戦えない私がキヴォトス中の生徒に執着されるまで 作:Zuzuiikb
特異現象捜査部から届いたメッセージは、最初から少しだけ怪しかった。
『本日十五時二十分、ミレニアム中央棟西側通路にて、極めて重要な観測任務を実施します。つきましては、外部協力者レナさんに補助観測員としての同行を要請します』
観測任務。
補助観測員。
極めて重要。
言葉だけ見れば、すごく大事そうだった。
大事そうだったのだけれど、差出人がヒマリさんだった時点で、レナは少しだけ疑っていた。
いや、疑うというより、身構える。
ヒマリさんの言う「極めて重要」は、本当に極めて重要なこともあるし、本人が楽しむために極めて重要になっていることもある。しかもヒマリさんは、その二つをかなり自然に混ぜてくる。
ただ、無視する理由もなかった。
ヒマリさんは変わった人だ。
自分で全知と言うし、清楚系病弱美少女とも言うし、実際すごい人なのに、言動の癖が強い。けれど、話していて嫌な感じはしない。むしろ、妙に会話が続く。
だからレナは時間通り、中央棟西側通路へ向かった。
そして、待ち合わせ場所で車椅子に乗ったヒマリさんを見つけた瞬間、少しだけ目を細めた。
「……ヒマリさん」
「来ましたね、レナさん。時間厳守、素晴らしい姿勢です。全知たる私の補助観測員として、まずは及第点を差し上げましょう」
「ありがとうございます。それで、極めて重要な観測任務って何ですか?」
「説明しましょう」
ヒマリさんは胸を張った。
車椅子に座っているのに、なぜか妙に偉そうに見える。
いや、実際偉そうなのだけれど、その偉そうさに嫌味がないのが少し不思議だった。
「本日の任務は、ミレニアム中央棟西側通路から資料棟二階閲覧スペースまでの移動経路における環境変化、段差、通行量、床材の摩擦係数、ならびに休憩地点の適性を調査することです」
「それ、普通に言うと散歩ですよね?」
「違います」
即答だった。
「知的かつ計画的な外部環境観測です」
「散歩ですよね?」
「あなたは時々、全知の言葉をかなり乱暴に圧縮しますね」
「圧縮した結果、散歩になりました」
「では、散歩に偽装した観測任務ということで手を打ちましょう」
「だいぶ折れましたね」
ヒマリさんはふふ、と笑った。
「柔軟性もまた知性の証明です」
「便利だなぁ、知性」
「もっと褒めていただいても構いませんよ」
「褒めたつもりはあんまりないです」
「では、今から褒めてください」
「要求がまっすぐすぎる」
レナは小さく笑って、ヒマリさんの後ろに回った。
「押していいですか?」
「ええ。今日のあなたは補助観測員ですから」
「付き添いじゃなくて?」
「補助観測員です」
「はいはい、補助観測員」
「はいは一回で結構です」
「はーい」
「伸ばさない」
「細かい」
車椅子のハンドルに手を添える。
軽く押すと、思っていたより滑らかに進んだ。ヒマリさんの車椅子はよく整備されているらしく、軋む音もほとんどない。
通路には午後の光が差していた。
ミレニアムの校舎は、トリニティとは全然違う。白い石造りの荘厳さではなく、金属とガラスと直線の多い空間。遠くで端末の通知音がして、どこかの教室から電子音が漏れている。
ヒマリさんは、その中を当然のように進んでいく。
「右です」
「右ですね」
「もう少し壁から離れてください。そちらは通行量が多いので」
「はい」
「速度はそのままで構いません。あなた、思ったより押し方が丁寧ですね」
「それ褒めてます?」
「ええ。褒めています。もっと喜んでもいいですよ」
「じゃあ、あとで喜びます」
「今喜んでください」
「注文多いなぁ……」
ヒマリさんは振り返らないまま、少しだけ機嫌よさそうに声を弾ませた。
「私は病弱な美少女ですから、多少のわがままは許されます」
「自分で言うと強いですね」
「事実ですので」
「そこは否定しませんけど」
「否定しないのですね」
ヒマリさんが少しだけ振り返った。
白い髪が肩のあたりで揺れる。いつもの、自信満々で、少し芝居がかった表情。
けれど、その目は少しだけ楽しそうだった。
「では、改めて言いましょう。私は超天才清楚系病弱美少女です」
「清楚系はちょっと審議入るかも」
「そこですか?」
「そこです」
「あなた、私への敬意が少々足りないのでは?」
「ありますよ、敬意。たぶん」
「たぶん?」
「ヒマリさん相手だと、敬意だけで話してると疲れるので」
言ってから、少し失礼だったかなと思った。
けれどヒマリさんは怒らなかった。
むしろ、ほんの少しだけ目を細めた。
「……なるほど」
「え、今の何か分析しました?」
「いいえ。ただ、なかなか面白い発言だと思っただけです」
「面白がられた」
「ええ。非常に」
ヒマリさんは前を向き直った。
レナは車椅子を押しながら、少しだけ首を傾げる。
ヒマリさんは、変に気を遣われることに慣れているのかもしれない。
天才として扱われることにも、病弱として扱われることにも。
だからこそ、少し雑に返されると、逆に面白いのだろうか。
いや、分からない。
ヒマリさんは分からない。
分からないのに、話していて退屈しない。
「次の角を左です」
「はい」
「その先に段差があります」
「段差?」
「ええ。私ほどの全知であれば、校内の段差位置も概ね把握しています」
「全知って段差にも対応してるんですね」
「当然です。全知ですから」
「でも、今からその段差を越えるために私を呼んだんですよね?」
「…………」
少し沈黙があった。
レナは思わず笑いそうになったけれど、なんとか堪えた。
「ヒマリさん?」
「全知にも、物理的制約というものは存在します」
「言い方で押し切ろうとしてる」
「物理法則は手強いのです」
「段差ですよね?」
「段差です」
曲がり角を越えると、確かに小さな段差があった。
大した高さではない。歩く人なら気にしない程度。けれど車椅子だと、少しだけ引っかかるかもしれない。
レナは一度止まった。
「えっと、これ、そのまま押して大丈夫ですか?」
「角度を少しつけてください。勢いをつけすぎると優雅さを損ないます」
「優雅さも必要なんですか」
「必要です」
「安全より?」
「安全と優雅さは両立できます」
「エンジニア部のロマンと安全みたいなこと言い始めた」
「一緒にしないでください。私はもっと優雅です」
「そこなんだ」
レナは少しだけ車椅子の向きを調整して、ゆっくり押した。
前輪が段差に当たり、少しだけ止まる。力を入れようとした瞬間、ヒマリさんが指示を出した。
「もう少しだけ右です。そうです。そこで軽く」
「はい」
ことん、と小さな音を立てて、前輪が段差を越える。
後輪も続く。
「おお」
「見事です。補助観測員としての評価を上方修正しましょう」
「ありがとうございます。段差一個で評価上がるんですね」
「段差を侮ってはいけません。段差は移動する者にとって、しばしば世界の分断線となります」
「急に名言っぽくなった」
「実際、なかなか良い表現では?」
「ちょっと悔しいけど、良い表現だと思います」
「では記録しておきましょう」
「自分で?」
「当然です。全知の名言ですから」
ヒマリさんが澄ました顔で言う。
レナはまた笑いそうになった。
この人は、本当にずっとこの調子なのだろうか。
でも、こういう会話は嫌いではない。
気を抜くと振り回されるけれど、振り回される方向が少し楽しい。
ミカ先輩とは違う。
ノアさんとも違う。
ユウカさんとも違う。
ヒマリさんの場合、会話そのものが小さなゲームみたいだった。
言葉を出す。
返される。
少し捻られる。
また返す。
その繰り返しが、妙に心地いい。
「次は渡り廊下です」
「了解です」
「少し風が強いかもしれません」
「寒かったら言ってくださいね」
「私はか弱い美少女ですので、寒さには敏感です」
「じゃあ、先に言ってください」
「今のは、あなたが上着を差し出す流れでは?」
「え、そうだったんですか?」
「そうです。情緒を読み取ってください」
「難しいなぁ、全知の情緒」
「全知の情緒は高難度です」
「でしょうね」
渡り廊下に出ると、確かに少し風があった。
ヒマリさんの髪がふわりと揺れる。レナは歩く速度を少しだけ落とした。
「寒いですか?」
「多少は」
「じゃあ、少し急ぎます?」
「いいえ。この速度で構いません」
「そうですか?」
「ええ」
ヒマリさんは外を見ていた。
ミレニアムの校舎の向こうに、別棟の屋上やアンテナが見える。空は薄く晴れていて、光が硝子に反射していた。
ヒマリさんはしばらく黙っていた。
さっきまであれだけ喋っていたのに、急に静かになる。
レナは、どう声をかけるか少し迷った。
迷ってから、普通に聞いた。
「ヒマリさん、外出るの好きなんですか?」
「質問が素朴ですね」
「だめですか?」
「いいえ。むしろ、悪くありません」
ヒマリさんは少しだけ顎に手を添えた。
「好きか嫌いかで言えば、嫌いではありません。ただ、私の場合、移動には計画と補助が必要です。つまり、思いつきでふらりと歩く、ということにはあまり向いていません」
「……そうなんですね」
「ええ。ですから、外に出る理由は必要です。観測、調査、検証、確認。理由があれば出られます」
ヒマリさんの声はいつも通りだった。
けれど、レナは少しだけ、その言い方が気になった。
理由があれば出られる。
それはつまり、理由がなければ出にくい、ということでもある。
「じゃあ今日は、観測任務でよかったですね」
レナが言うと、ヒマリさんは小さく振り返った。
「散歩ではなく?」
「散歩に偽装した観測任務、でしたっけ」
「ええ。その通りです」
「じゃあ、それで」
レナは車椅子を押し直した。
「でも、次は普通に散歩でもいいですよ」
言ってから、少しだけ自分でも驚いた。
さらっと出た。
ヒマリさんも、すぐには返さなかった。
渡り廊下の風が一度だけ強く吹く。
「……あなたは」
「はい」
「私を誘うのが、なかなか自然ですね」
「え、今の誘ったことになるんですか?」
「なります」
「じゃあ、誘いました」
「認めるのも早い」
「否定する理由ないので」
ヒマリさんは黙った。
レナは前を向いたまま、少しだけ手に力を入れる。
変なことを言ったつもりはなかった。
でも、ヒマリさんが黙ると、少しだけ気になる。
「……嫌でした?」
「いいえ」
答えは早かった。
ただ、声は少しだけ柔らかかった。
「嫌ではありません」
「なら、よかったです」
「ですが、普通の散歩となると、全知の私にふさわしい目的設定が必要になりますね」
「今もう普通じゃなくなりましたけど」
「たとえば、ミレニアム内における糖分摂取地点の調査など」
「カフェに行きたいんですね」
「あなたは本当に圧縮が早いですね」
「慣れてきました」
「それは困りました。私の神秘性が薄れてしまいます」
「ヒマリさん、自分でだいぶ喋るから神秘性は最初から薄めですよ」
「失礼な」
「でも、そっちの方が話しやすいです」
ヒマリさんはまた少し黙った。
今度の沈黙は短かった。
「……なるほど。あなたは私を、かなり気軽に扱いますね」
「嫌ですか?」
「いいえ」
ヒマリさんは前を向く。
「むしろ、興味深いです」
「また観測対象になった」
「観測対象であり、補助観測員であり、時折かなり遠慮のない会話相手です」
「最後だけ雑じゃないですか?」
「重要な分類です」
渡り廊下を抜けると、資料棟の入口が見えた。
自動ドアの前で、ヒマリさんが少しだけ手を上げる。
「止まってください」
「はい」
「この自動ドア、開閉速度がやや遅いのです。タイミングを誤ると、非常に優雅ではない状態になります」
「挟まれかけたことあるんですか?」
「ありません」
「本当に?」
「……観測経験はあります」
「自分で?」
「詳細は伏せます」
「あるんだ」
レナは笑いを堪えながら、自動ドアのセンサーが反応するのを待った。
ドアが開く。
ゆっくり。
たしかに遅い。
「今です」
「はい」
レナは車椅子を押した。
しかし、ちょうど通り抜ける瞬間、ドアが一度だけ閉まりかけた。
「わっ」
「速度が遅いくせに諦めは早いですね、この扉」
「扉にまで文句言うんですか」
「全知の進路を妨げるものには、相応の評価を下します」
「自動ドアも大変だなぁ」
なんとか抜ける。
ヒマリさんは少しだけ咳払いした。
「今のは扉側の問題です」
「そうですね」
「あなた、笑っていませんか?」
「笑ってないです」
「声が笑っています」
「声は正直ですね」
「認めましたね」
資料棟の中は、中央棟より静かだった。
閲覧スペースには人が少なく、窓際の席に午後の光が落ちている。ヒマリさんが指定した席は、一番奥の静かな場所だった。
「ここです」
「到着ですね」
「ええ。観測任務、第一段階完了です」
「散歩、お疲れさまでした」
「観測任務です」
「はいはい」
「はいは一回」
「はい」
レナは車椅子を窓際に止めた。
ヒマリさんは満足そうに周囲を見渡す。静かな場所が好きなのだろうか。あるいは、人が少ない場所が落ち着くのかもしれない。
「レナさん」
「はい」
「飲み物を買ってきていただけますか?」
「急にお世話係になった」
「補助観測員には多様な業務が求められます」
「便利な役職ですね」
「私は紅茶で」
「砂糖は?」
「控えめに。私は清楚ですから」
「その理屈はちょっと分からないです」
「では、知的に控えめで」
「もっと分からなくなった」
レナは近くの自販機で紅茶と、自分用の飲み物を買って戻った。
ヒマリさんに紅茶を渡すと、ヒマリさんは一口飲んで、満足そうに目を細める。
「悪くありません」
「それ、褒めてます?」
「ええ。私は本当に駄目な時は、もっと詩的に批評します」
「詩的に駄目出しされるの嫌だなぁ」
「たとえば、知性のない水分、など」
「紅茶に言う言葉じゃない」
レナは向かいの椅子に座った。
しばらく、二人で窓の外を見る。
さっきまであれだけ喋っていたのに、静かになっても気まずくはなかった。
それが少し不思議だった。
「……ヒマリさん」
「なんでしょう」
「今日は、本当に観測任務だったんですか?」
ヒマリさんは紅茶の缶を持ったまま、少しだけ黙った。
それから、いつもの調子で微笑む。
「もちろんです。移動経路、段差、自動ドア、休憩地点、補助者の適性。いずれも有益な観測対象でした」
「じゃあ、私を呼んだのは?」
「補助者が必要でしたので」
「エイミさんじゃなくて?」
「エイミは別件です」
「本当に?」
「あなたは今日、ずいぶん確認しますね」
「ヒマリさんが回りくどいから」
ヒマリさんは少しだけ目を伏せた。
怒ったわけではなさそうだった。
「……あなたと話していると、少し予定外の方向へ進みます」
「それはすみません」
「謝るところではありません」
ヒマリさんは紅茶を机に置いた。
「私にとって、予定外というのは基本的に処理すべきものです。原因を探り、分類し、再現性を確認し、必要であれば対策する。そういうものです」
「はい」
「ですが、あなたとの会話に関しては、予定外のままでも不快ではありません」
レナは少しだけ瞬きをした。
ヒマリさんは窓の外を見ている。
「……それ、褒めてます?」
「ええ。かなり」
「分かりにくい褒め方ですね」
「全知の言葉ですから」
「じゃあ頑張って受け取ります」
レナがそう言うと、ヒマリさんは小さく笑った。
その笑い方は、さっきまでの芝居がかったものより少しだけ静かだった。
「あなたは、私を特別扱いしすぎませんね」
「してますよ。ヒマリさん、普通にすごい人だと思ってますし」
「それは当然です」
「そこは当然なんだ」
「当然です」
ヒマリさんは自信満々に頷いた。
そして、少しだけ声を落とす。
「ですが、あなたは私を“すごい人”としてだけ扱わない。病弱な美少女としても、全知の超人としても、持ち上げすぎない。時々、かなり失礼なくらい普通に返してきます」
「失礼でした?」
「ええ」
「ごめんなさい」
「ですが」
ヒマリさんがレナを見る。
「嫌いではありません」
レナは少しだけ口を閉じた。
ヒマリさんのそういう言い方は、少しだけ分かりづらい。
でも、今のは分かった。
たぶん、かなり素直な言葉だった。
「……じゃあ、これからも普通に返します」
「ええ。許可しましょう」
「許可制なんだ」
「全知ですので」
「はいはい」
「はいは一回です」
「はい」
二人で少し笑った。
その後、ヒマリさんは端末を取り出し、今日の観測記録をつけ始めた。段差の角度、自動ドアの反応速度、通路の混雑具合、レナの補助適性。
最後の項目が見えて、レナは眉を寄せる。
「私の補助適性って何ですか」
「重要項目です」
「点数つけられてる?」
「つけています」
「見せてください」
「機密です」
「なんで」
「本人に見せると行動が変化しますから」
「じゃあ高かったら教えてください」
「高いです」
「教えるんだ」
ヒマリさんは端末を閉じた。
「ええ。これは伝えても行動に悪影響はないと判断しました」
「じゃあ、ありがとうございます」
「どういたしまして」
少しだけ、静かな時間が流れた。
レナは飲み物を手に取りながら、ふと思う。
ヒマリさんといると、会話が多い。
面倒くさい言い回しも多いし、言葉の裏を読まされることも多い。でも、嫌ではない。むしろ、言葉を返すたびに、少しずつヒマリさんの輪郭が見えてくる気がする。
全知。
清楚系病弱美少女。
特異現象捜査部。
そういう名前の奥にいる、少し外へ出るのに理由が必要な人。
「ヒマリさん」
「はい」
「次、糖分摂取地点の調査でしたっけ」
「ええ。極めて重要な任務です」
「じゃあ、次はカフェですね」
ヒマリさんは一瞬だけ目を丸くした。
それから、ゆっくり微笑む。
「……あなたは本当に、話が早い」
「圧縮に慣れてきたので」
「良い傾向です」
「でも、段差の少ないルートでお願いします」
「もちろんです。全知ですから、最適な経路を算出しておきましょう」
「じゃあ私は、押し方をもう少し練習しておきます」
ヒマリさんは少しだけ黙った。
「……練習するのですか?」
「次も押すなら、下手より上手い方がいいかなって」
「ふふ」
ヒマリさんは紅茶の缶を持ち上げた。
「では、期待しておきます」
「はい」
「次回のあなたの補助観測員としての成長を、全知の私が直々に確認して差し上げます」
「普通にまた呼んでくれれば来ますよ」
ヒマリさんは、今度こそ黙った。
ほんの少しだけ。
それから、目を細めて笑った。
「では、普通に呼びます」
「はい」
「……普通に、というのは、なかなか難しいですね」
「ヒマリさんなら、たぶんできますよ」
「全知ですから?」
「それもありますけど」
レナは少し考えて、笑った。
「私、わりとヒマリさんと話すの好きなので」
ヒマリさんは紅茶を飲もうとして、手を止めた。
レナもそこで、自分の言葉に少しだけ気づいた。
何か言い足すのも変で、視線を窓の外へ逃がす。
「……なるほど」
ヒマリさんが小さく言った。
「これは、次回の観測任務を早急に計画する必要がありますね」
「そんなに?」
「ええ。極めて重要です」
いつもの調子だった。
けれど、その声は少しだけ嬉しそうだった。
レナはそれを聞いて、何も言わずに飲み物を口に運んだ。
窓の外では、午後の光が少しずつ傾いている。
散歩に偽装した観測任務は、たぶん成功だった。
少なくとも、次の約束が自然にできたくらいには。
今更ですけど、r18更新しました。頑張ったのでぜひ見てください!