戦えない私がキヴォトス中の生徒に執着されるまで   作:Zuzuiikb

62 / 90
13話 全知は鏡の奥を見る

 

 

 明星ヒマリという名前を聞いた時、モモイちゃんは最初、何かのボスキャラ名だと思ったらしい。

 

「いや、だってさ。超天才清楚系病弱美少女ハッカーって、もう肩書きが長すぎるじゃん。ラスボスじゃないなら隠しキャラでしょ」

 

「お姉ちゃん、本人の前で絶対言わないでね」

 

「言わないよ。たぶん」

 

「たぶんを外して」

 

 ミドリちゃんが即座に言う。

 

 アリスは、エンジニア部で預かった試作観測機のケースを両手で抱えながら、真剣な顔をしていた。

 

「新規重要人物、明星ヒマリ。肩書き、超天才清楚系病弱美少女ハッカー。情報量が多いです」

 

 

 私たちは、先生に案内されて特異現象捜査部の部室へ向かっていた。ゲーム開発部のみんなに加えて、試作機の調整役としてウタハさん、ヒビキさん、コトリさんも同行している。C&Cは今回はいない。特殊管理区画の護衛任務は一旦終わっていて、ネルさんは「また必要なら呼べ」とだけ言って帰ったらしい。

 

 短い。

 

 でも、あの人らしい。

 

 ウタハさんは試作機のケースを見ながら、少しだけ名残惜しそうに言った。

 

「ヒマリに見せるなら、外装をもう少し整えたかったな。せめて雷ちゃんとの統一感くらいは出したかった」

 

「先輩、今から外装を足すのはやめてください」

 

 ヒビキさんがすぐに止める。

 

「なぜだい?」

 

「今の状態でも動きます。ここで新機能とか装飾を足すと、たぶん別のところが壊れます」

 

「壊れたら直せばいい」

 

「ヒマリさんに見せる前に壊すのは、さすがにちょっと……」

 

「ふむ。それもそうだな」

 

 ウタハさんはわりと素直に頷いた。

 

 コトリさんは腕いっぱいの資料を抱えながら、やや早口で説明する。

 

「今回ヒマリさんに確認していただきたいのは、Mirror反応のうち、機械的な観測では説明しづらいノイズの部分です。具体的には、反射データの遅延、映像内の座標ズレ、そして観測側の認識に干渉している可能性がある微細な――」

 

「コトリさん、三行」

 

 私が言うと、コトリさんははっとした顔になった。

 

「はい! Mirrorは機械だけでは説明できません。データの奥に別の反応があります。ヒマリさん案件です!」

 

「分かりやすい」

 

「ありがとうございます!」

 

 モモイちゃんが感心したように頷いた。

 

「コトリ、すごい。説明が短くなってる」

 

「成長しました!」

 

「私はまだ長くてもいいと思うけどね。長い説明って、ゲームの設定資料集みたいでちょっと楽しいし」

 

 モモイちゃんが資料の束を見ながら言った。

 

 ミドリちゃんが少し意外そうに顔を上げる。

 

「お姉ちゃん、今日は資料に優しいね」

 

「だって、分厚い資料ってロマンあるじゃん。読めるかは別だけど」

 

「そこは読もうよ」

 

「読めるところから読む!」

 

 モモイちゃんはそう言って、ケースを持つアリスの横を歩いた。以前ならすぐにツッコミだけで終わっていたかもしれない。でも今は、ちゃんと見ている。試作機も、資料も、アリスの様子も。勢いはあるけれど、ただ騒いでいるだけではなかった。

 

 目的の部室前へ着いた。

 

 扉には、特異現象捜査部の表示がある。ゲーム開発部ともエンジニア部とも違って、妙に静かだった。音がしない。端末の駆動音も、部品の転がる音も、誰かの騒がしい声もない。

 

 静かすぎて、逆に落ち着かない。

 

 先生が扉をノックしようとした瞬間、中から声がした。

 

「どうぞ。ちょうど、お待ちしていました」

 

 モモイちゃんが小声で言う。

 

「え、まだノックしてないよね?」

 

「たぶん、分かってたんだと思う」

 

 ミドリちゃんが答える。

 

「何を?」

 

「私たちが来ること」

 

「こわ……」

 

 先生が扉を開ける。

 

 中は、思っていたより落ち着いた部屋だった。中央に机。周囲に端末。奥には大きな画面。照明は柔らかいのに、画面の文字だけがくっきり浮かんでいる。

 

 その中央に、車椅子の少女がいた。

 

 白く長い髪。儚げに見える体つき。けれど、目はまったく弱くない。こちらが部屋に入る前から、もう全員の位置を把握していたような目だった。

 

 彼女は、ゆっくりと片手を胸に当てた。

 

「お待ちしておりました。ミレニアムが誇る超天才清楚系病弱美少女ハッカー、明星ヒマリです」

 

 モモイちゃんが、必死に口を押さえた。

 

 ミドリちゃんがその袖を掴む。

 

「お姉ちゃん、耐えて」

 

「耐えてる……!」

 

 ヒマリさんは、もちろんそれを見逃さなかった。

 

「そちらの元気な方は、何か言いたそうですね」

 

「い、言ってないです!」

 

「ええ。口には出していませんね」

 

「顔には出てるってこと!?」

 

「とても」

 

 モモイちゃんは一歩引いた。

 

「レナお姉ちゃん、ここも強い」

 

「うん。ミレニアムの人、初手が強いね」

 

 ヒマリさんの視線が、そこで私へ向いた。

 

「あなたがレナさんですね。トリニティ総合学園、救護騎士団。Mirrorを見て、祈りやステンドグラスの話をした方」

 

「そこまで聞いてるんですね」

 

「必要な情報ですので」

 

「必要でした?」

 

「ええ。今回、かなり」

 

 ヒマリさんは、軽く微笑んだ。

 

 その微笑みは、少しだけ読みにくい。からかっているようにも見えるし、純粋に面白がっているようにも見える。けれど今は、私個人に踏み込んでくる感じではなかった。視線はすぐに、アリスが抱える試作観測機へ向かった。

 

 それで、少し息が楽になる。

 

 今日の主役は、私ではない。

 

 Mirrorだ。

 

 先生が試作機のケースを机に置いた。

 

「ヒマリ、今日はこれを見てもらいたいの。エンジニア部がMirrorを安全に観測するために作った試作機よ」

 

「概要は把握しています」

 

 ヒマリさんが端末を操作すると、画面にはすでにヴェリタスからの共有ログと、エンジニア部の試作メモが表示されていた。

 

 ウタハさんが眉を上げる。

 

「相変わらず手が早いな、ヒマリ」

 

「褒め言葉として受け取っておきます」

 

「褒めているとも。少し腹立たしいが」

 

「ふふっ。天才とは、時に人の心を乱してしまうものです」

 

「その言い方、変わらないな」

 

「変える必要がありませんから」

 

 二人の会話には、互いをよく知っている感じがあった。仲がいい、というより、相手の面倒なところを分かった上で話している。ウタハさんもヒマリさんも、違う方向に自信が強い。

 

 ヒビキさんは少し後ろに立ち、コトリさんは画面に興味津々だった。

 

「ヒマリさん、このノイズ部分が特に問題でして――」

 

「コトリさん」

 

「はい!」

 

「まずは三行でお願いします」

 

「ヒマリさんまで!?」

 

 コトリさんが衝撃を受けた顔をする。

 

 ヒマリさんは楽しそうに笑った。

 

「長い説明が悪いとは言いません。けれど今日は、状況の整理が先です。全知にも順番は必要ですので」

 

「はい! Mirrorは反射装置ではない可能性があります。観測データに遅延とズレがあります。外部システムとの接続が疑われます!」

 

「よくできました」

 

「ありがとうございます!」

 

 コトリさんが嬉しそうにする。

 

 モモイちゃんが小声で言った。

 

「ヒマリ、先生みたいなことするね」

 

「お姉ちゃん、聞こえるよ」

 

「聞こえてもいい声量で言った」

 

「それはもう小声じゃないよ」

 

 ヒマリさんは軽く笑っただけで、本題に入った。

 

 試作機が起動する。

 

 黒いMirror反応が画面に浮かんだ。

 

 以前より見やすい。エンジニア部で調整した警告音は刺さらず、光も強すぎない。けれど、画面の奥に走る細いノイズだけは、やはり落ち着かなかった。黒い反射の奥で、何かがこちらを見返してくるような感じがする。

 

 ヒマリさんは、しばらく黙っていた。

 

 さっきまでの茶目っ気が、少しずつ消えていく。

 

「……なるほど」

 

 短い声。

 

 ウタハさんが聞く。

 

「どう見る?」

 

「まず、この試作機は良い出来です。Mirrorに直接触れず、反応だけを人間が確認できる形へ変換している。警告音と画面設計にも配慮がありますね」

 

「レナ君やゲーム開発部の意見も入っている」

 

「でしょうね」

 

 ヒマリさんは画面から目を離さずに言った。

 

「ウタハさんだけなら、もう少しロマンに寄っていたはずです」

 

「失礼だな。否定はしないが」

 

「否定しないのですね」

 

「良いロマンは大切だ」

 

 ヒビキさんが小さく言う。

 

「先輩、そこは譲らないんですね」

 

「当然だ」

 

 少しだけ空気が緩む。

 

 けれど、ヒマリさんの目は画面から離れなかった。

 

「結論から言うと、これは鏡ではありません。少なくとも、ただ映すための装置ではない」

 

 アリスが反応する。

 

「Mirrorは、鏡ではありませんか」

 

「名前としてはMirrorです。ですが、機能としては“反射”より“照合”に近い」

 

「照合」

 

 ミドリちゃんが呟いた。

 

 ヒマリさんは画面に指を向ける。

 

「対象を映すのではなく、対象から得た情報をどこかにある別のデータと比較している。だから遅れる。だから影がずれる。見えているものをそのまま返しているのではなく、見たものに似た何かを探し、それを重ねようとしている」

 

「似た何か……」

 

 ユズちゃんの声が小さくなる。

 

 モモイちゃんは画面を見つめたまま、珍しくすぐに茶化さなかった。

 

「それ、ゲームで言うと、キャラのデータを読み込んで、別のセーブデータと比べてるみたいな感じ?」

 

「乱暴ですが、かなり近いです」

 

 ヒマリさんは頷いた。

 

 モモイちゃんは少しだけ嬉しそうにしたけれど、すぐ真面目な顔に戻った。

 

「じゃあ、アリスも比べられたかもしれないってこと?」

 

 部屋が静かになる。

 

 アリスは画面を見ていた。

 

「アリスは、何と照合されましたか」

 

 誰もすぐには答えられなかった。

 

 ヒマリさんは、アリスを見た。さっきまでの軽い笑みはもうない。けれど、怖がらせるような言い方もしなかった。

 

「それを調べるために、私が呼ばれたのでしょう?」

 

 声は落ち着いていた。

 

「安心してください。全知たる私が、解けるところまで解きます」

 

 アリスは真剣に頷いた。

 

「全知は、頼れますか」

 

「ええ。かなり」

 

 ヒマリさんは当然のように答えた。

 

 モモイちゃんが小声で言う。

 

「自信がすごい」

 

「でも、頼もしいかも」

 

 ミドリちゃんが返す。

 

 ヒマリさんは端末を操作し、データの深層へ潜っていった。文字列が流れる。ノイズがほどける。黒い反射の奥に、ほんの一瞬だけ別の識別コードが浮かんだ。

 

 その瞬間、ヒマリさんの表情が変わった。

 

 本当に少しだけ。

 

 でも、確かに。

 

 笑みが消えた。

 

「……これは、少し厄介ですね」

 

 先生が身を乗り出す。

 

「危険なの?」

 

「危険かどうかはまだ断定しません。ですが、Mirrorは単独の装置ではなく、もっと大きなシステムの末端である可能性が高いです」

 

「末端?」

 

 ウタハさんが目を細める。

 

「つまり、あれ自体が本体ではないと?」

 

「はい。Mirrorは入口、あるいは窓のようなものです。問題は、その向こう側に何があるか」

 

 ヒマリさんは画面を拡大した。

 

「しかも、照合先は特殊管理区画内ではありません。外部、もしくは旧管理システムのさらに奥。閉じられているはずの場所から、外へ繋がっている」

 

 コトリさんが資料を抱え直す。

 

「つまり、Mirrorは認証端末、もしくは対象検索システムの一部であり、外部データベースと接続している可能性がある、ということですね?」

 

「良いまとめです。三行にしなくても今のは必要な説明でした」

 

「ありがとうございます!」

 

 コトリさんはまた嬉しそうにした。

 

 けれど、部屋の空気はもう軽くならなかった。

 

 アリスが試作機のケースを抱え直す。

 

「アリスは、検索対象ですか」

 

 先生が、少しだけ眉を寄せた。

 

 モモイちゃんがすぐに言う。

 

「まだ分かんないよ、アリス」

 

「はい。未確定です」

 

「そう。未確定。だから調べる」

 

 モモイちゃんの声は、いつもより少し低かった。

 

 ミドリちゃんも端末を握りしめている。

 

 ユズちゃんは、アリスの近くへ少しだけ寄った。

 

 ヒマリさんはその様子を見ていた。けれど、余計なことは言わなかった。今ここでレナや誰かをからかうのは違うと判断したのだと思う。

 

 その判断の早さに、少しだけ印象が変わった。

 

 この人は、面倒で自信家で、たぶんかなり人をからかう。

 

 でも、線を見ている。

 

 少なくとも今は、本題を優先している。

 

「ヒマリさん」

 

 私は画面を見ながら聞いた。

 

「この装置が“照合”しているとして、照合された側に影響はありますか?」

 

「良い質問です」

 

 ヒマリさんはすぐに答えた。

 

「現状の観測範囲では、直接的な干渉は確認できません。ただし、Mirror本体に近づいた場合、対象の認識に影響を与える可能性はあります。レナさんが以前言ったように、“見せられるもの”が人を止めることはあり得る」

 

「じゃあ、アリスちゃんをむやみに近づけない方がいいですね」

 

「ええ。少なくとも、次の解析が終わるまでは」

 

「分かりました」

 

 私が頷くと、ヒマリさんは少しだけこちらを見た。

 

「今の判断は早いですね」

 

「救護の話なので」

 

「なるほど。救護の時は迷わない」

 

「迷う時もありますよ」

 

「ですが、迷いながらでも動ける」

 

 ヒマリさんは、そこで微笑んだ。

 

「面白い方ですね」

 

「それ、褒めてます?」

 

「今は褒めています」

 

「今は」

 

「ええ。時と場合によりますので」

 

「怖い言い方ですね」

 

「ふふっ。覚えておいてください」

 

 会話はそこで切れた。

 

 これくらいでいい。

 

 踏み込みすぎない。

 

 けれど、ヒマリさんが私を少し面白がったことは分かる。私も、ヒマリさんがただ肩書きの濃い人ではないことを少し知った。

 

 ヒマリさんは端末へ向き直る。

 

「問題は、ここからです」

 

 画面に、さらに深い層の識別コードが表示された。

 

 その直後、警告表示が出る。

 

 アクセス権限不足。

 

 セミナー上位管理権限が必要。

 

 部屋が静かになる。

 

 ユウカさんの名前が誰かの口に出かけた。けれど、その前にヒマリさんが言った。

 

「ユウカさんの権限では届かないでしょう。ノアさんでも、閲覧はできても深層までは難しい」

 

 ミドリちゃんが、小さく息を吸った。

 

「じゃあ……」

 

「ええ」

 

 ヒマリさんは端末を閉じた。

 

「調月リオ。セミナー会長。彼女の領域です」

 

 リオ。

 

 まだ会っていない名前。

 

 けれど、その名前が出た瞬間、空気の温度が少し下がったような気がした。

 

 モモイちゃんが小さく聞く。

 

「リオって、そんなにすごいの?」

 

 ウタハさんが答えた。

 

「すごい、という言葉では少し足りないな。合理的で、冷静で、目的のためならかなり大胆な判断をする」

 

 ヒマリさんが続ける。

 

「合理を愛し、合理で人を刺す方です」

 

「刺すって、比喩だよね?」

 

 モモイちゃんが顔をしかめる。

 

 ヒマリさんは微笑んだ。

 

「合理とは時に、比喩より痛いものですから」

 

「怖いこと言う……」

 

 アリスは試作機を抱えたまま、まっすぐ前を見る。

 

「新規クエスト。リオに会う」

 

「アリス、すごく簡単に言うね」

 

 モモイちゃんが言う。

 

「難易度は高いですか」

 

「高いですね」

 

 ヒマリさんはすぐに答えた。

 

「ですが、Mirrorの奥へ進むなら避けては通れません」

 

 先生が頷く。

 

「分かった。ユウカさんとノアさんにも相談しましょう」

 

 私は、消えた画面を見つめた。

 

 Mirror。

 

 照合。

 

 外部に繋がる何か。

 

 そして、リオ。

 

 話はまた進んだ。

 

 ヒマリさんは最後に、試作機のケースを見て言った。

 

「この観測機は、もう少し調整すれば使えます。エンジニア部、ヴェリタス、そして特異現象捜査部で分担しましょう」

 

「当然だ」

 

 ウタハさんが頷く。

 

「雷ちゃんの補助ユニットも改良する。次はもっと安定するはずだ」

 

「……徹夜はなしでお願いします」

 

 ヒビキさんが小さく言う。

 

「努力しよう」

 

「それ、する人の返事です」

 

 コトリさんが資料を抱え直す。

 

「では、今回のまとめです! Mirrorは単なる鏡ではなく照合端末の可能性があります。深層解析にはセミナー上位権限が必要です。次の目的は、リオさんへの接触です!」

 

「完璧」

 

 モモイちゃんが拍手した。

 

「コトリ、もう説明役として完成してるじゃん」

 

「完成ですか!? いえ、まだまだ説明すべきことはたくさん――」

 

「そこは完成してなかった」

 

 ミドリちゃんが苦笑する。

 

 ヒマリさんは楽しそうに見ていた。

 

 部室を出る時、ヒマリさんが私たちを見送った。

 

「先生、皆さん。次の連絡をお待ちしています。全知はいつでも忙しいですが、面白い案件なら時間を作りましょう」

 

 モモイちゃんが小声で言う。

 

「全知、便利だなぁ」

 

 ヒマリさんはそれを聞いていた。

 

「便利ですよ。もっとも、使いこなすには少々癖がありますが」

 

「自分で言うんだ……」

 

 私は軽く頭を下げた。

 

「ありがとうございました、ヒマリさん」

 

「こちらこそ。レナさんの救護的視点も、引き続き必要になるかもしれません」

 

「必要なら呼んでください。……ただ、超天才清楚系病弱美少女の情報量には、まだちょっと慣れませんけど」

 

 ヒマリさんは一瞬だけ目を丸くして、それから小さく笑った。

 

「ふふっ。そのうち慣れますよ」

 

「慣れていいのか迷いますね」

 

「慣れた頃に、また別の肩書きを足しておきます」

 

「やっぱり慣れない方がよさそうです」

 

 その程度の軽いやり取りで、今日は終わった。

 

 今は、それでいい。

 

 廊下に出ると、モモイちゃんが大きく息を吐いた。

 

「ヒマリ、濃かった……」

 

「うん」

 

 ミドリちゃんも頷く。

 

「でも、すごかったね。Mirrorのこと、一気に進んだ」

 

「それはそう。濃いけどすごい。すごいけど濃い」

 

「お姉ちゃんの感想もだいぶ濃いよ」

 

 アリスが試作機のケースを抱え直した。

 

「クエスト更新。次の目的地、セミナー。対象、リオ」

 

 ユズちゃんは、少し不安そうに袖を握った。

 

「……リオさん」

 

 私は救護バッグの紐に触れた。

 

 次はリオ。

 

 ヒマリさんとはまた違う、ミレニアムの奥にいる人。

 

 合理の人。

 

 管理の人。

 

 まだ会っていないのに、その名前だけで、どこか空気が冷たくなる。

 

 それでも、進むしかない。

 

 Mirrorの奥へ。

 

 アリスの謎へ。

 

 ミレニアムのもっと深い場所へ。

 

 クエストは、まだ続く。




コメント評価お願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。