戦えない私がキヴォトス中の生徒に執着されるまで   作:Zuzuiikb

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3話 ちょうどよかったから

今日は図書館で勉強をしてた。

静かすぎるくらい静かだ。ページをめくる音と、誰かが遠くで椅子を引く音くらいしか聞こえない。私は割とこの空間が好きだった。落ち着くし、誰も話しかけてこないし、あと単純にサボってる感じがしない。

 

 ここは大事っと。

 

「……よし」

 

 最後の一行を書き終えて、私はノートを閉じる。

窓の外を見ると、空が少し赤くなっていた。

やばい。普通に長居してた。

 

 私は慌てて本を抱えて立ち上がる。ちょっと冊数多いなと思ったけど、まあ持てるしいいか、でそのまま廊下へ出た。

 

 夕方のトリニティは静かだった。

 

 窓から入る光が長く床へ伸びていて、昼間より少し柔らかい感じがする。私はぼんやりその光を見ながら歩いて――数秒後、廊下の先で聞こえた笑い声に反射的に顔を上げた。

 

 ……あ。

 

 ミカ先輩だ。数人の生徒と話している。

なんかもう、すぐ分かる。声が。

別に大声出してるわけじゃないのに、なんでこんな見つけやすいんだろう。先輩がいると周りの空気がふわっと明るくなる感じがある。

 

 芸能人?

 

 いやティーパーティーだからある意味そうか。

そんなこと考えてたら、生徒たちがぺこっと頭を下げて去っていく。

そのあと。

 ミカ先輩が、こっちを見た。

 

「あれ、レナちゃん」

 

「っ、こ、こんにちは……!」

 

 終わった。声も裏返ったし、反射で背筋伸びた。

 

「ふふっ。なんか毎回ちょっとびっくりしてない?」

 

「し、してないです……」

 

「ほんとかなぁ」

 

 ミカ先輩が笑いながら近づいてくる。

やっぱりこの人近くで見ると強い。

顔が良いとか、そういう一言で片付けていいのか分からないくらい強い。

あと距離感が終わってる。

 

「また図書室?」

 

「あ、はい。ノートまとめてました」

 

「真面目だなぁ」

 

「そんなことないです。家だと集中切れちゃうので……」

 

「へぇ〜。私だったら絶対途中で飽きるかも」

 

「それはどうなんですか、ティーパーティーとして……」

 

 思わずそう返すと、ミカ先輩がちょっと目を丸くした。

 

「うわ、ちゃんとツッコまれた」

 

「……たまには言い返します」

 

「んふふ、なんか新鮮」

 

 そう言いながら、ミカ先輩が私の抱えてた本を半分持っていく。

 

「あっ」

 

「分担ね〜」

 

「い、いいです! 持てますから……!」

 

「うん、でも重そうじゃん」

 

「まあちょっとは……」

 

「ほら〜」

 

ミカ先輩が笑う。

なんというかこの人、“面倒見る”っていうより、“勝手に入り込んでくる”んだよな。しかも本人にその自覚があんまりない。

 でも不思議と嫌じゃない。それは先輩が持つパッシブスキルなんだろう。

 

 それでもミカ先輩を時々怖いと感じることがある。いや怖くはないんだけど、その目が時々圧倒的な捕食者のような、格好の獲物を見つけた肉食獣のような、そんな目を先輩はする。

 

ティールームまで並んで歩く。

 

最近はミカ先輩と一緒にお茶を飲む機会が増えた。立場的に不相応だし最初は首を全力で振って断ってた。けど無理やり連れて行かれていくうちに慣れた。この人には引くと言う概念がないらしい。基本的に一人ぼっちで浮いてる私に気をかけてくれているのかもしれない。

 

 途中、私は何回かミカ先輩の横顔を見てしまった。

綺麗だ。いや、ほんとに。

 

 窓から入る夕方の光が髪にかかってるだけで絵になるし、笑う時に少し目が細くなるのとか、近くで見ると普通に破壊力高い。しかも本人絶対それ分かってない。

無自覚美人、いちばんタチ悪い。

 

「レナちゃん?」

 

「っ、は、はい!」

 

「さっきからちょいちょい固まるよねぇ」

 

「か、固まってません……」

 

「固まってるよ〜。さっきからちょいちょい止まるし」

 

 ミカ先輩が楽しそうに笑う。

ティールームへ入ると、紅茶の匂いがふわっと漂った。

私は小さく息を吐く。落ち着く。

 

 ……はずなんだけど。

 

 ミカ先輩が隣へ座った瞬間、落ち着きは死んだ。近い。いや近い近い。肩当たってる。なんで自然に隣座るんだこの人。

 

「ミカ先輩……」

 

「んー?」

 

「近いです」

 

「え〜?」

 

「肩当たってます」

 

「あ、ほんとだ」

 

「気づいたなら離れてください……!」

 

やっぱりこの人”強い“

なんならちょっと体重かかってる。

絶対“人との適切な距離”とか授業で習ってない。

 

 しばらくして紅茶とケーキが運ばれてくる。

私はフォークでケーキを切って、小さく息を吐いた。

 

「……おいしい」

 

「ん、一口ちょうだい」

 

「えっ」

 

 待って。返事してない。

 してないのに。ミカ先輩、普通に私のケーキ食べた。しかも私のフォークで。

 

「あ」

 

「ん〜、ほんとだ。美味しい」

 

「そ、それ私のなんですけど……!」

 

「え、だめだった?」

 

 だめというか。なんというか。

普通もうちょっと躊躇とかないんですか。

 あと顔が近い。直視できない。

今フォーク持ってる手、普通に触れた。

なんかもう全部近い。やっぱり距離感バグってる。

 

「レナちゃんって、ほんと反応いいよねぇ」

 

「私の心臓、そんな高性能じゃないので……!」

 

「ふふっ、なにそれ」

 

「急に来られると普通にびっくりするんです……」

 

「でもちゃんと反応返ってくるから可愛いんだよねぇ」

 

 ミカ先輩が笑いながら、今度は私のノートを覗き込む。

 

「わっ、字綺麗」

 

「えっ」

 

「なんかちゃんとしてる〜。レナちゃんの字って感じ」

 

「字に私っぽさあります……?」

 

「あるよ〜。真面目そう」

 

そう言いながら、ミカ先輩がページをぱらぱらめくる。そのたび髪が肩へ触れる。近い。あとなんか良い匂いする。

普通にエロい。

いや、ほんとなんなんだろうこの人。

別に露出してるわけでもないのに、距離感だけでこっちが意識してしまう。私なんかが想っていい立場の人じゃないのに。家柄も立場も年齢も性格も。

 

「……ミカ先輩、近いです」

 

「え〜、今さら?」

 

「今さらとかじゃないです……」

 

「ふふっ」

 

「...そういえばレナちゃん、今日ちょっと来るの遅かったよねぇ」

 

「え?」

 

「んー、なんとなくそう思っただけ」

 

 しばらくそのまま紅茶を飲んでいたと思ったら、今度はふいに私の肩へ顎を乗せてきた。

 

「っ!?」

 

 重みがかかる。

 近い。

 というか。 待って。

 顎。

 顎乗ってる。

 なにこれ。

 

「みみ、み、ミカ先輩……!?」

 

「んー?」

 

「な、なんで顎乗せてるんですか……!」

 

「なんかちょうどよかったから?」

 

 意味分からない。ちょうどいいって何。

 しかも近い。耳元近い。声近い。

あと温かい。普通に心臓に悪い。

 

「レナちゃん、なんか落ち着くんだよねぇ」

 

「わ、私は落ち着きません……!」

 

「ふふっ、知ってる」

 

 絶対楽しんでる。

 

 でも。

 

 顎を乗せたまま、ミカ先輩は本当に落ち着いたみたいに目を細めていた。

その顔を見てしまうと、“離れてください”って言いづらくなる。

 

 ずるい。本当にずるい。

しかもこの人、たぶん今、自分がかなり危ないことしてる自覚ない。

 

それが一番タチ悪かった。

r18っている?

  • 必要だろ。んなもん
  • いらない。プラトニックこそが至高
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