ラ・ピュセル生存記録 ―異伝 After of 『魔法少女育成計画2-o-H』 作:神谷萌
…………飲み物を出します、と言って、缶飲料が出てくるのはどーなんだ。
それもチョイスがドクターペッパー……いや台所の収納棚の下に箱で置いてあるのも、常に一定数冷蔵庫の中に冷やしてあるのも知ってるし、何本か貰ってるけどさぁ。
「岸辺、お前ペッパリアンだったの?」
ミクセリクサーが最初からドクペを嗜んでたとは思いにくいし、この中でミクセリクサーの嗜好に一番影響与えてるのはこいつだ。……と思ってたんだけど。
「いやボクじゃなくて……」
岸辺がそう言って、小雪と2人してジト目で視線をあたしから別の方へ向ける。
…………アンタか、華乃さん。
「ん? ちょっと待てよ」
あたしはその華乃さんを見て、ふっと気づいた。
「岸辺と小雪だと思ってスルーしかけたけど、岸辺と華乃さんで婚約してんのか?」
「まぁ、婚約ってほど大袈裟なものじゃないかも知れないけど」
「変身解けないって事は、今は女同士ってことだろ?」
変な苦笑しながら言う岸辺に、あたしは重ねて問いかける。
「今どき隠すようなものじゃない」
華乃さんはそう言うけど、あたしは手を振る。
「いやいやそう言うことじゃなくて」
好きあってんのは別にいい。あたしもまったく理解できないでもない。
だけど日本で同性婚が認められたって話はまだ聞いてない。
「そうちゃん、今も法律上は男だから」
「どういう…………ああ、そうか」
スノーホワイトに変身しているわけじゃないのに、あたしの言いたいことを察したのか、どっか呆れ混じりの苦笑をしながら言う小雪の言葉を聞いて、あたしはワンテンポ遅れてから理解した。
岸辺颯太は元々男だ。身体が女になっても放っときゃその情報は書き換わらない。あとは岸辺が18歳になりゃ、戸籍上は男と女だから、華乃さんとは天下御免で結婚できる。
「日本の法律って現状維持にすごく硬いんだよ。変更しようとするとやたら手間と時間がかかる。ついでにお金もね。でも逆に変更するつもりがないんだったら何もしなきゃいいだけ」
「まぁ、身も蓋もない話だな……」
ピロリン♪
岸辺の言葉に、あたしが面白くもなさそうに返したところで、スマホの通知音が鳴った。
小雪が服の胸ポケットからスマホを取り出した。結構新しい機種使ってんな。
「つばめさんから。お昼は用意してあるのかって」
小雪がそう言うと、その場の全員の視線がミクセリクサーに集まる。
「あ、すみません、考えてなかったです……」
ミクセリクサーは、困った顔でそう言って、落ち込んだように俯く。
「別に、用意してないならないで、出前でも頼めば良かっただけだし」
岸辺がフォローするようにそう言った。
「で、どう返信する?」
小雪が聞いてくる。
「正直に『用意してない』でいいんじゃない?」
「私もそれでいいと思うけど」
岸辺と華乃さんが答える。それから、この場にいるメンツの視線があたしに向く。
「あたしゃなにかリクエストできる立場じゃねーしなぁ」
「気にしなくていいのに」
あたしの苦笑しての言葉に、岸辺がそう言ってくる。けど、居心地の悪さはだんだん鈍ってきてるけど、それでもなんか、居候みたいな身分で自己主張するのは気が引ける。
「とりあえず返信しとくね」
小雪がそう言って、スマホにメッセージを打ち込み始めた。
しばらく経って、
ピロリン♪
と、再度、小雪のスマホの通知音が鳴る。
「『なんか買ってく。期待はするな』だってさ」
「いつものトップスピード」
小雪が読み上げると、華乃さんがそう言った。さっきまで鋭い感じがあったのに、急に緩んだような表情になった。
「それで朱里ちゃん、どこから説明すればいい?」
「最初から全部」
岸辺が聞いてきたので、あたしは即答した。
「まだ何も話してないの?」
座布団なしであたしの隣にちょこん、と座ったミクセリクサーに、岸辺が訊く。
「いちおう、私が説明できるところはしましたが!」
「肝心の岸辺や小雪が魔法少女になった経緯とか、岸辺がそのカッコのまんまの理由とかは聞いてない。っていうか、こいつ自身よく知らないだろ」
あたしはミクセリクサーの頭をぽんぽんとしながら、続いてそう言った。
「あ、そうか」
岸辺はそう言って、気まずそうな表情で頬を掻く。
「でもまぁ、説明しないわけにもいかないか」
岸辺と華乃さんはなんか言い
「じゃあ、最初から説明するけど……」
まず、魔法の国が関係する、本来の魔法少女のなり方。
一定の地域で、素質を持つ候補生を仮の魔法少女にして、競わせる。
その内容は、人助けをして感謝された度合いの高さだったりとか、フェイクのモンスターを出現させてそれを倒したりとかだったりする。
「あー、あたし前者だったら途中で投げてるかもなー」
「そうかな? 意外と残りそう」
あたしがつまんなそうに言ったら、小雪が意外そうな顔してあたしを覗き込みながら返してきた。
そして、話はこっから一気に血生臭くなっていった。
今から20年ほど前だ。選抜試験で事故があった。その時の選抜試験に関わっていたファヴって妖精が、その事実を隠蔽して、その時の生き残りだって言う、森の音楽家クラムベリー、ってやつと組んで、選抜試験の内容をこの2人好みに変質させた。それは生き残りが1人になるまで行われるデスゲームだ。
本来、選抜試験を落ちた候補は、魔法少女に関する記憶を消されてその事実だけなかったことにする。ところが、この2人は記憶どころか命まで奪う方式に変えた。そうなりゃどうなるかなんて言うまでもない。候補生は課題そっちのけで殺し合いを始める。ファヴはそれを楽しんでた。クラムベリーは自ら候補生を殺すこともあった。
そして、3年前に、その2人の選抜試験に、岸辺、小雪、華乃さん、つばめの姐さんが候補生に
岸辺ことラ・ピュセルは最初の頃に目立つ戦い方をしたせいで、クラムベリーに目をつけられた。そして ────
クラムベリーに手落ちがあったとすれば、ラ・ピュセルの死を交通事故死に偽装しようとしたことだ。実際、ズタボロにされた後で、裏手の国道に捨てられて、荷物を満載したトラックに撥ねられた。
「よくお前それで生きてんな」
「自分でもそう思う」
ちょうどその瞬間に変身がかかって命はとりとめた。だが、ラ・ピュセルの姿のままロックがかかって元に戻らなくなった。元の身体の情報が破壊されていて戻しようがない。
「だから、ボクも朱里ちゃんのこと言えた義理じゃないんだよな。『こんなやつ野放しにしてちゃいけない』で突っかかっていった結果が
「まぁ、そりゃ、解るけどよ……」
実際、クラムベリーを倒したのは別の候補生だった。スイムスイムっていう物理攻撃がほとんど効かないやつと、たまっていうどんなところにも大穴開けちまうやつがなんとかしたらしい。
そのスイムスイムは華乃さん、リップルが倒した。
ちょうどそん時に、ファヴが小雪、スノーホワイトに種明かしをした。つまり、2人の私的な理由で選抜試験をデスゲーム化したことをだ。
その後にゴタゴタあって、ラ・ピュセルとスノーホワイトがファヴを潰した。本来1人しか生き残れないデスゲームで、つばめの姐さん、トップスピードを含めた4人が生き残った。
ファヴが野放しになってた不始末の詫びもあって、特例で4人とも魔法少女になった。その後でつばめの姐さんの旦那が出てきて、追加交渉で金銭的な補填も約束された。
「なんか、あたしが今更言うのもなんだけど、魔法少女とか魔法とかの幻想なくなるな……」
「まぁ……」
岸辺がなんかビミョーな苦笑をしてる。
はーん、 ……あたしには解った。
だからあたしらしくなく、カマをかけてみた。
「…………なんか、時系列がちょっとおかしくね?」
「あーそれは……」
「はい! 先生がkムギュ」
「今は話しちゃダメ」
岸辺が歯切れ悪くなんか言おうとした、ミクセリクサーが満面の笑みでなにか言おうとした、小雪がそれを遮った。それで充分だ。
こいつ、クラムベリーにやり返したな。
そんで、
そうじゃなきゃ、魔法少女なんてもう嫌だ、になって、家に引き篭もってる。 ──── 今のあたしみたいに。
「そんで、その後何があった?」
「えっと」
まぁ、その後2年程はたいした出来事はなかった。4人してよろずトラブルシューター魔法少女やってた。つばめの姐さんは別のイベントもあったわけだけれども。
中2から中3になる春休みに、ラ・ピュセルが魔王パムってやつに呼び出されて、リップルと一緒に行ったらちょっと酷い目にあった、程度だ。
「…………ってか、呼び出されてんのは自分なのにカノジョ同衾させてんじゃねーよ」
「あはは」
「あははじゃねぇ!!」
「私も興味はあったし、1人で行かせるのは危なっかしいから」
華乃さん本人にそう言われちゃそれ以上は言えねぇ。
そっから先は、もう、一度ミクセリクサーに聞かされた話だ。まぁ、ミクセリクサーがラ・ピュセルせんせー陶酔で大袈裟に言ってる部分がかなりあったけど。
ピリリリリリ……
ミクセリクサーのスマホに着信があった。
使い古した感のあるスマホはauマーク入りなのに回線はY!mobileだ。小雪が中学ン頃使ってたやつらしい。
「はい、もしもし」
ミクセリクサーが通話に出る。
「あっ、201のスペース
ああ、つばめの姐さんが到着したのか。
ミクセリクサーが通話を終えてから、
ガチャッ
「よっ、お待たせ」
「トップスピード様!」
と、ドアチャイムは押さずに、いきなり少し乱暴にドアを開けて、片手にはちょっと余るくらいの、白づくめのおっさんの顔が描かれたビニール袋を提げたつばめの姐さんが入ってきた。
本編もよろしくお願いします
『ラ・ピュセル生存記録 ―魔法少女育成計画Bloopers―』
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