「そちらの定食に付いているお味噌汁、+150円で味噌汁を“味噌汁を毎日作ってくれる女の子”に変更出来ますよ」

「へー、そんな最近の牛丼屋さんにはそんなサービスがある────」



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豚汁は芋が入ってるのが好き

 

 

 

 

「────訳が無いだろ馬鹿後輩、肉食いに来てるのになんで女の子を食う羽目になってんだ。俺に構ってないで仕事しろ」

「えー、先輩のいけずー。仕事無くて暇なんですよー、寧ろ私を構ってください」

「学校で散々構っただろが」

「それとこれとは別です〜」

 

 

 時刻は午後21時。アルバイトからの帰宅途中に寄った牛丼屋の店員にいきなり話し掛けられた。

 一瞬“変人に絡まれた”と顔を顰めそうになったが、声のした方に向く間で誰なのかすぐ理解した。なんせ、今日の昼と帰り道にも聞いた声だったからだ。

 

 いつも何かと構え構えと引っ付いてくる彼女だが、まさかここでバイトしているとは露知らず。

 脳内孤独のグルメごっこをしようと思っている所に不意打ちを食らった形だ。

 

 ……そう、俺の事を“先輩”と呼んでいることからも分かるように、その店員は俺の学校の後輩だったのだ。疲れた中で入った飲食店の店員が後輩とは、なんともまぁ運命とはいたずらっ子である。後輩の親戚か何かなのか、運命ちゃんは。

 

 正直な所、若干“眼福だなぁ”と思ってしまっている自分がいる。いや、これに関しては後輩が可愛すぎるのが悪い。

 

 

 いかん、話が逸れた。閑話休題。

 

 

 そんなこんなで、一瞬で後輩だと理解した俺は警戒心を緩めつつも後輩といつもの下らない言い争いをしている、という感じだ。

 どれだけ下らない会話かは、先程の会話からもう大体察せるだろう。あんな感じのやり取りだ。

 

 

 ……うーむ。しかし、牛丼屋は忙しいと良く聞く。仕事が無いというのは些か怪しいと俺は思う訳だが。

 ふむ。ここは一つ、薄目で後輩に目線を送ってみる事にする。“疑ってますよ”と相手に良く伝わるように、少し前傾姿勢になるのがコツだ。

 

 

「そ、そんなに見られてもっ、本当に無いんですよーっ! もう色々と補充も終わっちゃいましたし、レジの精算もしたし。いつ注文が来てもいいように仕込みまでやっちゃいました。あ、あとオマケに先輩が注文を決めてる間に掃除まで終わらせちゃいました! ……先輩、近いですよ全く……

 

 すると、アワアワと弁解を図ってくる後輩。

 少し顔が赤いのは何故だろう。風邪をひいているのだろうか。もしくは普通に梅の真似?

 

 小指から順に指を立てて行き、俺の目の前でやった仕事を数えていく後輩。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ……どうやら予想以上に終わらせているらしい。

 なんだこの後輩、普段の様子とは裏腹に有能なのか……?

 

 これがギャップ……?

 

 ────いやいや、仕事は真面目にやる物だろう。危ない危ない、絆される所だった。

 あと、シンプルに俺が後輩を舐めすぎていたと言うのもあるだろう。すまない、後輩。でも普段の行いって俺は大事だと思うんだよな。深くは言わないけど。

 

 

「他にお客さんも居ないし、それに相方さんにも友達と話してくるって言ったら快くOK貰えましたから!」

 

「何OKしちゃってるんだ、一応お仕事中でしょうが!」

 

 

 厚意で許可を出したであろうその人には申し訳無いが、何をしてくれているのだろう。俺の安息の時間である一人飯タイムがっ。

 平日において俺の数少ない後輩と喋っていない時間だと言うのに。

 

 ……待てよ、コイツが離れざるを得ない方法があるじゃないか。

 今の俺は先輩である前に客。それを利用したら良いでは無いか。うーん、我ながら良案だ。今なら午後の紅茶を午前に飲んでも怒られない気がする。そんな全能感が湧き上がっている。

 

「ほら、俺が注文押したら用意しないといけないだろ。ええい分かったら離れろ、暑苦しい!」

 

「ぶー、仕方ないですねぇ……。流石にそうなったらサボる訳には行きませんし……」

 

 ぶーたれるんじゃない、仕方なくは無いだろ。

 あと今普通にサボるって言ったな?認めたよな今。俺は聞き逃してないぞ。

 

 ショボーンとした後輩の背中を笑顔で見送ろうとしたその時、後輩が「あっ」と閃いたように声を出す。

 なんだなんだ、今度は。

 

 

「じゃあじゃあ先輩! さっきも言いましたが、+150円でお味噌汁を────」

「よし、その案に乗って“豚汁に変更”するかな。女の子は抜きで」

「食い気味!? 酷いです!」

「当たり前だろ、飯食いに来てるんだぞ俺は」

 

 俺をなんだと思っているんだコイツは。

 そんな飯のついでに女の子を食べますとかいう最悪の貴族みたいな事はしないぞ。

 全く、この後輩は自分の言っている意味を分かっているのだろうか。毎日味噌汁を作るとか、それもう告白だろ。俺じゃなきゃ勘違いしてたぞ。

 

 「分かった分かった」と言いながら後輩をまたもや振りほどき、端末を動かす。後輩の腕を(ほど)くのも、もはや慣れたものだ。これのお陰でいつの間にか絡まっていたコードとかを直すのも上手くなった気がする。

 

 

「はい注文確定した、俺の勝ちだ。分かったら用意してくれ」

「分かりましたよ〜だ。んもー、先輩はいっつもそうなんですから〜……」

 

 メニューを選んで確定ボタンを押すと、拗ねた様子で厨房の方に戻っていく後輩。

 ようやく嵐が去ったようだ、これでやっと一息つける……。

 

 

 ……ふう。アイツの相手をしていると、会話が向こうのペースに持っていかれてどうにも疲れてしまう。

 せめて夕飯の時くらいはゆっくりと食べさせて欲しいものだ。どうせ帰宅後も会話するのだし。

 

 いつも昼休憩と放課後に俺の元へとやって来ては、やれ勉強を教えろだの構えだの出かけましょうだの。

 

 何だかんだで断れない俺も俺だが、アイツもアイツである。なんだあの後輩は、距離感と言うモノを知らないのかと問い詰めたい。あの調子だと既に“無自覚誑し込み初恋製造マシーン”となって数多の男子達の脳を破壊している事だろう。

 何人の被害者が出ているのか、全く想像もつかん。

 ……かく言う俺も被害者になりそうな訳で。

 

 あと、夜もメッセージがとにかくうるさい。

 

 常に送られてくる通知で寝られないから、一度だけ通知を切ってフル無視して寝た事がある……が、翌日大泣きされてしまった事がある。

 仕方ないので一言二言だけ返して寝れば、『嫌いになっちゃいました……?』とまたまた半泣きされ、暫く言いなりになっていた事もある。

 

 それ以来メッセージはちゃんと返すようにしているが、お陰で寝不足な日も多いのだ。

 俺の健康的な生活を返してくれ。

 

 ここまで引っ付かれるとそろそろ俺も勘違いするぞ。いや本当に。

 寧ろ今まで勘違いせずに耐えてきているのが凄いだろう、誰でもいいから褒めて欲しいレベルだ。

 

 

 

「……はぁ。本当に、自分の可愛さを少しは自覚しろってんだ……」

 

 

 

「────えっ」

 

 

 

「……ん? ────あっ」

 

 

 独り言を呟いたタイミングで声がしたのでそっちの方を見てみれば、俺の頼んだ定食を運んでいる後輩と目が合った。

 

 …………聞かれた、か?

 

 

 後輩は何も言わず、俺の席へと静かに定食を運んで来る。

 

 ……一か八か、聞かれなかった体で行く事にする。

 

 

「……こちら、牛皿定食になります」

「お、おう。ありがとな」

 

 後輩はそのままテーブルにお盆を置くが、一向にこの場を離れる様子が無い。

 ……ど、どうだ……?

 

「あー、と……さっきも言ったが、一人で食うのが好きでな? 離れてくれると嬉し────」

 

「先輩ッ!」

「はい何でしょう!」

 

 はっ。

 過去泣かれた時の経験からつい反射で返事をしてしまった!

 

「今デレてました!?」

「……な、なんの事だ?」

「とぼけないでください! さっき先輩、初めて直球でデレてましたよねっ! ねっ!?」

 

 クソッ、やはり聞かれていたか。目がキラキラしてるのが無性に腹立つ。

 ここをやり過ごさなくては、今後の俺の学校生活に関わる事になる。具体的には、俺が会話の主導権を取れなくなる危険性が高い。

 そんな事になったら未来の俺が勘違いする可能性が非常に高まってしまうでは無いかっ。

 

 これは、早急に対処せねばなるまい!

 

「デレてた? いつも何を言っているのか分からないが、今日は特段と意味が分からないな後輩よ」

「むっ、何も言わなかったフリですか? ぜーったいこの耳で聞きました! この後輩イヤーが確かに、先輩のデレ情報を私のヘッドにインプットしましたよ!!」

 

 くっ、後輩も譲らないか。

 

 しかし、俺も譲る気は更々無い!少々強引な手を使ってでもこの場をやり過ごさせて貰う!

 

 

「ほら、他の客も来るかも知れないだろ!? こんなとこ見られたらマズイんじゃないか!?」

「この時間は田舎なのもあって何故か全然お客さんは来ないんです! 先輩が認めるまで離れませんよ! チャンスは今しか無いと見ました!」

 

 俺を逃がさない為なのか、ジリジリと近付いてくる後輩。ここが公共の場だと分かっての事か?この後輩は。

 

 

「全くしつこいぞ後輩、飯が冷める! 仕事に戻れって────」

「────きゃっ!?」

 

 そのまま腕に抱き着こうとしてきていた後輩を止めようと肩を掴もうとするが、虚しくも俺の手は空を切る事になった。

 避けられたから?

 

 否。

 

 正解は────後輩が転けたからだ。

 

 

「おまっ、危な──!」

 

 

 反射で後輩を受け止める。

 良く何も無いところで転ける奴だからな、この動作にも慣れてしまった。

 

 ……しかし、今回はいつもと違い状況が悪かったらしい。

 

 

 俺の良く知るパターンの時は、大抵お互いに歩いている時か、もしくは来るか?と予想して既に構えておくかのどちらかだった。

 しかし今回は違う。俺は座っていて、しかもテーブルには食べ物があり、大袈裟に動くと器を倒してしまう危険性がある。

 

 更に、俺も今の状況を打開しようと必死で転けるとは予想出来ていなかった。

 そんな中、反射ではあるが上手いこと受け止めようと手を出した。肩を掴もうとしたのを利用して、そのまま前に出して支える感じで。

 

 つまり、何が言いたいかと言うとだ。

 

 

 

「────あぅ、またやっちゃった……。先輩、ありがと……う、ござ、いま……す……?」

 

 

 むにむに、と左手に柔らかい感触が伝わる。触れていてとても心地いい感触で、無意識に少し手を動かしてしまう。

 俺は後輩が着痩せするタイプだと知っている。知っている……が故に、その伝わってきている感触が余計に増大されている気がする。

 むにむに、では足りない。ムニィッムニュゥッ……って感じか?

 

 

「んっ……せ、先輩……? ああああのあの、その……ふゃっ……手が、ですね……?」

 

 

 さて、大体の人は“あぁ……”となっている事だろう。

 

 ……つまるところ。事故とはいえ、俺は女子の胸を思いっきり揉んでいた……という事だ。

 わーすごーい、思ってたよりも意外と弾力とハリが…………じゃ、ねぇだろうが俺!!!!

 

 これはなんのギャルゲだ!ラッキースケベなんてこの世には存在しないと思っていたのに!あと思いっきり揉んだ上で感触の実況してんじゃねぇよ気持ち悪い、自分に反吐が出るわ!

 

 

 左手をすぐさま離し、一応頭と肩の埃を払ってあげると後輩を立たせる。

 そして、赤面して「あ、あの……?」と困惑している後輩をよそに、椅子から降りて素早く地面に額と手のひらを付ける。

 

 ん?何をしようとしているのかって?

 

 

 ……そんなの決まっているだろう────

 

 

 

「ごめんなさいすみませんでした許してください通報だけはマジで勘弁してください」

 

 

 

 ────土下座だ。

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 その後、バイト終わりである22時まで待つ事を条件に許しを得た俺は、やらかしを忘れるように牛皿定食を胃の中に詰め込み後輩に会計してもらい、店の前で一人反省会を開いていた。

 

 

 ……突き放しすぎたかなぁ、とか思ったり。

 

 

 流石の俺も、後輩の性格は理解してきているつもりだ。きっと、ただ構って欲しくて俺に話し掛けていたはず。後輩は結構寂しがり屋だと思うから。

 

 それに仕事もほとんど終わっていると言っていたし……それなら別に話すくらい良かったのでは、と落ち着いた今考え込む。

 俺の勘違いしちゃうとかいう下らない感情で一方的に突き放すよりも、きっとそっちの方が良かったのでは……と。

 

 一応今は夏だと言うのに、夜だからかどうにも風が冷たく感じる。昼は暑いくせにこういう時だけ寒いとは、俺は自然に見放されているのか。

 

 月も俺を嘲笑っていそうだ。満月とかではなく少し欠けてるのが、これまたいい味を出している。

 こんなサ〇エさんは嫌である。“皆が嘲笑(わら)ってる〜”じゃねぇぞ。

 

 

 だがなぁ。一度本格的に意識してしまえば、俺の態度が悪化して今の関係性が崩れてしまうかもしれないし……。

 どうするのが正解なんだ……?

 

 

 

 さて。そうして反省会も煮詰まってきた所、いつの間にか時間が経っていたようで、裏口から後輩が出て来るのが見えた。

 俺を見つけると、小走りで近付いてくる。

 

 

「えへ、本当に待ってくれてるんですね」

「当たり前だろ、俺が迷惑かけちゃったんだし……」

「いえ、元はと言えば私が仕事中なのにいつものノリで絡んじゃったからで……」

 

 それだけ言うとお互いに無言となり、気まずい空間が出来上がる。あんな事をしでかした後で一体何を話せば良いんだ……?何だかんだで、今までこういうラキスケは起こってなかったからな……こういう気まずさは初めてなのだ。

 

 

 どうしたら良いのかと考えている間に、後輩から「あのっ!」と声が掛かった。

 なんだ、死刑宣告か?俺の人生もここまでか……。

 

 

「な、なんだ?」

「……あのっ、えっと……いつも、その、ご迷惑……でしたよね……?」

「……うん?」

 

 

 しかし、紡がれた言葉は死刑宣告などでは無く、寧ろ全て後輩が悪かったかのような、そんな言い方であった。若干声も震えている気がする。きっと気のせいでは無い。

 

 

 いつも迷惑だったかと問われると、睡眠時間が削られている為YESだが……俺だって、流石に空気は読める。……それに、正直実際の所は迷惑って程ですら無いんだよな。なんだかんだで、人との会話は楽しい。相手が後輩なら尚更。

 

 

 後輩が顔を曇らせているのは嫌だ。どうにか出来ないものか。

 考えて、ふと閃く。

 

 

 ……いやーしかし、これはちょっと……自意識過剰では?俺はここで今まで気を付けていた“勘違い”をする事になるんだぞ?

 上手くいかなかったらこの関係が崩れる危険性が高い。

 

 ……いや、このまま仲違いするよかマシか。

 

 一先ず今は、目の前の後輩が何を考えてそう切り出してきたのかを聞く必要がある。聞いて実行するか決めろ、俺。

 

 

 

「私、いっつも先輩を追い掛けて、何してようとお構い無しに突撃して……帰った後も、深夜までメッセージに付き合って貰っちゃって……。なんなら、たまに電話の時もあって……。私、先輩の事、何も考えてませんでした」

「……まぁ、寝不足な日は増えたかもな……」

「うっ……そう、ですよね。すみません。今日も、バイト中に先輩と会えると思ってなかったから嬉しくてつい暴走しちゃって……。────だから、これ以上先輩に迷惑をお掛けしないように、今後はなるべく関わらないようにしようかなって────」

 

 

 

「────まぁ、俺もお前の事を考えられていなかった訳だが」

 

 

 

「…………ふぇ?」

 

 

 

 最後の方を聞いて、つい言葉が漏れた。

 

 ある程度は聞き出せたみたいだし、後は俺のターン(実行するだけ)となった。

 久しぶりに後輩との会話の主導権を握る気がする。少し恥ずかしいような、怖いような気がするが……そんな事は言っていられない。俺の本心を伝えて、後輩との……彼女との縁を途切れさせないように引き止める。

 

 それが、今の俺が考え付く精一杯(出来ること)だと言うのは……なんとも恥ずかしい限りだが。

 

 

 

「最初の頃は後輩の言う通り。元々人付き合いが苦手だからな、俺は。迷惑だと感じていた」

「……じ、じゃあやっぱり────」

「だが、いつの間にか苦に感じる事は無くなっていた。寧ろ楽しかったよ。それこそ、“()()()()()()()()()()()()()()()()()()”。多分連絡先を交換してちょっとした頃からか?」

 

 

 この後輩と関わる上で、きっと避けては通れない道だったんだろう。

 

 俺はこの後輩の、底無しの明るさに────

 

 

「────憧れた……いや、誤魔化すのは良くないな。……惚れたんだよ」

「……えっ?それって、どういう事ですか?」

 

 顔が熱い。さっきは気になるくらい冷たかった風は、今は何故か吹いていない。今こそお前の出番だと言うのに、何故だ。

 

 

「文字通りの意味だ。……あー、なんだ? 一度しか言わないからな。──俺は後輩に……お前のその明るい性格に、助けられてた。惚れてたんだよ」

「………………え」

 

 

 後輩の歩みが止まる。キモすぎて引いたか?

 

 

 あーあ、言ってしまった。

 やっぱり自意識過剰だろ、俺。勘違いしないとか言っといてやっぱり内心は期待してる取り繕いの、なんと愚かな事か。

 

 ……言ったものは仕方ない。アドリブ精神だ、後は野となれ山となれ。最悪関係が崩れても……ショックだし2ヶ月は寝込むし墓まで引き摺るが、仕方ない。仕方ないんだ。

 

 

「……それから、後輩との距離が近いと緊張で強めの口調が出るようになってな……今日のも、別に迷惑とかより恥ずかしいって感情が強かったんだ。だから結局、俺も自分よがりで、お前の気持ちを考えられていなかったって事だ。──本当にすまない」

 

「……先、輩……」

 

 自分の事を客観視すればする程嫌になるな。

 好きな人がどう思うかも考えられず、その場のノリと自分の感情ばっかりに身を任せて。

 こんな奴、キモがられて当然だろう。

 

 

「さっきのは無視してくれたって構わない。でもせめて……せめて、友達のままではいて欲しい。ここで後輩との、お前との関係が終わるのは怖いんだ。……俺との関わりを、どうか捨てないで欲しい。……頼む」

 

 仕方ないとか思っておきながら、結局予防線を貼ろうとしている自分が情ない。涙が出るね。

 だって、自分にここまで関わってくれる人間なんて後輩が初めてで他には親くらいしか居ないんだぞ。……割り切れる訳がないだろ。

 

 

「それも無理だったら、俺との関係は全然切ってくれていい。……ただ、その……自分が迷惑だったとかは、考えなくていいっていうのは覚えていて欲しいと言うか……」

 

 あー、自分の語彙力の無さに嫌気が差す。伝えたい事が思うように伝えられない。どうしても長々となってしまう。

 

 自分の言いたい事も整理出来ていないまま話している為、たどたどしく自分の本心を話していると……ふと、後輩の肩が震えている事に気付く。

 い、怒りのあまり震え出したのか……?殺される……?

 

 

「──ぷっ、アハハ! 先輩、口下手ですよ! 」

 

「へ?」

 

 

 その逆だった。寧ろ後輩は笑いだしたのだ。

 どうやら俺のオロオロしている様子を見て、とうとう我慢出来なくなったようだ。

 

 

「ぷくっ、アハッ! ひー、ひー……久々にこんなに笑いましたよ……。でも、先輩の言いたい事は何となく伝わりました!」

 

 笑い過ぎたのか、後輩の目の端には涙が浮かんでいる。そ、そこまでか……とショックを受けるが、事態が好転したのなら良しとするべきだろう。

 少々複雑ではあるが……。俺も涙が出そうだ。

 

 

「……私、先輩の邪魔じゃ無いんですか?」

「い、今までそういう態度を取っておきながらって言うのが申し訳ないが……その通りだな」

「私、何も無いところで転んじゃう様なドジっ子ですよ?」

「気にしない。寧ろウェルカム。というかもう慣れた」

 

 

 

「…………寝坊して、毎日はお味噌汁を作ってあげられないかもしれませんよ?」

 

 

 

 その言葉に、思わず俺の動きが止まる。唐突の展開に、きっと今の俺は呼吸すら止まっているだろう。

 

 

 ……やはり、そういう事なのだろうか?

 

 

 

 だとするなら、男としてしっかりと受け止めるべきだ。そして、返事をするべきだろう。今までやらかしていた分、ちゃんとここで挽回しなければ。

 

 

 

「+150円払ってるんだから、それは契約違反だろう。────あー、その時は俺が起こすさ。一緒に作れば良い」

 

 

 

 

 勇気を出すんだ。

 

 

 

 

「その、そういう事でいい……んだよ、な……?」

 

「…………せんぱいの、好きに捉えてもらえれば……」

 

 

 

 互いに顔が赤いのが、夜闇の中でもよく分かる。

 先程まで俺を嘲笑っていると錯覚していた月明かりのお陰だろう。

 

 その光が、今は頼もしくも感じる。俺の背中を押しているようだ。

 

 

 

 

「後輩。……いや、“明莉(あかり)さん”。────俺と、付き合って下さい」

 

 

 

 

「────はい、喜んで! “雪人(ゆきと)君”!」

 

 

 

 

 

 

 さて。かくして、俺の波乱の一日は幕を下ろす事となった。

 

 後輩の遠回しの告白に、勢いのまま告白を返す形にはなってしまったが。我ながら語彙力の欠片も無い、非常に拙い本心のぶつけ方だったので、告白前の所だけは少し黒歴史気味だ。

 

 

 帰り道に後輩と話した所、俺達は両思いだった事、というか後輩の想いに気付いていないのは俺だけだった事が明らかになった。周りの奴らは後輩に良くアドバイスをしていたらしい。

 

 どうやら俺の努力は無駄だったようだ。「コイツ、俺の事好きなんじゃね……?」状態には、俺は別になっても良かったと。

 

 ……まぁ、良く言えば謙遜が出来るいい男という事で、ここはひとつ。

 

 何?悪く言えば鈍感?

 

 うるさい。言った奴誰だ。俺の目の前の後輩だ。畜生言い返せない、負けた。

 

 

 

「先輩先輩」

「おーどうした後輩」

 

 

「“毎日お味噌汁を作ってくれる女の子”、買って正解でしたよね?」

「──150円は明日渡すよ。結局店のやつはあれ豚汁代だし」

「えっへへへへ! ジュース1本でいいですよ〜!」

「……まぁ、それ一本で後輩と付き合えるなら安いもんだわな」

「──先輩限定サービスですからね!? 私、安い女じゃ無いですからね!?」

「分かってる分かってる。……いや、本当に分かってるから。オッケー落ち着け、お前の家に着くまでの間でゆっくりと話し合おうじゃないか」

 

 

 

 まずは、目の前の後輩に俺の失言を許してもらう所からだな。

 

 

 







1発ネタなので、次回あるかは未定。好評だったらちょっとずつその後の話だのなんだのかんだのを投稿するかもしれない。

別作品の方を見てくださっている方は「何コイツ短編書いてんだ、もう二週間経ってるぞ他の作品書け」と思うかもしれません。その通りです、ハイ。
筆が中々進まず、息抜きで投稿しただけなので……ユルシテユルシテ……。


宜しければ是非、お気に入り・感想・評価・ここ好き、よろしくお願いします。
違和感があったり矛盾してたり誤字があったりしたら教えてください。



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