戦えない私がキヴォトス中の生徒に執着されるまで   作:Zuzuiikb

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とりあえずミカ編は一旦終わります。


6話 なんか変

最近、妙に落ち着かない。別に何か大きい事件があったわけじゃない。授業は普通にあるし、課題は多いし、トリニティは今日も広いし、私は今日も一回迷った。

 

うん。迷った。

 

もうそこは否定しない。

でも今回はちゃんと自力で戻れたから実質勝利だと思う。いや待って。勝利ってなんだ?

はぁ。私ってほんと....

 

 そんなことを考えながら廊下を歩いていると、窓の外で雨が降り始めていた。

 

 ぽつぽつ、とガラスを叩く音。

あー最悪。傘、教室だ。

 

「……戻るかぁ」

 

 思わず呟く。

 

いやほんと面倒。トリニティってさ、校舎間移動多すぎない? しかも今日に限って端から端まで移動してるんだけど。何? 私そんな悪いことした?そのまま階段を降りようとして、止まる。

下の廊下。人が集まっていた。女子たちの声。ざわざわした空気。あ、これティーパーティーだ、なんとなく分かる。

 

というか。分かってしまう。

視線が、勝手にそっちへ向いた。

 

 いた。

 

ミカ先輩。数人の生徒と話している。

笑ってる。柔らかい声。

いつも通り、距離も普通。触れたりもしてない。

 

 ただ普通に、ティーパーティーの一人としてそこにいた。その瞬間。なんか、変な感じがした。

いや何が?....分かんない。

 

 でも。

 

 前までのミカ先輩って、もっと近かった気がする。

 

 ……いや、近かったっていうか。

 

 近すぎた?

なんかもう最近、感覚がバグってきてる気がするんだよね。だって普通、喉触られたりしないし。耳元で囁かれたりもしないし。逃げ道塞ぐみたいに静かに追い詰められることもない。

 

 ……ないよね?

 

 いや知らないけど。

 知らないけど、多分。

 

「,,,レナ,,,,,レナ?」

 

「ひゃっ!?」

 

肩が跳ねた。振り返る。そこには、呆れた顔の 下江コハル がいた。

 

「毎回その反応するのなんなの!? 逆に才能でしょもう!」

 

「いや急に話しかけられたらびっくりするでしょ!」

 

「急じゃないって! 三秒前から呼んでた!」

 

「うそ」

 

「ほんと!」

 

 コハルがぐいっと顔を寄せてくる。

 

「というかレナ、最近ぼーっとしすぎ! さっきからずっと廊下見てるけど何!? 探し物!?」

 

「えっ、いや別に!」

 

 反射で否定する。でもコハルはじとっとした目でこっちを見ていた。

 

「……ほんとに?」

 

「ほ、ほんとに……」

 

「いや絶対嘘じゃん。レナって嘘つく時めちゃくちゃ分かりやすいよね。“今めっちゃ誤魔化してます”みたいな顔するし」

 

 うっ。

 

 そんな顔してる?

 

 やば。

 

「いやその、なんか最近ちょっと考え事多くて、結構落ち込んでで……」

 

「重っ。昼休みのテンションで言うことじゃないって」

 

「いや待って聞いて。私ほんと昔からこうなの。なんか一回気になることできると、そのままずっと頭の端に残るっていうか、“あの時の会話変じゃなかったかな”とか、“あれどういう意味だったんだろ”とか、勝手に脳内反省会始まるタイプで。しかも夜になるとそれ全部二倍になるから、布団入った瞬間“うわぁぁぁ!”ってなる」

 

「知らないよそんなの!」

 

 コハルが勢いよくツッコむ。

 

「というか何!? 最近ずっとそれ!? レナ、前より考え込み方キモくなってるけど大丈夫!?」

 

「言い方!」

 

「いやだって! さっきもなんか廊下見ながら“なんか変……”とか言ってたし! ホラー始まるのかと思った!」

 

 うぅ。

 

 だってほんとに変なんだからしょうがない。

 

「……なんか、調子狂うんだよね」

 

「何が?」

 

「いや……」

 

 視線がまた下の廊下へ向きそうになる。

でも、もうミカ先輩はいなかった。

 

 それを確認した瞬間、胸の奥が少しだけざわつく。

 

 ……だからなんで?自分でも意味分かんない。

 

「レナ」

 

 コハルが少し真面目な声を出す。

 

「それ、多分ミカ様のせいでしょ」

 

「っ」

 

 どき、とした。

 

「いや、違――」

 

「いや絶対そうじゃん! 分かるって! 最近のレナ、ずっと誰か探してるし!」

 

「なんでそれで私がミカ先輩を探してるって思うのよ」

 

「でも当たってるでしょ!」

 

 否定できない。

 

 悔しい。

 

 コハルはそのままため息を吐いた。

 

「はぁ……まあ、分からなくはないけど」

 

「え?」

 

「ミカ様って、なんか独特なんだよ。距離感もそうだし、空気持ってく感じもそうだし。普通に喋ってるだけなのに、気づいたら向こうのペースになってるっていうか。あれ本人あんまり無自覚だから余計タチ悪いんだよね」

 

 その言葉に、少しだけ息が詰まる。

 

 あぁ。そっか。私だけじゃないんだ。

 

「……コハルも、そうなるの?」

 

「私はそこまでじゃないけど!? でもまあ、“近くにいると妙に疲れる”っていうのはちょっと分かる。なんかずっと空気読まされるっていうか……いや別に嫌いじゃないんだけど!」

 

 最後だけちょっと早口だった。

 

 なんか珍しいな。

 

「……でもレナは、ああいうタイプに耐性なさそう」

 

「そんなことないし……」

 

「あるって! レナ、“押し強い人”来るとすぐ飲まれるじゃん! しかも変に相手優先するから、“嫌だな”って思ってても空気壊したくなくてそのまま流されるし!」

 

「いや待って。なんか今日めちゃくちゃ分析されるんだけど」

 

「だって分かりやすすぎるんだもん!」

 

 コハルが呆れたみたいに言う。

 

 でも。

 

 そのまま少しだけ視線を逸らした。

 

「……まあ、その」

 

「?」

 

「レナってさ。なんか放っとくと普通に危ない感じするし」

 

「え」

 

「いやそういう意味じゃなくて! なんか、“気づいたら変なのに捕まってそう”っていうか……だから、見てるとたまに心配になるだけ!」

 

 一気に言い切る。

 

 そのあと、

「うわ何言ってんの私」

みたいな顔をした。

 

 なんだろう。

 

 ちょっとだけ面白い。

 

「……コハルって、意外と世話焼きだよね」

 

「はぁ!? 誰のせいだと思ってるの!?」

 

「え、私?」

 

「そうだよ!」

 

 即答だった。

 

 コハルが勢いよく指をさす。

 

「レナってなんか危なっかしいんだって! 迷子になるし! すぐ考え込むし! なんか急に変な方向に納得するし! あと押されたら普通にそのまま流されそうで見てて怖い!」

 

 ぐさぐさ刺さる。

 

 否定できないのがつらい。

 

「いやでも私、そんな簡単に流されないと思うけど……」

 

 言った瞬間。喉元に触れられた感覚を思い出した。ぞわ、と背筋が揺れる。

 あれ。なんだったんだろう。怖かった。怖かったはずなのに。なんで思い出すたび、あんな妙な感覚になるんだろう。

 

「レナ?」

 

「あっ、いや違うの! 今変なこと考えてたわけじゃなくて!」

 

「いや誰もそこまで言ってないけど!?」

 

 コハルが引いた顔をする。

 

 やば。

 

 最近ほんとに思考と口が直結してる。気をつけないと。

 

 雨は、まだ降っていた。さっきより少し弱くなったとはいえ、外は完全に灰色だ。窓ガラスに水滴が流れていくのをぼんやり見ていると、なんとなく時間感覚まで鈍くなってくる。

 

「……帰りたくないな」

 

「急にだるそうになるじゃん」

 

 コハルが呆れた声を出す。

 

 いやだって。

 

 雨の日って全部ちょっと面倒にならない?

 

 移動も。

 荷物も。

 靴下濡れるのも。

 

 あとなんか人生全体が湿気る。

 

「レナってさ、たまに年寄りみたいなテンションになるよね」

 

「分かる。最近自分でも、“縁側でお茶飲みたい欲”すごいもん」

 

「まだ学生でしょ!?」

 

 コハルが勢いよくツッコむ。

 

 そのまま、

「はぁ……」

と息を吐いて窓の外を見た。

 

「というか、ほんとどうすんの。傘ないんでしょ?」

 

「うぅ……」

 

 痛いところを。

 

「いやでもワンチャン止む可能性も……」

 

「ないと思うけど!? 見なよ外!」

 

 確かに普通に降ってる。

 

 しかも地味に風も強い。

 

「レナってさ、ほんと“全部自分でなんとかなるかも”みたいな顔して、普通に詰むよね」

 

「そんなことないし」

 

「あるって! この前も“地図あるから大丈夫”って言いながら逆方向行ってたじゃん!」

 

「あれは地図側にも問題あった」

 

「ない!」

 

 即答だった。

 

 うぅ。

 

 でもトリニティの構造って絶対おかしいと思うんだよね。なんで似たような廊下あんなにあるの? 途中から“今どこにいるか”より、“私は本当に存在しているのか”の方が分からなくなるんだけど。

 

「今絶対また変なこと考えてるでしょ」

 

「なんで分かるの!?」

 

「顔」

 

 そんな分かりやすい?

 

 でもコハルはなんだか楽しそうに笑っていた。その時だった。廊下の向こうが少しざわつく。

 

 女子たちの声。

 足音。

 空気が動く感じ。

 

 反射みたいに、視線がそっちへ向いた。

 いた。

 窓際。

 

 数人の生徒と話している、ピンク色の髪。ミカ 先輩。心臓が、妙に跳ねた。

 

 いやだからなんで?

 

別に普通でしょ。ただ見かけただけ。

なのに。気づいた瞬間、視線が離せなくなる。ミカ先輩は誰かと楽しそうに話していた。

柔らかく笑って。穏やかに頷いて。普通だった。

本当に普通。距離も近くない。触れてもこないただ、ティーパーティーの一人としてそこにいるだけ。

 

その時。不意に、ミカ先輩がこっちを見た。

 

目が合う。一瞬。本当に一瞬だけ。

 

ミカ先輩は、いつも通り柔らかく笑った。ただ、それだけだった。話しかけてもこない。近づいてもこない。

 

 そのまま自然に視線が外れて、また別の生徒との会話へ戻っていく。

 

「……」

 

 なんだろう。胸の奥が、少しだけざわついた。いや、、少しじゃないかも。なんか変だ。前まで、あんなに近かったのに。

 

 喉に触れられて。

 耳元で囁かれて。

 逃げ道なくなるみたいな空気の中にいたのに。

 

 今は、何もない。

 

 それが妙に落ち着かなかった。

 

 ……いや待って。なんで?何考えてんの私。あんな怖かったのに。なのに。

なんでちょっと、“それだけ?”って思ったの。

 

「レナ?」

 

「っ、え」

 

 コハルの声で我に返る。

 

「あ、いや……」

 

「……」

 

 コハルがじっとこっちを見ていた。

 

 まずい。

 

 今絶対変な顔してた。

 

「な、なに……?」

 

「別に」

 

 コハルはそう言って、視線を逸らす。でもなんか少しだけ、不機嫌そうだった。

 

「……帰る?」

 

「え?」

 

「いや、雨。ちょっと弱くなってきたし」

 

 確かに、さっきよりはマシかもしれない。

 

「あ、うん……」

 

「途中までなら一緒行くけど」

 

「えっ、いいの?」

 

「その代わりまた迷ったら笑うから」

 

「ひど」

 

「事実でしょ」

 

 コハルが鼻を鳴らす。そのまま歩き出した。私は慌てて後を追う。廊下を曲がる直前。なんとなく、もう一度だけ振り返った。

 でも。もうそこにミカ先輩の姿はなかった。

 

 ただ、雨の音だけが静かに響いていた。

 

   ◇

 

「……なにあの顔」

 

 一人になった廊下で、コハルが小さく呟く。

 

 レナが去っていった方向を見ながら、少しだけ眉を寄せた。

 

「なんでそんなに寂しそうな顔してんのよ……」

私も試行錯誤しながら投稿していますが、よくわかんないので教えてください。ミカ編を終えて、感想を以下から選んでください。今後の方針の参考にします。

  • 重すぎる。もっとライトにして欲しい
  • ちょうどいいくらい。
  • もっと重くてめんどくさくても良き
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