戦えない私がキヴォトス中の生徒に執着されるまで   作:Zuzuiikb

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15話 引き抜け、勇者の剣

 

 

 ゲーム開発部に戻ると、モモイちゃんは部室の真ん中で両手を上げた。

 

「はい! 緊急作戦会議!」

 

「また?」

 

 ミドリちゃんが端末を置きながら言う。

 

「またじゃないよ! リオ先輩は返事しない! C&Cは来るかもしれない! Mirrorはよく分からない! でも締切は待ってくれない!」

 

「状況整理が嫌なくらい正確だね」

 

「でしょ!」

 

 褒められたと思ったのか、モモイちゃんは胸を張った。

 私は思わず笑ってしまう。

 

「つまり、今やることは一つですね」

 

「そう!」

 

 モモイちゃんがこちらを指さした。

 

「ゲームを作る!」

 

 アリスちゃんが、ぱっと顔を上げる。

 

「ゲームを作る。TSC2を完成させます」

 

「うん。でもその前に、アリスには必要なものがある」

 

「必要なもの?」

 

「勇者には、武器が必要でしょ!」

 

 モモイちゃんがそう宣言した時、アリスちゃんの目が一気に輝いた。

 

「武器」

 

「うん! アリス用の、めちゃくちゃかっこいいやつ!」

 

 ミドリちゃんが苦笑する。

 

「お姉ちゃん、目的が半分くらい趣味になってる」

 

「趣味じゃないよ! 演出! 勇者が勇者らしくなるための大事な演出!」

 

「まあ……ゲーム的には分かるけど」

 

 ユズちゃんが小さく頷いた。

 

「……アリスさんに合う武器、必要かもしれません」

 

 先生も頷く。

 

「それなら、エンジニア部に相談してみましょう」

 

 その瞬間、モモイちゃんとアリスちゃんの顔が同じ方向に輝いた。

 

「エンジニア部!」

 

「新規装備クエストです」

 

「アリス、行くよ!」

 

「はい。勇者は装備を更新します」

 

 私は二人を見て、少しだけ胸が軽くなった。

 

 リオ先輩は返事をしなかった。

 命令だけが残った。

 C&Cが来るかもしれない。

 

 それでも、ゲーム開発部は前を向く。

 こういう時に「ゲームを作る」と言えるこの子たちは、本当に強いと思った。

 

 エンジニア部では、ウタハさんが私たちを見るなり、楽しそうに笑った。

 

「なるほど。勇者の武器か」

 

「はい!」

 

 アリスちゃんが真剣に頷く。

 

「アリスは、勇者の武器を探しています」

 

「いいね。実に良いテーマだ」

 

 ウタハさんは工具を置いて立ち上がる。

 

「武器とは、ただ敵を倒すためのものではない。持つ者の物語を決めるものだ。ならば、君に合うものを探さなければ」

 

「先輩、また大きい話にしてる……」

 

 ヒビキさんが小さく言った。

 

 コトリさんは資料を抱えたまま、もう説明したそうにしている。

 

「武器選定においては、重量、出力、反動、使用者の身体能力、そして心理的適性が重要でして――」

 

「コトリ、三行」

 

 ウタハさんが即座に止める。

 

「重すぎる武器は危険です! 強すぎる武器も危険です! でもロマンは大事です!」

 

「よろしい」

 

「三行目にロマン入るんだ……」

 

 ミドリちゃんが呟く。

 

 最初に出されたのは、比較的扱いやすい銃器だった。

 次に、軽量化された試作品。

 さらに、アリスちゃん用に調整できそうな大きめの武器。

 

 けれど、アリスちゃんの視線は、部屋の奥で止まった。

 

 そこにあったのは、明らかに個人用ではない巨大な兵装だった。長く、重く、部屋の光を受けて鈍く輝くそれは、武器というより、何か大きな機械の一部みたいに見えた。

 

「……あれは?」

 

 アリスちゃんが聞く。

 

 ウタハさんの目が、少しだけ楽しそうになる。

 

「あれはレールガ....いや、光の剣、スーパーノヴァ」

 

「光の剣」

 

 アリスちゃんが繰り返した。

 

 声が、少し変わった。

 

「アリスは、あれがいいです」

 

「えっ、アリス、さすがに大きくない?」

 

 モモイちゃんが慌てる。

 

「大きいです。つまり、強いです」

 

「ゲーム理論が雑!」

 

 ミドリちゃんも心配そうに言う。

 

「アリス、本当に持てるの?」

 

「試します」

 

 アリスちゃんは、スーパーノヴァの前へ立った。

 

 空気が、少しだけ止まる。

 

 ウタハさんも、ヒビキさんも、コトリさんも、黙って見ていた。

 先生も、モモイちゃんも、ミドリちゃんも、ユズちゃんも。

 私も、救護バッグの紐に指をかけたまま、息を止めていた。

 

 アリスちゃんが、手を伸ばす。

 

 そして。

 

 持ち上げた。

 

 あまりにも自然に。

 

 重そうな顔も、無理をしている様子もなく、アリスちゃんは巨大なスーパーノヴァを抱えた。まるで、最初からそうするためにそこにあったみたいに。

 

「……持てた」

 

 モモイちゃんが呟く。

 

 アリスちゃんは振り返った。

 

 その顔は、見たことがないくらい明るかった。

 

「パンパカパーン」

 

 アリスちゃんは、スーパーノヴァを大事そうに抱えたまま言った。

 

「アリスは、勇者の武器を手に入れました。光の剣、スーパーノヴァです」

 

 モモイちゃんが跳ねた。

 

「かっこいい! やばい! アリス、完全に勇者じゃん!」

 

「お姉ちゃん、語彙」

 

「語彙なんか今どうでもいいよ! 見てよミドリ! アリスが! 勇者!」

 

 ミドリちゃんも、呆れながら笑っていた。

 

「うん。……すごく似合ってる」

 

 ユズちゃんが小さく言う。

 

「……かっこいいです」

 

 アリスちゃんは、少し誇らしそうに胸を張った。

 

「アリスは、かっこいいです」

 

「うん。かっこいいよ」

 

 私が言うと、アリスちゃんは私を見た。

 

「レナも、そう思いますか」

 

「思うよ。すごく」

 

 私は笑った。

 

「でも、重くない?」

 

「重くありません」

 

「じゃあ、怪我しないようにだけ気をつけてね」

 

「はい。アリスは、怪我をしないように勇者をします」

 

「勇者って動詞だったんだ」

 

 モモイちゃんが笑う。

 

 その明るさに、部室の空気が一気に戻った。

 

 ウタハさんは、少しだけスーパーノヴァを見つめていた。けれど、すぐにいつもの顔に戻る。

 

「いいだろう。スーパーノヴァは、君に譲ろう」

 

「本当ですか」

 

「ああ。武器は、相応しい持ち主に持たれるべきだ」

 

 アリスちゃんの目がまた輝く。

 

「ありがとうございます。ウタハ」

 

「礼には及ばない。大事に使ってくれ」

 

「はい。アリスは、光の剣を大事にします」

 

 その言葉に、ウタハさんは少しだけ満足そうに頷いた。

 

 帰り道、アリスちゃんはずっとスーパーノヴァを大事そうに抱えていた。

 

 モモイちゃんは横でずっと騒いでいる。

 

「やばいよ! これ絶対イベントCGあるよ! タイトルは『勇者、光の剣を手に入れる』!」

 

「お姉ちゃん、ゲーム作る側なのにもうプレイヤーになってる」

 

「作る側でも感動するものは感動する!」

 

 ユズちゃんは小さく微笑んでいた。

 

「……アリスさん、嬉しそう」

 

「うん」

 

 私は頷く。

 

 アリスちゃんは、ゲーム開発部の真ん中で笑っている。

 

 それだけで、少しだけ安心した。

 

 部室に戻ると、モモイちゃんはすぐに机を叩いた。

 

「よし! 勇者の武器も手に入った! TSC2、完成させるよ!」

 

「お姉ちゃん、まずは残りタスク確認」

 

「分かってる! 気合い入れてからタスク確認!」

 

「またその順番……」

 

 アリスちゃんがスーパーノヴァを部屋の隅に大事に置いた。

 

「アリスも作業します」

 

「うん。お願い、アリス」

 

 ミドリちゃんが優しく言う。

 

 ユズちゃんが端末を開く。

 

「……残り、まだ多いです」

 

「多いなら減らす!」

 

 モモイちゃんが言った。

 

「一個ずつ!」

 

 私はその声を聞きながら、部室の入り口近くに立っていた。

 

 リオ先輩は返事をしない。

 C&Cへの命令は消えていない。

 でも、今この部屋には、完成させようとする音がある。

 

 端末のキーを叩く音。

 モモイちゃんの声。

 ミドリちゃんの指示。

 ユズちゃんの小さな返事。

 アリスちゃんの「了解しました」。

 

 私は救護バッグを置いて、袖を少しまくった。

 

「私も手伝うよ。専門的なところは無理だけど、飲み物、仮眠、誤字チェック、モモイちゃんの暴走制御くらいなら」

 

「最後!」

 

 モモイちゃんが叫ぶ。

 

「レナお姉ちゃん、最後だけ役割が強すぎる!」

 

「大事でしょ?」

 

「否定できないのが悔しい!」

 

 笑いが起きる。

 

 その時、先生の端末が短く鳴った。

 

 先生が画面を見る。

 表情が、ほんの少しだけ変わった。

 

「先生?」

 

 私が聞くと、先生は一瞬だけ迷い、それから画面を伏せた。

 

「大丈夫。今は、作業を進めましょう」

 

 見えたのは、ほんの一瞬。

 

 C&C。

 任務受領。

 

 それだけだった。

 

 私は何も言わなかった。

 

 今、あの子たちの手を止める言葉ではないと思ったから。

 

 でも、胸の奥で、確かに何かが近づいてくる音がした。

 

 部室の中では、モモイちゃんが叫んでいる。

 

「よーし! 作るよ! 世界で一番、私たちらしいゲーム!」

 

 アリスちゃんがスーパーノヴァをちらりと見て、それから端末へ向き直った。

 

「TSC2、制作再開です」

 

 パンパカパーン、と小さく言って。

 

 ゲーム開発部の夜が、始まった。

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