戦えない私がキヴォトス中の生徒に執着されるまで   作:Zuzuiikb

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2話 なんか、放っておけなかった

正直、最初はただ休憩するつもりだった。

 ティーパーティーの会議は長い。いや、長いだけならまだいい。問題なのは、ナギちゃんが細かいことを気にし始めると止まらなくなることだ。

 書類、予算、今後の交流会、警備配置、エデン条約関連の確認。

大事なのは分かる。でも、ずっと同じ空気の中にいると流石に疲れる。

 

「……ちょっと休憩しよ」

 

 誰に言うでもなく呟いて、私は席を立った。たぶん十分くらいなら大丈夫。……いや、ナギちゃんなら普通に気づきそうだけど。

まあ、その時はその時だ。

 軽く伸びをしながら廊下を歩く。静かな場所に行きたかった。それで自然と足が向いたのが保健室だった。

別に怪我したわけじゃない。ただ、保健室ってなんとなく落ち着くんだよね。

 消毒液の匂いとか、白いカーテンとか、窓から入る午後の日差しとか。そういうのが全部、少しだけ現実感を薄くしてくれる。

 

「失礼しま〜す♪」

 

 扉を開けると、見知った顔がこっちを見た。

 

「あれ、先生も来てたんだ」

 

机の上に資料を広げていて、いかにも仕事中って感じ。

 

「資料整理してただけ。ミカは?」

 

「ちょっと休憩〜。会議長すぎて疲れちゃった」

 

「サボり?」

 

「うーん、半分くらい?」

 

「ナギサに怒られるわよ」

 

「あはは、あとでちゃんと戻るって〜」

 

 そんな軽口を返しながら中へ入って――そこで初めて、もう一人いることに気づいた。

 

「あれ?」

 

 椅子に座っていたのは、見覚えのない女の子だった。

 たぶん一年生。

 真面目に着こまれたトリニティの制服。膝には白い包帯。金色の髪は光に透けるみたいに柔らかくて、少し幸薄そうな雰囲気が妙に目を引いた。

 

 綺麗な子だと思った。

 でも、その子はずっと俯いていて、顔がよく見えない。……いや、見えないようにしてるって感じかも。

 

「あれ、怪我?」

 

「あっ、はい……」

 

 小さい声だった。

 嫌そうではない。ただ、ものすごく緊張してる。

 

「また転んだのよ、この子」

 

「先生っ」

 

「また?」

 

 思わず聞き返すと、その子は恥ずかしそうにさらに小さくなった。

 

「その……備品運んでて、段差踏み外して……」

 

「あ〜……」

 

「な、なんですかその反応……」

 

「いや、なんか想像できちゃって」

 

 実際、本当に想像できた。

真面目に荷物抱えて、一生懸命運んで、周り気にして、でも足元見えてなくて転ぶ。そんな感じ。

その子は「うぅ……」って顔をしていた。

 

 反応が分かりやすすぎる。

 

「結構痛そうだけど、大丈夫?」

 

「だ、大丈夫です! そこまでじゃないので……」

 

「そこまでじゃない人、そんな包帯巻かないと思うけどな〜」

 

「うっ……」

 

「ちなみに箱も派手にひっくり返したわ」

 

「先生!?」

 

 あはは。本当に忙しい子だなぁ。

でも、その時点でちょっと気になってた。

なんでだろう。

別に特別なことをしたわけじゃない。ただ転んだだけ。それなのに、妙に目が離せなかった。

 

「一緒にいた子、めちゃくちゃ心配してたわよ。“私が頼んじゃったせいで……”って」

 

「そ、そんなことっ……悪いのは私なのに」

 

 即答だった。

しかも、本気でそう思ってる顔。

 

 ……ああ、なるほど。

 

 この子、多分、自分より先に他人を気にするタイプだ。

しかもかなり無意識。

だから危なっかしい。

 先生が呆れる理由もなんとなく分かった。

 

「名前、聞いてもいい?」

 

「えっ、あ……レナです」

 

 レナ。

 

 柔らかい響きだった。

 

「レナちゃんかぁ」

 

 口に出してみると妙にしっくりくる。なんとなく、その子に合ってる名前だと思った。

 

「私はミカ。まあ、知ってると思うけど」

 

「は、はい……もちろん……」

 

 その返事で少し笑いそうになる。

 やっぱり緊張してる。

 

「ふふっ、緊張しすぎじゃない?」

 

「だ、だってミカ先輩ですし……」

 

「私そんな怖い?」

 

「こ、怖いというか、有名人というか……同じ学園にいるのに、遠くから見る人って感じで」

 

「あ〜、なるほどねぇ」

 

 そういう反応には慣れてる。ティーパーティーってだけで距離置かれること、結構あるし。

でもレナちゃんの場合、“媚び”じゃない気がするんだよね。

 本当にただ緊張してるだけのような。

 それが少し面白かった。

私はそのままレナちゃんの隣へ腰掛ける。すると、分かりやすく肩がぴくっと揺れた。

 

「あはは、固まってる」

 

「す、すみません……」

 

「なんで謝るの?」

 

「反射で……」

 

「本当に小動物みたい」

 

 そう言うと、レナちゃんは困ったように目を逸らした。

近くで見ると、思った以上に細い。首とか手首とか、折れそうなくらい華奢だった。ちゃんと食べてるのかな、この子。

 しかも、顔立ちはかなり整ってる。

俯いてるから分かりにくいけど、多分普通に目立つタイプ。でも本人は、それを全然自覚してなさそうだった。

 そういうところも含めて、なんだか危なっかしかった。

 

「……?」

 

 視線に気づいたのか、レナちゃんが不安そうにこっちを見る。

 その顔が妙に無防備で、気づけば私は、その前髪に手を伸ばしていた。

 

「……あ」

 

「ちょっと跳ねてる」

 

 さら、と髪を整える。

 柔らかい。

 思っていたよりずっと。

 レナちゃんの肩が小さく震えた。

 

「ミ、ミカ先輩……」

 

「んー?」

 

「ち、近いです……」

 

「そう?」

 

 私はそのまま、頬にも軽く触れた。

 熱い。緊張してるんだろうなぁ。

 

「慣れてない感じ、ちょっと可愛い」

 

「か、かわっ……!?」

 

 耳まで真っ赤になった。

 ……反応良すぎ。

なんか、もっと見たくなる。

 

 困った顔とか、恥ずかしそうな顔とか、名前呼ばれて慌てるところとか。もっと見たら、どんな反応するんだろうって。

近くで見ると睫毛が長い。俯きがちだから分かりにくいけど、ちゃんと顔を上げたらかなり目を引くと思う。

なのに本人は、それを全然分かってなさそうだった。

そういうところ、危なっかしいんだよね。

無防備というか。誰かに優しくされたら、そのままずるずる持っていかれそうな感じ。

 

「……なんか、放っておけないなぁ」

 

 思わず口から零れた言葉に、レナちゃんがきょとんとした顔をする。

その顔すら、少し無防備すぎる。

もしこの子が、悪い相手に捕まったらどうなるんだろう。

 

 ……なんて。

 

 初対面の相手に考えることじゃないのに。

でも、そう思ってしまった。

ちゃんと見てないと危ない。

変な子に引っかかったら、きっとこの子、自分が壊れるまで相手を優先する。

そんな危うさがあった。

 

 だから、もう一度だけその髪に触れる。

さら、と指の間を滑っていく感触が妙に心地よかった。

レナちゃんの肩がまた小さく震える。

 

 ……ああ。

 

 本当に慣れてないんだ。

じゃあ、もしもっと距離が近かったら。

 耳元で名前を呼んだら。抱き寄せたら。甘やかしたら。

 

 この子、どんな声で鳴くんだろう。

r18っている?

  • 必要だろ。んなもん
  • いらない。プラトニックこそが至高
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