ラ・ピュセル生存記録 ―異伝 After of 『魔法少女育成計画2-o-H』   作:神谷萌

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第01話

 ()(かい)市。

 廃工場 ──── の中のそれにしては、やたら綺麗な ──── ()()()()()オフィスルーム。

 その中で、トランプのそれぞれのカードをモチーフにした、1枚貫頭衣の構造のカードドレスを着た何人もの小さな少女が、こちらは童話の『不思議の国のアリス』のそれほぼそのままの姿のトランプ兵と戦い合っている。

 その中、1台のパソコンが稼働していて、その前で1人の少女が焦れていた。

 ふわっとした白と薄灰色フリルスカートのドレス、黒いリボンタイ。

 片方が白、片方が黒の長手袋とサイハイソックスは、前者と後者の色が交差している。薄灰色のハイトップのスニーカー。

 濃紫のボンネット(カチューシャに似た、柔らかい素材のもの)には、中央より本人から見て右にオフセットして、青いバラの飾りがついている。

「早く……早く……」

 ディスプレイの光を反射している目は、黒と赤のオッドアイ。どこかの魔法少女を思わせるふんわりした全体のイメージの中で、三白眼のキツさが目立つ。そしてそれ以上に、その瞳孔に、どこか意図したような違和感があった。

 そのふんわりしたショートヘアの頭の左側の空中に、出目金のようなしっぽの生えた、饅頭のようなものがフワフワと浮いている。上が白、下がエメラルドグリーンに塗り分けられ、その境に赤い帯が入っていた。

 ドゴォオォォォッ!!

 建物内のどこかで、爆発があったような音と振動が響いてくる。

「データダンプ完了だぽん! 証拠は充分だぽん」

 饅頭がそう告げる。

 少女はその部屋から飛び出し、通路を走り始める。

「どこへ行くぽん!? そっちは建物の外と逆方向ぽん!!」

「ごめんなさい、ネド。どうしても放っておけません!」

 ネド、と呼ばれた饅頭のようなものの慌てる言葉に対し、少女はそう返す。

「ミクセリクサー!!」

 ネドが少女の名を張り上げるが、その駆けていく脚は止まらない。

「インフェルノ様! インフェルノ様ーッ!!」

 

 ゴワァッ!!

 爆炎があたりを満たした。

「やったか!?」

 その爆炎の中心にいた、魔法少女、と言うには極端に露出の高いビキニの衣装、ティアラの載った赤黒く燃え上がるようなツーサイドアップの髪、それにサソリの尻尾を持つ魔法少女が、声を上げた。

 だが ────

 視界が開けたところに、トランプのジョーカーのカードドレスを着た少女が、ビキニの魔法少女の前に現れる。

 その手に大鎌を持ち、ビキニの魔法少女に向かって一撃を繰り出す。

 ビキニの魔法少女は、その首を狙った一撃を反射的に仰け反って躱そうとする。寸でのところで ────

「ぐっ!? ぁっ!」

 ──── 躱した、と思われたその一撃は、しかし、魔法少女のその豊かで柔らかな部分の、右側を抉った。

 ニィ、と、他のカードドレスの少女と比べても歪な笑みを浮かべ、姿勢を崩したビキニの魔法少女の、その首を跳ねる次撃を繰り出そうとする ────

 ドガァッ!!

 その大鎌が振るわれる寸前、白と薄灰色のドレスの、ミクセリクサーと呼ばれていた少女が、タックルでジョーカーの少女を弾き飛ばした。

「お願い! ジョーカー!!」

 ミクセリクサーがそう唱えると、彼女の目の前に、ジョーカーのトランプ兵が現れる。やはり大鎌を携え、自らと同じカードを示すドレスの少女めがけて突進していく。

「インフェルノ様!」

「ぐ、ぅっ……」

 崩れるビキニの魔法少女を、頭ひとつ近く小柄なミクセリクサーが受け止める。そのままビキニの魔法少女を担ぎ上げると、左右を一瞥し、まだしも突破できそうな方向めがけて走り始めた。

 その進路の左右から、多数のカードドレスの少女が迫ろうとするが、ほぼ同じ数のトランプ兵がそれをブロックする。

「下ろせ……ッ、テンペストが……クェイクが……ッ!」

 担ぎ上げられているビキニの魔法少女が、息も絶え絶えに声に出す。

「無理です! 今抑えているのがやっとなんです! あと15分も稼げないです!」

 ミクセリクサーは、そう言いながら通路を建造物の外へ向かって駆けていく。

 その出口へようやく辿り着きかけたとき、その行く手を遮って、スペードのエースのカードドレスを着た少女が、槍を手にして立ち塞がろうとする。

「お願い! ────」

 “トランプの兵隊を呼べるよ”。それがミクセリクサーの魔法だ。スート(トランプの記号)によって得意分野が変わるが、どれも戦闘の役には立つ。

 かつて、名深市の魔法少女選抜試験では、人を傷つける事を恐れるあまりに、他者に悪意を向けられてもそれを行使することを躊躇った。だが、冤罪で追い詰められた自分を助けようとしてくれた2人の魔法少女が、逆に危機に陥った時に、その精神(こころ)の封印を自ら外した。そして、師と仰ぐようになったその魔法少女の教えを受けるうちに、その使い方を発展させていった。

 その、ミクセリクサーの最大同時出現53体のトランプ兵のうち、戦闘に於いて最強のカードを呼び出す。

「──── ハートの2!!」

 出現したハートの2のトランプ兵は、その手に携えた槍で、スペードのエースの少女を薙ぎ払うかのように弾き飛ばす。

 スペードのエースの少女もそれで止まらない。ハートの2のトランプ兵とぶつかり合い、四つに組む。

 その間に、ビキニの魔法少女を担いだミクセリクサーは建物の外に出る。突入前に示し合わせていた場所へ向かって、夜空へ向かって大きく跳躍する。

「絶対、絶対に死んじゃ駄目です! 絶対に先生のところへ連れて帰るんです!!」

 

「クビヲハネ ────」

「お前! またかよ!」

 異様に細い槍が突き出される。その穂先がその口にねじ込まれた。

「いい加減にしろよ!!」

 

 大規模な霊園の外縁の道路に、1台のジムニーノマドが路上駐車している。

 そこに、ミクセリクサーが、ビキニの魔法少女を担いだまま、その傍らに着地した。

 ジムニーノマドの後席ドアを開け、リアシートに寝かせるように、ビキニの魔法少女を押し込む。小柄な自分も、そのまま空きスペースに(うず)まるように乗り込むと、ドアを閉めた。

「出してください!」

「おうよ!」

 ミクセリクサーの声に、運転席の人物が答えると、ジムニーノマドのエンジンが始動し、ヘッドライトも点けずに発進する。

「目立つとまずいから無灯火1点6000円、いや? その前に今のカッコ、おまわりにどう説明すっかな」

 ビキニの魔法少女が、朦朧としながら運転席を見るが、運転手の姿は見えなかった。

 かろうじてセンターラインのある細い県道を無灯火のまま走り続け、主要国道に出て曲がったところで、ヘッドライトを()けた。それと同時に、ドライバーがボリュームのある髪を太い三つ編みにした、成人の女性の姿になった。

 国道に出て直後に、高速道路のインターチェンジへ進入する ────

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

【After of 『魔法少女育成計画2-o-H』】

 

 

 目を覚ました。

 視界に入ってきたのは、古い1DKのアパートの、掃き出しの窓から見える、薄曇りの空。

 身体を起こす。

 ひそかに自慢に思っていた胸が、その片方を失っている事実を認識する。

 板の間に敷かれていた布団から出て、立ち上がる。

 布団はもうひと組あったけど、そこに寝ているはずの、ここの主の姿はない。台所から音が聞こえる。そっちにいるんだろう。

 窓から外を見る。

 記憶にある景色と、変わってしまった景色が、窓の外に混在してる。

 ここ名深市は、あたしが小学校の途中まで住んでいた場所だ。

 親の都合で、少し離れた左海市というところへ引っ越した。

 あたしの名前は ──── 緋山(ひやま)朱里(あかり)

 でも、今はもうひとつ名前がある。

 プリンセス・インフェルノ。

 魔法少女、炎を使う戦士。

 侵略者ディスラプターと戦う、魔法少女チーム、ピュア・エレメンツの1人、 ────だった。

 今は……────

 ガラガラ……

 と、引違い戸を開けて、家主が現れた。

「朝ごはんができましたよー」

 白くてフワフワしたイメージのちっこい女の子。

 三白眼が玉に(きず)な事を除けば、ふんわりと優しいイメージがある。

 決してそっくりというわけではないけど、そのイメージが、あたしの幼馴染によく似ていた。

 ──── 人造魔法少女、ミクセリクサー。

 人造、の名前の示す通り、人工的につくられた魔法少女。

 そう呼ばれる存在は、いくつかの種類があるらしい。

 そのうちのひとつは、目の前のミクセリクサー、それに左海市であたしらピュア・エレメンツの研究所を襲撃したシャッフリンのような、クローンだのホムンクルスだのを使って、生まれからして魔法少女としてつくられた存在。

 もうひとつは、魔法少女の素養がない人間に、魔力の薬を与えて魔法少女にする方法 ──── あたし達ピュア・エレメンツがそれに該当する。その事を知った時には驚いた。てっきり、あたしは魔法少女ってそういうもんだと思ってたから。

 ──── ミクセリクサーに促されて、あたしはダイニングに移動する。

 大きさの割にやたら奥行きのあるテレビが、左海市で廃工場が爆破されたっていうニュースの続報を流してる。けれどその内容は、テロだの過激派だの。あたしが知ってるその事件の本当の原因には、掠りさえしていない。

 同時に、鼻孔をくすぐる醤油ダレの匂いが漂ってきて……

「朝から生姜焼き……」

 あたしは引き攣った苦笑を浮かべてしまう。

 ミクセリクサーが簡単な料理しかできないのはまぁいいとして、そのメニューもその時々にあってないチグハグなものを出す。

 元々が兵器扱いの人造魔法少女のせいか、普通のTPOが身についてないっぽい。

 身につけている部屋着も、魔法少女としての衣装以外の他所行き服も、基本的に “先生” に選んで貰ってるらしい。

「どうか、しましたか?」

「あ、ううん、なんでもねぇよ」

 キョトン、とした様子で、あたしの顔を覗き込んでくるミクセリクサーに、あたしは慌てて誤魔化す言葉を出した。

「それでは、いただきましょー」

「ああ、うん」

 ミクセリクサーと向かい合って、あたしは食卓に着く。

「いただきます!」

「いただきます」

 

 ──── 解放しろ、戻せ、ピュア・エレメンツの仲間の仇を取るんだ、デリュージを助けに行くんだ、 …………そんな気勢が保ったのは、ここに匿われて最初の2日だけだった。

 3日目の朝、やっぱり朝っぱらから麻婆豆腐なんぞ出されて食べながら、その器に涙が落ちた。

 本当に戻りたいと思ってるのか? ──── 嫌だ、怖い、死にたくない。その感情の方が一気に膨らんできた。

「インフェルノ様!?」

 ミクセリクサーが素っ頓狂な声を出して、あたしの顔を覗き込んできた。

「なんでも……ねぇよ……」

 口ではそう言いながら、あたしは震えも涙も止められなかった。

「大丈夫です、先生とリップル様は今、ここを離れてらっしゃいますが、スノーホワイト様とトップスピード様がいつでも駆けつけてこれますから!!」

 ミクセリクサーはあたしが安心できるよう、不器用なりに声をかけてくれる。

 “先生”、ラ・ピュセルと、リップルってのは、このあたりじゃ名の通った魔法少女だって言う。普段は人助けばかりしてるけど、戦えば強い、らしい。

 なにより、こいつ自身が強い。あたし達を翻弄してくれたシャッフリン相手に、()()()()()()()()ぐらいには強い。

 だからこそ、あたしが戻ったって、デリュージを追ったってどうしようもないって思い知らされる。

 ここなら怖くないんだと思えても、あれだけイキってたあたしが、他のやつに与えられて安堵してることが、情けなくて、その日の朝のあたしの涙は、しばらく止まらなかった。

 

 ここに匿われて、1週間が経つ。

 こいつの “先生”、ラ・ピュセルと、リップルにはまだ会ったことがない。今回の件で後始末に行ってるようだ。

 それで、さっき言ってたスノーホワイトって言うのが、あたしの幼馴染の ────────

 

 

 ─☆──☆──☆──☆─

 

 なんか、おまえ見てるとさ、

 はい?

 だんだん目付きの悪い小雪に見えてくるんだよなー。

 コユキ……ですか。

 ああ、昔の幼馴染。

 おさななじみ、ですか。わたしにはよくわからないです。

 ふーん。あ、そーいえば、

 なんです?

 いや、小雪に惚れてた変なやつがいてなー。

 変なやつ?

 ああ、岸辺ってやつ。

 キシベ!?

 下の名前は、えーと……

 

 ソータだ。字まで覚えてないけど、岸辺ソータ。

 

 






【挿絵表示】

【挿絵表示】

人造魔法少女ミクセリクサー。
魔法:“トランプの兵隊を呼べるよ”
身長147cm 隠れ巨乳(65C)。

本編もよろしくお願いします
『ラ・ピュセル生存記録 ―魔法少女育成計画Bloopers―』

具体的な感想をいただけると、続きを書くことが捗ります。
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