戦えない私がキヴォトス中の生徒に執着されるまで 作:Zuzuiikb
最近、妙に落ち着かない。別に何か大きい事件があったわけじゃない。授業は普通にあるし、課題は多いし、トリニティは今日も広いし、私は今日も一回迷った。
うん。迷った。
もうそこは否定しない。
でも今回はちゃんと自力で戻れたから実質勝利だと思う。いや待って。勝利ってなんだ?
はぁ。私ってほんと....
そんなことを考えながら廊下を歩いていると、窓の外で雨が降り始めていた。
ぽつぽつ、とガラスを叩く音。
あー最悪。傘、教室だ。
「……戻るかぁ」
思わず呟く。
いやほんと面倒。トリニティってさ、校舎間移動多すぎない? しかも今日に限って端から端まで移動してるんだけど。何? 私そんな悪いことした?そのまま階段を降りようとして、止まる。
下の廊下。人が集まっていた。女子たちの声。ざわざわした空気。あ、これティーパーティーだ、なんとなく分かる。
というか。分かってしまう。
視線が、勝手にそっちへ向いた。
いた。
ミカ先輩。数人の生徒と話している。
笑ってる。柔らかい声。
いつも通り、距離も普通。触れたりもしてない。
ただ普通に、ティーパーティーの一人としてそこにいた。その瞬間。なんか、変な感じがした。
いや何が?....分かんない。
でも。
前までのミカ先輩って、もっと近かった気がする。
……いや、近かったっていうか。
近すぎた?
なんかもう最近、感覚がバグってきてる気がするんだよね。だって普通、喉触られたりしないし。耳元で囁かれたりもしないし。逃げ道塞ぐみたいに静かに追い詰められることもない。
……ないよね?
いや知らないけど。
知らないけど、多分。
「,,,レナ,,,,,レナ?」
「ひゃっ!?」
肩が跳ねた。振り返る。そこには、呆れた顔の 下江コハル がいた。
「毎回その反応するのなんなの!? 逆に才能でしょもう!」
「いや急に話しかけられたらびっくりするでしょ!」
「急じゃないって! 三秒前から呼んでた!」
「うそ」
「ほんと!」
コハルがぐいっと顔を寄せてくる。
「というかレナ、最近ぼーっとしすぎ! さっきからずっと廊下見てるけど何!? 探し物!?」
「えっ、いや別に!」
反射で否定する。でもコハルはじとっとした目でこっちを見ていた。
「……ほんとに?」
「ほ、ほんとに……」
「いや絶対嘘じゃん。レナって嘘つく時めちゃくちゃ分かりやすいよね。“今めっちゃ誤魔化してます”みたいな顔するし」
うっ。
そんな顔してる?
やば。
「いやその、なんか最近ちょっと考え事多くて、結構落ち込んでで……」
「重っ。昼休みのテンションで言うことじゃないって」
「いや待って聞いて。私ほんと昔からこうなの。なんか一回気になることできると、そのままずっと頭の端に残るっていうか、“あの時の会話変じゃなかったかな”とか、“あれどういう意味だったんだろ”とか、勝手に脳内反省会始まるタイプで。しかも夜になるとそれ全部二倍になるから、布団入った瞬間“うわぁぁぁ!”ってなる」
「知らないよそんなの!」
コハルが勢いよくツッコむ。
「というか何!? 最近ずっとそれ!? レナ、前より考え込み方キモくなってるけど大丈夫!?」
「言い方!」
「いやだって! さっきもなんか廊下見ながら“なんか変……”とか言ってたし! ホラー始まるのかと思った!」
うぅ。
だってほんとに変なんだからしょうがない。
「……なんか、調子狂うんだよね」
「何が?」
「いや……」
視線がまた下の廊下へ向きそうになる。
でも、もうミカ先輩はいなかった。
それを確認した瞬間、胸の奥が少しだけざわつく。
……だからなんで?自分でも意味分かんない。
「レナ」
コハルが少し真面目な声を出す。
「それ、多分ミカ様のせいでしょ」
「っ」
どき、とした。
「いや、違――」
「いや絶対そうじゃん! 分かるって! 最近のレナ、ずっと誰か探してるし!」
「なんでそれで私がミカ先輩を探してるって思うのよ」
「でも当たってるでしょ!」
否定できない。
悔しい。
コハルはそのままため息を吐いた。
「はぁ……まあ、分からなくはないけど」
「え?」
「ミカ様って、なんか独特なんだよ。距離感もそうだし、空気持ってく感じもそうだし。普通に喋ってるだけなのに、気づいたら向こうのペースになってるっていうか。あれ本人あんまり無自覚だから余計タチ悪いんだよね」
その言葉に、少しだけ息が詰まる。
あぁ。そっか。私だけじゃないんだ。
「……コハルも、そうなるの?」
「私はそこまでじゃないけど!? でもまあ、“近くにいると妙に疲れる”っていうのはちょっと分かる。なんかずっと空気読まされるっていうか……いや別に嫌いじゃないんだけど!」
最後だけちょっと早口だった。
なんか珍しいな。
「……でもレナは、ああいうタイプに耐性なさそう」
「そんなことないし……」
「あるって! レナ、“押し強い人”来るとすぐ飲まれるじゃん! しかも変に相手優先するから、“嫌だな”って思ってても空気壊したくなくてそのまま流されるし!」
「いや待って。なんか今日めちゃくちゃ分析されるんだけど」
「だって分かりやすすぎるんだもん!」
コハルが呆れたみたいに言う。
でも。
そのまま少しだけ視線を逸らした。
「……まあ、その」
「?」
「レナってさ。なんか放っとくと普通に危ない感じするし」
「え」
「いやそういう意味じゃなくて! なんか、“気づいたら変なのに捕まってそう”っていうか……だから、見てるとたまに心配になるだけ!」
一気に言い切る。
そのあと、
「うわ何言ってんの私」
みたいな顔をした。
なんだろう。
ちょっとだけ面白い。
「……コハルって、意外と世話焼きだよね」
「はぁ!? 誰のせいだと思ってるの!?」
「え、私?」
「そうだよ!」
即答だった。
コハルが勢いよく指をさす。
「レナってなんか危なっかしいんだって! 迷子になるし! すぐ考え込むし! なんか急に変な方向に納得するし! あと押されたら普通にそのまま流されそうで見てて怖い!」
ぐさぐさ刺さる。
否定できないのがつらい。
「いやでも私、そんな簡単に流されないと思うけど……」
言った瞬間。喉元に触れられた感覚を思い出した。ぞわ、と背筋が揺れる。
あれ。なんだったんだろう。怖かった。怖かったはずなのに。なんで思い出すたび、あんな妙な感覚になるんだろう。
「レナ?」
「あっ、いや違うの! 今変なこと考えてたわけじゃなくて!」
「いや誰もそこまで言ってないけど!?」
コハルが引いた顔をする。
やば。
最近ほんとに思考と口が直結してる。気をつけないと。
雨は、まだ降っていた。さっきより少し弱くなったとはいえ、外は完全に灰色だ。窓ガラスに水滴が流れていくのをぼんやり見ていると、なんとなく時間感覚まで鈍くなってくる。
「……帰りたくないな」
「急にだるそうになるじゃん」
コハルが呆れた声を出す。
いやだって。
雨の日って全部ちょっと面倒にならない?
移動も。
荷物も。
靴下濡れるのも。
あとなんか人生全体が湿気る。
「レナってさ、たまに年寄りみたいなテンションになるよね」
「分かる。最近自分でも、“縁側でお茶飲みたい欲”すごいもん」
「まだ学生でしょ!?」
コハルが勢いよくツッコむ。
そのまま、
「はぁ……」
と息を吐いて窓の外を見た。
「というか、ほんとどうすんの。傘ないんでしょ?」
「うぅ……」
痛いところを。
「いやでもワンチャン止む可能性も……」
「ないと思うけど!? 見なよ外!」
確かに普通に降ってる。
しかも地味に風も強い。
「レナってさ、ほんと“全部自分でなんとかなるかも”みたいな顔して、普通に詰むよね」
「そんなことないし」
「あるって! この前も“地図あるから大丈夫”って言いながら逆方向行ってたじゃん!」
「あれは地図側にも問題あった」
「ない!」
即答だった。
うぅ。
でもトリニティの構造って絶対おかしいと思うんだよね。なんで似たような廊下あんなにあるの? 途中から“今どこにいるか”より、“私は本当に存在しているのか”の方が分からなくなるんだけど。
「今絶対また変なこと考えてるでしょ」
「なんで分かるの!?」
「顔」
そんな分かりやすい?
でもコハルはなんだか楽しそうに笑っていた。その時だった。廊下の向こうが少しざわつく。
女子たちの声。
足音。
空気が動く感じ。
反射みたいに、視線がそっちへ向いた。
いた。
窓際。
数人の生徒と話している、ピンク色の髪。ミカ 先輩。心臓が、妙に跳ねた。
いやだからなんで?
別に普通でしょ。ただ見かけただけ。
なのに。気づいた瞬間、視線が離せなくなる。ミカ先輩は誰かと楽しそうに話していた。
柔らかく笑って。穏やかに頷いて。普通だった。
本当に普通。距離も近くない。触れてもこないただ、ティーパーティーの一人としてそこにいるだけ。
その時。不意に、ミカ先輩がこっちを見た。
目が合う。一瞬。本当に一瞬だけ。
ミカ先輩は、いつも通り柔らかく笑った。ただ、それだけだった。話しかけてもこない。近づいてもこない。
そのまま自然に視線が外れて、また別の生徒との会話へ戻っていく。
「……」
なんだろう。胸の奥が、少しだけざわついた。いや、、少しじゃないかも。なんか変だ。前まで、あんなに近かったのに。
喉に触れられて。
耳元で囁かれて。
逃げ道なくなるみたいな空気の中にいたのに。
今は、何もない。
それが妙に落ち着かなかった。
……いや待って。なんで?何考えてんの私。あんな怖かったのに。なのに。
なんでちょっと、“それだけ?”って思ったの。
「レナ?」
「っ、え」
コハルの声で我に返る。
「あ、いや……」
「……」
コハルがじっとこっちを見ていた。
まずい。
今絶対変な顔してた。
「な、なに……?」
「別に」
コハルはそう言って、視線を逸らす。でもなんか少しだけ、不機嫌そうだった。
「……帰る?」
「え?」
「いや、雨。ちょっと弱くなってきたし」
確かに、さっきよりはマシかもしれない。
「あ、うん……」
「途中までなら一緒行くけど」
「えっ、いいの?」
「その代わりまた迷ったら笑うから」
「ひど」
「事実でしょ」
コハルが鼻を鳴らす。そのまま歩き出した。私は慌てて後を追う。廊下を曲がる直前。なんとなく、もう一度だけ振り返った。
でも。もうそこにミカ先輩の姿はなかった。
ただ、雨の音だけが静かに響いていた。
◇
「……なにあの顔」
一人になった廊下で、コハルが小さく呟く。
レナが去っていった方向を見ながら、少しだけ眉を寄せた。
「なんでそんなに寂しそうな顔してんのよ……」
私も試行錯誤しながら投稿していますが、よくわかんないので教えてください。ミカ編を終えて、感想を以下から選んでください。今後の方針の参考にします。
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重すぎる。もっとライトにして欲しい
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ちょうどいいくらい。
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もっと重くてめんどくさくても良き