戦えない私がキヴォトス中の生徒に執着されるまで   作:Zuzuiikb

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6話 新規キャラ初期設定は空白です

 

 

 アリスは、歩けた。

 

 廃墟の奥、白いカプセルの中から目を覚ましたばかりのその子は、最初に数度だけ瞬きをして、それから自分の手を見た。指を一本ずつ動かす。手首を曲げる。足を床につける。膝に力を入れる。その一つ一つを、自分の体が本当に動くか確かめるみたいに、ゆっくりと行った。

 

「歩行機能、正常」

 

 そう言って、アリスはカプセルの縁に手を置いた。

 

 モモイちゃんが両手を広げて、今にも支えに行きそうな顔をする。

 

「だ、大丈夫!? 立てる!? 転ばない!?」

 

「お姉ちゃん、急に近づくと驚かせるよ」

 

 ミドリちゃんが小声で止める。

 

 モモイちゃんはぴたりと止まった。さっきまでなら勢いで突っ込んでいたかもしれない。でも今は、ちゃんと止まった。アリスを怖がらせたくないのだと、顔に書いてあった。

 

 アリスはモモイちゃんを見た。

 

「転倒可能性、低。補助、不要」

 

「ほ、補助不要って言われた……」

 

「お姉ちゃん、たぶん大丈夫って意味だよ」

 

「そっか! じゃあ大丈夫!」

 

 モモイちゃんは納得が早い。

 

 アリスはその会話を聞いていた。分かっているのか、分かっていないのか、表情だけでは判断しにくい。綺麗な顔をしている、と思った。けれど、それは人形のように整っているという意味ではなかった。何かをまだ書き込まれていない画面みたいに、目の奥が静かで、こちらの言葉をそのまま映そうとしている。美しいというより、空白が眩しい。そんな印象だった。

 

 私はカプセルの横にしゃがみ、少しだけ距離を保った。

 

「アリスちゃん、足、痛くない?」

 

 アリスは私を見た。

 

「痛覚反応、異常なし」

 

「そっか。じゃあ、気持ち悪いとか、ふらふらするとかは?」

 

「平衡感覚、安定。内的異常、検出なし」

 

「うん。えっと……つまり、大丈夫そう?」

 

「大丈夫。登録します」

 

 その返事に、少しだけ笑いそうになった。

 

 大丈夫、という言葉を今覚えたみたいだった。意味を完全に分かっているというより、こちらが求めている形に近い答えを選んでくれたのだと思う。

 

「ありがとう。じゃあ、ゆっくり歩こう」

 

「ゆっくり」

 

 アリスは繰り返した。

 

「移動速度、低下」

 

「そう。それで大丈夫」

 

 先生がアリスの前に立つ。

 

「ここから出ましょう。あなたを安全な場所へ連れていきたいの」

 

「安全な場所」

 

 アリスは先生の言葉を繰り返した。

 

「定義、不明」

 

 先生は少しだけ考えてから、優しく言った。

 

「危ないものが少なくて、話を聞けて、休める場所のこと」

 

「休める場所」

 

「ええ」

 

 アリスはまた瞬きをした。

 

「登録します」

 

 モモイちゃんが小さく拳を握った。

 

「よし、じゃあゲーム開発部に帰ろう! あそこは安全な場所!」

 

 ミドリちゃんがすぐにこちらを見る。

 

「部室の床、昨日まで安全ではなかったけどね」

 

「今は片づけたから!」

 

「最低限ね」

 

「最低限でも安全!」

 

 いつものやり取りなのに、声は少しだけ慎重だった。二人とも、アリスを驚かせないようにしている。ユズちゃんは私の少し後ろで、アリスをじっと見ていた。怖がっているのとは違う。近づきたいけれど、どう近づけばいいのか分からない顔だった。

 

 アリスが、その視線に気づく。

 

「対象、反応微弱」

 

 ユズちゃんの肩が跳ねた。

 

「……すみません」

 

「謝罪理由、不明」

 

「えっと……見てしまったので」

 

「視認、問題なし」

 

 アリスは淡々と言った。

 

 ユズちゃんは少し困った顔をした。

 

 私はその横で、そっと言葉を足す。

 

「ユズちゃんは、びっくりさせたかなって心配したんだと思う」

 

 アリスは私を見る。

 

「心配」

 

「うん。相手が困ってないか、怖がってないか、気にすること」

 

「心配。登録します」

 

 ユズちゃんの目が少し揺れた。

 

「……私は、怖がらせたくなかっただけです」

 

「怖がらせる。否定。登録します」

 

 モモイちゃんが小さく呟く。

 

「なんか、言葉を一個ずつ拾ってる……」

 

 ミドリちゃんも頷いた。

 

「本当に、起きたばかりなんだと思う」

 

 先生が静かに言う。

 

「だから、ゆっくり話しましょう。分からないことは、これから一つずつ覚えればいい」

 

 アリスは先生を見た。

 

「一つずつ」

 

「そう。一つずつ」

 

「登録します」

 

 廃墟から戻る道は、行きよりも静かだった。

 

 警備ロボットは停止したままだった。赤い光はもうない。けれど、私たちは誰も走らなかった。モモイちゃんも、何度か口を開きかけては、アリスの歩幅を見て速度を落とした。ミドリちゃんは端末にログを残しながら、周囲への注意を怠らない。ユズちゃんはアリスの少し後ろ、私の近くを歩いていた。

 

 アリスは、廃墟を見ていた。

 

 壊れた端末。

 

 止まった警備ロボット。

 

 剥がれた壁。

 

 暗い通路。

 

 その全部を、初めて見るものとして見ているようだった。怖がっている様子はない。けれど、安心しているようにも見えない。そもそも、怖いとか安心とかいう言葉をまだ持っていないのかもしれない。

 

「アリスちゃん」

 

 私が呼ぶと、アリスはすぐにこちらを見た。

 

「はい」

 

「歩きにくかったら言ってね」

 

「歩行、問題なし」

 

「問題なし、じゃなくてもいいよ。少し疲れた、とかでも」

 

「疲労」

 

 アリスは少しだけ目を伏せた。

 

「検出、軽微」

 

「じゃあ、少し疲れてるんだね」

 

「少し疲れている」

 

「うん。そういう時は、少しゆっくり歩く」

 

「理解しました」

 

 アリスの歩幅が、ほんの少し小さくなった。

 

 モモイちゃんがそれに気づいて、自分の歩幅も合わせる。

 

「ゆっくりでいいからね、アリス! ゲーム開発部までそんな遠くないし!」

 

「ゲーム開発部」

 

「そう! 私たちの部室! ゲームを作るところ!」

 

「ゲーム」

 

 アリスは、その言葉を繰り返した。

 

「定義、不明」

 

 モモイちゃんが息を吸った。

 

 説明したくてたまらない顔だった。

 

 ミドリちゃんがすかさず言う。

 

「お姉ちゃん、廊下で全部説明しようとしないで。部室に戻ってから」

 

「で、でも! ゲームって何って聞かれたんだよ!? これは説明しないと!」

 

「説明はする。でも今ここで始めると、部室に着く前に日が暮れる」

 

「そんなに長くしないよ!」

 

「お姉ちゃんの“短く説明する”は信頼できない」

 

「ミドリがひどい!」

 

 アリスは二人の会話を聞いていた。

 

「ゲーム。重要語」

 

「うん! 超重要!」

 

 モモイちゃんが即答する。

 

「登録します」

 

 アリスが言った。

 

 その声を聞いた瞬間、モモイちゃんの顔が明るくなった。

 

「聞いた!? ゲーム、重要語だって!」

 

「お姉ちゃんが重要って言ったからでしょ」

 

「それでも嬉しい!」

 

 部室へ戻ると、ユウカさんが先に来ていた。

 

 ノアさんも一緒だった。ユウカさんは端末を片手に、私たちの人数を見て、一度、瞬きをした。

 

「……ちょっと待って」

 

 声がとても静かだった。

 

「廃墟に行って、正体不明の子を連れて帰ってきたってことで合ってる?」

 

「言い方!」

 

 モモイちゃんが叫ぶ。

 

「ユウカ、もっとこう、運命の出会いみたいな言い方あるでしょ!」

 

「運命で書類は通らないでしょ!」

 

「書類にしないで!」

 

 ミドリちゃんが疲れたように言う。

 

「でも、事実としてはだいたい合っています」

 

「ミドリまで!?」

 

 ユウカさんは額に手を当てた。

 

「ゲーム開発部に関わると、どうして毎回想定外の事態が増えるの……。昨日は先生にゲーム機、今日は廃墟から女の子。次は何? 部室から古代兵器でも出すつもり?」

 

「出したくて出してるわけじゃないよ!」

 

「そういう問題じゃないの!」

 

 ユウカさんの口調は、昨日よりずっと砕けていた。怒っているというより、突っ込まずにはいられないという感じだった。真面目なのに、言葉の端が近い。セミナーの人というより、目の前の騒ぎに真正面から巻き込まれている同年代の子に見えた。

 

 その横で、ノアさんはアリスを見ていた。

 

 じっと、けれど不躾ではなく。

 

 アリスの立ち方、視線の動き、反応の遅れ、言葉の選び方。その全部を一瞬で覚えてしまったような目だった。ノアさんは何かを書く必要がない。目の前のものを、そのままどこか深い場所へ置いておける人なのだと思う。

 

「こんにちは」

 

 ノアさんが言った。

 

「あなたが、アリスさんですね」

 

 アリスはノアさんを見た。

 

「呼称、アリス。登録済み」

 

「そうですか。良い名前をもらいましたね」

 

 アリスは少しだけ首を傾げる。

 

「良い名前」

 

「はい。呼ばれた時に、誰かの方へ振り向ける名前です」

 

 その言葉に、モモイちゃんが少し黙った。

 

 ミドリちゃんも、ユズちゃんも。

 

 私も、少しだけ胸に触れた。

 

 ノアさんはアリスではなく、モモイちゃんたちを見ているようでもあった。名前をつけたことの意味を、本人たちより先にそっと照らしたみたいだった。

 

 ユウカさんが話を戻す。

 

「まず確認することが多すぎるんだけど。身元、所属、健康状態、安全性、それから……」

 

 そこで、ユウカさんはゲーム開発部の三人を見た。

 

「部員として迎えるつもり?」

 

 部室の空気が、少し止まった。

 

 モモイちゃんが一歩前へ出る。

 

「迎える!」

 

 迷いのない声だった。

 

「だって、アリスはもうアリスだし、ここに連れて帰ってきたし、ゲームもこれから教えるし! ゲーム開発部に入れば、部員数も足りるし!」

 

「お姉ちゃん、最後の理由が急に現実的」

 

「大事でしょ!?」

 

「大事だけど」

 

 ミドリちゃんはアリスを見た。

 

「でも、本人の意思も確認しないと」

 

 その言葉に、モモイちゃんがはっとした顔になる。

 

「そ、そうだった。アリス!」

 

 アリスはモモイちゃんを見る。

 

「はい」

 

「アリスは、ゲーム開発部に入りたい?」

 

 アリスは、すぐには答えなかった。

 

「ゲーム開発部」

 

「うん。ここ。私たちの部活。ゲームを作ったり、遊んだり、話したりするところ」

 

「ゲーム、定義不明」

 

「あっ」

 

 モモイちゃんが固まった。

 

 ミドリちゃんが額に手を当てる。

 

「お姉ちゃん、ゲームを知らない相手にゲーム開発部に入りたいか聞いても、判断できないよ」

 

「たしかに!」

 

 ユズちゃんが小さく言った。

 

「……まず、ゲームを見せた方がいいと思います」

 

 部室が静かになった。

 

 そして、モモイちゃんの目が輝いた。

 

「それだ!」

 

 嫌な予感がした。

 

 でも、今度の嫌な予感は少しだけ楽しいものだった。

 

「アリスにゲームをやってもらおう!」

 

「お姉ちゃん、いきなり難しいのはだめだよ」

 

「分かってる! まずは簡単なやつ! ボタンを押して、キャラが動くやつ!」

 

「本当に簡単なやつにしてね」

 

「大丈夫! たぶん!」

 

「たぶん禁止」

 

 ミドリちゃんが即座に返す。

 

 先生は微笑んでいた。

 

「いいと思うわ。アリスがゲームを知るところから始めましょう」

 

 ユウカさんは少しだけ渋い顔をした。

 

「本来なら、先に確認しなきゃいけないことが山ほどあるんだけど……」

 

「ユウカちゃん」

 

 ノアさんが静かに言った。

 

「目を覚ましたばかりの子に、最初に何を渡すかは、とても大事ですよ」

 

「……それは、分かるけど」

 

「書類はあとから整えられます。でも、最初の体験は一度きりです」

 

 ユウカさんは反論しようとして、少しだけ口を閉じた。

 

 それから、ため息をつく。

 

「分かった。短時間だけ。ほんとに短時間だけだからね。その後、必要な確認をするから」

 

「やった!」

 

 モモイちゃんが跳ねた。

 

「ユウカ、ありがとう!」

 

「許可しただけ! あと、部室内で跳ねない!」

 

「はい!」

 

 アリスはそのやり取りを見ていた。

 

 何が起きているのか、完全には分かっていないようだった。でも、モモイちゃんの明るさや、ミドリちゃんの慎重さや、ユズちゃんの小さな提案が、自分に向いていることは感じているように見えた。

 

 モモイちゃんは机の上からゲーム機を取り出した。

 

 昨日先生に落ちたものとは別の、小さめの端末だった。私は一応、先生の頭を見た。先生は「大丈夫」と目で答えた。大丈夫ならいいけれど、ゲーム機を見ると少しだけ警戒してしまう。

 

「アリス、これがゲーム!」

 

 モモイちゃんが宣言する。

 

「入力装置」

 

 アリスが言った。

 

「そう! 入力装置でもある! でもそれだけじゃない!」

 

 ミドリちゃんが横に座る。

 

「まず、画面の中のキャラクターを動かします。このボタンで右、このボタンで左。これはジャンプ」

 

「右。左。ジャンプ」

 

「そうです。試してみてください」

 

 アリスは端末を受け取った。

 

 指が、ボタンの上に置かれる。

 

 画面の中の小さなキャラクターが、右へ動いた。

 

「画面内対象、移動」

 

「そう! 動いた!」

 

 モモイちゃんが自分のことみたいに喜ぶ。

 

 アリスはボタンを押す。

 

 キャラクターがジャンプする。

 

「上方向へ移動」

 

「ジャンプ!」

 

「ジャンプ」

 

 アリスが繰り返す。

 

 最初のステージは、本当に簡単なものだった。右へ進んで、小さな段差を跳び越えて、光るアイテムを取る。アリスは最初、ただ指示された通りに動かしているだけに見えた。でも、段差に引っかかった時、ほんの少しだけ手が止まった。

 

「障害物」

 

「ジャンプで越えられるよ」

 

 モモイちゃんが言う。

 

 アリスはジャンプした。

 

 失敗した。

 

 キャラクターが段差の前に戻る。

 

「失敗」

 

「もう一回!」

 

 モモイちゃんがすぐに言った。

 

「ゲームは失敗しても、もう一回できるから!」

 

「もう一回」

 

 アリスはボタンを押した。

 

 また失敗した。

 

 今度はミドリちゃんが言う。

 

「少し早めに押すといいです。段差の直前ではなく、その少し前」

 

「少し前」

 

 アリスはもう一度押した。

 

 キャラクターが段差を越えた。

 

 モモイちゃんが歓声を上げる。

 

「やった! できた!」

 

 アリスは画面を見ていた。

 

 長い沈黙。

 

 それから、小さく言った。

 

「成功」

 

「そう! 成功!」

 

「もう一度」

 

 その言葉に、部室の空気が変わった。

 

 モモイちゃんが固まる。

 

 ミドリちゃんが静かに目を開く。

 

 ユズちゃんが、ロッカーの扉の向こうではなく、今日はちゃんと机の近くでその声を聞いていた。

 

「もう一度、実行します」

 

 アリスは言った。

 

 モモイちゃんが、ぱっと笑った。

 

「それ、もう一回やりたいってことだよ!」

 

 ミドリちゃんも小さく笑う。

 

「興味はありそうですね」

 

 ユウカさんが端末を見ながら、少しだけ表情を緩めた。

 

「ゲームへの反応は確認できた、ってことでいいのかな。少なくとも嫌がってはいなさそう」

 

「ユウカ、それ認めたってことだよね!?」

 

「仮! 正式な手続きは必要!」

 

「仮でもいい! アリス、ゲーム開発部仮入部!」

 

「仮入部」

 

 アリスが繰り返す。

 

「登録します」

 

 ユズちゃんが、小さく言った。

 

「……四人、です」

 

 その言葉は、とても小さかった。

 

 でも、部室の全員に届いた。

 

 ゲーム開発部は、三人だった。

 

 部員数が足りなくて、実績も足りなくて、廃部になるかもしれなかった。

 

 でも今、そこにもう一人いる。

 

 まだゲームを知らない。

 

 まだ自分の言葉も少ない。

 

 けれど、「もう一度」と言った子がいる。

 

 モモイちゃんが、少しだけ泣きそうな顔で笑った。

 

「うん。四人だ」

 

 ミドリちゃんも頷いた。

 

「まだ、何も解決したわけじゃないですけど」

 

「でも、四人だよ!」

 

「うん」

 

 ミドリちゃんは、今度は否定しなかった。

 

 先生が静かにその様子を見ている。

 

 私は、アリスの横に置かれた端末を見た。画面の中では、小さなキャラクターが段差の前に立っている。何度失敗しても、また最初からではなく、少し前からやり直せる。アリスはそれをじっと見つめていた。

 

「レナ」

 

 突然呼ばれて、私は顔を上げた。

 

 アリスがこちらを見ていた。

 

「はい?」

 

「救護、とは」

 

 少し間を置いて、アリスは言った。

 

「失敗後に、続行可能にする行為ですか」

 

 胸の奥が、静かに鳴った。

 

 私はすぐには答えられなかった。

 

 ゲームの中のキャラクターは、失敗しても戻れる。もう一度跳べる。できるまで試せる。救護は、それと同じではない。現実の怪我は、ボタン一つで戻らない。痛みも、怖さも、失敗も、なかったことにはならない。

 

 でも。

 

「少し、似てるかも」

 

 私はゆっくり言った。

 

「失敗したことを消すんじゃなくて、その後も進めるようにすること。痛かったら手当てして、怖かったら止まって、疲れたら休んで、それから……もう一回どうするか考えること」

 

 アリスは私の言葉を聞いていた。

 

「救護」

 

 繰り返す。

 

「続行可能化」

 

「少し機械っぽいけど……うん。そんな感じ」

 

「理解しました」

 

 アリスは画面に視線を戻した。

 

「ゲームにも、救護が必要です」

 

 モモイちゃんが目を輝かせた。

 

「それ、めちゃくちゃいいこと言ってない!?」

 

「お姉ちゃん、たぶんアリスはまだ比喩として言ってないよ」

 

「でもいい言葉じゃん!」

 

「それは、そう」

 

 ミドリちゃんも認めた。

 

 ユズちゃんが、少しだけ笑った。

 

 アリスはまたボタンを押した。

 

 キャラクターがジャンプする。

 

 今度は、さっきより少しきれいに段差を越えた。

 

 部室に、小さな歓声が上がった。

 

 廃部問題はまだ残っている。

 

 ミレニアムプライズに出すゲームも、まだ完成どころか形になり始めたばかり。

 

 G.BIBLEも見つかっていない。

 

 アリスが何者なのかも、何も分かっていない。

 

 それでも、ゲーム開発部の部室には、昨日までなかった音が増えていた。

 

 ボタンを押す音。

 

 アリスが言葉を繰り返す声。

 

 モモイちゃんの歓声。

 

 ミドリちゃんの小さな助言。

 

 ユズちゃんの控えめな笑い。

 

 先生の穏やかな息遣い。

 

 私はその全部を聞きながら、机の端に置いた救護バッグへそっと手を置いた。

 

 新しい子が来た。

 

 何も知らない子。

 

 これから、たくさん覚える子。

 

 その最初の一つが、ゲームだった。

 

 そして、そのすぐ隣に、ゲーム開発部のみんながいた。

 

 アリスはもう一度、ボタンを押した。

 

「もう一度」

 

 その声は、まだ無機質だった。

 

 けれど、ほんの少しだけ、次を望む響きが混じっていた。

まぁ、ミレニアム編も当たり前ですけど、レナの例の動画を見せようと思うんですけど、ゲーム開発部にだけ見せるかどうか迷ってます。さすがに人を選ぶ描写になると思うんで、自分が見たい方にアンケートしてください。

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