戦えない私がキヴォトス中の生徒に執着されるまで 作:Zuzuiikb
ゲーム開発部に戻ると、モモイちゃんは部室の真ん中で両手を上げた。
「はい! 緊急作戦会議!」
「また?」
ミドリちゃんが端末を置きながら言う。
「またじゃないよ! リオ先輩は返事しない! C&Cは来るかもしれない! Mirrorはよく分からない! でも締切は待ってくれない!」
「状況整理が嫌なくらい正確だね」
「でしょ!」
褒められたと思ったのか、モモイちゃんは胸を張った。
私は思わず笑ってしまう。
「つまり、今やることは一つですね」
「そう!」
モモイちゃんがこちらを指さした。
「ゲームを作る!」
アリスちゃんが、ぱっと顔を上げる。
「ゲームを作る。TSC2を完成させます」
「うん。でもその前に、アリスには必要なものがある」
「必要なもの?」
「勇者には、武器が必要でしょ!」
モモイちゃんがそう宣言した時、アリスちゃんの目が一気に輝いた。
「武器」
「うん! アリス用の、めちゃくちゃかっこいいやつ!」
ミドリちゃんが苦笑する。
「お姉ちゃん、目的が半分くらい趣味になってる」
「趣味じゃないよ! 演出! 勇者が勇者らしくなるための大事な演出!」
「まあ……ゲーム的には分かるけど」
ユズちゃんが小さく頷いた。
「……アリスさんに合う武器、必要かもしれません」
先生も頷く。
「それなら、エンジニア部に相談してみましょう」
その瞬間、モモイちゃんとアリスちゃんの顔が同じ方向に輝いた。
「エンジニア部!」
「新規装備クエストです」
「アリス、行くよ!」
「はい。勇者は装備を更新します」
私は二人を見て、少しだけ胸が軽くなった。
リオ先輩は返事をしなかった。
命令だけが残った。
C&Cが来るかもしれない。
それでも、ゲーム開発部は前を向く。
こういう時に「ゲームを作る」と言えるこの子たちは、本当に強いと思った。
エンジニア部では、ウタハさんが私たちを見るなり、楽しそうに笑った。
「なるほど。勇者の武器か」
「はい!」
アリスちゃんが真剣に頷く。
「アリスは、勇者の武器を探しています」
「いいね。実に良いテーマだ」
ウタハさんは工具を置いて立ち上がる。
「武器とは、ただ敵を倒すためのものではない。持つ者の物語を決めるものだ。ならば、君に合うものを探さなければ」
「先輩、また大きい話にしてる……」
ヒビキさんが小さく言った。
コトリさんは資料を抱えたまま、もう説明したそうにしている。
「武器選定においては、重量、出力、反動、使用者の身体能力、そして心理的適性が重要でして――」
「コトリ、三行」
ウタハさんが即座に止める。
「重すぎる武器は危険です! 強すぎる武器も危険です! でもロマンは大事です!」
「よろしい」
「三行目にロマン入るんだ……」
ミドリちゃんが呟く。
最初に出されたのは、比較的扱いやすい銃器だった。
次に、軽量化された試作品。
さらに、アリスちゃん用に調整できそうな大きめの武器。
けれど、アリスちゃんの視線は、部屋の奥で止まった。
そこにあったのは、明らかに個人用ではない巨大な兵装だった。長く、重く、部屋の光を受けて鈍く輝くそれは、武器というより、何か大きな機械の一部みたいに見えた。
「……あれは?」
アリスちゃんが聞く。
ウタハさんの目が、少しだけ楽しそうになる。
「あれはレールガ....いや、光の剣、スーパーノヴァ」
「光の剣」
アリスちゃんが繰り返した。
声が、少し変わった。
「アリスは、あれがいいです」
「えっ、アリス、さすがに大きくない?」
モモイちゃんが慌てる。
「大きいです。つまり、強いです」
「ゲーム理論が雑!」
ミドリちゃんも心配そうに言う。
「アリス、本当に持てるの?」
「試します」
アリスちゃんは、スーパーノヴァの前へ立った。
空気が、少しだけ止まる。
ウタハさんも、ヒビキさんも、コトリさんも、黙って見ていた。
先生も、モモイちゃんも、ミドリちゃんも、ユズちゃんも。
私も、救護バッグの紐に指をかけたまま、息を止めていた。
アリスちゃんが、手を伸ばす。
そして。
持ち上げた。
あまりにも自然に。
重そうな顔も、無理をしている様子もなく、アリスちゃんは巨大なスーパーノヴァを抱えた。まるで、最初からそうするためにそこにあったみたいに。
「……持てた」
モモイちゃんが呟く。
アリスちゃんは振り返った。
その顔は、見たことがないくらい明るかった。
「パンパカパーン」
アリスちゃんは、スーパーノヴァを大事そうに抱えたまま言った。
「アリスは、勇者の武器を手に入れました。光の剣、スーパーノヴァです」
モモイちゃんが跳ねた。
「かっこいい! やばい! アリス、完全に勇者じゃん!」
「お姉ちゃん、語彙」
「語彙なんか今どうでもいいよ! 見てよミドリ! アリスが! 勇者!」
ミドリちゃんも、呆れながら笑っていた。
「うん。……すごく似合ってる」
ユズちゃんが小さく言う。
「……かっこいいです」
アリスちゃんは、少し誇らしそうに胸を張った。
「アリスは、かっこいいです」
「うん。かっこいいよ」
私が言うと、アリスちゃんは私を見た。
「レナも、そう思いますか」
「思うよ。すごく」
私は笑った。
「でも、重くない?」
「重くありません」
「じゃあ、怪我しないようにだけ気をつけてね」
「はい。アリスは、怪我をしないように勇者をします」
「勇者って動詞だったんだ」
モモイちゃんが笑う。
その明るさに、部室の空気が一気に戻った。
ウタハさんは、少しだけスーパーノヴァを見つめていた。けれど、すぐにいつもの顔に戻る。
「いいだろう。スーパーノヴァは、君に譲ろう」
「本当ですか」
「ああ。武器は、相応しい持ち主に持たれるべきだ」
アリスちゃんの目がまた輝く。
「ありがとうございます。ウタハ」
「礼には及ばない。大事に使ってくれ」
「はい。アリスは、光の剣を大事にします」
その言葉に、ウタハさんは少しだけ満足そうに頷いた。
帰り道、アリスちゃんはずっとスーパーノヴァを大事そうに抱えていた。
モモイちゃんは横でずっと騒いでいる。
「やばいよ! これ絶対イベントCGあるよ! タイトルは『勇者、光の剣を手に入れる』!」
「お姉ちゃん、ゲーム作る側なのにもうプレイヤーになってる」
「作る側でも感動するものは感動する!」
ユズちゃんは小さく微笑んでいた。
「……アリスさん、嬉しそう」
「うん」
私は頷く。
アリスちゃんは、ゲーム開発部の真ん中で笑っている。
それだけで、少しだけ安心した。
部室に戻ると、モモイちゃんはすぐに机を叩いた。
「よし! 勇者の武器も手に入った! TSC2、完成させるよ!」
「お姉ちゃん、まずは残りタスク確認」
「分かってる! 気合い入れてからタスク確認!」
「またその順番……」
アリスちゃんがスーパーノヴァを部屋の隅に大事に置いた。
「アリスも作業します」
「うん。お願い、アリス」
ミドリちゃんが優しく言う。
ユズちゃんが端末を開く。
「……残り、まだ多いです」
「多いなら減らす!」
モモイちゃんが言った。
「一個ずつ!」
私はその声を聞きながら、部室の入り口近くに立っていた。
リオ先輩は返事をしない。
C&Cへの命令は消えていない。
でも、今この部屋には、完成させようとする音がある。
端末のキーを叩く音。
モモイちゃんの声。
ミドリちゃんの指示。
ユズちゃんの小さな返事。
アリスちゃんの「了解しました」。
私は救護バッグを置いて、袖を少しまくった。
「私も手伝うよ。専門的なところは無理だけど、飲み物、仮眠、誤字チェック、モモイちゃんの暴走制御くらいなら」
「最後!」
モモイちゃんが叫ぶ。
「レナお姉ちゃん、最後だけ役割が強すぎる!」
「大事でしょ?」
「否定できないのが悔しい!」
笑いが起きる。
その時、先生の端末が短く鳴った。
先生が画面を見る。
表情が、ほんの少しだけ変わった。
「先生?」
私が聞くと、先生は一瞬だけ迷い、それから画面を伏せた。
「大丈夫。今は、作業を進めましょう」
見えたのは、ほんの一瞬。
C&C。
任務受領。
それだけだった。
私は何も言わなかった。
今、あの子たちの手を止める言葉ではないと思ったから。
でも、胸の奥で、確かに何かが近づいてくる音がした。
部室の中では、モモイちゃんが叫んでいる。
「よーし! 作るよ! 世界で一番、私たちらしいゲーム!」
アリスちゃんがスーパーノヴァをちらりと見て、それから端末へ向き直った。
「TSC2、制作再開です」
パンパカパーン、と小さく言って。
ゲーム開発部の夜が、始まった。