戦えない私がキヴォトス中の生徒に執着されるまで 作:Zuzuiikb
正直、最初はただ休憩するつもりだった。
ティーパーティーの会議は長い。いや、長いだけならまだいい。問題なのは、ナギちゃんが細かいことを気にし始めると止まらなくなることだ。
書類、予算、今後の交流会、警備配置、エデン条約関連の確認。
大事なのは分かる。でも、ずっと同じ空気の中にいると流石に疲れる。
「……ちょっと休憩しよ」
誰に言うでもなく呟いて、私は席を立った。たぶん十分くらいなら大丈夫。……いや、ナギちゃんなら普通に気づきそうだけど。
まあ、その時はその時だ。
軽く伸びをしながら廊下を歩く。静かな場所に行きたかった。それで自然と足が向いたのが保健室だった。
別に怪我したわけじゃない。ただ、保健室ってなんとなく落ち着くんだよね。
消毒液の匂いとか、白いカーテンとか、窓から入る午後の日差しとか。そういうのが全部、少しだけ現実感を薄くしてくれる。
「失礼しま〜す♪」
扉を開けると、見知った顔がこっちを見た。
「あれ、先生も来てたんだ」
机の上に資料を広げていて、いかにも仕事中って感じ。
「資料整理してただけ。ミカは?」
「ちょっと休憩〜。会議長すぎて疲れちゃった」
「サボり?」
「うーん、半分くらい?」
「ナギサに怒られるわよ」
「あはは、あとでちゃんと戻るって〜」
そんな軽口を返しながら中へ入って――そこで初めて、もう一人いることに気づいた。
「あれ?」
椅子に座っていたのは、見覚えのない女の子だった。
たぶん一年生。
真面目に着こまれたトリニティの制服。膝には白い包帯。金色の髪は光に透けるみたいに柔らかくて、少し幸薄そうな雰囲気が妙に目を引いた。
綺麗な子だと思った。
でも、その子はずっと俯いていて、顔がよく見えない。……いや、見えないようにしてるって感じかも。
「あれ、怪我?」
「あっ、はい……」
小さい声だった。
嫌そうではない。ただ、ものすごく緊張してる。
「また転んだのよ、この子」
「先生っ」
「また?」
思わず聞き返すと、その子は恥ずかしそうにさらに小さくなった。
「その……備品運んでて、段差踏み外して……」
「あ〜……」
「な、なんですかその反応……」
「いや、なんか想像できちゃって」
実際、本当に想像できた。
真面目に荷物抱えて、一生懸命運んで、周り気にして、でも足元見えてなくて転ぶ。そんな感じ。
その子は「うぅ……」って顔をしていた。
反応が分かりやすすぎる。
「結構痛そうだけど、大丈夫?」
「だ、大丈夫です! そこまでじゃないので……」
「そこまでじゃない人、そんな包帯巻かないと思うけどな〜」
「うっ……」
「ちなみに箱も派手にひっくり返したわ」
「先生!?」
あはは。本当に忙しい子だなぁ。
でも、その時点でちょっと気になってた。
なんでだろう。
別に特別なことをしたわけじゃない。ただ転んだだけ。それなのに、妙に目が離せなかった。
「一緒にいた子、めちゃくちゃ心配してたわよ。“私が頼んじゃったせいで……”って」
「そ、そんなことっ……悪いのは私なのに」
即答だった。
しかも、本気でそう思ってる顔。
……ああ、なるほど。
この子、多分、自分より先に他人を気にするタイプだ。
しかもかなり無意識。
だから危なっかしい。
先生が呆れる理由もなんとなく分かった。
「名前、聞いてもいい?」
「えっ、あ……レナです」
レナ。
柔らかい響きだった。
「レナちゃんかぁ」
口に出してみると妙にしっくりくる。なんとなく、その子に合ってる名前だと思った。
「私はミカ。まあ、知ってると思うけど」
「は、はい……もちろん……」
その返事で少し笑いそうになる。
やっぱり緊張してる。
「ふふっ、緊張しすぎじゃない?」
「だ、だってミカ先輩ですし……」
「私そんな怖い?」
「こ、怖いというか、有名人というか……同じ学園にいるのに、遠くから見る人って感じで」
「あ〜、なるほどねぇ」
そういう反応には慣れてる。ティーパーティーってだけで距離置かれること、結構あるし。
でもレナちゃんの場合、“媚び”じゃない気がするんだよね。
本当にただ緊張してるだけのような。
それが少し面白かった。
私はそのままレナちゃんの隣へ腰掛ける。すると、分かりやすく肩がぴくっと揺れた。
「あはは、固まってる」
「す、すみません……」
「なんで謝るの?」
「反射で……」
「本当に小動物みたい」
そう言うと、レナちゃんは困ったように目を逸らした。
近くで見ると、思った以上に細い。首とか手首とか、折れそうなくらい華奢だった。ちゃんと食べてるのかな、この子。
しかも、顔立ちはかなり整ってる。
俯いてるから分かりにくいけど、多分普通に目立つタイプ。でも本人は、それを全然自覚してなさそうだった。
そういうところも含めて、なんだか危なっかしかった。
「……?」
視線に気づいたのか、レナちゃんが不安そうにこっちを見る。
その顔が妙に無防備で、気づけば私は、その前髪に手を伸ばしていた。
「……あ」
「ちょっと跳ねてる」
さら、と髪を整える。
柔らかい。
思っていたよりずっと。
レナちゃんの肩が小さく震えた。
「ミ、ミカ先輩……」
「んー?」
「ち、近いです……」
「そう?」
私はそのまま、頬にも軽く触れた。
熱い。緊張してるんだろうなぁ。
「慣れてない感じ、ちょっと可愛い」
「か、かわっ……!?」
耳まで真っ赤になった。
……反応良すぎ。
なんか、もっと見たくなる。
困った顔とか、恥ずかしそうな顔とか、名前呼ばれて慌てるところとか。もっと見たら、どんな反応するんだろうって。
近くで見ると睫毛が長い。俯きがちだから分かりにくいけど、ちゃんと顔を上げたらかなり目を引くと思う。
なのに本人は、それを全然分かってなさそうだった。
そういうところ、危なっかしいんだよね。
無防備というか。誰かに優しくされたら、そのままずるずる持っていかれそうな感じ。
「……なんか、放っておけないなぁ」
思わず口から零れた言葉に、レナちゃんがきょとんとした顔をする。
その顔すら、少し無防備すぎる。
もしこの子が、悪い相手に捕まったらどうなるんだろう。
……なんて。
初対面の相手に考えることじゃないのに。
でも、そう思ってしまった。
ちゃんと見てないと危ない。
変な子に引っかかったら、きっとこの子、自分が壊れるまで相手を優先する。
そんな危うさがあった。
だから、もう一度だけその髪に触れる。
さら、と指の間を滑っていく感触が妙に心地よかった。
レナちゃんの肩がまた小さく震える。
……ああ。
本当に慣れてないんだ。
じゃあ、もしもっと距離が近かったら。
耳元で名前を呼んだら。抱き寄せたら。甘やかしたら。
この子、どんな声で鳴くんだろう。
r18っている?
-
必要だろ。んなもん
-
いらない。プラトニックこそが至高