戦えない私がキヴォトス中の生徒に執着されるまで 作:Zuzuiikb
風紀委員会の足音が遠ざかっても、柴関ラーメンの前にはまだ熱が残っていた。
爆発の熱ではない。
火はもう消えている。煙も、先生とシロコさんが確認してくれた。柴大将の搬送も済んだ。残っているのは、焦げた匂いと、割れた看板と、何度見ても受け入れられない黒い入口。
それから、みんなの中に残った怒り。
セリカさんはまだ座り込んだままだった。手には私が巻いた布。怪我というほどではない。けれど、銃を握りしめすぎて赤くなった指を、そのままにしておきたくなかった。
「……逃げたわね」
セリカさんが言った。
声は小さかった。
でも、便利屋68が去っていった方角をずっと見ている。
「うん」
私は隣で頷いた。
「許したわけじゃないから」
「うん」
「でも、あそこで風紀委員会に連れて行かれたら、それはそれで腹立った」
「うん」
「……また、うんしか言わない」
「聞いてるから」
そう言うと、セリカさんは少しだけ顔を歪めた。
泣きそう、というより、泣く場所を見つけられない顔だった。怒る相手はいる。壊された場所もある。けれど、怒りを全部ぶつけるには、便利屋68の顔を知ってしまっている。ハルカさんが震えていたことも、アルさんが「ごめん」と言ったことも、見てしまっている。
だから、怒りが真っ直ぐ飛ばない。
胸の中で跳ね返って、自分まで傷つけている。
「セリカさん」
「何」
「怒ってるの、変じゃないよ」
「……当たり前でしょ」
「うん。当たり前。でも、迷ってるのも、変じゃないと思う」
セリカさんが黙った。
怒られるかと思ったけれど、怒られなかった。
その代わり、少しだけうつむいた。
「ほんと、あんたってさ」
「うん」
「そういうところ、ずるい」
「また言われた」
「言うわよ。ずるいんだから」
それ以上は続かなかった。
シロコさんは少し離れたところで、便利屋68が消えた方角を見ていた。風紀委員会の足跡も、便利屋68の足跡も、砂の上では長く残らない。それでもシロコさんは見ている。消えてしまう前に、何かを覚えようとしているみたいだった。
ノノミさんは、柴関ラーメンの割れた看板を拾い上げようとして、途中で手を止めていた。触れていいのか分からない。壊れたものに触れた瞬間、本当に壊れたのだと認めることになる。そんなふうに見えた。
アヤネさんは端末を抱えて立っている。風紀委員会とのやり取り、柴大将の搬送、便利屋68の逃走経路、全部を記録しようとしているのに、指が何度か止まっていた。
そして、ホシノ先輩は先生とヒナさんの方にいた。
風紀委員会は撤退しかけていたけれど、ヒナさんだけはまだ残っていた。アコさんもいる。イオリさんとチナツさんは少し離れて待機している。
ヒナさんは、壊れた店をもう一度見た。
「……今回の件は、こちらの不手際もある」
ヒナさんの声は小さかった。
でも、はっきり聞こえた。
アコさんが目を見開く。
「委員長、それは――」
「アコ」
それだけで、アコさんは言葉を飲み込んだ。
ヒナさんは先生を見る。
「風紀委員会の動きが、アビドスに余計な混乱を招いた。便利屋68を追っていたとはいえ、被害者であるあなたたちの前で、こちらの都合を優先しすぎた」
アコさんの表情が苦しくなる。
ヒナさんはアコさんを責めているわけではない。
でも、責任をなかったことにはしていない。
先生は静かに頷いた。
「そう言ってくれるなら助かるわ。アビドスのみんなも、今はかなり傷ついているから」
ヒナさんの目が、セリカさんへ向いた。
セリカさんは顔を上げなかった。
でも、聞いているのは分かった。
「柴関ラーメンの被害については、ゲヘナ側でも確認する。便利屋68の追跡も続ける」
「……追いかけるの?」
セリカさんが言った。
ヒナさんが少しだけ目を伏せる。
「風紀委員会としては、そうなる」
「そっか」
セリカさんはそれ以上言わなかった。
たぶん、言いたいことはたくさんあった。
捕まえてほしい。
でも、勝手に終わらせないでほしい。
謝らせてほしい。
柴大将の前に立たせてほしい。
その全部を、今は飲み込んだのだと思う。
ヒナさんは先生へ視線を戻した。
「それと、先生。便利屋68だけを見ていても、この件は終わらないと思う」
その言葉で、空気が変わった。
先生の目が少し細くなる。
「心当たりがあるの?」
「確証ではない。でも、最近カイザーコーポレーションがアビドス自治区周辺で妙な動きをしている。特に、捨てられた砂漠地帯で何かを探っているらしい」
カイザー。
その名前が出た瞬間、胸の奥に嫌なものが落ちた。
前見つけた、削られたロゴ。
ヘルメット団だけでは用意しにくい部品。
配管の近くにあった観測機器みたいな残骸。
先生が「企業か、資金を持った誰か」と言った声。
それらが、ばらばらだった点が、急に線になっていくような気がした。
アヤネさんが端末を握り直す。
「カイザーコーポレーション……ですか」
「知っているの?」
先生が尋ねる。
「もちろんです。金融、建設、警備、様々な分野に関わっています。アビドスの債務にも無関係ではありません。ですが……」
アヤネさんの声が少し震えた。
「まさか、こんな形で」
ホシノ先輩は、何も言わなかった。
その沈黙が、一番気になった。
驚いていない。
そう見えた。
ホシノ先輩は、いつものように「うへぇ、面倒だねぇ」と言うこともできたはずだ。
冗談にして流すこともできたはずだ。
でも、今は言わなかった。
ただ、少し遠くを見ている。
まるで、その名前がいつか出ることを、ずっと前から知っていたみたいに。
「ヒナ」
先生が静かに言った。
「その情報、共有してもらえる?」
「できる範囲でなら。カイザーはゲヘナの管轄外でも動いている。風紀委員会としても全容を掴めているわけじゃない。ただ……」
ヒナさんが少しだけ言葉を切った。
「アビドスの問題は、ただの借金だけではないと思う」
その言葉は、柴関ラーメンの焦げた匂いの中で、やけに重く響いた。
借金だけではない。
襲撃だけでもない。
砂漠化だけでもない。
もっと大きなものが、アビドスの上に乗っている。
それが、少しずつ姿を見せ始めている。
「……ありがとうございます」
アヤネさんが小さく頭を下げた。
ヒナさんは頷く。
「詳しい資料は、後で先生に送る。アコ、手配して」
「承知しました」
アコさんはまだ少し悔しそうだったけれど、今度は反論しなかった。
風紀委員会が今度こそ去っていく。
ヒナさんは最後に、壊れた柴関ラーメンを見た。
「……早く、直るといいわね」
セリカさんの肩が少し動いた。
返事はしなかった。
でも、聞こえていた。
ヒナさんたちの姿が砂の向こうに消えると、柴関ラーメンの前にはまたアビドスだけが残った。
便利屋68もいない。
風紀委員会もいない。
残ったのは、壊れた店と、私たちだけ。
静かになったのに、楽にはならなかった。
「……学校に戻りましょう」
アヤネさんが言った。
「柴大将の容態も確認しないといけませんし、カイザーの件も調べる必要があります。ここにいても、今すぐできることは限られています」
「分かってる」
セリカさんが立ち上がる。
少しふらついた。
私は手を伸ばしかけたけれど、セリカさんが自分で踏ん張った。
「大丈夫」
「……うん」
「ほんとに大丈夫だから」
「うん。見てるだけ」
「見てるだけって、逆に落ち着かないんだけど」
セリカさんが少しだけ顔をしかめた。
でも、怒鳴らなかった。
そのまま、私たちは学校へ戻った。
歩く道は同じなのに、来た時よりずっと長く感じた。砂に足を取られるたび、柴関ラーメンの焦げた匂いがまだ服についている気がした。セリカさんは何度か振り返りそうになって、振り返らなかった。シロコさんはそのたびに少しだけ歩幅を落とした。ノノミさんはセリカさんへ何か言いたそうにして、言わなかった。
ホシノ先輩だけが、いつもより少し後ろを歩いていた。
私はそれに気づいて、何度か振り返った。
そのたびにホシノ先輩は、いつもの顔で笑う。
「どうしたの、レナちゃん。おじさん、ちゃんと歩いてるよ〜」
「……うん。歩いてるのは分かります」
「じゃあ問題ないねぇ」
「でも、遠いです」
言ってから、自分でも驚いた。
ホシノ先輩も少しだけ目を丸くした。
「遠い?」
「はい。さっきから、少し遠いです」
風が吹いた。
ホシノ先輩の髪が少し揺れる。
いつもの眠そうな目。
いつものゆるい笑顔。
でも、そこにいるのに、少し遠い。
「うへぇ、レナちゃんは厳しいなぁ。おじさん、歩くのが遅いだけだよ」
「それなら、横に来てください」
自分の声が思ったよりまっすぐで、少し怖くなった。
でも、引っ込めなかった。
ホシノ先輩はしばらく私を見ていた。
それから、笑った。
「はいはい。じゃあ、おじさんも若い子たちに置いていかれないように頑張ろうかなぁ」
そう言って、少しだけ歩幅を上げる。
私の隣ではない。
でも、さっきより近い。
それだけで安心しそうになって、嫌な感じがした。安心するには、まだ早い。ホシノ先輩は近くに来ただけで、戻ってきたわけじゃない。
学校に戻ると、アヤネさんはすぐに資料室へ向かった。
地籍図。土地台帳。債務関連の書類。古いデータ。先生がヒナさんから受け取った情報と照合するために、机の上にはすぐ紙と端末が積み上がった。
私は救護バッグを置いて、アヤネさんの横に立つ。
「手伝う」
自然にそう言っていた。
アヤネさんが少しだけこちらを見る。
「ありがとうございます、レナさん。では、この地域名と所有者の欄を確認していただけますか」
「うん」
返事が、前より軽くなった気がした。
でも、アヤネさんはそれを不自然には思わなかったようだった。少しだけ安心した顔をして、また端末へ視線を戻す。
作業は静かに進んだ。
静かすぎて、紙をめくる音が怖いくらいだった。
アビドス高等学校本館。
周辺校地。
旧市街地。
砂漠化地域。
所有者。
譲渡履歴。
抵当権。
カイザーコンストラクション。
カイザーローン。
カイザーコーポレーション系列。
同じ名前が、何度も出てくる。
最初は見間違いだと思った。
でも、違った。
紙をめくっても、端末を切り替えても、その名前は消えない。
カイザー。
カイザー。
カイザー。
アヤネさんの指が止まった。
「……そんな」
声が小さすぎて、聞き逃しそうだった。
「アヤネさん?」
「本館と周辺の一部を除いて……アビドスの土地の多くが、カイザー系列の会社名義になっています」
部屋の空気が止まった。
セリカさんが椅子を蹴るように立ち上がる。
「は? 何それ。どういうこと?」
「分かりません。いえ、記録上は手続きがあります。でも……こんな広範囲を、いつの間に……」
アヤネさんの声が震えていた。
ノノミさんが口元に手を当てる。
「そんなに、ですか」
「はい。旧校区、砂漠化した周辺区域、使われなくなった施設跡地……ほとんどが」
シロコさんは黙っていた。
けれど、銃のベルトに触れる指が少しだけ沈んでいる。
「つまり」
セリカさんの声が掠れる。
「うちは、学校の周りまで取られてたってこと?」
「まだ、そう断定するには確認が必要です」
アヤネさんは言った。
でも、その声はもう、断定を避けるためだけの言い方に聞こえた。
「確認って何よ! ここに書いてあるんでしょ!」
「セリカちゃん」
「分かってる! アヤネに怒ってるんじゃない! でも……でも何なのよ、これ!」
セリカさんの声が裏返った。
壊れた柴関ラーメン。
便利屋68。
風紀委員会。
カイザー。
土地。
今日一日で、全部が押し寄せすぎていた。
先生は資料を受け取り、静かに目を通した。
その横顔は険しい。
「アヤネ、これをまとめてくれる? ヒナからの情報とも照合しましょう。すぐに判断はしない。でも、かなり深刻な状況よ」
「はい……」
アヤネさんは返事をした。
でも、顔色が悪い。
私は小さく声をかけた。
「アヤネさん、座って」
「いえ、私は――」
「座って。今、顔色悪い」
アヤネさんが言葉を止める。
少し前なら、もっと丁寧に言ったと思う。
でも今は、その余裕がなかった。
アヤネさんは一度だけ息を吸って、椅子に座った。
「……すみません」
「謝らなくていいよ」
そう言って、水を渡す。
アヤネさんは両手で受け取った。手が少し震えていた。
ノノミさんが、アヤネさんの背中へそっと手を添えようとして、止めた。
触れていいか迷ったのだと思う。
それから、静かに聞いた。
「アヤネちゃん、背中、さすってもいいですか?」
アヤネさんは驚いたように顔を上げる。
そして、小さく頷いた。
「……お願いします」
ノノミさんの手が、アヤネさんの背中に触れる。
ゆっくり、優しく。
その様子を見て、胸が少し痛くなった。
アビドスは、みんなで支えている。
でも、支えている手が、もう限界に近い。
そう感じた。
「ホシノ」
先生の声がした。
ホシノ先輩は窓際に立っていた。
資料を見ていない。
見ようとしていないわけではない。
たぶん、見る前から分かっている。
「何かなぁ、先生」
いつもの声。
でも、少し遅い。
「この件について、何か知っている?」
部屋の空気がまた止まった。
セリカさんがホシノ先輩を見る。
シロコさんも。
ノノミさんも。
アヤネさんも。
私も、見た。
ホシノ先輩は、少しだけ笑った。
「うへぇ。先生、いきなり鋭いねぇ」
「答えて」
先生の声は柔らかいけれど、逃がさなかった。
ホシノ先輩は窓の外を見る。
砂が流れている。
「……昔から、ちょっとね」
「ホシノ先輩?」
セリカさんが立ち上がりかける。
ホシノ先輩は、手をひらひら振った。
「そんな怖い顔しないでよ。おじさんだって全部知ってるわけじゃないよ。ただ、カイザーがアビドスに興味を持ってるのは、前から知ってたってだけ」
「それを、なんで今まで言わなかったんですか」
アヤネさんの声が震えた。
責めたいのに、責めきれない声だった。
ホシノ先輩は笑っている。
でも、その笑顔が少しずつ遠くなる。
「言っても、どうにもならなかったからね」
「そんなこと――」
「あるよ」
ホシノ先輩の声が、ほんの少しだけ低くなった。
部屋の全員が黙った。
ホシノ先輩はすぐに、いつもの声へ戻す。
「……なんてね。まあ、昔の話だよ。今は先生もいるし、みんなもいる。ちゃんと考えようか」
軽い。
軽すぎる。
重いものを、軽い言葉で包んで遠くへ投げたみたいだった。
私は胸の奥がざわつくのを感じた。
このまま流したら、いけない。
「ホシノ先輩」
声が出た。
ホシノ先輩が私を見る。
「何かな、レナちゃん」
「また、自分を外しました」
言った瞬間、自分の心臓が強く鳴った。
でも、言った。
「今、先生もいるし、みんなもいるって言いました。ホシノ先輩も、いるのに」
ホシノ先輩の笑顔が、少しだけ止まった。
ほんの少しだけ。
「うへぇ。レナちゃんは、本当に手厳しいねぇ」
「手厳しくしてるつもりじゃないです」
「じゃあ?」
「怖いです」
部屋が静かになった。
ホシノ先輩の目が、ほんの少しだけ開く。
「ホシノ先輩が、また遠くなるのが怖い」
言ってしまった。
胸が痛い。
でも、止まらなかった。
「さっき、帰り道でも遠かった。今も遠いです。笑ってるのに、ここにいるのに、少しずつ一人でどこかへ行こうとしてるみたいに見えます」
セリカさんが息を飲んだ。
アヤネさんの手が水のカップを握る。
シロコさんの視線がホシノ先輩から離れない。
ノノミさんの手が、アヤネさんの背中で止まる。
ホシノ先輩は、困ったように笑った。
「レナちゃんは、本当に困った子だねぇ」
「困らせたいわけじゃないです」
「うん。分かってるよ」
「じゃあ、戻ってきてください」
自分でも、何を言っているのか分からなかった。
でも、そう言うしかなかった。
「ホシノ先輩、今ここにいるなら、ちゃんとここにいてください」
ホシノ先輩は黙った。
いつもの「うへぇ」が出ない。
眠そうな冗談も出ない。
ただ、私を見ている。
その沈黙が長くて、怖くなる。
やっぱり踏み込みすぎたのかもしれない。
まだ、言っていい距離じゃなかったのかもしれない。
そう思った時、ホシノ先輩が小さく笑った。
「……うん」
短い返事だった。
「今は、ここにいるよ」
今は。
その言葉を聞いた瞬間、安心より先に、不安が来た。
今は、ということは。
いつかは。
そう思ってしまった。
でも、誰もそこを聞けなかった。
先生だけが、ホシノ先輩を静かに見ていた。
その夜、対策委員会室の灯りは遅くまで消えなかった。
アヤネさんは資料をまとめ続けた。
セリカさんは何度も柴関ラーメンへ行こうとして、そのたびにシロコさんに止められた。
ノノミさんはみんなに温かい飲み物を配ったけれど、自分の分を飲むのを忘れていた。
先生はシッテムの箱を確認しながら、誰にも聞こえないように小さく息を吐いた。
ホシノ先輩は、いつもの椅子に座っていた。
眠そうに目を閉じている。
でも、眠っていない。
私はそれを、もう知っている。
近づいて、少し迷ってから声をかけた。
「ホシノ先輩」
「ん〜?」
「寝てるふりですか」
「おじさん、寝てる時もあるよ〜」
「今は?」
「……半分くらい」
「じゃあ、半分は聞いてください」
ホシノ先輩が片目を開けた。
「レナちゃん、だんだん強くなってない?」
「アビドスに来たからかも」
「それは責任重大だねぇ」
私は少しだけ笑いそうになった。
でも、笑えなかった。
「ホシノ先輩」
「うん」
「いなくならないでください」
また、言ってしまった。
今度はもっと小さな声だった。
ホシノ先輩は、しばらく何も言わなかった。
それから、私の頭ではなく、帽子のつばを少しだけ下げた。自分の顔を隠すみたいに。
「……レナちゃんは、真っ直ぐすぎるねぇ」
「困りますか」
「困るよ」
即答だった。
でも、少しだけ優しかった。
「すごく困る」
「じゃあ、困ってください」
自分でも、驚くくらい自然に出た。
ホシノ先輩が目を丸くする。
それから、小さく笑った。
「うへぇ。これは本当に困った」
その笑いは、少しだけ本物に近かった。
だから、余計に怖かった。
本物に近い笑顔を見せてくれるのに、ホシノ先輩の背中はまだ遠い。
部屋の隅で、アヤネさんが資料をめくる音がする。
紙の上には、カイザーの名前が何度も並んでいる。
カイザー。
土地。
借金。
黒い影。
それらが、ホシノ先輩の背中へ少しずつ伸びているように見えた。
私は見ていた。
見ていたのに。
その時の私はまだ、ホシノ先輩が何を決めかけているのか、最後までは分かっていなかった。
アビドス編の最終的な展開について迷っています。ぜひ見たい方を投票してください。
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百合って綺麗だから綺麗に終わって
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曇らせドロドロ依存エンド希望