戦えない私がキヴォトス中の生徒に執着されるまで   作:Zuzuiikb

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7話 見ている人

 

 昨日の道を、思い出しながら歩いていた。

 

 右に傾いた看板。砂に半分埋もれたバス停。角を曲がるたびに少しだけ変わる風の向き。柴関ラーメンへ続く細い道は、店の暖簾が出ていない朝だと、昨日よりずっと静かに見えた。

 

 セリカさんに言われた声が、耳の奥に残っている。

 

 道くらい覚えときなさいよ。

 

 冷たく言われたはずなのに、思い出すと少しだけ胸が温かくなるのは、たぶん、その言葉の中に明日が入っていたからだ。今日だけの相手には、道を覚えろなんて言わない。明日も来るなら、迷わないようにしろ。そういう意味が、ほんの少しだけ混ざっていた気がした。

 

 もちろん、思い込みかもしれない。

 

 セリカさんに言ったら、絶対に怒られる。

 

 だから、心の中にだけ置いておく。

 

 先生は少し遅れて来ることになっていた。シャーレ側の確認があるらしい。先に行って、アヤネさんと昨日の救護導線の続きを見ておいてほしいと頼まれた。アビドス側にも連絡は入れてあるから、一人で無茶をしているわけではない。

 

 それでも、砂の道に自分の足音だけが落ちると、少し心細かった。

 

 昨日よりは暑くない。水もある。救護バッグも、余計な物を少し置いてきたから軽い。それなのに、アビドスの空はやっぱり広すぎる。見上げると、自分が小さくなったみたいで、胸元のリボンを指で押さえたくなる。

 

 押さえかけて、やめた。

 

 大丈夫。

 

 私は、ここへ来る。

 

 そう決めて歩いている。

 

 砂を踏む音が、少しだけ変わった。

 

 顔を上げる。

 

 少し先の曲がり角に、白い髪が見えた。

 

「シロコさん?」

 

「ん」

 

 シロコさんは、いつも通りの短い返事をした。

 

 朝の砂の中に、最初からそこにいたみたいに立っている。驚いた顔も、待っていた顔もしない。けれど、偶然にしてはちょうどいい場所だった。昨日、私が迷いそうになった角。右へ行くと学校から少し外れ、左へ曲がると校門へ近づく道。

 

「もしかして、迎えに来てくれたんですか?」

 

「見回り」

 

「そうですか」

 

「そのついで」

 

 ついで。

 

 その一言の中に、どれくらい本当が入っているのか分からない。

 

 シロコさんは私の横ではなく、半歩前を歩き始めた。道を塞がない位置。けれど、私が違う方向へ行こうとしたら、すぐに気づける位置。

 

「この角は左」

 

「あ、はい。昨日はここで少し迷いました」

 

「看板、向きが変わってる。風で回る。目印にしない方がいい」

 

「そうなんですね」

 

「次は、壁のひびを見る。あれは変わらない」

 

 シロコさんの台詞は短い。

 

 でも、今日は少しだけ理由がついている。

 

 看板ではなく、壁のひび。動くものではなく、動かないものを見る。そういう判断を、シロコさんは何も考えずにしているわけではないのだと思った。言葉にしないだけで、道も、人も、危険も、ちゃんと分けて見ている。

 

 私は壁のひびを見た。

 

 斜めに入った細い線。砂で少し白くなった縁。覚えようとすると、ただの壊れた壁ではなくなる。アビドスへ行くための目印になる。

 

「ありがとうございます。次は、たぶん一人でも分かります」

 

「たぶん?」

 

 シロコさんがこちらを見た。

 

 表情は変わらない。

 

 でも、少しだけ言葉を待たれている気がした。

 

「……分かります」

 

「ん」

 

 それだけ言って、シロコさんは前を向いた。

 

 褒められたわけではない。

 

 でも、間違ってはいないと確認された気がした。

 

 アビドス高等学校は、朝の光の中でも寂しかった。

 

 校門の影は短く、昨日直したバリケードにはまだ私の指の跡が残っているような気がした。実際にはそんなもの見えるはずがないのに、金具を押さえた時の冷たさを手が覚えている。セリカさんに「指挟まないようにしてよ」と言われた声まで一緒に思い出して、少しだけ口元が緩みそうになった。

 

 校舎へ入ると、アヤネさんがすでに対策委員会室で資料を広げていた。

 

「おはようございます、レナさん。シロコ先輩も、ありがとうございます」

 

「ん。途中にいた」

 

「途中にいた、ということは迎えに行ってくださったんですね」

 

「見回り」

 

「はい、そういうことにしておきます」

 

 アヤネさんは眼鏡の奥で少しだけ笑った。

 

 シロコさんは否定しなかった。

 

 否定しないのなら、たぶん半分くらいは本当なのだと思う。いや、やっぱり分からない。シロコさんの沈黙は、時々、言葉より難しい。

 

「レナさん、昨日の救護導線の件なのですが、少し相談してもいいでしょうか」

 

「はい。私でよければ」

 

 机の上には、昨日より少し整理された地図が広がっていた。校門。玄関。廊下。対策委員会室。使われていない教室。保健室。物資置き場。赤と青の線が引かれている。赤は襲撃時の敵の侵入方向。青は味方の移動経路。そこへ、緑の線が新しく足されていた。

 

「これは、救護導線ですか?」

 

「はい。レナさんが昨日示してくださった一時救護地点を基点に、負傷者を下げる経路を整理してみました。ただ、このままだと実際に動ける人数と合わない可能性があります。アビドスは人手が少ないので、紙の上で綺麗でも、誰が担架を持つのか、誰が敵を抑えるのか、誰が情報を回すのかまで考えないと、机上の空論になってしまいますから」

 

 アヤネさんの声は真面目だった。

 

 でも、どこか少しだけ嬉しそうにも聞こえた。問題を整理する人の声。難しいけれど、何を考えればいいのかが見えている時の声。

 

 私は地図へ視線を落とした。

 

 アビドスの校舎は広い。広すぎる。五人で守るには、きっとどこも広すぎる。でも、広いからこそ、先に決めておけることがある。どこへ下がるか。誰が何を持つか。怪我人が出ていない時にも、誰が疲れているかを見るか。

 

「ここ、玄関横から保健室へ運ぶ線が長いです。保健室を使うならいいんですけど、襲撃中にここまで戻すのは少し大変かもしれません」

 

「やはり、そうですよね」

 

「はい。軽傷なら玄関横で処置して、重傷なら先生やホシノ先輩たちの指示で安全確保後に移動、がいいと思います。あと、救護地点を一つにすると、そこを塞がれた時に困るので、候補をもう一つ置けると……」

 

 私はペンを持って、地図の端を指した。

 

「この教室は使えますか?」

 

「旧視聴覚室ですね。今はほとんど使っていませんが、鍵はあります。ただ、窓の一部が閉まりにくくて、砂が入りやすいんです」

 

「それなら、救護地点というより物資の仮置きに近いかもしれません。砂を完全に防げなくても、搬送前に包帯や水を取りに行ける場所が増えるだけで、少し楽になると思います」

 

「なるほど……」

 

 アヤネさんのペンが走る。

 

 その速さを見て、少しだけ嬉しくなった。私の言葉が、またアビドスの地図に入っていく。昨日より少しだけ自然に。おそるおそる置いた線ではなく、相談の中で引かれる線として。

 

「レナさんがいると……」

 

 アヤネさんが言いかけて、止まった。

 

 ペン先が紙の上で小さく揺れる。

 

「……いえ、すみません。こういう整理が進みます。私たちだけだと、どうしても戦闘と返済の方に目が行きがちで、負傷者対応はその場その場になってしまっていたので」

 

 私は顔を上げた。

 

 アヤネさんは、少しだけ目を伏せていた。

 

 さっきの言葉の続きは、たぶん聞かない方がいい。レナさんがいると助かる。レナさんがいると安心する。そういう言葉だったとしても、まだ早い。アヤネさん自身も、まだそう言い切ることを許していないのだと思う。

 

「私で役に立てるなら、嬉しいです」

 

 それだけ返した。

 

 アヤネさんは、少しだけ息をついた。

 

「はい。とても」

 

 短い言葉だった。

 

 けれど、机の上の資料よりも、ずっと直接胸に届いた。

 

「じゃあ、旧視聴覚室を見る」

 

 シロコさんが言った。

 

 いつの間にか、壁際で地図を見ていたらしい。

 

「棚、倒れてるかもしれない。確認した方がいい」

 

「そうですね。シロコ先輩、レナさん、お願いできますか? 私はこの地図を少し修正してから、後で合流します」

 

「はい」

 

「ん」

 

 シロコさんと一緒に廊下へ出た。

 

 朝の校舎は、昨日の夕方よりもっと静かだった。光が白く、廊下の砂が薄く見える。足音が二人分だけ響く。教室の扉には古い札が残っていて、中には机が積まれている部屋もあった。

 

 使われていない場所。

 

 そう思うたびに、胸の奥が少しだけ痛む。

 

 救護騎士団の部室は、いつも人の気配があった。誰かが書類をめくる音、訓練の報告、紅茶の湯気、団員たちの小声の笑い。ここには、そういう音が少ない。少ないのに、校舎だけは大きい。

 

 大きすぎる場所に、五人分の声がぽつんと残っている。

 

 そんな感じがした。

 

「ここ」

 

 シロコさんが旧視聴覚室の前で止まった。

 

 鍵は開いていた。扉を押すと、少し重い音がして、内側の空気が動く。砂と古い紙の匂い。使われていない椅子、壁際に寄せられた机、少し傾いた棚。窓の隙間から細かな砂が入り、床の端に薄く溜まっている。

 

 私は一歩入って、部屋を見回した。

 

 ここを物資の仮置きにするなら、まず砂を払う必要がある。棚は使えるかもしれないけれど、傾いているのが気になる。下の脚が浮いているように見えた。

 

「この棚、少し危ないかもしれませんね」

 

 近づこうとした時、袖が軽く引かれた。

 

 手首ではなかった。

 

 袖。

 

 ほんの少し布が引かれて、足が止まる。

 

 それだけなのに、胸の奥が妙に静かになった。急に掴まれたわけではない。押さえられたわけでもない。止めるための接触なのに、逃げ道が残っている。

 

 シロコさんは、私の袖を離した。

 

「危ない。棚、下が砂で浮いてる。手を伸ばしたら、たぶん一緒に倒れる」

 

「あ……すみません」

 

「謝らなくていい。次から気をつけて」

 

「はい」

 

 短い。

 

 でも、そこに怒りはなかった。

 

 次、見る。

 

 できなかったことを責めるのではなく、次に見るものを増やす言い方だった。ミネ先輩なら、きっともっと詳しく分析する。先生なら、どうするかを待ってくれる。シロコさんは、その中間みたいに、必要なところだけを置いていく。

 

「シロコさんは、よく見ていますよね」

 

「見てる」

 

「……はい」

 

「見ないと、危ない。アビドスは、壊れてるところが多いから」

 

 その言葉が、少しだけ胸に刺さった。

 

 壊れてるところが多い。

 

 校舎のことを言っているのだと思う。棚。窓。標識。砂に埋もれた道。でも、それだけではない気がした。アビドスそのものが、少しずつ壊れかけている。だから、シロコさんは見ている。道を、敵を、仲間を、崩れそうなものを。

 

 もしかしたら、私のことも。

 

「私も、ちゃんと見たいです」

 

 口に出してから、少しだけ恥ずかしくなった。

 

 シロコさんがこちらを見る。

 

「何を?」

 

「アビドスのことを。まだ全然分からないですけど、分からないまま何か言うのは嫌なので」

 

 シロコさんはしばらく黙っていた。

 

 表情は変わらない。

 

 でも、黙り方が少しだけ違った。

 

「分からないって言う人は、少ない」

 

「そうなんですか?」

 

「うん。だいたい、分かった顔をする」

 

 短い言葉なのに、重かった。

 

 きっとアビドスには、いろんな人が来たのだと思う。見に来ただけの人。助けると言って、何もしなかった人。分かったような顔で、書類だけを置いていった人。私はその人たちを知らない。けれど、シロコさんの声の中に、そういうものを見送ってきた静けさがあった。

 

「私は、まだ分かっていません」

 

「ん」

 

「だから、見ます」

 

「ん」

 

 シロコさんはそれ以上何も言わなかった。

 

 でも、棚を直す時、先に傾きを確認してから、私の方へ短く目配せした。

 

「こっち持って。下じゃなくて横。倒れたら離して」

 

「はい」

 

 指示は短い。でも、分かりやすい。

 

 二人で棚を壁際へ寄せた。砂で少し滑る。力を入れすぎると、脚がまた浮く。シロコさんは無言で力の向きを変え、私はその動きに合わせた。

 

 棚が安定した時、少しだけ息が合った気がした。

 

 それだけで、嬉しくなるのは早すぎる。

 

 でも、嬉しかった。

 

「使えそう」

 

「はい。ここに水と包帯、予備の布を置ければ、校門側から戻る時に少し楽になると思います」

 

「じゃあ、アヤネに言う」

 

「はい」

 

 部屋を出る前に、私はもう一度旧視聴覚室を見た。

 

 使われていない机。古い棚。砂の匂い。ここに物資が置かれたら、この部屋はただの空き部屋ではなくなる。誰かが戻る途中で使う場所になる。怪我をした人を、少しだけ助ける場所になる。

 

 場所は、使われることで意味が変わるのだと思った。

 

 人も、そうなのだろうか。

 

 自分がどこにいるかで、自分の意味も少し変わるのだろうか。

 

 考えかけて、やめた。

 

 今は、地図へ報告することが先だ。

 

 対策委員会室へ戻る途中、セリカさんと廊下で鉢合わせた。

 

「あれ、何してるの?」

 

「旧視聴覚室を確認していました。物資の仮置きに使えるかもしれなくて」

 

「また仕事増やしてるわけ?」

 

「増やしているというより、先に決めておくと楽かなって」

 

「……まあ、楽になるならいいけど」

 

 セリカさんはそう言ってから、すぐに顔を逸らした。

 

「別に褒めてないから」

 

「はい」

 

「その返事、やっぱり調子狂う……」

 

 セリカさんはぶつぶつ言いながら、私たちと一緒に対策委員会室へ戻った。

 

 少しだけ普通に話せた。

 

 ほんの少しだけ。

 

 それでも、昨日よりは近い。近づきすぎてはいない。まだ距離はある。けれど、最初の「今さら」だけでできた壁に、小さな隙間ができた気がした。

 

 アヤネさんに旧視聴覚室のことを報告すると、すぐに地図へ緑の印が足された。

 

「ありがとうございます。これで救護候補地点が二つになりますね。あとは実際の襲撃時に、どちらを使うか判断できるよう、条件を整理しておきます」

 

「私も手伝います」

 

「お願いします。レナさんの視点が入ると、こちらでは見落としていた部分に気づけるので」

 

 アヤネさんはそう言って、今度は言葉を止めなかった。

 

 そのことに、少しだけ胸が温かくなる。

 

 頼られるのは怖い。

 

 期待されるのも怖い。

 

 でも、役に立てるのは嬉しい。

 

 その二つが同時に胸の中へ来るから、どういう顔をすればいいのか分からなくなる。

 

 昼前、先生が到着した。

 

 少し遅れたことを謝りながら、手にはシッテムの箱。先生は地図を見ると、穏やかに目を細めた。

 

「進んでいるわね」

 

「レナさんが手伝ってくださいました」

 

 アヤネさんが言う。

 

 私は慌てて首を振った。

 

「いえ、アヤネさんがほとんど整理してくださっていて、私は少し見ただけで」

 

「それでも少し見たことが、大事なのよ」

 

 先生が言った。

 

「人は、自分たちだけで見続けていると、見慣れすぎて気づけなくなることがある。外から来たあなたが、ちゃんと見ようとしてくれるのは、アビドスにとって意味があるわ」

 

 ちゃんと見ようとしている。

 

 先生の言葉が、胸に落ちる。

 

 私はまだ分かっていない。

 

 でも、見ようとしている。

 

 それだけは、言ってもいいのかもしれない。

 

 午後は校門周辺の見回りになった。

 

 先生、シロコさん、私で、昨日の襲撃地点から少し先まで確認する。セリカさんは別の備品整理、アヤネさんは資料修正、ノノミさんとホシノ先輩は物資確認。ホシノ先輩が「おじさん、力仕事はちょっとなぁ」と言った瞬間、アヤネさんに「ホシノ先輩」と静かに睨まれていた。

 

 砂の道へ出ると、午前より少し風が強くなっていた。

 

 倒れかけた看板。壊れた柵。砂に埋もれたタイヤ跡。シロコさんはその一つ一つを見る。先生は少し後ろで端末を確認しながら、必要な時だけ声をかける。私はメモを取りながら歩いた。

 

 旧視聴覚室、物資仮置き候補。

 

 玄関横、一時救護地点。

 

 校門右側、砂深い。足を取られやすい。

 

 看板、風で向きが変わる。目印に不向き。

 

 地図にないものが、少しずつ増えていく。

 

 アビドスは、紙の上だけでは分からない。

 

 歩くと分かる。砂を踏むと分かる。靴の中に入り込む粒の感触で、ここがどれだけ長く砂に削られてきたのか、少しだけ分かる気がする。

 

 ふと、シロコさんが立ち止まった。

 

 私も止まる。

 

 シロコさんは何も言わず、少し離れた場所にある古い標識を見ていた。標識の根元が、砂でほとんど埋まっている。今にも倒れそうだった。

 

「危ないですね」

 

「うん。風が強いと倒れる」

 

「撤去しますか?」

 

「今は道具がない。位置だけ覚える」

 

 シロコさんはそう言って、標識と私の位置を交互に見た。

 

「ここ、近づきすぎないで」

 

「はい」

 

「倒れたら、たぶんレナの方に来る」

 

 ただの注意だった。

 

 でも、言い方が少しだけ具体的だった。危ない、ではなく、レナの方に来る。そこに私の位置が入っていることに気づいて、胸の奥に小さな跡が残る。

 

 シロコさんは、見ている。

 

 標識を。風を。砂を。

 

 そして、私がどこにいるかを。

 

 見回りが終わる頃、校門の近くで私はメモをまとめていた。先生は少し離れてシッテムの箱を確認している。シロコさんは前方の道を見ていた。

 

 ふと、シロコさんが振り返った。

 

 目が合う。

 

 私は少しだけ首を傾げる。

 

「どうかしましたか?」

 

「いるか確認した」

 

 あまりにも普通に言われて、返事が遅れた。

 

「……私が、ですか?」

 

「うん」

 

「私はいますよ、ずっと」

 

「ん」

 

 シロコさんは頷いて、また前を向いた。

 

 それだけだった。

 

 校門、砂の道、倒れかけた標識、そして私。

 

 たぶん、警戒の一部なのだと思う。必要なものを確認しているだけ。私も、危険な標識や、砂の深い道や、敵の侵入方向と同じように、今ここにある確認対象の一つに入っただけ。

 

 そう思った。

 

 そう思ったのに、胸の奥に小さな跡が残った。

 

 見られていることが、落ち着かない。

 

 でも、置いていかれていない気もする。

 

 風が吹いて、砂が足元を流れた。私はメモ帳を閉じ、胸元のリボンではなく、今歩いてきた道の方を見た。

 

 昨日より少しだけ、道が分かる。

 

 アビドスのことは、まだ分からない。

 

 でも、分からないまま帰りたいとは、もう思えなかった。

アビドス編の最終的な展開について迷っています。ぜひ見たい方を投票してください。

  • 百合って綺麗だから綺麗に終わって
  • 曇らせドロドロ依存エンド希望
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