戦えない私がキヴォトス中の生徒に執着されるまで 作:Zuzuiikb
朝のアビドスは、昨日のラーメンの匂いを少しも残していなかった。
当たり前だ。柴関ラーメンは学校の中にあるわけではないし、あの湯気も、醤油の匂いも、セリカさんが水を置く音も、夜のうちに店の外へ流れて消えていったのだと思う。
それでも、胸のどこかではまだ覚えていた。
アルさんが特盛ラーメンを見て固まった顔。ムツキさんが楽しそうに笑っていた声。カヨコさんの低い「社長」。ハルカさんが何度も頭を下げようとして、セリカさんに止められていたこと。
変な人たちだった。
本当に、変な人たちだった。
悪い人なのか、いい人なのか、最後までよく分からなかった。少なくとも、柴関ラーメンでラーメンを食べていた時の四人は、ただの空腹で騒がしいゲヘナの生徒に見えた。少し怪しくて、少し危なっかしくて、でも柴大将の厚意にちゃんと頭を下げられる人たち。
だから、校門の向こうにその姿が見えた時、最初に感じたのは恐怖ではなかった。
胸の奥が、変なふうに詰まった。
「……嘘でしょ」
セリカさんの声が、私より先に落ちた。
校門の外。砂を巻き上げる風の中に、昨日の四人がいた。
赤い髪のアルさんは、昨日よりずっと頑張って悪そうに立っていた。背筋を伸ばし、銃を構え、口元に余裕のある笑みを浮かべようとしている。けれど、その笑みは少しだけ硬い。
ムツキさんは楽しそうに笑っている。昨日と同じ笑顔なのに、手元にある武器のせいで、その楽しさの温度が少し違って見えた。
カヨコさんは面倒そうに立っていた。でも、目だけは冷静で、こちらの人数、位置、先生の立ち位置まで見ている。
ハルカさんは震えていた。けれど、ただ怯えているのではなく、今にも勢い余って何かを壊してしまいそうな震えだった。
昨日、同じ湯気の中にいた人たち。
今日、校門の外にいる人たち。
その二つが、うまく重ならない。
「……社長」
カヨコさんが低く言った。
「もう引き返せないよ。ここまで来たんだから」
「わ、分かっているわ」
アルさんの声が少しだけ上ずる。
けれど、すぐに咳払いをして、胸を張った。
「ふ、ふふ……昨日は昨日、今日は今日。アウトローたるもの、情に流されて仕事を放棄するわけにはいかないのよ」
「昨日ラーメン奢ってもらったけどね〜」
「ムツキ!」
「しかも特盛だったよね〜」
「ムツキ!」
「社長、声が大きい。威厳より動揺が出てる」
「カヨコまで!」
緊張していたはずなのに、空気が一瞬だけ変な方向へ転がりかけた。
でも、誰も笑えなかった。
セリカさんの手が、ぎゅっと銃を握りしめている。
「昨日、普通にラーメン食べてたじゃない」
セリカさんの声は低かった。
「柴大将にあんなに頭下げて、うちの店で騒いで、散々食べて……それで今日、何? うちを襲いに来たってこと?」
「そ、それは……」
アルさんが言葉に詰まる。
ハルカさんが真っ青になって、今にも地面に頭をぶつけそうな勢いで震えた。
「す、すみません! 昨日のご恩を忘れたわけではありません! でも社長の命令は絶対で、私は社長のためならたとえ昨日ラーメンをいただいた方々を相手にすることになっても、心を鬼にして、その、えっと、でもやっぱり申し訳なくて、あの、私が全部悪いので私だけを――」
「ハルカ、落ち着いて! 話が余計にこじれる!」
アルさんが慌てる。
ムツキさんは笑っていたけれど、昨日より少しだけ目が細い。カヨコさんはため息をついた。
「こうなるから、昨日あの店で食べるのはまずいって言ったんだけど」
「言った!? 言ったかしら!?」
「言った。社長がラーメンに夢中で聞いてなかっただけ」
「ぐっ……!」
アヤネさんが端末を握る手に力を入れる。
「つまり、あなたたちは昨日の時点で、私たちがアビドスだと分かっていて……それでも今日、ここへ来たんですね」
アヤネさんの声は丁寧だった。
だからこそ、怒っているのが分かった。
怒鳴るよりも、ずっと痛い声だった。
アルさんは少しだけ目を伏せた。
でもすぐに、無理やり顔を上げる。
「ええ、そうよ。これが仕事だから。私たちは……その、依頼を受けた以上、最後までやり遂げる。それが、私の――」
「その依頼って、誰から?」
シロコさんが言った。
短い声。
昨日のラーメンの時とは違う。砂漠で初めて会った時よりも、もっと静かで、もっと冷たい声だった。
アルさんの言葉が止まる。
カヨコさんが一歩前へ出た。
「それは言えない。こっちにも事情があるから」
「うちにも事情はあるわよ」
セリカさんが噛みつく。
「学校を守る事情があるの。借金だって、襲撃だって、物資不足だって、こっちはずっと抱えてる。それに昨日、あんたたちだって見たでしょ。柴関ラーメンで、アビドスの話を少しは聞いたでしょ。それでも来るんだ?」
「……来るしかない時もある」
カヨコさんの声は低かった。
言い訳には聞こえなかった。
でも、謝罪にも聞こえなかった。
その中途半端さが、余計につらかった。
先生は、まだ銃を構えていなかった。シッテムの箱を片手に、便利屋の四人とアビドスのみんなを静かに見ている。大人の目。昨日と同じ、でも昨日よりずっと重い目だった。
「アル」
先生が言った。
「本当に、戦うしかないの?」
アルさんの肩が、ほんの少しだけ揺れた。
呼び捨てにされたからではないと思う。先生の声が、責めるより先に問いかけたからだ。
「……先生」
アルさんは唇を噛んだ。
その顔は悪党の顔ではなかった。昨日、特盛ラーメンを前に財布を見て青ざめていた人の顔に近かった。格好つけたいのに、格好つけきれない人の顔。
でも、次の瞬間、アルさんは銃を構え直した。
「私は、便利屋の社長よ。受けた仕事を投げ出すような真似はできない。たとえ相手が、昨日ラーメンを一緒に食べた相手でも……ここで引いたら、私の信じるアウトローではなくなる」
「社長……」
ハルカさんが、泣きそうな顔でアルさんを見る。
ムツキさんは少し楽しそうに、でも何かを見極めるように笑っていた。
カヨコさんは小さく息を吐く。
「決まりだね」
風が吹いた。
砂が校門の前を流れていく。
昨日の湯気は、もうどこにもない。
「セリカ、前に出すぎないで」
先生の声が切り替わった。
「シロコは左の射線を抑えて。ノノミは校舎側へ近づけさせないように。アヤネ、敵の位置と味方の動きを共有して」
「はい!」
アヤネさんの返事が響く。
その声で、私の体も動いた。
怖い。
胸の奥はまだ揺れている。
昨日の人たちだ。昨日、同じ店にいた。ハルカさんは柴大将に頭を下げていた。アルさんは「おいしい」とこぼしていた。ムツキさんは笑っていて、カヨコさんは先生を見て「大変だね」と言った。
でも、今は違う。
今、守るべきなのはアビドスだ。
セリカさんが戻る場所。シロコさんの射線。ノノミさんが守る範囲。アヤネさんが情報を繋ぐ位置。ホシノ先輩が本気を隠して立つ場所。
私は便利屋さんたちを助けに来たんじゃない。
先生と一緒に、アビドスを支えるためにここにいる。
迷ってはいけない。
迷った一拍で、誰かが怪我をするかもしれないから。
「レナさん!」
アヤネさんの声が飛ぶ。
「玄関横の救護地点、使えます。旧視聴覚室の物資も配置済みです!」
「分かりました。私は玄関横を基点にします。セリカさんが右から戻る場合は、砂が深いので少し手前で声をかけます。シロコさんが左へ抜けるなら、視界を切る煙幕は風下へ投げます」
「了解です。先生、救護導線共有します!」
アヤネさんの端末に、私が前に引いた線が映っている。
その線が、今、本当に使われようとしている。
嬉しいと思う余裕はなかった。
ただ、間に合ってよかったと思った。
「レナ」
シロコさんがこちらを見る。
「前に出すぎないで。必要なら呼ぶ」
「はい。シロコさんも、一人で深く追わないでください」
「ん」
短い返事。
でも、ちゃんと聞こえた。
戦闘が始まった。
最初に動いたのはムツキさんだった。
「じゃ、いっくよ〜!」
笑い声と一緒に、小さな爆発音が砂を跳ねさせる。派手だけど、狙いは雑ではない。こちらの足を止める場所、動きたくなる方向、その少し先に落ちてくる。楽しそうなのに、ちゃんと危ない。
「何なのよあの子、笑いながら撃ってくるんだけど!」
セリカさんが右へ走りながら叫ぶ。
「セリカちゃん、右前方にもう一つ来ます!」
アヤネさんの声。
「分かってる!」
セリカさんが砂を蹴って避ける。昨日まで直していたバリケードの前で、彼女は一瞬だけ足を止めた。そこを越えさせない。そう決めている背中だった。
アルさんが銃を構える。
「ふふ、対策委員会……あなたたちの意地、見せてもらうわ!」
声は格好いい。
でも、撃つ直前に少しだけためらった。
ほんの一拍。
それをシロコさんは見逃さない。
「遅い」
短い銃声。
アルさんが慌てて身を引く。
「ちょ、ちょっと! 今のは演出の間よ!」
「社長、戦闘中に演出いらない」
カヨコさんが横から冷静に撃つ。
カヨコさんの動きは、他の三人と違って見えた。派手ではない。けれど、こちらが嫌がる場所をちゃんと狙ってくる。先生がすぐに指示を出す。
「ノノミ、校舎側を広く抑えて。カヨコの射線を切るわ」
「はいは〜い。皆さん、校舎には近づかないでくださいね〜」
ノノミさんの声は柔らかい。
でも、火力は柔らかくない。
便利屋側の動きが少し止まる。
ハルカさんが悲鳴のような声を上げた。
「社長! 私が道を開きます! 全部吹き飛ばせば、きっと道は開けます!」
「吹き飛ばさない! ハルカ、目標は学校の制圧であって、学校そのものを消すことではないわ!」
「す、すみません! 危うく任務を根本から破壊するところでした!」
「本当に危ないからやめて!」
セリカさんが叫ぶ。
「昨日から思ってたけど、あの子、発想が怖すぎる!」
「でも、悪い子じゃなさそうです」
思わず言ってしまってから、すぐに口を閉じた。
今それを言う場面ではない。
セリカさんが一瞬だけこちらを見る。
「分かってるわよ!」
怒鳴られた。
でも、その声は私を責める声ではなかった。
「分かってるけど、今は敵なの! そこ間違えたら、こっちが怪我するでしょ!」
「はい!」
そうだ。
分かっている。
悪い子に見えない。
でも、今は敵。
だから止める。
傷つけたいからではない。通さないために止める。アビドスの誰かが怪我をしないように、私は私の場所を見る。
救護は、迷わないための線でもある。
私は玄関横へ下がり、バッグを開いた。手袋。包帯。消毒液。水。発煙弾。昨日確認した順番通りに並べる。指先が少し震えていた。便利屋さんたちの声が聞こえるたび、柴関ラーメンの湯気が頭をよぎる。
でも、手順は崩さない。
ミネ先輩が何度も叩き込んでくれたから。
「セリカさん、右足元、砂が深いです!」
「見えてる!」
「その先、戻るなら手前で左へ!」
「分かってるってば!」
セリカさんは怒鳴りながらも、私の言った通り手前で左へ切った。ムツキさんの爆発が、さっきセリカさんが進もうとしていた場所を弾く。
「うわ、そっち見てたんだ〜」
ムツキさんが楽しそうに言う。
「救護騎士団ちゃん、意外と厄介かも」
厄介。
その言葉に、少しだけ胸が鳴った。
怖いのに、変なところで嬉しくなる。役に立てている。邪魔ではなく、ただの保護対象でもなく、アビドス側の動きの中に入れている。
「レナちゃん」
ノノミさんの声がした。
振り向くと、ノノミさんがこちらを見ていた。
笑っている。
でも、目は真剣だった。
「少し下がってくださいね。そこ、次に狙われるかもしれません」
「はい」
ノノミさんの声は優しい。
でも、いつもより少しだけ強い。
私を包むように見えて、そのまま後ろへ押し戻す声だった。守られている。ありがたい。でも、その優しさが少しだけ重くなり始めているのを感じた。
シロコさんが左へ抜ける。
カヨコさんがそれに合わせて射線を変える。
先生の指示が飛ぶ。
「シロコ、追いすぎないで。カヨコは誘っているわ」
「分かってる」
「本当に?」
「……分かってる」
少しだけ間があった。
先生はそこを聞き逃さなかった。
「レナ、左側に煙幕準備」
「はい!」
私は風を見る。
昨日より横に流れる。投げるなら、シロコさんとカヨコさんの間ではなく、少し手前。視界を切る。でも、シロコさんの退路は塞がない。
「シロコさん、三歩下がってください!」
「ん」
シロコさんが下がる。
私は発煙弾を投げた。
白い煙が砂の上を滑る。カヨコさんの射線が一瞬切れる。シロコさんはその隙に位置を変えた。
カヨコさんが、煙の向こうで小さく笑った気がした。
「厄介なのが増えたね」
その声は聞こえたかどうか分からないくらい小さかった。
でも、たぶん言った。
戦闘は、想像より長引いた。
便利屋68は、昨日の騒がしさからは想像できないくらいちゃんと強かった。アルさんは格好つけて崩れるけれど、社長として前に立とうとする。ムツキさんは楽しそうに場を荒らす。カヨコさんは冷静に嫌な場所を突く。ハルカさんは危なっかしいけれど、一度勢いがつくと止めにくい。
でも、アビドスも引かなかった。
シロコさんが道を塞ぎ、セリカさんが右側を守る。ノノミさんが校舎側を抑え、アヤネさんが全員の位置を繋ぐ。先生が指揮をする。ホシノ先輩は、いつもの眠そうな顔のまま、一番危ない場所にいた。
ホシノ先輩だけ、少し違って見えた。
力を出しすぎていない。
でも、抜いているわけでもない。
便利屋側が校舎へ近づきそうになるたび、気づけばそこにいる。軽く笑って、軽く止める。その軽さが、逆に怖い。アルさんも途中でそれに気づいたのか、ホシノ先輩を見る目が変わった。
「……あの人、何なの?」
アルさんの声に、カヨコさんが低く答える。
「たぶん、一番まずい相手」
「うへぇ」
ホシノ先輩が聞こえていたのか、眠そうに笑った。
「おじさん、そんな怖くないよ〜。若い子たちの元気についていくのがやっとだからねぇ」
「絶対嘘でしょ!」
セリカさんが味方なのに突っ込んだ。
ほんの一瞬、空気が変なふうに緩む。
でも、すぐにムツキさんの爆発音が戻した。
最後に均衡を崩したのは、先生の指示だった。
「ノノミ、正面を抑えて。シロコは左から回り込む。セリカ、アルを正面に釘付けにして。レナ、セリカの戻り道を空けて」
「はい!」
セリカさんがアルさんへ向かう。
「昨日のラーメン代、まだ払ってないんじゃないの!?」
「そ、それは店主の厚意で――」
「厚意もらった次の日に学校襲うのがアウトローなわけ!?」
「ぐっ……! それは、その、非常に……複雑な事情が!」
「複雑なら帰れ!」
「帰れないから来てるのよ!」
言い合いながら撃ち合っている。
もう何が何だか分からない。
でも、その言葉の一つ一つが痛かった。
帰れないから来ている。
それは、アルさんの本音に聞こえた。
便利屋68も、何かに追われている。依頼。お金。社長としての意地。アウトローであろうとする姿。そういうものに背中を押されて、ここに来てしまった。
でも、それでも。
アビドスを傷つけていい理由にはならない。
シロコさんが左から回り込み、アルさんの退路を塞いだ。
ノノミさんの火力が正面を押さえる。
カヨコさんが舌打ちする。
「社長、引くよ。これ以上は割に合わない」
「ま、まだよ! ここで引いたら――」
「社長」
カヨコさんの声が低くなる。
「依頼は失敗じゃなくても、全滅したら終わり。判断して」
アルさんは唇を噛んだ。
目が揺れている。
昨日のラーメン屋で見た、格好つけきれない顔。
けれど、次の瞬間、アルさんは大きくマントを払うように腕を動かした。
「……ふ、ふふ。今日のところはここまでにしてあげるわ! アビドス対策委員会、そして先生! 次に会う時まで、その意地を磨いておきなさい!」
「負け惜しみじゃない!」
セリカさんが叫ぶ。
「戦略的撤退よ!」
「同じでしょ!」
「違うわ!」
ムツキさんがけらけら笑い、ハルカさんが何度も頭を下げながら後退する。
「す、すみません! 次はもっと上手く襲撃します!」
「次がある前提で謝るな!」
セリカさんが怒鳴る。
カヨコさんは最後に、先生とレナを一度だけ見た。
その目は、昨日と同じようで違った。
「……面倒なことになったね」
誰に言ったのか分からない。
便利屋68は、砂の向こうへ退いていった。
銃声が止まる。
爆発音も、足音も、少しずつ遠ざかる。
残ったのは、風と砂と、荒くなった呼吸だけだった。
「全員、怪我は?」
先生の声で、私は我に返った。
「確認します!」
すぐに動く。
セリカさんの足元。擦り傷はない。砂は入っている。右足首、少し負担。ノノミさんの肩、問題なし。シロコさんの腕、軽い擦過。アヤネさんは後方だったけれど、緊張で手が冷えている。ホシノ先輩は――
「おじさんは大丈夫だよ〜」
「確認します」
「うへぇ、逃げられないねぇ」
「逃がしません」
言ってから、自分でも少し驚いた。
ホシノ先輩が目を細める。
「レナちゃん、強くなったねぇ」
「ミネ先輩に怒られるので」
「そっかぁ」
ホシノ先輩は笑った。
でも、その笑顔は少し遠い。
便利屋68が来たこと。
その裏に誰かがいるかもしれないこと。
ホシノ先輩は、やっぱり何かを知っているのかもしれない。
でも今は、聞けなかった。
セリカさんが校門の外を睨んでいる。
「……何なのよ」
声が、小さかった。
「昨日、あんな普通に食べてたじゃない。変な人たちだと思ったけど、別に……別に、嫌いじゃなかったのに」
最後の言葉は、ほとんど砂に混ざった。
私はすぐには声をかけられなかった。
セリカさんの怒りは、まだ形になっていない。悔しさなのか、裏切られた感じなのか、昨日笑ってしまった自分への苛立ちなのか、たぶん全部混ざっている。
だから、隣に立つだけにした。
少し離れて。
でも、離れすぎない場所に。
「セリカさん」
「何」
「戻る場所は、守れました」
セリカさんがこちらを見る。
「……そうね」
短い返事。
でも、声はさっきより少しだけ落ち着いていた。
「次も守るわよ」
「はい」
「便利屋だか何だか知らないけど、うちを襲うなら敵。そこは間違えない」
「はい」
「でも……」
セリカさんは口を閉じた。
その先は言わなかった。
でも、少しだけ分かった。でも、昨日ラーメンを食べていた。でも、柴大将に頭を下げていた。
でも、完全に嫌いになるには、変な人たちすぎた。
それを言葉にしたら、きっとセリカさんはもっと怒る。自分に。
だから、私は何も言わなかった。
校門の前には、戦闘の跡が残っている。
砂に残った足跡。弾痕。焦げ跡。煙幕の匂い。昨日までの日常とは違う匂い。
胸の中に、柴関ラーメンの湯気がまだ少しだけ残っていた。
でも、その湯気の向こうに、今日の銃声が重なってしまった。
昨日の客。今日の敵。
その二つは、どちらも本当だった。
だから余計に、苦しかった。
アビドス編の最終的な展開について迷っています。ぜひ見たい方を投票してください。
-
百合って綺麗だから綺麗に終わって
-
曇らせドロドロ依存エンド希望