戦えない私がキヴォトス中の生徒に執着されるまで   作:Zuzuiikb

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22話 怖く無くなるまで

 

 数日が過ぎた。最初の日、私はほとんど眠れなかった。

 

 目を閉じるたびに、白い光が瞼の裏に浮かんだ。映像の粗いざらつき。床に近い視界。泣き声。記録しておけ、という声。飛び起きるほどではない時も、胸が詰まって息が浅くなった。起きているのか眠っているのか分からないまま、アヤネさんの手を探してしまったこともある。

 

 二日目、私は自分のカップを持てなかった。

 

 白いカップは机の上にあった。セリカさんが洗って、いつも通りの場所に置いてくれたものだった。けれど、それを見ると胸が痛んだ。第20話の前、私はそのカップでお茶を飲んでいた。アビドスに帰ってきたと思っていた。その直後に、あれが流れた。

 

 カップは悪くない。

 

 分かっている。

 

 でも、指が伸びなかった。

 

 セリカさんは何も言わず、別の小さなコップに水を入れてくれた。

 

 三日目、シロコさんが私に背を向ける時間が少し減った。

 

 最初は、私が見られるのを怖がるたび、シロコさんはすぐに背を向けてくれた。扉の前に立って、窓の外を見て、誰も入れないようにしてくれた。けれど、少しずつ、私はシロコさんの横顔を見ても震えなくなった。

 

 シロコさんは、見ないことも、見ることも、どちらも選んでくれた。

 

 四日目、私はノノミさんに毛布をかけてもらった。

 

 触れる前に、ノノミさんは必ず聞いた。毛布、かけてもいいですか。近くに座ってもいいですか。お茶を置いてもいいですか。どれも少しずつだった。ノノミさんは、抱きしめたい気持ちをずっと我慢しているように見えた。けれど、その我慢が、私にはとても優しかった。

 

 五日目、ホシノ先輩の袖を掴まずに、長椅子から立てた。

 

 足は震えた。

 

 でも、立てた。

 

 ホシノ先輩は、何も言わずに笑った。うへぇ、すごいねぇ、といつもの調子で言いかけて、途中でやめて、ただ「うん」とだけ言った。その「うん」が、少し嬉しかった。

 

 映像は、まだ消えていない。

 

 頭の中から、完全には。

 

 でも、ずっと同じ強さではなくなってきた。

 

 怖い。

 

 恥ずかしい。

 

 見られたことは、今でも胸を刺す。

 

 けれど、アビドスのみんなは、何度も同じことをしてくれた。

 

 急がなかった。

 

 触れる前に聞いてくれた。

 

 見ないでほしい時は見なかった。

 

 見てほしい時は、今の私を見てくれた。

 

 そして六日目の朝、先生が言った。

 

「校庭に行ってみる?」

 

 その言葉に、部屋の中が静かになった。

 

 校庭。

 

 白い光が立ち上がった場所。

 

 巨大なスクリーンが開いて、私の見られたくないものが流された場所。

 

 私の帰る場所を、黒服が踏みにじった場所。

 

 私はカップを持つ手に力を入れた。

 

 そのカップは、昨日からまた持てるようになった。まだ少し怖い。でも、持てる。中にはセリカさんが用意してくれた温かいお茶が入っている。甘さは少し控えめで、喉に優しい。

 

「無理にとは言わないわ」

 

 先生は続けた。

 

「今日じゃなくてもいい。明日でも、一週間後でもいい。ただ、レナがここで少しずつ戻ってきたように、あの場所も、少しずつ取り戻せるかもしれないと思ったの」

 

 取り戻す。

 

 その言葉が胸に落ちた。

 

 私はまだ、校庭を避けていた。

 

 窓の外も、長くは見られない。白い光がまた立ち上がる気がする。何もないと分かっていても、あの場所だけが別の色に見える。

 

 でも、ずっと避けていたら。

 

 あの場所は、ずっと黒服のものになってしまう気がした。

 

 アビドスの校庭なのに。

 

 みんなが歩く場所なのに。

 

 私がただいまと言った校門の近くなのに。

 

 それは、嫌だった。

 

「……行きます」

 

 声は少し掠れた。

 

 でも、出た。

 

 ノノミさんが、静かに立ち上がった。

 

「今日は、私が隣を歩いてもいいですか」

 

 私はノノミさんを見る。

 

 ノノミさんは微笑んでいた。

 

 でも、いつものように全部を包み込む笑顔ではなかった。緊張している。心配している。けれど、その上で、隣に立とうとしてくれている。

 

「急かしませんし、引っ張りません。レナちゃんが止まりたくなったら、一緒に止まります。戻りたくなったら、一緒に戻ります。校庭まで行けなくても、今日は廊下まででいいです」

 

「ノノミさん」

 

「はい」

 

「お願いします」

 

 ノノミさんの表情が、少しだけ柔らかくなった。

 

「はい。隣にいます」

 

 対策委員会室を出る。

 

 廊下はいつも通りだった。

 

 砂の匂い。古い掲示物。窓から入る光。遠くで軋む音。何も変わっていない。なのに、校庭へ向かう道だけが少し長く感じた。足が重い。膝が少し震える。

 

 ノノミさんは、隣を歩いていた。

 

 近すぎず、遠すぎず。

 

 触れない。

 

 でも、倒れたらすぐに支えられる距離。

 

 途中で一度、私は足を止めた。

 

 窓の外に、校庭が見えたから。

 

 胸が詰まる。

 

 白い光はない。

 

 分かっている。

 

 それでも、窓の端に何かが揺れた気がして、呼吸が浅くなった。

 

「止まりますね」

 

 ノノミさんが言った。

 

 本当に止まった。

 

 何も聞かない。

 

 まだ行けますか、とも言わない。

 

 ただ、隣で止まってくれる。

 

「……怖いです」

 

 私は言った。

 

「はい」

 

「何もないのに、何かある気がします」

 

「はい」

 

「もう消えてるのに、また映る気がして」

 

「はい」

 

 ノノミさんは、全部受け取った。

 

「怖いままで大丈夫です。怖くなくなってから歩くのではなく、怖いまま、少しだけ歩いてみる日でもいいと思います。でも、怖すぎたら戻りましょう。今日は、レナちゃんが負けたかどうかを決める日ではありません」

 

 その言い方が、少しだけ救いだった。

 

 勝たなくていい。

 

 克服しなければいけない日ではない。

 

 ただ、少しだけ歩く日。

 

 私は頷いた。

 

 また歩く。

 

 校舎の外へ出る扉が近づく。

 

 セリカさんが先に扉を開けた。

 

 外の光が入る。

 

 私は反射的に目を細めた。

 

 白くない。

 

 夕方の冷たい光ではない。

 

 朝の光だ。

 

 砂の色は薄く、風は弱い。

 

 校庭には何も立っていなかった。

 

 スクリーンもない。

 

 投影機もない。

 

 あの光もない。

 

 それでも、一歩踏み出した瞬間、心臓が大きく鳴った。

 

 足元の砂が鳴る。

 

 床ではない。

 

 砂だ。

 

 でも、身体はまだ少し混乱する。

 

 膝が折れそうになる。

 

 その時、アヤネさんが横に来た。

 

 何も言わずに近づくのではなく、少しだけ先に声を置く。

 

「レナさん。袖なら、掴んでも大丈夫です。肩でも構いません。倒れそうになった時だけではなく、怖い時に使ってください」

 

 アヤネさんは、自分の袖を少しだけ差し出していた。

 

 この前は手を握ってくれた。

 

 今日は、袖。

 

 触れる場所を、私が選べるようにしてくれている。

 

「……袖、お願いします」

 

「はい」

 

 私はアヤネさんの袖を掴んだ。

 

 強く掴みすぎないようにしたつもりだった。

 

 でも、指に力が入っていた。

 

「痛くないですか」

 

「大丈夫です。むしろ、ちゃんと掴んでください。今の私は、レナさんに使われるためにここにいます」

 

「使うって」

 

「言い方が少し変でしたね」

 

 アヤネさんは小さく息を吐いた。

 

「支えにしてください。私が倒れないように立ちますから」

 

 それが、アヤネさんらしかった。

 

 理屈の形をしているのに、根っこはとても感情的だった。

 

 校庭の中央へ近づく。

 

 そこが、映像が一番大きく見えた場所だった。

 

 今は、何もない。

 

 何もないのに、私は立ち止まった。

 

 喉が詰まる。

 

 視界の端が少し白くなる。

 

 手が髪へ伸びそうになる。

 

 羽根が強張る。

 

 その瞬間、セリカさんの声がした。

 

「ここは校庭」

 

 強くも、優しくもない。

 

 ただ、真っ直ぐな声だった。

 

「スクリーンはない。投影機もない。音もない。黒服もいない。いるのは、私たちとレナ。あと砂と、校舎と、朝の光」

 

 セリカさんが、一つずつ言う。

 

 事実を。

 

 感情ではなく、今ここにあるものを。

 

「昨日までに、装置は全部撤去した。アヤネがログも確認してる。シロコが校庭の周りも見た。先生もいる。ここに、あの映像はない」

 

 私は、息を吸った。

 

 浅い。

 

 でも入る。

 

 セリカさんの声は続く。

 

「あれが流れた場所ではある。でも、それだけじゃないでしょ。ここ、あんたが最初にアビドスへ来た時に通った場所でもある。帰ってきた時、ただいまって言った場所の近くでもある。私たちが見送った場所でもある」

 

 セリカさんの声が、ほんの少しだけ震えた。

 

 それでも、言い切った。

 

「黒服に、ここが何の場所か全部決められるの、私は嫌」

 

 胸の奥に、何かが落ちた。

 

 黒服に決められる。

 

 それは嫌だった。

 

 この場所が、ただ映像が流れた場所になるのは嫌だ。

 

 あの光だけの場所になるのは嫌だ。

 

「……私も」

 

 声が出た。

 

 小さかった。

 

 でも、出た。

 

「私も、嫌です」

 

 足が震える。

 

 アヤネさんの袖を握る手に力が入る。

 

 ノノミさんが隣で待っている。

 

 セリカさんが、事実を言ってくれた。

 

 私は、校庭を見る。

 

 砂。

 

 校舎。

 

 朝の光。

 

 みんな。

 

 ここは、あの映像が流れた場所です。

 

 そう思うと、まだ怖い。

 

 胸が痛い。

 

 でも、それだけではない。

 

「ここは……」

 

 私は、ゆっくり言った。

 

「ここは、あの映像が流れた場所です」

 

 喉が痛む。

 

 でも、言えた。

 

「でも、それだけじゃないです。私がただいまって言った場所でもあります。シロコさんが迎えに来てくれた場所で、セリカさんが布を結んでくれたバッグを持って立った場所で、ノノミさんが隣を歩いてくれて、アヤネさんが袖を貸してくれて、ホシノ先輩が……」

 

 言いかけて、ホシノ先輩を見た。

 

 ホシノ先輩は、少し後ろにいた。

 

 来ない。

 

 急かさない。

 

 ただ、そこにいる。

 

 私が見ると、ホシノ先輩はゆっくり口を開いた。

 

「レナちゃん」

 

「はい」

 

「待っててもいい?」

 

 その言葉は、静かだった。

 

 ホシノ先輩が、待ってもいいかを聞いている。

 

 前に一人で行こうとした人が。

 

 遠くなる背中を見せた人が。

 

 今は、待つ許可を求めている。

 

「レナちゃんが自分で歩き出せるまで、おじさんここで待っててもいい? 急かさないし、置いていかない。今日は、待つ側でいさせて」

 

 胸が痛くなった。

 

 でも、温かかった。

 

「……はい」

 

 私は頷いた。

 

「待っていてください」

 

「うん」

 

 ホシノ先輩は、少しだけ笑った。

 

「待ってるよ」

 

 私は、もう一度校庭を見た。

 

 怖い。

 

 まだ怖い。

 

 でも、今は怖いだけではなかった。

 

 私の隣にノノミさんがいる。

 

 袖にはアヤネさんの温度がある。

 

 セリカさんの声が、今ある事実を並べてくれた。

 

 ホシノ先輩が、待ってくれている。

 

 先生が見ている。

 

 そして、シロコさんは少し離れたところで、校庭の端を見ていた。

 

 警戒しているのだと思った。

 

 でも違った。

 

 シロコさんは、戻る道を見ていた。

 

「レナ」

 

 シロコさんが言った。

 

「戻ろう」

 

「え?」

 

「お茶、冷める」

 

 あまりにもいつも通りの声だった。

 

 一瞬、拍子抜けした。

 

 校庭。克服。怖さ。映像。そんな言葉でいっぱいだった頭に、お茶、という日常の言葉が入ってくる。

 

 お茶。

 

 カップ。

 

 対策委員会室。

 

 戻る場所。

 

 私は、ほんの少しだけ笑った。

 

 笑えたことに、自分で驚いた。

 

「……はい。戻ります」

 

「ん」

 

 シロコさんが頷く。

 

 それ以上は言わない。

 

 でも、それで十分だった。

 

 私は一歩、歩いた。

 

 校庭の中央から、校舎へ向かって。

 

 足はまだ震えている。

 

 アヤネさんの袖はまだ掴んでいる。

 

 ノノミさんは隣にいる。

 

 セリカさんは少し前を歩き、時々振り返る。

 

 ホシノ先輩は後ろから、ちゃんと待ちながらついてくる。

 

 先生は何も言わず、最後尾にいた。

 

 校舎へ入る直前、私は一度だけ振り返った。

 

 校庭には、何もなかった。

 

 砂。

 

 校舎。

 

 朝の光。

 

 それだけだった。

 

 怖くない、とまでは言えない。

 

 でも、あの場所ではなかった。

 

 それだけは、分かった。

 

 ◇

 

 対策委員会室に戻ると、シロコさんの言った通り、お茶は少し冷めかけていた。

 

 セリカさんが慌ててカップを取る。

 

「だから言ったじゃない。冷めるって」

 

「言ったのはシロコさんです」

 

「細かいことはいいの。温め直すから待ってなさい」

 

 セリカさんはそう言って、いつものように動き始めた。

 

 その背中を見ていると、胸の奥が少しずつ落ち着いていく。

 

 ノノミさんが私の隣に座る。

 

「お疲れさまでした、レナちゃん」

 

「途中までしか、行けてないかもしれません」

 

「十分です。今日は、戻ってこられましたから」

 

 アヤネさんが自分の袖を見る。

 

 私がかなり強く掴んでいたせいで、少し皺になっていた。

 

「すみません、袖」

 

「構いません。むしろ、役に立ったならよかったです」

 

 アヤネさんは少し照れたように言った。

 

 ホシノ先輩は長椅子に腰を下ろす。

 

「おじさん、待つのもなかなか悪くないねぇ」

 

「ホシノ先輩が言うと重みがありますね」

 

「うへぇ。アヤネちゃん、手厳しい」

 

 そのやり取りに、少しだけ空気が緩んだ。

 

 セリカさんが温め直したカップを持ってくる。

 

「はい」

 

 私はカップを受け取った。

 

 白いカップ。

 

 数日前、持てなかったカップ。

 

 今日は、持てる。

 

 手は少し震えている。

 

 でも、持てる。

 

 温かい。

 

 アビドスの味がした。

 

「……おいしいです」

 

 そう言うと、セリカさんは目を逸らした。

 

「知ってる」

 

 シロコさんが、窓際からこちらを見た。

 

 今度は、見られても怖くなかった。

 

 シロコさんは短く言う。

 

「日常に戻った」

 

 私はカップを両手で持ったまま、頷いた。

 

「はい」

 

 完全に戻ったわけではない。

 

 怖さが消えたわけではない。

 

 黒服の映像は、まだ頭の奥に残っている。見せられたことも、見られたことも、なかったことにはならない。これからも、急に苦しくなる日があるかもしれない。校庭を見るたびに、胸が痛むこともあると思う。

 

 でも。

 

 それだけではなくなった。

 

 校庭は、映像が流れた場所。

 

 それだけではなく、私が帰ってきた場所。

 

 対策委員会室は、私が泣いた場所。

 

 それだけではなく、ここにいていいと言ってもらった場所。

 

 カップは、怖くて持てなかったもの。

 

 それだけではなく、今、こうして温かさを受け取れるもの。

 

 黒服に、全部を決めさせない。

 

 そのことを、私は少しだけ分かった。

 

「先生」

 

 私はカップを置いて、先生を見た。

 

「はい」

 

「次の依頼、行けます」

 

 部屋の空気が、また少し止まった。

 

 セリカさんが振り返る。

 

 ノノミさんが私を見る。

 

 アヤネさんの手が端末の上で止まる。

 

 シロコさんの目が細くなる。

 

 ホシノ先輩が、ゆっくり顔を上げる。

 

「無理してない?」

 

 先生が聞いた。

 

 私は少し考えた。

 

 怖くない、と言ったら嘘になる。

 

 完全に大丈夫、とも言えない。

 

 でも、行ける。

 

 助けに行くために。

 

 自分が壊れていないことを、誰かに証明するためではなく。

 

 私は私のまま、また歩けると、少しだけ分かったから。

 

「無理は、少しあるかもしれません。でも、行けないほどではありません。怖い時は言います。苦しい時も、今度はちゃんと伝えます。だから……行きたいです」

 

 先生は、長く私を見た。

 

 それから、静かに頷いた。

 

「分かったわ。ただし、条件つき。無理を隠さないこと。休む予定を先に入れること。アビドスにも、救護騎士団にも、シャーレにも連絡をつなげること」

 

「はい」

 

 セリカさんが腕を組んだ。

 

「あと、帰ってくること」

 

 私はセリカさんを見る。

 

 セリカさんは真っ赤になりながら、でも目を逸らさなかった。

 

「それ、条件だから。どこ行くのか知らないけど、ちゃんと帰ってきなさいよ。遅れるなら連絡。無理なら迎えに行く。これは決定」

 

「はい」

 

 ノノミさんが微笑む。

 

「帰ってきたら、お茶にしましょうね。怖かったことも、楽しかったことも、話せる範囲で聞かせてください」

 

「はい」

 

 アヤネさんが端末を開く。

 

「では、次回帰還予定を設定します。今度は、予定だけではなく、休養時間も入れておきます」

 

「お願いします」

 

 シロコさんが言う。

 

「迎えに行く」

 

「またですか?」

 

「うん。帰る場所だから」

 

 ホシノ先輩が、眠そうに笑った。

 

「行ってらっしゃい、はまだ早いかなぁ」

 

「たぶん、もう少しだけ」

 

「そっか。じゃあ、その時まで待ってるよ」

 

 待ってる。

 

 その言葉が、今は怖くなかった。

 

 私はカップをもう一度持った。

 

 温かい。

 

 手の震えは、少しだけおさまっていた。

 

 黒服に見せられたものは消えない。

 

 でも、それだけが私ではない。

 

 床に近い場所で泣いた私も、映像の中で切り取られた私も、ここでカップを持っている私も、全部を抱えたまま、それでも私は歩ける。

 

 アビドスは、それを見てくれた。

 

 見ないでいてくれた。

 

 待ってくれた。

 

 日常へ戻してくれた。

 

 だから、次へ行ける。

 

 次へ行って、また帰ってこられる。

 

 そう思えたことが、今は何より大きかった。

ifストーリーを投稿しようと思っています。ある程度全部投稿する予定ですが、真っ先にどれが見たいですか?

  • レナが最強格の世界線
  • 甘え上手で小悪魔な世界線
  • 物理的に食べられる世界線
  • 好かれすぎて殺されそうになる世界線
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