寝る練習では?』

 

「全員、持ち場に戻りなさい」

 

 声は低いのに、どこか慣れている。

 

 団員たちの足音が遠ざかっていく。

 

 レナは布団の端から少しだけ顔を出した。

 

「……なんか、聞かれてましたね」

 

「申し訳ありません。団員には後で注意しておきます」

 

「いえ、悪い感じじゃなかったので。なんか、ちょっと恥ずかしいですけど」

 

 ミネ先輩は少しだけ目を伏せる。

 

「彼女たちは、あなたを心配しているのです」

 

「私を?」

 

「はい。あなたは自分で思っているより、周囲に気にされています」

 

 レナはすぐには返事ができなかった。

 

 自分で思っているより。

 

 その言葉が、胸の中でゆっくり広がる。

 

「……そうなんですかね」

 

「そうです」

 

 ミネ先輩は迷わず言った。

 

「少なくとも、ここではそうです」

 

 レナは布団を握る。

 

 少しだけ目が熱くなった。

 

 泣くほどじゃない。

 

 でも、何かがほどける感じがした。

 

「……ありがとうございます」

 

「礼は不要です。救護ですから」

 

「またそれ……」

 

 レナが小さく笑うと、ミネ先輩もほんの少しだけ表情を和らげた。

 

 そして立ち上がる。

 

「今日はもう休みなさい。訓練の話は明日からです。眠れないようなら、温かい飲み物を用意します」

 

「大丈夫です。さっきより、少し眠れそうです」

 

「それは良い傾向です」

 

 ミネ先輩が扉へ向かう。

 

 その背中を、レナは思わず呼び止めた。

 

「ミネ先輩」

 

「はい」

 

「……私、頑張ります」

 

 言ってから、少しだけ恥ずかしくなる。

 

 でもミネ先輩は笑わなかった。

 

 真剣に頷いた。

 

「はい。ですが、頑張りすぎたら止めます」

 

「そこはもう決定なんですね」

 

「師としても、救護騎士団としても、当然です」

 

 その言い方があまりにもミネ先輩で、レナはまた少し笑ってしまった。

 

扉を閉める直前、ミネ先輩がふと足を止めた。

 

「……最後に、体温だけ確認します」

 

「え、今ですか」

 

「眠れない理由が緊張だけとは限りません。念のためです」

 

 そう言って近づいてきてから、ミネ先輩はすぐには手を伸ばさなかった。ベッドの横で一度止まり、レナの目を見て、静かに確認する。

 

「触れても?」

 

 その一言で、胸の奥が少しだけ変な音を立てた。

 

 別に、嫌じゃない。むしろ、嫌じゃないから困る。ミネ先輩の声はいつも通り真面目で、そこに変な意味なんて一つもないのに、こういうふうに丁寧に扱われると、自分が本当に大事なものみたいに思えてしまう。

 

「……はい」

 

 小さく頷くと、ミネ先輩の指先がそっと額に触れた。

 

 冷たい、と思うより先に、丁寧だな、と思った。押さえつけるでも、確かめるだけでもなく、壊れやすいものへ触れるみたいな慎重さだったから、レナは一瞬、どういう顔をすればいいのか分からなくなる。

 

「熱はありませんね。呼吸も、先ほどより落ち着いています」

 

「……ミネ先輩、そういうの急にやると心臓に悪いです」

 

「急ではありません。確認を取りました」

 

「そういう意味じゃなくて……」

 

 レナが困ったように呟くと、ミネ先輩は少しだけ首を傾げた。本当に分かっていない顔だった。その真面目さが少しおかしくて、少しずるい。

 

「では、今後はより慎重に確認します」

 

「いや、慎重にされたらされたで、たぶん余計に困ります」

 

「難しいですね」

 

「私が難しい人みたいに言わないでください……」

 

 小さな声でそう返すと、ミネ先輩の表情がほんの少しだけ緩んだ。レナの額から手が離れる。その温度が消えたあとも、なぜかそこだけ少し残っている気がして、レナは布団の端を握ったまま目を逸らした。

 

 ミネ先輩はそれ以上何も言わず、ただ布団のずれた端を直してから立ち上がる。

 

「おやすみなさい、レナ。明日から、少しずつ始めましょう」

 

「……はい。おやすみなさい、ミネ先輩」

 

 扉が閉まる。

 

 今度こそ仮眠室に静けさが戻った。

 

 レナは額に残った感覚を誤魔化すように布団へ少しだけ顔を埋める。体温確認。救護。師匠としての管理。たぶんミネ先輩の中では、全部そういう真面目な分類なのだろう。

 

 でも。

 

 それでも、さっきより眠れそうだった。

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