戦えない私がキヴォトス中の生徒に執着されるまで 作:Zuzuiikb
シロコさんが自転車を押して現れた時、私は嫌な予感がした。
アビドスの校庭は、朝からよく晴れていた。砂の色はまだ白っぽく、日差しも強すぎない。風も穏やかで、外に出るには悪くない日だった。だから、今日は校舎周辺の軽い点検だと聞いて、私は救護バッグを少し軽めにして来ていた。
包帯、水、消毒液、予備の手袋。
そこまではいい。
問題は、シロコさんの横にある自転車だった。
いや、一台ではない。
二台あった。
「シロコさん」
「ん」
「その自転車、二台ありますね」
「ある」
「一台はシロコさん用ですよね」
「うん」
「もう一台は?」
「レナ用」
答えが早かった。
早すぎて、逃げ道がなかった。
私は、シロコさんが押している二台目の自転車を見た。小さめで、フレームも軽そうで、サドルの高さも明らかに私に合わせて調整されている。ハンドルには小さな布が巻かれていて、ブレーキも新しく見えた。
つまり、準備済みだった。
「……今日、私、自転車に乗るんですか?」
「乗る」
「聞いてないです」
「今言った」
「事前に言ってほしかったです」
「言ったら逃げると思った」
「判断が正確すぎる」
シロコさんは小さく頷いた。
褒められたと思っている顔ではない。事実確認が終わった、という顔だった。
「シロコさん、私は救護騎士団です。移動手段の訓練までは、たぶん範囲外です」
「範囲内」
「どの辺がですか?」
「早く移動できる。荷物も運べる。逃げる時にも使える。倒れた人のところへ早く行ける」
「急に正論を並べないでください」
「あと、私が教えたい」
「最後だけ個人的でしたね」
シロコさんは否定しなかった。
私はその沈黙を見て、少しだけ諦めた。
校庭の端には、なぜか簡易コースまで作られていた。砂に線が引かれ、倒れた看板を避けるように小さなカーブが作られている。水分補給用のボトルもある。工具箱もある。予備のタオルもある。
完全に訓練だった。
「シロコさん、これ一人で準備したんですか?」
「うん」
「いつから?」
「昨日の夜」
「夜に何してるんですか」
「レナが転ばないように」
「転ぶ前提の訓練なんですね」
「転ぶかもしれない。だから準備した」
シロコさんは、私用らしい自転車のハンドルに手を置いた。
「最初はゆっくり。危なくなったら止まる。無理に走らない。ブレーキは右と左で効き方が違う。砂の上では急に切らない」
「もう説明が本格的……」
「レナ、聞いてる?」
「聞いてます」
「じゃあ復唱」
「えっ」
「ブレーキ」
「右と左で効き方が違う。砂の上では急に切らない」
「ん。いい」
シロコさんが頷く。
少しだけ嬉しくなるのが悔しい。
ヘルメットを渡された。
これも、私用だった。
サイズが合っている。
「シロコさん」
「ん」
「ヘルメットまで用意してますね」
「必要」
「また必要」
「頭、大事」
「それはそうです」
「レナの頭は特に」
「私、そんなに転びそうですか?」
「うん」
「即答しないでください」
シロコさんは、ヘルメットを私の頭に乗せようとして、途中で止まった。
「つけていい?」
その確認で、少しだけ胸が温かくなった。
「はい。お願いします」
シロコさんの指が、顎紐を整える。
近い。
でも、前のような照れとは少し違った。今日は、シロコさんの目が完全に真剣だった。髪飾りや小物を選ぶ時の真剣さではなく、命に関わる装備を確認している目。
顎紐を指一本分だけ緩めて、耳の下の位置を直し、ヘルメットの傾きを確認する。
「苦しくない?」
「大丈夫です」
「動かない?」
「たぶん」
「たぶんはだめ」
「動きません」
「ん」
シロコさんは、最後にヘルメットの前を軽く押さえた。
そこに、自分の手を一瞬だけ残す。
「これで、少し安心」
「シロコさんが?」
「私が」
「私じゃなくて?」
「レナも」
「ついでみたいに言わないでください」
「両方」
シロコさんは、そこで小さな反射材のついたバンドを取り出した。
淡い青色。
私の腕に巻くものらしい。
「これは?」
「反射バンド」
「昼ですよ?」
「遠くから見える」
「昼ですよ?」
「私が見つけやすい」
私はバンドを見た。
「それ、目的変わってません?」
「変わってない。安全」
「シロコさんの安全ですか?」
「レナの安全。あと私の安心」
あまりにも自然に言われて、私は少しだけ返事に困った。
シロコさんは、私の手首ではなく、袖の上から腕にバンドを巻いた。締めすぎない。けれど、落ちない。指先で長さを確かめて、少しだけ位置を直す。
それは、目印だった。
分かる。
安全のため。
もし離れた時に見つけやすいように。
でも、その青いバンドが私の腕にあるだけで、シロコさんの印をつけられたみたいだった。
「……シロコさん、これマーキングじゃないですよね?」
「違う」
「本当に?」
「......安全装備」
「ちょっと間がありました」
「安全装備。兼、目印」
「兼ねた」
「レナが見えなくなると困る」
シロコさんは、当たり前のように言った。
その声は軽くなかった。
「砂の中で、レナがどこにいるか分からなくなるのは嫌。探す時間が増える。その時間、嫌い」
私は、青いバンドに触れた。
少しだけ胸が詰まる。
「……今日は校庭ですよ?」
「校庭でも、嫌」
「シロコさん」
「転ぶなら、私の方へ」
息が止まった。
シロコさんは、私の腕のバンドを見ていた。
「止める。支える。間に合う位置にいる。だから、転ぶなら私の方へ倒れて」
声は静かだった。
あまりにも静かで、逆に深かった。
助ける、ではなく。
支える、でもなく。
転ぶなら、自分の方へ。
私が倒れる未来を、最初から自分の腕の中へ引き寄せようとしているみたいだった。
重い。
今までのどの「安全確認」よりも、ずっと重い。
でも、シロコさんは真顔だった。
私は、少しだけ笑うしかなかった。
「シロコさん、それ、訓練前に言う言葉としてはだいぶ重いです」
「重い?」
「重いです」
「自転車は軽い」
「そういう意味じゃないです」
「....レナも軽い」
「私の重さの話でもないです!」
シロコさんは、少しだけ首を傾げた。
私はため息をつきながらも、自転車の横に立つ。
「分かりました。転ぶならシロコさんの方へ……じゃなくて、まず転ばないように頑張ります」
「それが一番」
「なら先にそう言ってください」
最初の一周は、ゆっくりだった。
シロコさんは私の横を歩く。
自転車にはまたがったものの、足はすぐ地面につけられる高さに調整されている。ペダルに足を置き、少し漕ぐ。ふらつく。止まる。シロコさんが横で頷く。
「視線、前」
「はい」
「肩、力入りすぎ」
「自転車ってこんなに難しかったですっけ」
「慣れ」
「慣れるまでに何回転ぶんですかね」
「転ばせない」
「シロコさん、さっきから決意が強い」
「強い」
私が少しふらつくたび、シロコさんの手が近くに来る。
触れない。
でも、届く場所にある。
ハンドルを握る私の手が固くなっているのを見て、シロコさんが言う。
「握りすぎ」
「怖いので」
「握りすぎると、曲がれない」
「人生みたいなこと言いました?」
「自転車の話」
「そうですよね」
次のカーブで、私は少しだけ曲がれた。
ほんの少し。
でも、曲がれた。
シロコさんが横で言う。
「今の、いい」
「本当ですか?」
「うん」
「やった」
「でも、次も同じように」
「褒めて終わりじゃない」
「訓練だから」
「厳しい……」
何周かするうちに、少しだけ感覚が分かってきた。
ペダルを漕む。
前を見る。
ハンドルを急に切らない。
砂の深いところでは力を抜く。
それでも時々ふらつく。けれど、最初ほど怖くはなくなっていた。シロコさんが横にいる。少し離れても、青いバンドを見るたびに視線が合う。
私の目印。
シロコさんの安心。
それを思い出すと、腕が少しだけ熱い。
「レナ」
「はい」
「次、私も乗る」
「横で?」
「うん。並走」
「速度、合わせてくださいね」
「合わせる」
「本当に?」
「善処する」
「不安な返事が来た」
シロコさんが自分の自転車に乗ると、急に空気が変わった。
似合いすぎている。
校庭の端から端まで、シロコさんは滑るように進む。速いのに無駄がない。砂の上でもふらつかない。風を読むみたいに身体を傾けて、当然のように曲がる。
私は思わず見とれた。
そのせいで、ハンドルが少しずれた。
「レナ、前」
「わっ」
慌てて戻す。
シロコさんがすぐ横に来る。
「見すぎ」
「だって、シロコさんが速すぎるので」
「まだ遅い」
「それで遅いんですか?」
「レナに合わせてる」
「合わせてこれ……」
私は必死にペダルを漕いだ。
シロコさんは本当に速度を落としてくれているのだと思う。思うけれど、余裕が違いすぎた。私は校庭の小さな段差に怯えながら進んでいるのに、シロコさんは私の呼吸と腕の角度まで見ている。
「息、止まってる」
「止まってないです」
「止まってた」
「ちょっとだけ」
「呼吸」
「はい」
「水はあとで」
「今じゃないんですね」
「止まると転ぶ」
「怖いこと言わないでください」
そう言った瞬間、前輪が砂に少し取られた。
ぐらり、と身体が傾く。
あ、と思った。
右。
右に倒れる。
でも、その前にシロコさんの自転車が近づいた。
シロコさんは自分の自転車をほとんど投げるみたいに止めて、私のハンドルではなく、背中側の服を軽く支えた。引っ張らない。押さえない。ただ、倒れる角度を止める。
私は足をついて、ぎりぎり転ばずに済んだ。
心臓がばくばくしている。
「……危なかった」
「ん」
シロコさんの声は短い。
でも、手がまだ私の背中の近くにあった。
触れているか、触れていないか。
その境目みたいな距離。
「大丈夫?」
「大丈夫です。ちょっとびっくりしただけで」
「怪我は?」
「してないです」
「痛いところ」
「ないです」
「怖い?」
私は、少しだけ息を整えた。
「少し」
「休む」
「はい」
シロコさんはすぐに水を取ってきた。
私は自転車を降りて、校庭の端に座る。
青いバンドが、まだ腕にある。
シロコさんは隣に座らず、少し前に立っていた。
私と自転車の間。
もしまた倒れるなら、間に入れる位置。
「シロコさん」
「ん」
「さっき、支えてくれてありがとうございます」
「間に合った」
「すごかったです」
「もっと早くてもよかった」
「今のでも十分早かったと思いますけど」
「レナが怖い顔する前に止めたかった」
私は、水筒を持つ手を止めた。
シロコさんは校庭を見ている。
「転ぶ前の顔、嫌」
「私の?」
「うん」
「そんな顔してました?」
「してた。怖いって分かる顔」
シロコさんは、少しだけ目を伏せた。
「それを見ると、間に合わなかった時のことを考える。だから嫌」
言葉は短い。
でも、奥が暗かった。
私は、何を返せばいいか分からず、水筒を見た。
「でも、今日は間に合いました」
「うん」
「転ばなかったです」
「うん」
「シロコさんの方に倒れなかったですけど」
「次は私の方へ」
「次がある前提やめましょう」
「訓練だから」
「訓練って便利ですね」
シロコさんは、ほんの少しだけ目元を緩めた。
私はそれを見て、ようやく少し笑えた。
休憩後、もう一度乗った。
今度は、シロコさんが少し後ろを走る。
「後ろなんですね」
「後ろから見る」
「また見られる……」
「姿勢。タイヤ。足の動き。全部見る」
「言い方が本格的すぎて緊張します」
「あと、危なくなったら追いつく」
「シロコさんが言うと本当に追いつきそうです」
「追いつく」
「言い切った」
走り始める。
後ろにシロコさんがいるのは、少し落ち着かなかった。
でも、不思議と怖くはない。
自分の背中を預けているような感じがした。見られている。けれど、品定めではない。監視でもない。私が転ばないように、そして転びそうになったら間に合うように、シロコさんの目が背中にある。
そう思うと、少しだけ前を見やすくなった。
「レナ、今のいい」
「本当ですか?」
「うん。さっきより力が抜けてる」
「シロコさんが後ろにいるからかも」
言ってから、自分で少し驚いた。
シロコさんのペダルの音が、一瞬だけ変わった気がした。
「そう」
「はい。なんか、後ろにいてくれると、前を見やすいです」
「……そう」
短い返事。
でも、声が少しだけ低かった。
「じゃあ、後ろにいる」
「ずっとですか?」
「レナが前を見られるなら」
「シロコさん、それも結構重いです」
「自転車の話」
「本当に?」
「たぶん」
「たぶんなんだ」
校庭を一周できた。
止まった時、私は思わず小さく声を上げた。
「できた」
「できた」
シロコさんが頷く。
その顔は、いつも通り静かだった。
でも、目が少しだけ嬉しそうだった。
「レナ、上手」
「やった。褒められた」
「でもまだ危ない」
「褒めてすぐ落とす」
「次も練習」
「ですよね」
シロコさんは、自転車を降りて私の腕の青いバンドを見た。
「ずれてる」
「え、本当ですか?」
「直す」
「お願いします」
シロコさんの指が、バンドに触れる。
汗と砂で少しずれたそれを、ゆっくり巻き直す。袖の上からだから肌には触れない。けれど、シロコさんの指の圧が布越しに伝わった。
丁寧。
少しだけ、名残惜しそうに。
「これ、返した方がいいですか?」
私が聞くと、シロコさんは手を止めた。
「返す?」
「訓練用なら、終わったら」
「持ってて」
「いいんですか?」
「レナ用だから」
「また増えた……」
シロコさんは、バンドを整え終える。
「自転車に乗らない日も、使っていい」
「いつ使うんですか?」
「暗い道。砂が多い日。アビドスに来る日」
「結局アビドス用ですね」
「うん」
シロコさんは、私の腕を見たまま言う。
「それが見えると、少し安心する」
また、静かな声。
「レナがどこにいるか、すぐ分かる。見えなくても、見つける目印がある。だから、安心する」
私は、青いバンドに触れた。
「じゃあ、持ってます」
「ん」
「でも、シロコさんが不安になりすぎない程度にしてくださいね」
「不安はする」
「言い切った」
「でも、レナが持ってるなら少し減る」
「少しなんですね」
「少しでも、大事」
重い。
深い。
でも、シロコさんは本当にそれで安心するのだと思った。
私がアビドス色の何かを身につけるたび、シロコさんの中の広すぎる砂漠が、ほんの少し狭くなる。そういうことなのかもしれない。
私はバンドを軽く叩いた。
「じゃあ、これは私が預かります。迷子防止兼、安全装備兼、シロコさんの安心用で」
「うん」
「用途が多いですね」
「便利」
「便利で済ませるんだ……」
最後に、シロコさんが自分の自転車を差し出した。
「乗る?」
「え、シロコさんのですか?」
「うん。少しだけ」
「怖いです」
「私が支える」
「それ、さっきも聞いた気がします」
「支える」
私は迷った。
シロコさんの自転車は、私用のものより少し大きい。乗るだけなら危なくないようにしてくれると思う。でも、シロコさんのものに触れるというのが、少しだけ緊張した。
「……少しだけなら」
「ん」
シロコさんは、サドルの高さを少し調整してくれた。
私がまたがると、いつもの自転車より少し高い。ハンドルの感触も違う。シロコさんの使っているもの。そう思うと、妙に背筋が伸びた。
「レナ」
「はい」
「これは、私の」
「分かってます」
「でも、今はレナが使っていい」
静かな言葉だった。
私はハンドルを握る。
シロコさんが横に立つ。
「借ります」
「うん」
少しだけ漕ぐ。
怖い。
けれど、シロコさんが横にいる。
いつもより少し高い視界。風が頬を通る。校庭が少し広く見える。私はゆっくり進んだ。ほんの数メートル。すぐに止まる。
「できた」
「うん」
「シロコさんの自転車、少し怖いです」
「慣れ」
「これも慣れなんですね」
「でも、今日はここまで」
「珍しく止めてくれる」
「レナ、疲れてる」
「ばれてる」
「分かる」
自転車を返す時、シロコさんはハンドルを受け取って、少しだけそこを見る。
私が触れていた場所。
シロコさんは何も言わない。
でも、少しだけ満足そうだった。
「シロコさん」
「ん」
「私が乗ったからって、何か変わりました?」
「変わった」
「え」
「私の自転車に、レナが乗った」
「それはそうですけど」
「それだけで、変わった」
また、重い。
でも今度は、ほんの少し笑ってしまった。
「シロコさん、そういうの、さらっと言うからずるいです」
「ずるい?」
「ずるいです」
「覚えた」
「また覚えた」
校庭の片付けを終える頃には、私の足は少し疲れていた。
けれど、悪い疲れではなかった。
シロコさんは自転車を並べて置き、私用のヘルメットを棚へしまう。青い反射バンドだけは、私の腕に残したまま。
「これは持ち帰り?」
「うん」
「洗った方がいいですか?」
「汚れたら洗う」
「じゃあ、救護バッグに入れておきます」
「腕でもいい」
「今から帰るだけですよ?」
「見える」
「シロコさんの安心用ですね」
「うん」
私は笑って、バンドを腕につけたままにした。
帰り際、校門のところでシロコさんが立ち止まる。
「レナ」
「はい」
「また乗る?」
「自転車ですか?」
「うん」
「……怖いですけど、少し楽しかったです」
「じゃあ、また」
「はい。でも次は事前に言ってくださいね」
「善処する」
「それ、絶対急に準備してるやつです」
「少しだけ」
「少しだけって何ですか」
シロコさんは、そこでほんの少しだけ目を細めた。
「次は、校庭じゃなくて、外」
「えっ」
「砂漠の手前まで」
「急に段階が上がりすぎです!」
「大丈夫。私がいる」
「それで全部押し切ろうとしてません?」
「うん」
「認めた」
私は思わず笑ってしまった。
シロコさんも、ほんの少しだけ笑ったように見えた。
腕には青いバンド。
頭には、さっきまでヘルメットがあった感覚。
身体には、まだ自転車の揺れが残っている。
今日、私は少しだけ速く進めた。
転ばなかった。
転びそうにはなったけれど、シロコさんがいた。
シロコさんは、私が倒れる未来まで自分の方へ引き寄せようとする。怖いくらいに、深く。静かに。何でもない顔で。
でも、それは私を縛るためではなく、間に合う場所にいたいという願いだった。
私は腕のバンドを指で確かめる。
「シロコさん」
「ん」
「次、外に行くなら、ゆっくりでお願いします」
「ゆっくり」
「本当にですよ」
「レナの速度で行く」
シロコさんは言った。
その声は、いつもの短い声だった。
でも、少しだけ違って聞こえた。
私が前を見られるなら、後ろにいる。
私が転ぶなら、自分の方へ。
私の速度で行く。
その全部が、シロコさんの愛情の形なのだと思った。
重い。
静かで、深くて、少し怖い。
でも、私はその重さを腕につけたまま、アビドスの校門を出た。
背中で、自転車のベルが小さく鳴った。
「レナ」
振り返ると、シロコさんが自転車の横に立っていた。
「次も、転ばせない」
私は少しだけ笑った。
「転ばないようにします」
「それが一番」
「やっと意見が合いましたね」
「ん」
砂の風が、青いバンドを少しだけ揺らした。
それはただの安全装備。
ただの訓練の目印。
ただの、シロコさんが用意したもの。
でも、その奥には、私がどこへ倒れても必ず受け止めたいという、信じられないくらい静かで重い願いが結ばれていた。
ifストーリーを投稿しようと思っています。ある程度全部投稿する予定ですが、真っ先にどれが見たいですか?
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レナが最強格の世界線
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甘え上手で小悪魔な世界線
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物理的に食べられる世界線
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好かれすぎて殺されそうになる世界線